(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396582
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】活性固相触媒上での廃苛性物流における硫化物の除去
(51)【国際特許分類】
C02F 1/74 20060101AFI20180913BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20180913BHJP
B01J 27/185 20060101ALI20180913BHJP
B01J 29/14 20060101ALI20180913BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
C02F1/74 101
B01J23/72 M
B01J27/185 M
B01J29/14 M
B01J35/10 301G
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-510789(P2017-510789)
(86)(22)【出願日】2015年5月6日
(65)【公表番号】特表2017-514691(P2017-514691A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】IB2015053304
(87)【国際公開番号】WO2015170265
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】1599/MUM/2014
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】317004494
【氏名又は名称】ヒンドゥスタン ペトロリアム コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】カナパルティ、ラメッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ラオ、ペディ ベンカタ チャラパティ
(72)【発明者】
【氏名】ベンカテスワルル、チョーダリー ネッテム
(72)【発明者】
【氏名】ガンダム、スリガネッシュ
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭52−004278(JP,B1)
【文献】
特開平05−119440(JP,A)
【文献】
米国特許第06461521(US,B1)
【文献】
特開昭53−049105(JP,A)
【文献】
特開平04−338285(JP,A)
【文献】
特開2004−098023(JP,A)
【文献】
特開2004−230269(JP,A)
【文献】
特表平10−511040(JP,A)
【文献】
特表平09−511944(JP,A)
【文献】
米国特許第05552063(US,A)
【文献】
特開2002−253966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70−1/78
B01J 23/72
B01J 27/185
B01J 29/14
B01J 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2重量%から50重量%の量で存在する支持材と遷移金属の酸化物又はその誘導体から選択される修飾剤とを含む触媒組成物の存在下において湿式空気酸化を行うことを含み、
前記支持材は、20から280の可変Si/Al比を有するゼオライト若しくは金属リン酸塩又はニオビアのバルク酸化物から選択され、
硫化物の除去は、廃苛性物において95%を超え、
前記修飾剤は、20.0重量%までの量のコバルト、銅又はそれらの誘導体から選択される遷移金属である、
廃苛性物における硫化物の除去方法。
【請求項2】
前記修飾剤は、前記支持材の孔の内又は外で前記支持材の表面に固定され、含浸され、交換され又は単に接触されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記支持材は、Xタイプゼオライトといったフージャサイトタイプゼオライト又はヒドロキシアパタイトといった金属リン酸塩である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
触媒は、20から700m2/gの比表面積及び0.10から1.5cc/gの孔容積を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
