(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の方法であって、前記工程(a)−(c)に続いて行う工程をさらに含み、当該工程においては、前記健康機能的変動パターンと前記検査機能的変動パターンとにおいて、それらの変動の期間、単位時間当たりの変動数、及び/又は変動期間の可変性を比較する、方法。
請求項1に記載の方法であって、前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量の前記健康機能的変動パターンは、一時間あたり6から7分の変動期間及び一時間当たり8.5から10の変動を含む、方法。
請求項12に記載の方法であって、前記工程(x)−(z)に続いて行う工程をさらに含み、当該工程においては、前記不健康機能的変動パターンと前記検査機能的変動パターンとにおいて、それらの変動の期間、単位時間当たりの変動数、及び/又は変動期間の可変性を比較する、方法。
請求項18に記載の方法であって、前記第二の工程に続いて行う第三の工程をさらに含み、当該第三の工程においては、前記個体の前記機能的変動パターンと、健康な状態の及び/又は感染した状態の参照母集団の機能的変動パターンを平均したものと、を比較する、方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の及び他の特徴は、以下の詳細な説明、図面、及び添付の特許請求の範囲から、当該技術の分野における通常の知識を有する者により評価され、理解されるであろう。
【0013】
本開示は、新たに発見された呼気中における同位体の比率のデータの変動を、ヒトのような生物が「不健康な」状態であると認定するために使用することを述べたものである。変動パターンは、ヒトの呼気のデータにおいても認められるし、健康及び不健康な状態の内毒素血症のマウスのモデルにおいても認められている。健康な被験体の変動と、不健康な被験体の変動と、は標準的な分析方法により区別することができる。さらに、当該分野において知られている機械学習ツールを変動データに適用して、被験体の食餌の状況に関わらず健康な状態の被験体と不健康な状態の被験体の変動の差異を分類するのに当該ツールを用いることもできる。ここで用いられているように、不健康な、病気の、及び感染した、の全ての用語は、「健康」を欠く状態を指している。当該「健康」を欠く状態は、呼気中における同位体の比率の変動パターンの変化に反映される。ここで開示されている方法は、患者の状態及びその感染のタイプを特定するために、ポイント・オブ・ケア(Point Of Care;POC)テストとして外来患者診察室において使用することができる。さらに、同様のテストを動物に対して行うために、当該方法を動物病院においても使用することができる。ここに記載された方法は、安定した同位体を豊富に含む生物のテストにおいて役立つが、同位体を豊富に含んでいない個体においても当該方法を好適に遂行することができる。
【0014】
ここで用いられているように、個体という用語は、ヒト並びに全ての脊椎動物、とりわけ犬、猫及び馬のような哺乳類、及び鶏や七面鳥のような鳥を含む動物を指す。
【0015】
一つの実施形態においては、ここで開示される方法は、個体の病気の状態又は感染した状態のような不健康な状態を検出するのに用いられる。感染に対して戦うために、例えば、細菌に由来するものの場合には、高いエネルギーを供給するために迅速なタンパク質の分解が必要とされ、抗体の生産のために僅かな材料(例えば、アミノ酸)が必要とされ、そしてその他の抗感染症の反応が必要とされる。体組織の中に貯蓄されているタンパク質、脂肪、及び炭水化物の特定の同位体の比率は、代謝された食物の同位体の比率とは異なっている。そして、感染により異化状態が引き起こされた場合、身体は蓄積された組織の消費を始め、その結果、(蓄積された組織中における異なる比率に起因して)呼気中における比率(例えば、吐き出された
13CO
2の含有率)が変化する。同様に、病気の状態が異なると、タンパク質基質及び代謝が変化することとなる。さらに、同位体重量に応じて分子が異なる化学反応に寄与する「速動性同位体効果」も、病気や感染の影響を受ける。ここで示したように、同位体の比率の傾きの変化に加えて、傾きよりも短い時間のスケールにおいて検出される同位体の比率の固有の変動パターンにおいても変化が見られる。好適には、例えば異なる病気や感染により、同位体の変動パターンが異なるモードで変更される。そのため、同位体の変動パターンの変化に基づいて、一般的な診断のメカニズムが可能となっている。
【0016】
感染しているとき又は病気の状態の急性期においては、呼気において測定される軽い同位体に対する重い同位体の比率は、より低くなる。これは、呼気中における軽い同位体の相対的な量は増加し、重い同位体の量は減少することを意味する。重い同位体の相対的な量がこのように変化することは、速動性同位体効果に起因する。アミノ酸のような分子は、エネルギー源としても、タンパク質合成の材料としても、用いることができる。感染している時又は病気の急性期の時は、エネルギー源として最も使われ、CO
2に変換されるのは、
13Cを含有しない分子である。そのため、感染している時又は病気の急性期の時は、呼気には
12Cが豊富に含まれるようになる。
13Cを含む分子は身体の中に留まり、抗体その他の病気の急性期に必要となるタンパク質のような、新しいタンパク質を合成するのに用いられる。この変化は、タンパク質の合成(
13C分子)に対し、体組織を「エネルギー源」(
12C分子)として使用することの方が増大することを直接的に反映しているものと考えられる。病気ではない時又は病気の急性期に対しての応答が開始された時は、呼気中のCO
2は身体内の同位体の比率と似た同位体の比率となる。
【0017】
例えば、細菌に感染している時、侵襲に対する(急性の、先天性の免疫システムを含む)免疫反応は、感染から最初の1時間以内に異化サイトカインが突然開放されることに特徴付けられる。これらのサイトカインは、腫瘍壊死因子(TNF)、並びにインターロイキン(IL)1及び6から成る。これらの3つのサイトカインにより、例えばアミノ酸のような身体の栄養素の迅速な再分配がもたらされる。例えば、TNF及びIL−1により骨格筋の分解が引き起こされ、それにより免疫性及び炎症性の急性タンパク質を作るのに用いられる又はエネルギー源として用いられるアミノ酸が放出される。エネルギー源として燃焼されるのに対して、あるいはタンパク質合成に際して、アミノ酸が流れるのに従って、炭素同位体の分解が生じる。
【0018】
