【実施例】
【0038】
《装置構成の概要》
本発明に係る一実施例である揮発成分の発生濃縮装置D(単に「発生濃縮装置D」という。)の概要図を
図1に示した。発生濃縮装置Dは、試料部1と、送気部2(給気手段、吸気手段)と、制御部(図略/状態設定手段)とからなり、携帯可能なケースに収納可能となっている。
【0039】
試料部1は、搬送ガス(空気)の流路111(ガスポート)を有する基体11と、基体11上に配置され、放出または採取された揮発成分が流動する逆漏斗状の流路121を構成する筐体12と、基体11と筐体12の間に配設された試料ホルダー13と、試料ホルダー13の冷却または加熱するペルチェ素子14(温度調節手段)と、流路121の温度と湿度を検出する温湿度センサー15と、流路121内の揮発成分を簡易的に検出する臭いセンサー16とからなる。なお、筐体12の上端側中央には揮発成分の放出または採取する際に用いる採取口122が形成されており、ここで機器分析用の試料の採取や人による官能評価を行う。基体11と筐体12により試料ホルダー13を内蔵する試料室が形成される。
【0040】
送気部2は、大気中の空気を吸気口211から吸気し、吐出口212から圧送するエアポンプ21と、エアポンプ21から圧送された空気をシリカゲル(除湿手段)で除湿する第1除湿部22と、第1除湿部22を通過した空気(第1除湿空気)を活性炭(浄化手段)で清浄化して夾雑成分等を除去する浄化部23と、浄化部23を通過した空気(浄化空気)をシリカゲル(除湿手段)で除湿する第2除湿部24と、浄化部23を通過した浄化空気を加湿する加湿器25(加湿手段)と、加湿器25を通過した空気(加湿空気)に混合する浄化空気(浄化部23を通過した空気)の流量を調整するニードルバルブ2
6と、第1除湿部22と浄化部23の間で流動する空気の質量を調整するマスフローコントローラ271と、エアポンプ21の吸気口211側に設けられる三方弁281と、エアポンプ21の吐出口212側に設けられる三方弁282と、第2除湿部24または加湿器25の上流側に設けられる三方弁283と、第2除湿部24または加湿器25の下流側に設けられる三方弁284と、三方弁281と三方弁284の間に設けられる三方弁285とからなる。なお、各三方弁は、3つのポート間の連通と遮断を、2ポジションで切り替えるタイプである。
【0041】
制御部は、ペルチェ素子14への通電制御により試料ホルダー13(ひいては試料Sまたは吸着材)を所望温度に制御するサーモモジュールと、エアポンプ21およびマスフローコントローラ271(さらには後述のマスフローコントローラ272、273)を用いて浄化部23(さらには加湿器25とバイパス管路261)へ圧送する空気量(質量)を制御するフローモジュールと、圧送される空気の流量、加湿度、温度等のガス情報と試料ホルダー13(試料S)の温度情報と試料S(または吸着材)の表面状態情報との相関を示すデータベースと、このデータベースに基づき所望する試料Sの表面状態(濡れ状態と乾き状態(乾き度情報を含む。))を実現すべくサーモモジュールとフローモジュールを駆動するCPU等からなる演算処理部とを備えてなる。なお、制御部は、温湿度センサー15に基づく流路121の温度情報と湿度情報、さらには臭いセンサー16に基づく流路121の揮発成分情報を加味して、適宜、上述の制御を補正することも可能である。なお、これらの機能は、必要により手動とすることも可能である。
【0042】
《装置の稼働パターン》
(1)揮発成分の捕集(濃縮採取)
発生濃縮装置Dにより、室内など空間に存在する臭い成分などの揮発成分を次のようにして採取(濃縮)することができる。
【0043】
先ず、三方弁281、282、285を
図2に示すように切り替える。そしてエアポンプ21を稼働させると、発生濃縮装置Dの外環境中に存在する揮発成分を含んだ空気は、採取口122から吸気され、流路121、試料ホルダー13、流路111、三方弁285、三方弁281、エアポンプ21および三方弁282を経て大気開放される(吸気手段)。この空気流により、試料ホルダー13上に載置したフィルター等の吸着材(捕集材)には、外環境中に存在する揮発成分が濃縮された状態で採取され得る。本明細書では、このように揮発成分を吸着または保持したフィルター等も適宜、試料という。
