(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る異常判定装置および異常判定方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、駆動系10と駆動系10の異常を判定する異常判定装置12とを有する異常判定システム14を示す図である。駆動系10は、ロボットまたは加工機(工作機械または射出成形機等)に設けられている。例えば、工作機械の場合は、駆動系10は、テーブルや工具等の駆動対象物28を軸移動させるための駆動系であり、射出成形機の場合は、駆動系10は、駆動対象物28である射出スクリューを回転させたり、進退移動させたりするための駆動系である。また、ロボットの場合は、駆動系10は、駆動対象物28であるアームを関節で折り曲げたり、アームを旋回させたりするための機構である。
【0012】
駆動系10は、モータ制御部20、サーボアンプ22、サーボモータ24、駆動力伝達機構26、および、駆動対象物28を有する。つまり、駆動系10は、駆動対象物28からモータ制御部20までの各機構、部材、部品等によって構成される。
【0013】
サーボアンプ22は、サーボモータ24を駆動させるものであり、モータ制御部20は、サーボアンプ22を制御することで、サーボモータ24の回転を制御する。
【0014】
駆動力伝達機構26は、サーボモータ24の駆動力(回転力)を駆動対象物28に伝達するものである。これにより、駆動対象物28が駆動する。駆動力伝達機構26は、サーボモータ24の回転力を直進運動に変換して駆動対象物28に伝達させたり、サーボモータ24の回転力をそのまま駆動対象物28に伝達させるものであってもよい。したがって、駆動力伝達機構26は、ボールネジ、ギア、プーリのいずれか1つを含んで構成されてもよい。
【0015】
異常判定装置12は、揺動信号送出部30、測定部32、比較部34、異常判定部36、報知部38、および、測定開始制御部40を備える。異常判定装置12は、少なくともCPU等のプロセッサと異常判定用のプログラムが記憶された記憶媒体とを有し、プロセッサが異常判定用のプログラムを実行することで、本第1の実施の形態の異常判定装置12として機能する。
【0016】
揺動信号送出部30は、サーボモータ24の回転軸を予め決められたパターンで揺動させて回転させるための揺動信号Osを、モータ制御部20に送出する。揺動信号Osは、その値が周期的に変化する信号である。ここで、揺動信号Osとは、サーボモータ24の現在の回転軸の回転位置(以下、基準位置と呼ぶ。)を基準にして、回転軸を正方向にある所定の角度だけ回転させた後、回転軸を逆方向にある所定の角度だけ回転させるという動作を繰り返し行うように、モータ制御部20を制御する指令信号である。揺動信号Osの値は、サーボモータ24の回転軸の指令位置(指令回転位置)を示す。
【0017】
図2は、揺動信号送出部30が送出する揺動信号Osの一例を示す図である。
図2に示すように、揺動信号Osは、サーボモータ24の回転軸が予め決められたパターンで揺動して回転するような指令信号である。モータ制御部20に送出される揺動信号Osは、時間の経過とともに振幅および周波数が徐々に大きくなるような指令信号となっているので、揺動信号Osに基づく回転軸の揺動も時間の経過とともに振幅および周波数が徐々に大きくなる。揺動の振幅が大きくなるにつれ、回転軸の回転角度が大きくなり、揺動の周波数が大きくなるにつれ、回転軸の回転速度が速くなる。
【0018】
基準位置からの正方向および逆方向への回転の振幅(回転位置、回転角度)、つまり、揺動の振幅は、時間の経過とともに徐々に大きくなる。また、揺動の周波数は、時間の経過とともに徐々に大きくなる。特定の振幅、周波数でしか検知できない異常であっても、振幅および周波数を変えることで、それに対応することができる。これにより、駆動系10に発生する様々な異常を検知することができる。
【0019】
揺動信号Osの値「0」は、基準位置を示し、+符号(正符号)の揺動信号Osの値は、基準位置から正方向側への回転軸の指令位置を示し、−符号(負符号)の揺動信号Osは、基準位置から逆方向側への回転軸の指令位置を示す。指令位置が基準位置「0」から離れる程、回転軸の基準位置からの回転角度が大きくなる。この揺動信号Osがモータ制御部20に与えられると、モータ制御部20は、揺動信号Osにしたがってサーボモータ24の回転軸を揺動させて回転させる。
