(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、微小なコロイダルシリカを有する無機リッチな極薄膜(無機リッチ層)でもって耐食性を確保し、その上に、有機樹脂を主体とするバリアー性(シリカの溶出等を抑制する)の高い有機リッチ層を設けること、および、両者の合計膜厚を0.6μm以下とすることで良好な導電性が得られることを見出し、本発明に到達した。以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
[水系2層コート処理金属板の構造]
本発明の水系2層コート処理金属板は、例えば、
図1に示すように、鋼板本体の上に亜鉛系めっき層が形成され、その上に、第1層目として無機リッチ層が0.01〜0.1μmの厚さで形成され、さらにその上に、第2層目として有機リッチ層が0.2〜0.5μmの厚さで形成されている。金属板としては特に限定されないが、例えば、
図1に示した亜鉛めっき鋼板以外に、亜鉛系めっき鋼板、アルミニウム板、アルミ系合金板、チタン板等を用いることができる。最も好ましいのは、亜鉛めっき鋼板である。環境問題の観点からは、クロメート処理を施さないことが好ましい。
【0014】
[無機リッチ層]
[コロイダルシリカ]
本発明では、無機リッチ層には、平均粒子径が4〜15nmのコロイダルシリカが含まれている必要がある。コロイダルシリカは、亜鉛めっき層との界面に濃化して、シリカ(SiO
2)の持つシラノール基(−SiOH)と亜鉛めっき表面(Zn−OH)との相互作用によって、無機リッチ層と亜鉛めっき表面との界面密着性を向上させる効果を有する。また、コロイダルシリカは、耐食性の向上効果も有している。皮膜中のコロイダルシリカは、腐食環境において周囲のpHが上昇すると溶出し、亜鉛水和物の混合腐食生成物を形成し、この混合腐食生成物がバリア効果を発揮して耐食性を向上させる。本発明では、後述する有機リッチ層がコロイダルシリカの溶出速度を遅くする作用を発揮するため、持続性のある優れた耐食性(特に疵部)を確保すると共に、耐黒変性や耐アルカリ脱脂性も発現させることができる。
【0015】
こういったコロイダルシリカの作用効果をより有効に発揮させるには、用いるシリカの平均粒子径を4〜15nmとする。シリカの平均粒子径が小さくなるほど無機リッチ層の耐食性が向上する。無機リッチ層が緻密化し、亜鉛めっき層との界面密着性が一層向上することにより、耐食性をさらに高めると考えられる。このような観点からはシリカ粒子の粒子径は小さいほど良いが、極端に微少な粒子となると、上記効果が飽和してしまうため、粒子径の下限は4nmとした。上記範囲のシリカは、例えば、日産化学工業社製のスノーテックス(登録商標)の「ST−30」(平均粒子径10〜15nm)、「ST−S」(8〜11nm)、「ST−XS」(4〜6nm)、「ST−N」(10〜15nm)、「ST−NXS」(4〜6nm)、「ST−C」(10〜15nm)、「ST−CXS」(4〜6nm)等を1種または2種以上用いることができる。なお、シリカの平均粒子径は、カタログの公称値を採用するか、シアーズ法(4〜6nm)又はBET法(4〜20nm)による測定方法を採用す
る。
【0016】
前記したとおり、シリカの粒子径が小さくなるほど無機リッチ層の耐食性が向上する。これは、シリカの表面積が大きくなり、活性度が高くなることにより、腐食環境でのシリカの溶出や混合腐食生成物の形成に有利なためであると考えられる。この観点から、無機リッチ層に含めるコロイダルシリカの50質量%以上が平均粒子径4〜6nmであることが好ましい。なお、無機リッチ層に含める平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカが次第に多くなってくると、得られる水系2層コート処理金属板の性能には問題はないが、第1水系組成物中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の中和にアミン等を使用した場合、シリカとアミンが反応し、コロイダルシリカを分散させている電荷のバランスが崩れて、第1水系組成物の粘度が上昇してゲル化を生じることがある。このため、第1水系組成物のポットライフを長くする必要がある場合は、コロイダルシリカの一部として、前記「ST−30」(10〜15nm)や「ST−S」(8〜11nm)を使用するとよい。ただし、これらの合計はコロイダルシリカ100質量%中、50質量%未満とすることが好ましい。
【0017】
[カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂]
