【文献】
川村誠治,太田弘毅,花土弘,パッシブレーダーの研究開発−地上デジタル放送波を用いた水蒸気観測−,日本気象学会2014年度春季大会講演予稿集,2014年 4月30日,p.179
【文献】
太田 弘毅,伝搬プロファイルの解析における位相雑音の抑圧に関する検討,映像情報メディア学会技術報告,2012年 2月 2日,第36巻,第6号,pp.25-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パイロット信号が組み込まれたOFDM信号を送信点から送信し、該OFDM信号を受信点で受信し、送信点と受信点との位相差の変化を検出して、送信点と受信点間の距離の変化、あるいは、送信点から受信点までの信号伝搬時間の変化を測定する信号伝搬特性の測定法であって、
OFDM信号のパイロット信号であり異なる周波数帯に属する2つのパイロット信号群について、各々のパイロット信号群の遅延プロファイルにおける位相の差である位相差の変化を検出して、上記の送信点から受信点間の距離の変化、あるいは、上記の送信点から受信点までの信号伝搬時間の変化を抽出する手続きと、
上記OFDM信号の伝送経路の変動による上記位相差の変化に及ぼす影響を無視し得る所定の距離内の上記送信点からの位置にある複数の受信点で、上記送信点のアンテナの軌跡を追跡し、
上記送信点から上記複数の受信点のそれぞれに伸びるそれぞれの線分が互いに有意の角度をもって交わる受信点を用い、上記複数の受信点での測定データの測定時間を同期させて上記軌跡をプロットする手続を含むことを特徴とする信号伝搬特性の測定法。
上記のパイロット信号は、1つのOFDM信号から選択された比較的高周波数のパイロット信号群と、比較的低周波数のパイロット信号群とであることを特徴とする請求項1に記載の信号伝搬特性の測定法。
上記OFDM信号のパイロット信号の位相の変化は、直交変調における信号空間ダイアグラムでの回転角の変化であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の信号伝搬特性の測定法。
第1と第2の受信点間で共通のOFDM信号を受信する場合における、それらの受信点間での上記パイロット信号の位相差の変化として、上記送信点と第1受信点との位相差の変化(第1位相差変化)と上記送信点と第2受信点との位相差の変化(第2位相差変化)との差を用いることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の信号伝搬特性の測定法。
【背景技術】
【0002】
本発明の対象とするのは例えば伝搬時間の微小変動であるが、その微小変動の要因の一つは、伝搬経路上の大気中の温度や湿度の影響による遅延時間変動である。これは、降雨などの気象計測の一環であり、ゲリラ豪雨などの雲の発生源となる水蒸気量の変化を捉えることが期待される。
また、送信点の揺れやたわみの検出、反射波を用いた高層ビル等の揺れの検出、また、受信点の測位などが目標であり、計測の分解能は数ミリメートルとすることを目標としている。
【0003】
精密な伝送路特性の推定を行う従来例として、例えば、特許文献1(特開2010−158003号公報)には、OFDM(orthogonal frequency-division multiplexing;直交周波数分割多重方式)信号等のマルチキャリア信号に対応するチャネル周波数応答を決定する方法およびシステムが開示されている。この開示では、次の手順が記載されている。(1)まず、パイロット信号またはパイロットを有するOFDM信号を受信する。(2)次に、パイロットからパイロットキャリア周波数のチャネル周波数応答を決定する。(3)時間領域のチャネル周波数内のノイズをバンドパスフィルタリング/マスキングして、フィルタリング/マスキングされたチャネル周波数応答を周波数領域に変換する。(4)フィルタリング/マスキングされたチャネル周波数応答を周波数補間して、残りのキャリア周波数に対するチャネル応答を生成する。
【0004】
また、例えば、特許文献2(特開2004−266814号公報)には、符号間干渉およびキャリア間干渉が存在する通信環境であっても、高精度な伝送路推定を実現可能な通信装置を得ることを目的とした開示がある。この開示は、例えばOFDM信号で、パイロット信号が一定周期で繰り返し挿入された受信信号を復調する、受信側の通信装置であって、(1)フーリエ変換後に抽出した前記パイロット信号に基づいて周波数特性を算出する周波数特性算出手段と、(2)前記周波数特性に対して逆フーリエ変換を実行して遅延プロファイルを生成する遅延プロファイル生成手段と、(3)その遅延プロファイルに基づいて、所定のしきい値以下の干渉信号成分を除去する干渉成分除去手段と、(4)前記干渉成分除去後の遅延プロファイルに基づく時間軸信号に対してフーリエ変換を実行して、干渉成分除去後の周波数特性(伝送路推定値)を生成する伝送路推定値生成手段と、を備えるものである。
