特許第6396277号(P6396277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396277
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】クリップ
(51)【国際特許分類】
   F16B 19/10 20060101AFI20180913BHJP
   F16B 5/06 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   F16B19/10 B
   F16B5/06 Q
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-230934(P2015-230934)
(22)【出願日】2015年11月26日
(65)【公開番号】特開2017-96449(P2017-96449A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 徹
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−137130(JP,A)
【文献】 特開2007−170460(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065320(WO,A1)
【文献】 特開2005−207598(JP,A)
【文献】 特開平05−149312(JP,A)
【文献】 特開2006−316830(JP,A)
【文献】 特開2002−130233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 19/10
F16B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材に第2部材を取り付けるクリップであって、
前記第1部材の貫通孔に挿入される胴部、及び前記胴部の軸線方向の一側に設けられ、かつ前記貫通孔に対して拡径された基部を有し、前記胴部及び前記基部を前記軸線方向に貫通するグロメット孔が形成されたグロメットと、
前記グロメット孔に挿入される軸部、及び前記軸部の前記軸線方向の一側に設けられ、かつ前記第2部材に取り付けられる頭部を有するピンとを備え、
前記グロメットの前記胴部は、前記軸線方向に延在し、前記貫通孔の周縁に弾性変形によって係合離脱する少なくとも2つの弾性片を有し、
前記グロメット孔内に挿入される前記軸部と前記胴部の前記弾性片とは、互いに協働して、前記胴部が前記貫通孔内に保持されるべき係合位置から、前記軸部が前記係合位置から前記胴部に対して前進した位置であって、前記胴部が前記貫通孔から解除されるべき解除位置に変位するべく構成され、
当該クリップが、前記基部と前記頭部との間に取り外し可能に配置され、前記基部及び前記頭部に当接することによって前記軸部の前記係合位置から前記解除位置への前進を禁止するスペーサを更に備えることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
前記胴部の中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値は、外力が加わっていない状態で前記貫通孔の半径以下であり、
前記弾性片は、内側に突出する爪を有し、
前記軸部は、前記係合位置において前記爪に係合して、前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値を前記貫通孔の半径よりも大きくさせるように外径が設定された係合凹部と、前記係合凹部よりも前記頭部側に設けられ、前記解除位置において前記爪を受容して、前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを許容するように外径が設定された解除凹部とを有することを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記軸部は、前記係合凹部よりも先端側に設けられ、前記係合位置よりも後退した取付前位置において前記爪を受容して、前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを許容するように外径が設定された取付前凹部を更に有することを特徴とする請求項2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記胴部の中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値は、外力が加わっていない状態で前記貫通孔の半径より大きく、
