特許第6396346号(P6396346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6396346タレット回転による切込み制御機能を有する数値制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396346
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】タレット回転による切込み制御機能を有する数値制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20180913BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20180913BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20180913BHJP
   B23B 3/16 20060101ALI20180913BHJP
   B23B 21/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G05B19/4093 H
   B23Q15/00 C
   G05B19/4093 P
   B23B1/00 Z
   B23B3/16 Z
   B23B21/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-6392(P2016-6392)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-126274(P2017-126274A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2017年2月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航瑛
(72)【発明者】
【氏名】小谷中 洋介
【審査官】 松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−041801(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/088884(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/038101(WO,A1)
【文献】 特開平10−058279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−/19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するワークに対してタレットに取付けられている工具を押し当てて加工をする機械をプログラム指令に基づいて制御する数値制御装置において、
前記プログラム指令を解析して移動指令データを生成する指令解析部と、
前記プログラム指令が前記工具を前記ワークの回転軸の中心方向へと移動させる軸であるX軸方向への移動を指令している場合、前記プログラム指令による前記工具の前記X軸方向への移動の指令値を前記タレットの回転角度の指令値へと変換する軸移動量算出部と、
を備え、
前記プログラム指令による前記X軸方向への移動の指令に代えて前記軸移動量算出部が算出した前記タレットの回転角度の指令値による前記タレットの回転指令により前記工具の位置を制御する、
ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記タレットには複数の工具が取り付けられ、
前記複数の工具の内のそれぞれの工具に対して、当該工具を前記加工に使用している場合における前記タレットの回転角度を制限する前記タレットの回転可能角度および工具交換に適したタレットのZ軸方向の位置があらかじめ設定されており、
前記プログラム指令が前記加工に使用する前記工具を交換する指令である場合、工具交換に適したタレットのZ軸方向の位置へ移動させ、前記タレットの回転可能角度を交換した前記工具に対して設定されている前記タレットの回転可能角度へと切換える、
ことを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記機械は、前記ワークの回転軸と直交し、且つ前記軸と直交する方向に前記ワークの位置と前記タレットの位置とを相対的に移動可能な直線軸を有し、
前記軸移動量算出部は、前記加工に使用する工具が前記タレットの回転のみで前記ワークの回転中心位置まで切込むことができる位置へと前記タレットを移動させるように前記直線軸の指令値を算出し、
