特許第6396056号(P6396056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396056
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】化学蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   F28D20/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-68817(P2014-68817)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190704(P2015-190704A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年6月3日
【審判番号】不服2017-14230(P2017-14230/J1)
【審判請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】小牧 克哉
(72)【発明者】
【氏名】秋田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】岡村 徹
(72)【発明者】
【氏名】今村 朋範
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 藤原 直欣
【審判官】 窪田 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−309759(JP,A)
【文献】 特開2012−220165(JP,A)
【文献】 特開平9−267628(JP,A)
【文献】 特表2006−509678(JP,A)
【文献】 特開2013−112310(JP,A)
【文献】 特開2000−111286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水和反応により放熱し、脱水反応により蓄熱する化学蓄熱材(11)が内蔵された反応器(10)と、
媒体流路(23)によって上記反応器(10)と連通され、反応媒体(4)を蒸発させた媒体蒸気(4g)を生成すると共に空調空気(7a)と熱交換を行う蒸発器(2)と、
該蒸発器(2)において上記反応媒体(4)が上記媒体蒸気(4g)へと変化する際の気化潜熱によって生じる冷熱を蓄える蓄冷材(5)とを備え、
上記蓄冷材(5)は、上記蒸発器(2)の内側に設けられており、
上記蒸発器(2)は、上記空調空気(7a)と上記反応媒体(4)との間の熱交換に加え、上記空調空気(7a)と上記蓄冷材(5)との間の熱交換をも行われるよう構成されており、
上記蓄冷材(5)は、液相から固相に状態変化することにより冷熱を蓄えることを特徴とする化学蓄熱装置(1)。
【請求項2】
上記蓄冷材(5)の凝固点は、目標の冷房性能を得るための上記蒸発器(2)における目標温度以下であることを特徴とする請求項に記載の化学蓄熱装置(1)。
【請求項3】
上記反応器(10)としては、第1反応器(101)及び第2反応器(102)の2つを備えており、上記第1反応器(101)と上記蒸発器(2)とは、第1媒体流路(231)によって連通しており、上記第2反応器(102)と上記蒸発器(2)とは、第2媒体流路(232)によって連通しており、上記第1媒体流路(231)及び上記第2媒体流路(232)を流通する上記媒体蒸気(4g)の流量を調整する流量調節手段(8)を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学蓄熱装置(1)。
【請求項4】
上記蒸発器(2)は、上記反応媒体(4)の一部を貯留することができる補助貯留容器(6)を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の化学蓄熱装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材を内蔵した反応器と、反応器へ反応媒体を供給する蒸発器とを備えた化学蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、環境負荷を低減させるために、信号待ちなどの停車時にエンジンを停止するアイドリングストップ機能が採用されている。アイドリングストップ機能によりエンジンが停止した状態においては、室内空調を使用することができないため、例えば、特許文献1に示された化学蓄熱装置が用いられる。
【0003】
特許文献1の化学蓄熱装置は、水和反応により放熱し脱水反応により蓄熱する化学蓄熱材を内蔵した反応器と、化学蓄熱材が水和反応するための水蒸気を反応器へ供給する蒸発器と、脱水反応により生じた水蒸気を凝縮する凝縮部を備えている。蒸発器には、反応媒体が貯留されており、この反応媒体を気化させて反応器へと供給している。反応器に内蔵された化学蓄熱材の水和反応によって生じた熱は、暖房用の温熱源として利用される。また、蒸発器には、反応媒体の気化潜熱によって冷熱が生じるため、冷房用の冷熱源として利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−112310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示された化学蓄熱装置には以下の課題がある。