前記軸部は、前記係合位置において前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを規制するように外径が設定された係合凹部と、前記係合凹部よりも前記頭部側に設けられ、前記解除位置において前記弾性片の弾性変形によって前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを許容するように外径が設定された解除凹部とを有することを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項5】
前記スペーサは、前記軸部を挿通させるスペーサ貫通孔を有するとともに、前記スペーサ貫通孔の内周面と前記スペーサの外周面との間の一部に他の部分よりも強度の低い脆弱部が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項6】
前記スペーサは、前記軸部を挿通させるスペーサ貫通孔と、前記スペーサ貫通孔の内周面から前記スペーサの外周面に至るスペーサスリットとを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項7】
前記弾性片は、前記軸線方向に沿って前記胴部の先端から基端に至るスリットが前記胴部に設けられることにより形成され、
前記基部は、前記スリットに連通する前記軸線方向に沿ったガイド溝を前記グロメット孔の内周面に有し
前記軸部は、前記スリット及び前記ガイド溝を摺動する前記軸線方向に沿った突条を有し、
前記スペーサは、前記突条が通過可能なスペーサ溝を前記スペーサ貫通孔の内周面に有することを特徴とする請求項5又は6に記載のクリップ。
【請求項8】
前記スペーサは、前記スペーサ貫通孔の内周面に前記軸部に圧接可能なスペーサ凸部を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項9】
前記スペーサは、当該スペーサを取り外すために使用される工具に係合するべく設けられた工具係合部を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項10】
前記ピンの前記頭部は、前記第2部材に係合する第2部材係合部を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項11】
前記第2部材係合部は、前記第2部材を挟んで互いに対向する1対の保持板からなり、
前記ピンの前記頭部は、前記1対の保持板よりも前記軸部側に配置されて前記スペーサに当接する当接板を有することを特徴とする請求項10に記載のクリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2以上の部材を互いに取り付けるためのクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
効率的に2つの部材を互いに取り付け及び取り外すことができるクリップとして、例えば特許文献1に記載のクリップが知られている。特許文献1に記載のクリップは、先端側部分において弾性変形可能なグロメットと、グロメットに挿入されてグロメットの弾性変形をガイドする凹凸を有するピンとからなる。グロメットを取り付け対象の部材の貫通孔に挿入し、更に、ピンをグロメットに挿入してピンの凸部がグロメットの先端側部分を外側に押し出す係合位置まで前進させる。このとき、グロメットの先端側部分の外径が取り付け部材の貫通孔の内径よりも大きくなるため、グロメットが部材に係合する。クリップを取り外すときは、更にピンをグロメットに対して前進させ、ピンの凹部にグロメットの先端側部分を受容させた解除位置に配置する。このとき、グロメットの先端側部分の外径が取り付け部材の貫通孔の内径よりも小さい状態に戻るため、グロメットの部材への係合が解除され、クリップを部材から取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−137130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のクリップでは、作業員がクリップを取り付ける際に力を入れすぎると、ピンが係合位置を越えて解除位置まで前進してしまうため作業をやり直す必要が生じ、作業効率を十分に向上させることができなかった。
【0005】