ウイルス感染の場合にも、炭素の分解が引き起こされて、呼気中の炭素デルタ値が小さくなるが、細菌感染の初期と比べて、ウイルス感染の初期に関連するサイトカインは、異なるサイトカイン、具体的にはインターフェロンの放出を引き起こす。ウイルス感染に関連する炭素の分解は、例えばウイルスの繁殖期に関連するような複数の異なるパターンをもたらす。
【0019】
細菌による攻撃が開始してから2時間以内においては、同位体の比率の量の明確な変化があり、それに続いて、攻撃を受けた個体の場合とは異なるとはいえ、比較的安定した比率が長時間続く期間があることが以前から示されてきた。これとは対照的に、ウイルスにより攻撃された宿主は、一連の周期的な変化を示すが、この変化は著しく後になってから開始される(例えば、2−3日後)。また、細菌感染の場合には、呼気は、ウイルス感染の場合と比べて、より速い速度で「より軽く」なる。したがって、ウイルスのライフサイクルを示す比率パターンの変化の速度より、或いは繰り返し表れるスパイクの存在・不存在により、感染菌のタイプを知ることができる。
【0020】
感染の場合に観察できたのと同様に、外傷、火傷及び手術を受けた場合にも、それが被験体の病気/健康の状態に影響し、とりわけ病気の急性期に影響し、そしてそれにより同位体の比率の量に明確な変化が見られる。タンパク質の代謝の変化は、病気の急性期においてより大きくなるため、同位体の比率の量の変化、及び変動の変化は、病気の急性期においてより際立ったものとなるはずである。
【0021】
よって、呼気の同位体の比率の経時変化を利用して、個体の健康/不健康状態を判定することができる。しかしながら、ヒトに関しては、患者の年に1度の定期健診において、又は患者が医療施設にいるものの病気の兆候については訴えていないような場合において、ベースラインを読み取っておくことが可能である。或いはこれに代えて、患者が最初に感染又は病気のタイプの兆候(例えば、発熱)を訴えたときに、最初の読み取りを行うものとすることもできる。他の態様においては、個体から取ったデータを、同種の個体の集団から取った平均データと対比することもできる。
【0022】
呼気の同位体の比率には、健康な個体においても不健康な個体においても変動現象が見られ、そして健康な個体であるか病気の個体であるかによって変動現象が異なることを、本発明の発明者が思いもよらず発見した。これらの変動は、同位体の比率の経時変化の下り坂において重畳される。このように、呼気の同位体の比率の変動を測定することにより、比率の変化の傾きに関わらず、個体の異化状態/健康の兆候を取得することができる。同位体の比率の変動数を測定することは、単に呼気の同位体の比率をモニタリングするのとははっきりと異なる。同位体の比率の変動数の変化を測定することは、好適には、個体が健康な状態から不健康な状態へと推移しているかどうか、個体が不健康な状態であるかどうか、そして個体が不健康な状態から健康な状態へと推移しているかどうか、を判定するのに用いられる。好適には、個体の不健康な状態は、当該個体の健康な状態の同位体の比率変動数パターンを知っていなくても、判定することができる。変動現象を用いることの利点は、生物の状態を、傾きを決定するのに必要な時間よりも短い時間(例えば、傾きを決定するのには2時間必要なのに対し、35分で済む)で判定することができる点にある。変動現象を用いることのもう一つの利点は、生物が消費した食餌が健康状態の検出を妨げることにはならず、健康状態が固定の状態であれば食餌状態に関する手がかりも見つけることができる点にある。
【0023】
ここで開示される方法においては、個体から時間を経て採取された呼気が、第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の経時的な変化を測定するのに用いられる。ここで、第一の及び第二の同位体は、例えば、
13Cと
12Cの対であるが、これに代えて
15Nと
14Nの対、又は
17Oと
16Oの対、又は硫黄同位体の対(例えば、
32Sと
34S、若しくは
33Sと
36S)とすることもできる。
【0024】
一つの実施形態においては、相対的な同位体の測定はキャビティリングダウン分光法を用いて行われる。具体的な実施形態においては、測定は、短い間隔(例えば、1秒ごと)で集めた試料を用いて、分光計により測定され、それにより変動現象が判定される。装置の例としては、Picarro社製のG2101−i同位体CO
2分析装置が挙げられる。一つの実施形態においては、全期間(t
total)にわたって第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量を測定することには、絶え間なく連続的に測定することのほか、離散した時点(t
p)において測定することや、全期間(t
total)のうちの離散した期間(t
i)だけ測定することも、含まれる。離散した期間は、健康な状態の期間(t
healthy)であってもよく、不健康な状態の期間(t
unhealthy)であってもよく、又は不明の若しくは検査可能な期間(t
test)であってもよい。一つの実施形態においては、測定の間の時点(t
p)は1秒であり、離散した期間(t
i)は1分から1時間である。
【0025】
一つの実施形態においては、個体が健康な状態から不健康な状態へと推移しているか否かを判定する方法であって、当該方法は、
前記個体から採取した呼気をモニタリングし、全期間t
totalにわたってそれの第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量を測定することであって、ここで前記個体は期間t
0−healthyの間健康な状態であり、t
0は期間t
totalの開始の時点であり、t
healthyは前記個体が健康な状態であるt
totalの間の時点である、ことと、
期間t
0−healthyの間におけるそれの前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量における健康で機能的な変動パターンを認定することと、
その中での前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量における検査機能的な変動パターンを、t
totalの中の検査期間t
testにおいて認定することであって、t
testはt
0−healthyと重ならない、ことと、
前記健康で機能的な変動パターンと前記検査機能的な変動パターンとが、変動の期間、単位時間あたりの変動数、及び/又は変動の期間の可変性において異なっている場合に、前記個体が健康な状態から不健康な状態へと推移していると判定することと、
を含み、
前記第一の及び第二の同位体は、
13Cと
12Cの対、
15Nと
14Nの対、
17Oと
16Oの対、及び硫黄同位体の対から成る群の中から選択され、
