(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形体からオーバーフローした熔融ガラスを、前記成形体の両側面に沿って流下させた後、前記成形体の下端部近傍で合流させてガラス板を成形する成形体と、前記成形体の下端部近傍の位置に配置され、前記熔融ガラスあるいは前記ガラス板が保有する熱量を変化させる熱量変化部材を含む、成形装置と、
前記成形装置が成形したガラス板を鉛直方向下方に搬送しながら冷却する冷却装置と、
前記冷却装置で冷却されたガラス板の幅方向における前記ガラス板の表面凹凸の量あるいは歪の量が基準量以上か否かにより、前記幅方向における脈理の位置及び幅を前記ガラス板の歪の計測結果に基づいて判定する判定装置と、を備え、
前記成形装置は、前記判定装置で判定した前記脈理の位置において、前記脈理により生じる前記ガラス板の表面凹凸の量あるいは歪の量が前記基準量以下になるよう、前記熱量変化部材を前記熔融ガラスあるいは前記ガラス板に対して遠近させることにより、前記熱量変化部材が前記熔融ガラスあるいは前記ガラス板に与える熱量を制御し、
前記熱量変化部材は、前記熱量変化部材の幅を、前記判定工程で判定した前記脈理の幅に等しくなるように調整したものである、
ことを特徴とするガラス板の製造装置。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板の製造方法の一つとして、ダウンドロー法が用いられている。ダウンドロー法では、成形体からオーバーフローした熔融ガラスが、分流して成形体の側面に沿って流下する。次に、熔融ガラスは、成形体の下端部で合流して、ガラス板に成形される。成形されたガラス板は、鉛直方向下方に搬送されながら冷却される。冷却工程において、ガラス板は、粘性域から粘弾性域を経て弾性域へと推移する。
【0003】
成形体の側面に沿って流下する熔融ガラスは、成形体を離れると同時に、表面張力によりガラス板が幅方向に収縮する。この収縮により、ガラス板には、歪み、板厚偏差、凹凸が生じる。特許文献1には、成形体と成形体下方の引張りローラとの間において、ガラス板の幅方向の縁部の近傍において、ガラス板と離間して設けられた冷却ユニットを用いて、ガラス板の縁部の温度を調整し、ガラス板の収縮を抑制する方法が開示されている。その後、収縮が抑制されたガラス板は、徐冷空間を通過して成形される。この徐冷空間では、雰囲気温度が所望の温度プロファイル(ガラス板に歪みが発生しないような温度分布)になるように制御され、ガラス板の板厚偏差、反り、歪みが抑制される。一方、近年、液晶表示装置用ガラス基板においては、ガラス板の板厚偏差や、反り、歪み等の要求されるスペック(品質)が厳しくなっている。
【0004】
ガラス板の幅方向における収縮によって生じた歪み、板厚偏差、凹凸は、徐冷空間において抑制されずに残ると、ガラス板の搬送方向に発生する脈理となる。この脈理は、所定の幅においてガラス板の厚み(高さ)が変動した歪みの一種であり、ガラス板の搬送方向に筋状に連続的に発生する。脈理の発生原因であるガラス板の幅方向における収縮を抑制し、近年の厳しい要求スペックを満たすためには、徐冷空間における熱管理を行うだけでなく、成形体の下端部で合流して成形されるガラス板の熱管理の精度を高める必要がでてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、成形体の下端部における熱管理の精度を高めることにより、ガラス板の搬送方向に発生する脈理を抑えることができるガラス板の製造方法及びガラス板の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の形態を備える。
【0008】
(形態1)
成形体からオーバーフローした熔融ガラスを、前記成形体の両側面に沿って流下させた後、前記成形体の下端部近傍で合流させてガラス板を成形する成形工程と、
前記成形工程で成形されたガラス板を鉛直方向下方に搬送しながら冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却されたガラス板の幅方向における脈理の位置
及び幅を
、前記幅方向における前記ガラス板の表面凹凸の量あるいは歪の量が基準量以上か否かに基づいて判定する判定工程と、を備え、
前記成形工程では、
前記成形工程と前記冷却工程とを仕切る仕切り部材より前記搬送方向の上流側の、前記成形体の下端部近傍の位置に配置され、熔融ガラスあるいはガラス板が保有する熱量を変化させる熱量変化部材を用いて、前記脈理の位置において、前記脈理
