(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る工具交換装置の位置補正システムについて、工具交換装置の位置補正方法との関係において好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0019】
[第1実施形態]
先ず、第1実施形態における工具交換装置の位置補正システム(以下、単に「位置補正システム」ともいう)について、
図1〜
図4を参照しながら説明する。
【0020】
<工作機械システム10の構成>
図1は、本発明の第1実施形態における位置補正システムとしての工作機械システム10の全体構成図である。この工作機械システム10は、工具交換装置12を有する工作機械14と、加工プログラムを用いて工作機械14を制御する数値制御装置16を含んで構成される。工作機械14は、図示しない被加工物に対して所望の機械加工(例えば、フライス加工、施削加工、ドリル加工、中ぐり加工)を施す装置である。
【0021】
この工作機械14は、本体部18と、主軸20を有する主軸頭22と、電源スイッチ24と、軸支部26を含んで構成される。電源スイッチ24がオン状態であるときに工作機械14に対して電源28から電力が供給される一方、電源スイッチ24がオフ状態であるときに工作機械14に対して電源28からの電力の供給が停止される。
【0022】
軸支部26は、工具交換装置12を本体部18に対して回動可能に軸支する。工具Tを交換するときに工具交換装置12を主軸頭22に近接する位置に移動させる一方、交換時以外のときに工具交換装置12を主軸頭22から離間する位置に移動させる。これにより、被加工物の加工時における作業空間を広く確保することができる。
【0023】
工具交換装置12は、複数の工具Tを保持可能なタレット30と、旋回軸32を中心にタレット30を旋回駆動させるタレット駆動モータ34(旋回駆動部/位置補正部)と、タレット駆動モータ34のギア(以下、モータ側ギア36)と噛合可能なタレット側ギア37を備える。
【0024】
タレット駆動モータ34は、例えば、電力により作動する電動式のサーボモータで構成されており、本体部18の所定位置に固定されている。工具交換装置12が主軸頭22に近接する位置にあるとき、モータ側ギア36とタレット側ギア37が互いに噛み合うことで、タレット駆動モータ34によるタレット30の旋回動作が可能となる。
【0025】
なお、タレット駆動モータ34は、旋回位置座標(ここでは、絶対位置)を検出可能なエンコーダ38(旋回位置座標検出部)を含んで構成されており、検出された旋回位置座標を示す信号を数値制御装置16(具体的には、後述するサーボアンプ54)に向けて出力する。
【0026】
数値制御装置16は、PMC(Programmable Machine Controller)50と、軸制御回路52と、サーボアンプ54と、MDI(Manual Data Input)操作部56と、記憶部58と、演算部60を含んで構成されるコンピュータである。
【0027】
PMC50は、ラダープログラム等を実行することで工作機械14に対して所望のシーケンス制御を行う装置である。軸制御回路52は、工作機械14に対して多軸制御を行うための電気回路である。サーボアンプ54は、タレット駆動モータ34を含む複数の駆動モータを回転駆動させるためのドライバであり、タレット30の旋回位置が、軸制御回路52による指令位置と一致するようにタレット駆動モータ34を駆動させる。
【0028】
MDI操作部56は、例えば、キーボード、マウス、タッチセンサ、ディスプレイ、スピーカを含む入出力装置からなり、工作機械システム10の運転に関わる運転情報を種々の形態で入力又は出力可能に構成されている。
【0029】
記憶部58は、少なくとも1つの揮発性又は不揮発性のメモリ装置から構成される。メモリ装置は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、PROM(Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等で構成される。本図例では、記憶部58には、図示しない起動プログラム及び加工プログラムの他、基準位置Pr(
図2A〜
図3B参照)を示す位置データ62が格納されている。
【0030】