測定は、絶え間なく連続的に測定されるか、又は期間t
total内の離散した時点において測定される、
方法である。
【0026】
他の一つの実施形態においては、個体が不健康な状態から健康な状態へと推移しているか否かを判定する方法であって、当該方法は、
前記個体から採取した呼気をモニタリングし、全期間t
totalにわたってそれの第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量を測定することであって、ここで前記個体は期間t
0−unhealthyの間不健康な状態であり、t
0は期間t
totalの開始の時点であり、t
unhealthyは前記個体が不健康な状態であるt
totalの間の時点である、ことと、
期間t
0−unhealthyの間におけるそれの前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量における不健康で機能的な変動パターンを認定することと、
それの前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量における検査機能的な変動パターンを、t
totalの中の検査期間t
testにおいて認定することであって、t
testはt
0−unhealthyと重ならない、ことと、
前記不健康で機能的な変動パターンと前記検査機能的な変動パターンとが、変動の期間、単位時間あたりの変動数、及び/又は変動の期間の可変性において異なっている場合に、前記個体が不健康な状態から健康な状態へと推移していると判定することと、
を含み、
前記第一の及び第二の同位体は、
13Cと
12Cの対、
15Nと
14Nの対、
17Oと
16Oの対、及び硫黄同位体の対からなる群の中から選択され、
測定は、絶え間なく連続的に測定されるか、又は期間t
total内の離散した時点において測定される、
方法である。
【0027】
一つの実施形態においては、個体が不健康な状態から健康な状態へと推移しているか否か、又は健康な状態から不健康な状態へと推移しているか否かを判定する方法は、t
totalの中の時間t
xから時間t
yにかけての前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量の変化の変化を決定することにより、傾きを決定することを更に備える。
【0028】
呼気中の第二同位体に対する第一同位体の相対的な量の変動は、視覚による検査によって直ちに観察することができるものの、変動パターンは複雑である。例えば、一定のモードが「装置雑音」としてその変動数により直ちに確認できる。これが、高速連続測定の不確実性の結果である。Hilbert−Huang変換やフーリエ分析のような、データを平滑化し(Savitzky−Golayフィルター,次数=2)分析する数学的ツールを用いることにより、異なる機能的な変動パターンが分離され、変動数の性質が明らかにされる。
【0029】
データを分析/変換するのに用いられる方法が何であれ、健康な動物を特徴付けるのに用いられる機能的な変動パターンは、不健康な動物のものとは異なっている。生データを2次Savitzky−Golayにより平滑化して用い、Hilbert−Huang分析方法により変換し、フーリエ分析により分析した、同位体の比率の変動パターンの分離の信頼性の高いデータによれば、健康な患者は機能的な変動パターン(例えば、優位的変動)を示す。機能的な変動パターンとは、測定時間の間中ずっと存し、異なる健康な動物においても観察される、変動パターンである。健康で機能的な変動パターンが現われることは、個体の健康状態を定義するに際して特徴となるものである。このタイプの分析を用いて、呼気の同位体の比率が健康で機能的な変動パターンを示していることが明らかになった場合には、それが個体が健康であることを定義する証拠となる。そして、個体の健康で機能的な変動パターンが変化して(例えば、優位的変動が失われて)、不健康で機能的な変動パターンとなっている場合には、健康な状態から不健康な状態へと推移していることを示唆している。さらに、個体が病気から健康な状態へと推移する場合には、健康で機能的な変動パターンが取り戻される。質的に、Hilbert−Huangにより変換されて、フーリエにより分析された平滑化した生データから生じた機能的な変動パターンは、健康な個体においては、特定の変動数範囲において単一の優位的な変動の変動数を示す。一方、不健康な個体においては、変動数の優位性は損なわれ、多変動数を示し、変動数の変化が観察される。
【0030】
ここで用いられているように、「機能的な変動パターン」は、期間における第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の平滑化した生データに由来する変動を分析/変換したものであり、当該期間は、分析が、測定期間当たり少なくとも3回の変動周期を含むような、好ましくは測定期間当たり4回以上の変動周期を含むような、機能的な変動パターンを生じるものである。一つの実施形態においては、この分析の下においては、健康な個体は、典型的には6〜7分の変動の平均周期を示し、又は一時間当たり8.5〜10回の変動数を示す。不健康な個体における典型的な変動の平均周期は8〜9分に増加し、又は一時間当たりの変動数は6.5〜7.5回となる。これは、典型的な変動周期のうちの少なくとも10%の変化を反映している。さらに、不健康な個体の典型的な場合においては、健康な状態とは違って(例えば、10%の変化)、頻繁に付加的な変動モードが生じることにより、健康な個体と比較して、変動周期の不安定さが存する。平均変動周期が増大し、変動期間の可変性も増大するのは、不健康な個体の変動パターンの分裂に起因する。分析の方法に応じて、健康な個体は、変動パターン(パターン認識を経由して)、平均変動周期、一時間当たりの変動周期、又は変動期間の可変性の程度に基づいて、不健康な個体から区別される。ここで用いられているように、変動周期は、機能的なモードを定義する繰り返しパターンの一つの周期の時間であり、又は機能的なモードにおけるピークからピークまでの時間である。変動数とは、単位時間(例えば、1時間)当たりの変動の数である。期間における第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の生データには、変動周期も変動数も異なる複数の機能的な変動パターンが含まれることがある。そして、第一の、第二の、第三の、等の機能的な変動パターンは、個体の異化状態/健康の変化に応じて変化する。一つ又はそれ以上の優位の変動数に加えて、データには、個体の健康状態を判別するのに役立つ小さな一つ又はそれ以上の変動数が含まれることがある。