【0005】
また、OFDM信号を測距に用いる例が、特許文献3(WO 20051020600A2)に開示されている。この開示は2つの通信局間の距離を見積もる方法に関しており、(1)第2通信局からのOFDM信号を第1通信局で受信し、(2)受信信号処理と復調を行い、(3)受信信号を、伝送パス成分毎に分類し、(4)最短パス成分の成分を割出し、(5)伝搬時間を評価して2つの通信局間の距離を算定するものである。
【0006】
よく知られているように、地上デジタル放送におけるOFDMテレビジョン放送における送信と受信は以下の様に行われる。まず、OFDM信号は、一定の周波数差をもち、同期した多数の搬送波を用いて信号を送受信するための伝送信号であるが、これを用いてデジタル信号を送信する手順を
図1に示す。まず、データの伝送誤り率を改善するためにシンボルマッパでデジタル信号の入れ替えを行い、上記搬送波のそれぞれにそのデジタル信号を割り当て、割り当てられたデジタル信号による振幅をもったそれぞれの搬送波となる逆離散フーリエ変換(IDFT)を行いそのIDFT信号を重ね合わせることで並直列変換して、OFDMベースバンド信号を得る。このように得られたOFDMベースバンド信号で、搬送波を直交変調した後、増幅し、伝送路に出力する。
【0007】
また、受信側では、
図2に示すように、伝送路から得られた受信信号をフロントエンド部で、増幅やノイズ成分の除去を行い、直交復調を行った後、標本化で復調信号をデジタル信号に変換し、上記送信機の並直列変換の逆の操作を行う直並列変換を行い、並列化された信号に離散フーリエ変換(DFT)を施した後、伝送路特性の影響を取り除くための等化処理を行い、並直列変換して重ね合わせた後、デジタル化するための判定を行う。
この等化処理は、信号空間ダイアグラムにおける信号点の伝送路等に起因する回転をとり除くための処理である。
【0008】
この様なOFDM信号の受信においては、以下の同期が必要であることが知られている。
1.シンボルタイミング同期
2.搬送波周波数同期
3.標本化周波数同期
これらの同期は、例えば、ガードインターバルの相関を用いる方法でとることができることが知られている。
【0009】
また、同期性能をさらに向上させるためには、パイロットシンボルが用いられる。このパイロットシンボルには、例えば次のものがあることが知られている。
1.コンティニュアスパイロットシンボル
2.パイロットキャリア
【0010】
上記等化処理を行うために必要な伝送路特性については、以下の方法によって推定される。
データシンボルと混在させて分散配置する方法(スキャッタードパイロットシンボルと呼ばれる配置)。この場合は、時間・周波数方向に分散して配置されたパイロットシンボルを用いてデータシンボルに対する伝送路特性が補間によって推定される。
また、フレームの先頭等に集中させて配置する方法があり、これは、無線LAN等で用いられている方式である。無線LANの場合はパケット単位の処理となるので、パケットの先頭に等化や同期や伝送路特性の推定を行うためのヘッダが付加される。受信機ではヘッダのパイロットシンボルを用いて伝送路を推定し、等化処理に用いる。
【0011】
また、ブラインド推定による方法があるが、この方法は、送信内容の統計処理を行って伝送路特性の推定を行う方法であるので、本発明での適用は困難であり、詳しい説明は省略する。
しかし、送信内容がパイロット信号やパイロットシンボルに準じたものである場合は、実質的にパイロット信号やパイロットシンボルを用いているものとみなすべきものである。
【0012】
また、非特許文献1(水野ほか,”地上デジタル放送を利用した測位システムに関する検討”)には、受信信号を同期復調して遅延プロファイルを求め、その位相変動から距離変動を計測する報告がある。この方法では、高精度の周波数基準を用いても0.3m程度の誤差が生じていた。
【0013】
上記報告の誤差の要因としては、送受信装置の熱雑音や伝搬路の都市雑音などによる白色性雑音に加えて、(イ)送信システムや送信側の基準発振器の周波数安定度や位相雑音の影響、(ロ)測定側の基準発振器の周波数安定度や位相雑音の影響、(ハ)受信ケーブルの温度特性の影響、がある。加えて、(ニ)送信アンテナのたわみや揺れ、(ホ)受信アンテナの揺れなどの挙動、(へ)大地反射、マルチパス、フェージング等の影響が考えられる。
【0014】
上記の位相雑音への対策としては、例えば大規模有線網であるCATV網の地上デジタル放送の再送信信号(パススルー信号)を利用した位相雑音の補正手法の適用も効果的である。しかし、計測信号が多くなることや計測がCATVサービスエリアに制限される問題がある。また、受信ケーブルの温度変動対策としては、受信側にループバックケーブルを用いた温度変動の補償手法が効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明においては、同じ機能あるいは類似の機能をもった装置に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【0028】