このような問題を鑑み、本発明は、ピンをグロメットに対して1段階前進させることで取り付けを行い、更にもう1段階前進させることで取り外しを行うクリップにおいて、取り付け時にピンが2段階前進してしまうことを防止できるクリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態は、第1部材(5)に第2部材(6)を取り付けるクリップ(1,51)であって、前記第1部材の貫通孔(7)に挿入される胴部(8,54)、及び前記胴部の軸線方向の一側に設けられ、かつ前記貫通孔に対して拡径された基部(9)を有し、前記胴部及び前記基部を前記軸線方向に貫通するグロメット孔(10,55)が形成されたグロメット(2,52)と、前記グロメット孔に挿入される軸部(15,60)、及び前記軸部の前記軸線方向の一側に設けられ、かつ前記第2部材に取り付けられる頭部を有するピン(3,53)とを備え、前記グロメットの前記胴部は、前記軸線方向に延在し、前記貫通孔の周縁に弾性変形によって係合離脱する少なくとも2つの弾性片(12,57)を有し、前記グロメット孔内に挿入される前記軸部と前記胴部の前記弾性片とは、互いに協働して、前記胴部が前記貫通孔内に保持されるべき係合位置から、前記軸部が前記係合位置から前記胴部に対して前進した位置であって、前記胴部が前記貫通孔から解除されるべき解除位置に変位するべく構成され、当該クリップが、前記基部と前記頭部との間に取り外し可能に配置され、前記基部及び前記頭部に当接することによって前記軸部の前記係合位置から前記解除位置への前進を禁止するスペーサ(4)を更に備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、作業員がクリップを取り付ける際に力を入れすぎても、ピンの頭部がスペーサに当接することで、ピンの軸部の前進は阻止されるため、軸部が係合位置を越えて解除位置まで移動することを防止できる。更にスペーサを取り外すことにより、軸部を解除位置まで前進させてクリップを取り外し、第1部材の第2部材への取り付けを解除することができる。
【0008】
本発明の他の実施形態は、上記構成において、前記胴部(8)の中心軸から前記弾性片(12)の外表面までの最大値は、外力が加わっていない状態で前記貫通孔の半径以下であり、前記弾性片は、内側に突出する爪(13)を有し、前記軸部(14)は、前記係合位置において前記爪に係合して、前記胴部の前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値を前記貫通孔の半径よりも大きくさせるように外径が設定された係合凹部(22)と、前記係合凹部よりも前記頭部側に設けられ、前記解除位置において前記爪を受容して、前記胴部の前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを許容するように外径が設定された解除凹部(23)とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、グロメット(2)の胴部の先端側を外側に弾性変形させた状態で第1部材及び第2部材を互いに結合させるクリップ(1)において、取付作業時に、ピン(3)の軸部が係合位置を越えて解除位置まで前進することを防止できる。
【0010】
本発明の他の実施形態は、上記構成において、前記軸部は、前記係合凹部よりも先端側に設けられ、前記係合位置よりも後退した取付前位置において前記爪を受容して、前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを許容するように外径が設定された取付前凹部(21)を更に有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、クリップの構成部材であるグロメット、ピン及びスペーサを互いに事前に組み付けておくことができるため、第1部材と第2部材との取付現場における作業を効率的に行うことができる。
【0012】
本発明の他の実施形態は、最初に示した上記の構成において、前記胴部(54)の中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値は、外力が加わっていない状態で前記貫通孔の半径より大きく、前記軸部(60)は、前記係合位置において前記胴中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを規制するように外径が設定された係合凹部(62)と、前記係合凹部よりも前記頭部側に設けられ、前記解除位置において前記胴部の弾性変形によって前記中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値が前記貫通孔の半径以下になることを許容するように外径が設定された解除凹部(63)とを有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、グロメット(52)の胴部の中心軸から前記弾性片の外表面までの最大値は、力が加わっていない状態で貫通孔の半径よりも大きく、ピン(53)によって内側に弾性変形することを規制した状態で第1部材及び第2部材を互いに結合させるクリップ(51)において、取付作業時に、ピンの軸部が係合位置を越えて解除位置まで前進することを防止できる。
【0014】