【0031】
つまり、機能的な変動パターンは、健康な個体を定義する、又は測定が開始される時点の時間の値t
ihealthyを定義するパターンである。時間t
unhealthyは、個体がt
healthyとは異なる状態である時間を表し、すなわち、個体の異化状態/健康に変化があったときの時間を表す。さらに、個体が感染した状態又は異化状態から健康な状態へと変化した場合、変更された機能的な変動パターンは、大体において第一の機能的な変動パターンの状態に戻る。
【0032】
一つの実施形態においては、第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の第一の機能的な変動パターンは、6〜12分の変動周期を有する低い変動数変動である。
【0033】
個体が健康な状態から不健康な状態へと推移しているか否かを判定する方法においては、第一の及び第二の同位体の相対的な量の2つの変化が測定される。まず、第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の機能的な変動パターンは、時間t
iから時間t
xの間においてその変動数及び/又は振幅が変化する。さらに、第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量は、t
0の時点における相対的な量から、t
xの時点における相対的な量へと、期間(t)内で変化する。これは、あらかじめ特定された不健康な状態へと推移するに際しての傾きの減少である。こうして、傾きの変化及び/又は機能的な変動パターンの変化により、健康な状態から不健康な状態への推移が判定される。ここで用いられているように、時間t
iから時間t
ixの間における変動数及び/又は変動周期の変化は、機能的変動パターンの変動周期が変化すること及び/又は時間t
iの時点では存在していなかったより多くの変動数を生産するように分離されることを意味する。一つの実施形態においては、不健康な状態の個体の機能的変動パターンの変動数及び/又は変動数の優位性の変化は、複数の優位の変動数を含む不規則な変動パターンを生じる。このような変化は、当該技術の分野において知られている数学的ツールにデータをかけることにより検出することができる。
【0034】
ここに開示される方法の一つの利点は、呼気の同位体のデータを、変化の傾きのみを測定していた先行技術の場合と比べて、より短い期間で採取できる点にある。一つの実施形態においては、期間tは、2時間未満、90分未満、1時間未満、45分未満、35分未満、20分未満、10分未満、から短くて5分程度である。データの収集は、変動パターンを確立するのに十分な期間のみ行われればよい。通常の条件下においては、ヒトやマウスのデータを収集する期間としては通常30分程度が適切な時間であるが、感染のステージ、装置の感度及び精度、比較するテンプレートとして用いる確立した先行データのレベル、及びその他の因子(例えば、感染の初期の段階においては、サンプリングの期間をより長くする必要がある)により、期間を短縮することができる。
【0035】
一つの実施形態においては、当該方法は更に、期間(t
total)にわたって第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の第二の機能的な変動パターンを認定することを備える。ここで、第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の第二の機能的な変動パターンは、期間(t)内の時間t
iから時間t
ixの間においてその変動数及び/又は優位性が変化する。
【0036】
具体的な実施形態においては、期間(t)にわたってその中における第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量の機能的な変動パターンを認定することには、期間(t)にわたってその中における第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量を分析して、有限のその中に深く刻み込まれた変動パターンを生産することが含まれ、それにより、深く刻み込まれた変動パターンの分析を行うことができる。この過程は、最も低い変動数を生データから抽出することから、刻み込まれた変動数が1時間あたり4〜15変動期間(周期)となるまで、変動数を継続的に抽出することにより行われる。データがHilbert−Haung法を用いて変換される場合、前記深く刻み込まれた変動数は固有モードとして定義される。機能的な変動パターンは、フーリエ分析を用いて固有モードから算出することができる。当該方法には更に、モード分析を用いて高変動数変動モード(例えば、1時間あたり15回よりも多いもの)を認定することと、期間(t)にわたってのその中での第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量から高変動数変動モードをフィルタリング(Golay Filter)することと、が付加的に含まれる。
【0037】
ここで用いられているように、修飾された機能的な変動パターンは、健康な状態又は不健康な状態の機能的な変動パターンから修飾され又は変化した時間間隔における変動パターンとして定義され、個体の健康状態の変化を示唆する。修飾されるということは、健康で機能的な変動パターンがその変動数及び/又は変動期間において変化することを意味する。すなわち、健康で機能的な変動パターンはより低い変動数へと変化し、又は単一の優位性の変動数が、個体が健康な状態のときには変動パターンに存在しなかった2つ又はそれ以上の変動期間における複数の変動数へと変化する。一つの実施形態においては、修飾された機能的な変動パターンは、複数の変動数を含む不規則な変動パターンである。
【0038】
一つの実施形態においては、健康で/不健康で機能的な変動パターンと、修飾された機能的な変動パターンとは、個体の食餌の影響を受けない。同位体の相対的な率及び基準測定は個体の食餌の影響を受け得るが、機能的な変動パターンは食餌とは無関係である。これは、データの理解に食餌が潜在的に影響する先行技術に係る方法とは異なった利点である。
【0039】
一つの実施形態においては、個体が健康な状態から不健康な状態へと推移した場合、健康で機能的な変動パターンの変動期間は10%よりも多く変化する。具体的な実施形態においては、個体が健康な状態から不健康な状態へと推移した場合、健康で機能的な変動パターンの変動期間は10%〜30%変化する。同様に、個体が不健康な状態から健康な状態へと推移した場合、不健康で機能的な変動パターンの変動期間は10%よりも多く変化する。具体的な実施形態においては、個体が不健康な状態から健康な状態へと推移した場合、不健康で機能的な変動パターンの変動期間は10%〜30%変化する。