前記数値制御装置は、前記直線軸の指令値により前記ワークと前記タレットとの相対的な位置を制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記機械は、前記ワークの回転軸と直交し、且つ前記軸と直交する方向に前記ワークの位置と前記タレットの位置とを相対的に移動可能な直線軸を有し、工具寿命または切削抵抗の変更のために、前記直線軸の移動により、前記タレットを回転させて前記加工に使用する工具を前記ワークへと押し当てた際の前記ワークの径方向に対する前記工具のなす角度の変更が可能である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関し、特にタレット回転による切込み制御機能を有する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な旋盤では、ワークの径方向に刃物を移動させる直線軸(一般的にX軸と称される)を有しており、切込み量の制御はX軸による直線移動によって行われる。一方で、工作機械の軸数は、コスト低減やサイズ縮小のためには少ないほうが良い。もしX軸の直線移動機構を使用せずに切込み量を制御でき、X軸の直線移動機構をなくすことができればコスト低減やサイズ縮小の効果が得られる。
【0003】
X軸の直線移動機構以外によって切込み量を制御する従来技術としては、特許文献1,2に開示される技術がある。特許文献1,2に開示される技術では、ワークは回転せずに、ワークの周りを工具が旋回することにより切削を行う機械を制御するための発明である。ワークを固定するチャックに対向し主軸として回転する主軸回転部に加え、第1の回転台上に工具を保持する偏芯回転部があり、偏芯回転部の回転制御によって切込み量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5287986号公報
【特許文献2】特許第4446003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に開示される技術では、固定されているワークの周りを工具が旋回するタイプの機械を対象としている。このようなタイプの機械では、複数の工具を取付けることができず、必要に応じた工具交換の際に手間がかかるという問題点がある。一方で、複数の工具を取付けできるタレット付きの機械は、回転するワークに対しタレットに取付けられている工具を押し当てて加工をするタイプとなり、このタイプの機械には特許文献1,2に開示される技術を単純に適用することができない。
【0006】
そこで本発明の目的は、1つ以上の工具を取付けできるタレット付きの機械においてX軸の直線移動機構を使用せずに旋削加工を行う制御を可能とする数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の数値制御装置では、図1図2に示すように、回転するワークに対してタレットに取付けられている工具を押し当てて加工をするタイプの機械において、X軸の直線移動を使用せずに、ワーク中心から工具刃先までの直線距離(図2におけるX)と、タレット回転角度(図2におけるθ)、タレット中心から工具刃先までの距離(図2におけるR)の関係式を利用して、X軸に関する指令がされた際に、所望のX軸座標値を実現するためのタレットの回転角度θの値を計算し、タレットの角度がθとなるように制御をすることで、切込み量の制御を行う。
【0008】
そして、本願の請求項1に係る発明は、回転するワークに対してタレットに取付けられている工具を押し当てて加工をする機械をプログラム指令に基づいて制御する数値制御装置において、前記プログラム指令を解析して移動指令データを生成する指令解析部と、前記プログラム指令が前記工具を前記ワークの回転軸の中心方向へと移動させる軸であるX軸方向への移動を指令している場合、前記プログラム指令による前記工具の前記軸方向への移動の指令値を前記タレットの回転角度の指令値へと変換する軸移動量算出部と、を備え、前記プログラム指令による前記軸方向への移動の指令に代えて前記軸移動量算出部が算出した前記タレットの回転角度の指令値による前記タレットの回転指令により前記工具の位置を制御する、ことを特徴とする数値制御装置である。
【0009】
本願の請求項2に係る発明は、前記タレットには複数の工具が取り付けられ、前記複数の工具の内のそれぞれの工具に対して、当該工具を前記加工に使用している場合における前記タレットの回転角度を制限する前記タレットの回転可能角度および工具交換に適したタレットのZ軸方向の位置があらかじめ設定されており、前記プログラム指令が前記加工に使用する前記工具を交換する指令である場合、工具交換に適したタレットのZ軸方向の位置へ移動させ、前記タレットの回転可能角度を交換した前記工具に対して設定されている前記タレットの回転可能角度へと切換える、ことを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置である。
【0010】
