特許第6396544号(P6396544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396544
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】エクトインの治療的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/505 20060101AFI20180913BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   A61K31/505
   A61K31/58
   A61P11/00
   A61P11/04
   A61P11/06
   A61P29/00
   A61P37/08
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-133770(P2017-133770)
(22)【出願日】2017年7月7日
(62)【分割の表示】特願2014-528897(P2014-528897)の分割
【原出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-197569(P2017-197569A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年8月7日
(31)【優先権主張番号】102011113059.8
(32)【優先日】2011年9月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510126117
【氏名又は名称】ビトップ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】bitop AG
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ウンフリード
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ シドリク
(72)【発明者】
【氏名】ジーン クルトマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレーアス ビルシュタイン
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−536904(JP,A)
【文献】 BILSTEIN A.,ALLERGY,2009年,V 64 N SUPPL.90,P313
【文献】 Ulrich Sydlik et al.,Sustained reduction of neutrophil granulocytes by the compatible solute ectoine in an in vivo model,American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine,2010年,Vol.181, No.1, Abst. No.A2792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 11/00
A61P 11/04
A61P 11/06
A61P 29/00
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症に関与する細胞への抗アポトーシスシグナルを抑制するための組成物であって、エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩を含み、前記抗アポトーシスシグナルの抑制が、炎症の治療または予防におけるものであり、前記炎症が、浮遊粒子状物質の直接の影響に起因しない慢性閉塞性肺疾患、ARDS、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、またはサルコイドーシスに関係するものである、組成物。
【請求項2】
前記炎症に関与する細胞が、好中性顆粒球、マクロファージ、好酸性顆粒球、好塩基性顆粒球、肥満細胞、リンパ球、類上皮細胞、および樹状細胞からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記炎症が慢性炎症である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
