(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の工程では、前記各中空糸膜を、それぞれ、前記第1地点から前記第2地点までを経由させる際、当該中空糸膜の前記中心軸方向の位置を規制する規制部材を用いる請求項1に記載の医療器具の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の医療器具の製造
方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の医療器具の製造方法によって製造された医療器具を人工肺に適用した場合の実施形態を示す平面図、
図2は、
図1に示す人工肺を矢印A方向から見た図、
図3は、
図2中のB−B線断面図、
図4は、
図2中の矢印C方向から見た図、
図5は、
図1中のD−D線断面図、
図6は、
図5中のE−E線断面図、
図7は、
図1に示す人工肺が備える中空糸膜層となる母材を示す斜視図、
図8は、
図7中の矢印F方向から見た図、
図9は、
図7に示す母材における中空糸膜層1層分を示す斜視図、
図10は、
図9に示す中空糸膜層1層分の展開図、
図11は、1本の中空糸膜の横断面図、
図12は、
図7に示す母材を製造する工程を順に示す図(第1の工程の図)、
図13は、
図7に示す母材を切断する工程を順に示す図(第2の工程の図)、
図14は、
図1に示す人工肺における中空糸膜1本当たりの長さと、従来の工肺における中空糸膜1本当たりの長さとを比較するための図((a)が前者の長さ、(b)が後者の長さを示す)である。なお、
図1、
図3、
図4および
図12中の左側を「左」または「左方」、右側を「右」または「右方」という。また、
図1〜
図6中、人工肺の内側を「血液流入側」または「上流側」、外側を「血液流出側」または「下流側」として説明する。
【0025】
図1〜
図5に示す人工肺10は、全体形状がほぼ円柱状をなしている。この人工肺10は、内側に設けられ、血液に対し熱交換を行う熱交換部10Bと、熱交換部10Bの外周側に設けられ、血液に対しガス交換を行う人工肺部10Aと備える熱交換器付き人工肺であり、例えば血液体外循環回路中に設置されるものである。
【0026】
人工肺10は、ハウジング2Aを有しており、このハウジング2A内に人工肺部10Aと熱交換部10Bとが収納されている。
【0027】
ハウジング2Aは、円筒状ハウジング本体21Aと、円筒状ハウジング本体21Aの左端開口を封止する皿状の第1の蓋体22Aと、円筒状ハウジング本体21Aの右端開口を封止する皿状の第2の蓋体23Aとで構成されている。
【0028】
円筒状ハウジング本体21A、第1の蓋体22Aおよび第2の蓋体23Aは、樹脂材料で構成されている。円筒状ハウジング本体21Aに対し、第1の蓋体22Aおよび第2の蓋体23Aは、融着や接着剤による接着等の方法により固着されている。
【0029】
円筒状ハウジング本体21Aの外周部には、管状の血液流出ポート28が形成されている。この血液流出ポート28は、円筒状ハウジング本体21Aの外周面のほぼ接線方向に向かって突出している(
図5参照)。
【0030】
第1の蓋体22Aには、管状の血液流入ポート201およびガス流出ポート27が突出形成されている。血液流入ポート201は、その中心軸が第1の蓋体22Aの中心に対し偏心するように、第1の蓋体22Aの端面に形成されている。ガス流出ポート27は、その中心軸が第1の蓋体22Aの中心と交差するように、第1の蓋体22Aの外周部に形成されている(
図2参照)。
【0031】
第2の蓋体23Aには、管状のガス流入ポート26、熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203が突出形成されている。ガス流入ポート26は、第2の蓋体23Aの端面の縁部に形成されている。熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203は、それぞれ、第2の蓋体23Aの端面のほぼ中央部に形成されている。また、熱媒体流入ポート202および熱媒体流出ポート203の中心線は、それぞれ、第2の蓋体23Aの中心線に対してやや傾斜している。
【0032】
なお、本発明において、ハウジング2Aの全体形状は、必ずしも完全な円柱状をなしている必要はなく、例えば一部が欠損している形状、異形部分が付加された形状などでもよい。
【0033】
図3、