【0040】
ここで開示される方法の独特の利点は、当該方法は、挿管した患者のような入院患者に対して連続的に行うことができる点にある。これは、敗血症を早期に発見するのにはとりわけ好都合である。
【0041】
ヒト以外の閉じ込められた生物に対しては、あるいはこのような生物の集団に対しては、継続的に定期的なモニタリングを行うことができる。これに代えて、同様のやり方を、アパートのビルの中のヒトの健康を総合的にモニタリングするのにも適用することができる。
【0042】
他の一つの実施形態においては、個体が不健康な状態であるか否かを判定する方法であって、当該方法は、
前記個体から採取した呼気をモニタリングし、期間(t
total)にわたってその中での第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量を測定することであって、当該第一の及び第二の同位体は、
13C及び
12Cの対、
15N及び
14Nの対、
17O及び
16Oの対、及び硫黄同位体の対から成る群の中から選択される、ことと、
前記期間(t
total)にわたってその中での前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的の量の機能的な変動パターンを認定することと、前記個体の前記機能的な変動パターンを、既知の健康な及び/又は不健康な参照母集団のものを平均した機能的な変動パターンと比較することと、
前記個体の変化の前記機能的な変動パターンが健康な及び/又は感染した参照母集団のものを平均した機能的な変動パターンとは変動数及び/又は振幅において異なっているときに、前記個体が不健康な状態であると判定することと、
を含む、方法である。
【0043】
理想的には、前記参照母集団は、各集団に少なくとも6の個体が含まれるように構成されるべきである(健康なnの個体(n>5)、そして不健康なnの個体(n>5))。検査個体と参照母集団との比較に用いるデータは、生データ及び/又は平滑化したデータ並びに分析したデータを含むものとすることができる。分析手法やパターン認識アルゴリズムを含む様々なツールが、検査データと参照母集団とを比較するのに用いられる。
【0044】
さらなる実施形態においては、個体の感染の深刻度を判定する方法であって、当該方法は、
前記個体から採取した呼気をモニタリングし、期間(t)にわたってその中での第二の同位体に対する第一の同位体の相対的な量を測定することであって、当該第一の及び第二の同位体は、
13C及び
12Cの対、
15N及び
14Nの対、
17O及び
16Oの対、及び硫黄同位体の対から成る群の中から選択される、ことと、
前記期間(t)にわたってその中での前記第二の同位体に対する前記第一の同位体の相対的な量の機能的な変動パターンを認定することと、
前記個体の前記機能的な変動パターンを、健康な及び/又は感染した参照母集団のものを平均した機能的な変動パターンと比較して、異なる点を特定することと、
を含む方法であって、
前記個体の前記機能的な変動パターンと、前記参照母集団のものを平均した機能的な変動パターンと、の差異の程度によって、感染の深刻度を判定する、
方法である。
【0045】
「差異の程度」は、パターン比較の方法によって決まる。コンピューターによる分析が定量的評価を許容する場合、差異の程度はp値(確率)に基づいて統計的に定義される。ここでは、同様の状態になる確率が低いほど、感染の深刻度が高い。「差異の程度」が量的に算出できない場合、深刻度は平均母集団を定義するのに用いられた反応の範囲の関数である。個体の検査結果が、既知の感染した集団の同様の深刻度の変動パターンの範囲と被れば被るほど、個体はその感染の深刻度に適合するのである。
【0046】
健康な状態と不健康な状態とを区別する2つの方法をここに例示するが、これに限定されるものではない。他の方法も、ここに記載した一般的なフレームワークを用いて当該技術の分野における公知のアルゴリズムを用いることにより、同じ方針で構築することができる。目的に応じて、モニタリングは基本的には感染前及び感染後で連続的に行われ(例えば、病院/手術の環境で)、モニタリングはイベント後においてのみ行うものとすることもできる(例えば、参照母集団との対比が可能な、そしてイベント後のデータに加えて、患者(例えば、体重の減少した患者)のためにあらかじめ(例えば、一ヶ月前に)収集したイベント前のデータも利用可能な、より広い病院の環境で)。これらの適用は主として、インプットを処理する方法ではなく生じるアウトプットにおいて異なっている。連続的なモニタリング(前/後の方法)を行える場合、連続的に状態を追跡することができ、そして「閾値」と比較することができる。「閾値」と交わった場合、それは、例えば健康な状態から病気への、「状態変化」を示唆している。すなわち、例えば約35分よりも長い時間にわたって連続的なデータの流れが利用可能な場合、連続的なアウトプットの流れ又は数字による指針(例えば、確率)が生産できる。一方、病院の環境では、アウトプットは関連する信頼値を伴う2つの値(例えば、病気vs健康)となる。すなわち、アウトプットは複合指数ではなく単一指数となる。患者自身の変化の範囲だけでなく、母集団の値も、健康な状態vs不健康な状態の「バンド」を定義する。いかなる時点においても、変動の現行モードは、「値のバンド」のどこかに存する。これらの値がどの程度このバンドの「健康の線」に近いところにあるか、又は「不健康の線」に近いところにあるかによって、健康な状態への又は病気の状態への推移の可能性が定義される。
【0047】
以下に続く実験データがこの出願の基礎となる。第一に、健康なヒトの個体から採取したデータにおいては、データを分解し分析した場合に、炭素同位体の比率に変動パターンが見られる(
図1)。この変動パターンは、CO
2濃度(
図2)及び機械騒音(
図3)とは無関係である。第二に、内毒血症のマウスのモデルを用いて、感染により如何に炭素同位体の比率の変動が変化するかが研究された(
図4)。マウスのモデルから採取した生データを、標準的なSavitzky−Golayフィルター(次数=2)を用いて正規化し平滑化すると、変動パターンは直線状ではないが、健康な個体と病気の個体との間で目視で判別ができることがわかった(
図5)。第三に、もう一つの分析方法(Hilbert−Haung変換)を用いることにより、正規化し平滑化したデータを、分析に用いることができるような目視で提供される刻み込まれた変動パターンに分解することができることが示される(