本発明の他の実施形態は、上記のいずれかの構成において、前記スペーサは、前記軸部を挿通させるスペーサ貫通孔(25)を有するとともに、前記スペーサ貫通孔の内周面と前記スペーサの外周面との間の一部に他の部分よりも強度の低い脆弱部(28)が設けられていることを特徴とする。また、脆弱部に代えて、前記スペーサ貫通孔の内周面から前記スペーサの外周面に至るスペーサスリット(29)を有してもよい。
【0015】
この構成によれば、脆弱部を破壊し、又はスペーサスリットに軸部を通すことにより、スペーサをピンから取り外すことができるため、クリップの取り外し作業を容易に行うことができる。
【0016】
本発明の他の実施形態は、上記構成において、前記弾性片(12)は、前記軸線方向に沿って前記胴部の先端から基端に至るスリットが前記胴部に設けられることにより形成され、前記基部は、前記スリットに連通する前記軸線方向に沿ったガイド溝(24)を前記グロメット孔の内周面に有し、前記軸部は、前記スリット及び前記ガイド溝を摺動する前記軸線方向に沿った突条(20)を有し、前記スペーサは、前記突条が通過可能なスペーサ溝(26)を前記スペーサ貫通孔の内周面に有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、突条がスリット及びスペーサ溝を摺動することにより、ピンのグロメットに対する軸線方向の移動がガイドされ、かつ周方向への変位が規制される。
【0018】
本発明の他の実施形態は、上記の構成において、前記スペーサは、前記スペーサ貫通孔の内周面に前記軸部に圧接可能なスペーサ凸部(27)を有することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、所定値以上の力を加えない限り、スペーサがピンに対して軸線方向及び周方向に移動することが防止される。特に、スペーサが脆弱部又はスペーサスリットを有する場合には、取り外し作業をしやすいようにその向きを取り付け時に設定できるので、取り外し作業を効率的に行える。
【0020】
本発明の他の実施形態は、上記構成のいずれかにおいて、前記スペーサは、当該スペーサを取り外すために使用される工具に係合するべく設けられた工具係合部(30)を有することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、狭いスペースにおいても、スペーサの取り外し作業を容易に行うことができる。
【0022】
本発明の他の実施形態は、前記ピンの前記頭部は、前記第2部材に係合する第2部材係合部を有することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、第2部材とピンとを互いに確実に固定できる。
【0024】
本発明の他の実施形態は、上記構成のいずれかにおいて、前記第2部材係合部は、前記第2部材を挟んで互いに対向する1対の保持板(17)からなり、前記ピンの前記頭部は、前記1対の保持板よりも前記軸部側に配置されて前記スペーサに当接する当接板(18)を有することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、第2部材とピンとの互いの固定が強固になるとともに、スペーサが第2部材から離間して配置されるため、スペーサの取り外し作業が容易となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ピンをグロメットに対して1段階前進させることで取り付けを行い、更にもう1段階前進させることで取り外しを行うクリップにおいて、取り付け時にピンが2段階前進してしまうことを防止できるクリップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態に係るクリップの斜視図
図2】第1実施形態に係るグロメットの斜視図
図3】第1実施形態に係るピンの斜視図
図4】第1実施形態に係るスペーサの斜視図
図5】スペーサの変形実施形態を示す斜視図
図6】第1実施形態に係るクリップの(a)取付前位置、(b)係合位置及び(c)解除位置を示す断面図
図7】第2実施形態に係るクリップの(a)取付前位置、(b)係合位置及び(c)解除位置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。まず、図1図6を参照して、第1実施形態を説明する。
【0029】
図1に示すように、第1実施形態に係るクリップ1は、グロメット2と、グロメット2に挿入されるピン3と、グロメット2及びピン3間に配置されるスペーサ4とを備える。グロメット2、ピン3及びスペーサ4は、それぞれ、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)やポリエチレン等の樹脂を素材とする射出成形品である。クリップ1は、第1部材5及び第2部材6(図6参照)を互いに結合させるために使用される。