図5に示すように、ハウジング2Aの内部には、その内周面に沿った円筒状をなす人工肺部10Aが収納されている。人工肺部10Aは、円筒状の中空糸膜層3Aと、中空糸膜層3Aの外周側(血液流出部側)に設けられた気泡除去手段4Aとしてのフィルタ部材41Aとで構成されている。中空糸膜層3Aとフィルタ部材41Aとは、血液流入側から、中空糸膜層3A、フィルタ部材41Aの順に配置されている。
【0034】
図6に示すように、中空糸膜層3Aは、ガス交換機能を有する多数本の中空糸膜31で構成され、これらの中空糸膜31が集積されたものである。この中空糸膜層3Aは、後述するように、全体形状として円筒体の形状をなす母材3’から得られる。
【0035】
中空糸膜層3A(母材3’)の最大外径φD
maxは、20〜200mmであるのが好ましく、40〜150mmであるのがより好ましい(
図5参照)。また、中空糸膜層3Aの中心軸方向に沿った長さLは、30〜250mmであるのが好ましく、50〜200mmであるのがより好ましい(
図3参照)。このような条件を中空糸膜層3Aが有することにより、当該中空糸膜層3Aは、ガス交換機能に優れたものとなる。
【0036】
また、各中空糸膜31の内径φd
1は、それぞれ、50〜700μmであるのが好ましく、70〜600μmであるのがより好ましい(
図11参照)。各中空糸膜31の外径φd
2は、それぞれ、100〜900μmであるのが好ましく、120〜800μmであるのがより好ましい(
図11参照)。さらに、内径φd
1と外径φd
2との比d
1/d
2は、0.5〜0.9あるのが好ましく、0.6〜0.8であるのがより好ましい。このような条件を有する各中空糸膜31では、自身の強度を保ちつつ、当該中空糸膜31の内腔(流路32)にガスを流すときの圧力損失を比較的小さくすることができる。例えば、内径φd
1が前記上限値よりも大きいと、中空糸膜31の厚さが薄くなり、他の条件によっては、強度が低下する。また、内径φd
1が前記下限値よりも小さいと、他の条件によっては、中空糸膜31の内腔にガスを流すときの圧力損失が大きくなる。
【0037】
また、隣り合う中空糸膜31同士の距離は、φd
2の1/10〜1/1であるのがより好ましい。
【0038】
このような中空糸膜31の製造方法は、特に限定されないが、例えば、延伸法または固液相分離法等を用いて、紡糸スピード、樹脂の吐出量等の条件を適宜調整することにより、所定の内径φd
1および外径φd
2を有する中空糸膜31を製造することができる。
【0039】
各中空糸膜31の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン等の疎水性高分子材料が用いられ、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは、ポリプロピレンである。また、中空糸膜31は、延伸法または固液相分離法により壁部に微細孔が形成されたものがより好ましい、すなわち、多孔質のポリプロピレンで構成されたものがより好ましい。これにより、血液は、中空糸膜31との間で、ガス交換が確実になされる。
【0040】
図3に示すように、各中空糸膜31の両端部、すなわち左端部(一端部)および右端部(他端部)は、それぞれ、隔壁8および9により円筒状ハウジング本体21Aの内面に対し固定されている。隔壁8、9は、例えば、ポリウレタン、シリコーンゴム等のポッティング材や接着剤等により構成されている。
【0041】
また、中空糸膜層3Aは、円筒状ハウジング本体21Aと熱交換部10Bとの間にほぼ隙間なく充填されており、これにより、中空糸膜層3Aは、全体形状としてほぼ円筒状の形状をなしている。これにより、同様の形状の円筒状ハウジング本体21Aに対し、中空糸膜31の高い充填効率が得られ(デッドスペースが少なく)、人工肺部10Aの小型化、高性能化に寄与する。
【0042】
ハウジング2A内の隔壁8と隔壁9との間における各中空糸膜31の外側、すなわち、中空糸膜31同士の隙間に、血液が
図6中の上側から下側に向かって流れる血液流路33が形成されている。
【0043】
血液流路33の上流側、すなわち、人工肺部10Aの内周側に位置する熱交換部10Bよりも上流側には、血液流入ポート201から流入した血液の血液流入部として、血液流入ポート201に連通する血液流入側空間24Aが形成されている(
図3、
図5参照)。
【0044】
血液流入側空間24Aは、円筒状をなす第1の円筒部材241と、第1の円筒部材241の内側に配置され、その内周部の一部に対向して配置された板片242とで画成された空間である。そして、血液流入側空間24Aに流入した血液は、第1の円筒部材241に形成された複数の側孔243を介して、血液流路33全体にわたって流下することができる。
