【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コアとなるコアロッドの外周面がクラッドの一部となるクラッドガラス層で被覆された複数のコア被覆ロッド及び前記コア被覆ロッドよりも小径の充填用ガラスロッドを含む複数のガラスロッドを束ねるバンドル工程と、
束ねられた前記複数のガラスロッドの外周面に前記クラッドの他の一部となるスートを堆積する外付工程と、
前記スートが堆積した前記複数のガラスロッドを加熱して前記スートと前記ガラスロッドとを一体のガラス体とする焼結工程と、
を備え、
前記バンドル工程において、少なくとも2つの前記コア被覆ロッドが互いに隣り合って前記スートと接触する位置に配置されると共に、前記充填用ガラスロッドが前記スートと接触するように互いに隣り合う前記コア被覆ロッドと接して配置される
ことを特徴とするマルチコアファイバ用母材の製造方法。
前記バンドル工程において、それぞれの前記ガラスロッドの一方の端部がダミーガラスロッドに固定されると共にそれぞれの前記ガラスロッドの他方の端部が他のダミーガラスロッドに固定されることで、前記複数のガラスロッドが束ねられた状態を維持する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般に普及している光ファイバ通信システムに用いられる光ファイバは、1本のコアの外周がクラッドにより囲まれた構造をしており、このコア内を光信号が伝搬することで情報が伝送される。そして、近年、光ファイバ通信システムの普及に伴い、伝送される情報量が飛躍的に増大している。
【0003】
こうした光ファイバ通信システムの伝送容量増大を実現するために、複数のコアの外周が1つのクラッドにより囲まれたマルチコアファイバを用いて、それぞれのコアを伝搬する光により、複数の信号を伝送させることが知られている。
【0004】
このようなマルチコアファイバの製造に用いるマルチコアファイバ用母材を製造する方法として、下記特許文献1に記載されているように、穿孔法やスタックアンドドロー法を用いることが知られている。穿孔法では、まず、クラッドとなるガラスロッドに複数の貫通孔をドリル等を用いて形成する。そして、コアとなるコアロッドがクラッドの一部となるクラッドガラス層で被覆されたコア被覆ロッドをそれぞれの貫通孔内に挿入する。その後、コラプス工程により貫通孔内の不要な隙間を埋めてマルチコアファイバ母材とする。また、スタックアンドドロー法では、クラッドの外周部分となるガラス管の貫通孔内に上記のコア被覆ロッドを挿入し、ガラス管とコア被覆ロッドとの隙間に複数のガラスロッドを挿入する。そして、コラプス工程によりガラス管の貫通孔内の不要な隙間を埋めてマルチコアファイバ母材とする。
【0005】
ところで、近年、長尺のマルチコアファイバを製造したいとの要請より、より大きなマルチコアファイバ母材に対するニーズがある。しかし、穿孔法では、準備するガラスロッドの太さにより作成できるマルチコアファイバ母材の大きさが限定され、形成する貫通孔の径が大きくなると穿孔が困難となる傾向がある。また、スタックアンドドロー法では準備するガラス管の太さにより作成できるマルチコアファイバ母材の大きさが限定され、ガラス管の太さが大きくなるとガラス管のハンドリングが困難となる傾向がある。
【0006】
下記特許文献2には、長手方向に垂直な外形が正六角形とされた複数のコア被覆ロッドに相当するコア材を複数本束ねて、その外周にVAD法によりスートを堆積し、加熱によりスートとコア材とを一体化するマルチコアファイバ用母材の製造方法が記載されている。このような方法によれば、外側にクラッドとなるスートを堆積させるため、ガラスロッドやガラス管の径に制限されることなく、より太いマルチコアファイバ用母材を作成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献2に記載のようにコア被覆ロッドの外径を正六角形にするには、作成した円柱状のコア被覆ロッドを切削する必要があり手間がかかる。そこで、円柱状のコア被覆ロッド(ガラスロッド)を複数本束ねて、束ねたコア被覆ロッドの外周にスートを堆積させることが考えられる。
【0009】
しかし、このようにスートを堆積させるとスートをガラス体化させる焼結工程において、スートに由来するガラス部分と、ガラスロッドに由来するガラス部分との間に空隙が生じることがある。
【0010】
そこで、本発明は、不要な隙間が形成されることを抑制することができるマルチコアファイバ用母材の製造方法及びマルチコアファイバの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマルチコアファイバ用母材の製造方法は、コアとなるコアロッドの外周面がクラッドの一部となるクラッドガラス層で被覆された複数のコア被覆ロッド及び前記コア被覆ロッドよりも小径の充填用ガラスロッドを含む複数のガラスロッドを束ねるバンドル工程と、束ねられた前記複数のガラスロッドの外周面上に前記クラッドの他の一部となるスートを堆積する外付工程と、前記スートが堆積した前記複数のガラスロッドを加熱して前記スートと前記ガラスロッドとを一体のガラス体とする焼結工程と、を備え、前記バンドル工程において、少なくとも2つの前記コア被覆ロッドが互いに隣り合って前記スートと接触する位置に配置されると共に、前記充填用ガラスロッドが前記スートと接触するように互いに隣り合う前記コア被覆ロッドと接して配置されることを特徴とするものである。