廃苛性物溶液、希廃苛性物溶液又は単に水溶液において硫化物部分を変換させ、前記触媒組成物は、支持材及び修飾剤と共に触媒を含み、酸化剤は、空気又は酸素である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
中和及び吸着工程を含み、吸着の後に中和が行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
5から7.5の間のpHに調節する中和工程を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
異なる炭素の形態上への硫化物の吸着工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
触媒の存在下において湿式空気酸化によって、排水又はフェノール、ナフテン酸成分及びメルカプタンを含む他の有機性不純物を有する希廃苛性物から不純物を除去し、湿式空気酸化は、250から450℃の温度、大気圧から60バールの圧力、30分間から8時間の反応時間でのバッチモードにおいて行われる、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般的に記載された主題は、酸化剤として空気又は分子状酸素を用いた、希廃苛性物における硫化物の除去のための活性固相混合酸化物触媒複合体の開発に関する。特に、本発明は、活性金属、金属酸化物及び支持系の発見、金属の組成物の最適化並びに廃苛性物における硫化物の除去のための適切な触媒上の反応パラメータに関する。本発明はまた、水性廃苛性物溶液中の硫化物の完全な除去のためのプロセスの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所は現在、より高い毒性のH
2S、メルカプタンおよび様々な炭化水素流における他の硫黄含有化合物の産生をもたらす魅力的な経済のために、より多くのサワー原油を処理している。一方、様々な環境規制を満たす異なる製品の炭化水素流中の超低硫黄レベルを達成するための硫黄の除去は、ますます重要な課題である。この目的のために、希苛性物流は、炭化水素中の硫黄含有化合物を除去するための安価で広く使用されている抽出試薬であり、「廃苛性物」と称されている。廃苛性物は、潜在的に製油所の設備に汚れまたは金属損傷を引き起こす硫化物/メルカプタン化合物を含むため、効果的な排水処理手順が、その適正な処分のために必要とされる。一般的に、廃苛性物の特性は、さまざまなソースによって異なり、12を超えるpHおよび0.5から4.0重量%の範囲の硫化物濃度を有する。ソースに応じて、廃苛性物はまた、フェノール、メルカプタン、アミンおよび他の有機化合物といった他の不純物を含有する。硫化物、メルカプタンおよび有毒な炭化水素/有機汚染物質を除去するための、廃苛性物中の硫化含有物の酸化が、有毒な硫化物を変換するために製油所で実施されている。しかし、過酸化物処理又はオゾン分解経路を使用した市販の酸化方法は、高価であり、様々な運用上の課題を提起する。従って、硫化物/メルカプタン化合物の水溶性および低毒性硫酸塩への変換のための代替的な、適切な、安価な(linexpensive)、確実なおよび環境に優しい方法を開発する必要がある。
【0003】
具体的には、廃苛性物溶液は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫化ナトリウム、メルカプタン、フェノールおよび乳化炭化水素を含有する。これらの化合物は、有害廃棄物として分類され、臭気性であり、生物学的処理に抵抗性がある。具体的には、溶解されたH
2S、Na
2S、NaHS、RSNA(ナトリウムメルカプチド)といった化合物を含有する硫化物が、廃苛性物中に存在する。廃苛性物はまた、フェノール類およびナフテン酸といった他の汚染物質に付随する有機硫化物で構成されている。
【0004】
廃苛性物における硫化物の除去は、物理的および化学的方法の両方によって達成され得る。効果的な方法である湿式空気酸化(WAO)は、高温(>200℃)および高圧(>150バール)で有機汚染物質を除去するように提案されている[1]。湿式空気酸化は環境規制を満たすために有効な方法であるが、その方法は厳しいプロセス条件に起因して高価であり、酸化剤の高いコストおよびさらなるプロセス安全性は、別の問題である。水溶液中の有機物除去に効果的なフェントン試薬(Fe
2+/H
2O
2)は、比較的低い温度及び圧力で難溶性汚染物質を酸化することができる。しかしながら、この方法は、大量のH
2O
2を消費し、第二鉄イオンと反応する高濃度のH
2Sにより、触媒効率の損失が生じる。また、pHは酸性の範囲に調整されなければならない。
【0005】
具体的には、廃苛性物における硫化物を変換するために、種々の酸化経路、すなわちH
2O
