(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
極細径繊維がポリパラフェニレンテレフタラアミド繊維、またはコポリパラフェニレン3,4’−オキシジフェニレンテレフタラアミド繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の極細径繊維不織布の製造方法。
【背景技術】
【0002】
極細径繊維の製造方法としては、一般にメルトブロー法、海島型混合紡糸法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法、爆裂紡糸法などが知られている。
メルトブロー法、海島型混合紡糸法は、溶融紡糸が可能なポリマーに対して適応される方法である。
【0003】
また、フラッシュ紡糸法は、ポリマー溶液に対して適応される方法であり、高密度ポリエチレンやポリプロピレンと低沸点の溶剤(塩化フッ化炭化水素など)の混合溶液を紡糸孔から吐出する前に相分離させてから吐出するもので、低沸点の溶剤は急激にガス化膨張し、ポリマーは延伸されながら固化し、フィブリル化した極細の繊維からなる網状の連続繊維となり、これを拡げて集積しウェブを形成する方法である。ただし、この紡糸法が適用されるポリマーの種類は限られている。
【0004】
エレクトロスピニング法は、ポリマー溶液の紡糸が可能であり、アラミドポリマー等にも適用されている(特許文献1〜2)が、一般にその生産性はメルトブロー法等に比べて低い。
これらの方法以外に、爆裂紡糸技術によるポリマー溶液からの糸の製造方法が知られている(特許文献3)。これは、ラバル管によって高速に加速された気流によって促進されるポリマー溶液の爆裂によって紡糸を行う方法であり、その生産性はエレクトロスピニング法に比べて一般に高い。
【0005】
また、熱可塑性ポリマーをポリマー吐出孔から吐出させ、その吐出孔の外周から溶融したポリマーと並行に空気を随伴させ、さらに、ノズル端面から離れたエアスロットから噴射した高速の冷空気を吐出後のポリマーに作用させることによって、ポリマーを細径化させる装置が示されている(特許文献4)。
【0006】
しかし、前記爆裂紡糸技術を用いた場合や、上記の熱可塑性ポリマーを細化させる技術をポリマー溶液、特にアラミドポリマー溶液を用いた溶液紡糸に適用した場合、ポリマー溶液を吐出孔から吐出し細化させた後に、浸漬やスチーム吹付で凝固液と接触させて固化させ繊維不織布を形成しようとすると、凝固液との接触時に糸切れが発生し、繊維径の大きい繊維が周囲へ飛散するという問題がある。また、飛散した繊維は不織布成形時に同時に捕集されるため、繊維径や不織布空隙のムラの大きくなり、品位の優れた極細径繊維不織布を得ることが困難であった。
【0007】
また、こうして得られた不織布は、各種部材への成形加工の為に、熱圧成形処理等を施しても、成形後の形状を維持できなかったり、ポリマーが溶融したりなどして、不織布形状を維持できなかったり、細孔の形状が変形して、所定の機能を発現させることができず、各種部材に適用できないという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の極細径繊維不織布は、極細径繊維からなり、熱圧処理による成形加工性を有する不織布で、該不織布が後述する(a)〜(e)を満足することを特徴とし、これにより、均質な構造となり、フィルターや吸着材、電池、キャパシタ用のセパレータなどとして、優れた性能を発揮することができる。以下、(a)〜(e)の要件について詳述する。
【0015】
(a)本発明において、極細径繊維の平均繊維直径は0.1〜5μmである。平均繊維直径が5μmより大きいと、不織布中の繊維構成本数が減少して、不織布の密度が減少するばかりでなく、不織布中に含まれる空間が大きくなり、フィルターとした場合は微細なダストを捕集できず捕集効率が低くなり、セパレータとした場合は薄くしかつ短絡防止性も向上させることが難しくなる。また、所定の金型に挟み込む等して熱圧成形処理を施した際に、繊維が太くなると復元力が大きく、成形形状を維持しにくくなる。一方、平均繊維直径が0.1μmより小さいと、得られる強力が著しく低下し物理的な衝撃で破損し易くなり、熱圧成形処理を施した際に繊維が破断したり、不織布が破損したりし易くなる。平均繊維直径は好ましくは0.3〜4μm、より好ましくは0.4〜3μmである。