【0030】
図2及び図6に示すように、グロメット2は、第1部材5の貫通孔7に挿入される胴部8と、胴部8の軸線方向の一側に設けられた基部9とを有する。グロメット2には、胴部8及び基部9を軸線方向に貫通するグロメット孔10が形成されている。
【0031】
胴部8は、円筒形状をなし、基部9の反対側すなわち先端側から基部9との境界である基端まで軸線方向に沿った4つのスリット11が形成されている。4つのスリット11は、周方向において互いに等間隔に設けられている。胴部8の実体部分は、4つのスリット11によって4つに分割されて、4つの弾性片12を構成している。4つの弾性片12は、弾性変形によって、基端側を支点として、先端側が中心軸に対して近接離間する内外方向に変位するように湾曲可能である。
【0032】
胴部8の外表面は、軸線方向に平行で滑らかな表面を構成し、胴部8の内表面は、先端側を除いて軸線方向に平行で滑らかな表面を構成しているが、先端側においては、内側に突出する爪13が各々の弾性片12に設けられている。爪13は、基端側の表面が湾曲又は傾斜し、かつ先端側の表面が軸線方向に直交するように内側に突出している。
【0033】
基部9は、概ね円環状をなし、貫通孔7を通過しないように貫通孔7の内径よりも大きな外径を有する。基部9の外縁側は、胴部8の先端側に向かって屈曲し、第1部材5の貫通孔7の近傍部分に当接する。
【0034】
図3及び図6に示すように、ピン3は、第2部材6に取り付けられる頭部14と、頭部14から軸線方向に延出してグロメット孔10に挿入される軸部15とを有する。
【0035】
頭部14は、軸部15の延長線上に配置された頭軸16と、第2部材6に係合して第2部材6を保持するべく頭軸16から径方向に延出して円環形状を呈する1対の保持板17からなる第2部材係合部と、保持板17よりも軸部15側に配置されてスペーサ4に当接するべく頭軸16から径方向に延出して円環形状を呈する当接板18とを有する。当接板18の半径は、1対の保持板17の半径よりも小さい。
【0036】
軸部15は、軸線方向に沿って延在し、横断面が円形になるように円柱の表面に凹凸を設けた形状を呈する主部19と、主部19の表面に軸線方向に沿って設けられた突条20とを有する。主部19の最も太い部分の外径は、爪13以外の部分のグロメット孔10の内径に対して略一致し、又はわずかに小さい。
【0037】
主部19の先端側部分には、先端側から順に、取付前凹部21、係合凹部22及び解除凹部23が設けられており、これらの3つの凹部21,22,23は、ピン3をグロメット2に対して押し込む程度によって、それぞれグロメット2の爪13に径方向に整合し得る。
【0038】
取付前凹部21及び解除凹部23は、爪13を外側に押し出さないように受容可能であり、弾性片12を弾性変形させない。取付前凹部21及び解除凹部23は、爪13と概ね相互補完的形状を呈する。従って、取付前凹部21及び解除凹部23の先端側壁面は軸線方向に略直交する平面を呈し、頭部14側の壁面は滑らかに湾曲又は傾斜している。そのため、ピン3は、グロメット2に対して互いの湾曲又は傾斜した面が摺動することにより前進可能であるが、互いの軸線方向に直交する平面が係止し合うことにより後退不能である。
【0039】
係合凹部22は、底面(径方向を向いた面)が取付前凹部21及び解除凹部23の底面よりも高く(径方向に膨出しており)、この底面において爪13を外側に押し出すように爪13の内周面に係合可能であり、弾性片12を爪13が外側に変位するように弾性変形した状態に維持可能である。更に、係合凹部22は、先端側の壁面が軸線方向に直交した平面となっており、この先端側の壁面において爪13の先端側の軸線方向に直交した平面に係合するため、ピン3はグロメット2に対して後退不能である。また、係合凹部22は、頭部14側の壁面も軸線方向に直交した平面となっているが、この頭部14側の壁面の外縁を爪13の基端側の湾曲又は傾斜した面が摺動することにより、ピン3はグロメット2に対して前進可能である。
【0040】
なお、主部19の取付前凹部21よりも先端側は、先端に向かうほど縮径するように傾斜している。また、主部19の解除凹部23よりも頭部14側は、略一定の外径を有し、その外径は、爪13以外の部分のグロメット孔10の内径に対して略等しいか、又はわずかに小さい。また、主部19は頭部14とともに中心軸が所定の深さまで肉抜きされ、中空形状としてもよい。
【0041】
