(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6396563
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】表面処理液
(51)【国際特許分類】
C23C 22/66 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
C23C22/66
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-197088(P2017-197088)
(22)【出願日】2017年10月10日
【審査請求日】2017年10月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
(72)【発明者】
【氏名】本郷 亜弓
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/047365(WO,A1)
【文献】
特開平01−283386(JP,A)
【文献】
特開昭61−026784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルカリ、(B)亜鉛イオン源、(C)グルコン酸塩、ソルビトール、及びマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤、(D)金属塩、並びに(E)キレート剤として、サリチル酸、酢酸、グリシン、酒石酸、リンゴ酸、及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液。
【請求項2】
前記金属塩(D)が、鉄塩、及び銅塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の表面処理液。
【請求項3】
前記金属塩(D)が、硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の表面処理液。
【請求項4】
前記金属塩(D)が硝酸鉄、硫酸鉄、硝酸銅、及び硫酸銅からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理液
【請求項5】
前記金属塩(D)の含有割合が0.003〜0.3mol/Lである、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理液。
【請求項6】
前記記載のキレート剤(E)が、サリチル酸、及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理液。
【請求項7】
前記記載のキレート剤(E)の含有割合が0.005〜0.5mol/Lである、請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理液。
【請求項8】
前記アルカリ(A)が、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の表面処理液。
【請求項9】
(工程1)請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させる方法。
【請求項10】
さらに、(工程2)前記工程1で得られたアルミニウム材をスマット除去処理する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(工程1)請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む、樹脂に対する接合性が向上されたアルミニウム材を製造する方法。
【請求項12】
(工程1)請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む表面処理方法で得られたアルミニウム材と、樹脂とを接合する工程を含む、複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性の高いアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とを一体に接合したアルミ樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大している。
【0003】
特許文献1では、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いてアルミニウム材の表面に酸素含有皮膜を形成することにより、熱可塑性樹脂との接合性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この技術では接合対象の樹脂が特定の樹脂に限られ、また接合性も十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5772966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液、及びこれを用いた接合技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、(A)アルカリ、(B)亜鉛イオン源、(C)グルコン酸塩、ソルビトール、及びマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤、並びに(D)金属塩を含有する表面処理液を用いることによって、上記課題を解決できることを見出した。また、さらにキレート剤を加えることによって、接合性をより向上できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. (A)アルカリ、(B)亜鉛イオン源、(C)グルコン酸塩、ソルビトール、及びマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤、並びに(D)金属塩を含有する、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液。
【0008】
項2. 前記金属塩(D)が、鉄塩、及び銅塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の表面処理液。
【0009】
項3. 前記金属塩(D)が、硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の表面処理液。
【0010】
項4. 前記金属塩(D)が硝酸鉄、硫酸鉄、硝酸銅、及び硫酸銅からなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜3のいずれかに記載の表面処理液