2酸化、コバルトフタロシアニンを用いた酸化および湿式空気酸化が提案されている。H
2O
2処理は、周囲温度および大気圧で作動する。このプロセスは、酸化によって硫化物とフェノール類を除去する。一方、H
2O
2処理は、高度な資本および機能的コストに関連している。化学量論的に、4kgのH
2O
2が、1kgの硫化物を処理するのに必要とされる。コバルトフタロシアニン均一系触媒を用いた酸化は、使用済み触媒の分離および効率に問題がある。一方、湿式空気酸化は、硫化物を除去するための有望な経路であり、また、供給流中の炭化水素を低減させる。主に、湿式空気酸化では、反応性硫化物は水溶性のチオ硫酸塩、亜硫酸塩および硫酸塩に変換される。処理された流れは、廃水プラント内の生物学的処理に適している。より穏やかな反応条件下でプロセスを動作させるために、適切な触媒の存在下でのWAOが提案されている。触媒湿式空気酸化の利点により、本発明は、5ppm未満の硫化物を除去するための効率的な触媒および最適な反応条件の開発について説明する。
Na
2S+4H
2O
2=Na
2SO
4+4H
2O(アルカリ性pH)
Na
2S+H
2SO
4=Na
2SO
4+H
2S(酸性pH)
【0006】
湿式空気酸化は、酸化剤として空気中に含まれる酸素分子(または他の酸素含有ガス)を用いた水相酸化プロセスである。プロセスは、各々、120℃(248°F)から320℃(608°F)および760kPa(110psig)から21000kPa(3000psig)の範囲の高温高圧で動作する。湿式空気酸化反応の概要は以下のように提示され得る。
2Na
2S+2O
2→Na
2SO
4 式1
2NaHS+O
2+NaOH→Na
2SO
4+H
2O 式2
NaRS+3O
2+2NaOH→Na
2SO
4+RCOONa+2H 式3
(ナフテン(Naphthenics))+O
2→HNaCO
3+RCOONa 式4
(Crecyclics)+O
2→HNaCO
3+RCOONa 式5
NaRS+O
2+H
2O→RSSR+NaOH 式6
【0007】
廃苛性物において硫化物を処理するための様々の経路が提案され、それには、中和/酸性化、焼却、化学沈殿、化学酸化、湿式酸化、触媒湿式酸化、生物学的酸化が含まれる。
【0008】
下記は、湿式空気酸化の様々な利点である、(1)フィード内の変化する硫化物レベルに有効である、(2)該方法は、溶解した固体の存在により制限されない、(3)バイオ処理プロセスとの互換性、(4)さらなる中和を必要としない、(5)比較的低運用コスト。
【0009】
最近、筆者らは、湿式空気酸化経路によるH
2O
2の代替としてコバルトフタロシアニンおよびその誘導体に基づく効果的な均一触媒を報告した[7]。特許文献1は、204℃および35バールの圧力での廃苛性物における硫化物の湿式空気酸化を実証し、流れは揮散ガスとして用いられた。フィード中の硫化物は、3480および8960ppmで処理され、製品の最終硫化物は、それぞれ0および154ppmである。反応温度および圧力は、138℃および126℃、2.57および1.37バールである。特許文献2は、廃苛性物中の除去硫化物は、178lts/分の液体供給速度で、2.5時間の滞留時間で、135℃の温度および11バールの圧力で達成されることを議論した。反応前にpHは9.6以下に調整された。硫化物転換の90%は、3780ppmで開始される。特許文献3は、硫化物の除去が、60分間、200℃で湿式酸化経路を介して試行されたことを実証した。特許文献4は、水性系中の硫化物の含有量を減少させる方法を実証した。本発明における試薬は、H
2O
2およびClO
2である。ClO
2およびH
2O
2の組み合わせは、硫化物のレベルの100ppmから10ppmへの低減をもたらした。サンアントニオで発表された非特許文献1は、廃苛性物の処理のための湿式空気酸化系について議論した。WAOの特性はCO
2およびH
2Oに加えて、カルボン酸および部分的短鎖有機物の形成であると述べられた。反応温度および圧力は、260℃および90バールである。非特許文献2に発表された最近の論文は、非触媒システムのデメリットおよび評価されたバナジウムおよび銅触媒を説明し、最も活性な触媒は、Cu/シリカおよびV/クリノプチロライトであり、それぞれ20および26分で完全酸化が達成されることを見いだした。効率的な触媒のさらなる研究において、最近、コバルト−マンガンの組み合わせが200℃で検討された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3023084号明細書
【特許文献2】米国特許第3963611号明細書
【特許文献3】米国特許第5082571号明細書