本発明の無機リッチ層には、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が含まれる。コロイダルシリカだけでは造膜ができないためである。カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂としては、特開2006−43913号公報に記載されているカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が好適に用い得る。このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、カルボキシル基を有するポリオールを必須的に用いて合成されるポリウレタン樹脂の水分散体である。原料としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、平均分子量400〜4000程度のポリテトラメチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸等のカルボキシル基を有するポリオール等のポリオール成分と、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等のイソシアネート成分が用いられる。鎖延長剤は、エチレンジアミン等のポリアミン類が好ましい。
【0018】
本発明で使用するカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性液の作製は、公知の方法を採用することができ、例えば、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水性媒体中に乳化分散して鎖延長反応させる方法、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高せん断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法等がある。
【0019】
まず、上述したポリイソシアネートと上述したポリオールとを使用して、NCO/OH比でイソシアネート基が過剰になるようにして比較的低分子量のカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを作製する。ウレタンプレポリマーを合成する温度は、特に限定されないが、50〜200℃の温度で合成することができる。
【0020】
ウレタンプレポリマー反応終了後、得られたカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、塩基で中和することによって、水中へ乳化分散できる。前記中和剤としては、特に限定されるものではないが、アンモニア;トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミンが好ましい。より好ましくは、トリエチルアミンを使用する。
【0021】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを乳化分散した後、水中でポリアミン等の鎖延長剤を使用して鎖延長反応を行うことができる。なお、鎖延長反応は、使用する鎖長延長剤の反応性に応じて、乳化分散前、乳化分散と同時、或いは、乳化分散後に適宜行うことができる。
【0022】
なお、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、第1水系組成物中で中和された状態であっても、無機リッチ層形成後は、中和に用いたアミンが揮散しているので、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂として存在する。
【0023】
[シランカップリング剤]
本発明で用いられる第1水系組成物中には、末端にグリシドキシ基含有シランカップリング剤が配合される。このシランカップリング剤は、亜鉛めっき層と無機リッチ層との密着性をさらに向上させる。また、上記シランカップリング剤は、無機成分と有機成分とを結合させる官能基を有しており、他のシランカップリング剤に比べて反応性に富んでいるので、コロイダルシリカとポリウレタン樹脂との結合力が強化され、耐食性や耐アルカリ脱脂性等の性能向上に効果がある。
【0024】
末端にグリシドキシ基を有するシランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等がある。
【0025】
[第1水系組成物]