【0020】
測定部32は、サーボモータ24の回転軸が揺動したときのサーボモータの状態を表す物理量Psを測定する。
図3に示すように、測定部32が測定した物理量Psを示す測定信号Msは、揺動信号Osに対応して周期的に変動する。測定部32は、測定信号Msを比較部34に出力する。
【0021】
サーボモータ24の状態を表す物理量Psとしては、サーボモータ24に流れる電流、サーボモータ24の回転軸のトルク、回転位置、速度、加速度、または、イナーシャ等がある。サーボモータ24に流れる電流を測定する場合は、測定部32は電流センサを有してもよく、サーボモータ24の回転軸のトルクを測定する場合は、測定部32はトルクセンサを有してもよい。測定部32は、測定した電流値からトルクを算出してもよい。また、サーボモータ24の回転軸の回転位置を測定する場合は、測定部32は、回転位置を検出するエンコーダを有してもよい。測定部32は、回転位置から速度、加速度を算出してもよい。また、測定部32は、電流値と回転位置とからイナーシャを算出してもよい。
【0022】
なお、測定部32は、物理量Psとして、駆動対象物28のトルク、位置、速度、加速度、または、イナーシャを測定してもよい。駆動対象物28の物理量Psもサーボモータ24の状態を示しているからである。要は、測定部32は、サーボモータ24の状態を表す物理量Psを測定すればよい。本第1の実施の形態では、測定部32は、物理量Psとしてサーボモータ24に流れる電流を測定するものとして説明する。
【0023】
比較部34は、測定部32からサーボモータ24に流れる電流(物理量)Psを示す測定信号(電流値を示す信号)Msが送られてくると、送られてきた測定信号Msと基準信号Ssとを比較する。基準信号Ssは、比較部34内の記憶部34aに記憶されている。
図4に示すように、基準信号Ssは、揺動信号Osに対応して周期的に変動する。
【0024】
基準信号Ssは、駆動系10に異常が発生していないとき(例えば、組み立て時)であって、サーボモータ24の回転軸を揺動信号Osに応じて揺動させたときに測定部32が測定した測定信号Msであってもよい。また、基準信号Ssは、過去に測定部32が測定した測定信号Msであってもよく、その平均値であってもよい。比較部34は、測定信号Msと基準信号Ssを比較することでその差Dを算出する。比較部34は、比較結果(差D)を異常判定部36に出力する。なお、比較部34については後で具体的に説明する。
【0025】
異常判定部36は、比較部34から比較結果が送られてくると、送られてきた比較結果に基づいて駆動系10の異常を判定する。異常判定部36は、比較部34が算出した差Dが閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定し、差Dが閾値THより小さい場合は、駆動系10が正常であると判定する。
【0026】
駆動系10に異常がない場合は、測定した測定信号Msと基準信号Ssとは一致または許容範囲内で一致する。しかしながら、駆動系10に何らかの異常がある場合、例えば、サーボモータ24または駆動力伝達機構26に設けられた駆動力を発生または伝達するための部材を支持するためのボルトの緩み等(異常)によって、サーボモータ24にかかる負荷が変動する場合がある。サーボモータ24にかかる負荷が変動すると測定される測定信号Msが正常時のときから変動する。また、サーボアンプ22またはモータ制御部20に何らかの異常がある場合は、揺動信号Os通りにサーボモータ24を制御することができなくなるため、測定される測定信号Msが正常時のときから変動する。
【0027】
そのため、駆動系10に異常がある場合は、測定信号Msと基準信号Ssとの差Dが許容範囲外となってしまう。したがって、異常判定部36は、測定信号Msと基準信号Ssとの差Dが閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定する。異常判定部36は、駆動系10に異常があると判定すると、異常信号ERを報知部38に出力する。
