特許第6396731号(P6396731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6396731揮発成分発生装置および揮発成分評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396731
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】揮発成分発生装置および揮発成分評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   G01N1/22 L
   G01N1/22 B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-190969(P2014-190969)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-61712(P2016-61712A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】小坂 悟
(72)【発明者】
【氏名】内山 一寿
(72)【発明者】
【氏名】大黒 さゆり
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−307473(JP,A)
【文献】 特開2004−108967(JP,A)
【文献】 特開2011−062679(JP,A)
【文献】 特開2004−163208(JP,A)
【文献】 特開2006−162097(JP,A)
【文献】 特開2005−016911(JP,A)
【文献】 特開2009−236586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/34
G01N 30/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発成分が吸着した試料を保持し得る試料ホルダーを内蔵する試料室と、
該試料ホルダーに保持された該試料の温度を調節し得る温度調節手段と、
該試料室に設けたガスポートから加湿または乾燥した清浄な搬送ガスを該試料へ供給し得る給気手段と、
該温度調節手段と該給気手段を用いて該試料の表面状態を少なくとも乾き状態と凝縮水の生成する濡れ状態とし得る状態設定手段とを備え、該試料の表面状態に応じた該揮発成分を発生させ得ると共に、
さらに、前記試料室に設けられ前記試料ホルダーに関して前記ガスポートと反対側に位置する採取口から、該試料室の外環境にある外気を吸気して該試料ホルダーに保持した捕集材へ誘導する吸気手段を備え、該外気中に含まれる揮発成分を該捕集材に濃縮し得ることを特徴とする揮発成分発生装置。
【請求項2】
前記搬送ガスは空気であり、
前記給気手段は、
空気を圧送するポンプと、
該圧送された空気を浄化する浄化手段と、
該浄化された空気を除湿する除湿手段と、
該浄化された空気を加湿する加湿手段と、
該除湿された空気と該加湿された空気との切替えまたは混合を行う手段とからなる請求項1に記載の揮発成分発生装置。
【請求項3】
前記吸気手段は、
前記給気手段に用いるポンプと、
該ポンプの流入側管路と流出側管路の接続先を切り替える切替弁とからなり、
前記採取口から前記ガスポートを通じて吸気する請求項1または2に記載の揮発成分発生装置。
【請求項4】
試料室に内蔵された該試料ホルダーに保持された該試料の温度と該試料の表面近傍の湿度を調整して、該試料の表面状態を少なくとも乾き状態と凝縮水の生成する濡れ状態とし得る状態設定ステップと、
該試料の表面状態に応じて発生した該揮発成分を該試料室に設けた採取口から取得して官能または機器により評価する評価ステップとを備え、