少なくともコルチコステロイドを含む、請求項1から3いずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記コルチコステロイドがグルココルチコイドである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記グルココルチコイドが、デキサメタゾン、ブデソニド、ベタメタゾン、トリアムシノロン、フルオコルトロン、メチルプレドニゾロン、デフラザコート、プレドニゾロン、プレドニゾン、クロプレドノール、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルオコルチン、クロコルトロン、クロベタゾン、アルクロメタゾン、フルメタゾン、フルオプレドニデン、フルオランドレノロン、プロドニカルベート、モメタゾン、メチルプレドニゾロン、フルチカゾン、ハロメタゾン、フルオシノロン、ジフロラゾン、デスオキシメタゾン、フルオシノニド、フルドロコルチゾン、デフラザコート、リメキソロン、クロプレドノール、アムシノニド、ハルシノニド、ジフルコルトロン、クロベタゾール、もしくはこれらの化合物の内の1つの塩、エステル、アミド、溶媒和物または水和物である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
吸入可能な組成物である、請求項1からいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
肺疾患の予防および/または治療に適用するための組成物の配合剤であって、
・ エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはそれら化合物の塩を含む第1の組成物、および
・ コルチコステロイドを含む第2の組成物、
を少なくとも含み、
前記肺疾患が、浮遊粒子状物質の直接の影響に起因しない慢性閉塞性肺疾患、ARDS、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、またはサルコイドーシスであり、
前記組成物が短期間で投与するために提供される、配合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクトイン、ヒドロキシエクトインまたはそれに関連する塩、エステル、およびアミドを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
極限環境微生物からのオスモライトまたは適合溶質が、低分子量保護物質の公知の群を構成する。極限環境微生物はかなり異常な微生物である。何故ならば、それらの微生物は、中温性(普通の)生物の場合には、細胞構造に多大な損傷がもたらされるであろう高温(60〜110℃)および高い塩濃度(200gのNaCl/lまで)で最適に成長するからである。近年、細胞構造を著しく安定化させる生化学成分を特定するために、包括的な研究努力がなされてきた。超好熱性微生物からの多くの酵素が高温下でさえ安定であるが、このことは概して、好熱性生物と超好熱性生物の細胞構造について言うことができない。細胞構造の高温安定性は−著しい程度まで−細胞内環境中に存在する低分子量有機物質(適合溶質、オスモライト)に起因する。近年、様々な新規のオスモライトが、初めて、極限環境微生物中において特定できた。ある場合には、これらの化合物が、熱および乾燥度に対する細胞構造−まず第一に酵素−の保護に効果的に寄与したことを明白に示すことができた(非特許文献1から4)。
【0003】
数多くの適合溶質について、医療分野、美容分野、および生物分野において、有用な応用機会が開かれてきた。エクトイン(2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸)およびその誘導体が最も重要な溶質の一員と見なされている。例えば、特許文献1において、エクトインおよびヒドロキシエクトイン(5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸)が、生物学的活性薬剤および細胞の凍結防止のための効果的な添加剤として、または皮膚病の治療のために記載されている。特許文献2には、血管漏出症候群(VLS)の治療のためのエクトインの使用についての情報が与えられている。さらに別の例は、ワクチンの安定化(特許文献3)または神経皮膚炎の治療のための皮膚病への使用(特許文献4)である。
【0004】
天然のL−エクトイン((S)−2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸)の構造が下記に示されている:
【0005】
【化1】
【0006】
また、ヒドロキシエクトインが、様々な目的にとって都合よいと記載されてきた。天然のヒドロキシエクトイン((4S,5S)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸)の構造が下記に示されている:
【0007】
【化2】
【0008】
浮遊粒子状物質の影響による肺疾患および心疾患の治療が、特許文献5の主題である。この文献には、そのような疾患と闘うためのエクトインまたはヒドロキシエクトインを含有する医薬品の吸入が記載されている。しかしながら、浮遊粒子状物質に起因しない疾患は、その特許の主題ではない。