【0028】
報知部38は、異常判定部36から異常信号ERが送られてくると、駆動系10が異常であることをオペレータに報知する。報知部38は、表示装置を備えてもよく、異常信号ERを受信すると表示装置に駆動系10が異常であることを表示することで、オペレータに報知してもよい。また、報知部38は、通信部を備えてもよく、異常信号ERを受信すると、通信部を介して他の外部機器(例えば、PC、スマートフォン等)に異常信号ERを送信することで、オペレータに報知してもよい。この場合は、オペレータは外部機器を介して駆動系10の異常を認識することになる。また、報知部38は、スピーカを備えてもよく、異常信号ERを受信するとスピーカから異常音(異常である旨を示す報知音)を出力することで、オペレータに報知してもよい。
【0029】
測定開始制御部40は、駆動系10の測定開始タイミングを管理するものである。測定開始制御部40は、測定開始タイミングになると、揺動信号送出部30および測定部32に測定開始信号STを送信する。揺動信号送出部30は、測定開始信号STを受信すると、揺動信号Osをモータ制御部20に送出する。測定部32は、揺動開始信号を受信すると、サーボモータ24の電流Psを計測する。
【0030】
測定開始制御部40は、オペレータの図示しない入力部の操作によって、異常判定を開始する操作が行なわれると、測定開始タイミングが到来したと判断して、揺動信号送出部30および測定部32に測定開始信号STを送信してもよい。また、異常判定を周期的に行う場合は、測定開始制御部40は、測定開始タイミングが到来すると、揺動信号送出部30および測定部32に測定開始信号STを送信する。この場合は、測定開始制御部40は、周期的に測定開始信号STを揺動信号送出部30および測定部32に送信する。
【0031】
次に、比較部34について具体的に説明する。本第1の実施の形態では、比較部34による比較方法として、4つ例を挙げて説明するが、それ以外の方法で比較してもよい。
図5は、第1の比較方法を説明するための図、
図6は、第2の比較方法を説明するための図、
図7は、第3の比較方法を説明するための図、
図8は、第4の比較方法を説明するための図である。なお、
図5〜
図8中に示す実線の波形は、測定した測定信号Msを表し、破線の波形は、基準信号Ssを表す。
【0032】
<第1の比較方法>
まず、第1の比較方法について説明する。第1の比較方法の場合は(
図5参照)、比較部34は、予め決められた複数のタイミングの各々における測定信号Msと基準信号Ssとの差(絶対値)を求め、その和D
1を算出する。この予め決められた複数のタイミングは、予め決められた期間における各タイミングであってもよい。駆動系10に異常がない場合は、差の和(比較結果)D
1は、閾値THより小さい値(例えば、0)となる。したがって、異常判定部36は、比較部34が算出した差の和D
1が閾値TH以上の場合は、駆動系10に異常があると判定し、差の和D
1が閾値THより小さい場合は、駆動系10が正常であると判定する。
【0033】
比較部34は、下記に示す数式(1)を用いて、タイミングt
m〜t
nまでの期間における各タイミングの差の和(総和)D
1を算出する。但し、f(t
i)は、タイミングt
iにおける測定信号Msを示し、g(t
i)は、タイミングt
iにおける基準信号Ssを示す。また、i=m〜n、m<n、とする。なお、
図5に示す例では、t
m=0、である。
【0035】
なお、第1の比較方法では、予め決められた期間における各タイミングを予め決められた複数のタイミングとしたが、この複数のタイミングは連続したタイミングである必要はない。予め決められた複数のタイミングは、任意のタイミングであってもよく、一定時間間隔毎のタイミングであってもよい。
【0036】
また、第1の比較方法のときの閾値THは、揺動信号Osと予め決められた複数のタイミングとに応じて決定される。
図2に示すように、時間の経過とともに、揺動の振幅および周期が徐々に大きくなるような揺動信号Osをモータ制御部20に送出しているので、
図5に示すように揺動開始からの時間が長くなる程、測定信号Msと基準信号Ssとの差が大きくなるからである。