請求項1〜3のいずれかに記載の揮発成分発生装置を用いて行う揮発成分評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面状態に応じて発生挙動が異なる揮発成分を、模擬的に発生させ得る揮発成分の発生装置とその評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅室内や車室内などに存在する揮発成分(特に揮発性有機化合物(VOC))は、人体に影響を及ぼしたり、不快感を与えたりする。このような揮発成分の発生を抑制したり低減するには、揮発成分の種類、発生原因または発生メカニズム等の解明が必要となる。
【0003】
このような観点から、各種部材から発生する揮発成分を採取して分析する装置や方法が種々提案されており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3935763号公報
【特許文献2】特許第4078190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、自動車用空気調和機(適宜、「カーエアコン」という。)の使用中に悪臭を放つ揮発成分(臭い成分)を採取して分析するために、カーエアコンのエバポレータをガスパック内に封入し、そのエバポレータを模擬運転させた際に発生する揮発成分をガスパックに設けた取出口から採取することを提案している。
【0006】
特許文献2は、温度や湿度等が制御された気体を送給する外装部と、その外装部内に設けられた多重管構造の採取部とからなる試料採取装置を提案している。
【0007】
しかし、いずれの場合も、温度や湿度が安定的な環境下で発生する揮発成分を適切に採取することを目的としているに過ぎず、揮発成分が吸着している試料や部材(エバポレータ等)の表面状態が急激に変化する際に発生する揮発成分などの採取は想定されていない。
【0008】
また、従来の装置は大型なため、研究室などの限られた場所でのみ使用されており、臭いを実際に生じている現場(例えば住宅室内や車室内)等で、その原因となる揮発成分を現実の環境下で採取したり、臭いの原因と思われる揮発成分を様々な状況下で模擬的に発生させて、実際に発生している臭いと模擬的に発生させた臭い(揮発成分)との異同を確認したりすることが困難であった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、部材の表面状態が急激に変化するようなときに発生する揮発成分でも、模擬的に発生させることができ、また、実際に臭いを発生させている現場で、その臭い成分(揮発成分)を直接的に捕集したり、人が官能で評価したり、その原因となる揮発成分を特定または確認することを可能とする揮発成分の発生装置およびその評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、カーエアコン(特にエバポレータ)から発生する臭いには、安定した環境下で定常的に発生する臭いの他に、環境が急激に変化するような過渡的な状況下で発生する臭いもあることを新たに見出した。具体的には、カーエアコンのエバポレータの表面に凝縮水(結露)が生じるタイミングやその表面が乾燥するタイミングで臭いが発生することを発見した。このような成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《揮発成分発生装置》
(1)本発明の揮発成分発生装置は、揮発成分が吸着した試料を保持し得る試料ホルダーを内蔵する試料室と、該試料ホルダーに保持された該試料の温度を調節し得る温度調節手段と、該試料室に設けたガスポートから加湿または乾燥した清浄な搬送ガスを該試料へ供給し得る給気手段と、該温度調節手段と該給気手段を用いて該試料の表面状態を少なくとも乾き状態と凝縮水の生成する濡れ状態とし得る状態設定手段とを備え、該試料の表面状態に応じた該揮発成分を発生させ得ると共に、さらに、前記試料室に設けられ前記試料ホルダーに関して前記ガスポートと反対側に位置する採取口から、該試料室の外環境にある外気を吸気して該試料ホルダーに保持した捕集材へ誘導する吸気手段を備え、該外気中に含まれる揮発成分を該捕集材に濃縮し得ることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明によれば、揮発成分が吸着している部材表面(「吸着表面」という。)の環境(温度および湿度)が大きく変動するときを再現でき、その際に放出される揮発成分を模擬的に発生させることができる。吸着表面の環境変動が大きい場合として、例えば、吸着表面が乾き状態から凝縮水の生成する濡れ状態へ変化するとき、またはその逆のとき(つまり凝縮水が蒸発して乾き状態となるとき)がある。