図6)。第四に、分解した変動データをフーリエ分析することにより、感染した動物と感染していない動物とを区別することができる可能性が示される(
図7)。第五に、既知の健康な集団及び感染した集団の参照母集団と、個々の変動データと、を比較する差異分析方法を用いることにより、個体の健康状態を判定できるだけではなく、例えば食餌のような呼気の同位体の比率を変化させることで知られる環境因子によっては健康なマウスと感染したマウスとを区別することを妨げられないこととなる。
【0048】
本発明について、以下の例によって更に説明するが、本発明はこの例に限定されるものではない。
[例]
[実験プロトコル]
【0049】
マウスを使った研究:マウスを菌体内毒素(LPS)に感染させて、Picarro製のG2101−i同位体CO
2分析器を用いて、キャビティリングダウン分光法により呼気中における安定同位体の比率の変化をモニタリングし、毎秒ごとにサンプリングした。内毒素はグラム陰性細菌の細胞壁の糖脂質成分であり、感染の特質である急性期反応として知られる強い炎症反応を誘発する。
【0050】
生後8週間の雄のBALB/cマウスを12時間にわたって明暗サイクルに保ち、その間任意に食餌及び水を採れるようにした。マウスは無作為に、リポ多糖(LPS)が低いグループ(1mg/kg)、リポ多糖の高いグループ(5mg/kg)、又は擬似(下剤用塩類)注射のグループの3つのグループのうちの一つに割り当てられた。マウスは、午前9時45分に代謝チャンバーの中に連続的に配置された(一日につき一回)。チャンバーの中を通る空気の速度は、CO
2濃度が0.5%を超えないような速度に維持された。炭素のデルタ値(すなわち、
13CO
2/
12CO
2の比率)が、支流を介して、Picarro製のG2101−i同位体CO
2分析器を用いて連続的に(すなわち、毎秒約1データ点)測定された。午前11時45分に、マウスに、体重に対して1若しくは5mg/kgのリポ多糖を下剤用塩類に入れたものを、又は下剤用塩類だけを、腹腔内注射した。マウスは、各々の日の終わりに、午後3時45分にチャンバーから取り出された。
[実施例1:デルタ変動を示す健康なヒトの呼気]
【0051】
絶食した状態の健康なヒトに、封をしたマスクを着けた状態で机のところに静かに座っているように指示をした。当該マスクは、全てのフィルターを除去した産業的な揮発性有機化合物のマスクで構成され、1/4インチのポリエチレンのチューブによって当該マスクはiCO
2分析器に接続される。マスクから吐き出された空気は、CO
2が入っていない空気(ゼロエア)と混合されて、最終的なCO
2濃度はおよそ1000ppmとなった。各々の日に少なくとも1時間、測定値が収集された。(毎秒ごとの試料からの)連続的なデータが、Picarro製のG2101−i同位体CO
2分析器により得られた。データは、標準的なSavitzky−Golayフィルター(次数=2)を用いて平滑化された。
【0052】
変動を目視で観察できることを確かめるために、Hilbert Huang変換が行われ、刻み込まれた変動パターン(モード)は、他の刻み込まれた変動パターンを除去することにより判別された。第一の及び第二のモードは、長い変動期間(30〜60分)の変動の第一の及び第二の除去を表しており、ここでは用いなかった。これらのより長い周期のモードにおいては、今の装置からのデータに基づいて健康な状態と病気の状態との間で区別できる差異はみられなかった。さらに、長い変動期間を用いて繰り返される変動周期を収集することは、変動のパターンを評価するのに必要な時間を延長させたからである(換言すれば、長い変動パターンを用いても、現存する傾きの技術に対して、感染状態を検出するのに必要な期間を短縮することにはならなかった。)。第三の及び第四の除去されたモードは、重ね合わされ、変動の存否を視覚的に検査された。その結果を
図1に示してある。30分間(0.5時間)で収集した健康なヒトの呼気から得られた平滑化した変動データのHilbert−Huang変換したものにより生成されたモード3及び4を合わせたものが、示してある。モード3及び4は、一時間につき4〜15の変動を許容する変動期間を有するため、更なる分析のために選択された。すなわち、モード3及び4は、機能的な変動パターンである。この分析は、ヒトにおいてはデルタ値に変動パターンが見られることを示している。各々の実線の水平線は、「第一の鍵となる」ピークで始まり、以降の「第一の鍵となる」ピークまで続く。それぞれの一対の鍵となるピークの間には、2つの「マーカー」となるピークが存する。3つのピークの組が、繰り返される特徴(又はパターン)を形成している。このピークからピークまでの時間が一つの変動期間である。物理的なY軸は、大体においてデルタ同位体の程度におよそ従っている。Hilbert−Huang変換の2つのモードを重ね合わせることにより作成されるため、プロットはスケールフリーである。
【0053】
観察された変動は、変動的な振る舞いを示す装置、バックグラウンド、実験のセットアップ、又はヒト(及びマウス)のCO
2生産の、いずれかによって作り出された結果である可能性があった。我々は、CO
2の量とデルタ値との相関関係を試験した(
図2)。ここに示されているように、相関関係は実際上ゼロであり、このことは、CO
2の変動とデルタ値の変動との間には実際上何の関係もないことを意味している。
【0054】
バックグラウンド(生物のいないチャンバー)及び部屋のデータからデータが収集された。当該データは、小さな変動(0.5ppmよりも少ない)を示した。この小さな変動は、変動パターンとは一致せず、またその振幅は著しくより小さかった(
図3)。
【0055】
これらを考慮すると、当該データは、1)ヒトにおいてはデルタ値の変動が存することと、2)この変動は器具類やCO
2によってもたらされた結果ではないこと、を表している。
[実施例2:LPS処理後を変化させるデルタ変動を示すマウスの呼気]
【0056】
連続して取得されたデータは、まずあらかじめ収集されたデータと比較され、それにより、LPS処理をすると低下した(より正になった)炭素同位体デルタ値が保持されることが保証される。このステップは、より早いサンプリング及びデータ処理の方法のコントロールとしての役割を果たす。具体的には、LPS後の同位体の比率の下降傾向は、それ以前の機器の使用を通じて既に確立されているのである。本機器は、LPSを注射したマウスにおける同様の下降傾向を検出することを可能とするものである(
図4)。デルタ値を15分毎に測定する以前からある測定方法と比べて、