【0037】
<第2の比較方法>
第2の比較方法の場合は(
図6参照)、比較部34は、予め決められた期間における測定信号Msと基準信号Ssとの差(絶対値)の積分値D
2を算出する。この場合も、駆動系10に異常がない場合は、差の積分値D
2は、閾値THより小さい値(例えば、0)となる。したがって、異常判定部36は、比較部34が算出した差の積分値(比較結果)D
2が閾値TH以上の場合は、駆動系10に異常があると判定し、差の積分値D
2が閾値THより小さい場合は、駆動系10が正常であると判定する。
【0038】
比較部34は、下記に示す数式(2)を用いて、タイミングt
1〜t
2までの期間における測定信号Msと基準信号Ssとの差の積分値D
2を算出する。但し、f(t)は、タイミングtにおける測定信号Msを示し、g(t)は、タイミングtにおける基準信号Ssを示す。また、t
1<t
2、とする。なお、
図6に示す例では、t
1=0、である。
【0040】
なお、第2の比較方法のときの閾値THは、揺動信号Osと予め決められた期間(タイミングt
1〜t
2)とに応じて決定される。
図2に示すように、時間の経過とともに、揺動の振幅および周期が徐々に大きくなるような揺動信号Osをモータ制御部20に送出しているので、
図6に示すように、揺動開始からの時間が長くなる程、測定信号Msと基準信号Ssとの差が大きくなるからである。
【0041】
<第3の比較方法>
第3の比較方法の場合は(
図7参照)、比較部34は、測定信号MsのN番目の周期T
f(N)と、基準信号SsのN番目の周期T
g(N)とを比較することでその差(絶対値)D
3を算出する。
図7に示す例は、比較部34が、測定信号Msの1.5(=N)番目の周期T
f(1.5)と、基準信号Ssの1.5(=N)番目の周期T
g(1.5)とを比較する例を示している。つまり、比較部34は、測定信号Msおよび基準信号Ssの1番目の周期から半周期遅れたタイミングから始まる1周期同士を比較する。この場合も、駆動系10に異常がない場合は、周期の差D
3は、閾値THより小さい値(例えば、0)となる。したがって、異常判定部36は、比較部34が算出した1周期の差(比較結果)D
3が閾値TH以上の場合は、駆動系10に異常があると判定し、1周期の差D
3が閾値THより小さい場合は、駆動系10が正常であると判定する。
【0042】
比較部34は、下記に示す数式(3)を用いて、測定信号MsのN番目の周期T
f(N)と基準信号SsのN番目の周期T
g(N)との差D
3を算出する。
【0044】
なお、第3の比較方法のときの閾値THは、揺動信号OsとNの値とに応じて決定される。
図2に示すように、時間の経過とともに、揺動の振幅および周期が徐々に大きくなるような揺動信号Osをモータ制御部20に送出しているので、
図7に示すように、揺動開始からの時間が長くなる程、測定信号Msおよび基準信号Ssの周期が短くなるからである。
【0045】
<第4の比較方法>
第4の比較方法の場合は(
図8参照)、比較部34は、測定信号MsのN番目の振幅A
f(N)と、基準信号SsのN番目の振幅A
g(N)とを比較することでその差(絶対値)D
4を算出する。
図8に示す例は、比較部34は、測定信号Msの5(=N)番目の振幅A
f(5)と、基準信号Ssの5(=N)番目の振幅A
g(5)とを比較する例を示している。この場合も、駆動系10に異常がない場合は、振幅の差D
4は、閾値THより小さい値(例えば、0)となる。したがって、異常判定部36は、比較部34が算出した振幅の差(比較結果)D
4が閾値TH以上の場合は、駆動系10に異常があると判定し、振幅の差D
4が閾値THより小さい場合は、駆動系10が正常であると判定する。
【0046】
比較部34は、下記に示す数式(4)を用いて、測定信号MsのN番目の振幅A
f(N)と基準信号SsのN番目の振幅A
g(N)との差D
4を算出する。
【0048】
なお、第4の比較方法のときの閾値THは、揺動信号OsとNの値とに応じて決定される。
図2に示すように、時間の経過とともに、揺動の振幅および周期が徐々に大きくなるような揺動信号Osをモータ制御部20に送出しているので、