なお、本発明の不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径は、不織布表面の電子顕微鏡写真で確認することのできる繊維の直径を意味し、任意に100本の繊維を選びその巾を計測して平均することにより平均繊維直径を求めることができる。
【0016】
(b)不織布の平均見かけ密度は0.05〜2.0g/cm
3である。不織布の見掛け密度が0.05g/cm
3未満であると、フィルターの場合、ダストの捕集効率が低下し、セパレータの場合、引張強度が小さく、製造工程でセパレータの破断が起きるため好ましくない。また、外圧がかかった時に、厚みの低下し易い傾向にあり、取扱い性が悪い。一方、不織布の見掛け密度が2.0g/cm
3を越えると、フィルターの場合、圧力損失が大きくなるため、目詰まりが早くなり、フィルターの寿命性能が短くなり、セパレータの場合、短絡が起こり易く、好ましくない。また、所望の厚みを得るのに、繊維集積量を多くする必要があり、不経済である。不織布の平均見かけ密度は、好ましくは、0.075〜1.5g/cm
3、より好ましくは、0.1〜1.0g/cm
3である。
【0017】
本発明の目付ならびに厚みは、特に限定されるものではないが、目付は1g/m
2以上、厚みは2μm以上であることが好ましい。目付が1g/m
2より小さく、厚みが2μmより小さいと、不織布に含まれる空間が小さく、後述する所望の平均見掛け密度や平均空隙径が得られにくくなる傾向にある。一方、セパレータの場合は、1g/m
2以上、厚みは2μm以上であることが好ましい。フィルターの場合は、捕集性能の面から、目付は5g/m
2以上、厚みは10μm以上であることがより好ましい。
【0018】
(c)不織布の平均空隙径は0.5〜30μm、最大空隙径は50μm以下である。平均空隙径が30μmより大きいか、または、最大空隙径が50μmより大きいと、フィルターの場合、微細なダストに対する捕集性能が劣り、セパレータの場合、短絡が起こり易く、好ましくない。一方、平均空隙径が0.5μm未満になると、フィルターの場合、圧力損失が大きくなるため、目詰まりが早く、フィルターの寿命性能が短くなり、セパレータの場合、空隙率が小さくなってしまうため、好ましくない。不織布の平均空隙径は、好ましくは0.75〜20μm、より好ましくは1〜10μmであり、不織布の最大空隙径は、好ましくは40μm、より好ましくは30μm以下である。
【0019】
(d)不織布に含まれる繊維太径部・塊部量は、不織布中の10%以下であることが好ましい。不織布に含まれる繊維太径部・塊部量が、10%より大きいと、平均繊維直径が0.1〜5μmであっても、セパレータなどで用いた場合、太径部・塊部が電極と接触し、その接触面積が大きくなるため、電池の内部抵抗が上がってしまう。不織布に含まれる繊維太径部・塊部量は、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下である。
【0020】
(e)X線回折から求めた不織布を構成する繊維の結晶化度χcは40%以下である必要がある。本発明は、結晶化度χcを40%以下に制御することにより、繊維の分子構造がアモルファスな状態にあり、後に熱圧処理を施した際に、分子構造が熱セットされ、熱圧処理時の形体が保持されやすくなる。結晶化度χcが40%より大きいと、繊維の分子構造内で結晶化している部分が多く繊維の剛直性が高くなってしまい、熱圧処理を施した際に熱セットされにくく、熱圧処理時の形体が、経時で保持できなくなってしまう。結晶化度χcは、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは18%以下である。
【0021】
不織布の長手方向の引張強度と、短手方向の引張強度との比は、0.2〜5倍であることが好ましい。この比が、5倍よりも大きくなる、または、0.2倍より小さくなると、不織布を構成している繊維が長手方向、または短手方向に、配向していることを示しており、引張強度が小さい方向には、所望する熱圧処理による成形加工性が得られなくなる傾向にある。好ましくは、0.3〜4倍、より好ましくは、0.4〜3倍である。