【0045】
血液流路33の下流側においては、フィルタ部材41Aの外周面と円筒状ハウジング本体21Aの内周面との間に円筒状の隙間が形成され、この隙間は、血液流出側空間25Aを形成している。この血液流出側空間25Aと、血液流出側空間25Aに連通する血液流出ポート28とで、血液流出部が構成される。血液流出部は、血液流出側空間25Aを有することにより、フィルタ部材41Aを透過した血液が血液流出ポート28に向かって流れる空間が確保され、血液を円滑に排出することができる。
【0046】
そして、血液流入側空間24Aと血液流出側空間25Aとの間に、中空糸膜層3Aと、フィルタ部材41Aと、血液流路33とが存在している。
【0047】
また、中空糸膜層3Aの下流側(血液流出部側)には、血液中の気泡を捕捉しつつ、血液から除去する機能を有する気泡除去手段4Aが設置されている。この気泡除去手段4Aは、フィルタ部材41Aを有している。
【0048】
フィルタ部材41Aは、血液流路33を流れる血液中に存在する気泡を捕捉する機能を有するものである。
【0049】
フィルタ部材41Aは、ほぼ長方形をなすシート状の部材(以下単に「シート」とも言う)で構成され、そのシートを円柱状に巻回して形成したものである。フィルタ部材41Aは、両端部がそれぞれ隔壁8、9で固着されることにより、ハウジング2Aに対し固定されている(
図3参照)。
【0050】
このフィルタ部材41Aは、その内周面が中空糸膜層3Aの下流側(血液流出部側)の面に接して設けられ、該面のほぼ全面を覆っている。
【0051】
また、フィルタ部材41Aは、血液流路33を流れる血液中に気泡が存在していたとしても、その気泡を捕捉することができる(
図6参照)。また、フィルタ部材41Aにより捕捉された気泡は、血流によって、フィルタ部材41A近傍の各中空糸膜31内に押し込まれて入り込み、その結果、血液流路33から除去される。
【0052】
図3に示すように、第1の蓋体22Aの内側には、円環状をなすリブ291が突出形成されている。そして、第1の蓋体22Aとリブ291と隔壁8により、第1の部屋221aが画成されている。この第1の部屋221aは、ガスが流出するガス流出室である。各中空糸膜31の左端開口は、第1の部屋221aに開放し、連通している。
【0053】
一方、第2の蓋体23Aの内側にも、円環状をなすリブ292が突出形成されている。そして、第2の蓋体23Aとリブ292と隔壁9とにより、第2の部屋231aが画成されている。この第2の部屋231aは、ガスが流入してくるガス流入室である。各中空糸膜31の右端開口は、第2の部屋231aに開放し、連通している。
【0054】
各中空糸膜31の内腔は、ガスが流れる流路32(ガス流路)を構成している。ガス流入ポート26および第2の部屋231aにより、流路32の上流側に位置するガス流入部が構成され、ガス流出ポート27および第1の部屋221aにより、流路32の下流側に位置するガス流出部が構成される。
【0055】
人工肺部10Aの内側には、熱交換部10Bが設置されている。熱交換部10Bは、中空糸膜層3Bを有している。この中空糸膜層3Bは、熱交換を行なう機能を有すること以外は、中空糸膜層3Aと同様である。すなわち、熱交換を行なう機能を有する中空糸膜層3Bも、人工肺部10Aの中空糸膜層3Aと同様に、多数本の中空糸膜31で構成され、これらの中空糸膜31が集積されたものであり、中空糸膜31同士の隙間が血液流路33となる。また、中空糸膜層3Bも、全体形状として円筒体の形状をなす母材3’から得られる。
【0056】
ここでは、中空糸膜層3Bについては、前述した中空糸膜層3Aとの相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0057】
図3に示すように、中空糸膜層3Bは、その両端部、すなわち左端部(一端部)および右端部(他端部)は、それぞれ、隔壁8および9により円筒状ハウジング本体21Aの内面に対し固定されている。さらに、中空糸膜層3Bは、その内周部が、第1の円筒部材241の外周部に形成された凹凸部244に係合している。この係合と隔壁8および9による固定とより、中空糸膜層3Bが円筒状ハウジング本体21Aに確実に固定され、よって、人工肺10の使用中に中空糸膜層3Bの位置ズレが生じるのを確実に防止することができる。
【0058】
また、第1の円筒部材241の内側には、当該第1の円筒部材241と同心的に配置された第2の円筒部材245が配置されている。そして、