まず、本発明の説明に必要な、OFDM信号の基礎的な知識について以下に説明する。
OFDMのベースバンド信号については、Nをサブキャリア数、f
0をキャリア周波数間隔、τ
gをガードインターバル長、τ
eを有効シンボル長、τ
sをシンボル長(τ
s=τ
g+τ
e)、d(m,
l)をOFDMシンボル、l(エル)をキャリア番号、mをシンボル番号、g(t−mτ
s)をシンボル区間ゲート、とするとき、次式で表される。
【0030】
また、受信信号については、kをチャンネル番号として、送信局から搬送波周波数f
kで送信された信号に対して、シンボル長の変動や搬送波周波数の変動があり、また伝送路上に白色
性雑音があるなどの微小な変動要因がある場合は数2となる。ただし、ΔTはシンボル長の誤差、τ´
sはそのシンボル長の誤差を含むシンボル長(τ´
s=τ
s+ΔT)である。また、rは振幅、Δf
kは搬送波周波数誤差、Φ´
T(t)は送信側の位相雑音、ζ´(t)は送受信点間の距離変動、C[m/s]は光速、T´(t)は送受信間の伝搬時間変動、W(t)は白色
性雑音である。
【0032】
受信側では、この信号を周波数変換してベースバンド信号にする。この周波数変換は、上記の受信信号と下記の信号とを乗じることで行うことができる。この操作で得られたベースバンド信号を、1/(Nf
0)秒間隔でガードインターバルを含めて離散サンプリング(標本化)する。m+1番目のシンボルについて、有効シンボル部分は、k=0からN−1までのkと、ガードインターバル部分のk=−Gから−1までのkと、について、k/(Nf
0)時点で離散サンプリングを行う。ここで、G=Nτ
g/τ
eである。
【0033】
次に、シンボル同期の結果に従って、シンボルデータ(=ガードインターバルデータと有効シンボルデータとの続き)から有効シンボルを切り出す。
このように切り出された有効シンボルに対してフーリエ変換を行って、l(エル)番目のキャリアについて次の受信シンボルを得ることができる。
【0035】
ここで、h(m,l)は、伝搬プロファイルに相当し、w´(m,l)は白色雑音に相当する項である。
【0036】
ここで、伝搬がP通りのマルチパスによる場合は、個別のパスにおける伝搬プロファイル重ね合わせになることから、マルチパスの場合の伝搬プロファイルh(m,l)は、次のようになる。
【0038】
ここで、τ
iは遅延時間であるがP=1のときτ
1をτとする。また、Φ^
Tは送信側の位相雑音、Pはマルチパスの経路数、関数T( )は伝搬空間の時間変動成分、関数ζ( )は送受信点間の距離変動成分、関数Φ^
R( )は受信側の位相雑音、θ^は伝搬経路長と搬送波f
k、f´
kの初期位相差で決まる位相回転量である。
【0039】
また、受信信号から求まる伝達関数は次式となる。
【数5】
【0040】
また、上記伝達関数をIDFTして求まる複素遅延プロファイルは次式となる。次式でγは遅延時間である。
【0041】
【数6】
ただし、G(m,γ)は、キャリア数Lで正規化している。
【0042】
遅延プロファイルの時間分解能は信号の帯域幅で決まるので、5.6MHzの帯域幅であればその時間分解能は約0.17857μsecであり、伝搬の通路差にすると約53.57mの分解能である。
【0043】
上記伝達関数については、受信が直接波のみの場合でも位相雑音、搬送波周波数誤差、白色性雑音などの影響がある。
例えば、簡単のため、復調キャリアf´
kは搬送波周波数f
kに等しいとして搬送波周波数誤差Δf
kはゼロとし、フレーム同期、シンボル同期、クロック再生は理想的でτ=0、ΔT=0とし、到来波は直接波のみ(P=1)とすると、上記の複素遅延プロファイルは次式となる。
【0044】
【数7】
ここで、w^(m,γ)は伝達関数の雑音成分をIDFTしたものである。
【0045】
遅延プロファイルから観測対象の到来波の遅延時間の変位位置Δγを求めて、その位置での位相の時間変化を観測すると、到来波の位相変動として、次式が得られる。
【0046】
【数8】
ただし、angle(z)は、複素数zから位相角度を求める関数であり、以下で定義される。
【0048】
ここで、数7のキャリア周波数間隔f
0を含む項は、伝搬距離や伝搬時間の変動に応じて、伝達関数の周波数軸上で螺旋状にねじれを生じることから、遅延プロファイルの位相が回転する(つまり移相される)とともにピーク位置が移動することが分かる。
【0050】
などが周波数特性に影響しない位相変動成分であり、送受信点間の距離(mτ
S)や伝搬時間T(mτ
S)が変化すれば、それに応じて伝達関数全体の位相が回転する(つまり移相される)ことが分かる。
【実施例1】
【0051】