演算部60は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro-Processing Unit)のプロセッサによって構成されている。演算部60は、プロセッサが記憶部58に格納されたプログラムを読み出し実行することで、電力状態判断部64、旋回ずれ算出部66、補正要否判定部68、補正指示部70を含む各々の機能を実行可能である。
【0031】
<タレット30の具体的構成>
続いて、複数の工具Tを保持するタレット30の具体的構成について、
図2A〜
図3Bを参照しながら説明する。以下、複数の工具Tを明確に識別する場合、それぞれの工具をT1、T2、T3、T4(4つの場合)と分けて表記する。
【0032】
図2A及び
図2Bは、タレット30の旋回位置の時間変化を示す第1の遷移図である。より詳しくは、
図2Aは、電源スイッチ24(
図1)がオン状態であるタレット30の旋回位置を示す。また、
図2Bは、
図2Aの位置状態から、電源スイッチ24(
図1)をオフ状態に切り替えた直後におけるタレット30の旋回位置を示す。
【0033】
概略円盤状のタレット30には、工具Tを1つずつ保持可能である複数のグリップ40(工具保持部材)が設けられている。本図の例では、12個のグリップ40は、タレット30の周方向に沿って等角度間隔(具体的には、30度間隔)で配置されている。以下、12個のうち4つのタレット30が同じ重量の工具(以下、4つの工具T1、T2、T3、T4)を保持している場合を想定する。
【0034】
記憶部58(
図1)には、グリップ40の割出位置を示す番号(以下、割出番号)と、割出位置に対応する座標(以下、旋回位置座標)が対応付けて格納されている。この割出位置及び旋回位置座標を参照することで、所望の工具Tを保持するグリップ40を割り出すことができる。
【0035】
図2Aに示すように、4つの工具T1〜T4はそれぞれ、最上位置を基準(0度)とする角度方向において、90度、180度、270度、360度(0度)の位置に配置されている。つまり、4つの工具T1〜T4における重量分布は旋回軸32に対して略均等になり、タレット30の重心は、旋回軸32の上又は旋回軸32に近い位置にある。この状態にて電源スイッチ24をオン状態からオフ状態に切り替え、タレット駆動モータ34の励磁を強制的に切断したとする。
【0036】
図2Bに示すように、4つの工具T1〜T4における重量分布が略均等である場合、タレット30を旋回させる力が発生しないか軽微であるため、タレット30は、
図2Aに示す旋回位置をそのまま維持する。例えば、工具T1に対応するタレット30の旋回位置を基準位置Prとして定義するとき、タレット30の現在位置Pcは、基準位置Prに一致する。
【0037】
図3A及び
図3Bは、タレット30の旋回位置の時間変化を示す第2の遷移図である。より詳しくは、
図3Aは、電源スイッチ24がオン状態であるタレット30の旋回位置を示す。また、
図3Bは、
図3Aの位置状態から、電源スイッチ24をオフ状態に切り替えた直後におけるタレット30の旋回位置を示す。
【0038】
図3Aに示すように、4つの工具T1〜T4はそれぞれ、最上位置を基準(0度)とする角度方向において、90度、240度、270度、300度の位置に配置されている。つまり、4つの工具T1〜T4における重量分布は旋回軸32に対して左側(270度)に大きく偏っており、タレット30の重心は、旋回軸32から離れた位置にある。この状態にて電源スイッチ24をオン状態からオフ状態に切り替え、タレット駆動モータ34の励磁を強制的に切断したとする。
【0039】
図3Bに示すように、4つの工具T1〜T4における重量分布が偏っている場合、タレット30の重心位置を下げる方向、すなわちタレット30を反時計回りに旋回させる力が発生し、タレット30は、
図3Aに示す基準位置Prに対して旋回ずれδだけ移動してしまう。このように、電源28の状態の切り替わりに伴って、無視できない程度の旋回ずれδが生じた状態下に工具交換装置12を作動させる場合、工具T1〜T4の交換に失敗したり、工作機械14の主軸20に衝撃を与えたりする可能性がある。
【0040】
そこで、タレット駆動モータ34に対して何らかの作用が働いてタレット30の旋回ずれδが発生した場合、工作機械システム10を用いてタレット30の旋回位置を補正する手法(以下、旋回補正という)を提案する。
【0041】
<工作機械システム10の動作>