【0022】
本発明は、平均繊維直径が前記の通りで、かつ、熱圧成形処理による成形加工性を有し、上記(a)〜(e)を同時に満足させることにより、これらの効果が相まって、各種部材に適用させた場合の成形加工を可能とし、フィルター、蓄電デバイス用セパレータ、吸着材、吸音材、断熱材、保温材、防炎材、または遮熱材、クリーナー、防護衣料、壁紙、または障子紙、接着テープなど、各種用途での適正な形状に成形した状態でも優れたフィルター性能、吸着性能、セパレータ性能、断熱性能などを発揮することを見出したものである。
【0023】
本発明においては、極細径繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、脂肪族ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維、パルプ繊維等の有機繊維等を挙げることができ、これらの一種を、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明においては、極細径繊維の融点または熱分解温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。該融点または熱分解温度は、JIS K 7121に準じて、示差熱分析により得られる示差熱分析曲線から求めることができる。上記極細径繊維としては、具体的には、前記繊維からこれらを満たすものを選べばよいが、なかでも、アラミド繊維は、強力、耐性、難燃性、耐薬品性、絶縁性に優れており、フィルターやセパレータ、断熱材、吸音材、吸着材、防炎材、接着テープなどとしても高い性能を発揮し、特に好ましい。
【0025】
上記アラミド繊維を構成するアラミドポリマーは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロル基などのハロゲン基等が含まれていてもよい。さらには、これらアミド結合は限定されず、パラ型、メタ型のどちらでもよい。
かかるアラミドポリマーとしては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン−テレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミドなどが好ましく選択される。
【0026】
本発明おいては、前記の融点または熱分解温度を有する極細径繊維や、アラミドポリマーからなる極細径繊維を用いることにより、フィルターや吸着材では、ゴミ焼却炉、石炭ボイラー、あるいは金属溶鉱炉などから排出される排ガスは、150〜200℃にもなり、これに耐えうる高い耐熱性を発揮できる。また、蓄電デバイス用のセパレータや膜材では、例えばリチウムイオン電池用セパレータとして用いた場合、電解液の保液性が高く、異常発熱によって電池内部温度が200℃以上の高温になっても、セパレータが収縮することなく、セパレータ収縮による電極間ショートを防止することができる。さらに電気二重層キャパシタ用等、活性炭中の水分乾燥が重要な用途に用いた場合、素子乾燥温度を上げることができるため、効率良く乾燥することができる。
【0027】
本発明においては、不織布の200℃での乾熱収縮率は2%以下であることが好ましい。これにより、フィルターの場合、高温で使用される環境下において、フィルターが収縮し捕集したダストを拘束し払い落とし性が低下したり、圧力損失が大きくなったりすることがなく、フィルター寿命を長くできる。また、セパレータの場合は、セパレータの収縮による電極間ショートを防止することができる。その他、吸着材、吸音材、耐熱材、防炎材、防護衣料、接着テープなどで使用した場合、高温環境に晒されても、形体が著しく変形することがなく、例えば、基材に張り付ける場合などは、収縮による接着部分の剥離などが生じ難く、継続して使用することができる。不織布の200℃での乾熱収縮率は好ましくは、1.75%以下、より好ましくは1.5%以下である。
【0028】