【0013】
本発明に係る揮発成分はその種類や発生メカニズムを問わないが、本発明者の研究によれば、凝縮水の生成や蒸発が表面に吸着していた揮発成分の放出(例えばエアコン臭の発生)に関与していることがわかっている。さらに、凝縮水の関与により発生する揮発成分は、単に親水性成分のみならず、疎水性成分も含まれることも明らかとなってきた。そして親水性成分は凝縮水が蒸発するとき、つまり吸着表面が濡れ状態から乾き状態へ変化する際に放出され易く、疎水性成分は凝縮水が生成するとき、つまり吸着表面が乾き状態が濡れ状態へ変化する際に放出され易いことも分かってきた。
【0014】
本発明の揮発成分発生装置によれば、試料をほぼ密閉した状態で包囲できる試料室内において、試料の温度と試料の表面近傍の湿度を状態設定手段で調整または制御することにより、その試料表面(吸着表面)の状態を、所定のタイミングで、乾き状態から濡れ状態にしたり、濡れ状態から乾き状態にしたりすることが可能である。このように本発明の揮発成分発生装置を用いれば、凝縮水の生成・蒸発(乾燥)と揮発成分の放出との関係を模擬的に再現でき、これまで未解明であった特定のタイミングで生じる臭いの原因物質の検出、評価、特定または確認等が容易となる。
【0015】
また、本発明の揮発成分発生装置は、小さい試料を用いて、その表面状態を少なくとも乾き状態(湿度は適宜調整され得る。)と濡れ状態とできれば足るから、小型化や簡素化が容易である。このため本発明の揮発成分発生装置は、携帯性に優れるコンパクトなものとでき、また、複雑な操作も不要で操作性に優れたものとできる。従って本発明の揮発成分発生装置は、研究室等のみならず、臭いの発生現場等に持ち込んで用いることも容易である。
【0016】
(3)本発明の揮発成分発生装置は、特定の条件下またはタイミングで試料から揮発成分を放出させるのみならず、搬送ガスの流動方向を逆にすれば、試料室の外部環境に存在する揮発成分を捕集材に吸着させて濃縮することも可能である。そして、臭いの発生現場等において、特有の条件下またはタイミングで発生する揮発成分を、選択的に濃縮した試料を得ることが可能となる。
【0017】
そこで本発明の揮発成分発生装置は、さらに、前記試料室の外環境にある外気を該試料室に設けた採取口から吸気して前記試料ホルダーに保持した捕集材へ誘導する吸気手段を備え、該外気中に含まれる揮発成分を該捕集材に濃縮し得るものであると好適である。
【0018】
《揮発成分評価方法》
本発明は上述の揮発成分の発生装置としてのみならず、その発生装置を用いた揮発成分の評価方法としても把握できる。すなわち本発明は、試料室に内蔵された該試料ホルダーに保持された該試料の温度と該試料の表面近傍の湿度を調整して、該試料の表面状態を少なくとも乾き状態と凝縮水の生成する濡れ状態とし得る状態設定ステップと、該試料の表面状態に応じて発生した該揮発成分を該試料室に設けた採取口から取得して官能または機器により評価する評価ステップとを備え、上述した揮発成分発生装置を用いて行う揮発成分評価方法でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例である揮発成分の発生濃縮装置を模式的に示す概要図である。
図2】その発生濃縮装置を用いて揮発成分を採取する場合を示す説明図である。
図3】その発生濃縮装置を用いて乾燥状態で揮発成分を発生させる場合を示す説明図である。
図4】その発生濃縮装置を用いて加湿状態で揮発成分を発生させる場合を示す説明図である。
図5】マスフローコントローラを追加した発生濃縮装置の概要図である。
図6】切替弁と管路構成を変更した発生濃縮装置の概要図である。