【0044】
なお、流路111と流路121の間に介在する試料ホルダー13は通気性を有するメッシュ構造からなるが、試料となる吸着材はフィルターのように通気性を有するものに限らず、試料ホルダー13に載置できる限り、通気性のない細片等でもよい(
図8参照)。
【0045】
また、吸着材の表面状態やその特性(例えばフィルターの細孔径等)を調整することにより、目的とする揮発成分を選択的に採取したり、親水性成分と疎水性成分を分別して採取することも可能である。また、試料ホルダー13(ひいては吸着材)の状態(温度、湿度、乾き状態または濡れ状態等)を調整して、目的とする揮発成分を選択的に採取することもできる。
【0046】
(2)乾燥状態における揮発成分の発生(または揮発成分を含む試料の乾燥)
発生濃縮装置Dにより、別に用意した試料S(揮発成分が既知な標準試料、揮発成分が未知な分析・評価の対象試料)から、次のようにして、乾燥状態で生じ得る揮発成分を模擬的に発生させることができる。
【0047】
先ず、三方弁281〜285を
図3に示すように切り替える。そしてエアポンプ21を稼働させると、大気(空気)が三方弁281からエアポンプ21の吸気口211に導かれ、エアポンプ21により圧縮されて吐出口212から圧送される。加圧された空気は第1除湿部22で除湿され、マスフローコントローラ271で流量調整された後に、浄化部23で浄化された浄化空気となる。この浄化空気は、三方弁283を介して第2除湿部24へ導かれ、さらに除湿されて乾燥空気となり、三方弁284、285を介して試料部1の流路111へ供給される。
【0048】
流路111に誘導された乾燥空気は、試料ホルダー13の下方全面へほぼ均等的に分配されて、その試料ホルダー13に載置された試料Sへ給気される。そして、試料Sを通過または試料Sに接触した乾燥空気は、試料Sから発生した揮発成分を含んで、流路121を介して採取口122へ導かれる。こうして、試料Sが乾燥状態のときに生じる揮発成分を模擬的に採取口122から取得でき、その揮発成分を官能評価等することが可能となる。この際、ペルチェ素子14により試料ホルダー13の温度を制御して、乾燥状態で発生する揮発成分量を調節してもよい。逆に、試料ホルダー13(試料S)の温度と揮発成分の発生量との相関(乾燥状態における揮発成分の発生挙動)を分析してもよい。通常であれば、試料ホルダー13の温度上昇により揮発成分の発生量は増加し得る。
【0049】
発生濃縮装置Dは、単に試料Sから揮発成分を発生させるのみならず、試料Sの乾燥を行うこともできる。このような試料Sの乾燥が必要になる場合として、例えば、高湿度な外環境から揮発成分を捕集したり、液体(例えば、エアコンのドレン水)中に含まれる揮発成分を採取する際に、フィルター等の吸着材が高湿度であったり濡れていたりする場合である。なお、このような乾燥は、通常、ペルチェ素子14により試料ホルダー13(試料S)を低温にした状態で行うと、揮発成分の揮発を抑制しつつ吸着材を乾燥させることができて好ましい。
【0050】
(3)加湿状態における揮発成分の発生
発生濃縮装置Dにより、別に用意した試料Sから、次のようにして、加湿状態(濡れ状態を含む)で生じ得る揮発成分を模擬的に発生させることができる。
【0051】
先ず、三方弁281〜285を
図4に示すように切り替える。そしてエアポンプ21を稼働させると、上述した場合(
図3)と同様に、浄化部23で浄化された浄化空気が圧送される。
【0052】
次に、この浄化空気は、三方弁283を介して加湿器25およびニードルバルブ26へ導かれ、加湿器25で所定の湿度に加湿された加湿空気とニードルバルブ26から流量調整された浄化空気とが三方弁284の手前で混合される。こうして所望の湿度に調整された加湿空気が三方弁284、285を介して試料部1の流路111へ供給される。