突条20は、4つのスリット11にそれぞれ整合する位置に4つ設けられた第1突条20aと、4つの第1突条20aの内の互いに反対側に位置する2つの第1突条20aの軸線方向の頭部14側に設けられた2つの第2突条20bとを有する。第1突条20aは、主部19の先端側部分、すなわち、取付前凹部21、係合凹部22及び解除凹部23に対応する位置に設けられ、各凹部21,22,23を4つに分割している。第1突条20a及び第2突条20bは、スリット11と、4つのスリット11に軸線方向にそれぞれ整合するように基部9の内周面に設けられた軸線方向に延在する4つのガイド溝24とに摺動可能であり、協働して、軸部15の胴部8に対する軸線方向の移動を周方向に回転しないようにガイドする。
【0042】
図4及び図6に示すように、スペーサ4は、所定の厚さを有する平板状の部材である。スペーサ4は、グロメット2の基部9とピン3の頭部14との間に配置されて、グロメット2の爪13がピン3の係合凹部22に係合したときに、グロメット2の基部9とピン3の当接板18との両方に当接可能になるように厚さが設定されている。
【0043】
スペーサ4には、ピン3の軸部15を挿通させるスペーサ貫通孔25がスペーサ4の厚み方向に設けられている。スペーサ貫通孔25の内径は、軸部15の最も太い部分である基部9側の外径に対して略等しいか、又はわずかに大きい。スペーサ貫通孔25の内周面には、ピン3の突条20を受容可能に、互いに周方向に均等に離間して配置された4つのスペーサ溝26が形成されている。また、スペーサ貫通孔25の内周面には、ピン3の軸部15における頭部14に近接した部分に圧接するスペーサ凸部27が形成されている。
【0044】
4つの内の1つのスペーサ溝26の径方向の延長線上において、スペーサ4の外周面とスペーサ貫通孔25の内周面(スペーサ溝26の底面)との間に肉厚が薄くなった脆弱部28が設けられている。脆弱部28は、図示するようにスペーサ4外周面に切り込みを設けてスペーサ4外周面とのスペーサ貫通孔25の内周面との肉厚を薄くしてもよく、スペーサ4の厚み方向の肉厚を薄くしてもよく、また、その両方であってもよい。なお、図5に示すように、脆弱部28に代えて、スペーサ4外周面からスペーサ貫通孔25の内周面に至るスペーサスリット29を設けてもよい。
【0045】
スペーサ4は、スペーサ貫通孔25に対して脆弱部28の反対側に、マイナスドライバー等のスペーサ4を取り外すための工具に係合する工具係合部30が設けられている。工具係合部30は、図示する貫通孔のほかに、凹部や凸部であってもよい。スペーサ貫通孔25からの工具係合部30までの距離は、当接板18の半径よりも長いことが好ましい。
【0046】
図6を参照して、クリップ1の取付及び取外し手順及び機能について説明する。クリップ1によって互いに結合される第1部材5及び第2部材6は、クリップ1が取り付けられる部分において板状であり、その部分において、第1部材5には厚み方向に貫通する貫通孔7が形成され、第2部材6には厚み方向に貫通するとともに一方の側縁が開放されたU字孔31が形成されている。
【0047】
クリップ1の構成部材であるグロメット2、ピン3及びスペーサ4の互いの組み付けは、第1部材5及び第2部材6の取り付け現場で行われてもよいが、製品としてのクリップ1の出荷前など、事前に行われることが好ましい。作業員は、スペーサ4のスペーサ貫通孔25にピン3の軸部15を挿入し、スペーサ4を当接板18の近傍まで移動させる。軸部15に設けられた突条20をスペーサ貫通孔25に設けられたスペーサ溝26(図4参照)に軸線方向において整合させることにより、スペーサ貫通孔25に軸部15を挿入することができる。また、スペーサ4と軸部15とは、互いの内周面と外周面との全体が摺動するのではなく、スペーサ凸部27が軸部15の外周面に摺動する。そのため、製造誤差によるゆがみをスペーサ凸部27の高さが吸収して、比較的小さな力で軸部15をスペーサ4に挿入することができる。また、当接板18の近傍に配置されたスペーサ4は、スペーサ凸部27が軸部15に圧接しているため、所定値以上の力を加えない限り、軸部15に対する軸線方向及び周方向の変位が規制される。
【0048】
更に、軸部15をグロメット2のグロメット孔10に挿入し、爪13が取付前凹部21に受容される取付前位置まで前進させる。爪13は、軸部15の先端によって外側に押し広げられるように弾性変形した後、取付前凹部21に受容されて元の形状に戻るため、取付前位置になったときに節度感が得られる。軸部15に設けられた突条20をグロメット2に設けられたスリット11及びガイド溝24(図2参照)に軸線方向において整合させることにより、グロメット孔10に軸部15を挿入することができる。取付前位置においては、突条20がスリット11及びガイド溝24に受容されているため、軸部15及び軸部15に対して安定して配置されたスペーサ4は、グロメット2に対して周方向に回転することが規制される。
【0049】