【特許文献4】米国特許第5246597号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】NPRA report presented at San Antonio
【非特許文献2】Topics in catalysis 54(2011)579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、廃苛性物を含む硫化物を処理するための方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、廃苛性物流から硫化物を除去するために活性金属酸化物の組み合わせを特定することによる触媒方法を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、廃苛性物流からメルカプタン及びフェノールを除去するための方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、廃苛性物流から臭気化合物を除去又は抽出することである。
【0016】
本発明の他の目的は、廃苛性物における硫化物の除去における適切な、及び活性触媒を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、バッチモードにおける触媒性湿式空気酸化に適切な操作するためのプロセスパラメータを提供することである。
【0018】
本発明のさらなる他の目的は、上述の方法を実施するためのスキームを提供することである。
【0019】
本発明のさらなる他の目的は、廃苛性物において硫化物を完全に除去する経路を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる他の目的は、上述の方法のための効果的な前処理方法を同定することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
したがって、本発明は、2重量%から50重量%の量で存在する支持材並びに遷移金属の酸化物及びその誘導体から選択される修飾剤を含む触媒組成物の存在下において湿空気酸化を行うことを含む、廃苛性物における硫化物の除去方法を提供する。
【0022】
本発明の一態様において、修飾剤は、前記支持材の表面又は前記支持材の孔の外に固定され、含浸され、交換され又は単に接触されている。
【0023】
本発明の一態様において、修飾剤は、約20.0重量%までの量のコバルト、銅又はそれらの誘導体から選択される遷移金属である。
【0024】
本発明の一態様において、支持材は、バルク酸化物、金属リン酸塩及びゼオライトから選択される。
【0025】
本発明の一態様において、支持材は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、ニオビア及びそれらの組み合わせから選択されるバルク酸化物又は20から280の可変Si/Al比を有する、Xタイプゼオライトといったフージャサイトタイプゼオライトであるゼオライト、並びにヒドロキシアパタイトといった金属リン酸塩である。
【0026】
本発明の一態様において、触媒は、約20から約700m
2/gの比表面積及び約0.10から約1.5cc/gの孔容積を有する。
【0027】
本発明の一態様において、廃苛性物溶液、希廃苛性物溶液又は単に水溶液において硫化物部分を変換させ、触媒組成物は、支持材及び修飾剤と共に触媒を含み、酸化剤は、空気又は酸素である。
【0028】
本発明の一態様において、方法は、中和工程及び吸着工程を含む。
【0029】
本発明の一態様において、方法はさらに、異なる炭素の形態上への硫化物の吸着工程をさらに含む。
【0030】
本発明の一態様において、触媒の存在下において湿式空気酸化によって、排水又はフェノール、ナフテン酸成分及びメルカプタンを含む他の有機性不純物を有する希釈された廃苛性物から不純物を除去し、湿式空気酸化は、約250から約450℃の温度、大気圧から60バールの圧力、30分間から8時間の反応時間でのバッチモードにおいて行われる。
【0031】
本発明の一態様において、硫化物の除去は、廃苛性物において95%を超える。
【0032】
アルミナ、カルシウムヒドロキシアパタイトおよびXゼオライト上に支持された種々の遷移金属酸化物上での希廃苛性物流中の硫化物含有物の触媒湿式空気酸化が記載されている。触媒は、様々な反応温度、触媒供給比、攪拌速度、時間間隔および圧力で試験された。合成された触媒は、製油所の廃苛性物における硫化物の除去に活性であることが見出された。最初のスクリーニングの結果は、硫化物を除去するための固体触媒の使用が硫化物の効果的な酸化を示したことを示した。イオン交換法を用いて合成されたCo−Xゼオライトは、4時間の反応時間で酸化剤としてゼロ空気を用いて80℃で72重量%の硫化物変換を示した。しかしながら、温度を150℃に上昇させ、60バールの反応圧力と組み合わせると、硫化物の減少が達成され、変換が改善される。上記の代替経路は、触媒の分離及び再利用の点で他に比べていくつかの利点がある。また、例えば、コバルトおよび銅といった活性金属は、処理後の最終的な仕様には影響しない。上記に基づき、反応条件の最適化への有望な結果は、温度、圧力、触媒の量、触媒供給比を含んで行われる。酸化を実施する前の硫酸前処理が検討されている。このプロセスは、厳しい仕様を満たすだけでなく経済性を向上させるように、既存のH