により生じる前記ガラス板の表面凹凸の量あるいは歪の量が前記基準量未満となるよう、前記熱量変化部材が熔融ガラスあるいはガラス板に与える熱量を制御し、
前記熱量変化部材は、前記熱量変化部材の幅を、前記判定工程で判定した前記脈理の幅に等しくなるように調整したものであり、
前記熱量変化部材による前記熱量の制御は、前記熱量変化部材を熔融ガラスあるいはガラス板に対して遠近させることにより行う、 ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【0009】
(形態2)
成形体からオーバーフローした熔融ガラスを、前記成形体の両側面に沿って流下させた後、前記成形体の下端部近傍で合流させてガラス板を成形する成形工程と、
前記成形工程で成形されたガラス板を鉛直方向下方に搬送しながら冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却されたガラス板の幅方向における脈理の位置を前記ガラス板の歪の計測結果に基づいて判定する判定工程と、を備え、
前記成形工程では、
前記成形工程と前記冷却工程とを仕切る仕切り部材より前記搬送方向の上流側の、前記成形体の下端部近傍の位置に配置され、熔融ガラスあるいはガラス板が保有する熱量を変化させる熱量変化部材を用いて、前記脈理の位置において、前記脈理が所定の条件を満たすよう、前記熱量変化部材が熔融ガラスあるいはガラス板に与える熱量を制御する、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【0010】
(形態3)
前記熱量変化部材は、
電流の供給により発熱する磁性管である、形態1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【0011】
(形態4)
前記成形工程では、前記熱量変化部材と前記ガラス板との距離を狭めて、前記判定工程で判定された脈理の位置のガラス板の保有熱量を上昇させ、
前記冷却工程では、保有熱量が上昇した前記ガラス板を、前記ガラス板の幅方向に引っ張りながら冷却する、形態1〜3のいずれか1つに記載のガラス板の製造方法。
【0012】
(形態5)
前記熱量変化部材は、熱量変化部材の単位構成要素を複数組み合わせて構成され、
前記熱量変化部材は、前記単位構成要素のいくつかを前記脈理の幅に等しくなるように、前記脈理の位置に隙間なく集約して構成される、形態1〜4のいずれか1つに記載のガラス板の製造方法。
【0013】
(形態6)
前記熱量変化部材の中で、前記脈理の位置に集約した構成単位要素と熔融ガラスあるいはガラス板との間の距離を、前記脈理内の前記表面凹凸の量あるいは前記歪の量に応じて異ならせる、形態5に記載のガラス板の製造方法。
【0014】
(形態7)
成形体からオーバーフローした熔融ガラスを、前記成形体の両側面に沿って流下させた後、前記成形体の下端部近傍で合流させてガラス板を成形する成形体と、前記成形体の下端部近傍の位置に配置され、前記熔融ガラスあるいは前記ガラス板が保有する熱量を変化させる熱量変化部材を含む、成形装置と、
前記成形装置が成形したガラス板を鉛直方向下方に搬送しながら冷却する冷却装置と、
前記冷却装置で冷却されたガラス板の幅方向における
前記ガラス板の表面凹凸の量あるいは歪の量が基準量以上か否かにより、前記幅方向における脈理の位置
及び幅を前記ガラス板の歪の計測結果に基づいて判定する判定装置と、を備え、
前記成形装置は、前記判定装置で判定した前記脈理の位置において、前記脈理
により生じる前記ガラス板の表面凹凸の量あるいは歪の量が前記基準量以下になるよう、前記熱量変化部材を前記熔融ガラスあるいは前記ガラス板に対して遠近させることにより、前記熱量変化部材が
前記熔融ガラスあるいは
前記ガラス板に与える熱量を制御し、
前記熱量変化部材は、前記熱量変化部材の幅を、前記判定工程で判定した前記脈理の幅に等しくなるように調整したものである、
ことを特徴とするガラス板の製造装置。
【発明の効果】
【0015】
上述の態様のガラス板の製造方法及びガラス板の製造装置によれば、成形体の下端部における熱管理の精度を高めることにより、ガラス板の搬送方向に発生する脈理を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
以下、本実施形態にかかるガラス板の製造方法及びガラス板の製造装置について説明する。