【0011】
項5. 前記金属塩(D)の含有割合が0.003〜0.3mol/Lである、項1〜4のいずれかに記載の表面処理液。
【0012】
項6. さらに(E)キレート剤として、サリチル酸、酢酸、グリシン、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸、リンゴ酸、及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1〜5のいずれかに記載の表面処理液。
【0013】
項7. 前記記載のキレート剤(E)が、サリチル酸、及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項6に記載の表面処理液。
【0014】
項8. 前記記載のキレート剤(E)の含有割合が0.005〜0.5mol/Lである、項6又は7に記載の表面処理液。
【0015】
項9. 前記アルカリ(A)が、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜8のいずれかに記載の表面処理液。
【0016】
項10. (工程1)項1〜9のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させる方法。
【0017】
項11. さらに、(工程2)前記工程1で得られたアルミニウム材をスマット除去処理する工程を含む、項10に記載の方法。
【0018】
項12. (工程1)項1〜9のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む、樹脂に対する接合性が向上されたアルミニウム材を製造する方法。
【0019】
項13. (工程1)項1〜9のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む表面処理方法で得られたアルミニウム材と、樹脂とが接合してなる、複合材料。
【0020】
項14. (工程1)項1〜9のいずれかに記載の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程を含む表面処理方法で得られたアルミニウム材と、樹脂とを接合する工程を含む、複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液、及びこれを用いた接合技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本発明は、その一態様において、(A)アルカリ、(B)亜鉛イオン源、(C)糖酸又は糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤、並びに(D)金属塩を含有する、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液(本明細書において、「本発明の表面処理液」と示すこともある。)、及びこれを用いた接合技術に関する。以下にこれらについて説明する。
【0024】
アルカリとしては、特に制限されないが、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等); マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物(例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属の水酸化物が挙げられ、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられ、さらに好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0025】
アルカリは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
本発明の表面処理液におけるアルカリの濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.25〜80mol/L、好ましくは1〜50mol/L、より好ましくは3〜20mol/L、さらに好ましくは7〜10mol/Lである。
【0027】
亜鉛イオン源としては、特に制限されず、水中で亜鉛イオンを電離可能なものを広く使用することができる。亜鉛イオン源としては、例えば酸化亜鉛、硝酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは酸化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、より好ましくは酸化亜鉛が挙げられる。
【0028】
亜鉛イオン源は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
本発明の表面処理液における亜鉛イオン源の濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.02〜7.0mol/L、好ましくは0.07〜5.0mol/L、より好ましくは0.15〜3.0mol/L、さらに好ましくは0.3〜1.5mol/Lである。
【0030】
糖酸又は糖アルコールのキレート剤は、特に制限されない。例えば糖酸としては、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルカル酸塩、ラクトビオン酸塩、N−アセチルノイラミン酸塩、N−グライコリルノイラミン酸塩、O−アセチルノイラミン酸塩、デアミノノイラミン酸塩等があげられる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、グリセリン、エリトリット、アラビット、キシリット、ガラクチット、イノシトール等が挙げられ、好ましくはグルコン酸塩、ソルビトール、マンニトール、さらに好ましくはグルコン酸塩が挙げられる。
【0031】
グルコン酸塩としては、特に制限されないが、例えばグルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはグルコン酸ナトリウムが挙げられる。
【0032】
糖酸又は糖アルコールのキレート剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0033】
本発明の表面処理液における糖酸又は糖アルコールのキレート剤の濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.004〜1.0mol/L、好ましくは0.01〜0.8mol/L、より好ましくは0.02〜0.5mol/L、さらに好ましくは0.05〜0.2mol/Lである。