図3に示すように、熱媒体流入ポート202から流入した熱媒体(例えば水)は、第1の円筒部材241の外周側にある中空糸膜層3Bの各中空糸膜31の流路32(熱媒体流路)、第2の円筒部材245の内側を順に通過して、熱媒体流出ポート203から排出される。また、熱媒体が各中空糸膜31の流路32を通過する際に、当該中空糸膜31に接する血液との間で熱交換(加温または冷却)が行われる。
【0059】
また、このように人工肺部10Aの内側に熱交換部10Bが設置されていることにより、次のような効果を奏する。すなわち、まず第1に1つのハウジング2A内に人工肺部10Aおよび熱交換部10Bを効率良く収納することができ、デッドスペースが小さく、そのため、小型の人工肺10で効率の良いガス交換を行なうことができる。第2に、人工肺部10Aと熱交換部10Bとが近接した状態となり、熱交換部10Bで熱交換がなされた血液が、放熱あるいは吸熱されるのをできる限り防止しつつ、人工肺部10Aに迅速に流入することができる。
【0060】
熱交換部10Bを構成する中空糸膜31の構成材料としては、前述した人工肺部10Aを構成する中空糸膜31の構成材料として挙げたものの他に、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ナイロン、ポリスチレン、塩化ビニールを用いることができる。
【0061】
次に、本実施形態の人工肺10における血液の流れについて説明する。
この人工肺10では、血液流入ポート201から流入した血液は、血液流入側空間24A、側孔243を順に通過して、熱交換部10Bに流れ込む。熱交換部10Bでは、血液は、血液流路33を下流方向に向かって流れつつ、各中空糸膜31の表面と接触して熱交換(加温または冷却)がなされる。このようにして熱交換がなされた血液は、人工肺部10Aに流入する。
【0062】
そして、人工肺部10Aでは、血液は、血液流路33を下流方向に向かって流れる。一方、ガス流入ポート26から供給されたガス(酸素を含む気体)は、第2の部屋231aから各中空糸膜31の流路32に分配され、該流路32を流れた後、第1の部屋221aに集積され、ガス流出ポート27より排出される。血液流路33を流れる血液は、各中空糸膜31の表面に接触し、流路32を流れるガスとの間でガス交換(酸素加、脱炭酸ガス)がなされる。
【0063】
ガス交換がなされた血液中に気泡が混入している場合、この気泡は、フィルタ部材41Aにより捕捉され、フィルタ部材41Aの下流側に流出するのが防止される。
【0064】
以上のようにしてガス交換がなされ、気泡が除去された血液は、血液流出ポート28より流出する。
【0065】
中空糸膜層3A、3Bを備える医療器具としての人工肺10は、本発明の医療器具の製造方法によって製造される。次に、この製造方法について説明する。
【0066】
本製造方法は、中空糸膜層3A(中空糸膜層3Bについても同様)の母材3’を製造する第1の工程と、母材3’の両端部をそれぞれ切断して、中空糸膜層3Aを得る第2の工程と、ハウジング2Aに中空糸膜層3A等を順に収納して組み立てる第3の工程とを有している。
【0067】
図7に示すように、母材3’は、多数本の中空糸膜31を積層させてなるものであり、その積層数は、特に限定されないが、例えば、3〜40層が好ましい。また、
図8では、最も内側に位置する最内層における多数本の中空糸膜31のうちの3本(中空糸膜31a、31b、31c)が代表的に描かれている。さらに、
図9および
図10では、それぞれ、中空糸膜31a〜31cのうちの中空糸膜31aが代表的に描かれている。
【0068】
また、第1の工程では、多数本の中空糸膜31を巻回して積層させる巻回装置60として、回転装置80とワインダ装置90とを備えるものを用いる(
図12参照)。
【0069】
回転装置80は、モータ801と、モータ801に連結され、当該モータ801の作動により回転するモータシャフト802と、モータシャフト802の左端部に固定され、中空糸膜31が巻き付けられる円柱状のコア部材100が着脱自在に装着される支持部材803とを有している。
【0070】
また、回転装置80は、ワインダ装置90から供給され、コア部材100に巻回される中空糸膜31の位置を一時的に規制する、棒状をなす規制部材804a、804bを有している。規制部材804は、支持部材803に装着されたコア部材100の中心軸106と直角の位置関係にある。また、規制部材804a、804bは、コア部材100の中心軸106方向に沿って、互いに接近・離間可能に支持されている。