また、互いに軸線方向に直交する平面である爪13の先端面と取付前凹部21の先端側の壁面とが当接するため、取付前位置においては、軸部15がグロメット2に対して後退(図6における上方への移動)すること、すなわちピン3がグロメット2から引き抜かれることが防止される。一方、互いに基部9側又は頭部14側に向かうにつれて拡径するように湾曲又は傾斜している爪13の基部9側の面と取付前凹部21の頭部14側の面とが当接しているため、更には、ガイド溝24よりもわずかに径方向に長い第2突条20bが基部9の表面に係止されるため、所定値以上の力が加わらない限り、軸部15がグロメット2に対して前進(図6における下方への移動)すること、すなわちピン3がグロメット2に押し込まれることが規制される。この状態では、爪13が取付前凹部21に受容されているため、グロメット2の胴部8に外力が加わっておらず、胴部8は弾性変形していない状態となり、その外径は、軸線方向の全領域に渡って第1部材5の貫通孔7の内径以下である。
【0050】
次に、クリップ1を第2部材6に取り付ける。ピン3の頭部14の1対の保持板17間に第2部材6が挟まれるように、クリップ1を軸線方向に直交する方向にスライドさせて第2部材6のU字孔31にピン3の頭部14を挿入する。次いで、グロメット2の胴部8の先端側部分を第1部材5の貫通孔7に挿入し、図6(a)に示す状態にする。このとき、スペーサ4の工具係合部30が、工具を差し込みやすい方向に向けておくことが好ましく、上述の通りスペーサ4はグロメット2に対して周方向に回転しないため、工具係合部30の向きは取り付け後も安定する。
【0051】
次に、作業員は、ピン3をグロメット2に対して前進させるように頭部14を押し込む。すると、爪13が取付前凹部21の頭部14側の壁面に摺動しながら外側に押し出された後、係合凹部22に受容されるとともに、第2突条20bがガイド溝24に圧接しながら摺動した後、スリット11に受容されるため、作業員に節度感を与えながら、図6(b)に示すように、軸部15は、グロメット2に対して係合凹部22において係合した係合位置に配置される。スペーサ4が、基部9と当接板18との間に配置されているため、作業員が過大な力でピン3の頭部14を押したとしても、軸部15が係合位置よりも更に前進することは防止される。また、互いに軸線方向に直交する平面である爪13の先端面と係合凹部22の先端側の壁面とが当接するため、係合位置においては、軸部15がグロメット2に対して後退することが防止される。
【0052】
軸部15がグロメット2に対して係合位置に配置された状態では、爪13の内周面が係合凹部22の底面に係止されるため、弾性片12は、先端側が広がるように弾性変形した状態に維持される。このとき、胴部8の先端側の外径、すなわち4つの爪13によって構成される外径は、貫通孔7の内径よりも大きいため、グロメット2が第1部材5から抜け出すことが防止される。従って、第1部材5と第2部材6とは、クリップ1を介して互いに取り付けられる。
【0053】
第1部材5と第2部材6との互いの取り付けを解除する場合には、まず、スペーサ4を取り外す。工具を工具係合部30に係合させて、脆弱部28とは反対側の径方向に力を加えると、ピン3からスペーサ4に加わる応力が脆弱部28に集中して脆弱部28が破断するため、スペーサ4をピン3から取り外すことができる。このとき、脆弱部28と周方向に90°ずれた位置に配置されているスペーサ溝26でスペーサ4は屈折し易くなっており、スペーサ4の取り外しが容易となる。なお、図5に示すように脆弱部28に代えてスペーサスリット29を有するスペーサ4では、スペーサスリット29が広がるようにスペーサ4が弾性変形又は破断することにより、スペーサ4を取り外すことができる。なお、スペーサ4は、当接板18によって、保持板17によって保持された第2部材6から離間しているため、工具を差し込みやすくなっている。また、スペーサ4は、工具係合部30に工具を差し込みやすい方向に向けて配置されていることからも工具を差し込みやすくなっている。
【0054】
スペーサ4を取り外すことにより、軸部15はグロメット2に対して更に前進させることが可能となる。作業員がピン3の頭部14を押し込み、軸部15を前進させると、爪13は、内周面において係合凹部22の頭部14側の壁面の外縁を摺動しながら係合凹部22を離脱する。その後、図6(c)に示すように、軸部15は、グロメット2に対して爪13が解除凹部23に受容された解除位置に配置される。爪13が解除凹部23に受容されると、弾性変形していた胴部8が元の形状に戻るため節度感が得られる。また、この状態において、胴部8の外径は、軸線方向の全領域に渡って第1部材5の貫通孔7の内径以下であるため、グロメット2を第1部材5の貫通孔7から抜き取ることができる。グロメット2を第1部材5から抜き取り、ピン3を第2部材6から取り外すことにより、第1部材5と第2部材6との取付は解除される。
【0055】