図4に示したデータは、デルタ値が1秒毎に測定される新しい同位体の発生モニターを用いて取られたものである。この図は、以前に観察された下降傾向は、新しい機器を用いた場合にも観察されることを表している。さらに重要なことには、この新しいデータは、呼気には、コントロールとLPSを注射したものとを区別するのに役立つ変動パターンが見受けられることを示唆している。データは、注射をした最初の時点を0時間として、およそ1時間にわたって取られている。
【0057】
図4からのデータは、次に、
図5に示すように、変動パターンが見受けられるか否か検討された。以下のデータ標準化のセクションに定義されるステップに従って、データの標準化が行われた。データ標準化の一つのとりわけの態様である平滑化処理により、データのバックグラウンドのノイズが低減される。全てのマウスについて、変動パターンか存するか否か目視によって検査された。上述の実験1に記載したように、LPS注射前及び注射後の全てのマウスにおいて変動パターンが見受けられた。
【0058】
標準化及び平滑化をした後に詳細図を目視で検査すると、複雑な変動が見受けられることがわかった。データは、図に示した全てのマウスについて、LPSを注射する前の15分の期間について取ったものであり、水平軸は「目盛り付きの時間」を示しており、垂直軸は同位体デルタ比を示している。
【0059】
このデータには、複数のモードが組み合わさったものと見受けられる複雑な変動パターンが含まれているため、これらのモードを分離するためにHilbert−Huang変換が適用された。分離されたモードにも、変動の存在が表れていた。具体的には、合計で7つのモードに分離されたが、そのうちの、一時間当たり4〜15の変動が存していた2つのモードを機能的な変動パターンとして選択して、フーリエ法による更なる分析に用いることとした。
図6は、6匹のマウスにおいて選択されたモードを示している。これらの2つのモードは、LPS前とLPS後とで著しく異なる態様を示した。分類のための標準的な計算アルゴリズムを用いることにより、これらの変動パターンを生物の状態(健康な状態、LPS、等)に従って分離することができる。
【0060】
図7は、健康なマウス及びLPSを注射したマウスにおいて、(正規化した変動データ)のHilbert−Huang変換により生成された、一時間当たり4〜15周期の変動数モードの「30分」の区分のフーリエ分析の結果である。X軸は正規化され、任意であり、単位時間当たりの変動の変動数は増大するスケールで増加する。Y軸は、スケールフリーのHilbert−Huangのy軸を変換したものである。健康なマウスのおおよその変動数は7分である。LPSを注射したマウスは、分離した変動数と、それに加えて10分ぐらいに現われるより低い変動数を有する。
【0061】
この分析によれば、健康な状態の生物には、多くの優位ではない変動数が見られると共に、少なくとも一つの機能的な変動数が見られる。上述のマウスの場合、マウスが健康な状態のときには、およそ7分のところで機能的な変動数が見られる。LPSによりかき乱された場合、7分のところの機能的な変動数は分離し、そしてより低い変動数、すなわち修正された変動数(例えば、10分)が現われる。これは、LPSを注射した後直ちに起こる動的平衡の崩壊が生じていることを強く指し示すものである。この分析によれば、それぞれの生物(表現型)はそれ自身のモデルを表し、観察されるデータにはそれ自身の「ノイズ」が含まれる。Hilbert−Huangは直線状ではなく、変動数を選択するものではない。そうではなく、モードを選択するものであり、フーリエ分析と組み合わせて用いれば、動物の健康状態の変化を検出するのに役立つ。
[実施例3:時系列による分類を用いた代替的な分析]
【0062】
次に、異なる方法を用いて、病気の生物と健康な状態の生物(食餌の変化を含む)が分析され、分類された。この代替的な方法を用いることにより、a)この変動データは、観察されたデータには自然の変動が含まれているものの、それにより病気の状態と健康な状態とをはっきりと区別することができることと、b)分析の方法はそれほど重要ではなく、当該技術の分野において知られているほかの方法を用いることもできること、が示唆された。変動が存在し、それは検出し得る態様で変化するという基本的な観察の結果が、より重要な点である。
【0063】
ここで確立したプロトコルは、一般的に時系列による分類のために作成されているアルゴリズムの収集に頼っている。時系列による分類は、様々な長さの時間的に構築されたデータをラベリングすることを目標にしている管理された学習方法である。多くの適用が時系列による分類の形にされる。例えば、医学診断においてECGグラフに指標付けを行うことは、同様の適用の一例である。プロトコルの一部においては、同様のコンセプトのアルゴリズムを用いる。しかしながら、全体的なプロトコルは、いくつかの特定用途向けの方法により異なっており、それらは我々の診断へのアプローチの性質に適合している。
【0064】
データ分析のためのプロトコルを確立するにあたっては、以下の診断の筋書きが考慮に入れられた。病気の患者や病気の生物のモニタリングは、いつでも開始することができる。モニタリングの開始時においては、対象となる動物又は患者は、健康な状態であっても、病気であってもよい。対象が病気の場合、一般的には、対象が病気となってからの期間の長さは明らかでない。目的は、短期間において対象からデータを収集して、その対象が病気であるか、健康な状態であるかを判定することである。この筋書きは、より長い期間にわたってデータを収集することや、長期にわたって連続的にモニタリングすることを、排除するものではない。短い期間は、診断のための閾値となる時間(最小の時間)を確立する。時間をより長くすると、診断検査の感度が向上する。
【0065】
同位体の比率に変動の傾向が存することを確立したことにより、異なる変動パターンの比率を特定し分類する分析手順が定められた。
【0066】
開示の明瞭性を保つために、データについての説明においては、機器からのデータは生データの形式で用いられることを暗黙の想定とする。データの変換の詳細に関する必要な記述は、アルゴリズムの説明のところに記載した。これらの変換は、前述のステップに記載した方法論や手順に影響を与えるものではない。マウスからの既存データは、次のラベル(D
l)による注釈付きの時系列の符号として表すことができる。
【0067】
【数1】
この符号では、Xは時系列(ベクトル)であり、iは生物の状態、例えば病気か健康な状態か、を示すラベルである。集合のラベルlは、生物の種々の状態を区別するのに用いられる代替的な集合のための指標を示すものとして用いられる。時系列ベクトルは、所定の期間よりも長い期間にわたって収集されて十分なサンプリング時間でサンプリングされた同位体の比率の値から成る。期間の例としては例えば35分が挙げられ、サンプリング時間の例としては例えば30秒に1度が挙げられる。最初の集合は、推定量fを構築するのに用いられる。関数fは、新しい時系列のベクトル(未来)が基準の集合と如何に異なるかを示すことにより、その新しい時系列のベクトルを評価する。具体的には、例えば、所定の長さの未来のデータの符号yが与えられると、推定量f(y)によって確率p(健康なものは、l−p)と共に病気の(又は健康な状態の)値を得ることができる。