第1実施形態における工作機械システム10は、以上のように構成される。続いて、工作機械システム10の動作、具体的には旋回補正について、
図4のフローチャートを参照しながら説明する。この旋回補正に先立ち、グリップ40の割出位置に対応する旋回位置座標を、タレット30の基準位置を示す座標として記憶部58に記憶させておく。
【0042】
図4のステップS1において、電力状態判断部64は、タレット駆動モータ34に対する電力供給のオン・オフ状態を判断する。ここでは、電力状態判断部64は、電源スイッチ24の状態が「オフ」から「オン」に切り替わったと判断する。
【0043】
ステップS2において、エンコーダ38は、ステップS1にて特定の切り替わりがあったと判断された直後に、タレット30の現在位置Pcを示す旋回位置座標を検出する(換言すれば、基準位置Prに対する旋回ずれδを検出する)。具体的には、エンコーダ38は、タレット駆動モータ34から得た信号をサーボアンプ54に向けて出力する。
【0044】
ここで、「判断された直後」とは、実際に判断した時点から起算して、タレット駆動モータ34が最初に駆動を開始するまでの時間帯であればよい。また、基準位置Prは、電源スイッチ24がオン状態からオフ状態に切り替わる直前(タレット駆動モータ34が最後に駆動した時点以降)のタレット30の旋回位置に相当する。
【0045】
ステップS3において、旋回ずれ算出部66は、ステップS2により検出されたタレット30の旋回位置座標を用いて、旋回ずれδの大きさ(以下、旋回ずれ量|δ|)を算出する。具体的には、旋回ずれ算出部66は、記憶部58に記憶された位置データ62を読み出して基準位置Prを示す旋回位置座標を取得し、この基準位置Prに対する現在位置Pcの誤差に相当する旋回ずれ量|δ|を算出する。
【0046】
ステップS4において、補正要否判定部68は、ステップS3により算出された旋回ずれ量|δ|と、予め設定されている閾値Th1の間の大小関係に応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する。具体的には、補正要否判定部68は、|δ|≧Th1の関係を満たす場合(ステップS4:YES)に旋回補正が「必要」であると判定し、次のステップ(S5)に進む。一方、補正要否判定部68は、|δ|<Th1の関係を満たす場合(ステップS4:NO)に旋回補正が「不要」であると判定し、ステップS5の実行を省略する。
【0047】
ステップS5において、工作機械システム10は、旋回補正が必要である場合に、旋回ずれδの自動補正を行う。具体的には、補正指示部70は、軸制御回路52に対して、タレット30の現在位置Pcを基準位置Prに戻す動作を行う旨を指示する。その後、サーボアンプ54は、軸制御回路52からの指令を受け付けて、タレット駆動モータ34に対して、旋回ずれδを相殺する補正量(−δ)だけ旋回させる駆動制御を行う。その結果、タレット30の旋回ずれδが解消され、与えられた許容値(ここでは、閾値Th1)よりも常に小さく設定されることになる。
【0048】
<位置データ62の作成方法>
続いて、基準位置Prを示す位置データ62の作成方法について説明する。以下に示す方法は、第1実施形態のみならず、後述する実施形態(第2及び第3実施形態)にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0049】
(第1の作成方法)
先ず、位置データ62を作成する第1の方法について説明する。例えば、工作機械14のシャットダウン時にタレット30を常に定位置に戻す場合には、上記した定位置を示す位置データ62を記憶部58に格納しておく。この場合、補正要否判定部68は、位置データ62により特定されるタレット30の初期位置を基準位置Prとして、旋回補正の要否を判定してもよい。
【0050】
(第2の作成方法)
次いで、位置データ62を作成する第2の方法について説明する。例えば、電源28がオン状態の間に、タレット30の基準位置Prを示す旋回位置座標を不揮発性の記憶部58に逐次上書きしておく。そして、補正要否判定部68は、電源28が一時的にオフ状態になった場合、電源28がオフ状態からオン状態に切り替わった直後に記憶部58から読み出した旋回位置座標(つまり、タレット30の最終停止位置)から基準位置Prを特定し、旋回補正の要否を判定してもよい。予期しない電力の供給停止(例えば、停電)が起こった場合であっても、工具交換装置12を適切な位置範囲内に配置できる。
【0051】