本発明においては、上記極細径繊維が、例えば、後で詳述する方法によって得られるポリマー溶液を、細径を有する吐出孔より吐出し、伸張または細径化させた後、これを固化してなる繊維であることが好ましい。また、ポリマー溶液を、吐出孔よりバーストさせずに吐出するものであることが、均質な不織布となり好ましい。
【0029】
以上に説明した不織布の製造方法としては、ポリマー溶液をバーストさせ細繊化する爆裂紡糸技術(WO02/052070記載)や、一般に溶融性ポリマーで行われているメルトブロー技術を改良し、効果的に細繊化する技術(US6013223)や、特開2005−200779号公報のエレクトロスピニング法などが挙げられる。
その中でも、溶融性ポリマーで行われているメルトブロー技術を改良した、効果的に細繊化する技術(US6013223)が、本発明の不織布を製造するのに好ましく、本製造方法によれば、ポリマー溶液を吐出させる紡糸装置のノズルの同心円上に設置された圧空吐出孔から圧空を吐出させて、ポリマー溶液を伸張し細化させることができ、前記の結晶化度に制御することが可能となる。
【0030】
上記アラミドポリマーを溶解する溶媒は、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、およびジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン、アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドなどのアミド系極性溶媒を挙げることができる。ジメチルスルホキシド(DMSO)もまた、溶媒として使用される。ポリマーの溶解性を大きく損なわない程度に、上記溶媒以外のトルエン、アセトン等の溶媒を添加しても良い。中でもNMP、DMAcが、アラミドポリマー溶液の安定性の観点から好ましい。
【0031】
また、曳糸性向上のために無機塩を添加しても良い。本方法で使用できる無機塩としては、カルシウム、リチウム、マグネシウムおよびアルミニウムよりなる群から選択されるカチオンを有する塩化物または臭化物等のハロゲン化物が挙げられ、特に塩化カルシウムまたは塩化リチウムが好ましい。これらの塩の混合物を使用することも可能である。
このような無機塩は必要に応じて添加することもあるが、溶液調製プロセス(例えば重合体製造プロセス)で必然的に生成するものであってもかまわない。無機塩の含有量は、アラミドポリマーを基準として45重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0032】
なお、上記の紡糸用ポリマー溶液には、本発明の目的を阻害しない範囲で水を含んでいても良い。ここで、水の含有量は、ポリマーの重量を基準として70重量%以下であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。
具体的には、
図1に示すように、ダイ1によって適切な温度に温調されたキャビティー2に付属した紡糸ノズル3にポリマー溶液を供給する。こうしてノズル内管9を通ったポリマー溶液10は、ポリマー吐出孔の外側に設置されたガス吐出口7から噴出したガスによって、効果的に加速され、細化される。
【0033】
さらに、ポリマー溶液10は、ポリマー吐出孔から吐出後、凝固液と接触させることによって固化し、極細の繊維となる。
ここで、ポリマー溶液の吐出量、ポリマー溶液を伸張し細化させる圧空吐出量は、得ようとする不織布の繊維径、空隙径など不織布形体により適宜選択できる。即ち、不織布を構成する繊維の繊維径を小さくしたり、不織布の空隙径を小さくする場合は、ポリマー溶液の吐出量を少なくし、または圧空吐出量を多くし、一方、不織布を構成する繊維の繊維径を大きくしたり、不織布の空隙径を大きくする場合は、ポリマー溶液の吐出量を多くし、または圧空吐出量を少なくする必要がある。このように、所望の特性を得るために適度にバランスさせた製造条件の設定が必要である。
【0034】