本願の請求項3に係る発明は、前記機械は、前記ワークの回転軸と直交し、且つ前記軸と直交する方向に前記ワークの位置と前記タレットの位置とを相対的に移動可能な直線軸を有し、前記軸移動量算出部は、前記加工に使用する工具が前記タレットの回転のみで前記ワークの回転中心位置まで切込むことができる位置へと前記タレットを移動させるように前記直線軸の指令値を算出し、前記数値制御装置は、前記直線軸の指令値により前記ワークと前記タレットとの相対的な位置を制御する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置である。
【0011】
本願の請求項4に係る発明は、前記機械は、前記ワークの回転軸と直交し、且つ前記軸と直交する方向に前記ワークの位置と前記タレットの位置とを相対的に移動可能な直線軸を有し、工具寿命または切削抵抗の変更のために、前記直線軸の移動により、前記タレットを回転させて前記加工に使用する工具を前記ワークへと押し当てた際の前記ワークの径方向に対する前記工具のなす角度の変更が可能である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、1つ以上の工具を取付けできるタレット付きの機械においてX軸の直線移動機構をなくすことができ、機械のコスト低減やサイズ縮小に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の数値制御装置により制御される回転するワークに対してタレットに取付けられている工具を押し当てて加工をするタイプの機械を示す図である。
図2】本発明の数値制御装置によるタレットの回転角度によるワークへの切込み量の制御について説明する図である。
図3】本発明の第1の実施形態による数値制御装置の機能ブロック図である。
図4図1の数値制御装置1上で実行される処理のフローチャートである。
図5図1の数値制御装置1により制御されるタレットを備えた機械での加工の様子を示す図である。
図6】複数の工具を備えたタレットを示す図である。
図7】複数の工具を備えたタレットにおいて発生する工具とワークの干渉について説明する図である。
図8】複数の工具を備えたタレットを用いている場合における工具交換について説明する図である。
図9】本発明の第2の実施形態による数値制御装置におけるタレットの回転角度θの値の自動変更制御について説明する図である。
図10】本発明の第2の実施形態による数値制御装置1上で実行される工具交換の際に工具交換に適した位置へのタレットの移動と、タレットの回転可能角度の切換え制御処理と、タレットの回転角度θの値の自動変更制御処理のフローチャートである。
図11】タレットがY軸方向に直線移動する機構を備えた機械を示す図である。
図12】タレットに取り付けられた各工具の工具刃先のタレット中心からの距離が異なっている状況について説明する図である。
図13】本発明の第3の実施形態による数値制御装置におけるタレット中心から工具刃先までの距離が異なっていても刃先がワーク中心を通るようにする制御について説明する図である。
図14】タレット中心から工具1の刃先までの距離R1と、タレット中心から工具2の刃先までの距離R2と、Y軸の移動距離Yとの関係を示す図である。
図15】Y軸を移動させた際のタレットの回転角度θの値について説明する図である。
図16】本発明の第3の実施形態による数値制御装置におけるワークにあたる工具の傾きを変更する制御について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<第1の実施形態>
第1の実施形態では、指令されたX軸方向の直線切込み量を実現するように、タレットの回転を制御する数値制御装置について説明する。本実施形態では、図1図2に示すように、回転するワークに対してタレットに取付けられている工具を押し当てて加工をするタイプの機械を対象とする。タレットはZ軸方向の直線移動と回転角度制御が可能で、Z軸方向以外の直線移動機構以外はないものとする。また、ワークは主軸として回転する。一般的な旋盤ではタレットがZ軸方向以外にも直線移動できる機構が備わっているが、今回扱う機械構造ではそれを不要としている。
【0015】
図2に示すように、θはタレット回転角度であり、工具刃先がワークの中心に位置する際のタレット回転角度をθ=0として定義する。また、Xはワーク中心から工具刃先までの直線距離であり、切削した際のワークの半径はこの距離になる。通常、加工プログラムでは「X10.0」のような形式で、切削した際のワークの半径値もしくは直径値を指令する。また、Rはタレット中心から工具刃先までの距離であり、機械構造によって決まる固定値である。
【0016】
本実施形態の数値制御装置では、図2におけるXの値が加工プログラムで指令したX軸直線移動の指令値となるようにタレットの回転角度θを制御する。タレットの回転角度θの制御によって、X=0のところまで工具を移動させるには、図2に示すようにタレット回転に伴う工具刃先の移動経路上に、ワーク中心が位置する必要がある。