【0034】
金属塩としては、特に制限されないが、例えば亜鉛以外の遷移金属、例えば鉄、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、銀、スズ等の金属の塩が挙げられる。これらの中でも、鉄、銅等の塩が好ましい。塩の種類は特に制限されず、例えば硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。金属塩として、好ましくは硝酸鉄、硫酸鉄、硝酸銅、硫酸銅が挙げられる。
【0035】
金属塩は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
本発明の表面処理液における金属塩の濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.003〜0.3mol/L、好ましくは0.01〜0.2mol/L、より好ましくは0.015〜0.1mol/L、さらに好ましくは0.02〜0.05mol/L、よりさらに好ましくは0.02〜0.04mol/Lである。
【0037】
本発明の表面処理液は、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、及び無機系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を有するキレート剤を含有することが好ましい。カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、無機系化合物を有するキレート剤より選択される少なくとも1種のキレート剤をさらに含有することにより、アルミニウム材の樹脂に対する接合性をさらに向上させることが可能である。
【0038】
カルボン酸系キレート剤としては、酢酸、しゅう酸塩、マロン酸塩等があげられる。
【0039】
ヒドロキシカルボン酸系キレート剤としては、グルコン酸以外の、サリチル酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、マンデル酸等があげられる。
【0040】
アミノカルボン酸系キレート剤としては、グリシン、アラニン、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、ニトリロ四酢酸、グルタミン酸-N,N-二酢酸、アスパラギン酸-N,N-二酢酸等があげられる。
【0041】
無機化合物系キレート剤としては、ピロリン酸塩、トリリン酸塩、縮合リン酸塩などがあげられる。
【0042】
これらの中でも、好ましくはサリチル酸、酢酸が挙げられ、より好ましくはサリチル酸が挙げられる。
【0043】
カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、無機系化合物を有するキレート剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
本発明の表面処理液におけるカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、無機系化合物を有するキレート剤の濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.005〜0.5mol/L、好ましくは0.01〜0.3mol/L、より好ましくは0.02〜0.2mol/L、さらに好ましくは0.03〜0.1mol/L、よりさらに好ましくは0.04〜0.07mol/Lである。
【0045】
本発明の表面処理液には、本発明の効果が著しく阻害されない限りにおいて、上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばリン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、鉄塩、フッ化物等が挙げられる。
【0046】
他の成分の含有量は、本発明の処理液100質量%に対して、例えば0〜5質量%、好ましくは0〜2質量%、より好ましくは0〜1質量%、さらに好ましくは0〜0.1質量%、よりさらに好ましくは0質量%である。
【0047】
本発明の表面処理液のpHは、アルカリ性であり、例えば10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは13以上である。
【0048】
本発明の表面処理液は、溶媒として水を用いて、各成分を適宜混合することにより製造することができる。溶媒としては水のみならず、本発明の効果が著しく阻害されない限りにおいて、水に加えて他の溶媒を追加してもよい。
【0049】
本発明の表面処理液は、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるために用いることができる。
【0050】
アルミニウム材としては、処理対象となる表面部分がアルミニウム又はアルミニウム合金によって形成されている物品であれば特に制限されない。例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を材質とする各種の物品のほか、鋼板等の各種の基材上にアルミニウムめっき又はアルミニウム合金めっき皮膜を形成した物品、溶融アルミニウムめっき処理を施した物品、鋳物、ダイキャスト等を使用することができる。アルミニウム合金としては特に限定されず、アルミニウムを主要金属成分とする各種合金を用いることができる。例えば、A1000系の準アルミニウム、A2000系の銅及びマンガンを含むアルミニウム合金、A3000系のアルミニウム−マンガン合金、A4000系のアルミニウム−シリコン合金、A5000系のアルミニウム−マグネシウム合金、A6000系のアルミニウム−マグネシウム−シリコン合金、A7000系のアルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金、A8000系のアルミニウム−リチウム系合金等を適用対象とすることができる。アルミニウム材の表面は、脱脂処理等の前処理が施されていてもよい。
【0051】
樹脂としては、特に制限されないが、例えばポリエステル樹脂(例えばポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、アセテート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0052】