<第1実施形態による効果>
以上のように、工作機械システム10は、[1]工作機械14の主軸20に装着させる工具Tを保持可能な複数のグリップ40が周方向に沿って設けられたタレット30と、[2]旋回軸32を中心にタレット30を旋回駆動して、任意のグリップ40に割り出させるタレット駆動モータ34(旋回駆動部)と、を有する工具交換装置12の位置補正システムである。
【0052】
そして、この工作機械システム10は、[3]グリップ40の割出位置に対応するタレット30の旋回位置座標を、タレット30の基準位置を示す座標として記憶する記憶部58と、[4]タレット30の旋回位置座標を検出するエンコーダ38(旋回位置座標検出部)と、[5]検出されたタレット30の旋回位置座標の、記憶された旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する補正要否判定部68と、[6]旋回補正を行う必要があると判定された場合、旋回補正に関わる動作又は作業を要求する補正要求手段と、を備える。
【0053】
また、この工具交換装置12の位置補正方法は、[1]グリップ40の割出位置に対応するタレット30の旋回位置座標を、タレット30の基準位置Prを示す座標として記憶する記憶ステップと、[2]タレット30の旋回位置座標を検出する検出ステップ(S2)と、[3]検出されたタレット30の旋回位置座標の、記憶されたタレット30の旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する判定ステップ(S4)と、[4]旋回補正を行う必要があると判定された場合、旋回補正に関わる動作又は作業を要求する要求ステップ(S5)と、を備える。
【0054】
このように、検出された旋回位置座標の、記憶された旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定するようにしたので、タレット駆動モータ34を含む工具交換装置12の動作を開始又は再開した後、重心位置を下げる方向にタレット30が実際に旋回したか否かにかかわらず、タレット30の旋回位置を常に適切な座標に設定可能となる。これにより、タレット駆動モータ34に対して何らかの作用が働いてタレット30の旋回ずれδが発生する場合であっても、別異のブレーキ機構の増設により旋回ずれδを防止することなく、工具交換装置12を適切な位置範囲内に配置できる。
【0055】
特に、工作機械システム10は、電力により作動するタレット駆動モータ34に対する電力供給のオン・オフ状態を判断する電力状態判断部64を更に備えると共に、補正要否判定部68は、電力状態判断部64により電力供給がオフ状態からオン状態に切り替わったと判断された場合、旋回補正を行う必要があるか否かを判定してもよい。タレット駆動モータ34に対する電力供給の停止をトリガとしてタレット30が旋回し易くなる傾向があるので、特に効果的である。
【0056】
ここで、補正要求手段は、タレット駆動モータ34に対して、タレット30を基準位置Prに戻す動作を行う旨を指示する補正指示部70であってもよい。また、補正要否判定部68は、旋回ずれ量|δ|が閾値Th1を下回る場合に旋回補正が不要であると判定する一方、旋回ずれ量|δ|が閾値Th1以上である場合に旋回補正を行う必要があると判定してもよい。自動による旋回補正を用いることで、タレット30の旋回ずれδが、与えられた許容値(つまり、閾値Th1)よりも常に小さく設定される。
【0057】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態における位置補正システムについて、
図5及び
図6を参照しながら説明する。なお、第1実施形態(工作機械システム10)と同様の構成には同一の参照符号を付すると共に、その構成に関する説明を省略する場合がある。
【0058】
<工作機械システム80の構成>
図5は、本発明の第2実施形態における位置補正システムとしての工作機械システム80の全体構成図である。この工作機械システム80は、工具交換装置12を有する工作機械14と、加工プログラムを用いて工作機械14を制御する数値制御装置82を含んで構成される。工作機械14は、基本的には、第1実施形態の場合と同じ構成を有する。
【0059】
数値制御装置82は、PMC50と、軸制御回路52、サーボアンプ54、及び記憶部58の他、第1実施形態とはそれぞれ構成又は機能が異なるMDI操作部84(報知部/補正要求手段)、演算部86を含んで構成されるコンピュータである。