以下では、まず、複数チャンネルを用いた位相雑音の補正手法について説明する。
【0052】
放送電波において、大気中の水蒸気量の変化によって生ずる伝搬時間変動は、位相換算で360度程度であると言われている。実測では、例えば、5台のRb(ルビジウム)発振器を信号源とする電波の位相変動を実測した結果は、平均で約180度/毎時であった旨の報告がある。しかし、更に受信ケーブル(5D2V)が外気にさらされた場合の位相変化も考慮すると、ケーブル長が50mで気温変化が20℃の場合、222度程度の位相変化であった。この報告から、精密な観測値を得るためには、変動レンジの大きい位相雑音等を精密に補正する必要があることが分かる。また、位相雑音等は放送局ごとに独立なので個々に補正する必要があることは自明である。
【0053】
精密測定のための一つの方策としては、計測点間でクロックを共有することが考えられるが、数キロメートル以上離れた測定点間で共有クロックを用いることは容易ではない。
【0054】
また、GPSの利用も考えられるが、この場合、瞬時の位相がRb発振器の10倍程度変動することと、時刻補正の処理により時々位相の値がジャンプすることがあり、実用するには解決する課題が残る。
【0055】
また、有線放送網であるCATV回線を活用する手法も知られている。これは、位相雑音を抑圧するために、受信点間で同期を確立する方法としてCATV回線のパススルー信号を共通の基準信号とする手法である。この手法は、前記目的には有効ではあるが、計測可能範囲がCATV回線の敷設エリアに限定される、という欠点を備えている。
【0056】
そこで、以下に、CATV回線を使用することなく、同一送信点から送信される地上デジタル放送電波の複数チャンネルの受信信号を用いて上記位相雑音の計測手法を説明する。
【0057】
まず、計測・分析モデルについては、以下のようにする。
放送電波の受信で到来波は直接波のみ(P=1)の場合において、復調キャリアf´
kは搬送波周波数f
kとの同期が理想的であればΔf
k=0、ΔT=0、γ=Δγ=0であり、数7は次のよう簡単になる。
【数11】
ただし、上記G(m,0)は、キャリア数Lで正規化している。
【0058】
また、受信シンボルの位相変動要素は次式のような位相項の式に表せる。
【数12】
【0059】
ここで、φ
T,kは送信側の発振器の位相雑音成分、φ
Xは受信側の発振器の位相雑音成分、ξ
X,kは伝搬距離変動を位相に換算した値、ψ
X,kは伝搬路中の伝搬時間変動を位相に換算した値、θ
X,kは伝搬経路長と搬送波f
k、f´
kの初期位相差で決まる位相回転量である。添え字のXは観測地点、kはチャンネル番号を示す。
【0060】
整理した各項は以下の関係になる。
【数13】
【0061】
計測の系統図を
図3に示す。この計測にあたっては、送信点から見て直線上にある2つの測定点を設定し、十分なアンテナ高と見通し条件を確保して計測するものとする。ここで、添え字は、送信点T、受信点AとBで、kは放送用のUHF帯の任意のチャンネル番号、シンボル位置はある瞬間の任意の整数とする。また簡単のため、T、A、Bは直線上に並ぶものとする。
また、φ
T,k、φ
A、φ
Bはそれぞれの発振器の位相雑音成分とし、ξ
T,kはアンテナの揺れによる送信点の伝搬距離変動を位相に換算した値、ψ
A,k、ψ
B,kは
送信点と測定点間の伝搬路中の伝搬時間変動を位相に換算した値とする。測定側では複数のチャンネルを広帯域に一括でサンプリングして取込む仕様とし、φ
A、φ
Bは、それぞれの受信点でチャンネル共通とした。
【0062】
受信信号から伝達関数、複素遅延プロファイルの解析を経て、到来波の位相成分は次の数14、数15で表される。
【0063】
【数14】
【0064】
【数15】
【0065】
数14、数15より、A、B地点間の受信信号の位相成分の差分は次式となる。
【数16】
【0066】
抑圧したい値は位相雑音φ
B−φ
Aであり、観測結果として求まる値は変動成分ψ
B,k−ψ
A,kと初期位相θ
B,k−θ
A,kである。
【0067】
次に、複数チャンネルを用いた解析手法について説明する。
この手法は、前処理として、受信するチャンネル毎に同期処理を行い、求めた遅延プロファイルの相互相関を取って時間位置を整合させる必要があり、この処理精度が解析結果に影響するが、ここでは、ΔT=0、Δf
k=0、γ
A,k=γ
B,kとなる理想条件にあるとする。
【0068】
位相雑音を抑圧する方法として、同一送信点から送出される複数チャンネルの受信信号を各測定点で同時に受信し、その測定点間でチャンネル周波数に依存しない伝搬時間変動の差分Δτを求める。
また、位相雑音に起因する位相ドリフトは短時間内には変化しないので、GPSや電波時計などで時刻を合わせて測定点間の観測時刻の同期を効果的にとる事ができる。
【0069】