【0012】
このようなマルチコアファイバ用母材の製造方法によれば、束ねられた複数のコア被覆ロッドを含む複数のガラスロッドの外周面上にスートを外付で堆積するため、径の大きなマルチコアファイバ用母材を製造することができる。また、スートと接触する位置に配置される互いに隣り合う2つのコア被覆ロッドと接触するように、充填用ガラスロッドが配置される。その為、これらのコア被覆ロッドの外周面間に形成される狭い空間を充填用ガラスロッドで覆うことができる。しかも、充填用ガラスロッドは、充填用ガラスロッドが接するコア被覆ロッドよりも小径とされる。このため、コア被覆ロッドの外周面と充填用ガラスロッドの外周面との間の空間は、充填用ガラスロッドを配置しない場合におけるコア被覆ロッドの外周面間の空間よりも小さい。このため、外付工程においてスートが当該空間を埋め易く、また、焼結工程においてスートに由来するガラス部分とコア被覆ロッドや充填用ガラスロッドに由来するガラス部分との間に隙間が形成されることを抑制することができる。このためマルチコアファイバ用母材に不要な隙間が形成されることを抑制することができる。
【0013】
また、前記充填用ガラスロッドの軟化温度は、前記充填用ガラスロッドと接する前記コア被覆ロッドの前記クラッドガラス層の軟化温度よりも低いことが好ましい。
【0014】
充填用ガラスロッドの軟化温度が、クラッドガラス層の軟化温度よりも低いことで、焼結工程において充填用ガラスロッドがクラッドガラス層よりも先に粘性流動を起こす。従って、焼結工程前に充填用ガラスロッドとコア被覆ロッドとで囲まれる隙間を、焼結工程において粘性流動を起こした充填用ガラスロッドでより適切に埋めることができる。従って、製造されるマルチコアファイバ用母材に不要な隙間が形成されることをより抑制することができる。
【0015】
この場合、前記充填用ガラスロッドと接する前記コア被覆ロッドの前記クラッドガラス層は純粋なシリカガラスから成り、前記充填用ガラスロッドはフッ素が添加されたシリカガラスから成ることとしても良い。
【0016】
また、前記バンドル工程において、それぞれの前記ガラスロッドの一方の端部がダミーガラスロッドに固定されると共にそれぞれの前記ガラスロッドの他方の端部が他のダミーガラスロッドに固定されることで、前記複数のガラスロッドが束ねられた状態を維持することが好ましい。
【0017】
このようにそれぞれのガラスロッドが束ねられた状態を維持することで、束ねられたガラスロッドの外周面上の全体にスートを堆積させることができる。従って、束ねられたガラスロッド全体をマルチコアファイバ用母材とすることができる。
【0018】
このようにダミーロッドが使用される場合、前記複数のガラスロッドは、前記一方の端部及び前記他方の端部において互いに離間していることが好ましい。
【0019】
ガラスロッドが一方の端部及び前記他方の端部において互いに離間することで、バンドル工程において、それぞれのガラスロッドの一方の端部及び他方の端部がダミーガラスロッドに固定される際、ダミーガラスロッドを溶着により固定する場合であっても、当該溶着時の熱でそれぞれのガラスロッド同士が互いに溶着されることを防止することができる。このようにガラスロッド同士の溶着を防止できることで、ダミーガラスロッドが溶着により固定される場合に、ガラスロッド同士の溶着される場合に当該溶着部分から生じ易いクラックを防止することができる。
【0020】
この場合、前記複数のコア被覆ロッドは、前記一方の端部及び前記他方の端部において、径が細くなるように加工されていることが好ましく、さらに、前記充填用ガラスロッドは、前記一方の端部及び前記他方の端部において、径が細くなるように加工されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明のマルチコアファイバの製造方法は、上記いずれかに記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法により製造されるマルチコアファイバ用母材を線引きする線引工程を備えることを特徴とするものである。
【0022】
このようなマルチコアファイバの製造方法によれば、線引きされるマルチコアファイバ用母材が不要な隙間が形成されることが抑制されているため、不要な隙間の形成が抑制されたマルチコアファイバを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、不要な隙間が形成されることを抑制することができるマルチコアファイバ用母材の製造方法及びマルチコアファイバの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るマルチコアファイバ用母材の製造方法、及び、これを用いたマルチコアファイバの製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るマルチコアファイバを示す図である。