【0060】
MDI操作部84は、例えば、キーボード、マウス、タッチセンサ、ディスプレイ、スピーカを含む入出力装置からなり、工作機械システム80の運転に関わる運転情報を種々の形態で入力又は出力可能に構成されている。具体的には、MDI操作部84は、後述する旋回補正の実行を誘導するための復旧画面を表示可能であり、作業者に対して旋回補正の実行を促すための警告音を出力可能である。
【0061】
演算部86は、第1実施形態(演算部60)と同様に、CPU又はMPUのプロセッサによって構成されている。演算部86は、プロセッサが記憶部58に格納されたプログラムを読み出し実行することで、電力状態判断部64、旋回ずれ算出部66、補正要否判定部88、出力指示部90を含む各々の機能を実行可能である。
【0062】
<工作機械システム80の動作>
第2実施形態における工作機械システム80は、以上のように構成される。続いて、工作機械システム80の動作(具体的には、旋回補正)について、
図6のフローチャートを参照しながら、第1実施形態(
図4)とは異なる特徴を中心に説明する。
【0063】
図6に示すように、電力状態判断部64は、ステップS1の場合と同様に、タレット駆動モータ34に対する電力供給のオン・オフ状態を判断する(ステップS11)。エンコーダ38は、ステップS2の場合と同様に、タレット30の現在位置Pcを示す旋回位置座標、つまり、基準位置Prに対する旋回ずれδを検出する(ステップS12)。旋回ずれ算出部66は、ステップS3の場合と同様に、検出された旋回位置座標及び記憶された旋回位置座標を用いて、旋回ずれ量|δ|を算出する(ステップS13)。
【0064】
ステップS14において、補正要否判定部88は、ステップS13により算出された旋回ずれ量|δ|と、予め設定されている閾値Th2の間の大小関係に応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する。具体的には、補正要否判定部68は、|δ|≧Th2の関係を満たす場合(ステップS14:YES)に旋回補正が「必要」であると判定し、次のステップ(S15)に進む。一方、補正要否判定部88は、|δ|<Th2の関係を満たす場合(ステップS14:NO)に旋回補正が「不要」であると判定し、ステップS15、S16の実行を省略する。
【0065】
ステップS15において、MDI操作部84は、旋回補正が必要である場合に、作業者に対して、タレット30を基準位置Prに戻す作業を行う旨を報知するガイダンス表示を行う。具体的には、出力指示部90は、作業の復旧画面を示す表示用データをMDI操作部84に向けて出力する。これにより、MDI操作部84は、旋回補正の実行を誘導するための復旧画面(例えば、旋回ずれδ又は補正量(−δ)の内容を含む。)を所定の表示領域内に表示する。或いは、MDI操作部84は、出力指示部90からの出力指示に応じて、作業者に対して旋回補正の実行を促すための警告音を発してもよい。
【0066】
ステップS16において、作業者は、ステップS15によるガイダンス表示に従って、手動による復旧作業(すなわち、旋回ずれδの手動補正)を行う。例えば、作業者は、表示されている旋回ずれδ又は補正量(−δ)を確認した後、手動(マニュアル操作)によりタレット30の位置を戻す。その結果、タレット30の旋回ずれδが解消され、与えられた許容値(つまり、閾値Th2)よりも常に小さく設定されることになる。
【0067】
<第2実施形態による効果>
以上のように、工作機械システム80は、[1]工作機械14の主軸20に装着させる工具Tを保持可能な複数のグリップ40が周方向に沿って設けられたタレット30と、[2]旋回軸32を中心にタレット30を旋回駆動して、任意のグリップ40に割り出させるタレット駆動モータ34(旋回駆動部)と、を有する工具交換装置12の位置補正システムである。
【0068】
そして、この工作機械システム80は、[3]グリップ40の割出位置に対応するタレット30の旋回位置座標を、タレット30の基準位置Prを示す座標として記憶する記憶部58と、[4]タレット30の旋回位置座標を検出するエンコーダ38(旋回位置座標検出部)と、[5]検出されたタレット30の旋回位置座標の、記憶された旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する補正要否判定部88と、[6]旋回補正を行う必要があると判定された場合、旋回補正に関わる動作又は作業を要求する補正要求手段と、を備える。