図7】多層構造の吸着材と反転型の試料ホルダーを模式的に示す概要図である。
図8】ガス非透過型の試料または吸着材を用いて揮発成分の発生や採取を行う場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で説明する内容は、本発明の揮発成分の発生装置のみならず、その評価方法にも適宜該当し得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。なお、本明細書では、主に各「手段」について説明するが、それらは適宜「ステップ」と言い換えることができる。
【0021】
《試料室》
試料室は、試料または捕集材(適宜、単に「試料等」という。)を保持する試料ホルダーを収容でき、搬送ガスが試料等を透過またはそれらの表面近傍を流動するために必要な流路を形成する。そして、試料ホルダーや試料室を小さくすることにより、装置全体のコンパクト化や軽量化も図り易くなる。
【0022】
なお、当然ながら、試料室には、揮発成分の導出または導入を行う採取口、搬送ガスが導出入されるガスポート、各種センサー(温度センサー、湿度センサー、臭いセンサー等)が嵌挿されるセンサーポート等が形成され得る。但し、試料室は、それらを除いて、揮発成分や搬送ガスが所定流路外に漏洩しない密閉構造となっている。
【0023】
《試料ホルダー》
試料ホルダーは、試料等を保持できるものであれば足る。例えば、搬送ガスが試料等を透過する場合なら試料ホルダーは金網等からなるメッシュ構造であると好ましい。
【0024】
また多層構造の捕集材を用いて、その各層で複数種の揮発成分を選択的に捕集する場合、試料ホルダーは反転可能な構造であると好ましい。これにより、捕集材の各層に所望の揮発成分を効率的に採取し易くなる。
【0025】
なお、多層構造の捕集材は、例えば、孔径の異なるメンブランフィルター同士を組合わせる他、特定のメンブランフィルターとそれ以外のフィルター(逆浸透膜(ROフィルター)、活性炭フィルター等)を組合わせてもよい。いずれにしても、捕集する揮発成分の種類に応じて適切な捕集材が選択されればよい。
【0026】
《温度調節手段》
温度調節手段は、試料ホルダーに保持された試料または捕集材(吸着体等)を、加熱または冷却して所望の温度に調節する。温度調節手段は、例えば、ペルチェ素子等の半導体冷熱素子やセラミックヒーター等からなる。温度調節手段は、さらに、それらの冷熱を制御するCPU等の制御部(コンピュータ)と、その電力源とを備えると好ましい。小さい試料等なら、上記のような温度調節手段でも十分な加熱または冷却をすることができる。なお、冷熱素子が試料ホルダーと一体的になっていると、コンパクト化を図りつつ、試料等の表面温度を効率的に調整できて好ましい。
【0027】
《給気手段》
給気手段は、試料室に設けたガスポートから加湿または乾燥した清浄な搬送ガスを試料へ供給する。例えば、搬送ガスが空気である場合、給気手段は、空気(試料室外の大気)を圧送するポンプと、圧送された空気を浄化する浄化手段と、浄化された空気を除湿する除湿手段と、浄化された空気を加湿する加湿手段と、除湿された空気と加湿された空気との切替えまたは混合を行う手段とからなると好適である。
【0028】
浄化手段には活性炭等からなる清浄材を用いることができる。また除湿手段にはシリカゲル等の除湿材を用いることができる。なお、浄化手段と除湿手段は、搬送ガスの流路中に複数配置してもよい。
【0029】
さらに加湿手段も種々の装置を用いることができるが、特許第4321138号公報や特許第4734904号公報で紹介されている加湿装置を用いると、装置の小型化を図りつつ、微粒子状態の液体(水または水蒸気)により搬送ガスを適切かつ効率的に加湿できる。
【0030】
具体的にいうと、本発明で用いる加湿装置は、流量制御された加圧流体(搬送ガス)が供給される供給部と、供給部に連通すると共に、該供給部から流入する加圧流体により保液(水)を微粒子状態で放出し得る保液材(例えば、親液性または保液性と透過性とを有するアクリル毛糸やナイロン毛糸等)を内蔵する保液部と、保液部に連通すると共に、該保液部から流出する加圧流体により液体(水)を所定の微粒子状態にして放出する止液材(例えば、疎液性の薄膜状フィルター(テフロン(登録商標)製メンブランフィルター等))を備えた止液部とからなると好適である。