2O
2処理と完全に交換またはそれとの組み合わせによって用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】廃苛性物中の硫化物の除去のための提案されたスキームを示す図である。
【
図2】Cu/Al
2O
3触媒上での種々の反応温度および6バールのゼロ空気圧でのNa
2S(3000ppm)溶液の湿式空気酸化における反応温度の影響を示すグラフ図である。
【
図3】Cu/Al
2O
3触媒上での150℃および6バールのゼロ空気圧でのNa
2S(3000ppm)溶液の湿式空気酸化における反応時間のの影響を示すグラフ図である。
【
図4】Cu/Al
2O
3触媒上での種々の反応温度および6バールのゼロ空気圧での処理された廃苛性物の湿式空気酸化における反応温度の影響を示すグラフ図である。
【
図5】Cu/Al
2O
3触媒上での150℃および6バールのゼロ空気圧での前処理された廃苛性物溶液の湿式空気酸化における反応時間の影響を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、様々な実施例を参照することにより、以下の段落に詳細に記載されている。しかしながら、そのような説明は例示の目的のためにだけ提供され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0035】
(触媒湿式空気酸化)
3000から8000ppmの間の初期の硫化物含量を有する硫化物部分は、原料として使用される。湿式空気酸化は、大気圧と1から60バールの範囲の高圧との両方で、および60から200℃の間の温度で行われる。典型的には、20から50mLの廃苛性物の原料を反応器に入れ、10ppmから1gの量の触媒を入れた。触媒の実験は、酸化剤としてゼロ空気を使用して、1から8時間の時間で実施された。触媒の試験は、PARR反応器を用いて行われた。生成物サンプルを収集し、滴定法を用いて分析した。
【0036】
(硫化物推定)
廃苛性物における硫化物の決定は、ヨード滴定法により行った。典型的な滴定では、100mLの瓶に1mLの廃苛性物を取り、1mLの酢酸亜鉛(22%)および1mLのNaOH(6N)を添加する。気泡を立てることなく100mLの溶液を作り、前後に激しく横軸の周りに回転させることにより混合した。ケーキを濾過し、2−3mLの1:1のHClを添加することで100mkのDI水にケーキを溶解させた。0.025Nのヨウ素溶液を添加して明白な黄色に着色させ、デンプン溶液を数滴滴下することで青色に着色させた。滴定は0.025Nのハイポ溶液を用いて行った。
【0037】
(触媒)
ゼオライトは、明確に固定された溝および窓直径<10nmを有する空洞を有する微孔質結晶性アルミノシリケートの固体である。アルミノシリケート骨格は、負に帯電しており、骨格外カチオンにより多面体である。ゼオライト骨格の利点は、分子およびイオンを収容できることである。したがって、ゼオライトは、広く使用され、工業プロセスにおけるイオン交換、吸着剤及び触媒として研究されている。ゼオライト中に存在する骨格外カチオンは、それらの吸着及び触媒特性を決定する上で重要な役割を果たす。ゼオライトXは、天然鉱物フォージャサイトの合成アルミニウムに富むアナログである。
【0038】
ゼオライトXの骨格構造は、主に、Siが酸素原子と結合したAl位置の約4%でAlと置換すること以外は、四面体交点で交互に配置されたシリコンおよびアルミニウム原子を含む。ゼオライトXの骨格構造は、その主たるビルディングブロックとしてソーダライト空洞またはβ−ケージからなる。典型的に、β−ケージは、二重6員環を生じる供給酸素を介して6員環と4面体結合される(および12員環の窓から3次元でアクセス可能なより大きな空洞のセットに相互接続される)。シリコンおよびアルミニウム原子は、これらの多面体の頂点を占め、酸素原子は、シリコンおよびアルミニウム原子の各対の間のほぼ中間にあるが、シリコンおよびアルミニウムの近四面体の角度を与えるようにこれらの点からずれている。アルミナシリケート骨格の負電荷のバランスをとる交換可能なカチオンが、ゼオライトの空洞内に見出されている。