【0009】
数多くの炎症現象において、好中性顆粒球、略して好中球は、特にウイルス性病原体および細菌性病原体と闘うために、重要な役割を果たす。好中球は骨髄中で大量に形成される。これらの病原体は、反応性酸素種およびミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼまたはマトリックスメタロプロテアーゼなどの酵素の遊離により破壊される。しかしながら、これらの反応には、関連する組織に対して副作用があるので、好中性炎症が、実際の病原体と闘うために必要なよりも長引かないことを確実にするために、厳しい規制を行わなければならない。したがって、好中性顆粒球のアポトーシスをもたらすシグナル伝達カスケードが達成される。しかしながら、炎症性メディエータが、アポトーシスが遅延されることを確実にし、このようにして、好中球の寿命を引き延ばす。感染区域における好中球と単球の蓄積は、炎症の主因の内の1つを構成する。アポトーシスの長引く遅延は、慢性炎症現象さえ引き起こすかもしれない。この場合の例は、慢性の肺の炎症または慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0887418A2号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102006056766A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10065986A1号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10330243A1号明細書
【特許文献5】欧州特許第1641442B1号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Lippert, E. A. Galinski, Appl. Microbiol. Biotech. 1992, 37, 61-65
【非特許文献2】P. Louis, H. G. Truper, E. A. Galinski, Appl. Microbiol. Biotech. 1994, 41, 684-688
【非特許文献3】Ramos et al., Appl. Environm. Microbiol. 1997, 63, 4020-4025
【非特許文献4】Da Costa, Santos, Galinski, Adv. in Biochemical Engineering Biotechnology, 61, 117-153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、慢性炎症と闘うことを目的として、好中球の蓄積により生じる炎症を制御することに重点を置かなければならない。炎症に関与する他の細胞とは異なり、好中球はコルチコステロイドに不十分にしか応答しないという点で、この状況における問題に遭遇する。その理由のために、炎症性メディエータ、コルチコステロイド、および他の物質の抗アポトーシス効果を阻害する医薬物質が望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
意外なことに、エクトインまたはヒドロキシエクトインによる治療は、炎症性メディエータ、コルチコステロイド、および他の物質の抗アポトーシス効果を少なくともある程度なくすが、それ自体によるアポトーシス促進効果を持たずに、このように、好中性顆粒球の自然のアポトーシス速度を取り戻すことが分かった。したがって、本発明は、好中性顆粒球、並びにマクロファージ、好酸性顆粒球、好塩基性顆粒球、肥満細胞、リンパ球、類上皮細胞、および樹枝状細胞などの炎症に関与する他の細胞への抗アポトーシスシグナルを抑制するための、エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩、エステルまたはアミドを含む組成物に関する。抗アポトーシスシグナルの抑制は通常、炎症の治療または予防を目的としており、ここでは、慢性炎症が特別な役割を果たす。気道および肺に影響する炎症、特に、肺炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ARDS、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、サルコイドーシス、アレルギー、および気管支過敏性の治療が特に重要である。
【0014】