【0071】
ワインダ装置90は、本体部901と、本体部901に左右方向(水平方向)に往復可能に支持され、中空糸膜31を案内する案内部902と、中空糸膜31をコア部材100に供給するボビン(供給部)903とを有している。
【0072】
以上のような構成の巻回装置60では、回転装置80でコア部材100を回転させつつ、当該コア部材100に対し、ワインダ装置90から中空糸膜31を1本(または複数本を同時)に供給する。このとき、案内部902の往復動と、規制部材804a、804bのコア部材100の軸方向に対する位置、すなわち、規制部材804a、804b同士の離間距離とを適宜制御することにより、中空糸膜31がコア部材100の中心軸に対し傾斜した方向、すなわち、螺旋状に巻き付けられたり、コア部材100の中心軸と直交する方向に巻き付けられたりする(
図12参照)。
【0073】
なお、巻回装置60では、コア部材100に代えて、第1の円筒部材241を用いることもできる。
【0074】
第2の工程では、母材3’を切断する切断装置70として、カッター(刃物)701を有する装置を用いる(
図13(a)参照)。切断装置70は、固定されており、母材3’をカッター701に接近させることにより、当該母材3’が切断される。
【0075】
なお、切断装置70としては、カッター701を有する構成のものに限定されず、例えば、ウォータージェットを噴射する構成のもの、レーザ光を照射する構成のものであってもよい。
【0076】
前述したように、本製造方法は、第1の工程と、第2の工程と、第3の工程と、第4の工程とを有している。各工程について、順に説明する。
【0077】
[1] 第1の工程
前述したように、母材3’を構成する各中空糸膜31が巻き付けられるコア部材100は、母材3’と同様に円筒状をなす。そして、第1の工程では、コア部材100の外周上に5つの地点を設定し、各中空糸膜31がそれぞれ前記5つの地点を順に経由することとなる(
図8、
図9、
図10、
図12参照)。
【0078】
第1地点101は、コア部材100の左端側(一端側)の1箇所に設定される。
第2地点102は、第1地点101に対しコア部材100の中心軸106回りに角度θズレた1箇所に設定される。角度θとしては、特に限定されず、例えば、20〜175°であるのが好ましく、30〜150°であるのがより好ましい。
【0079】
第3地点103は、コア部材100の右端側(他端側)に第1地点101に対し中心軸106を介してほぼ反対側の1箇所に設定される。従って、第1地点101と第3地点103とは、中心軸106の長手方向の中央部を対称の中心としたとき、当該中心回りにほぼ対称的な位置関係(点対称)にある。
【0080】
第4地点104は、コア部材100の右端側に第2地点102に対し中心軸106を介してほぼ反対側の1箇所に設定される。すなわち、第2地点102と第4地点104とは、中心軸106の長手方向の中央部を対称の中心としたとき、当該中心回りにほぼ対称的な位置関係(点対称)にある。
【0081】
第5地点105は、第1地点101とほぼ同じ箇所に設定される。なお、第5地点105は、コア部材100の外周上の第1地点101よりも左端側の1箇所に設定されていてもよい。ここで、「ほぼ」とは、例えば
図12(e)に示すように、第5地点105が第1地点101と重ならず、隣接する位置にあることを言う。
【0082】
そして、回転装置80とワインダ装置90とを備える巻回装置60を用いて、第1地点101〜第5地点105が設定されたコア部材100に中空糸膜31を巻き付けていく。
【0083】
図12(a)に示すように、回転装置80は、規制部材804aと規制部材804bとがピッチp
1で離間している。また、規制部材804aは、コア部材100に、中心軸106方向で第1地点101とほぼ同じ位置に当接している。
【0084】
また、ワインダ装置90は、案内部902が
図12(a)中の最も左側に位置している。この位置は、中心軸106方向で規制部材804aよりも左側である。そして、ワインダ装置90から引張り出された中空糸膜31aの一端部は、第1地点101に留められるとともに、規制部材804aに係合している。
【0085】
この
図12(a)に示す状態から回転装置80のモータ801を作動させると、中空糸膜31aは、規制部材804aで中心軸106方向の位置が規制されるため、第1地点101から第2地点102まで確実に巻き付けられる。その後、ワインダ装置90の案内部902が