【0053】
流路111に誘導された乾燥空気は、試料ホルダー13の下方全面へほぼ均等的に分配されて、試料ホルダー13に載置された試料Sへ供給される。試料Sを通過または試料Sに接触した加湿空気は、試料Sから発生した揮発成分を含んで、流路121を介して採取口122へ導かれる。こうして、試料Sが加湿状態(乾き状態または濡れ状態)のときに生じる揮発成分を模擬的に採取口122から取得でき、その揮発成分を官能評価等することが可能となる。
【0054】
この際、ペルチェ素子14により試料ホルダー13の温度を制御して、加湿状態で発生する揮発成分量を調節したり、試料ホルダー13(試料S)の温度とその近傍の湿度と揮発成分の発生量との相関(揮発成分の発生挙動)を分析してもよい。特に、試料Sの表面近傍を低温で高湿度な環境とすることにより、試料Sの表面に凝縮水を生成させて試料Sの表面状態を濡れ状態とすることができる。こうして、試料Sの表面状態が濡れ状態となるときに生じ得る揮発成分を模擬的に発生させることが可能となる。
【0055】
《他の実施例》
上述した発生濃縮装置Dの変形例を以下に示す。便宜上、既述した構成と同様な構成(部材または機器等)には、各図において同符号を付し、それらの詳細な説明を省略した。
【0056】
(1)発生濃縮装置Dは、
図5に示すように浄化部23の上流側に設けるマスフローコントローラ271に加えて、加湿器25の上流側にマスフローコントローラ272を設けると共に、ニードルバルブ26に替わるマスフローコントローラ273をバイパス管路261に設けると好ましい。これにより、試料部1へ送気する
加湿空気の流量を詳細かつ正確に制御することが可能となる。
【0057】
(2)発生濃縮装置Dは、
図6に示すように、上述した三方弁283および三方弁284を一つの六方弁286に置換し、三方弁281、三方弁282および三方弁285を一つの十方弁287に置換したものである。なお、六方弁286と十方弁287も、各ポート間の連通と遮断を2ポジションで切り替えるタイプである。
【0058】
十方弁287のポジションを変更することにより、試料部1の採取口122から吸気して揮発成分を吸着材に捕集するモード(管路構成)と、乾燥空気または加湿空気を試料部1の流路111へ送気して試料Sに含まれる揮発成分を発生させるモード(管路構成)とのいずれかに切り替えることができる。
【0059】
また六方弁286のポジションを変更することにより、浄化部23を通過した浄化空気を第2除湿部24へ誘導し、試料部1へ乾燥空気を供給するモード(管路構成)と、浄化部23を通過した浄化空気を加湿器25およびバイパス管路261へ誘導し、試料部1へ加湿空気を供給するモード(管路構成)とのいずれかに切り替えることができる。このような六方弁286と十方弁287を用いて管路を構成することにより、弁数の大幅な削減や管路の集積化を図れ、発生濃縮装置Dのコンパクト化や低コスト化を図り易くなる。
【0060】
(3)試料ホルダー13に保持する吸着材は、
図7に示すような多層構造体でもよい。例えば、特性(捕集・採取できる揮発成分)が異なるフィルターf1とフィルターf2を積層したものを吸着材として用いると、複数種の揮発成分を同時に捕集することができる。フィルターf1とフィルターf2は、例えば、メンブランフィルターと、他のフィルター(逆浸透膜(ROフィルター)、活性炭フィルター等)とをそれぞれ組合わせることができる。
【0061】
このような多層構造の吸着材は、親水性揮発成分と疎水性揮発成分が混在している試料や生体試料(呼気)などを採取する際に好ましい。また、多層構造の吸着材は、
図7に示すように反転可能な試料ホルダー13に保持して、交互に各フィルターへ揮発成分を吸着させてもよい。
【0062】
(4)試料ホルダー13に保持する試料Sや吸着材がガス非透過性である場合、
図8に示すように、試料Sや吸着材の表面に流動する搬送ガスを接触させて、揮発成分の発生や採取を行うとよい。