検査した炎症反応に関して、好中性顆粒球のアポトーシスの阻害は、PI3−K(ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ)を通じて膜結合シグナル伝達経路の膜介在活性化により生じると予測される。これらにより、タンパク質キナーゼB(AKT)の活性化がもたらされ、最終的に、抗アポトーシス的に作用するタンパク質である、Mcl−1のレベルの上昇をもたらす。エクトインはAKTの活性化を低下させると推測される。
【0015】
好中球炎症反応を、カーボンナノ粒子を気管内に投与したラットにおいて検査した。これは、エクトインを含む場合と含まない場合の両方の投与を含んだ。その後、様々な時点でラットを検査し、エクトイン群において、2日後に、プラセボ群と比べ好中球の量が著しく減少した。2日後に観察された有効性は、炎症現象において重要な役割を果たすケモカインであるcinc−1の遊離の減少の検出と一致する。まず第一に、cinc−1の遊離は最初に上皮細胞とマクロファージによるものであるが、後には、最終的に存在する多量の好中球により生じる遊離が優性となる。エクトインを投与することにより、2日後の遊離cinc−1の減少は、好中球の数をその時点で減少させられたことを示している。
【0016】
炎症反応の開始から1日後と2日後の2回のエクトインの投与は、炎症反応が引き起こされた時点でのエクトインの投与と実質的に同じ効果を有することも実証できた。それゆえ、エクトインは、予防方式だけでなく、既に生じた炎症の治療にも使用できるということになる。炎症反応が数回誘発された後にエクトインを繰り返し投与した場合、好中球の量の減少並びにcinc−1レベルの低下も観察され、このことは、慢性炎症現象の治療のためのその有用性さえも明確に示している。
【0017】
単離したヒト好中性顆粒球についても、対応する調査を行った。カーボンナノ粒子(CNP)、LTB4またはCM−CSFなどの炎症性因子によるアポトーシス速度の減少は、エクトインを投与することによって、濃度に依存して、少なくともある程度相殺できることを示すことができた。炎症性因子による事前の治療を行わずに好中球にエクトインを適用しただけでは、アポトーシス速度の上昇は生じなかった。それゆえ、エクトインには、基本的にアポトーシス促進効果がなく、そうではなく炎症現象に関与する抗アポトーシス機構を抑制することが明白である。
【0018】
カーボンナノ粒子を使用して炎症反応がその最中に誘発されたインビボとインビトロの実験により、抗抗アポトーシス有効性が実証されてきたが、その有効性は、この点に関して決して制限されず、むしろ、本発明は、浮遊粒子状物質の影響に起因しないそのような炎症に明白に関する。特許文献5において、エクトインは浮遊粒子状物質の有害作用を妨げるだけであることが以前に提案されたが、ここで、エクトインによる炎症の治療が、好中球の自然のアポトーシス速度を復元することから始まり、その復元を含むことが、直接示された。
【0019】
さらに、エクトイン/ヒドキシエクトインのそれぞれの関連する誘導体のコルチコステロイド、特に、デキサメタゾン、ブデソニド、ベタメタゾン、トリアムシノロン、フルオコルトロン、メチルプレドニゾロン、デフラザコート、プレドニゾロン、プレドニゾン、クロプレドノール、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルオコルチン、クロコルトロン、クロベタゾン、アルクロメタゾン、フルメタゾン、フルオプレドニデン(fluoprednidene)、フルオランドレノロン、プロドニカルベート、モメタゾン、メチルプレドニゾロン、フルチカゾン、ハロメタゾン、フルオシノロン、ジフロラゾン、デスオキシメタゾン、フルオシノニド、フルドロコルチゾン、デフラザコート、リメキソロン、クロプレドノール、アムシノニド、ハルシノニド、ジフルコルトロン、クロベタゾール、もしくはこれらの化合物の塩、エステル、アミド、溶媒和物または水和物などのグルココルチコイドとの組合せが特に有益であることが実証されている。
【0020】
コルチコステロイドは、炎症現象に対抗する活性薬剤として知られているが、コルチコステロイドは自然の好中球のアポトーシスを減退させるので、好中球の炎症と闘う上でのその役割は疑わしい。したがって、コルチコステロイドをエクトイン/ヒドロキシエクトインと共に作用させることによって、このステロイドの有益な抗炎症作用が、自然のアポトーシス速度を回復させ、それゆえ、コルチコステロイドの望ましくない抗アポトーシス効果を低減させるエクトイン/ヒドロキシエクトインの効果と組み合わされる。その例は、エクトインまたは関連する誘導体をデキサメタゾンおよび/またはブデソニドと組み合わせることである。他の見込みのある代わりの組合せは、GM−CSF、LTB4などのロイコトリエン、テオフィリン(1,3−ジメチルキサンチン)、ロイコトリエン拮抗薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤(PDE阻害剤、特に、PDE4阻害剤)、ムスカリン受容体拮抗薬、臭化イプラトロピウムや臭化チオトロピウムなどの抗コリン剤、もしくは自然の好中球のアポトーシス速度を望ましくなく低減させる他の医薬物質と組み合わせて使用されるエクトイン/ヒドロキシエクトインである。