無機リッチ層を形成する際には、コロイダルシリカ、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、シランカップリング剤を混合した第1水系組成物を用いる。この第1水系組成物には、リチウム系無機化合物、リン酸化合物およびリチウム以外の金属成分は含まれない。リチウム系無機化合物としては、例えば特許文献1で用いられているリチウムシリケートが挙げられるが、リチウムシリケートは黒変(シミ汚れ、変色)を引き起こす原因となり、好ましくない。また、特許文献2や3ではリン酸化合物と金属成分とを用い、めっき層表面をエッチングすることにより、第1層とめっき層との密着性を向上させているが、第1層形成後に水洗処理を行わない場合、腐食環境で残留する金属化合物やリン酸成分が溶出し、耐食性や耐アルカリ脱脂性等の性能の劣化が起こり、また金属成分に由来する黒変や変色が起きる。このため、本発明では、第1水系組成物に、リチウム系無機化合物、リン酸化合物およびリチウム以外の金属成分は加えない。
【0026】
第1水系組成物は、無機リッチ層中のコロイダルシリカが60〜80質量部(好ましくは65〜75質量部)、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が20〜40質量部(好ましくは25〜35質量部)、末端にグリシドキシ基を有するシランカップリング剤が7.5〜20質量部となるように、コロイダルシリカとカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性液と上記シランカップリング剤とを混合することで作製できる。なお、上記シランカップリング剤の量は、コロイダルシリカとカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の合計量を100質量部としたときの配合量である。
【0027】
コロイダルシリカが少な過ぎると、所望とする耐食性が確保できない。カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が少な過ぎると、皮膜の形成が不均一となる。シランカップリング剤が少な過ぎると、亜鉛めっき層と無機リッチ層の密着性の向上効果が不充分になると共に、コロイダルシリカとポリウレタン樹脂との反応性も低下するため、耐食性、耐テープ剥離性、耐アルカリ脱脂性、耐黒変性等が劣化する。一方、シランカップリング剤が多過ぎると、第1水系組成物の経時安定性が低下し、コストの面でも不利になる。
【0028】
[無機リッチ層の膜厚]
第1層である無機リッチ層の厚さは、0.01〜0.1μmとする。本発明の無機リッチ層は、厚さ0.01μmの極薄膜の場合でも、亜鉛めっき層との密着性向上効果が認められた。但し、0.01μmよりも薄い場合は、皮膜の形成が不均一となったり、密着性に寄与するシリカの絶対量が不足して密着性が低下する。一方、無機リッチ層の厚さが0.1μmを超えると、皮膜内部での凝集破壊が発生し、結果として、耐テープ剥離試験を行った場合の皮膜残存率が大幅に低下する。また、導電性を確保するためには全膜厚を0.6μm以下に抑制する必要がある(後述)が、無機リッチ層の厚さが0.1μmを超えると、全膜厚に対する有機リッチ層(第2層)の膜厚を小さくせざるを得ず、バリア性が低下等によって、耐食性や耐黒変性、耐アルカリ脱脂性が低下してしまう。無機リッチ層の膜厚は0.02〜0.08μmが好ましく、0.03〜0.06μmがさらに好ましい。
【0029】
[無機リッチ層の形成]
無機リッチ層は、第1水系組成物を公知の塗布方法、すなわち、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等を用いて、金属板表面の片面または両面に塗布して加熱乾燥すればよい。加熱温度は、水が揮散する程度でよい。
【0030】
[有機リッチ層の膜厚]
次に第2層目となる有機リッチ層について説明する。有機リッチ層は、バリア性を確保して、シリカの溶出速度を遅くし、耐食性を持続させる機能を担っている。本発明者らが、無機リッチ層と有機リッチ層の全膜厚と導電性の関係を調べたところ、
図2に示される結果を得た。これは、無機リッチ層の厚さを0.06μmと一定にして、有機リッチ層の膜厚を変化させて得られた結果である。電磁波対策として求められるのは、表面抵抗計を用いて2探針法で測定した場合の導電性が0.5Ω以下であるので、全膜厚は0.6μm以下である必要があることがわかった。
【0031】
よって、有機リッチ層は、0.2〜0.5μmとする。0.3〜0.5μmが好ましく、0.35〜0.45μmがより好ましい。有機リッチ層が0.2μmより薄いと、バリア性が低下して、耐食性や耐アルカリ脱脂性が低下し、さらに、潤滑性が低下するため、加工性等に問題が発生する。一方、有機リッチ層の膜厚が0.5μmを超えて厚くなると、導電性が著しく悪くなる。