図8は
図4と一致している。各々のシミュレーション実行について、30分の期間が無作為に選択された(擬似乱数の発生器を用いて)。
図8の黒い四角のセットは、この不作為の選択を具現した一つの例である(明瞭にするため、全ての四角は示していない。さもなければ、図は黒の四角で覆われることとなる。)
【0068】
一旦fが構築されたら、新しい時系列ベクトルyに基づく生物の状態の評価は明確である。すなわち、f(y)が確率pの状態を表す。f(y)が変化すると(例えば、確率pが閾値よりも低い値に低下すると)、生物において状態の変化が生じたということである。概念においては簡単であるが、当該アルゴリズムは実際上は一連の処理前のステップを利用する。これらのステップについては以下に説明した。
【0069】
[アルゴリズム1]
アルゴリズム:前処理データ(f(y)を算出すると共にfを知るために用いられる)
インプット:x;アウトプットx %xと同じサイズの新しいベクトル
xを平滑化する %生データにカーネル平滑化が適用される
xを変換する %xのスペクトル変換、例えば、フーリエ
xを同調させる %シグナルの位相が基準位相に調整される
【0070】
前処理データは、コンピューター計算の関数fを構築するための基礎となる。我々は、これを総称的にfと称する。とはいえ、構築により、その結果は、確率を取得するために複数の閾値における与えられたベクトルyにおけるfを評価する関数の階層化した集合である。
【0071】
[アルゴリズム]
アルゴリズム:fを知る
インプット:シグナルの集合とクラス{x,i};アウトプット:f
前処理の全データ{x}
D
lを集合させる
【0072】
【数2】
以下の最適化問題を解く(アルゴリズムについては以下を参照)
D[f]の最小化
【0073】
【数3】
fの定義として結果を保存する。
【0074】
図9は、2次元の平面に点を施した時系列の低いディメンションの投影図を示している。推定量fは、70個のプロッティングの時系列データを対象にする。確率は、別の不作為の長さのサンプリングしたデータを用いて、種々の推定量を用いて生成される。サンプリングは次のクロス確認のために維持された。
【0075】
決定関数は、あらゆる新しい時系列yを評価するためにfの構成を使用する。アウトプットは、それぞれの(2つの)状態について秤量値(確率)を割り当てる。連続的な測定においては、漸次的な状態変化を確認するために、現行の確率値を用いることができることを、言及しておく。
【0076】
[アルゴリズム]
アルゴリズム:yを決定する
インプット:y,f;アウトプット:p,i
p,I=f(y)を当てはめる;
【0077】
図10においては、異なる同位体の比率の2つの食餌を与えたマウスについて、実験が行われた。呼気の同位体変動パターンが測定された。示された問題解決のためにアルゴリズムを用いて、各食餌を与えたマウスからのデータを混合し、これらの健康なマウスと、内毒素を注射したマウスと、を判別できるか否か確認するために試験を行った。予測されたように、異なる食餌を与えられたマウスからの混合されたデータは、食餌の同位体量に関係なく増減したが(それぞれの食餌を与えられたマウスの健康な呼気の間の中間)、病気のマウスのデータとははっきりと区別することができた。これらのデータにより、呼気の同位体の変動パターンに基づいて個体の健康状態を判別するに際して、食餌は混乱させる因子とはならないことが立証された。
【0078】
「一つの」、「当該」、及び「前記」という用語や、それと同様のことについて言及しているもの(とりわけ、以下の特許請求の範囲の文脈において言及しているもの)を用いた場合には、ここにそうではないことを示唆した場合や文脈においてはっきりと否定した場合を除き、一つであることと複数であることとの両方を包含するもの解釈されるべきである。ここで使用される第一の、第二の、等という用語は、特定の順序付けを示すことを意図したものではなく、単に複数であることを便宜的に示すために、例えば、層が複数あることを示すために、使用したに過ぎない。「備える」、「有する」、「含む」、及び「包含する」の用語は、そうでないと言及している場合を除き、開放型の用語(すなわち、「含むが、これに限定されない」の意味)として解釈されるべきである。値の範囲を列挙した場合には、その範囲内に含まれるそれぞれの分離した値を個別に参照することを簡略化したものとして機能し、それぞれの分離した値は、ここに個々に列挙した場合と同様に、明細書の中に組み込まれる。全ての範囲の両端の点はその範囲の中に含まれ、それぞれ独立して組み合わせることができる。ここで説明される全ての方法は、ここでそうでないことが示唆されているか、文脈においてはっきりと否定されている場合を除き、適宜の順序で行うことができる。いくつかの又は全ての例を用いた場合、又は例示としての言葉(例えば、「・・・のような」)を用いた場合、それは本発明をより詳細に記載することを意図したものであり、そうではないことを特許請求の範囲に記載している場合を除き、本発明の範囲を制限することを意図したものではない。明細書に記載されている言語はいずれも、ここで用いられる発明の実行において本質的な、特許請求の範囲に挙げていない要素を示唆するものと解釈されるべきではない。
【0079】
例としての実施形態を参照しながら本発明について説明したが、本発明の範囲から逸脱することのない範囲で、当業者により、様々な変更を加えることができ、またそれらのうちの要素を同等のものに置換することも可能であると理解されるべきである。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱しない範囲で、本発明の教示に従って、とりわけの状況や材料に適合するように変更を加えることも可能である。そのため、本発明は、この発明を実行する上での最良の形態として熟考されたとりわけの開示された実施形態に限定されるのではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲内に包含される全ての実施形態を含むことを意図している。全てのあり得るバリエーションにおける上述の要素の組み合わせは、ここにそうでないことを示唆していたり、文脈においてはっきりと否定している場合を除き、本発明の中に包含される。