本発明では、ポリマー溶液は、周囲の気体との接触もしくは凝固液との接触により固化される。凝固液としては、例えば、アラミドポリマーの場合は、該ポリマーに対する貧溶媒が用いられ、水、水/アミド系極性溶媒の混合液、水/アルコール類の混合液、アルコール類等が挙げられる。水/アミド系極性溶媒の混合液に含まれるアミド系極性溶媒としては、アラミドポリマーを溶解し、水と良好に混和するものであれば任意のものを使用することができるが、特にNMP、DMAc、DMFを好適に用いることができる。なかでも、溶媒の回収等を考慮すると、紡糸用ポリマー溶液中のアミド系極性溶媒と同種のものが好ましい。上記凝固液の中でも、水、水/NMP混合溶媒もしくは水/DMAc混合溶媒が好ましい。
【0035】
ポリマー溶液吐出孔から捕集面までの距離(以下紡糸距離という)は、100〜800mmの範囲が好ましい。紡糸距離が100mm未満では、凝固水供給装置の取付けが困難である。一方、紡糸距離が800mmを越えると、紡糸線上での各繊維相互間の結着が顕著になり、不織布中にロープ状の繊維束が増加するとともに、捕集面に達する際の糸条と糸条に随伴する圧空の速度が低下し、得られる不織布の強度が弱いものとなってしまう。紡糸距離は、より好ましくは200〜700mm、さらに好ましくは300〜600mmである。
【0036】
本発明で用いられる凝固液供給装置の設置場所は、ウェブの搬送方向の反対側(上流側)と、ウェブの搬送方向側(下流側)の両方に、同じ設置位置高さ、同じ凝固液噴射角度で、対となるように設置することが好ましい。これは、凝固液供給装置がウェブの搬送方向の上流側または下流側のいずれか一箇所のみに設置されたり、もしくは、ウェブの搬送方向の上流側と下流側の両方に設置されたとしても、設置位置高さや凝固液噴射角度が異なったりすると、凝固液を供給する際に、ノズルから吐出された糸条の流れ方向が乱され、糸切れが発生したり、得られる不織布の目付プロファイルを悪化させる原因となるため好ましくない。
【0037】
本発明で用いられる凝固液供給装置を構成するスプレーノズルとして、フルコーンパターンノズル、ホロコーンパターンノズル、ナイフジェットパターンノズルや、フラットパターンノズル等のスプレーが挙げられるが、得られる不織布の長手方向の引張強度と短手方向の引張強度の比を調整するためには、凝固液を扇状に噴射させることができるフラットパターンノズルを用いることが好ましい。凝固液が、ウェブの搬送方向に並行に噴射されるナイフジェットパターンノズルなどでは、不織布を構成する繊維が長手方向に配向されやすく、不織布の長手方向の引張強度が、短手方向の引張強度の5倍以上になってしまう。
【0038】
凝固液が扇状を形成する角度、いわゆる噴射角度は、30〜140度が好ましい。噴射角度が140度を越えるノズルは製造上困難であり、30度より小さいと不織布を構成する繊維が長手方向に配向されやすくなってくる。凝固液の噴射角度は、より好ましくは、40〜140度、さらに好ましくは50〜140度となるフラットパターンのスプレーノズルを選択するのが好ましい。
【0039】
凝固液供給装置のスプレーノズルは、ポリマー溶液吐出孔面より上方、もしくは、下方500mm以内の位置に設置するのが好ましい。この位置がノズル面より上方にある場合、その距離は特に限定されるものではないが、凝固液供給装置のスプレーノズルより噴霧された凝固液が、ポリマー溶液吐出孔にも付着することがあり、該吐出孔からポリマー溶液が吐出した時点で、凝固、固化してしまい、ポリマー溶液の吐出不良が起きてしまうことがある。一方、凝固液供給装置のスプレーノズルがポリマー溶液吐出孔面の下方に500mmを越える位置に設置されると、紡糸線上での各繊維相互間の結着が顕著になり、不織布中にロープ状の繊維束が増加し、得られる不織布は不均質なものとなってしまう。
【0040】
前記の凝固液供給装置のスプレーノズルは、ポリマー溶液吐出孔から吐出、紡糸され、周囲から吐出されるエアーで細化され、捕集用の支持体上に到達するまでの紡糸線の幅方向に平行に、紡糸線に対して直角から平行となる間の適当な角度にて、均一に噴霧できるように1個、または複数個設置されるが、これはポリマー溶液吐出孔の配列数、即ち紡糸幅、スプレーノズルの種類、性能等により適宜決められる。
【0041】