【0032】
[有機リッチ層の有機樹脂]
有機リッチ層は、有機樹脂を含む第2水系組成物から形成される。この有機樹脂としては特に限定されないが、水蒸気透過度が100g/m
2/day以下のフィルムを作り得る樹脂であることが好ましい。なお、水蒸気透過度は、コピー用紙上に有機樹脂もしくは第2水系組成物をバーコーターで乾燥後のフィルム厚が18μmとなるように塗布し、105℃で2分間乾燥して、得られたフィルムを一昼夜静置したものを試料として用いて、JIS Z0208に準じたカップ法で測定した。
【0033】
水蒸気透過度が100g/m
2/day以下のフィルムを作り得る樹脂であれば、有機リッチ層のバリア性が確保でき、コロイダルシリカの溶出速度を一層遅くすることができる。水蒸気透過度が100g/m
2/dayを超えるフィルムとなる有機樹脂では、耐食性等の向上効果を期待して第2水系組成物にコロイダルシリカを30質量%を超えて添加すると、有機リッチ層の水蒸気透過度が5000g/m
2/day以上に上昇してしまい、耐食性等が大幅に悪化するため好ましくない。より好ましい水蒸気透過度は50g/m
2/day以下である。
【0034】
また、例えば、水蒸気透過度が50g/m
2/dayの有機樹脂を含む第2水系組成物に、コロイダルシリカ(平均粒子径4〜6nm)を20質量%(第2水系組成物の固形分換算)添加すると、有機リッチ層の水蒸気透過度は1500g/m
2/day程度となるが、耐食性等の向上効果が認められた。さらに、後述する架橋剤や、前記したシランカップリング剤等の添加によっても、有機リッチ層の水蒸気透過度は低下する傾向にあり、耐食性や耐アルカリ脱脂性、耐黒変性等を向上させることができる。
【0035】
有機樹脂は、上記水蒸気透過度を満たすものであることが好ましいが、具体的に好ましいのは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体である。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体としては、特開2005−246953号公報や特開2006−43913号公報に記載のものを用いることができる。
【0036】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらのうちの1種以上と、エチレンとを、公知の高温高圧重合法等で重合することにより、共重合体を得ることができる。
【0037】
エチレンに対する不飽和カルボン酸の共重合比率は、モノマー全量を100質量%とした時に、不飽和カルボン酸が10〜40質量%であることが好ましい。不飽和カルボン酸が10質量%よりも少ないと、イオンクラスターによる分子間会合の基点、あるいは架橋剤との架橋点となるカルボキシル基が少ないため、皮膜強度効果が発揮されず、耐テープ剥離性や耐アルカリ脱脂性が不充分となることがある上に、エマルジョン組成物の乳化安定性に劣るため好ましくない。より好ましい不飽和カルボン酸の下限は15質量%である。一方、不飽和カルボン酸が40質量%を超えると、有機リッチ層の耐食性や耐水性に劣り、やはり耐アルカリ脱脂性が低下するため好ましくない。より好ましい上限は25質量%である。
【0038】
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体はカルボキシル基を有しているので、有機塩基や金属イオンで中和することにより、エマルション化(水分散体化)が可能となる。本発明では、有機塩基としてアミンを用いることが好ましく、前記したアミン類がいずれも使用可能であり、特にトリエチルアミンが好ましい。また、1価の金属イオンもアミン類に併せて用いることが好ましい。アミン類は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し0.2〜0.8モル(20〜80モル%)とすることが好ましい。1価の金属イオンの量は、水蒸気透過度に影響を及ぼすことがわかり、1価の金属化合物の使用量が多くなれば樹脂と水との親和性が増して、水蒸気透過度が大きくなるので、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し0.02〜0.2モル(2〜20モル%)とすることが好ましい。また、過剰なアルカリ分は耐食性劣化の原因となるため、アミン類と金属イオンの合計使用量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.3〜1.0モルの範囲とするとよい。なお、1価の金属イオンを付与するための金属化合物は、NaOH、KOH、LiOH等が好ましく、NaOHが最も性能が良く好ましい。