化学蓄熱装置における化学蓄熱材の水和反応の反応性は、反応初期に高く、時間が経つにつれて低下していく。また、化学蓄熱材の水和反応に用いられる水蒸気量は、反応性が高い場合には多量となり、反応性が低い場合には少量となる。したがって、蒸発器においては、化学蓄熱材における水和反応の反応性が高い反応初期に、多量の水蒸気を発生させ、多くの冷熱が生じるため必要とされる冷房性能よりも高い冷房性能を発揮できる。その一方で、化学蓄熱材の反応性が低くなる反応後期には、水蒸気の発生量が低下する。したがって、冷熱の発生量が低下し、ひいては蒸発器における冷房性能が低下する。
【0006】
また、蒸発器における冷房性能を長時間維持するために、反応器と蒸発器とをつなぐ蒸気流路に開度を調整可能なバルブを設けることが知られている。このバルブによって、化学蓄熱材への水蒸気の供給量を制御し、化学蓄熱材における水和反応時間を延長することで、蒸発器において必要な冷房性能を長時間維持することができる。しかし、随時、バルブの開度を調整して水蒸気の供給量を制御するため、蒸気流路の圧損が増大すると共に、バルブの寿命が低下する。そのため、よりシンプルな構造で、かつ必要な冷房性能をより長時間維持することが望まれている。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、シンプルな構造で、かつ必要な冷房性能をより長時間維持することができる化学蓄熱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、水和反応により放熱し、脱水反応により蓄熱する化学蓄熱材が内蔵された反応器と、
媒体流路によって上記反応器と連通され、反応媒体を蒸発させた媒体蒸気を生成すると共に空調空気と熱交換を行う蒸発器と、
該蒸発器において上記反応媒体が上記媒体蒸気へと変化する際の気化潜熱によって生じる冷熱を蓄える蓄冷材とを備え、
上記蓄冷材は、上記蒸発器の内側に設けられており、
上記蒸発器は、上記空調空気と上記反応媒体との間の熱交換に加え、上記空調空気と上記蓄冷材との間の熱交換をも行われるよう構成されており、
上記蓄冷材は、液相から固相に状態変化することにより冷熱を蓄えることを特徴とする化学蓄熱装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記化学蓄熱装置は、上記蒸発器において上記反応媒体が上記媒体蒸気へと変化する際の気化潜熱によって生じる冷熱を蓄える蓄冷材を備えている。そのため、上記反応器の反応性が高い反応初期においては、必要な冷房性能を得るための冷熱以外の余剰となる冷熱を上記蓄冷材に蓄えることができる。そして、上記反応器の反応性が低くなる反応後期においては、上記蒸発器において不足する冷熱を、上記蓄冷材に蓄えられた冷熱によって補うことができる。これにより、上記蒸発器によって必要な冷房性能を長時間維持することができる。
【0010】
また、上記蓄冷材の蓄放熱は、上記蒸発器の冷熱の発生状況に応じて、つまり、上記蒸発器の温度に応じて、適宜行われる。そのため、上記化学蓄熱材の水和反応の進行度合いを考慮する必要がない。したがって、上記蒸発器から上記反応器へ供給する上記媒体蒸気の供給量を、緻密に制御する必要がない。それゆえ、上記化学蓄熱装置における構成をシンプルにすることができる。
【0011】
以上のごとく、上記化学蓄熱装置によれば、シンプルな構造で、かつ必要な冷房性能をより長時間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における、化学蓄熱装置を示す説明図。
図2】実施例1における、蒸発器を示す説明図。
図3】実施例1における、蒸発器の冷房性能を示すグラフ。
図4参考例における、化学蓄熱装置を示す説明図。
図5実施例2における、化学蓄熱装置を示す説明図。
図6実施例3における、化学蓄熱装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
また、上記化学蓄熱装置において、上記蓄冷材は、上記蒸発器の内側に設けられている。これにより、上記蒸発器に上記蓄冷材を内蔵することで、上記化学蓄熱装置の部品構成を従来から変更する必要がない。したがって、上記蓄冷材を用いた上記化学蓄熱装置を容易に形成することができる。
【0015】
また、上記蓄冷材と空調空気との間においても熱交換を行うことができる。これにより、上記蒸発器に加えて、上記蓄冷材においても、空調空気との熱交換を行うことで、冷房性能を向上することができる。
【0016】