図8に示すように、揺動開始からの時間が長くなる程、測定信号Msおよび基準信号Ssの振幅が大きくなるからである。
【0049】
次に、
図9を用いて異常判定装置12の動作を簡単に説明する。ステップS1で、測定開始制御部40は、測定開始タイミングが到来したか否かを判断する。ステップS1で、測定開始タイミングが到来していないと判断されるとステップS1に戻る。一方、ステップS1で、測定開始タイミングが到来したと判断されると、ステップS2に進む。このとき、測定開始制御部40は、測定開始タイミングが到来したと判断すると、測定開始信号STを揺動信号送出部30および測定部32に送信する。
【0050】
ステップS2で、揺動信号送出部30は、揺動信号Osを駆動系10のモータ制御部20に送出し、ステップS3で、測定部32は、駆動系10のサーボモータ24の電流(物理量)Psを測定する。
【0051】
次いで、比較部34は、ステップS3で測定された電流Psの測定信号Msと記憶部34aに記憶されている基準信号Ssとを比較し(ステップS4)、異常判定部36は、比較結果に基づいて、駆動系10が異常であるか否かを判定する異常判定処理を行う(ステップS5)。ステップS4で、比較部34は、測定信号Msと基準信号Ssとを比較することでその差D(D
1〜D
4のいずれか1つであってもよい)を算出し、ステップS5で、異常判定部36は、その差(比較結果)Dが閾値TH以上の場合は駆動系10に異常が発生していると判定する。
【0052】
ステップS5で駆動系10に異常が発生していると判定されると、報知部38は、オペレータにその旨を報知して(ステップS6)、ステップS1に戻る(リターン)。また、ステップS5で駆動系10に異常が発生していないと判定されると、そのままステップS1に戻る(リターン)。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。上記第1の実施の形態では、異常判定の対象となる駆動系10において過去に測定した電流(物理用)Psの測定信号Msを基準信号Ssとして用いた。しかし、第2の実施の形態では、他の駆動系10において測定した物理量(電流)Psを基準信号Ssとして用いる点で上記第1の実施の形態と異なる。
【0054】
図10は、第2の実施の形態における異常判定システム14を示す図である。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成については、同一の参照符号を付し、異なる点のみを説明する。
【0055】
異常判定装置12は、複数(N個)の駆動系10の異常を判定する。複数の駆動系10は、同一の用途に使用される駆動系であり、例えば、同一機種の複数の加工機または複数のロボットで使用される。具体的には、複数の駆動系10は、同一機種の複数の射出成形機の射出スクリューを回転または移動させる駆動系であってもよく、同一機種の複数の射出成形機の可動金型を移動させる駆動系であってもよい。ここで、複数の駆動系10の各々を互いに区別するために、N個の駆動系10を駆動系10
1〜10
Nと呼ぶ場合がある。揺動信号送出部30は、複数の駆動系10(10
1〜10
N)のモータ制御部20に対して同一の揺動信号Osを送出する。
【0056】
測定部32は、複数の駆動系10(10
1〜10
N)のサーボモータ24の回転軸が揺動したときのサーボモータ24の状態を表す物理量(本第2の実施の形態でも電流とする)Psを測定する。つまり、各駆動系10のサーボモータ24に流れる電流Psを測定する。測定部32は、各駆動系10の測定信号Msを比較部34に出力する。ここで、複数の駆動系10
1〜10
Nの各々の電流Psを互いに区別するために電流Ps
1〜Ps
Nと呼ぶ場合があり、その測定信号MsをMs
1〜Ms
Nと呼ぶ場合がある。
【0057】
比較部34は、測定部32から送られてきた各駆動系10(10
1〜10
N)の電流Ps(Ps
1〜Ps
N)の測定信号Ms(Ms
1〜Ms
N)を記憶部34aに記憶する。比較部34は、複数の駆動系10のうち、いずれか1つを異常判定対象として選択するとともに、選択されていない他の駆動系10の測定信号Msを基準信号Ssとして用いる。比較部34は、記憶部34aに記憶されている複数の測定信号Ms(Ms
1〜Ms