【0031】
この加湿装置を用いると、従来の加湿器のように液体粒子(水滴等)を混合させた搬送ガスの給気とは異なり、完全に湿った状態の搬送ガスの給気を、簡素な構造で実現でき、揮発成分発生装置の小型化も図り易い。なお、ヒーター等で加熱して、液体の蒸発量(加湿量)を調整するようにしてもよい。
【0032】
また、このような加湿装置は、保液部と止液部の間に液体の粒子膜の生成を抑制する空間層と、止液材によって止液された液体を保液材に回収する回収材とを備えると好ましい。また、供給部が下方側となり止液部が上方側となるように傾斜して加湿装置が配設されると、保液部内で保液が効率よく循環して好ましい。
【0033】
さらに加湿装置は、上述のようにして加湿された搬送ガスの流路(加湿流路)と、非加湿な搬送ガスの流路(非加湿流路)と、加湿流路から流通した加湿ガスと非加湿流路から流通した非加湿ガスとを混合する混合路と、加湿ガスと非加湿ガスの混合割合を調整する調整手段とを有すると好ましい。この場合、加湿ガスと非加湿ガスの混合制御により、所望に加湿された搬送ガスを所定のタイミングで、試料室内の試料ホルダーへ給気可能となる。
【0034】
《状態設定手段》
状態設定手段は、温度調節手段と給気手段を用いて、試料等の表面状態を少なくとも乾き状態と濡れ状態とすることができる。このような表面状態の設定(変更)は、試料等の表面温度とその表面近傍における湿度(表面湿度)との相関に基づき行うことができる。具体的には、特定の表面湿度に対して表面温度を露点未満とすることにより凝縮水が生成(結露)した濡れ状態とすることができる。逆に、表面温度を露点超とすることにより乾き状態とすることができる。このような表面状態の設定は、温度調節手段による試料等の表面温度と、給気手段による搬送ガスの湿度とをコンピュータ等(制御手段)で制御または管理することにより、容易かつ的確に行うことができる。
【0035】
なお、乾き状態は、除湿部のシリカゲルを通過した空気で湿度10〜20%程度であるが、濡れ状態とならない範囲で様々な湿度をとり得る。要するに、本明細書でいう乾き状態は、試料等の表面に凝縮水が生成していない状態である。必要により湿度0%の空気または窒素ガスを使用することも可能である。
【0036】
《吸気手段》
本発明の揮発成分発生装置は、試料室の外環境にある外気を試料室に設けた採取口から吸気して試料ホルダーに保持した捕集材(吸着材)へ誘導する吸気手段をさらに備えると好適である。これにより、試料室の外環境中に含まれる揮発成分を、試料ホルダーに載置した捕集材へ濃縮させることもできる。このようにして揮発成分の採取または濃縮を行う場合、試料から揮発成分を発生させる場合に対して、試料室内における搬送ガスの流動方向を逆転させる必要がある。この場合、吸気手段として搬送ガスを圧送するポンプと、給気手段として搬送ガスを圧送するポンプとを個別に設けてもよいが、両者を兼用すると揮発成分発生装置の小型化や簡素化を図れて好ましい。そこで本発明に係る吸気手段は、給気手段に用いるポンプと、ポンプの流入側管路と流出側管路の接続先を切り替える切替弁とからなり、切替弁の切替えによってポンプを吸気手段と給気手段で兼用できるようにすると好ましい。
【0037】
《用途》
本発明の揮発成分発生装置を用いれば、臭い等の発生源の表面状態に応じて、揮発成分を模擬的に発生させたり、そのような揮発成分の採取または捕集をすることができる。本発明の揮発成分発生装置は、その用途が限定されるものではないが、代表例として、凝縮水の生成と乾燥に起因して臭いを生じるカーエアコンの揮発成分を模擬的に発生させたり、その揮発成分を採取・捕集する際に用いられると好ましい。
【実施例】
【0038】
《装置構成の概要》