図1に示すように本実施形態のマルチコアファイバ1は、複数のコア10と、複数のコア10の外周面を隙間なく囲むクラッド20と、クラッド20の外周面を被覆する内側保護層31と、内側保護層31の外周面を被覆する外側保護層32と、を備える。なお、本実施形態では、コア10の数が3つの場合について説明する。
【0027】
本実施形態のマルチコアファイバ1では、それぞれのコア10が互いに所定距離離れて等間隔で配置されている。それぞれのコア10の直径は、例えば、6μm〜10μmとされ、クラッド20の直径は、例えば、125〜230μmとされる。また、それぞれのコア10の屈折率はクラッド20の屈折率よりも高く、それぞれのコア10のクラッド20に対する比屈折率差は、例えば、0.3%〜0.5%とされる。
【0028】
本実施形態では、コア10はゲルマニウム等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド20は少なくとも一部にフッ素が添加されたシリカガラスから成る。
【0029】
次に、マルチコアファイバ1の製造方法について説明する。
【0030】
図2は、マルチコアファイバ1の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、マルチコアファイバ1の製造方法は、バンドル工程P1、外付工程P2、焼結工程P3、線引工程P4を主な工程として備える。
【0031】
<バンドル工程P1>
本工程では、まず、
図1のマルチコアファイバ1におけるコア10となるコアロッド10Rの外周面がクラッド20の一部となるクラッドガラス層20Rで被覆された複数のコア被覆ロッド2、及び、コア被覆ロッド2よりも小径の充填用ガラスロッド4を準備する。
図1に示すように本実施形態では、コア10の数が3つであるため、3つのコア被覆ロッド2を準備する。また、本実施形態では、それぞれのコア被覆ロッド2を束ねると、コア被覆ロッド2が隣り合う場所が3カ所となるため、充填用ガラスロッド4を3つ準備する。
【0032】
本実施形態では、それぞれのコア被覆ロッド2が互いに同じ大きさで同じ構成とされる。上記のようにコアロッド10Rはコア10となるためコア10と同じ材料から構成され、クラッドガラス層20Rは純粋なシリカガラスやフッ素が添加されたシリカガラスから構成される。また、充填用ガラスロッド4は、クラッドガラス層20Rよりも軟化温度が低いガラスから構成される。クラッドガラス層20Rが純粋なシリカガラスから構成される場合、充填用ガラスロッド4は、例えば、フッ素が添加されたシリカガラスから構成され、クラッドガラス層20Rがフッ素が添加されたシリカガラスから構成される場合、充填用ガラスロッド4は、例えば、クラッドガラス層20Rよりも濃度の高いフッ素が添加されたシリカガラスから構成される。
【0033】
次に複数のコア被覆ロッド2を束ねる位置に配置する。このときにコアロッド10Rの中心間距離が同じとなるように配置する。次に、それぞれの充填用ガラスロッド4を外周側に露出する位置において互いに隣り合うコア被覆ロッド2のそれぞれに接するよう配置する。そして、配置されたコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を結束バンド51により結束する。結束バンド51は、樹脂製であっても金属製であっても良いが、コア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の外周面に傷がつくことを防止する観点では樹脂製であることが好ましく、耐熱性が高い点においては金属製であることが好ましい。こうして、
図3に示すようにそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4が結束された状態となる。
【0034】
なお、特に図示しないが、コア被覆ロッド2を束ねる際、コア被覆ロッド2を束ねた状態でコア被覆ロッド2に囲まれる空間となるべき位置(3つのコア被覆ロッド2で囲まれるべき位置)に他の充填用ガラスロッドを配置しても良い。この場合、当該空間に配置される充填用ガラスロッドはクラッドガラス層と同様の材料から成ることが好ましい。
【0035】
次に結束されたそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の両端部にダミーガラスロッドを固定する。
図4は、このようにそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4にダミーガラスロッドが固定された様子を示す図である。まず、コア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4が結束バンド51で結束された状態で、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の一方の端部に1つのダミーガラスロッド52を固定する。次に、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の他方の端部に他の1つのダミーガラスロッド52を固定する。この固定は溶着に行うことが不純物がコア被覆ロッド2や充填用ガラスロッド4に付着することを抑制できる観点から好ましい。このようにそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の両端にダミーガラスロッド52を固定することで、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4が束ねられた状態を維持することができる。次に、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を結束していた結束バンド51を外す。こうして、