紡糸線からのスプレーノズルの設置距離は5〜300mmの範囲で設置されるのが望ましい。紡糸線からの距離が5mm未満では、スプレー噴霧装置のスプレーノズルから噴霧された圧縮空気が、紡糸線上を流れている糸条に強く接触して干渉し、糸切れが起きたり、得られる不織布の目付プロファイルを悪化させるため好ましくない。逆に、紡糸線からの距離が300mmを越えて遠くなると、噴霧された凝固液は紡糸線上の広範囲に噴霧されることとなり好ましくない。即ち、糸条の凝固を効率よく行うためには、糸条の細化が十分に行われた直後に液体と空気を送り込み糸条と接触させことが好ましいが、スプレーノズルの紡糸線からの距離が300mmを越えている場合、ノズルから噴霧された水溶液が紡糸線上の広範囲にわたって漫然と噴霧されるので、糸条を効率的に凝固させることが困難になるため、使用する凝固液量を多くする必要があり好ましくない。
【0042】
本発明で得られる極細径繊維を走行するベルト上に捕捉することによって、均質な不織布構造体を得ることができる。その際、シート状基材の上に直接補足し、基材との積層体とすることもできる。このようにして得られた積層体をいったん巻き取り、再度この巻き取った積層体に該アラミドポリマー極細径繊維を捕捉し、三層構造にすることもできる。
本発明において、不織布の目付は、ノズルからのポリマー溶液吐出量と捕集面の移動速度(ベルト速度)によって決定され、使用する目的によって適宜調整することができる。
【0043】
紡糸が完了した後、得られた繊維およびそれらによって構成される不織布を洗浄しても良い。繊維もしくは不織布を洗浄する方法としては、繊維から溶媒および塩を除去するあらゆる手段または機器を使用しても良く、例えば、洗浄浴に浸漬する方法、洗浄液もしくはスチーム等を吹き付ける方法、乾燥機にて乾燥除去する方法等が挙げられる。中でも、洗浄浴に浸漬する方法は洗浄効率が高く好ましい。
【0044】
次いで、必要に応じて乾燥し、水分並びに残留溶媒を除去する。乾燥された繊維もしくは不織布は、引き続いて熱処理工程にて100〜500℃の温度で熱処理しても良い。この際の熱処理は、熱板上、乾熱雰囲気下もしくは蒸気雰囲気下のいずれの条件で行っても良い。蒸気雰囲気を使用する場合、該蒸気中には水以外にアミド系極性溶媒が含まれていてもよい。ここで、熱処理温度は、100〜500℃で実施するのが好ましい。より詳細には、ポリマーのガラス転移温度より100℃以上高い熱処理温度を超える場合には、熱セットにより繊維の結晶化度が高くなったり、得られる繊維は激しく劣化・着色し、場合によっては断糸したりする場合がある。一方、100℃未満の場合には、繊維が十分に弛緩されない場合がある。なお、熱板にて熱処理する場合には、好ましくは150〜400℃、さらに好ましくは150〜350℃、さらに好ましくは150〜195℃で実施するのが好ましい。また、乾熱雰囲気下の熱処理の場合には、好ましくは150〜500℃、より好ましくは150〜400℃で実施するのが好ましい。蒸気雰囲気下の熱処理の場合に、好ましくは100〜400℃、より好ましくは100〜300℃、さらに好ましくは100〜190℃で実施するのが望ましい。
【0045】
上記の紡糸方法においては、アラミドポリマーの糸切れが起こりにくく、得られる繊維は本質的に連続であり、毛羽立ちの少ない極細径繊維の不織布を得ることができる。また、同時に細径化を実現することができ、得られる繊維の平均繊維径は5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。また、得られる繊維の平均繊維径の好ましい下限は0.01μm、より好ましい下限は0.05μmである。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。なお、実施例中における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0047】
<繊維径(μm)>
不織布の表面を走査型電子顕微鏡JSM6330F(JEOL社製)にて、倍率1000倍で観察し、繊維100本を任意に選出して測長した。
【0048】
<目付(g/m
2)>
JIS L 1906の単位面積当りの重量試験方法に準じて測定を行った。
【0049】
<厚さ(mm)>
小野測器 デジタルリニアゲージDG−925(測定端子部の直径1cm)を用い、任意に選択した20箇所において厚さを測定し、平均値を求めた。
【0050】
<見掛け密度(g/cm
3)>