本発明に係る一実施例である揮発成分の発生濃縮装置D(単に「発生濃縮装置D」という。)の概要図を図1に示した。発生濃縮装置Dは、試料部1と、送気部2(給気手段、吸気手段)と、制御部(図略/状態設定手段)とからなり、携帯可能なケースに収納可能となっている。
【0039】
試料部1は、搬送ガス(空気)の流路111(ガスポート)を有する基体11と、基体11上に配置され、放出または採取された揮発成分が流動する逆漏斗状の流路121を構成する筐体12と、基体11と筐体12の間に配設された試料ホルダー13と、試料ホルダー13の冷却または加熱するペルチェ素子14(温度調節手段)と、流路121の温度と湿度を検出する温湿度センサー15と、流路121内の揮発成分を簡易的に検出する臭いセンサー16とからなる。なお、筐体12の上端側中央には揮発成分の放出または採取する際に用いる採取口122が形成されており、ここで機器分析用の試料の採取や人による官能評価を行う。基体11と筐体12により試料ホルダー13を内蔵する試料室が形成される。
【0040】
送気部2は、大気中の空気を吸気口211から吸気し、吐出口212から圧送するエアポンプ21と、エアポンプ21から圧送された空気をシリカゲル(除湿手段)で除湿する第1除湿部22と、第1除湿部22を通過した空気(第1除湿空気)を活性炭(浄化手段)で清浄化して夾雑成分等を除去する浄化部23と、浄化部23を通過した空気(浄化空気)をシリカゲル(除湿手段)で除湿する第2除湿部24と、浄化部23を通過した浄化空気を加湿する加湿器25(加湿手段)と、加湿器25を通過した空気(加湿空気)に混合する浄化空気(浄化部23を通過した空気)の流量を調整するニードルバルブ26と、第1除湿部22と浄化部23の間で流動する空気の質量を調整するマスフローコントローラ271と、エアポンプ21の吸気口211側に設けられる三方弁281と、エアポンプ21の吐出口212側に設けられる三方弁282と、第2除湿部24または加湿器25の上流側に設けられる三方弁283と、第2除湿部24または加湿器25の下流側に設けられる三方弁284と、三方弁281と三方弁284の間に設けられる三方弁285とからなる。なお、各三方弁は、3つのポート間の連通と遮断を、2ポジションで切り替えるタイプである。
【0041】
制御部は、ペルチェ素子14への通電制御により試料ホルダー13(ひいては試料Sまたは吸着材)を所望温度に制御するサーモモジュールと、エアポンプ21およびマスフローコントローラ271(さらには後述のマスフローコントローラ272、273)を用いて浄化部23(さらには加湿器25とバイパス管路261)へ圧送する空気量(質量)を制御するフローモジュールと、圧送される空気の流量、加湿度、温度等のガス情報と試料ホルダー13(試料S)の温度情報と試料S(または吸着材)の表面状態情報との相関を示すデータベースと、このデータベースに基づき所望する試料Sの表面状態(濡れ状態と乾き状態(乾き度情報を含む。))を実現すべくサーモモジュールとフローモジュールを駆動するCPU等からなる演算処理部とを備えてなる。なお、制御部は、温湿度センサー15に基づく流路121の温度情報と湿度情報、さらには臭いセンサー16に基づく流路121の揮発成分情報を加味して、適宜、上述の制御を補正することも可能である。なお、これらの機能は、必要により手動とすることも可能である。
【0042】
《装置の稼働パターン》
(1)揮発成分の捕集(濃縮採取)
発生濃縮装置Dにより、室内など空間に存在する臭い成分などの揮発成分を次のようにして採取(濃縮)することができる。
【0043】
先ず、三方弁281、282、285を図2に示すように切り替える。そしてエアポンプ21を稼働させると、発生濃縮装置Dの外環境中に存在する揮発成分を含んだ空気は、採取口122から吸気され、流路121、試料ホルダー13、流路111、三方弁285、三方弁281、エアポンプ21および三方弁282を経て大気開放される(吸気手段)。この空気流により、試料ホルダー13上に載置したフィルター等の吸着材(捕集材)には、外環境中に存在する揮発成分が濃縮された状態で採取され得る。本明細書では、このように揮発成分を吸着または保持したフィルター等も適宜、試料という。