【0039】
(カチオン交換)
市販のゼオライトXのナトリウムカチオンは、353Kでカリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウム塩溶液を別々にまたは組み合わせでのイオン交換により、種々のアルカリ金属およびアルカリ土類金属カチオンで置換された。イオン交換プロセスは、他のアルカリおよびアルカリ土類金属とナトリウムイオンの高度な交換を達成するように数回繰り返された。コバルトカチオンは、水溶液からのコバルトイオン交換によって高結晶性ゼオライトXに導入された。
【0040】
(コバルトゼオライト−Xの調製)
2グラムのゼオライト−Xを、ガラスビーカーに取り、1:80の比で280mLの水において0.05M硝酸コバルト六水和物の溶液とした。ゼオライト−Xのサンプルと混合し、絶えず撹拌しながら80℃で4時間、加熱器においてそれを加熱した。熱蒸留水でケーキを濾過し、洗浄した。温度110℃で一晩、乾燥のために得られた固体を維持し、その後、3時間、450℃で焼成した。
【0041】
(ナトリウムコバルトゼオライト−Xの調製)
水20mL中の1M塩化ナトリウム溶液を調製し、水中で2gのゼオライト−Xと混合した。絶えず撹拌しながら80℃で4時間、還流加熱した。得られた溶液を濾過し、一晩乾燥するために、110℃で固体を維持した。4.65gの硝酸コバルト四水和物を水320mL中で混合して、0.05Mの硝酸コバルト四水和物溶液とした。固体/液体比を1:80に維持した。硝酸コバルト四水和物とナトリウムゼオライト−Xを混合し、絶えず撹拌しながら80℃で4時間加熱した。溶液を濾過した後、熱水で洗浄した。
【0042】
(カリウムコバルトゼオライトXの調製)
水20ml中に硝酸カリウム1M溶液を含む溶液を、2gのゼオライトXに添加した。絶えず撹拌しながら80℃で4時間加熱した。カリウムゼオライトXの濾過固体を熱水で洗浄した。得られた固体を一晩、110℃で乾燥するために維持した。水240mL中に0.05M硝酸コバルト六水和物を含む溶液を、比1:80で維持した。
バリウムおよびストロンチウムといった他の金属修飾ゼオライトXを、上記と同様の方法で合成した。
【0043】
(ストロンチウムゼオライトXの調製)
シリカアルミナ比84、187、272及び408を有する約0.5gのゼオライトを、ほぼ2mLの蒸留水に添加した。約30分間、水中でよくゼオライトサンプルを混合した。ゼオライトサンプル中に0.5%(重量比)のストロンチウムを追加し、Sr(NO
3)
2の重量は0.6231gである。Sr(NO
3)
2およびゼオライトサンプルの溶液を1時間混合した。低温でのヒーターで溶液を加熱した。サンプルを4時間、炉内で400℃で焼成した。
他の金属(Cs、Ba)修飾ゼオライトXを上記と同様の方法で調製した。
【0044】
(含浸)
支持触媒の調製方法としての含浸は、金属塩の溶液で支持体の細孔を充填することによって達成され、その後に当該溶液から溶媒を蒸発させた。触媒は、金属化合物の溶液を支持体に噴霧することにより、または適切な金属塩の溶液に支持材料を添加することのいずれかによって調製され、そうすることで、活性成分の必要重量は、溶液を過剰に使用することなく支持体に組み込まれる。次いで、熱分解または還元のいずれかによって、高温での塩の乾燥、その後の分解が行われる。混合金属触媒の調製に使用する場合、金属塩の含浸溶液中の成分が選択的に吸着していないことを確認するのに注意を払う必要があり、それにより、混合金属触媒中の金属の予想外に異なるとともに望ましくない濃度をもたらす。この技術は広く基本的な研究のための少量の触媒の調製のために使用されてきた。
【0045】
(硫化物の除去のための新規触媒としてヒドロキシアパタイト)
CaHAPは、Ca(I)イオンが列方向に整列する一方、Ca(II)イオンがPO
43−四面体で囲まれたねじ軸を中心とした正三角形である、二つの非等価なサイトIおよびIIにCa
2+が配置される、六方晶P6
3/m対称で結晶化する。CaHAPは、高い吸着能及びイオン交換能といった重要な特性を伴って、その結晶格子中の酸−塩基の両特性を示す。
【0046】
(カルシウムヒドロキシアパタイトの合成)
(前駆体としてのNH
4H
2PO
4を使用したCaHAP)
60mLのH
2O中に硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO
3)
2・4H
2O)(6.67×10
−2mol)を含む溶液を調製し、NH
4OH(4.98N)でpHを11−12にして、加えてさらに120mLに希釈した。100mLのH
2O中にリン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)(4.00×10