【0039】
[架橋剤]
アミンおよび1価の金属イオンによって中和されたカルボキシル基を有するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、イオンクラスターによる分子間会合を形成し(アイオノマー化)、耐食性・耐テープ剥離性に優れた有機リッチ層を形成する。しかし、より強靱な皮膜を形成するためには、官能基間反応を利用した化学結合によってポリマー鎖同士を架橋させることが望ましい。架橋剤としては、グリシジル基含有架橋剤やアジリジニル基含有架橋剤が好ましい。
【0040】
グリシジル基含有架橋剤としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類や、ポリグリシジルアミン類等のグリシジル基含有架橋剤が挙げられる。
【0041】
アジリジニル基含有架橋剤としては、4,4’−ビス(エチレンイミンカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トルエンビスアジリジンカルボキシアミド等の2官能アジリジン化合物;トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、トリス〔1−(2−メチル)アジリジニル〕ホスフィンオキサイド、トリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、テトラメチルプロパンテトラアジリジニルプロピオネート等の3官能以上のアジリジン化合物あるいはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0042】
[ワックス]
本発明の水系2層コート処理金属板は、有機リッチ層を最表面として加工に供されることがあるので、加工性を高めるために、有機リッチ層にはワックスが含まれることが好ましい。工業的に好ましいのは、球形のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、変性ワックス、エチレンやプロピレンとの共重合系ワックス、エチレン系共重合ワックスで、これらの酸化物、およびカルボキシル基を付与した誘導体等、また酸基を付与したパラフィン系ワックス、カルナバワックス等である。ワックスとしては、球形ポリエチレンワックスが最も好適であり、例えば、「ダイジェットE−17」(互応化学社製)、「KUE−1」、「KUE−5」、「KUE−8」(三洋化成工業社製)、「ケミパール」シリーズ(三井化学社製)の「W−100」、「W−200」、「W−300」、「W−400」、「W−500」、「W−640」、「W−700」等や、「エレポンE−20」(日華化学社製)等のような市販品を好適に用いることができる。
【0043】
[第2水系組成物]
第2水系組成物には、前記した平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカを含めることが好ましい。但し、多すぎると前記したように水蒸気透過度が劣ったものとなる。よって、第2水系組成物においては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体(固形分)を57〜83質量%、平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカを10〜30質量%、アジリジニル基含有架橋剤を5〜8質量%、球形ポリエチレンワックス2〜5質量%を配合することが好ましい。なお、これら4成分の合計は100質量%とする。
【0044】
必要により、各成分を一緒に、または別々に乳化して、水分散体として混合することが好ましい。第2水系組成物を無機リッチ層が形成された金属板に塗布する方法は特に限定されず、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等が採用可能である。塗布後は80〜130℃程度で加熱乾燥を行うことが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更実施は本発明に含まれる。以下では、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示すものとする。また、実施例で用いた評価方法は、以下の通りである。
【0046】
[評価方法]
(1)耐食性1:塩水噴霧試験(SST平板、SSTクロスカット)
裏面とエッジシールを施した供試材について、平板のままのものとカッターナイフでクロスカットを入れたものを作り、JIS Z2371に準じて、35℃の雰囲気下で5%の塩水噴霧試験を実施し、白錆発生率が5%(面積)に達するまでの時間を測定した。