このような機械構造において、Xとθとの関係は以下に示す数1式のようになる。また、数1式をθについて解くと、以下に示す数2式のようになる。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
本実施形態の数値制御装置では、この数2式を用いてX軸に関する指令値を、タレットの回転角度の指令値θに変換する。
【0020】
図3は、本実施形態による数値制御装置の機能ブロック図である。本実施形態の数値制御装置1は、指令解析部10、軸移動量算出部11、補間部12、加減速制御部13、サーボ制御部14を備える。
指令解析部10は、図示しないメモリに記憶されるプログラム20から各軸の移動量の指令を含むブロックを逐次読み出して解析し、解析結果に基づいて各軸の移動を指令する移動指令データを作成し、作成した該移動指令データを軸移動量算出部11へと出力する。
【0021】
軸移動量算出部11は、指令解析部10から受けた移動指令データによる指令がX軸に関する指令であった場合に、上記したように、移動指令データに基づくX軸に関する指令値を数2式を用いてタレットの回転角度の指令値θに変換し、変換後の移動指令データを補間部12へと出力する。例えば、指令値の半径値が5.0[mm]で、Rが20.0[mm]の場合、θは約7.18[deg]になる。なお、例えば指令値の半径値が100.0の場合など、数2式の解が存在しない場合には、アラーム発生などのエラー処理を実行する。
【0022】
補間部12は、軸移動量算出部11が出力した移動指令データにより指令される移動指令に基づいて指令経路上の点を補間周期で補間計算したデータを生成する。
加減速制御部13は、補間部12が出力した補間データに基づいて、加減速処理を行って補間周期毎の各駆動軸の速度を算出し、算出した結果を適用した補間データをサーボ制御部14へ出力する。
そして、サーボ制御部14は、加減速制御部13の出力に基づいて制御対象となる機械の各軸のサーボモータ2を制御する。
【0023】
図4は、本実施形態の数値制御装置1上で実行される処理のフローチャートである。
●[ステップSA01]指令解析部10は、図示しないメモリに記憶されるプログラム20から各軸の移動量の指令を含むブロックを逐次読み出して解析し、解析結果に基づいて各軸の移動を指令する移動指令データを作成し、作成した該移動指令データを軸移動量算出部11へと出力する。
●[ステップSA02]軸移動量算出部11は、X軸に関する指令値がワークの直径値を指令するものであるのか、ワークの半径値を指令するものであるのかを判定する。X軸に関する指令値がワークの直径値を指令するものである場合にはステップSA03へ処理を移行し、ワークの半径値を指令するものである場合にはステップSA04へ処理を移行する。
【0024】
●[ステップSA03]軸移動量算出部11は、X軸に関する指令値を1/2にして半径値へと変換する。
●[ステップSA04]軸移動量算出部11は、指令されたX軸に関する指令値に基づいて数2式を使用した演算を行い、数2式の解が存在するか否かを判定する。数2式の解が存在する場合にはステップSA05へと処理を移行し、数2式の解が存在しない場合にはステップSA07へと処理を移行する。
【0025】
●[ステップSA05]軸移動量算出部11は、指令されたX軸に関する指令値に基づいて数2式を使用した演算を行い、タレットの回転角度θを算出する。
●[ステップSA06]ステップSA05で軸移動量算出部11が算出したタレットの回転角度θが適用された移動指令データに基づいて、補間部12、加減速部13で補間処理、加減速処理が行われ、処理結果に基づいてサーボ制御部14により各軸のサーボモータ2の制御を行い、本処理を終了する。
●[ステップSA07]軸移動量算出部11は、指令されたX軸に関する指令値をタレットの回転角度θへと変換できないことをオペレータへと指令し、加工処理を中断する。
【0026】
このように、タレットの回転角度θが、このフローチャートに従い計算されたθとなるように、サーボ制御部14がタレットを回転駆動するサーボモータ2を制御することによって、ワーク中心から工具刃先までの直線距離が所望の値になる。ワーク中心から工具刃先までの直線距離が所望の値になった状態でZ軸方向へタレットを送ると、図5に示すように所望の切込み量による切削が実現できる。
【0027】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、タレットに複数の工具が取付けられた機械を本発明の数値制御装置で制御する場合について説明する。通常、タレットには複数の工具が取付けられており、タレットを回転させることにより工具交換が行われる。本実施形態の数値制御装置では工具交換の際にタレットの回転可能角度の切換え制御と、工具交換に適した位置へのタレットの移動と、タレットの回転角度θの値の自動変更制御とを行う。なお、本実施形態による数値制御装置が備える機能ブロックは図3に示した第1の実施形態による数値制御装置の機能ブロックと同様のものである。