【0044】
なお、流路111と流路121の間に介在する試料ホルダー13は通気性を有するメッシュ構造からなるが、試料となる吸着材はフィルターのように通気性を有するものに限らず、試料ホルダー13に載置できる限り、通気性のない細片等でもよい(図8参照)。
【0045】
また、吸着材の表面状態やその特性(例えばフィルターの細孔径等)を調整することにより、目的とする揮発成分を選択的に採取したり、親水性成分と疎水性成分を分別して採取することも可能である。また、試料ホルダー13(ひいては吸着材)の状態(温度、湿度、乾き状態または濡れ状態等)を調整して、目的とする揮発成分を選択的に採取することもできる。
【0046】
(2)乾燥状態における揮発成分の発生(または揮発成分を含む試料の乾燥)
発生濃縮装置Dにより、別に用意した試料S(揮発成分が既知な標準試料、揮発成分が未知な分析・評価の対象試料)から、次のようにして、乾燥状態で生じ得る揮発成分を模擬的に発生させることができる。
【0047】
先ず、三方弁281〜285を図3に示すように切り替える。そしてエアポンプ21を稼働させると、大気(空気)が三方弁281からエアポンプ21の吸気口211に導かれ、エアポンプ21により圧縮されて吐出口212から圧送される。加圧された空気は第1除湿部22で除湿され、マスフローコントローラ271で流量調整された後に、浄化部23で浄化された浄化空気となる。この浄化空気は、三方弁283を介して第2除湿部24へ導かれ、さらに除湿されて乾燥空気となり、三方弁284、285を介して試料部1の流路111へ供給される。
【0048】
流路111に誘導された乾燥空気は、試料ホルダー13の下方全面へほぼ均等的に分配されて、その試料ホルダー13に載置された試料Sへ給気される。そして、試料Sを通過または試料Sに接触した乾燥空気は、試料Sから発生した揮発成分を含んで、流路121を介して採取口122へ導かれる。こうして、試料Sが乾燥状態のときに生じる揮発成分を模擬的に採取口122から取得でき、その揮発成分を官能評価等することが可能となる。この際、ペルチェ素子14により試料ホルダー13の温度を制御して、乾燥状態で発生する揮発成分量を調節してもよい。逆に、試料ホルダー13(試料S)の温度と揮発成分の発生量との相関(乾燥状態における揮発成分の発生挙動)を分析してもよい。通常であれば、試料ホルダー13の温度上昇により揮発成分の発生量は増加し得る。
【0049】
発生濃縮装置Dは、単に試料Sから揮発成分を発生させるのみならず、試料Sの乾燥を行うこともできる。このような試料Sの乾燥が必要になる場合として、例えば、高湿度な外環境から揮発成分を捕集したり、液体(例えば、エアコンのドレン水)中に含まれる揮発成分を採取する際に、フィルター等の吸着材が高湿度であったり濡れていたりする場合である。なお、このような乾燥は、通常、ペルチェ素子14により試料ホルダー13(試料S)を低温にした状態で行うと、揮発成分の揮発を抑制しつつ吸着材を乾燥させることができて好ましい。
【0050】
(3)加湿状態における揮発成分の発生
発生濃縮装置Dにより、別に用意した試料Sから、次のようにして、加湿状態(濡れ状態を含む)で生じ得る揮発成分を模擬的に発生させることができる。
【0051】
先ず、三方弁281〜285を図4に示すように切り替える。そしてエアポンプ21を稼働させると、上述した場合(図3)と同様に、浄化部23で浄化された浄化空気が圧送される。
【0052】
次に、この浄化空気は、三方弁283を介して加湿器25およびニードルバルブ26へ導かれ、加湿器25で所定の湿度に加湿された加湿空気とニードルバルブ26から流量調整された浄化空気とが三方弁284の手前で混合される。こうして所望の湿度に調整された加湿空気が三方弁284、285を介して試料部1の流路111へ供給される。
【0053】
流路111に誘導された乾燥空気は、試料ホルダー13の下方全面へほぼ均等的に分配されて、試料ホルダー13に載置された試料Sへ供給される。試料Sを通過または試料Sに接触した加湿空気は、試料Sから発生した揮発成分を含んで、流路121を介して採取口122へ導かれる。こうして、試料Sが加湿状態(乾き状態または濡れ状態)のときに生じる揮発成分を模擬的に採取口122から取得でき、その揮発成分を官能評価等することが可能となる。