また、上記蓄冷材の凝固点は、目標の冷房性能を得るための上記蒸発器における目標温度以下であることが好ましい。この場合には、上記蓄冷材からの冷熱の放熱によって、より確実に目標の冷房性能を得ることができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
上記化学蓄熱装置にかかる実施例について図1図3を参照して説明する。
図1及び図2に示すごとく、化学蓄熱装置1は、化学蓄熱材11が内蔵された反応器10と、空調空気7aと熱交換を行う蒸発器2と、冷熱を蓄える蓄冷材5とを備えている。化学蓄熱材11は、水和反応により放熱し、脱水反応により蓄熱する。蒸発器2は、媒体流路23によって反応器10と連通され、反応媒体4を蒸発させた媒体蒸気4gを生成すると。蓄冷材5は、蒸発器2において、反応媒体4が媒体蒸気4gへと変化する際の気化潜熱によって生じる冷熱を蓄えることができる。
【0018】
以下、さらに詳細に説明する。
図1及び図2に示すごとく、本例に示す化学蓄熱装置1は、化学蓄熱材11を内蔵した反応器10と、反応器10へ媒体蒸気4gを供給するための蒸発器2と、反応器10から排出された媒体蒸気4gを凝縮するための凝縮器3とを備えている。反応器10は、車両用空調における暖房の熱源として利用されている。また、蒸発器2は、車両用空調における冷房の冷熱源として利用されており、ブロアファン7により送風された空調空気7aとの間において熱交換することで、冷風を発生させることができる。
【0019】
図1に示すごとく、反応器10は、化学蓄熱材11と、化学蓄熱材11を内包する容器とを有している。化学蓄熱材11は、脱水反応に伴って蓄熱し、水和反応に伴って放熱する。
化学蓄熱材11は、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))によって形成されている。反応器10内では、以下に示すように蓄熱、放熱が可逆的に繰り返される。
Ca(OH) ⇔ CaO + H
なお、化学蓄熱材11としては、水酸化カルシウム以外にも、蓄熱、放熱を可逆的に繰り返す材料を用いることができる。
【0020】
また、反応器10内には、化学蓄熱材11に熱を供給するための熱媒流路12と、化学蓄熱材11が放熱した熱を外部へ放出させるための冷媒流路13とが設けられている。これらの熱媒流路12及び冷媒流路13は、各々の内部を流れる熱媒又は冷媒と反応器10内の化学蓄熱材11とが熱交換可能に形成されている。
【0021】
熱媒流路12には、エンジンの排気ガスを流通する排気ライン121が接続されており、この排気ライン121から供給された高温の排気ガスによって化学蓄熱材11が加熱される。つまり、化学蓄熱材11は、本例の化学蓄熱装置1が搭載された車両からの排気ガスを利用して加熱される。また、排気ライン121には、その流路を開閉するバルブ(図示略)が設けられている。なお、排気ガスに以外にも、車両に搭載されたバッテリーから電力の供給を受けて作動する電気ヒータ等をもちいることができる。
【0022】
冷媒流路13には、化学蓄熱材11が放熱した熱をヒータコアへ伝達するための熱放出ライン131が接続されている。熱放出ライン131は、反応器10とヒータコアとの間でエンジン冷却水を循環させている。この熱放出ライン131には、流路を開閉するバルブ(図示略)と、エンジン冷却液をヒータコアへ圧送するウォータポンプ(図示略)とが設けられている。熱放出ライン131を介して反応器10の冷媒流路13に供給されたエンジン冷却水と反応器10内の化学蓄熱材11との間において熱交換をすることにより、化学蓄熱材11の水和反応に伴って生じた熱がエンジン冷却水に放出され、エンジン冷却水が加熱される。
【0023】
また、反応器10には、化学蓄熱材11と水和反応するための媒体蒸気4g、又は化学蓄熱材11の脱水反応で生じた媒体蒸気4gを流通する導入排出流路14が連通している。この導入排出流路14と、凝縮器3と連通する蒸気排出路312と、蒸発器2と連通する媒体流路23とは、三方弁141によって接続されている。この三方弁141の動作により、導入排出流路14と蒸気排出路312とが接続された状態と、導入排出流路14と媒体流路23とが接続された状態とに切り替えられるようになっている。
【0024】
三方弁141は、蒸気排出路312、媒体流路23、及び導入排出流路14を独立して開閉可能に構成されており、蒸気排出路312を閉止すると共に導入排出流路14及び媒体流路23を開放した状態で、媒体流路23の開度を調整することにより、媒体流路23から反応器10へ供給される水蒸気の流量を増減することができる。
【0025】
なお、反応器10、凝縮器3、蒸発器2、蒸気排出路312、媒体流路23、導入排出流路14、及び三方弁141は互いの接続部において気密に接続されており、これらの内部空間が真空脱気されている。これにより、蒸発器2の蒸発室21内の反応媒体4が蒸発し易くなっている。
【0026】