【0047】
SST平板の評価
◎:240時間以上
○:168時間以上、240時間未満
△:120時間以上、168時間未満
×:120時間未満
SSTクロスカットの評価
◎:120時間以上
○:96時間以上、120時間未満
△:72時間以上、96時間未満
×:72時間未満
【0048】
(2)耐食性2:塩水噴霧サイクル試験(SSTサイクル)
エッジシールした供試材(平板)について、JIS Z2371に準じた塩水噴霧のサイクル試験を実施し、白錆の発生率が5%に達したサイクル数を測定した。1サイクルは、塩水噴霧を8時間(35℃)、塩水噴霧休止を16時間(35℃)とした。
【0049】
SSTサイクルの評価
◎:10サイクル以上
○:7サイクル以上、10サイクル未満
△:5サイクル以上、7サイクル未満
×:5サイクル未満
【0050】
(3)耐食性3:中性塩水噴霧サイクル試験(JASO)
エッジシールした供試材(平板)について、JIS H8502に準じ、中性塩水噴霧サイクル試験を実施し、白錆の発生率が5%に達したサイクル数を測定した。1サイクルは、塩水噴霧を2時間、乾燥(60℃、湿度30%以上)を4時間、湿潤(50℃、湿度95%以上)2時間とした。
【0051】
JASOの評価
◎:21サイクル以上
○:15サイクル以上、21サイクル未満
△:9サイクル以上、15サイクル未満
×:9サイクル未満
【0052】
(4)導電性
各供試材の表面抵抗値は、表面抵抗測定装置(LorestaEP;ダイヤインスツルメンツ社(現三菱化学アナリテック社)を用い、銅板なしで直接端子(2探針APプローブタイプA)を接触させて、2端子2探針法で測定した。ピン間隔は10mm、バネ圧は240g/本とし、ピン先径は2mmφであった。表面抵抗測定装置の模式図を
図3に示した。
【0053】
導電性の評価
◎:0.05Ω未満
○:0.05Ω以上、0.50Ω未満
△:0.50Ω以上、1.00Ω未満
×:1.00Ω以上
【0054】
(5)耐テープ剥離性
供試材に粘着テープ(スリオンテック社製フィラメントテープNo.9510;ゴム系粘着剤)を貼付し、恒温恒湿試験装置で40℃、湿度98%の雰囲気下で120時間保存した後、JIS K5400に準じてテープを剥離試験を実施して、皮膜の残存率(面積)を測定した。
【0055】
皮膜残存率の評価
◎:95%以上
○:90%以上、95%未満
△:80%以上、90%未満
×:80%未満
【0056】
(6)耐黒変性
供試材を、50℃、湿度98%以上の恒温恒湿試験装置で168時間保存した後、試験前後の外観(黒変としみ汚れの有無)観察と、色調変化を測定して色差(ΔE)を算出した。
【0057】
試験前後の外観評価
◎:試験前後で変化なし
○:ごくわずかに黒変し、しみ汚れなし
△:わずかに黒変し、しみ汚れあり
×:黒変・しみ汚れあり
色差(ΔE)の評価
◎:ΔEが1未満
○:ΔEが1以上、2未満
△:ΔEが2以上、3未満
×:ΔEが3以上
【0058】
(7)潤滑性(動摩擦係数)
図4に示した摩擦係数測定装置を用いて、各供試材の動摩擦係数を測定した。供試材のサイズは40mm×300mm、加圧力は4.5MPa、引抜き速度は300mm/minとし、無塗油で行った。なお、平板ダイスの材質はSKD11とした。なお、動摩擦係数μはF/2Pである。
【0059】
潤滑性の評価
◎:μ=0.09未満
○:μ=0.09以上、0.15未満
△:μ=0.15以上、0.20未満
×:μ=0.20以上
【0060】
(8)耐アルカリ脱脂性
供試材を、日本パーカライジング社製のアルカリ脱脂剤(CL−N364S)20g/リットル(液温65℃)に2分間浸漬してから引き上げ、水洗および乾燥後、裏面とエッジシールを行い、JIS Z2371に準じた塩水噴霧サイクル試験(SSTサイクル平板)を実施し、白錆の発生率が5%になるまでのサイクル数を測定した。1サイクルは、5%の塩水噴霧8時間(35℃)、塩水噴霧休止16時間(35℃)とした。
【0061】
◎:7サイクル以上
○:5サイクル以上、7サイクル未満
△:3サイクル以上、5サイクル未満
×:3サイクル未満
【0062】
合成例1
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水分散液の合成