【0021】
コルチコステロイドをエクトイン/ヒドロキシエクトインと組み合わせる関係において、肺病、特に、肺炎、喘息(気管支喘息)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ARDS、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、サルコイドーシス、アレルギー、および気管支過敏性の治療に著しく重きを置かなければならない。この場合、吸入可能な組成物の形態で組成物を提供することが適切であると考えられる。この目的のために、その組成物は、溶液としての液体形態で、または固体形態で提供してもよく、必要かつ適切であれば、吸入装置を使用して、その組成物はエアロゾルとして噴霧され吸入される。
【0022】
コルチコステロイドおよびエクトイン/ヒドロキシエクトインの投与は必ずしも、同じ組成物中にそれらを使用して行わなければならないわけではないが、これらの活性物質が先に記載したような様式で一緒に機能的に効くことができるように、それらが同時にまたは短期間で投与されることが重要である。したがって、本発明は、少なくとも2つの個々の組成物、すなわち、エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩、エステルまたはアミドを含有する1つの組成物、並びにコルチコステロイドを含有する追加の組成物を含む配合剤にも関する。それゆえ、この配合剤は、一緒に適用されたときだけに完全に効果的であり得る2つの組成物の部分からなるキットを構成する。コルチコステロイドは、特に、先に称されたグルココルチコイドの内の1つであってよい。
【0023】
エクトイン/ヒドロキシエクトインの薬理学的に適合した塩は、アルカリ塩またはアルカリ土類塩、特に、カリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムの塩だけでなく、例えば、非毒性脂肪族または芳香族アミンなどの有機塩基による塩を含む。
【0024】
エクトイン/ヒドロキシエクトインのカルボキシル基のアルコールまたはアミンとの反応により、本発明の範囲内で利用してよい関連するエステルまたはアミドが得られる。アミドの場合、窒素原子が、次は、飽和または不飽和、直鎖または分岐鎖のアルキル基を構成してもよい。ヒドロキシエクトインの場合、ヒドロキシル基がカルボン酸と反応して、関連するエステルを形成するであろう。
【0025】
特に、2−ヒドロキシ−5−アミノ安息香酸のエクトインアミドの使用が利点を与えることが判明した。その構造式は以下のとおりである:
【0026】
【化3】
【0027】
したがって、これが、2−ヒドロキシ−5−アミノ安息香酸の2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸アミドである。それが、L−エクトインの関連するアミド:(S)−2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸アミドであることが好ましい。この化合物を試験し、エクトイン自体に匹敵する有効性が示された(図7参照)。それゆえ、ヒドロキシエクトイン(5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸)の、特にL−ヒドロキシエクトイン((4S,5S)−5−ヒドロキシ−2−メチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−4−カルボン酸)のそれぞれのアミド、すなわち、2−ヒドロキシ−5−アミノ安息香酸のヒドロキシエクトインアミドを使用することも可能である。関連するアミドは同様に、イオン形態または両性イオン形態で存在してもよい。それゆえ、本発明は、上述した化合物、これらの化合物のそれぞれの塩、エステルまたはアミド、並びにこれらの化合物、それぞれの塩、エステルまたはアミドを含有する組成物にも関する。これらの組成物は、特に、好中性顆粒球、マクロファージ、好酸性顆粒球、好塩基性顆粒球、肥満細胞、リンパ球、類上皮細胞、樹枝状細胞または炎症に関与する他の細胞に作用する抗アポトーシスシグナルの抑制のための、医薬品として利用することができる。
【0028】