図1に示すごとく、凝縮器3には、反応器10から蒸気排出路312を介して放出された媒体蒸気4gを凝縮するための凝縮室31が形成されている。また、凝縮器3には、凝縮室31を冷却するためのブロア(図示略)が設けられている。このブロアを用いて、凝縮室31に流入された媒体蒸気4gを冷却することで反応媒体4に凝縮される。
【0027】
図2に示すごとく、媒体流路23を介して反応器10と接続された蒸発器2は、媒体蒸気4gを生成するための蒸発室21と、蓄冷材5が充填された蓄冷室22とが形成されている。蒸発室21には、反応媒体4が貯留されており、反応器10との蒸気圧差により媒体蒸気4gを生成するように構成されている。
【0028】
蓄冷室22は、蒸発器2における外壁211の内部と、蒸発室21の内側に形成された内壁212の内部とにそれぞれ形成されている。本例において、蓄冷室22に充填される蓄冷材5としては、所望の温度が保持される温度緩衝性を備えたパラフィンを主原料としたものを用いている。また、蓄冷材5の凝固点は、目標の冷房性能を得るための蒸発器2における目標温度と同一となる。
【0029】
次に化学蓄熱装置1の動作について説明する。
車両が信号待ち等で停車しエンジンが停止した際に、化学蓄熱装置1が作動する。このとき、化学蓄熱材11は、脱水された蓄熱状態にある。
まず、三方弁141を動作させ、導入排出流路14と媒体流路23とを連通させる。これにより、蒸発器2の蒸発室21内に貯留された反応媒体4が蒸発し、媒体蒸気4gとなり反応器10へと供給される。反応器10内に配設された化学蓄熱材11は、媒体蒸気4gと水和反応することで放熱する。化学蓄熱材11が放熱した熱は、冷媒流路13内を流通するエンジン冷却液との間において熱交換する。熱交換により加熱されたエンジン冷却液は、ヒータコアへと送られ、車両用空調の暖房時における熱源として利用される。
【0030】
また、図3に示すごとく、蒸発器2においては、液体の反応媒体4が、気体の媒体蒸気4gへと相変化する際の気化潜熱によって冷熱が生じる。図3は、縦軸を蒸発器2における冷房性能とし、横軸を化学蓄熱材11における水和反応の反応時間としたグラフである。破線Bは、仮に蓄冷材5を備えていない場合の化学蓄熱装置1の蒸発器2によって得られる冷房性能を示すものである。また、実線Lは、蓄冷材5を設けた化学蓄熱装置1の蒸発器2によって得られる冷房性能を示すものである。尚、いずれも三方弁141は、媒体蒸気4gの供給開始及び供給停止をするのみであり、化学蓄熱材11の水和反応開始後、媒体蒸気4gの流量制御は行っていない。
【0031】
仮に化学蓄熱装置1が蓄冷材5を備えていない場合、図3の破線Bに示すごとく、化学蓄熱材11における水和反応の反応初期に化学蓄熱材11の反応性が高いため、多くの反応媒体4が媒体蒸気4gとなり多くの冷熱が生じ、目標の冷房性能Dを超える冷房性能が発生する。そして、化学蓄熱材11における水和反応が進むにつれて、化学蓄熱材11の反応性が低下し、これに伴い媒体蒸気4gの発生量も低下する。そのため、蒸発器2における冷房性能も低下し、化学蓄熱材11における水和反応の反応初期においては目標の冷房性能を下回っていく。
【0032】
これに対し、蓄冷材5を設けた化学蓄熱装置1は、図3の直線Lに示すごとく、目標の冷房性能Dを得るために必要な冷熱以外の余剰の冷熱は蓄冷材5へと蓄熱される。つまり、蓄冷材5の凝固点が目標の冷房性能Dを得るための目標温度と同一であるため、蒸発器2の温度が目標温度以下となった際に、蓄冷材5は液相から固相へと状態変化し蓄冷材5に冷熱が蓄熱される。また、これにより、蒸発器2における冷房性能は、目標の冷房性能Dに保たれる。
【0033】
そして、化学蓄熱材11における水和反応の反応後期に、蒸発器2において生じる冷熱の発生量が低下し、蒸発器2の冷房性能が低下した際には、蓄冷材5に蓄えられた冷熱によって、不足する冷熱を補うことで目標の冷房性能Dが維持される。
【0034】
車両において、エンジンが再始動すると高温の排気ガスの熱により、化学蓄熱材11が加熱され脱水反応が生じる。三方弁141を作動させ導入排出路と蒸気排出路312とを連通させ、脱水された媒体蒸気4gを凝縮器3へと送り、液体の反応媒体4へと凝縮する。凝縮器3の反応媒体4は、蒸発器2へと送られ、エンジン停止時に媒体蒸気4gとして反応器10へと送られる。
【0035】
次に本例の作用効果について説明する。
化学蓄熱装置1は、蒸発器2において反応媒体4が媒体蒸気4gへと変化する際の気化潜熱によって生じる冷熱を蓄える蓄冷材5を備えている。そのため、反応器10の反応性が高い反応初期においては、必要な冷房性能を得るための冷熱以外の余剰となる冷熱を蓄冷材5に蓄えることができる。そして、反応器10の反応性が低くなる反応後期においては、蒸発器2において不足する冷熱を、蓄冷材5に蓄えられた冷熱によって補うことができる。これにより、蒸発器2によって必要な冷房性能を長時間維持することができる。
【0036】
また、蓄冷材5の畜放熱は、蒸発器2の冷熱の発生状況に応じて、つまり、蒸発器2の温度に応じて、適宜行われる。そのため、化学蓄熱材11の水和反応の進行度合いを考慮する必要がない。したがって、蒸発器2から反応器10へ供給する媒体蒸気4gの供給量を、緻密に制御する必要がない。それゆえ、化学蓄熱装置1における構成をシンプルにすることができる。