数14からA地点の受信信号についてαチャンネルとβチャンネルの位相差分を求める。ここで、添字の(β−α)はチャンネル間の差分であることを表している。
【0070】
【数17】
【0071】
同様に数15からB地点の受信信号についてαチャンネルとβチャンネルの位相差分を求める。
【0072】
【数18】
【0073】
次に,数15、数16から2地点間の差分を求める。
【数19】
【0074】
ただし、数20の略記に従うものであり、上記の最終項は、白色性雑音による誤差である。
【0075】
【数20】
【0076】
そして、伝搬経路差による固定の遅延時間差τ
dと伝搬時間の変動差分Δτ、白色性雑音による誤差σ
nは、位相から伝搬時間に換算すると次のようになる。
【0077】
【数21】
【0078】
数19と数21からA、B地点間において任意のチャンネルkでの位相変動の値は次式で求まる。
【0079】
【数22】
数22右辺の最終項は、白色性雑音の推定値である。
【0080】
以上により、位相雑音が抑圧されて目的のA、B地点間の伝搬変動の差分が求まる。
Δτに対して白色性雑音σ
nが大きい場合は解析結果に影響するのでC/N(キャリア電力/ノイズ電力)比に関する有効性の評価が必要である。
【0081】
信号帯域のC/Nは、信号対雑音電力であり、OFDM信号は確率的に帯域内が一定の電力なのでC/Nは帯域幅に依存しない。しかし、遅延プロファイルについては、帯域内の参照できるキャリア数が限定されるので、フーリエ変換においてその数が影響する。SPは帯域内に1872個のサブキャリアがあるので、信号の伝達関数の振幅を1と正規化すれば、遅延プロファイルの信号振幅は43.3で雑音の平均振幅は1である。したがって、遅延プロファイルを求めると32.8dBの利得改善となる。
また、複数のチャンネルを用いて変化差分から時間・距離変動を求めるので、周波数に依存しない時間・距離変動の値に対して、それを求めるために対比するチャンネルの周波数の差に比例してψ
Zが大きくなるがw
Zは変化しない。したがって、対比するチャンネルの周波数間隔が大きいほど利得は有利になる。対比するチャンネル間隔が6MHz離隔するごとに3dB向上する。
【0082】
次に、位相雑音の評価の実際について、計算機シミュレーションを例に説明する。
このシミュレーションでは、位相雑音のデータを生成するため、
図5に示すように変調器とRF信号記録装置に各々Rb発振器を接続するモデルを想定する。また、位相雑音φ
A、φ
B、φ
C、φ
D、φ
α、φ
βは、変調信号をRF信号記録装置に接続して一旦記録し、同期復調を行い主波の位相の時間変動を抽出したデータを使用する。ただし、これらは時間別の独立した変動データである。
【0083】
また、計測の条件は、
図3に示す送信点から1直線上に位置する測定点A、Bでの受信を想定し、
図4に示すパラメータについて位相雑音、空間変動、初期位相、白色性雑音等を与えて信号Ph
A、Ph
Bをチャンネルα、βについて生成するものとする。
【0084】
上記の処理手順に従って
伝搬時間変動の差分Δτを求めた結果を
図6から
図7に示す。
図6(a)は位相雑音、
図6(b)は送信アンテナの揺れ、
図6(c)は水蒸気変動のレンジを模擬した伝搬時間変動、
図6(d)は生成した受信信号である。
図7は提案手法で求めたA−B間の
伝搬時間変動成分の和Δτ+τ
d+σ
nで、発振器の位相雑音等を抑圧して与えた微小変動が抽出されている。
図7(a)はC/N=25dB、Span=24MHz、
図7(b)はC/N=
25dB、Span=6MHz、
図7(c)はC/N=15dB、Span=24MHz、
図7(d)はC/N=15dB、Span=6MHzの時の和Δτ+τ
d+σ
nの解析結果である。
対比するチャンネルの周波数間隔が広いほど雑音に対して有利となるが、
図7(e)、
図7(f)のように短区間の平均値をとれば雑音に対して改善される。
ちなみに、C/N=15dBの受信環境は64QAMのデジタル放送を視聴できない受信レベルである。
【0085】
[送信点の揺れの挙動検出の解析シミュレーション]
本発明は、送信点の揺れの挙動も検出できるので、その解析シミュレーションを以下に示す。
【0086】
図8の条件は、送信点のアンテナの揺れたわみなどの挙動を計測するもので、送信点を通る直線上で送信アンテナを挟むような水平位置にA、B点を配置する。距離としては、伝搬空間の変動を受けにくい送信点近傍が望ましい。
一般的には送信アンテナが楕円で回転している場合が想定されるが、
図8にあるようにそれぞれ送信点を通るA−B、C−Dなる異なる二方向から変動を測定すれば楕円の軌跡が特定できる。
原理は、次のようなものである。まず、2対の各地点間の測定によって2対の各二地点を結ぶ2方向の変動の振幅が求まる。そして、2方向の測定により楕円の外周の拘束条件が確定するが、無数の楕円の運動が存在できる。