一般的に言えば、本発明の活性薬剤は、さらに別の活性薬剤に適していると考えられる場合、加工して、補助物質および薬理学的に異論のない添加剤を使用して、好ましくは吸入可能である薬剤を得てもよい。吸入可能な液体配合物の場合、そのような添加剤は主に、場合によっては、溶媒、安定剤、保存料、乳化剤、酸化防止剤、充填剤またはソリュタイザが加えられる水からなる。さらに別の活性薬剤として、抗喘息薬、気管支拡張薬、非ステロイド系薬剤(NSAID)または去痰薬が考えられる。適切な保存料は、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チオマーサル、メチルパラベン、プロピルパラベン、ソルビン酸とその塩、エデト酸ナトリウム、フェニルエチルアルコール、塩酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、ジグルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム、クロロクレゾール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀、フェノキシエタノールである。
【0029】
本発明により提案される配合物は、pH値を4と8の間、好ましくは5と7.5の間の範囲に調節し維持するために、適切な緩衝系またはpH調節のための他の補助物質を含有してもよい。適切な緩衝系は、クエン酸塩、リン酸塩、トロメタモール、グリシン、ホウ酸塩、酢酸塩である。これらの緩衝系は、クエン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、グリシン、ホウ酸、テトラホウ酸ナトリウム、酢酸または酢酸ナトリウムなどの物質から生成されるであろう。
【0030】
典型的に、エクトイン/ヒドロキシエクトインのそれぞれの関連する誘導体の濃度は、組成物に基づいて、0.001と50%w/wの間、好ましくは0.05と20%w/wの間、特に0.1と10%w/wの間に及ぶ。
【0031】
例えば、粉末吸入器による、固体形態での投与の場合、微粉末ラクトースなどの、容易に吸収される、非刺激性の担体物質のみを使用することが推奨される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実験1の結果を示すグラフ
図2】実験2の結果を示すグラフ
図3】実験3の結果を示すグラフ
図4】実験4の結果を示すグラフ
図5A】実験5の結果を示すグラフ
図5B】実験5の結果を示すグラフ
図5C】実験5の結果を示すグラフ
図5D】実験5の結果を示すグラフ
図6A】実験6の結果を示すグラフ
図6B】実験6の結果を示すグラフ
図7】実験7の結果を示すグラフ
【実施例】
【0033】
実験1
カーボンナノ粒子(CNP、14nm、Printex 90、独国フランクフルト所在のDegussa社)を、超音波処理によって、リン酸緩衝塩溶液(PBS)中に懸濁させた。同様に、PBS中にエクトインの0.1mMおよび1mM溶液を生成した。0.4mlのCNP粒子懸濁液をFisher 344雌ラットに気管内投与した。一日後と二日後に、それぞれの0.4mlのエクトインPBS溶液による治療を行った。三日目にラットを殺し、肺を各々5mlのPBSで4回パージした。個々の動物の細胞を1mlのPBS中に懸濁させ、遠心分離した。沈殿物をPBSで一度洗浄し、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)を含有する低張液(0.1%のクエン酸ナトリウム、0.1%のトリトンX100)300μl中に再度懸濁させた。アポトーシス速度を決定するために、最後に蛍光測定を行った。
【0034】
得られた結果が図1に示されている(C:CNP治療を行わなかった対照;*:CNP治療を行わなかった対照群に対する有意差;†:CNPとPBSだけで治療した動物に対する有意差)。
【0035】
実験2
アポトーシスに対するエクトインの作用を、ヒト好中球を手段として調査した。若くて健康な提供者(3人の男性と2人の女性)からの好中球を単離し、表示の量のエクトイン(mm)で治療した。治療は、エクトイン単独(白抜きの棒)と33μg/mlのCNP(黒塗りの棒)で行った。エクトインは対照群(C)においては投与しなかった。結果が図2に示されている。
【0036】
アポトーシスを起こした細胞の量を以下のように計った:好中球を、ヨウ化プロピジウム(PI)を含有する300μlの低張液中に懸濁させた。PIの蛍光をフローサイトメトリー(FACScan血球計算器、BD Biosciences社)により決定した。結果が、アポトーシスを起こした細胞の特徴である断片化DNAに対応する低二倍性DNA(sub−G1)の百分率として示されている。
【0037】
CNPにより生じたアポトーシス速度の減少は、相当な量のエクトインを投与することによって、実質的になくすことができた(*:CNP治療を行わなかった対照群に対する有意差;†:CNPとPBSだけで治療した好中球に対する有意差)。
【0038】
実験3