以下では、上記した本実施形態の数値制御装置による制御の詳細について述べる。
【0028】
工具交換の際のタレットの回転可能角度の切換え制御は、工具の切換え時の安全性の確保と、工具交換動作を可能にするために行う。例えば、タレットを正面から見た場合の図が図6に示すようになっており、タレットに4つの工具が取付けられているとする。
この場合、例えば図7のように工具1で加工中、工具1をワークから離すためにタレットを回転させる際、回転角度が大き過ぎると工具2がワークに干渉する可能性がある。
【0029】
そこで、切削動作をしている際には、タレットの回転角度θが安全な範囲内となるように制限してタレットの回転を制御する。タレットの回転角度θの安全な範囲は機械構造により工具ごとに決まるので、制限する範囲は工具ごとに予めパラメータで設定しておく。また、もし設定した範囲を越える場合にはアラームを発生させる。
一方、図8のように工具交換はワークから離れて通常は実行するので、タレットの回転角度に関わらずワークと工具は干渉しない。タレットの回転角度θに制限があると工具交換動作ができないので、工具交換動作時はタレットの回転角度の制限なく回転する。
【0030】
また、タレットの工具交換に適した位置への移動は、工具交換動作の際の安全性を高めるため、オペレータの負担を減らすために行う。工具交換が指令された際に、自動で図8のようなワークと工具がZ軸方向に離れた位置へ移動させることで、オペレータがZ軸方向への移動指令をしなくても、工具交換が安全な位置で実行される。このことは、工具交換に適した位置のZ軸の座標を予めパラメータにより定めておき、工具交換が指令された際には、その位置へ自動で移動させるようにすることで実現できる。
【0031】
また、タレットの回転角度θの値の自動変更制御については、オペレータの負担を減らすために行う。例えば工具1を選択中、図9の上図に示すようにθの値は45°になっているとする。また工具1と工具2の刃先位置の角度の差は90°だったとする。この状態で工具1から工具2に交換するために、タレットを−90°回転させると、図9の下図に示すように、θを工具1の角度のままとした場合、回転後のθの値は−45°になる。しかし、工具交換後は工具2で切削を行うため、θは工具2の角度となるようにθの値を変更する必要がある。θを工具1の角度から工具2の角度に変更するためには、工具1の角度から、90°(工具1と工具2の角度の差)を足す。例においては、変更前の工具1の角度がθ=−45°であり、それに90°を足すと変更後はθ=45°となり、θは工具2の角度となる。各工具の角度の差は予めパラメータで設定しておく。工具交換時に自動でパラメータから各工具の角度の差を読み出し、θの値をすることによって、オペレータは自身でθの値を変更する指令をする必要がなくなり、負担が減る。
【0032】
図10は、工具交換の際にタレットの回転可能角度の切換え制御と、タレットの回転角度θの値の自動変更制御とにおける数値制御装置1上で実行される処理のフローチャートである。
●[ステップSB01]指令解析部10は、プログラム20から工具交換指令を読み出すと、パラメータに設定されている工具交換に適したZ軸方向の位置を読み出し、その位置への移動指令データを作成する。サーボ制御部14はタレットをZ軸方向へ駆動するサーボモータ2を制御して、工具交換に適した位置へ移動させる。
●[ステップSB02]指令解析部10は、プログラム20から工具交換指令を読み出すと、それまではある角度の範囲でのみ回転運動をしていたタレットが自由に360°動作できるように制限を無効化する。これにより工具交換動作が可能になる。
●[ステップSB03]指令解析部10が作成した工具交換に係る移動指令データに基づいて、サーボ制御部14はタレットを駆動するサーボモータ2を制御して工具交換を実行する。
【0033】
●[ステップSB04]工具交換前と工具交換後の工具番号を取得する。毎回の工具交換ごとに現在の選択工具番号をメモリに保存しておくようにし、工具交換前の工具番号はそのメモリから取得する。また、通常の工具選択の指令は例えばT0001のように、工具番号を含む形式になっているため、工具交換後の工具番号については指令値から取得することができる。
●[ステップSB05]ステップSB04で取得した工具交換前と工具交換後の工具番号に基づいて、工具変更前の工具と、工具変更後の工具の角度の差を取得する。各工具の角度の差は予めパラメータで設定しておき、パラメータ設定値から、ステップSB04で取得した交換前後の工具番号を使用して、工具交換前後の角度の差を取得する。
【0034】
●[ステップSB06]ステップSB05で取得した角度の差を現在のタレットの回転角度θに加算し、その値を新しいタレットの回転角度θとする。これによりタレットの回転角度θは、工具交換前の工具の角度の値から工具交換後の工具の角度の値へ変更される。