そこで、振幅変動の周期について二方向の測定データの測定時間を同期させて軌跡をプロットすると一つの楕円が特定できる。この時、A−B、C−Dの成す角度は直交である必要はない。
ここでは簡単のため送信点は、風などの影響により送信塔の共振周期で振動し、尖塔部が水平面で円を描くような揺れを想定する。また、A、B点と同じ水平面でA−B線に直交する線上に測定点C、D点を配置する。つまり、(θ
CD−θ
AB=π/2)とする。
【0087】
図9に示すパラメータについて、位相雑音、空間変動、初期位相、白色性雑音等を与え、信号Ph
A、Ph
B、Ph
C、Ph
Dをチャンネルα、βについて生成する。そして、上記の処理手順で
伝搬時間変動の差分Δτを求める。
【0088】
図10(a)、(b)は、検出すべき送信アンテナの揺れをしめすが、
図10(c)のように、水平面で円を描いて揺れている設定とした。ここでは、その揺れを搬送波周波数の位相変動として示す。
【0089】
受信信号からの上記送信アンテナの揺れの検出に当たっては、A、B間、およびC、D間で位相変動差分を抽出し、和Δτ+τ
d+σ
nを求めた。
まず、発振器の位相雑音は、受信方向にかかわらず共通なので、相殺される。アンテナの揺れも、同一方向であれば、同相では相殺されるが、アンテナを挟んで逆方向の受信なので逆相となり、2倍の変動値が求まる。したがって、求めた値を1/2にした結果が
図10(d)である。
【0090】
例えばこのようにして、送信点の挙動が得られていれば、例えばA、B点での測定から位相変動を求める場合に、その挙動をA、B点での測定における補正に利用できるので、観測点A、Bと送信点が同一線上に位置していない場合でも、A、B地点のデータの差を求めることができる。
【0091】
本実施例は、上記の様に多数のSP(スキャッタードパイロット信号)を用いて遅延プロファイルを検出するため、デジタル放送の視聴が厳しい程度に低い受信強度レベルでも、その遅延プロファイルの計測と評価は可能である。このため、アンテナの設置条件などで十分な受信C/Nを得られれば、雑音の影響が軽減されて、高分解能での計測が可能である。つまり、放送受信可能圏外にあっても本発明を適用することができる領域が十分にある。また、低アンテナ高での計測や移動体での計測の場合も、度々低い受信強度レベルでの計測になる場合があるが、この場合への適用も可能である。
【実施例2】
【0092】
[帯域分割して遅延プロファイルを求め、位相雑音を補正する方法]
次に、帯域分割した伝達関数の遅延プロファイルを求め、位相雑音を補正する方法について説明する。
【0093】
前述の複数チャンネルを用いた解析手法では、受信するチャンネル毎に同期処理を行い、求めた遅延プロファイルの相互相関を取って時間位置を整合させる処理が必要であり、この処理精度が解析結果に影響する。更に、同一送信点から複数のチャンネルが放送されている必要があり、県域局のように1チャンネルのみの放送エリアでは観測ができない。
また、送信側の位相雑音を相殺するために送信点からみた直線上に観測点が2か所必要で、測定時間も同期させなければならない。
放送する2チャンネルを使用する場合でも、各チャンネルに共通の周波数基準を用いてシンボルタイミング生成と搬送波への周波数変換を行うことができれば、遅延プロファイルの位相差を求める段階で送信側と受信側の位相雑音が同時に相殺されて伝搬時間変動量が求まるが、その実現には、共通の周波数基準とするための放送設備の変更が必要になる。
【0094】
そこで、この問題点を解消することができる例を以下に示す。これは、
(イ)デジタル放送1チャンネル分(単一チャンネル)の信号を受信して精密に同期復調し、(ロ)伝達関数を周波数軸上で分割してそれぞれの遅延プロファイルを求め、
(ハ)相互の主波の位相差から伝搬距離・伝搬時間変動を直接求めることにより、
測定点(つまり受信点)が1か所でも、送信・受信側の位相雑音を相殺することができる手法である。
【0095】
測定点が1か所の場合、周波数基準を共通化して位相雑音を相殺しても距離変動と伝搬時間変動は保存されて送信アンテナの揺れ等の成分は残留するので、伝搬空間の伝搬距離・伝搬時間変動のみを求めるには送信アンテナの揺れ等の距離変動成分を補正する必要がある。
【0096】
その様な送信アンテナの揺れは、
(a)伝搬時間変動を無視し得る位置であるアンテナの比較的近傍で別途観測したデータにより差し引く方法や、
(b)送信点から直線上にある二点の観測データの差分を取って共通する送信アンテナの揺れを相殺する方法によって、
解消することが考えられる。
【0097】
[OFDMの帯域内分割のモデル化]
まず、OFDMの帯域内分割のモデル化は、以下の様に行う。
図11は、単一チャンネルの信号だけで空間の伝搬時間変動の観測を行う手順を説明するためのブロック図である。OFDMの信号はマルチキャリアであるので、単一チャンネルのOFDM信号でも周波数軸上で二分割すれば、2チャンネル分の信号を使用する状態と等価である。