【0069】
また、この工具交換装置12の位置補正方法は、[1]グリップ40の割出位置に対応するタレット30の旋回位置座標を、タレット30の基準位置Prを示す座標として記憶する記憶ステップと、[2]タレット30の旋回位置座標を検出する検出ステップ(S12)と、[3]検出されたタレット30の旋回位置座標の、記憶されたタレット30の旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する判定ステップ(S14)と、[4]旋回補正を行う必要があると判定された場合、旋回補正に関わる動作又は作業を要求する要求ステップ(S15)と、を備える。
【0070】
このように構成したので、第1実施形態(工作機械システム10)の場合と同様の作用・効果が得られる。つまり、タレット駆動モータ34に対して何らかの作用が働いてタレット30の旋回ずれδが発生した場合であっても、別異のブレーキ機構の増設により旋回ずれδを防止することなく、工具交換装置12を適切な位置範囲内に配置できる。
【0071】
ここで、補正要求手段は、作業者に対して、タレット30を基準位置Prに戻す作業を行う旨を報知するMDI操作部84(報知部)であってもよい。また、補正要否判定部88は、旋回ずれ量|δ|が閾値Th2を下回る場合に旋回補正が不要であると判定する一方、旋回ずれ量|δ|が閾値Th2以上である場合に旋回補正を行う必要があると判定する。手動による旋回補正を用いることで、タレット30の旋回ずれδが、与えられた許容値(つまり、閾値Th2)よりも常に小さく設定される。
【0072】
[第3実施形態]
続いて、第3実施形態における位置補正システムについて、
図7及び
図8を参照しながら説明する。なお、第1実施形態(工作機械システム10)又は第2実施形態(工作機械システム80)と同様の構成には同一の参照符号を付すると共に、その構成に関する説明を省略する場合がある。
【0073】
<工作機械システム100の構成>
図7は、本発明の第3実施形態における位置補正システムとしての工作機械システム100の全体構成図である。この工作機械システム100は、工具交換装置12を有する工作機械14と、加工プログラムを用いて工作機械14を制御する数値制御装置102を含んで構成される。工作機械14は、基本的には、第1実施形態の場合と同じ構成を有する。
【0074】
数値制御装置102は、PMC50と、軸制御回路52、サーボアンプ54、記憶部58、及びMDI操作部84の他、第1実施形態とは構成又は機能が異なる演算部104を含んで構成されるコンピュータである。
【0075】
演算部104は、第1実施形態(演算部60)と同様に、CPU又はMPUのプロセッサによって構成されている。演算部104は、プロセッサが記憶部58に格納されたプログラムを読み出し実行することで、電力状態判断部64、旋回ずれ算出部66、補正要否判定部106、補正指示部70、出力指示部90を含む各々の機能を実行可能である。
【0076】
<工作機械システム100の動作>
第3実施形態における工作機械システム100は、以上のように構成される。続いて、工作機械システム100の動作(具体的には、旋回補正)について、
図8のフローチャートを参照しながら、第1実施形態(
図4)とは異なる特徴を中心に説明する。
【0077】
図8に示すように、電力状態判断部64は、ステップS1の場合と同様に、タレット駆動モータ34に対する電力供給のオン・オフ状態を判断する(ステップS21)。エンコーダ38は、ステップS2の場合と同様に、タレット30の現在位置Pcを示す旋回位置座標、つまり、基準位置Prに対する旋回ずれδを検出する(ステップS22)。旋回ずれ算出部66は、ステップS3の場合と同様に、検出された旋回位置座標及び記憶された旋回位置座標を用いて、旋回ずれ量|δ|を算出する(ステップS23)。
【0078】
ステップS24において、補正要否判定部106は、ステップS23により算出された旋回ずれ量|δ|と、予め設定されている閾値Th1(第1閾値)、閾値Th2(第2閾値)の間の大小関係に応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する。ここでは、0<Th1<Th2を満たすとする。
【0079】