接合性が向上するとは、アルミニウム材と樹脂とを接合させた場合に、接合面でより剥離し難いことを示す。一例として、接合性は、JIS K6256−2に準拠した引っ張り試験により測定することができる。
【0053】
本発明の表面処理液でアルミニウム材を処理する工程(工程1)を含む方法(方法1)により、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させること、樹脂に対する接合性が向上されたアルミニウム材を製造すること等が可能である。
【0054】
工程1における処理の態様は、アルミニウム材の表面上に本発明の表面処理液が接触可能な態様である限り特に制限されない。該接触方法としては、例えば、塗布、スプレー、浸漬等の方法を採用することができる。より具体的には、例えばディップコート、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、バーコート等の公知の方法を採用することができる。
【0055】
工程1における処理時の温度は、特に制限されないが、例えば10〜70℃、好ましくは20〜60℃、より好ましくは30〜50℃、さらに好ましくは35〜45℃である。
【0056】
工程1における処理時間は、処理温度に応じて異なるが、例えば10〜240秒間、好ましくは30〜150秒間、より好ましくは60〜120秒間である。
【0057】
方法1においては、工程1の後に、工程1で得られたアルミニウム材をスマット除去処理する工程(工程2)を行うことが好ましい。これにより、接合性をより向上させることができる。
【0058】
スマット除去処理液としては、不溶解性金属を溶解させる処理液であればよく、本発明では酸が用いられる。酸性処理液としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸などが用いられ、好ましくは硝酸が用いられる。
【0059】
スマット除去処理条件としては、特に限定されないが、処理対象の金属材料と該処理液とが充分に接触できる方法であればよい。通常は、該処理液中に金属材料を浸漬する方法によれば、効率のよい処理が可能となる。処理条件は、特に限定的ではないが、例えば、浸漬法で処理する場合には、処理液の液温を10〜90℃程度として、浸漬時間を5秒〜10分程度とすればよい。
【0060】
工程1と工程2とのサイクルは、好ましくは複数回(例えば2回)行われる。これにより、接合性をより向上させることができる。
【0061】
方法1により、樹脂に対する接合性が向上されたアルミニウム材を得ることができる。得られたアルミニウム材と樹脂とを接合する工程(工程a)を含む方法(方法2)により、複合材料を製造することができる。
【0062】
工程aにおける接合手段としては、特に制限されず、例えばプレス成形等を採用することができる。
【0063】
方法2により、樹脂とアルミニウム材との接合性がより向上された、樹脂−アルミニウム材複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0065】
比較例1及び実施例1〜11:表面処理液の調製
アルカリ(水酸化ナトリウム)、酸化亜鉛、及びキレート剤1(糖酸又は糖アルコールのキレート剤:グルコン酸ナトリウム、ソルビトール、又はマンニトール)を含有する水溶液を、アルミニウム材の処理液として調製した。処理液中の濃度は、水酸化ナトリウムは(8.27 mol/L)、酸化亜鉛は(0.68mol/L)、及びグルコン酸ナトリウムは0.1mol/Lとした。実施例1〜5については金属塩をさらに添加し、実施例6〜11については金属塩及びキレート剤2(カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸を有するサリチル酸又は酢酸)をさらに添加した。これらの種類及び濃度は下記表1に示す。
【0066】
試験例1:アルミニウム材の表面処理
アルミニウム板材(A5052材およびA6061材)をトップADD−100(奥野製薬工業製品)100ml/L水溶液に浸漬して、55℃で2分間処理することにより脱脂した。次いで、得られた脱脂処理済のアルミニウム板材を処理液(比較例1及び実施例1〜11)に浸漬して40℃で90秒間処理した。続いて、得られた処理済アルミニウム板材をトップデスマットN−20(奥野製薬工業製品)に浸漬して50℃で5分間処理することにより表面に残存するスマットを除去し、水洗した。処理液(比較例1及び実施例1〜11)による処理とスマット除去処理のサイクルを再度行い、水洗して乾燥させた。
【0067】
試験例2:フッ素ゴムの接着性評価
試験例1で得られたアルミニウム材にフッ素ゴムを乗せ金型を用いてプレス成型後、引っ張り試験を実施した。引っ張り試験はJIS K6256−2に準拠し90°の剥離試験を行なった。結果を表1に示す。
【0068】
試験例3:PBT樹脂の接着性評価
試験例1で得られたアルミニウム材にGF強化PBT樹脂を乗せ金型を用いて成型した。全電動射出成形機(住友重機械工業製、SE50DUZ)を使用し、樹脂温度:270℃、金型温度:140℃の成型条件で、ISO19095−2B せん断形状の試験片を作製した。引っ張り試験は速度:5mm/minで行なった。結果を表1に示す。
【0069】
結果
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1〜11の処理液を用いて得られたいずれの試験片も、接着性評価試験後のアルミニウムに樹脂残りが確認された。このことから、これらの試験片は、樹脂と良好な接着状態であったといえる。また、処理液に金属塩を添加することにより、アルミニウム材と樹脂との接合強度が向上することが分かった(比較例1と実施例1〜5との比較)。さらに、金属塩に加えてカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸を有するキレート剤2をさらに添加することにより、より接合強度が向上することが分かった(実施例1〜5と実施例6〜11との比較)。
【要約】
【課題】アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液、及びこれを用いた接合技術を提供すること。
【解決手段】(A)アルカリ、(B)亜鉛イオン源、(C)糖酸又は糖アルコールのグルコン酸塩、ソルビトール、及びマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤、並びに(D)金属塩を含有する、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液。
【選択図】なし