【0037】
また、化学蓄熱装置1において、蓄冷材5は、蒸発器2の内側に設けられている。蒸発器2に蓄冷材5を内蔵することで、化学蓄熱装置1の部品構成を従来から変更する必要がない。したがって、蓄冷材5を用いた化学蓄熱装置1を容易に形成することができる。
【0038】
また、蓄冷材5の凝固点は、目標の冷房性能を得るための蒸発器2における目標温度以下である。そのため、蓄冷材5からの冷熱の放熱によって、より確実に目標の冷房性能を得ることができる。
【0039】
以上のごとく、本例の化学蓄熱装置1によれば、シンプルな構造で、かつ必要な冷房性能をより長時間維持することができる。
【0040】
参考例
本例は、図4に示すごとく、実施例1における化学蓄熱装置1の構造を変更した例を示すものである。
本例の化学蓄熱装置1における蓄冷材5は、蒸発器2の外側に設けられると共に、内部に反応媒体4を流通する内部流路51が形成されている。また、蓄冷材5の内部流路51と蒸発器2の蒸発室21との間には、反応媒体4を循環する循環流路52が設けてある。蓄冷材5の大きさは、実施例1の化学蓄熱装置における畜冷材に比べて大きく設定してある。
【0041】
また、室内空調のブロアファン7は、流路切り替え手段71を備えており、空調空気7aを蒸発器2及び蓄冷材5の両方と熱交換可能に構成されている。
その他の構成は実施例1と同様である。尚、本例又は本例に関する図面において用いた符号のうち、実施例1において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、実施例1と同様の構成要素等を表す。
【0042】
本例の化学蓄熱装置1においては、蓄冷材5における蓄熱量を容易に増大することができる。また、蒸発器2に加えて、蓄冷材5においても、空調空気7aとの熱交換を行うことで、冷房性能を向上することができる。
また、本例においても実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
実施例2
本例は、図5に示すごとく、実施例1における化学蓄熱装置1の構成を変更した例を示すものである。
本例の化学蓄熱装置1は、反応器10として、第1反応器101及び第2反応器102の2つを備えている。第1反応器101と蒸発器2とは、第1媒体流路231によって連通しており、第2反応器102と蒸発器2とは、第2媒体流路232によって連通している。第1媒体流路231には、流通する媒体蒸気4gの流量を調節する流量調節手段8としての第1バルブ81を設けてある。また、第2媒体流路232には、流量調節手段8としての第2バルブ82を設けてある。
その他の構成は実施例1と同様である。尚、本例又は本例に関する図面において用いた符号のうち、実施例1において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、実施例1と同様の構成要素等を表す。
【0044】
本例の化学蓄熱装置1によれば、第1反応器101と第2反応器102とにおいて、化学蓄熱材における水和反応の反応時期をずらすことにより、蒸発器2における冷房性能を容易に長時間維持することができる。
また、本例においても実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0045】
実施例3
本例は、図6に示すごとく、実施例1における化学蓄熱装置1の構成を変更した例を示すものである。
本例の化学蓄熱装置1の蒸発器2は、反応媒体4の一部を貯留することができる補助貯留容器6を備えている。蒸発器2と補助貯留容器6とは、補助流路61によって接続されており、反応媒体4を循環可能に構成されている。
その他の構成は実施例1と同様である。尚、本例又は本例に関する図面において用いた符号のうち、実施例1において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、実施例1と同様の構成要素等を表す。
【0046】
本例の化学蓄熱装置1においては、反応媒体4の貯留量を増大させることにより、反応媒体4への冷熱の蓄熱量を増大することができる。これにより、蒸発器2における冷房性能を容易に長時間維持することができる。
また、本例においても実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
上記実施例1〜上記実施例3においては、蒸発器2と凝縮器3とを互いに別体に設けた。これ以外にも、蒸発器2と凝縮器3とを一体に形成する蒸発凝縮器3を用いてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 化学蓄熱装置
10、101、102 反応器
11 化学蓄熱材
2 蒸発器
23、231、232 媒体流路
4 反応媒体
4g 媒体蒸気
5 蓄冷材
7a 空調空気
図1
図2
図3
図4
図5
図6