具体的には、補正要否判定部106は、|δ|≧Th2の関係を満たす場合(ステップS24:|δ|≧Th2)には、手動(マニュアル操作)による旋回補正が「必要」であると判定し、次のステップS25、S26に進む。MDI操作部84は、出力指示部90からの指示に応じて、作業者に対してタレット30を基準位置Prに戻す作業を行う旨を報知するガイダンス表示を行う(ステップS25)。そして、作業者は、ステップS25によるガイダンス表示に従って、手動による復旧作業(旋回ずれδの手動補正)を行う(ステップS26)。
【0080】
また、補正要否判定部106は、Th1≦|δ|<Th2の関係を満たす場合(ステップS24:Th1≦|δ|<Th2)には、自動による旋回補正が「必要」であると判定し、次のステップS27に進む。工作機械システム100は、補正指示部70からの指示に応じて、旋回ずれδの自動補正を行う(ステップS27)。
【0081】
一方、補正要否判定部106は、0≦|δ|<Th1の関係を満たす場合(ステップS24:0≦|δ|<Th1)には、旋回補正が「不要」であると判定し、ステップS25〜S27の実行を省略する。
【0082】
<第3実施形態による効果>
以上のように、工作機械システム100は、[1]工作機械14の主軸20に装着させる工具Tを保持可能な複数のグリップ40が周方向に沿って設けられたタレット30と、[2]旋回軸32を中心にタレット30を旋回駆動して、任意のグリップ40に割り出させるタレット駆動モータ34(旋回駆動部)と、を有する工具交換装置12の位置補正システムである。
【0083】
そして、この工作機械システム100は、[3]グリップ40の割出位置に対応するタレット30の旋回位置座標を、タレット30の基準位置Prを示す座標として記憶する記憶部58と、[4]タレット30の旋回位置座標を検出するエンコーダ38(旋回位置座標検出部)と、[5]検出されたタレット30の旋回位置座標の、記憶された旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する補正要否判定部106と、[6]旋回補正を行う必要があると判定された場合、旋回補正に関わる動作又は作業を要求する補正要求手段と、を備える。
【0084】
また、この工具交換装置12の位置補正方法は、[1]グリップ40の割出位置に対応するタレット30の旋回位置座標を、タレット30の基準位置Prを示す座標として記憶する記憶ステップと、[2]タレット30の旋回位置座標を検出する検出ステップ(S22)と、[3]検出されたタレット30の旋回位置座標の、記憶されたタレット30の旋回位置座標に対する旋回ずれδに応じて、タレット30を基準位置Prに戻す旋回補正を行う必要があるか否かを判定する判定ステップ(S24)と、[4]旋回補正を行う必要があると判定された場合、旋回補正に関わる動作又は作業を要求する要求ステップ(S25、S27)と、を備える。
【0085】
このように構成したので、第1実施形態(工作機械システム10)の場合と同様の作用・効果が得られる。つまり、タレット駆動モータ34に対して何らかの作用が働いてタレット30の旋回ずれδが発生する場合であっても、別異のブレーキ機構の増設により旋回ずれδを防止することなく、工具交換装置12を適切な位置範囲内に配置できる。
【0086】
ここで、補正要求手段は、(a)タレット駆動モータ34に対してタレット30を基準位置Prに戻す動作を行う旨を指示する補正指示部70、及び(b)作業者に対してタレット30を基準位置Prに戻す作業を行う旨を報知するMDI操作部84(報知部)であってもよい。また、補正要否判定部106は、(1)旋回ずれ量|δ|が第1閾値Th1を下回る場合に旋回補正が不要であると判定し、(2)旋回ずれ量|δ|が第2閾値Th2(>Th1)以上である場合にMDI操作部84による報知を伴う旋回補正が必要であると判定し、(3)旋回ずれ量|δ|が第1閾値Th1以上であって第2閾値Th2を下回る場合に補正指示部70による指示を伴う旋回補正が必要であると判定する。タレット30の旋回ずれδの程度に応じて自動又は手動を使い分けることで、臨機応変な旋回補正の対処が可能となる。
【0087】
[備考]
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。或いは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。