図1は、本実施形態にかかるガラス板製造装置の概略構成図である。
ガラス板製造装置100は、
図1に示すように、溶解槽200と、清澄槽300と、成形装置400とから構成される。溶解槽200では、ガラスの原料が溶解され熔融ガラスが生成される。溶解槽200で生成された熔融ガラスは、清澄槽300へ送られる。清澄槽300では、熔融ガラスに含有される気泡の除去が行われる。清澄槽300で気泡が除去された熔融ガラスは、成形装置400へ送られる。成形装置400では、例えばオーバーフローダウンドロー法によって、熔融ガラスからガラス板Gが連続的に成形される。その後、成形されたガラス板Gは、冷却され、所定の大きさのガラス板に切断される。ガラス板Gは、例えば、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板(例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板)、カバーガラスや磁気ディスク用などの強化ガラス用ガラス基板、ロール状に巻き取られるガラス基板、半導体ウエハ等の電子デバイスが積層されたガラス基板として用いられる。
【0018】
次に、成形装置400の詳細な構成について説明する。
図2は、成形装置の断面概略構成図であり、
図3は、成形装置の側面概略構成図である。
成形装置400は、
図2及び
図3に示すように、成形体10と、仕切り部材20と、冷却ローラ30と、断熱部材40a,40b,・・・,40hと、送りローラ50a,50b,・・・,50hと、温度制御ユニット(温度制御装置)60a,60b,・・・,60hとから構成される。また、成形装置400は、仕切り部材20より上方の空間である成形体収容部410と、仕切り部材20直下の空間である成形ゾーン42aと、成形ゾーン42aの下方の空間である徐冷ゾーン420とを有する。徐冷ゾーン420は、複数の徐冷空間42b,42c,・・・,42hを有する。成形ゾーン42a、徐冷空間42b、徐冷空間42c、・・・,42hは、この順番で鉛直方向上方から下方に向かって積層している。成形ゾーン42aと徐冷ゾーン420とは、耐火材及び/又は断熱材建物(図示せず)によって囲まれ、成形ゾーン42a、徐冷ゾーン420において、温度制御ユニット60a等が、ガラス板Gを成形、冷却するのに適する温度に制御する。
【0019】
成形体10は、
図2に示すように、略楔状の断面形状を有する部材である。成形体10は、略楔状の尖端(下端)11が下端に位置するように、成形体収容部410に配置される。
図3に示すように、成形体10の上端面には、溝12が形成されている。溝12は、成形体10の長手方向、すなわち
図3の紙面左右方向に形成されている。溝12の一方の端部には、ガラス供給管14が設けられている。溝12は、ガラス供給管14が設けられる一方の端部から他方の端部に近づくに従って、徐々に浅くなるように形成されている。成形体10の長手方向の両端には、側壁から熔融ガラスMGがはみ出るのを妨げるガイドが取り付けられている。このガイドは、平面視で楔形をしており、成形体10の端面全体をカバーできる大きさの板材で作られている。鉛直方向に関して、ガイドの先端の位置は、成形体10の下端に一致している。ガイドの働きにより、熔融ガラスMGの全部を側壁に沿って流すことが可能である。溝12から溢れ出た熔融ガラスMGは、成形体10の両側面13a、両傾斜面13bを流れて、下端11で融合してガラス板Gが成形されるが、熔融ガラスMGはガイドによりせき止められるため、ガイド付近、つまり、成形体10の長手方向の両端部には熔融ガラスMGが溜まる。このため、成形体10の下端11で融合したガラス板Gの幅方向の端部G1は、
図4に示すように、球根状で厚みのある形状となる。ガラス板Gの幅方向とは、熔融ガラスMGの表面あるいはガラス板Gの表面の面内における方向のうち、搬送される搬送方向に直交する方向をいう。ここで端部G1とは、ガラス板Gの幅方向中央の板厚に対して所定の厚みを有する部分をいう。また、端部G1で挟まれた幅方向の領域を中央領域G2という。中央領域G2は、端部G1と比較して薄く、保有熱量が小さいため、温度ムラ等によって保有熱量が変化しやすく、反り、歪みが生じやすい。このため、中央領域G2の冷却量を厳密に管理する必要がある。本発明では、成形体10の下端11で融合する熔融ガラスMG、ガラス板Gの温度、粘度の精度を高めることにより、ガラス板Gの凹凸、脈理を抑制する。以下では、成形体10の下端11で融合する前のガラスを熔融ガラスMGといい、下端11で融合した後のガラスをガラス板Gという。