アポトーシスに対するエクトインの作用を、ヒト好中球を手段として調査した。若くて健康な提供者(3人の男性と2人の女性)の好中球を単離し、PBS(黒い棒)と1mMのエクトイン(灰色の棒)で2時間に亘り前治療した。その後、炎症性因子による治療を行わずに、それぞれ、33μg/mlのカーボンナノ粒子(ufCB:超微細カーボンブラック)、300nMのLTB4、20ng/mlのGM−CSFまたは1μMのデキサメタゾンによる治療を行った。結果が図3に示されている(†:対照群に対する有意差;*:炎症性因子とPBSのみにより治療した好中球に対する有意差;実験2と類似したアポトーシスを起こした細胞の量の測定)。
【0039】
実験4
アポトーシスに対するエクトインの有効性を、COPD患者および対応する年齢の非COPD患者について、実験3と同様に示した。好中性顆粒球をそれぞれ1mMのエクトインで2時間に亘り前治療した。PBSの前治療後、33μg/mlのCNP、300nMのLTB4、20ng/mlのGM−CSFまたはPBSにより16時間に亘り治療を行った。より高いベースアポトーシスが見られたが、それにもかかわらず、アポトーシスは、炎症性刺激剤の作用によって減少し、エクトインによる追加の治療により、アポトーシス速度が著しく回復した。結果が図4に示されている(黒い棒:エクトインによる前治療;白抜きの棒:PBSによる前治療;*:CNPまたは炎症性メディエータによる治療を行わなかった対照群に対する有意差;§:エクトインを含まない治療に対する有意差;実験2と類似したアポトーシスを起こした細胞の量の測定)。
【0040】
実験5〜7
実験5〜7について、好中性顆粒球は血液サンプルから得た。1群および2群は、現在の患者研究に参加した人からなった。安定したCOPD病歴(GOLDIII/IV)を有する男性の患者(40才から80才)および同じ年齢群からの健康な対照患者。
【0041】
それに加え、若い男性の有志を診療所で見つけた(3群)。
【0042】
実験5
好中球のアポトーシス速度に対するコルチコステロイドブデソニドと組み合わされたエクトインの影響が図5に示されている。ヨウ化プロピジウムの着色(FACS−フローサイトメトリー)後に、sub−G1−細胞を測定した。細胞:初代末梢血好中球。Percoll(登録商標)遠心分離による好中球の単離。16時間に亘る、33μg/mlのCNP、300nMのLTB4、20ng/mlのGM−CSF、1μMのブデソニド、1mMのエクトインおよびそれらの組合せの存在下での2×106好中球の培養。図5A:全てのサンプル(n=15)からの累積した細胞、図5B:COPD患者(n=5)からの細胞、図5C:健康な年齢対照群(n=5)からの細胞、図5D:若い有志(n=5)からの細胞。
【0043】
ブデソニドによる治療で好中球のアポトーシス速度が減少する。1mMのエクトインによる細胞の前治療で、ブデソニドの抗アポトーシス効果が著しく防がれることが分かった。その効果は、群の内のいずれにも、また全体としての群においても生じた。その効果は、炎症性作用物質により治療されなかった中性顆粒球に観察できた。しかしながら、炎症性作用物質(CNP、LTB4、GM−CSF)をブデソニドと組み合わせた場合、抗アポトーシス効果はエクトインにより同様にうまく防がれた。
【0044】
実験6
抗アポトーシスシグナルに対するブデソニドと組み合わされたエクトインへの影響が図6から分かる。好中球の選択されたサンプルについて、Aktリン酸化反応およびMcl−1タンパク質レベルの測定により、タンパク質キナーゼB(Akt)およびMcl−1を通じて関連シグナルを検出した。「Percoll」遠心分離による好中球の単離、6時間に亘る、33μg/mlのCNP、1μMのブデソニド、1mMのエクトインおよびそれらの組合せの存在下での2×106好中球の培養。3人のCOPD患者および対応する年齢対照群からの3人の各々からの材料に、X線フイルム上のタンパク質単離ウエスタンブロット蛍光法を行った。その結果から、Aktシグナル伝達経路を作動させ、抗アポトーシスタンパク質Mcl−1の量を増加させる、ブデソニドの抗アポトーシス効果が、明らかに分かる。エクトインは、CNPの存在下でも、この効果を妨げることができる。
【0045】
実験7
ヒト好中球のアポトーシス速度に対する様々な他の試験物質の影響が図7に示されている。ヨウ化プロピジウムの着色(FACS−フローサイトメトリー)後に、sub−G1−細胞を測定した。細胞:初代末梢血好中球。「Percoll」遠心分離による好中球の単離、および16時間に亘る、33μg/mlのCNP、1μMのブデソニド、1mMのエクトイン、1mMの尿素、1mMのエクトインアミドおよびそれらの組合せの存在下での2×106好中球の培養。細胞は、若い有志(3群)から得た、n=5、bud=ブデソニド。2種類の追加の試験物質(尿素および2−ヒドロキシ−5−アミノ安息香酸のエクトインアミド)を、それらが、好中球への抗アポトーシス効果を阻害できるか否かを確認するために調査した。両方の物質には、バックグラウンドアポトーシス速度への影響がなかった。エクトインアミドは、ブデソニドの有無にかかわらず、カーボンナノ粒子(CNP)により生じたアポトーシス速度の低減を防ぐことができるのが分かったが、このことは、尿素によって達成されなかった。