図4に示すように複数のコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4が束ねられた状態となる。
【0036】
なお、本工程では、結束バンド51を用いてそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を束ねた後、ダミーガラスロッド52にそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を溶着したが、必ずしもこのような手順とする必要はない。例えば、1つのコア被覆ロッド2の両端にダミーガラスロッド52を適切な位置に固定する。次に他の1つのコア被覆ロッド2を既にダミーガラスロッド52に固定されているコア被覆ロッド2と隣り合うように配置して、配置された当該他の1つのコア被覆ロッド2の両端をそれぞれのダミーガラスロッド52に固定する。さらに最後のコア被覆ロッド2を既にダミーガラスロッド52に固定されている2つのコア被覆ロッド2と隣り合うように配置して、配置された最後のコア被覆ロッド2の両端をそれぞれのダミーガラスロッド52に固定する。次に、互いに隣り合う一対のコア被覆ロッド2のそれぞれに接触するように充填用ガラスロッド4を配置してダミーガラスロッド52に固定する。このようにそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4をダミーガラスロッド52に固定しても、
図4に示すように複数のコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4が束ねられた状態となる。
【0037】
<外付工程P2>
図5は外付工程P2の様子を示す図である。外付工程P2は、例えば、OVD(Outside vapor deposition method)法により行い、バンドル工程P1で束ねられたそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の外周面にクラッド20の一部となるスート3を堆積する。
【0038】
まず、それぞれのダミーガラスロッド52を不図示の旋盤のチャックに固定して、束ねられた複数のコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4をダミーガラスロッド52の軸中心に回転させる。そして、
図5に示すように複数のコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を回転させながら、クラッド20となるスート3を堆積する。スート3は、互いに接しているコア被覆ロッド2の外周面と充填用ガラスロッド4の外周面との間の空間にも入り込んで堆積される。なお、上記のように充填用ガラスロッド4は、充填用ガラスロッド4が接するコア被覆ロッド2よりも小径とされる。従って、コア被覆ロッド2の外周面と充填用ガラスロッド4の外周面との間の空間は、充填用ガラスロッド4が配置されない場合における互いに隣り合うコア被覆ロッド2の外周面間の空間よりも小さい。従って、充填用ガラスロッド4が配置されることで、充填用ガラスロッド4が配置されない場合よりも、スート3は外周側に露出するガラスロッドの外周面間の空間を埋め易い。
【0039】
なお、充填用ガラスロッド4の軟化温度が堆積したスート3の軟化温度よりも低くなることが好ましく、クラッドガラス層20Rの軟化温度が堆積したスート3の軟化温度よりも低くなることがより好ましい。例えば、上記のように充填用ガラスロッド4がフッ素が添加されたシリカガラスから成る場合、スート3が純粋なシリカガラスや充填用ガラスロッド4よりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスから構成されれば、充填用ガラスロッド4の軟化温度が堆積したスート3の軟化温度よりも低くなる。また、上記のようにクラッドガラス層20Rがフッ素が添加されたシリカガラスから成る場合、スート3が純粋なシリカガラスや充填用ガラスロッド4よりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスから構成されれば、クラッドガラス層20Rの軟化温度が堆積したスート3の軟化温度よりも低くなる。
【0040】
堆積するスート3は、流量が制御されたキャリアガスにより、気化されたSiCl
4を酸水素バーナ53の火炎中に導入してSiCl
4からSiO
2(シリカガラス)とすると共に、酸水素バーナ53をコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の長手方向に複数回往復移動させながら、SiO