図12(b)に示されるように右側へ移動する。なお、モータ801の作動は、中空糸膜31aが第1地点101〜第5地点105に至るまで継続される。
【0086】
図12(b)に示す状態から、ワインダ装置90の案内部902がさらに
図12(c)に示されるように最も右側にまで移動すると、中空糸膜31aは、規制部材804bに係合する。なお、その間に、中空糸膜31aは、コア部材100の周方向に沿って螺旋状に巻回しつつ、最短距離で第2地点102から第3地点103まで至る。
【0087】
そして、
図12(c)に示すように、中空糸膜31aは、規制部材804bで中心軸106方向の位置が規制される。これにより、中空糸膜31aは、第3地点103から第4地点104まで確実に巻き付けられる(
図12(d)参照)。
【0088】
その後、ワインダ装置90の案内部902が
図12(e)中の最も左側へ戻ると、中空糸膜31aは、規制部材804aに再度係合する。なお、その間に、中空糸膜31aは、コア部材100の周方向に沿って螺旋状に巻回しつつ、最短距離で第4地点104から第5地点105まで至る。
【0089】
また、このときの規制部材804aと規制部材804bとは、ピッチp
2(>ピッチp
1)で離間している。
【0090】
ところで、例えば従来の人工肺には、多数本の中空糸膜を積層した、全体が円筒体の形状をなす中空糸膜層を有し、各層では、1本1本の中空糸膜が円筒体の中心軸回りに螺旋状に巻回しつつ、当該円筒体の一端側と他端側との間を往復したものがある。この従来の人工肺では、第1地点と第2地点とが同一の点となっており、第3地点と第4地点とも同一の点となっている。そして、このような人工肺では、各中空糸膜は、それぞれ、円筒体の一端側から他端側に向かう往路では、円筒体の中心軸回りに少なくとも1周巻回されており、他端側から一端側に向かう復路でも、円筒体の中心軸回りに少なくとも1周巻回されている。このように巻回されている各中空糸膜は、それぞれ、その巻回回数が多ければ多いほど、全長が長くなり、それに比例して、当該中空糸膜内を通過するガスの圧力損失が増大してしまう。
【0091】
しかしながら、本発明における中空糸膜層3Aとなる母材3’では、巻き付けられた中空糸膜31は、コア部材100を往復する間に、すなわち、第1地点101から第5地点105に至る間に、中心軸106回りに1周巻回するのみである(
図9参照)。これにより、
図14に示すように、中空糸膜31は、隔壁8から他方の隔壁9までのその1本当たりの長さ(
図14(a)参照)が、従来の人工肺での中空糸膜1本当たりの長さ(
図14(b)参照)よりも短くなり、その結果、当該中空糸膜31内をガスが通過する際、圧力損失を従来より抑制することができる。
【0092】
中空糸膜31の巻回回数を従来の人工肺よりも少なくすると、中空糸膜31の折り返し点で、折り返し角度が鋭角になり、中空糸膜31がそこに留まらず、他端側へズレ易くなる。これを防ぐために、本発明では、中空糸膜31の第1地点101と第2地点102とを結ぶ部分と、第3地点103と第4地点104とを結ぶ部分とにより、中空糸膜31の折り返し角度を鈍角にすることで、この位置ズレを防止することができる。
【0093】
また、巻回装置60では、中空糸膜31aの巻き付けが完了した後に、さらに、中空糸膜31aと同様に、中空糸膜31b、31cの巻き付けを行なうことができる。この場合、中空糸膜31bが経由する第1地点101(第5地点105)、第2地点102は、それぞれ、中空糸膜31aが経由する第1地点101(第5地点105)、第2地点102よりも左側に位置し、中空糸膜31bが経由する第3地点103、第4地点104は、それぞれ、中空糸膜31aが経由する第3地点103、第4地点104よりも右側に位置する(
図8参照)。また、中空糸膜31cが経由する第1地点101(第5地点105)、第2地点102は、それぞれ、中空糸膜31bが経由する第1地点101(第5地点105)、第2地点102よりも左側に位置し、中空糸膜31cが経由する第3地点103、第4地点104は、それぞれ、中空糸膜31bが経由する第3地点103、第4地点104よりも右側に位置する(
図8参照)。
【0094】
また、巻回装置60では、このように中空糸膜31で形成された層を最内層として、当該最内層上にさらに中空糸膜31で形成された層を積層することができる。
以上のような第1の工程を経ることにより、母材3’が得られる。
【0095】
なお、母材3’は、その両端部において、各中空糸膜31がポッティング材50で固定されるのが好ましい。このポッティング材50は、隔壁8、9となるものである。