撹拌機、温度計、温度コントローラーを備えた合成装置に、ポリオール成分としてポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000;保土谷化学工業社製)を60部、1,4−シクロヘキサンジメタノール14部、ジメチロールプロピオン酸20部を仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30部を加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(TDI)を104部仕込み、80℃〜85℃に昇温し、5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16部を加えて中和を行い、エチレンジアミン16部と水480部の混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化しつつ鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水分散液を得た(不揮発性樹脂成分29.1%、酸価41.4)。これを樹脂Aとする。なお、樹脂Aの水蒸気透過度は、1500g/m
2/dayであった。
【0063】
合成例2
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水分散液の合成その1
撹拌機、温度計、温度コントローラーを備えた乳化設備を有するオートクレーブに、水626部、エチレン−アクリル酸共重合体(アクリル酸ユニット:20質量%、MI:300)160部を加え、エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基1モルに対し
て、トリエチルアミンを40モル%、水酸化ナトリウムを15モル%加えて、150℃、5Paで高速撹拌を行い、40℃に冷却して、エチレン−アクリル酸共重合体のエマルションを得た。ここに、4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(日本触媒社製、「ケミタイト(登録商標)DZ−22E」)をエチレン−アクリル酸共重合体の固形分100部に対し、5部加えたものを樹脂Bとした。この樹脂Bの水蒸気透過度は、50g/m
2/dayであった。
【0064】
合成例3および4
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水分散液の合成その2およびその3
上記合成例2において、水酸化ナトリウムの添加量をエチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基1モルに対して20モル%とした以外は、上記合成例2と同様にして樹脂Cを得た。また、水酸化ナトリウムの添加量を30モル%としたものを樹脂Dとした。樹脂Cの水蒸気透過度は100g/m
2/day、樹脂Dの水蒸気透過度は1000g/m
2/dayであった。
【0065】
実験例1
平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカ(日産化学工業社製、「スノーテックス(登録商標)ST−XS」55〜85部に対して、合成例1で調製したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水分散液(樹脂A)を15〜45部の範囲で添加し、固形分合計の100質量部に対して、シランカップリング剤(信越化学社製、KBM403(グリシドキシ基含有シランカップリング剤))を15質量部加えて、第1水系組成物を調製した。
【0066】
金属板として、電気亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量20g/m
2、板厚0.8mm)を用い、その片面に第1水系組成物をバーコーターで塗布し、板温90℃で乾燥し、膜厚0.06μmの無機リッチ層を形成した。なお、膜厚は、皮膜中のコロイダルシリカ(SiO
2)のSi元素を蛍光X線分析装置で定量測定して算出した。このとき、SiO
2の比重は2.2、樹脂の比重は1として計算した。
【0067】
合成例2で調製した樹脂Bの固形分59部に対し、平均粒子径4〜6nmのコロイダルシリカを30部と、架橋剤として、グリシジル基含有架橋剤(DIC社製、「エピクロン(登録商標)CR5L」)を7.5部と、球形ポリエチレンワックス(三井化学社製、「ケミパール(登録商標)W640」)3.5部を添加して第2水系組成物を調製した。これを、前記亜鉛めっき鋼板上の無機リッチ層の上に、無機リッチ層と同様にバーコーターで塗布し、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布・乾燥し有機リッチ層を形成し、水系2層コート処理金属板を得た。評価結果を表1に示す。
【0068】