2のスート3をそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の外周面を被覆するように堆積する。このスート3の堆積により、クラッド20の一部となるガラス多孔体が形成される。このとき、スート3が上記のように何らドーパントが添加されないシリカガラスにより構成される場合には、特にドーパントを加えずにスート3を堆積する。また、スート3にドーパントが添加される場合には、気化されたSiCl
4と共に添加量がコントロールされたドーパントを含有するガスを酸水素バーナの火炎内に導入する。上記のようにスート3がクラッドガラス層20Rよりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスにより構成される場合には、気化されたSiCl
4と共に気化されたSiF
4を酸水素バーナの火炎内に導入する。
【0041】
こうして必要な回数だけ酸水素バーナ53を移動させて、
図6に示すようにスート3が必要な量堆積された状態となる。
【0042】
<焼結工程P3>
図6に示すようにスート3が堆積した後、必要に応じて脱水を行う。脱水は、ヒータが設けられ、Ar、He等のガスが充填された炉内で所定時間エージングされることで行われる。
【0043】
次に焼結工程P3を行う。焼結工程P3は、炉内を減圧し、炉内の温度を更に上げてスート3が透明なガラス体となるまで焼結工程を行う。このとき用いる炉は上記の脱水に用いる炉であっても良く、上記脱水に用いる炉と異なる炉であっても良い。
【0044】
上記のように充填用ガラスロッド4の軟化温度は、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも低いため、炉の温度を上げると、充填用ガラスロッド4がクラッドガラス層20Rよりも先に軟化温度に達して粘性流動を起こす。そのため、充填用ガラスロッド4と接触するそれぞれのコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4とで囲まれる空間に粘性流動を起こした充填用ガラスロッド4が入り込む。その後、クラッドガラス層20Rや堆積したスート3が粘性流動を起こして、クラッドガラス層20Rと充填用ガラスロッド4とスート3とが一体となる。なお、上記のようにコア被覆ロッド2の外周面と充填用ガラスロッド4の外周面との間の空間は、充填用ガラスロッド4が配置されない場合における互いに隣り合うコア被覆ロッド2の外周面間の空間よりも小さい。このため、堆積したスート3が一体のガラス体となる際に、スート3とクラッドガラス層20R及び充填用ガラスロッド4との間に不要な空隙ができることを抑制することができる。
【0045】
なお、堆積したスート3の軟化温度が、充填用ガラスロッド4の軟化温度やクラッドガラス層の軟化温度よりも高い場合、クラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4に接触しているスート3は粘性流動を起こしたクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4に取り込まれる。そして、取り込まれたスート3よりも外周側に位置するスート3がクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4に取り込まれる。そして時間と共に炉内の温度が更に上昇するため、スート3が次々にクラッドガラス層20Rやや充填用ガラスロッド4に取り込まれながらスート3が粘性流動を起こす。このため、スート3とクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4との間に隙間ができることが抑制されて、スート3とクラッドガラス層20Rと充填用ガラスロッド4とが一体のガラス体となる。
【0046】
このとき、コア被覆ロッド2のコアロッド10Rは殆ど変化することなく
図7に示すマルチコアファイバ用母材1Pの母材コア部10Pとなる。また、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rがマルチコアファイバ用母材1Pの母材クラッド部20Pの一部となり、充填用ガラスロッド4が母材クラッド部20Pの他の一部となり、スート3が母材クラッド部20Pの更に他の一部となる。こうして、マルチコアファイバ用母材1Pを得る。
【0047】
なお、本工程はフッ素系ガスを含む雰囲気で行われても良い。具体的には、本工程を行う炉内にSiF
4,CF
4,C
2F
6等のフッ素系ガスを導入する。このような工程とすることで、スート3が粘性流動を起こす際にスート3内にフッ素が添加される傾向にあり、スート3の屈折率を小さくすることができる。この場合であっても、スート3の軟化温度がクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4の軟化温度よりも高い場合には、スート3が粘性流動を起こすまでスート3内にフッ素が取り込まれづらく、スート3が粘性流動を起こすよりもクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4が粘性流動を起こす方が早いため、上記のようにクラッドガラス層20Rにスート3を取り込むことができる。