【0020】
仕切り部材20は、成形体10の下端11の近傍に配置される板状の断熱材である。仕切り部材20は、その下端の高さ方向の位置が、成形体10の下端11の高さ方向の位置から下方に位置するように、配置されている。仕切り部材20は、
図2に示すように、ガラス板Gの厚み方向両側に配置される。仕切り部材20は、成形体収容部410と成形ゾーン42aとを仕切ることにより、成形体収容部410から成形ゾーン42aへの熱移動を抑制する。断熱材である仕切り部材20により、成形体収容部410と成形ゾーン42aとを仕切るのは、成形体収容部410と成形ゾーン42aとの各々において、空間内の温度について両空間が互いに影響しあわないように温度制御を行うためである。また、仕切り部材20は、徐冷ゾーン420から成形体収容部410に入る気流の体積流量を抑制するように、ガラス板Gと仕切り部材20との間の間隔があらかじめ調節されて配置されている。
【0021】
冷却ローラ30は、成形ゾーン42aにおいて、仕切り部材20の近傍に配置される。また、冷却ローラ30は、ガラス板Gの厚み方向両側に配置され、ガラス板Gを厚さ方向に挟み、ガラス板Gを下方に搬送しながらガラス板Gの端部G1を冷却する役割を担う。成形体10の側面13a、傾斜面13bに沿って流下した熔融ガラスMGは、成形体10の下端11を離れると同時に、表面張力によりガラス板Gが幅方向に収縮する。この収縮により、ガラス板Gには、歪み、板厚偏差、凹凸が生じる。冷却ローラ30は、幅方向に収縮するガラス板Gの端部G1、端部G1に隣接する中央領域G2を挟み込むことにより、ガラス板Gが幅方向へ収縮することを防ぎながら、ガラス板Gを冷却する。これにより、ガラス板Gの幅方向への収縮を抑制し、ガラス板Gに生じる歪み、板厚偏差、凹凸を抑制する。しかし、下端11でのガラス板Gの粘性が高く、ガラス板Gの収縮率が大きいと、冷却ローラ30により歪み、板厚偏差、凹凸を抑制することができない場合があった。このため、成形体10の下端11における熱管理の精度を高める必要がある。
【0022】
断熱部材40a,40b,・・・,40hは、徐冷ゾーン420において、ガラス板Gの搬送方向(鉛直方向下方)に対して、徐冷ゾーン420を複数の徐冷空間42b,42c,・・・,42hに分割し、分割した各徐冷空間の熱移動を抑制する。また、断熱部材40a,40b,・・・,40hは、冷却ローラ30の下方、かつ、ガラス板Gの厚み方向両側に配置される板状の部材であり、ガラス板Gを搬送方向へ導くスリット状の空間を有する。上述したように、成形ゾーン42aと徐冷ゾーン420とは、耐火材及び/又は断熱材建物(図示せず)によって囲まれているが、徐冷ゾーン420には、ガラス板Gが搬出されるスリット状の空間があり、また、断熱材建物等には一部隙間がある。このため、煙突効果によって、徐冷ゾーン420において、鉛直方向下方から成形ゾーン42aに向かう上昇気流が発生する。この気流はガラス板Gに沿って上昇し、気流によってガラス板Gが冷却されるため、この気流を抑制する断熱部材40a,40b,・・・,40hが必要となる。例えば、
図2に示すように、断熱部材40aは、成形ゾーン42aと徐冷空間42bとを形成し、断熱部材40bは、徐冷空間42bと徐冷空間42cとを形成する。断熱部材40a,40b,・・・,40hは、上下の空間の間における熱移動を抑制する。例えば、断熱部材40aは、成形ゾーン42aと徐冷空間42bとの間の熱移動及び上昇気流を抑制し、断熱部材40bは、徐冷空間42bと徐冷空間42cとの間の熱移動及び上昇気流を抑制する。
【0023】
各断熱部材40a,40b,・・・,40hは、複数の断熱板41が組み合わされて、ガラス板Gに対向する位置に近接配置される。
図5は、ガラス板Gを挟む断熱部材40を平面視した場合の概略図である。本実施形態では、断熱部材40は、同図に示すように、ガラス板Gに対向する位置に配置され、複数の断熱板41がガラス板Gの幅方向に連結されて形成される。ガラス板Gと断熱部材40(断熱板41)との間には隙間があり、この隙間(ガラス板Gと断熱板41との距離)を変化させることにより、ガラス板Gを所望の温度にすることができ、ガラス板Gに発生する歪みを抑制することができる。しかし、徐冷ゾーン420に搬送されたガラス板Gに一定量以上の歪み、凹凸が存在する場合、ガラス板Gと断熱部材40との距離を変化させただけでは、徐冷ゾーン420を経て成形されるガラス板Gに発生する脈理による変化量(歪量)が要求スペックを満たさない場合があった。このため、ガラス板Gが徐冷ゾーン420に搬送される前段階において、ガラス板Gの変化量(歪量)を一定以下にする必要がある。