N)のうち、選択した駆動系10の測定信号Msと、選択されていない他の駆動系10の測定信号Ms(基準信号Ss)とを比較する。
【0058】
例えば、比較部34が駆動系10
1を異常判定対象として選択すると、駆動系10
2〜10
Nのうち少なくとも1つ以上の駆動系10の電流Psの測定信号Msを基準信号Ssとして用いる。そして、比較部34は、この基準信号Ssと異常判定対象として選択した駆動系10
1の測定信号Ms
1とを比較する。このようにして、比較部34は、複数の駆動系10の各々を異常判定対象として順番に選択し、異常判定対象として選択した駆動系10の測定信号Msと、異常判定対象として選択されていない他の駆動系10の測定信号Ms(基準信号Ss)とを比較する。
【0059】
異常判定対象として選択されていない複数の駆動系10のうち、2つ以上の駆動系10の測定信号Msを基準信号Ssとして用いる場合は、複数の測定信号Msの平均値を基準信号Ssとしてもよい。なお、異常判定対象として選択されたかどうかにかかわらず、全ての駆動系10(10
1〜10
N)の各々の電流Ps(Ps
1〜Ps
N)の測定信号Ms(Ms
1〜Ms
N)の平均値を基準信号Ssとして用いてもよい。
【0060】
比較部34は、上記第1の実施の形態で説明した4つの比較方法のうちいずれか1つの比較方法を用いて、測定信号Msと基準信号Ssとの差D(D
1〜D
4)を算出してもよい。
【0061】
異常判定部36は、比較部34の比較結果(差D)に基づいて、複数の駆動系の各々に対して異常判定処理を行う。
【0062】
次に、
図11を用いて、第2の実施の形態における異常判定装置12の動作を説明する。ステップS11で、測定開始制御部40は、測定開始タイミングが到来したか否かを判断する。ステップS11で、測定開始タイミングが到来していないと判断されるとステップS11に戻る。一方、ステップS11で測定開始タイミングが到来したと判断されると、ステップS12に進む。このとき、測定開始制御部40は、測定開始タイミングが到来したと判断すると、測定開始信号STを揺動信号送出部30および測定部32に送信する。
【0063】
ステップS12で、揺動信号送出部30は、同一の揺動信号Osを複数の駆動系10(10
1〜10
N)のモータ制御部20に送出し、ステップS13で、測定部32は、複数の駆動系10(10
1〜10
N)のサーボモータ24の電流Ps(Ps
1〜Ps
N)を測定する。
【0064】
次いで、ステップS14で、比較部34は、ステップS13で測定部32が測定した各駆動系10(10
1〜10
N)の電流Ps(Ps
1〜Ps
N)の測定信号Ms(Ms
1〜Ms
N)を記憶部34aに記憶する。
【0065】
次いで、ステップS15で、比較部34は、1つの駆動系10を異常判定対象として選択する。
【0066】
次いで、ステップS16で、比較部34は、異常判定対象として現在選択している駆動系10の測定信号Msと、異常判定対象として現在選択されていない他の駆動系10の測定信号Msとを比較する。つまり、異常判定対象として現在選択されていない他の駆動系10の測定信号Msが基準信号Ssとなる。異常判定対象として現在選択されていない複数の駆動系10のうち、2つ以上の駆動系10の測定信号Msを基準信号Ssとして用いる場合は、複数の測定信号Msの平均値を基準信号Ssとしてもよい。なお、異常判定対象として選択されたかどうかにかかわらず、全ての駆動系10(10
1〜10
N)の各々の測定信号Ms(Ms
1〜Ms
N)の平均値を基準信号Ssとして用いてもよい。
【0067】
次いで、ステップS17で、異常判定部36は、ステップS16の比較結果(測定信号Msと基準信号Ssとの差D)に基づいて、現在選択されている駆動系10に異常があるか否かを判定する異常判定処理を行う。異常判定部36は、比較部34の比較によって算出された測定信号Msと基準信号Ssとの差D(D
1〜D
4のいずれか1つであってもよい)が閾値TH以上の場合は、現在選択されている駆動系10に異常があると判定する。
【0068】