【0048】
<線引工程P4>
図8は、線引工程P4の様子を示す図である。まず、線引工程P4を行う準備段階として、上記工程によりマルチコアファイバ用母材1Pを紡糸炉110に設置する。
【0049】
次に、紡糸炉110の加熱部111を発熱させて、マルチコアファイバ用母材1Pを加熱する。このときマルチコアファイバ用母材1Pの下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、マルチコアファイバ用母材1Pからガラスが溶融して、ガラスが線引きされる。そして、線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、母材コア部10Pがコア10となり、母材クラッド部20Pがクラッド20となることで、複数のコア10とクラッド20とから構成されるマルチコアファイバ素線となる。その後、このマルチコアファイバ素線は、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却装置120に入る際、マルチコアファイバ素線の温度は、例えば1800℃程度であるが、冷却装置120を出る際には、マルチコアファイバ素線の温度は、例えば40℃〜50℃となる。
【0050】
冷却装置120から出たマルチコアファイバ素線は、内側保護層31となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置131を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置132を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して内側保護層31が形成される。次に内側保護層31で被覆されたマルチコアファイバは、外側保護層32となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置133を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置134を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して外側保護層32が形成され、
図1に示すマルチコアファイバ1となる。
【0051】
そして、マルチコアファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。
【0052】
こうして
図1に示すマルチコアファイバ1が製造される。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によるマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法によれば、束ねられた複数のコア被覆ロッド2の外周面上にスート3を外付で堆積するため、径の大きなマルチコアファイバ用母材1Pを製造することができる。また、スートと接触する位置に配置される互いに隣り合う2つのコア被覆ロッド2と接触するように、充填用ガラスロッド4が配置される。これらのコア被覆ロッド2の外周面間に形成される狭い空間を充填用ガラスロッド4で覆うことができる。しかも、充填用ガラスロッド4は、充填用ガラスロッド4が接するコア被覆ロッド2よりも小径とされる。このため、コア被覆ロッド2の外周面と充填用ガラスロッド4の外周面との間の空間は、充填用ガラスロッド4を配置しない場合におけるコア被覆ロッド2の外周面間の空間よりも小さい。従って、外付工程P3においてスートが当該空間を埋め易く、また、焼結工程P3においてスート3に由来するガラス部分とコア被覆ロッド2や充填用ガラスロッド4に由来するガラス部分との間に隙間が形成されることを抑制することができる。このためマルチコアファイバ用母材1Pに不要な隙間が形成されることを抑制することができる。このように、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法によれば、不要な空間が無いマルチコアファイバ用母材1Pを製造できたり、マルチコアファイバ用母材1Pに不要な空間が生じる場合であっても、クラッドガラス層20Rの軟化温度とスート3の軟化温度が同じ場合と比べて、当該空間の大きさを小さくすることができる。
【0054】
このようなマルチコアファイバ用母材1Pを線引きして得られるマルチコアファイバ1は、不要な空間が形成されることが抑制され、コア10が変形することを抑制することができ良好な通信状態とすることができたり、設計値と異なって強度が弱くなることを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の両端がダミーガラスロッド52に固定されることで、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の束ねられた状態が維持されている。このため、束ねられたコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の外周面全体にスートを堆積させることができる。従って、束ねられたコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4全体をマルチコアファイバ用母材1Pとすることができる。