【0024】
送りローラ50a,50b,・・・,50hは、徐冷ゾーン420において、鉛直方向に所定間隔で、ガラス板Gの厚み方向両側に複数配置される。送りローラ50a,50b,・・・,50gは、それぞれ、徐冷空間42b,42c,・・・,42hに配置され、ガラス板Gを下方に搬送する。
【0025】
温度制御ユニット60a,60b,・・・,60hは、例えば、抵抗加熱、誘電加熱、マイクロ波加熱によって発熱するシーズヒータ、カートリッジヒータ、セラミックヒータ、及び、温度センサ等から構成され、それぞれ、成形ゾーン42a及び徐冷空間42b,42c,・・・,42hにガラス板Gの幅方向に沿って配置され、成形ゾーン42a及び徐冷空間42b,42c,・・・,42hの雰囲気温度を測定し、制御する。また、温度制御ユニット60a,60b,・・・,60hは、ガラス板Gの反り、歪みが生じないように設計された所定の温度分布(以下、「温度プロファイル」という)を形成するように、成形ゾーン42a及び徐冷空間42b,42c,・・・,42hの雰囲気温度を制御する。所定の温度プロファイルによりガラス板Gを冷却することにより、歪みの発生を抑制することができるが、徐冷ゾーン420(徐冷空間42b)にガラス板Gが搬送された段階で、一定量以上の歪み、凹凸がすでに発生している場合、その歪み、凹凸が残った状態で、ガラス板Gが成形されてしまう場合がある。このため、徐冷ゾーン420で冷却するより前の段階、例えば、歪点665℃より上流側の温度領域において、ガラス板Gの温度を厳密に管理し、歪みによる歪量を予め低減しておき、徐冷ゾーン420を経て成形されるガラス板Gの脈理を抑制する。以下では、温度制御ユニット60a,60b,・・・,60hを総称する場合、温度制御ユニット60と記載する。なお、上流側とは、ガラス板Gの搬送方向と逆方向の側をいい、本実施形態では、徐冷ゾーン420からみて成形体10の側をいう。
【0026】
検出装置70は、脈理を検出する部分であり、歪あるいはガラス板Gの表面の凹凸をガラス板Gの幅方向に沿った各位置で検出する。検出装置70は、例えば、光学センサ、歪検知器から構成され、徐冷ゾーン420(徐冷空間42h)から搬送されてきたガラス板Gに発生した歪みの位置、及び、歪量(歪値、歪度)を検出する。検出装置70は、例えば、ガラス板Gの幅方向の左先端(左端部G1)から、X1mm〜X2mmの位置に、Y量の歪みがあると検出する。特に、検出装置70は、所定の幅(例えば、10mm幅)において、ガラス板Gに厚み(高さ)変動がある脈理を検出する。すなわち。検出装置70は、ガラス板Gの歪あるいは表面凹凸を検出して、歪みの変化量あるいは表面凹凸の量を計測する。ガラス板Gの板厚は、ガラス板Gの両側の表面凹凸により定まるものであるため、表面凹凸には、ガラス板Gの板厚の変動が含まれる。また、検出装置70は、検出した歪の変化量あるいは表面凹凸の量が基準量以上であるか否かを判定し、この量が基準量以上となった位置を脈理が発生した位置と判定する。脈理は、熔融ガラスMGが成形体の下端11を離れると同時に、表面張力によりガラス板Gの幅方向に収縮することにより、ガラス板Gの表面凹凸が発生し、この凹凸が徐冷ゾーン420において抑制されずに残ったことにより生じる歪みである。脈理は、ガラス板Gの収縮が原因であるため、ガラスGの搬送方向に沿って筋状に連続して発生する。また、ガラス板Gの成形時に異質なガラス成分が入り込み、異質なガラス成分が入り込んだガラス板Gの一部の保有熱量が他の部分と異なるために、保有熱量が異なる部分が脈理となる。この脈理を抑制するためには、ガラス板Gにおいて凹凸が発生した幅方向の位置のみの温度(保有熱量)を制御する必要があるが、徐冷ゾーン420の雰囲気温度を制御する温度制御ユニット60では、筋状の部分のみの温度を制御することが困難であり、温度プロファイルを実現することができない場合がある。このため、検出装置70が検出した脈理の位置、及び、脈理による変化量(歪量)に基づいて、磁性管80の位置を調整することにより、ガラス板Gの一部の温度のみを制御し、以降に成形するガラス板Gの脈理を抑制する。脈理による変化量には、歪の変化量の他に、ガラス基板Gの表面凹凸の量も含まれる。
【0027】