ステップS17で、現在選択されている駆動系10に異常が発生していると判定されると、報知部38は、オペレータにその旨を報知して(ステップS18)、ステップS19に進む。一方、ステップS17で、現在選択されている駆動系10に異常が発生していないと判定されると、そのままステップS19に進む。
【0069】
ステップS19に進むと、比較部34は、異常判定対象として未だ選択していない駆動系10があるか否かを判断する。ステップS19で、異常判定対象として未だ選択していない駆動系10があると判断されると、比較部34は、異常判定対象として選択していない他の駆動系10を1つ選択して(ステップS20)、ステップS16に進み、上記した動作を繰り返す。一方、ステップS19で、異常判定対象として未だ選択していない駆動系10がないと判断されると、そのままステップS11に戻る(リターン)。
【0070】
なお、
図11では、報知部38は、異常判定対象として選択した駆動系10に異常があると判定すると直ぐに報知するようにしたが、全ての駆動系10に対して異常判定処理を行ってから、報知部38は、まとめて異常判定された1または複数の駆動系10に異常があることを報知してもよい。
【0071】
[変形例]
上記各実施の形態は、以下のように変形してもよい。
【0072】
(変形例1)モータ制御部20に送出される揺動信号Osは、
図12に示すように、時間の経過とともに段階的に振幅および周波数が徐々に大きくなる指令信号であってもよい。具体的には、揺動信号Osは、所定数の周期(
図12では3周期)毎に、振幅および周波数が徐々に大きくなる指令信号であってもよい。このように、所定数の周期毎に振幅および周波数を徐々に変えていくので、より確実に駆動系10を構成する部品の異常を検知することができる。
【0073】
(変形例2)揺動信号Osは、時間の経過とともに振幅および周波数が徐々に大きくなる指令信号としたが、時間の経過とともに振幅および周波数が変わる指令信号であってもよい。
【0074】
(変形例3)揺動信号Osは、時間の経過とともに振幅および周波数のどちらか一方が変わる(例えば、徐々に大きくなる)指令信号であってもよい。
【0075】
(変形例4)揺動信号Osの振幅および周波数を時間の経過とともに変えるようにしたが、振幅および周波数は一定であってもよい。ある特定の周波数または振幅でしか異常を検知できないものもあるので、異常判定を行う度に、つまり、
図9または
図11の動作を実行する度に、揺動信号Osの振幅および周波数を変えてもよい。
【0076】
(変形例5)異常判定装置12は、駆動系10を有する加工機またはロボットに設けられてもよい。この場合は、駆動系10を制御する加工機またはロボットに設けられている数値制御装置を異常判定装置12として機能させてもよい。また、上記第2の実施の形態のように、複数の駆動系10が設けられた場合は、複数の駆動系10を有する複数の加工機または複数のロボットの各々に異常判定装置12を設けてもよいし、複数の駆動系10を有する複数の加工機または複数のロボットの少なくとも1つに異常判定装置12を設けてもよい。
【0077】
(変形例6)上記変形例1〜5を、矛盾が生じない範囲で任意に組み合わせてもよい。
【0078】
以上のように上記各実施の形態および変形例で説明した異常判定装置12は、サーボモータ24の回転軸を予め決められたパターンで揺動させて回転させる揺動信号Osを、サーボモータを制御するモータ制御部20に送出する揺動信号送出部30と、サーボモータ24の回転軸が揺動したときのサーボモータ24の状態を表す物理量Psを測定する測定部32と、測定された物理量Psの測定信号Msと基準信号Ssとを比較する比較部34と、サーボモータ24およびモータ制御部20を有し、サーボモータ24によって駆動する駆動対象物28からモータ制御部20までの駆動系10の異常を、比較部34の比較結果に基づいて判定する異常判定部36と、を備える。
【0079】
このように、サーボモータ24の回転軸を揺動させたときのサーボモータ24の状態を表す物理量Psを測定し、測定した物理量Psの測定信号Msと基準信号Ssとを比較するので、サーボモータ24を含む駆動系10の異常を検知することができる。
【0080】