−2mol)を含む溶液を調製し、NH
4OH(4.98N)でpHを11−12にして、その後160mLに希釈した。カルシウム溶液は、室温で激しく撹拌し、Caにリン酸溶液を滴下した。乳白色のゼラチン状沈殿物を生じるのに30分間かかり、当該沈殿物を1時間、70℃で撹拌、沸騰させた。沈殿物を濾過し、洗浄し、一晩80℃で乾燥させ、最後に3時間、500℃で焼成した。調製反応を次のように説明することができる。
6(NH
4)H
2PO
4+10Ca(NO
3)
2+14NH
4OH→Ca
10(PO
4)
6(OH)
2+20NH
4NO
3+12H
2O
【0047】
Caの対Pの比の効果およびヒドロキシアパタイト骨格への金属添加の効果を研究するために、以下のリストの触媒を、カルシウムヒドロキシアパタイト触媒と同様の方法を用いて合成した。これらの材料の酸性および塩基性の特性が金属対リンの比によって変わるので、我々は体系的に金属(Ca)対リンの比を1.1から2.16に変化させた。様々な金属修飾CaHaP触媒を、Sr、Baを用いて合成した。CO(10重量%)は、これらの支持体上に含浸された。比較のために、SrHaP支持体を、1.1から2.16のSr対Pとの比で合成した。SrHaP支持構造は、X線回折法を用いて確認された。SrHaPはさらに、Ba及びCaを用いて修飾された。CO(10重量%)は、これらの支持体上に含浸された。
【実施例】
【0048】
以下、非限定的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかしながら、それらは決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0049】
(実施例1)
3140ppmの硫化物含有物を有する前処理を行っていない製油所の廃苛性物の原料を、硫化物を除去するための実験に使用した。反応条件は、廃苛性物:50mL、触媒:Co−XゼオライトおよびCoCaHAP、触媒量:50mgであり、酸化剤:ゼロ空気、温度:80℃である。硫化物を除去するために評価された種々の触媒の結果を、表1に示す。最大58%の変換率が、大気圧、80℃の反応温度で、50mgの触媒を用いて、Co−Xゼオライト上で達成される。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例2)
高温高圧の効果を検証するために、硫化物除去を10バールのゼロ空気圧で80から100℃で行う。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
(実施例3)
3140ppmの硫化物含有物を有する前処理を行っていない製油所の廃苛性物フィードを、硫化物を除去するための実験に使用した。反応条件は、廃苛性物:50mL、触媒量:10−1000mgであり、酸化剤:ゼロ空気、反応温度:50−150℃、60バールまでの空気圧である。硫化物を除去するために評価された種々の触媒の結果を、表3に示す。最大92%の変換率が、60バールの空気圧で、150℃の反応温度で、100mgの触媒を用いて、Co−CaHAPゼオライト上で達成される。気体生成物は、RGAを用いて分析され、H
2S、SO
2およびSO
3の有意な量は観察されなかった。
【0054】
【表3】
【0055】
(実施例4)
汚染物質の影響を検証するために、5000ppmのシミュレーションされたNa
2S原料を調製する。この溶液(50mL)を4時間の反応時間にわたって、150℃および6バールの空気圧でCu/Al
2O
3触媒50mg上のCWAOに対して用い、硫化物の完全な除去が達成される。同様の結果はまた、高いゼロ空気の圧力(20バールを超える)でのCo/CaHAP上で得られる。
図2および
図3は、150℃および6バールのゼロ空気の圧力での3000ppmのNa
2S水溶液を処理するCu/Al
2O
3触媒上での結果を示す。
【0056】
(実施例5)
3140ppmの硫化物を有する製油所の廃苛性物を、H
2SO
4の必要量で前処理し、62%の硫化物の減少が観察される。次いで、活性炭上で上記の溶液を処理し、さらに硫化物含量を70%まで減少させた。上記のストック溶液を、150℃および6バールのゼロ空気圧でCu/X、Co/X、Co/CaHAP、Cu/Al
2O
3、Co/Al
2O
3上での反応のために用い、硫化物の98%を超える総除去が達成される。
【0057】
(実施例6)
H
2SO
4で前処理された硫化物の含有物を有する廃苛性物を次いで、活性炭上に吸着させ、触媒湿式空気酸化を行うために使用した。Cu/Al
2O
3は、120℃で98%超の変換を示した。
図4は、様々な反応温度及び6バールの圧力でのCu/Al
2O