磁性管80は、磁性体の金属材料から構成され、電源装置(図示せず)に接続され、電源装置から誘導コイルに交流電流が流れると、磁界強度が変化して、磁性管に渦電流が発生する。この渦電流が磁性管80を流れることによりジュール熱が発生し、磁性管80が発熱する。磁性管80は、耐熱性、耐浸食性に優れ、仕切り部材20より上流(上方)側の位置で、高温となる成形体10の下端11に対向する位置に設けられ、稼働機構(図示せず)によって、ガラス板Gの厚さ方向、及び、幅方向に移動可能になっている。磁性管80を熔融ガラスMG(ガラス板G)に近づけたり離したりすることにより、磁性管80から熔融ガラスMGに伝わる熱量を調整して、ガラス板Gに発生する歪み、凹凸を抑制する。また、複数の磁性管80をガラス板Gの幅方向に並べて設けることにより、ガラス板Gの幅方向における熱量を調整して、ガラス板Gに発生する歪み、凹凸を抑制する。また、磁性管80は、温度制御ユニット60からの熱輻射を遮ることにより、ガラス板Gに与えられる熱量を抑制し、ガラス板Gの保有熱量を制御する。
磁性管80は、歪みの発生を抑制できる歪点より上流側(上方の空間側)、例えば、成形体10の下端11に対向する位置、成形ゾーン42a及び徐冷ゾーン420(徐冷空間42b,42c,・・・,42h)の位置に適宜設けることができる。磁性管80における管の直径、管の長さ、管の形状、管の本数は、ガラス板Gに発生する歪みの位置、及び、歪量に基づいて、適宜変更できる。また、磁性管80は、熔融ガラスMG(ガラス板G)を加熱又は冷却して、熔融ガラスMGの温度、粘度を変えることができればよいため、磁性管80に代えて、棒状あるいは板状の、ヒータ、発熱部材、冷却部材、あるいは熱量変化部材であってもよい。また、磁性管80に代えて、熔融ガラスMGに与えられる熱量を抑制する断熱板、熱遮蔽板であってもよい。
【0028】
次に、ガラス板Gの幅方向で保有熱量を均一にすることにより、脈理(歪み)を抑制する方法について説明する。
まず、一般的なオーバーフローダウンドロー法によって、ガラス板Gを成形及び徐冷する。ガラス板Gを成形及び徐冷する方法は、例えば、特開2008―88005号公報に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。ガラス板Gは、歪が生じないように設計された温度プロファイルで制御された成形ゾーン42a及び徐冷ゾーン420(徐冷空間42b,42c,・・・,42h)を経て成形されるが、成形体の下端11を離れると同時に、表面張力によりガラス板Gが幅方向に収縮することにより、ガラス板Gには歪み、板厚偏差、凹凸が生じる。成形体10の下端11を離れる際に生じたガラス板Gの歪み、凹凸は、冷却ローラ30でガラス板Gの端部G1及び/又は端部G1に隣接する中央領域G2を挟み込むことにより抑制される。また、徐冷ゾーン420において、所定の温度プロファイルによりガラス板Gを冷却することにより、歪み等(凹凸を含む)が抑制される。しかし、成形体10の下端11で生じた歪み等が一定以上である場合には、除去しきれない場合がある。このため、歪み等が発生した位置、及び、歪量(歪値、歪度)を検出し、あるいは、凹凸の量を検出し、以後に形成するガラス板Gに脈理(歪み)が生じないように、成形体10の下端11近傍において熱管理を行い、ガラス板Gが幅方向に収縮することを抑制し、徐冷ゾーン420を経て形成されるガラス板Gに脈理(歪み)が生じないようにする。ここで、成形体10の下端11近傍とは、下端11の位置から例えば50cmの範囲内を意味する。
【0029】
次に、検出装置70は、徐冷ゾーン420(徐冷空間42h)から搬送されてきたガラス板Gの脈理の幅方向の位置及び脈理による変化量を検出する。
図6は、ガラス板Gの脈理GSの幅方向の位置を示した図である。同図に示すように、検出装置70は、搬送されるガラス板Gにおいて、左端部からの位置X1〜X2の間に、脈理GSを検出する。さらに、検出装置70は、検出した脈理GSによる変化量を検出する。具体的には、検出装置70は判定装置としても機能し、検出した変化量が基準量以上であるか否かを判定し、この変化量が基準量以上となった位置を脈理が発生した位置と判定する。ここで、基準量は、ガラス板Gの要求スペックによって変化するものであり、任意である。検出装置70は、上記変化量が基準量以上である場合には、検出した位置X1〜X2にある脈理GSを、変化量が基準量未満となるよう抑制すべき脈理であると判定する。