●[ステップSB07]パラメータ設定値から、交換後の工具の移動可能な角度の範囲を取得する。そして、取得した角度の範囲でタレットの回転角度の制限を有効とすることで、安全な範囲でタレットが回転するようになる。
【0035】
<第3の実施形態>
上記した第1,2の実施形態では、タレットはZ軸方向の直線運動しかできない機械を対象としていたが、もし図11のようにタレットがY軸方向に直線移動する機構を付加できる場合、タレット中心から工具刃先までの距離が異なっていても刃先がワーク中心を通るようにでき、また、ワークにあたる工具の傾きを変更することができる。なお、本実施形態による数値制御装置が備える機能ブロックは図3に示した第1の実施形態による数値制御装置の機能ブロックと同様のものである。
以下では、上記した本実施形態の数値制御装置による制御の詳細について述べる。
【0036】
タレット中心から工具刃先までの距離が異なっていても刃先がワーク中心を通るようにする制御は、図12に示すように、各工具のタレット中心からの距離が異なる場合のために行う。図12では工具2の方が工具1よりタレット中心からの距離が長い。この状態では、タレット回転に伴う工具1の刃先の移動経路はワーク中心を通るが、工具2の刃先の移動経路はワーク中心を通らない。
しかし、第1の実施形態で述べたように、ワーク中心まで切込む事を可能にするには、タレット回転に伴う工具の刃先の移動経路上にワーク中心が位置する必要がある。そこで、工具2へ交換する際には、タレットをY軸方向に移動させ、図13のようにタレット回転に伴う工具の刃先の移動経路上にワーク中心が位置するようにする。
【0037】
図13の位置関係にするためにY軸方向にタレットをどれだけ動かせばよいかについては、タレット中心から工具1の刃先までの距離R1と、タレット中心から工具2の刃先までの距離R2と、Y軸の移動距離Yの関係が、図14に示すようになっていることから、次の数3式によって得られる。
【0038】
【数3】
【0039】
工具1から工具2へ交換する際に、この式によって計算された移動量だけY軸を移動させれば、タレット回転に伴う工具の刃先の移動経路上にワークの中心が位置するようになる。
また、Y軸を移動させた際にも、第1の実施形態で示す数1式,数2式を使用する際には、θの値が図15に示す角度と一致するようにθの値を変更する必要がある。その変更は次に示す数4式によって算出可能である。
【0040】
【数4】
【0041】
ここでθorgはタレットがY軸方向に移動する前のθの値である。タレットがY軸に移動する際に、この式に従ってθの値を変更することで、θの値は図15に示す角度と一致するようになる。
【0042】
一方で、ワークにあたる工具の傾きを変更する制御については、図16のようにタレットのY軸方向の移動により、あえてタレット回転に伴う工具の刃先の移動経路上からワーク中心が外れるようにする。このようにすることで、ワークの径方向と工具の方向のなす角度(図16におけるφa、φb)が変わり、その結果工具とワークの接触の仕方も変えることができる。
ワークの径方向と工具の方向のなす角度は工具寿命や切削抵抗に関連するため、この角度を変更することにより、工具の長寿命化が図れる可能性がある。
【0043】
図16のように、タレットがY軸方向へ移動した後におけるワーク中心から工具刃先までの距離を変数Xと定義し、Y軸方向のタレットの移動距離をY、タレット回転角度をθとして定義すると、各変数には以下の数5式に示す関係が成り立つ。
【0044】
【数5】
【0045】
ここでは、Y軸の移動量はオペレータが加工プログラムで指定する。タレットがY軸方向へ移動した状態において、加工プログラムでXの値が指令された際には、この式に従ってθを計算し、タレットの回転角度がθとなるように制御すれば、ワーク中心から工具刃先までの距離が指令値通りになる。
この方法を適用する際には、タレット回転に伴う工具の刃先の移動経路上にワーク中心がないので、ワークの中心まで切込むことはできないので、加工できる範囲は限られる。もし実現不可能なXの値が指令された場合にはアラームを発生させるなどのエラー処理を行う。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例にのみ限定されるものでなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。例えば、上記の例ではタレットがZ軸方向に動作するとしているが、自動盤のようにワークがZ軸方向に動作し、タレットはZ軸方向に動作しない場合においても実施可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 数値制御装置
2 サーボモータ
10 指令解析部
11 軸移動量算出部
12 補間部
13 加減速制御部
14 サーボ制御部
図1
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図16