【0098】
チャンネル内を2分割する手法のデメリットは、求まる位相差分
の利得が比較するチャンネルの周波数差に
比例する点、遅延時間分解能が約1/2になる点、複素遅延プロファイルの利得が3dB程度劣化する点である。
一方、メリットとしては、復調タイミングが同一なので信号処理の負荷が低減される点と、比較する遅延プロファイルが同一なので遅延時間の整合誤差が生じない点と、をあげることができる。加えて、県域局のように単一チャンネルのみ受信可能な放送エリアでも観測が可能になる点をあげられる。
【0099】
例えば現行の地上デジタル放送の場合、単一チャンネル分の6MHzの周波数帯域を2分割して3MHzずつとする。そして、地上デジタル放送では、6MHzの帯域幅を14のセグメントに等分割し、そのうち13セグメントに有効な信号帯域を割り当て、残りの1セグメントは帯域の両側に半分ずつ隣接チャンネルとのガードバンドとして割り当てている。したがって、帯域の両側では、6MHz/(14×2)(≒214kHz)ずつ、ブランクになっている。
【0100】
本実施例では、有効な信号帯域の中心の1セグメント(ワンセグ用)を除外して、上下6セグメントずつの2つの帯域とする。この場合、帯域の中心どうしは3MHzの間隔となる。A地点の受信信号について分割した下側のチャンネル番号をkL、上側をkHと記述する。
直接波のみが受信される場合において、同期が理想的であればΔf
k=0、ΔT=0、γ=Δγ=0である。
その場合、A地点で観測したkLチャンネルの到来波の遅延プロファイルは数7から次のように表される。
【0101】
【数23】
ただし、G
A,kL(m,0)は、キャリア数Lで正規化している。
受信シンボルの位相変動要素は次式に示す位相項の式に表わせる。
【0102】
【数24】
【0103】
ここで、φ
T,kは送信側の発振器の位相雑音成分、φ
Xは受信側の発振器の位相雑音成分、ξ
T,kはアンテナの揺れによる送信点の伝搬距離変動を位相に換算した値、ξ
A,kは受信点の位置の移動や受信アンテナの揺れによる伝搬距離変動を位相に換算した値、ψ
X,kは伝搬路中の伝搬時間変動を位相に換算した値、θ
X,kは伝搬経路長と搬送波f
k、f´
kの初期位相差で決まる位相回転量である。添え字のXは観測地点、kH、kLはチャンネル番号を示す。
【0104】
[単一チャンネルの伝達関数を帯域分割して分析する手法]
数24より、A地点の受信信号帯域のkHとkLとの差分は次式となる。
【0105】
【数25】
ここで、添字の(kH−kL)はチャンネル間での差分であることを表している。
【0106】
数25から、位相雑音が相殺されて、送信点と測定点間の伝搬距離変動と、伝搬時間変動に雑音が残留したものと、が得られたことが分かる。送信アンテナや受信アンテナが物理的に揺れたり、たわんだりなどが無ければ送受信点間の変動が求まったことになる。
そして、伝搬時間変動の差分Δτ、伝搬距離変動の差分τ
h、白色性雑音による誤差σ
nは、位相から伝搬時間に換算すると次のようになる。
【0107】
【数26】
【0108】
周波数に依存しない和(Δτ+τ
h+σ
n)が求められたので、数23と数24からA地点間において任意のチャンネルkでの位相変動の値は次式で求まる。
【0109】
【数27】
ここで、w″
A,kは白色性雑音の推定値である。
【0110】
以上により、位相雑音が相殺されて、目的のA、B地点間の伝搬変動の差分が求まり、送信点の揺れや受信点の移動が無い場合で、Δτに対して白色性雑音σ
nが十分小さいならば、伝搬時間の変動が推定できる。
【0111】
[2地点間の測定結果を用いて解析する場合]
A地点での測定に加えてB地点での測定において受信信号帯域のkHとkLの差分は次式となる。
【0112】
【数28】
【0113】
次に、数25、数28について更に差分を求める。
【数29】
【0114】
ψ
Z(kH-kL)は空間の伝搬時間変動を位相に換算した値、ξ
Z(kH-kL)は受信点の位置の移動による伝搬距離変動を位相に換算した値である。w
Z(kH-kL)は雑音による誤差である。
したがって、2地点間の経路差による伝搬時間変動の差分Δτは次のようになる。
【0115】
【数30】
【0116】
A、B地点間において経路差で生ずる伝搬時間変動、伝搬距離変動は、数29と数30から、次式になることが分かる。
【0117】
【数31】
【0118】
したがって、経路差による位相変動と位相回転の値は次式になる。
【数32】
【0119】
ここで、w″
Z,kは白色性雑音の推定値である。また、観測点が送信点から直線上にない場合は、送信点からの水平面の到来角が異なる。そのため、送信点が揺れている場合などは各観測点方向の距離変化量を逐次求めて補正する必要がある。
【0120】