(目付)/(厚み)から算出し、単位容積あたりの重量を求めた。
【0051】
<空隙径(μm)>
不織布の空隙径は、STM−F−316記載のバブルポイント法およびミーンフロー法により、平均空隙径、最大空隙径を求めた。単位はそれぞれμmである。
【0052】
<融点、もしくは熱分解温度(℃)>
JIS K 7121、または、JIS K 7120に準じ、示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の融解ピークの頂点の温度、もしくは、熱重量測定より得られるTG曲線にて、試料の重量減少が始まる温度から求めた。
【0053】
<熱収縮率(%)>
JIS L 1906に準じて、無緊張の状態で、200℃×15分熱処理後の不織布の乾熱収縮率を求めた。
【0054】
<不織布中の繊維太径部・塊部量(%)>
特開2001−50902号公報に記載されている方法を参考にして、次のようにして不織布中の繊維太径部・塊部量を求めた。
(1)光学顕微鏡(キーエンス製、VHX−900)にて、光源から被測定物(不織布試料)に対して光を照射し、被測定物(不織布試料)を50倍の倍率で撮影する。
(2)上記方法で撮影した画像において、照射された光のうち、被測定物の繊維径および塊の大きさが50μm以上の繊維太径部・塊部において反射された反射光を受光素子によって受光して輝度情報を取得する。
(3)こうして得られた輝度情報から、繊維太径部・塊部の面積を求め、不織布中の繊維太径部・塊部量を次の式により算出する。
不織布中の繊維太径部・塊部量(%)=(繊維太径部・塊部の面積/撮影した画像の全面積)×100
(4)任意に選択した10箇所において不織布中の繊維太径部・塊部量を測定し、それらの平均値を求めた。
【0055】
<結晶化度測定χc>
X線回折装置(D8 DISCOVER with GADDS Super Speed、Bruker AXS社製)を用い、2θ=10〜40°の範囲の測定を行った。この際、試料の全方向のプロファイルを測定した。Hindelehら(A.M.Hideleh and D.J.Johnson,Polymer,19,27(1978))の方法に従い、市販のメタアラミドの全方位回折曲線を基にピーク分離し、分離後の結晶性ピーク強度の全ピーク強度に対する割合から求めた。なお、結晶性ピークは、高度に結晶化されている市販のアラミド繊維もしくはポリエステル繊維の回折強度曲線のピーク位置を基準とした。
【0056】
<熱圧成形加工性>
不織布の長手方向および短手方向の2つの方向について、A4サイズにサンプルを裁断し、凹凸型の金型に挟み込み、100℃、1分間で熱処理した後、室温で1分間放置した場合に、凹部を形成する角度を分度器で計測し、90〜120度であれば成形加工性を○、120度を越えれば成形加工性を×とした。
【0057】
<不織布の長手方向の引張強度と短手方向の引張強度の比>
JIS P 8113に準拠し、不織布の引張強度試験を行い、長手方向の引張強度を短手方向の引張強度で除して、値を求めた。
【0058】
[実施例1]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した固有粘度(IV)=1.35のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末(帝人製、1.38g/cm
3)20重量部を、0℃に冷却したジメチルアセトアミド(DMAc)80重量部中に投入し、スラリー状にした後、40℃まで昇温して溶解させ、ポリマー溶液を得た。
上記のポリマー溶液を、ギアポンプを使ってUS6013223の紡糸装置に120g/minで供給し、紡糸温度40℃とし、10m
3/minで圧空を供給して紡糸を行った。ここで、US6013223の紡糸装置は、ポリマー溶液吐出孔の孔径が0.3mmで、ポリマー溶液吐出ノズルが、100×5列の配列で500本が、5mmピッチで等間隔となるように配置されたものを使用した。
【0059】