【0056】
以上、本発明について、実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、互いに隣り合うコア被覆ロッド2のそれぞれに接するように、コア被覆ロッドが隣り合う各箇所のそれぞれに1つの充填用ガラスロッドを配置した。しかし、配置される充填用ガラスロッド4はそれぞれの箇所に1つとは限らない。
図9は、充填用ガラスロッドの他の配置の例を示す図である。
図9に示すように、本例では、上記実施形態で説明したコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4との束に、更に第2の充填用ガラスロッド5を配置している。第2の充填用ガラスロッド5は、充填用ガラスロッド4よりも小径とされる。さらに第2の充填用ガラスロッド5の軟化温度は、充填用ガラスロッド4の軟化温度よりも低いことが好ましい。こうすることで、焼結工程P3の際、まず、小径の第2の充填用ガラスロッド5が粘性流動を起こす。従って、粘性流動を起こした第2の充填用ガラスロッド5が充填用ガラスロッド4の外周面とコア被覆ロッド2の外周面との間に入り込み、充填用ガラスロッド4の外周面とコア被覆ロッド2の外周面との間の空間を埋めることができる。従って、空隙が形成されることがより抑制されたマルチコアファイバ用母材1Pを製造することができる。
【0058】
なお、上記実施形態のバンドル工程P1において、ダミーガラスロッド52をコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド2に溶着により固定すると、コア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド2を含むガラスロッドの外周面同士が互いに溶着される場合がある。この外周面同士の溶着による接合力が小さい場合、バンドルされたガラスロッドをハンドリングする際に外周面同士の溶着部分にクラックが入る可能性がある。そこで、上記実施形態において、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を次のような形状としても良い。この変形例を
図10、
図11を用いて説明する。なお、上記実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0059】
図10は、変形例におけるコア被覆ロッド及び充填用ガラスロッドが結束された様子を示す図である。
図10に示すように、本変形例では、コア被覆ロッド2は、一方の端部及び他方の端部においてテーパ部2Tが形成される点において、上記実施形態のコア被覆ロッド2と異なり、充填用ガラスロッド4は、一方の端部及び他方の端部においてテーパ部4Tが形成される点において、上記実施形態の充填用ガラスロッド4と異なる。このようにコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を含む複数のガラスロッドの両端部が先細りにテーパ状とされることで、コア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4とを含む複数のガラスロッドは、一方の端部及び他方の端部において互いに離間する。
【0060】
このようにコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4の両端部をテーパ状にするには、
図3に示すコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4と同様の形状のコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4を準備する。そして、準備したコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4を結束する前に、コア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4の両端部をテーパ状に切削すればよい。或いは、
図3に示すコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4と同様の形状のコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4を準備し、準備したコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4を結束する前に、コア被覆ロッド2の両端にテーパ部2Tとなる円錐台状のガラス体を溶着し、充填用ガラスロッドの両端にテーパ部4Tとなる円錐台状のガラス体を溶着しても良い。或いは、
図3に示すコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4と同様の形状のコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4を準備し、準備したコア被覆ロッド2と充填用ガラスロッド4を結束する前に、コア被覆ロッド2の両端を延伸加工してテーパ部2Tを形成し、充填用ガラスロッド4の両端を延伸加工してテーパ部4Tを形成しても良い。