【0054】
この際、ペルチェ素子14により試料ホルダー13の温度を制御して、加湿状態で発生する揮発成分量を調節したり、試料ホルダー13(試料S)の温度とその近傍の湿度と揮発成分の発生量との相関(揮発成分の発生挙動)を分析してもよい。特に、試料Sの表面近傍を低温で高湿度な環境とすることにより、試料Sの表面に凝縮水を生成させて試料Sの表面状態を濡れ状態とすることができる。こうして、試料Sの表面状態が濡れ状態となるときに生じ得る揮発成分を模擬的に発生させることが可能となる。
【0055】
《他の実施例》
上述した発生濃縮装置Dの変形例を以下に示す。便宜上、既述した構成と同様な構成(部材または機器等)には、各図において同符号を付し、それらの詳細な説明を省略した。
【0056】
(1)発生濃縮装置Dは、図5に示すように浄化部23の上流側に設けるマスフローコントローラ271に加えて、加湿器25の上流側にマスフローコントローラ272を設けると共に、ニードルバルブ26に替わるマスフローコントローラ273をバイパス管路261に設けると好ましい。これにより、試料部1へ送気する加湿空気の流量を詳細かつ正確に制御することが可能となる。
【0057】
(2)発生濃縮装置Dは、図6に示すように、上述した三方弁283および三方弁284を一つの六方弁286に置換し、三方弁281、三方弁282および三方弁285を一つの十方弁287に置換したものである。なお、六方弁286と十方弁287も、各ポート間の連通と遮断を2ポジションで切り替えるタイプである。
【0058】
十方弁287のポジションを変更することにより、試料部1の採取口122から吸気して揮発成分を吸着材に捕集するモード(管路構成)と、乾燥空気または加湿空気を試料部1の流路111へ送気して試料Sに含まれる揮発成分を発生させるモード(管路構成)とのいずれかに切り替えることができる。
【0059】
また六方弁286のポジションを変更することにより、浄化部23を通過した浄化空気を第2除湿部24へ誘導し、試料部1へ乾燥空気を供給するモード(管路構成)と、浄化部23を通過した浄化空気を加湿器25およびバイパス管路261へ誘導し、試料部1へ加湿空気を供給するモード(管路構成)とのいずれかに切り替えることができる。このような六方弁286と十方弁287を用いて管路を構成することにより、弁数の大幅な削減や管路の集積化を図れ、発生濃縮装置Dのコンパクト化や低コスト化を図り易くなる。
【0060】
(3)試料ホルダー13に保持する吸着材は、図7に示すような多層構造体でもよい。例えば、特性(捕集・採取できる揮発成分)が異なるフィルターf1とフィルターf2を積層したものを吸着材として用いると、複数種の揮発成分を同時に捕集することができる。フィルターf1とフィルターf2は、例えば、メンブランフィルターと、他のフィルター(逆浸透膜(ROフィルター)、活性炭フィルター等)とをそれぞれ組合わせることができる。
【0061】
このような多層構造の吸着材は、親水性揮発成分と疎水性揮発成分が混在している試料や生体試料(呼気)などを採取する際に好ましい。また、多層構造の吸着材は、図7に示すように反転可能な試料ホルダー13に保持して、交互に各フィルターへ揮発成分を吸着させてもよい。
【0062】
(4)試料ホルダー13に保持する試料Sや吸着材がガス非透過性である場合、図8に示すように、試料Sや吸着材の表面に流動する搬送ガスを接触させて、揮発成分の発生や採取を行うとよい。
【符号の説明】
【0063】
D 揮発成分の発生濃縮装置
S 試料
1 試料部
11 基体
12 筐体
111 流路
122 採取口
13 試料ホルダー
14 ペルチェ素子(温度調節手段)
2 送気部
22、24 除湿部
25 加湿器
23 浄化部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8