凝固液供給装置は、ウェブの搬送方向の反対側(上流側)と、ウェブの搬送方向側(下流側)の両方に、ポリマー溶液吐出孔から下方向に50mm、紡糸線から50mmの位置に対となるように設置し、凝固液供給スプレーはフラットスプレーノズル(株式会社共立合金製作所製、フラットスプレーノズル一体式)を用い、吐出後のポリマー溶液に、ポリマー溶液吐出孔から紡糸線上の下方200mmの地点で、細化された糸条と凝固液が接触するようにスプレーノズルの噴射角度を調整した。
凝固液として温度を30℃に温調された水を使用し、一対のフラットスプレーノズルに供給した水は5L/minとした。
【0060】
ギアポンプによりポリマー溶液吐出孔から吐出された糸条は、直ちに周囲の圧空と凝固液と共に、紡糸線上の下方向に捕集面に向かって流下させながら細化と凝固を行い、紡糸装置の下方500mmに設置された捕集ベルト上に、連続繊維を積層しながらベルトの搬送速度を1.7m/minとし、表1記載の繊維構成、目付の不織布を得た。
得られた不織布を金属製カレンダーロールにて温度150℃、設定線圧50kg/cmで熱処理し、上下ロール間のクリアランスを設けることによって、任意に線圧を調整し、表2記載の厚みの不織布を得た。次いで、不織布の平均繊維径、見掛け密度、空隙率、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、不織布中繊維太径・塊部量、不織布の繊維の結晶化度、不織布の長手方向の引張強度と短手方向の引張強度の比、および熱圧成形加工性を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0061】
[実施例2〜7、比較例1]
凝固液供給スプレーノズルの噴射角度、糸条−凝固液接触位置、凝固液量を表1のように変えた以外は、実施例1と同様の方法で紡糸を行い、表1記載の繊維構成、目付の不織布を得た。得られた不織布を金属製カレンダーロールにて温度180℃、設定線圧50kg/cmで熱処理し、上下ロール間のクリアランスを設けることによって、任意に線圧を調整し、表2記載の厚みの不織布を得た。次いで、不織布の平均繊維径、見掛け密度、空隙率、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、不織布中繊維太径・塊部量、不織布の繊維の結晶化度、不織布の長手方向の引張強度と短手方向の引張強度の比、および熱圧成形加工性を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0062】
[比較例2]
不織布を金属製カレンダーロールにて温度400℃、設定線圧100kg/cmで熱処理した以外は、実施例1と同様の方法で不織布試料を作製した。次いで、不織布の平均繊維径、見掛け密度、空隙率、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、不織布中繊維太径・塊部量、不織布を構成する繊維の結晶化度、不織布の長手方向の引張強度と短手方向の引張強度の比、および熱圧成形加工性を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0063】
[比較例3]
繊維長51mm、繊維径14μmのポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人株式会社製、コーネックス)からなる短繊維をカードで紡出し、針密度150本/cm
2のニードルパンチ加工処理をし、厚み100μm、目付40g/m
2の不織布である繊維構造体を得た。次いで、不織布の平均繊維径、見掛け密度、空隙率、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、不織布中繊維太径・塊部量、不織布を構成する繊維の結晶化度、不織布の長手方向の引張強度と短手方向の引張強度の比、および熱圧成形加工性を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
さらに、表1、表2から明らかなとおり、本発明においては、ポリマー溶液吐出孔より吐出されたポリマー溶液が細化し、繊維形成される紡糸線上に向けて、凝固液をスプレーノズルにより、圧縮空気と一緒に噴霧し、糸条にダメージを与えることなく、凝固することによって、糸切れなく、繊維太径部分や塊部分の少ない均質で、かつ、熱圧成形加工性に優れた不織布が得られた。