ガラス板Gの搬送方向に筋状に連続して発生する脈理GSは、成形体10の下端11をガラス板G(熔融ガラスMG)が離れた際に、ガラス板Gが幅方向に収縮することにより発生した歪み(表面上の凹凸)が徐冷ゾーン420において除去できずに残ったものである。このため、成形体10の下端11で発生する歪み(表面上の凹凸)を抑制しない限り、位置X1〜X2に連続的に発生する。また、脈理GSによる変化量は、温度ムラをなくして雰囲気温度を均一にしない限り、基本的には一定である。このため、成形体10の下端11の位置において、ガラス板Gの温度を均一にした後、徐冷ゾーン420において所定の温度プロファイルを実現することにより、脈理GSを抑制することができる。温度制御ユニット60は雰囲気温度を制御できるが、脈理GSが発生した位置X1〜X2のみの温度を制御して、ガラス板Gの幅方向での保有熱量を均一にすることは困難である。このため、ガラス板Gと磁性管80との距離を制御することにより、ガラス板Gの保有熱量を均一にする。
【0030】
次に、成形装置400は、駆動機構を制御して、位置X1〜X2近傍の雰囲気温度が均一になるよう成形体10の下端11付近に設けられた磁性管80の位置を設定する。
図7(a)は、成形体10の下端11を拡大した断面概略図であり、
図7(b)は、
図7(a)における成形体10の下端11側から平面視した図である。本実施形態の磁性管80は、
図2に示すように、成形工程と、冷却工程(ガラス板Gを徐冷する工程)とを仕切る仕切り部材20よりガラス板Gの搬送方向の上流側(成形体10の位置する側)に設けられている。成形装置400は、検出装置70が検出した脈理GSの位置X1〜X2と同一の幅方向の位置に磁性管80を移動させ、熔融ガラスMGと磁性管80との距離をD1に設定する。磁性管80を用いて熔融ガラスMG及びガラス板Gを加熱することにより、ガラス板Gが下端11を離れた際に生じる収縮を抑制する。検出装置70が検出した位置X1〜X2に脈理GSが生じている場合、ガラス板G(熔融ガラスMG)が下端11を離れた際に、同一の位置X1〜X2に脈理GSがすでに生じている。このため、成形装置400は、同図に示すように、幅方向における位置X1〜X2に磁性管80を設けて、ガラス板G(熔融ガラスMG)を加熱することにより、ガラス板Gの粘性を変化させて収縮を抑制する。また、
図8は、熔融ガラスMGから磁性管80までの距離と変化量(歪量)との関係を示した図である。徐冷ゾーン420において除去できない歪み、凹凸が発生した幅方向の位置に磁性管80を設けていない場合(
図8中の「磁性管なし」)、検出装置70が検出する脈理GSによる変化量(歪量)が要求品質を満たさない。このため、成形装置400は、駆動機構を制御して、磁性管80を熔融ガラスMGに近づけるように移動させ、さらに、要求スペックを満たす距離D1になるよう熔融ガラスMGと磁性管80との距離を設定する。すなわち、ガラス板Gが要求スペックを満たすように、距離は、計測により得られた歪の変化量あるいは表面凹凸の量に応じて変化するよう制御される。同図に示すように、距離D1では、徐冷ゾーン420で徐冷されたガラス板Gの脈理GSは要求品質を満たす。脈理GSが発生した位置に対向する位置に設けられた磁性管80から熔融ガラスMGまでの距離を狭めると、熔融ガラスMGが磁性管80から受ける熱量が増加し、熔融ガラスMGの粘性が低下するため、下端11から離れるガラス板G(熔融ガラスMG)の粘度も低下する。下端11から離れたガラス板Gは、冷却ローラ30により端部G1が挟み込まれ、幅方向へ収縮するのを抑制されながら搬送されるが、粘度が低いガラス板Gは変形が容易であるため、冷却ローラ30により幅方向にガラス板Gが引っ張られることにより、収縮が抑制され、ガラス板Gに生じる脈理GSも抑制できる。徐冷ゾーン420に搬送されるガラス板Gの歪量を一定以下にすることにより、徐冷ゾーン420において所定の温度プロファイルで温度管理されたガラス板Gの変化量(歪量)が、要求スペックを満たすようになる。このため、磁性管80を設けた以降に成形されるガラス板Gの変化量(歪量)は、要求品質を満たすこととなる。なお、熔融ガラスMGから磁性管80までの距離と歪量との関係は、距離を徐々に変化させて、歪量を検出することにより求めてもよく、また、ガラス板Gの温度や粘度等とから、歪量をシミュレーションして求めてもよい。
【0031】