基準信号Ssは、揺動信号Osに対応して周期的に変動する値であってもよい。比較部34は、測定信号Msと基準信号Ssとを比較することでその差Dを算出してもよい。異常判定部36は、この差Dが閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定してもよい。これにより、精度よく駆動系10の異常を検知することができる。
【0081】
比較部34は、予め決められた複数のタイミングの各々における差の和D
1を算出してもよい。異常判定部36は、差の和D
1が閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定してもよい。この場合、閾値THは、揺動信号Osと予め決められた複数のタイミングとに応じて決定されてもよい。これにより、精度よく異常を検知することができる。
【0082】
比較部34は、予め決められた期間における測定信号Msと基準信号Ssとの差の積分値D
2を算出してもよい。異常判定部36は、差の積分値D
2が閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定してもよい。この場合は、閾値THは、揺動信号Osと予め決められた期間とに応じて決定されてもよい。これにより、精度よく異常を検知することができる。
【0083】
比較部34は、測定信号MsのN番目の周期T
f(N)と、基準信号SsのN番目の周期T
g(N)とを比較することでその差D
3を算出してもよい。異常判定部36は、差D
3が閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定してもよい。この場合は、閾値THは、揺動信号OsとNの値とに応じて決定されてもよい。これにより、精度よく異常を検知することができる。
【0084】
比較部34は、測定信号MsのN番目の振幅A
f(N)と、基準信号SsのN番目の振幅A
g(N)とを比較することでその差D
4を算出してもよい。異常判定部36は、差D
4が閾値TH以上の場合は、駆動系10が異常であると判定してもよい。この場合は、閾値THは、揺動信号OsとNの値とに応じて決定されてもよい。これにより、精度よく異常を検知することができる。
【0085】
揺動信号Osは、時間の経過とともに揺動の振幅および周波数の少なくとも一方が変わるように、サーボモータ24の回転軸を揺動させる指令信号であってもよい。これにより、駆動系10の様々な異常を検知することができる。
【0086】
揺動信号Osは、時間の経過とともに揺動の振幅および周波数の少なくとも一方が徐々に大きくなるように、サーボモータ24の回転軸を揺動させる指令信号であってもよい。最初からサーボモータ24の回転軸を大きい角度、速い回転速度で揺動させてしまうと、駆動系10の部品が破壊されてしまう可能性があるが、このようにすることで、駆動系10の部品が破壊されてしまうことを防止することができる。
【0087】
基準信号Ssは、過去に、サーボモータ24の回転軸を揺動させたときに測定部32によって測定された物理量Psの測定信号Msであってもよい。これにより、精度よく異常を検知することができる。
【0088】
異常判定装置12は、駆動系10を有する加工機またはロボットに設けられていてもよい。これにより、加工機またはロボットを分解しなくても異常個所を明確にすることができる。また、内蔵の制御装置や表示機を利用することで容易に本発明を利用できる。
【0089】
揺動信号送出部30は、同一の用途に使用される複数の駆動系10のモータ制御部20に揺動信号Osを送出してもよい。測定部32は、複数の駆動系10における物理量Psを測定してもよい。比較部34は、複数の駆動系10のうち、いずれか1つを異常判定対象として選択するとともに、選択されていない他の駆動系10の物理量Psの測定信号Msを基準信号Ssとして用い、異常判定対象として選択した駆動系10の測定信号Msと、基準信号Ssとを比較してもよい。これにより、複数の駆動系10の異常を検知することができる。
【0090】
異常判定装置12は、複数の駆動系10を有する同一機種の複数の加工機または複数のロボットの少なくとも1つに設けられてもよい。これにより、複数の加工機またはロボットを分解することなく異常個所を明確にすることができる。また、内蔵の制御装置や表示機を利用することで容易に本発明を利用できる。