この固定を行なうには、まず、ポッティング材で固定する前の母材3’をハウジング内に収納する。次いで、ポッティング材の構成材料である液状のポリウレタンをハウジング内に注入する。次いで、ハウジングごと遠心分離器にかけ、その後、液状のポリウレタンを乾燥させる。これにより、母材3’の両端部がポッティング材で固定された状態となる。そして、この母材3’をハウジングから取り出す。
【0096】
[2] 第2の工程
第2の工程では、第1の工程で得られた、ポッティング材50付きの母材3’の両端部をそれぞれ切断して、中空糸膜層3Aを得る。
【0097】
図13(a)に示すように、母材3’において、多数本の中空糸膜31のうちの平面視で最も内側に位置する中空糸膜31(
図13(a)に示す構成では中空糸膜31a)の第1地点101と第2地点102とを結ぶ第1の線(第1の仮想線)341と、第3地点103と第4地点104とを結ぶ第2の線(第2の仮想線)342とをそれぞれ想定する。そして、母材3’の左端部の第1の線341よりも右端側の部分を第1の切断線351とし、母材3’の右端部の第2の線342よりも左端側の部分を第2の切断線352とする。
【0098】
なお、第1の切断線351は、第1の線341から0.5〜20mm離間した位置に設定されるのが好ましい。第2の切断線352も、第2の線342から0.5〜20mm離間した位置に設定されるのが好ましい。
【0099】
そして、切断装置70を用いて、第1の切断線351、第2の切断線352をそれぞれ切断する。これにより、
図13(b)に示すように、母材3’は、3つの部材に分割され、中央に位置する部材が、中空糸膜層3Aとなる。なお、両端の部材は、それぞれ、破棄される。
以上のような第2の工程を経ることにより、中空糸膜層3Aが得られる。
【0100】
[3] 第3の工程
次に、中空糸膜層3A、当該中空糸膜層3Aと同様に母材3’から得られた中空糸膜層3Bや、その他、人工肺10を構成するハウジング2A、フィルタ部材41A等を用意する。そして、これらの部材を順に組み立てて、人工肺10を得る。
【0101】
なお、フィルタ部材41Aを中空糸膜層3Bに固定するには、まず、フィルタ部材41Aを中空糸膜層3Bに巻き付け、その後、前記第1の工程でのポッティング材50による固定方法とほぼ同様の方法を取ることとにより、その固定がなされる。
【0102】
前述したように、この人工肺10では、中空糸膜層3Aの中空糸膜31の内部をガスが通過する際に、圧力損失が生じるのを抑制することができる。これにより、各中空糸膜31を介したガス交換を容易かつ確実に行なうことができる。また、中空糸膜層3Aでは、いわゆる血液の短絡も抑制または防止することができる。
【0103】
また、中空糸膜層3Bの中空糸膜31の内部を熱媒体が通過する際も、圧力損失が生じるのを抑制することができる。これにより、各中空糸膜31を介した熱交換を容易かつ確実に行なうことができる。
【0104】
以上、本発明の医療器具の製造
方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、医療器具を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0105】
また、人工肺部の中空糸膜層を構成する各中空糸膜と、熱交換部の中空糸膜層を構成する各中空糸膜とは、前記実施形態では同じものであったが、これに限定されず、例えば、一方(前者)の中空糸膜が他方(後者)の中空糸膜よりも細くてもよいし、双方の中空糸膜が互いに異なる材料で構成されていてもよい。
【0106】
また、熱交換部の内側に、人工肺部の中空糸膜層と同様の機能を有する、すなわち、ガス交換機能を有する中空糸膜層(第2の中空糸膜層)が配置されていてもよい。
【0107】
また、熱交換部は、前記実施形態では熱交換機能を有する中空糸膜層を備えたものであったが、これに限定されず、いわゆるベローズ型熱交換体を備えたものであってもよい。この交換体は、例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料、またはポリエチレン、ポリカーボネート等の樹脂材料で構成することができる。
【0108】
また、本発明の医療器具の製造方法では、各中空糸膜がそれぞれ第1地点から第5地点までを順に経由する経路が複数回繰り返されてもよい。これにより、各中空糸膜の連続的な巻き付けを行なうことができ、よって、母材の生産効率が向上する。