成形装置400は、検出装置70が検出した脈理GSの位置及び脈理GSによる変化量(歪量)に基づいて、磁性管80の位置の調整を繰り返すことにより、磁性管80の位置の調整後に成形するガラス板Gの脈理GSを抑制することができる。また、ガラス板Gに複数の脈理GSが存在する場合には、成形装置400は、複数の脈理GSが発生した位置に対応する幅方向の位置に、複数の磁性管80を移動させることにより、ガラス板Gの脈理GSを抑制することができる。
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、徐冷ゾーンにガラス板が搬送される前に、歪量、凹凸を一定以下に抑制することにより、成形したガラス板の脈理による変化量が要求スペック、すなわち要求条件、を満たすようにすることができる。また、要求スペックを満たさないガラス板に脈理が発生した場合であっても、その脈理が連続的に発生することを抑制することができる。また、ガラス板に発生する脈理の原因となるガラス板上の凹凸発生を抑制することもできる。
【0033】
(実施形態2)
次に、複数の磁性管80の設置位置を調整することにより、ガラス板Gの脈理を抑制する方法ついて説明する。なお、上述の実施形態と共通する構成については説明を省略する。
【0034】
図9は、本実施形態にかかる磁性管80を成形体10の下端側11から平面視した図である。磁性管80は、成形体10の下端側11近傍に、熔融ガラスMG(ガラス板G)に対向する位置に設けられる。検出装置70は、ガラス板Gに形成される凹凸の位置及びその凹凸の量を検出し、検出した凹凸の量が基準量以上である場合に、検出した凹凸の位置に脈理が発生したと判定する。同図における位置X3〜X5、及び、位置X6〜X7は、検出装置70により脈理があると判定された位置である。徐冷ゾーン420を経て成形されたガラスGの位置X3〜X5に脈理があり、位置X3〜X4において、位置X4〜X5より脈理の程度が大きい場合、成形装置400は、成形体10の下端側11近傍において、位置X3〜X5に対応する位置に、磁性管80を移動させ、さらに、磁性管80と熔融ガラスMGとの距離を、位置X3〜X4では距離D2、位置X4〜X5では距離D3になるように設置する。熔融ガラスMGに与える熱量を変化させる熱量変化部材として機能させる磁性管80の幅は、検出された脈理の幅に等しくなるように調整される。さらに、位置X3〜X4の歪量、凹凸は、位置X4〜X5の歪量、凹凸より大きいため、位置X3〜X4では、磁性管80の位置は位置X4〜X5に比べて熔融ガラスMGにより近く、距離D2<距離D3となるように設けられる。また、徐冷ゾーン420を経て成形されたガラスGの脈理の位置X3〜X5とは異なる面において、位置X6〜X7に脈理が成形された場合、成形装置400は、脈理が成形された面側で、成形体10の下端側11近傍において、位置X6〜X7に対応する位置に、磁性管80を移動させ、さらに、磁性管80と熔融ガラスMGとの距離をD4になるように設置する。脈理の幅が広い(位置X3〜X5までの距離が長い)場合、位置X3〜X5までの距離と同距離になるように、複数の磁性管80が、熔融ガラスMGの幅方向に並べて配置される。これにより、複数の磁性管80が配置された以降に成形されるガラス板Gの脈理を低減することができる。また、一か所に発生した脈理において変化量が異なる場合、磁性管80と熔融ガラスMGとの距離を、磁性管80ごとに変化させて、距離D2、D3とすることで、変化量に対応した脈理低減を行うことができる。成形装置400は、成形体10の下端側11近傍において、検出装置70が検出した脈理の位置に対応する幅方向の位置に磁性管80を設け、また、検出装置70が検出した変化量に基づいて、磁性管80と熔融ガラスMGとの距離を定めることにより、脈理が発生した位置、変化量に応じた歪み低減を行うことができる。
さらに、熔融ガラスMGに与える熱量を変化させる熱量変化部材として機能させる磁性管80の幅は、検出された脈理の幅に等しくなるように調整されることが好ましい。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、ガラス板の脈理が発生した位置及び変化量に対応して磁性管を設けることができるため、ガラス板の脈理を適切に抑制することができる。また、磁性管の設置位置、磁性管と熔融ガラスとの距離を任意に設定できるため、要求スペックを満たさないガラス板に脈理が発生した場合であっても、その脈理を抑制することができる。
【0036】
以上、本発明のガラス板の製造方法及びガラス板の製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。