【0046】
他の実施態様
1.エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩、エステルまたはアミドを含む、好中性顆粒球、マクロファージ、好酸性顆粒球、好塩基性顆粒球、肥満細胞、リンパ球、類上皮細胞、樹枝状細胞、または炎症に関与する他の細胞への抗アポトーシスシグナルを抑制するための組成物。
【0047】
2.前記抗アポトーシスシグナルの抑制が、炎症の治療または予防において行われる、実施態様1記載の組成物。
【0048】
3.前記炎症が慢性炎症である、実施態様2記載の組成物。
【0049】
4.前記炎症が、肺炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、ARDS、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、サルコイドーシス、アレルギー、または気管支過敏症に関する、実施態様2または3記載の組成物。
【0050】
5.少なくともコルチコステロイドを含む、実施態様1から4いずれか1項記載の組成物。
【0051】
6.前記コルチコステロイドがグルココルチコイドである、実施態様5記載の組成物。
【0052】
7.前記グルココルチコイドが、デキサメタゾン、ブデソニド、ベタメタゾン、トリアムシノロン、フルオコルトロン、メチルプレドニゾロン、デフラザコート、プレドニゾロン、プレドニゾン、クロプレドノール、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、フルオコルチン、クロコルトロン、クロベタゾン、アルクロメタゾン、フルメタゾン、フルオプレドニデン、フルオランドレノロン、プロドニカルベート、モメタゾン、メチルプレドニゾロン、フルチカゾン、ハロメタゾン、フルオシノロン、ジフロラゾン、デスオキシメタゾン、フルオシノニド、フルドロコルチゾン、デフラザコート、リメキソロン、クロプレドノール、アムシノニド、ハルシノニド、ジフルコルトロン、クロベタゾール、もしくはこれらの化合物の内の1つの塩、エステル、アミド、溶媒和物または水和物である、実施態様6記載の組成物。
【0053】
8.エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩、エステルまたはアミドを含む、浮遊粒子状物質の影響に起因する疾患を除く肺疾患の治療または予防のための組成物。
【0054】
9.エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩、エステルまたはアミド、並びにコルチコステロイドを含む、肺疾患の予防および/または治療に適用するための組成物。
【0055】
10.前記肺疾患が、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、喘息、ARDS、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、サルコイドーシス、アレルギー、または気管支過敏症である、実施態様8または9記載の組成物。
【0056】
11.吸入可能な組成物である、実施態様1から10いずれか1項記載の組成物。
【0057】
12.肺疾患の予防および/または治療に適用するための配合剤であって、
・ エクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはこれらの化合物の塩、エステルまたはアミドを含む第1の組成物、および
・ コルチコステロイドを含む第2の組成物、
を少なくとも含み、該組成物が短期間で投与するために提供される、配合剤。
【0058】
13.下記構造式の化合物、あるいは該化合物の塩、エステルまたはアミド:
【0059】
【化4】
【0060】
式中、
R1=H、OHまたはOR2であり、
R2=アルキル、シクロアルキル、またはアリール、好ましくは、C1からC10アルキル、C1からC10シクロアルキルまたはC1からC10アリールである。
【0061】
14.実施態様13記載の化合物および/またはその塩、エステルまたはアミドを含む、医薬品として使用するための組成物。
【0062】
15.実施態様13記載の化合物および/またはその塩、エステルまたはアミドを含む、好中性顆粒球、マクロファージ、好酸性顆粒球、好塩基性顆粒球、肥満細胞、リンパ球、類上皮細胞、樹枝状細胞、または炎症に関与する他の細胞への抗アポトーシスシグナルを抑制するための組成物。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7