【0061】
図11は、変形例におけるダミーガラスロッドが固定された様子を示す図である。
図11に示すように、
図10に示すそれぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の一方の端部及び他方の端部にダミーガラスロッド52を溶着により固定する。この溶着の際、それぞれのガラスロッドは一方の端部及び他方の端部において互いに離間するため、一方の端部及び他方の端部においてガラスロッド同士が溶着されることを防止することができる。
【0062】
このような変形例によれば、バンドル工程において、それぞれのガラスロッドの一方の端部及び他方の端部がダミーガラスロッド52に固定される際、それぞれのガラスロッドの一方の端部及び他方の端部が互いに離間している。このため、ダミーガラスロッドを溶着により固定する場合であっても、当該溶着時の熱でそれぞれのガラスロッド同士が互いに溶着されることを防止することができる。なお、本変形例では、それぞれのコア被覆ロッド2にテーパ部2Tを設け、それぞれの充填用ガラスロッド4にテーパ部4Tを設けることで、ガラスロッドの一方及び他方において、それぞれのガラスロッドが離間するものとした。しかし、ガラスロッドの両端部がテーパ状とされずに径が小さくされる場合であっても、ガラスロッドの一方及び他方において、それぞれのガラスロッドが離間することができる。或いは、上記変形例において、コア被覆ロッド2の両端部のみをテーパ状等にすることで小さな径をし、充填用ガラスロッド4の両端部の径を小さくしないこととしても良い。この場合であっても、それぞれのガラスロッドの両端部において、それぞれのガラスロッド同士を離間させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、充填用ガラスロッド4の軟化温度がコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも低いとされた。しかし本発明はこれに限らず、クラッドガラス層20Rの軟化温度と充填用ガラスロッドの軟化温度とが同じであっても良く、クラッドガラス層20Rの軟化温度が充填用ガラスロッド4の軟化温度よりも低くても良い。ただし、互いに隣り合うコア被覆ロッド2の外周面に空隙ができることをより適切に抑制する観点から、上記実施形態のように充填用ガラスロッド4の軟化温度がコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも低いことが好ましい。
【0064】
また、上記実施形態では、それぞれのコア10がクラッド20で直接被覆されるマルチコアファイバ1を例に説明したが、マルチコアファイバはいわゆるトレンチ型のマルチコアファイバであっても良い。トレンチ型のマルチコアファイバは、それぞれのコアがコアよりも低屈折率の内側クラッドで個別に被覆され、それぞれの内側クラッドが更に低屈折率のトレンチ部で個別に被覆される。このコアと内側クラッドとトレンチ部とから成る要素はコア要素と呼ばれる場合がある。そして全てのコア要素がトレンチ部よりも高屈折率でコアよりも低屈折率のクラッドで被覆される構造とされる。このようなマルチコアファイバを製造する場合、コア被覆ロッドは、コアロッドが内側クラッドとなるガラス層で被覆され、内側クラッドとなるガラス層がトレンチ部となるガラス層で被覆され、トレンチ部となるガラス層がクラッドとなるガラス層で被覆された構造とされる。このような構造のコア被覆ロッドを用いる点を除いて、上記実施形態と同様にマルチコアファイバを製造することができる。
【0065】
また、上記実施形態において、コア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を含む複数のガラスロッドを束ねた際に結束バンド51を用いたが、他の方法により束ねても良い。また、束ねた複数のガラスロッドの両端をダミーガラスロッド52に固定したが、他の方法によりガラスロッドが束ねられた状態を維持しても良い。
【0066】
また、上記実施形態では、3つのコア10を有するマルチコアファイバ1を製造する製造方法を説明したため、コア被覆ロッド2の数を3つとし、充填用ガラスロッド4の数も3つとした。しかし、マルチコアファイバのコアの数はこの限りでない。例えば、クラッドの中心に1つのコアが配置され、そのコアの周りに6つのコアが等間隔で配置される1−6コア配置のマルチコアファイバであっても良い。この場合、中心に1つのコア被覆ロッド2が配置され、その周りに6つのコア被覆ロッド2が配置される。従って、外周側でコア被覆ロッド2同士が隣り合う場所は6カ所とされる。このような場合には、充填用ガラスロッドも6つ用意して、外周側で互いに隣り合うそれぞれのコア被覆ロッド2と接するように6カ所に配置することが好ましい。
【0067】
また、充填用ガラスロッド4の軟化温度をクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも低くするために添加するドーパントは、フッ素に限定されない。例えば、ドーパントとして、ゲルマニウム(Ge),塩素(Cl),ホウ素(B),リン(P)等を挙げることができる。