3触媒を用いた製油所の廃苛性物のCWAO処理を示す。流れ試験の時間は、完了された硫化物の除去が、3時間の反応時間内で実現されることを示した(
図5)。
【0058】
(実施例7)
200ppm未満のより少ない量の硫化物を活性炭上で吸着させ、10から20%の硫化物が吸着された。プロセススキームは、
図1に提案される。約70−90%の硫化物含有物は、湿式空気酸化を介して検証された触媒上で変換され得る。硫化物を完全に除去するために、炭素に次いで、少量のH
2O
2といった適切な材料上で吸着させることが提案されている。
【0059】
(参考文献)
1.S−H.Sheu and H−S.Weng,Wat.Res.35(2001)2017
2.V.Rathore,S.Gupta,T.S.Thorat,P.V. C.Rao,N.V.Choudary and G.Biju,PTQ,Q3,2011,1
3.A.M.Thomas Jr,US3023084 A
4.W.Dardenne−Ankringa,Jr,USPTO 3963611
5.D.A.Beula,W.M.Copa,J.A.Momont,US5082571 A
6.D.A.Jenson,A.Z.Jezak,A.O.Massey,US5246597 A
7.I.Zermeno−Montante,C.Nieto−Delgado,R.D.Sagredo−Puente,M.G.Cardenas−Galindo,B.E.Handy,Topics in catalysis 54(2011)579
【0060】
(付記)
(付記1)
2重量%から50重量%の量で存在する支持材と遷移金属の酸化物又はその誘導体から選択される修飾剤とを含む触媒組成物の存在下において湿式空気酸化を行うことを含む、廃苛性物における硫化物の除去方法。
【0061】
(付記2)
前記修飾剤は、前記支持材の孔の内又は外で前記支持材の表面に固定され、含浸され、交換され又は単に接触されている、
ことを特徴とする付記1に記載の方法。
【0062】
(付記3)
前記修飾剤は、約20.0重量%までの量のコバルト、銅又はそれらの誘導体から選択される遷移金属である、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の方法。
【0063】
(付記4)
前記支持材は、バルク酸化物、金属リン酸塩又はゼオライトから選択される、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【0064】
(付記5)
前記支持材は、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、ニオビア若しくはそれらの組み合わせから選択されるバルク酸化物、又は20から280の可変Si/Al比を有する、Xタイプゼオライトといったフージャサイトタイプゼオライトであるゼオライト、ヒドロキシアパタイトといった金属リン酸塩である、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【0065】
(付記6)
触媒は、約20から約700m
2/gの比表面積及び約0.10から約1.5cc/gの孔容積を有する、
ことを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【0066】
(付記7)
廃苛性物溶液、希廃苛性物溶液又は単に水溶液において硫化物部分を変換させ、前記触媒組成物は、支持材及び修飾剤と共に触媒を含み、酸化剤は、空気又は酸素である、
ことを特徴とする付記1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【0067】
(付記8)
中和及び吸着工程を含み、好ましくは吸着の後に中和が行われる、
ことを特徴とする付記1に記載の方法。
【0068】
(付記9)
5から7.5の間のpHに調節する中和工程を含む、
ことを特徴とする付記1に記載の方法。
【0069】
(付記10)
異なる炭素の形態上への硫化物の吸着工程をさらに含む、
ことを特徴とする付記8に記載の方法。
【0070】
(付記11)
触媒の存在下において湿式空気酸化によって、排水又はフェノール、ナフテン酸成分及びメルカプタンを含む他の有機性不純物を有する希廃苛性物から不純物を除去し、湿式空気酸化は、約250から約450℃の温度、大気圧から60バールの圧力、30分間から8時間の反応時間でのバッチモードにおいて行われる、
ことを特徴とする付記1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【0071】
(付記12)
前記硫化物の除去は、廃苛性物において95%を超える、
ことを特徴とする付記1乃至11のいずれか1項に記載の方法。