以上で、位相雑音と送信点の変動が相殺されて目的のA、B地点間の変動の差分が求まり、A、Bの受信点の移動が無ければ、A、B間の伝搬時間変動が求まる。また、伝搬時間変動がなければ、送信点に対するA、Bの距離の変化差分が求まる。Δτに対して白色性雑音σ
nが大きい場合は解析結果に影響するのでC/Nに関する有効性の評価が必要である。
【0121】
[雑音の影響]
信号帯域のC/Nは、信号対雑音電力であり、OFDM信号は確率的に帯域内が一定の電力なのでC/Nは帯域幅に依存しない。
遅延プロファイルについては帯域内の参照できるキャリア数が限定されるので、フーリエ変換においてその数が影響する。SPは帯域内に1872個のサブキャリアがあるので信号の伝達関数の振幅を1と正規化すれば、遅延プロファイルの信号振幅は43.3で雑音の平均振幅は1である。したがって、遅延プロファイルを求めると32.8dBの利得改善となる。
【0122】
しかし、1チャンネルの帯域を分割する場合はSPを分ける必要があり、また2分割で中心セグメントを使用しない場合、1872×6/13=864が利用できるSPの数である。この場合の遅延プロファイルの信号振幅は29.4で雑音の平均振幅は1である。したがって、遅延プロファイルを求めると29.4dBの利得改善となる。
【0123】
[シミュレーションによる評価]
本実施例について、計算機シミュレーションに沿ってより具体的に説明する。まず、位相雑音のデータを生成するため、
図12に示すように変調器とRF信号記録装置に各々Rb発振器を接続するモデルを想定する。ここで、位相雑音φ
A、φ
B、φ
kは、変調信号をRF信号記録装置に接続して一旦記録し、同期復調を行い主波の位相の時間変動を抽出したデータを使用する。ただし、これらは時間別の独立した変動データである。
【0124】
[測定点間の変動量の解析シミュレーション]
計測の条件は、
図11に示す測定点Aでの受信を想定し、
図12、
図13に示すパラメータについて位相雑音、空間変動、初期位相、白色性雑音等を与えて信号Ph
A、Ph
Bをチャンネル周波数kL、kHについて生成する。そして、上記の処理手順で
伝搬時間変動の差分Δτを求める。
【0125】
図14(a)は位相雑音、
図14(b)は送信アンテナの揺れ、
図14(c)は水蒸気変動を模擬した伝搬時間変動、
図14(d)は生成した受信信号である。
図15は本発明の方法で求めたA点の
伝搬時間変動成分である和Δτ+τ
h+σ
nで、発振器の位相雑音等を抑圧して与えた微小変動が抽出されている。
図15(a)は、求めた和Δτ+τ
h+σ
nの解析結果、
図15(b)は
図15(a)の一部の拡大図で、アンテナの揺れ成分が確認できる。
図15(c)は
図15(a)の20秒の移動平均で、雑音に対して改善される。
【0126】
[送信点の揺れの挙動の解析シミュレーション]
図16の条件は、送信点のアンテナの揺れたわみなどの挙動を計測するもので、送信点を中心にして水平面でなるべく直交する位置にA、B点を配置する。距離としては、伝搬空間の変動を受けにくい送信点近傍とする。
【0127】
一般に、送信点は、風などの影響により共振周期で振動する場合がある。この時、送信アンテナが楕円で回転している場合が想定されるが、
図16にあるように送信点とAまたはBを結ぶ異なる2方向から上記変動を測定すれば楕円の軌跡が特定できる。
原理は、上記の場合と同様であって次のようなものである。まず、測定によって送信点と測定点を結ぶ2方向の上記変動の振幅が求まる。これにより楕円の外周の拘束条件が確定するが、無数の楕円の運動が存在できる。そこで、振幅変動の周期について上記2方向の測定データの測定時間を同期させて軌跡をプロットすると一つの楕円が特定できる。この時、A、Bの成す角度は直交である必要はない。
ここでは、簡単のため水平面で円を描くような揺れを想定する。そして、水平面で直交する角度に測定点A、B点を配置する。つまり、(θ
B−θ
A=π/2)とする。
【0128】
図17に示すパラメータについて位相雑音、空間変動、初期位相、白色性雑音等を与えて信号Ph
A、Ph
Bをチャンネル周波数kL、kHについて生成する。そして、提案の処理手順で
伝搬時間変動の差分Δτを求める。
【0129】
上記の様に、設定した送信アンテナの揺れは、
図18(a)のような水平面で円を描く揺れである。この場合に、A、Bにおいて和Δτ+τ
h+σ
nを求めたところ、得られた結果は、
図18(b)に示すアンテナの揺れ成分であり、設定を再現できている。
【0130】
送信点の挙動が得られていればそれを補正値として利用できるので、観測点が送信点から見て同一線上に位置していない場合でも、2地点のデータの差を見積もって補正に用いることができる。
【0131】
本発明は、デジタル放送の視聴が厳しい程に低い受信レベルでも計測が可能である領域が広く、アンテナの設置条件などで十分な受信C/Nを得られれば、雑音の影響が軽減されて高分解能での計測が期待できる。また、低アンテナ高での計測や移動体での計測への適用も可能である。