次に、図7を参照して第2実施形態に係るクリップ51を説明する。説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。
【0056】
第2実施形態に係るクリップ51は、グロメット52と、グロメット52に挿入されるピン53と、グロメット52及びピン53間に配置されたスペーサ4とを備える。
【0057】
グロメット52は、第1部材5の貫通孔7に挿入される胴部54と、胴部54の軸線方向の一側に設けられた基部9とを有する。グロメット52には、胴部54及び基部9を軸線方向に貫通するグロメット孔55が形成されている。
【0058】
胴部54は、概ね円筒形状をなし、円筒形状の周壁の左右2箇所に設けられた開口56内に胴部54の先端側から弾性片57が軸線方向に沿って延出している。2つの弾性片57の外表面の最も膨出した部分である係合部58間の距離は、外力が加わっていない状態で貫通孔7の直径よりも大きい。弾性片57の外表面は、グロメット52を貫通孔7に挿入するとき及び貫通孔7から抜き取るときに貫通孔7の内縁に摺動することにより径方向の内側に向かって変形するように、傾斜又は湾曲している。弾性片57の内表面には、内側に膨出して係合位置に配置されたピン53に係合される被係合凸部59が基部9側、すなわち弾性片57の遊端側に設けられている。被係合凸部59において、胴部54の先端側(弾性片57の基端側、図7の下側)を向いた面は軸線方向に直交する平面からなり、基部9側(弾性片57の遊端側、図7の上側)を向いた面は、軸線方向に対して傾斜又は湾曲している。
【0059】
ピン53は、第2部材6に取り付けられる頭部14と、頭部14から軸線方向に延出してグロメット孔55に挿入される軸部60とを有する。軸部60は、軸線方向に沿って延在し、横断面が円形になるように円柱の表面に凹凸を設けた形状を呈する。軸部60の先端側部分には、先端側から順に、取付前凹部61、係合凹部62及び解除凹部63が設けられている。取付前凹部61が被係合凸部59に径方向に整合した取付前位置では、図7(a)に示すように、係合部58が貫通孔7の内周面よりも径方向の内側に配置されるまで弾性片57が弾性変形できるように、取付前凹部61は被係合凸部59を受容する。そのため、グロメット52を貫通孔7に挿入することができる。係合凹部62の底面は、取付前凹部61及び解除凹部63の底面よりも径方向の外側に位置する。係合凹部62が、被係合凸部59に係合した係合位置では、図7(b)に示すように、係合凹部62の底面が被係合凸部59内周面に当接して径方向の内側への変位を規制するため、グロメット52の係合部58が貫通孔7の周縁に係合して、グロメット52の第1部材5からの離脱が防止される。また、それぞれ軸線方向に直交する平面である係合凹部62の先端側壁面と被係合凸部59の先端側を向いた壁面とが互いに当接するため、ピン53は、グロメット52に対して後退不能となる。解除凹部63が被係合凸部59に径方向に整合した解除位置では、図7(c)に示すように、係合部58が貫通孔7の内周面よりも径方向の内側に配置されるまで弾性片57が弾性変形できるように、解除凹部63は被係合凸部59を受容する。そのため、グロメット52を貫通孔7から抜き取ることができる。
【0060】
スペーサ4が基部9と頭部14との間に配置されているため、係合位置から解除位置に向けてピン53をグロメット52に対して前進することを防止でき、スペーサ4を外すと前進できるようになる点は、第1実施形態と同様である。
【0061】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。軸線方向への移動の規制は、先端以外の部分に係合構造を設けることによりなされてもよい。例えば、ピンの第2部材への取り付けは、接着剤等の他の手段によってなされてもよい。また、第1部材及び第2部材の一方又は双方に他の部材を重ね合わせ、3以上の部材を互いに取り付けてもよい。また、第2部材は、ピンの頭部ではなく、第1部材とグロメットの基部との間に挟持されてもよい。弾性片及び突条の数は2、3又は5以上でもよい。
【符号の説明】
【0062】
1,51:クリップ、2,52:グロメット、3,53:ピン、4:スペーサ、5:第1部材、6:第2部材、7:貫通孔、8,54:胴部、9:基部、10,55:グロメット孔、11:スリット、12,57:弾性片、13:爪、14:頭部、15:軸部、17:保持板(第2部材係合部)、18:当接板、20:突条、21,61:取付前凹部、22,62:係合凹部、23,63:解除凹部、24:ガイド溝、25:スペーサ貫通孔、26:スペーサ溝、27:スペーサ凸部、28:脆弱部、29:スペーサスリット、30:工具係合部、58:係合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7