なお、RunNo.6と7は、コロイダルシリカ量が本発明の範囲外の例である。また、RunNo.8と9は、無機リッチ層として重リン酸アルミニウム水溶液(日本化学工業社製、固形分50%)45部と酸性コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)ST−O;平均粒子径10〜15nm)55部とを混合した表面処理剤を、スプレーリンガー装置で塗布し、その後水洗・乾燥して下地処理(約10nm)を施した。その上に、上記と同様にして有機リッチ層を形成した。RunNo.8の全膜厚は0.46μm、RunNo.9の全膜厚は1.0μmとした。評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1から、無機リッチ層のコロイダルシリカ量が少ないと、めっき層に対する密着性の指標である耐テープ剥離性が劣ることがわかる(RunNo.6)。一方、コロイダルシリカ量が多すぎると、ポリウレタン樹脂が相対的に少なくなり皮膜の形成が不完全となったため、種々の性能が低下した(RunNo.7)。
【0071】
実験例2
平均粒子径4〜6nmの前出のスノーテックスXS70部に対して、樹脂Aを固形分で30部添加し、これらの合計100部に対し、前出のKBM403を5〜25部の範囲で添加して第1水系組成物を調製した。実験例1と同様にして、膜厚0.06μmの無機リッチ層を電気亜鉛めっき鋼板の表面に形成した。
【0072】
次に、実験例1と同様にして、膜厚0.4μmの有機リッチ層を、上記無機リッチ層の上に形成した。評価結果を表2に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2から、無機リッチ層のシランカップリング剤の量が少ないと、めっき層に対する密着性向上効果が不充分になると共に、シリカとポリウレタン樹脂との反応性も低下するため、耐食性、耐テープ剥離性、耐アルカリ脱脂性等が劣化した(RunNo.14)。一方、シランカップリング剤の量が多すぎると、種々の性能が低下した(RunNo.15)。
【0075】
実験例3
平均粒子径4〜6nmの前出のスノーテックスXS70部に対して、樹脂Aを固形分で30部添加し、これらの合計100部に対し、前出のKBM403を15部添加して第1水系組成物を調製した。膜厚を0.005〜0.2μmと変化させた以外は実験例1と同様にして無機リッチ層を電気亜鉛めっき鋼板の表面に形成した。
【0076】
次に、実験例1と同様にして、膜厚0.4μmの有機リッチ層を、上記無機リッチ層の上に形成した。評価結果を表3に示した。
【0077】
【表3】
【0078】
表3から、無機リッチ層の膜厚が薄すぎると、無機リッチ層の皮膜形成が不均一となったり、密着性に寄与するシリカの絶対量が不足するため、密着性が劣化した(RunNo.21)。一方、無機リッチ層の膜厚が厚すぎると、種々の性能が低下した(RunNo.22)。
【0079】
実験例4
平均粒子径4〜6nmの前出のスノーテックスXS70部に、平均粒子径8〜11nmのスノーテックスST−S(日産化学工業社製)および/または平均粒子径10〜15nmのスノーテックスST−30(日産化学工業社製)を表4に記載の割合で加えて、このシリカの合計70部に対して、樹脂Aを固形分で30部添加し、これらの合計100部に対し、前出のKBM403を15部添加して第1水系組成物を調製した。後は実験例1と同様にして無機リッチ層と有機リッチ層を電気亜鉛めっき鋼板の表面にこの順で形成した。評価結果を表4に示した。
【0080】
【表4】
【0081】
表4から、平均粒子径の大きなコロイダルシリカを使うと、若干性能が低下する傾向が見られた。
【0082】
実験例5
平均粒子径4〜6nmの前出のスノーテックスXS70部に対して、樹脂Aを固形分で30部添加し、これらの合計100部に対し、前出のKBM403を15部添加して第1水系組成物を調製した。実験例1と同様にして、膜厚0.06μmの無機リッチ層を電気亜鉛めっき鋼板の上に形成した。
【0083】
有機リッチ層の膜厚を0.1〜0.6μmの間で変化させた以外は、実験例1と同様にして、無機リッチ層の上に有機リッチ層を形成した。評価結果を表5に示した。
【0084】
【表5】
【0085】
有機リッチ層の厚みが薄いと、コロイダルシリカの溶出を抑制する効果が発現せず、種々の性能が低下した(RunNo.37)。有機リッチ層の厚みが厚い場合は、導電性のみが低下した(RunNo.38)。
【0086】
実験例6
実験例1と同様にして無機リッチ層を形成した。有機リッチ層形成に用いた樹脂を表6に示したように変えた以外は、実験例1と同様に有機リッチ層を形成した。評価結果を表6に示した。
【0087】
【表6】
【0088】
水蒸気透過度の大きい樹脂Aを用いると、耐食性が劣る傾向にあった(RunNo.42)。