特許第6396827号(P6396827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6396827ホウフッ化物含有排水の処理方法および処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396827
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ホウフッ化物含有排水の処理方法および処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   C02F1/58 M
   C02F1/58 H
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-44765(P2015-44765)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-163857(P2016-163857A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年3月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】水内 絢子
(72)【発明者】
【氏名】石川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】山崎 優
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健一
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝仁
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−200743(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/132887(WO,A1)
【文献】 特開昭61−004593(JP,A)
【文献】 特開2010−269309(JP,A)
【文献】 特開2011−88807(JP,A)
【文献】 特開昭51−28357(JP,A)
【文献】 特公昭54−5628(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 − 1/64
C01B 35/00 − 35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともホウフッ化物を含む排水中のホウ素およびフッ素を分解するホウフッ化物分解工程と、
前記ホウフッ化物分解工程で得られた溶液にカルシウム化合物を添加する固形化工程と、
前記固形化工程で得られた溶液を固液分離する固液分離工程と、
を含み、
前記ホウフッ化物分解工程が、処理される排水のホウ素濃度に応じた量のポリ塩化アルミニウムを添加するステップと、
前記ポリ塩化アルミニウム添加後の排水に塩酸および硫酸イオン含有物質を添加するステップと、
を含み、
処理される排水中の硫酸イオンの濃度が1000ppm〜3000ppmになるように硫酸イオン含有物質を添加することを特徴とするホウフッ化物含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記ホウフッ化物分解工程において、処理される排水のpHが2以下になるように塩酸を添加することを特徴とする請求項1に記載のホウフッ化物含有排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウフッ化物含有排水の処理方法に関し、特にポリ塩化アルミニウムを用いて効率的にホウフッ化物含有排水を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素及びフッ素を含む廃液はガラス分野、半導体分野等の様々な産業から排出されるため、従来から排水処理方法について様々な研究が行われてきた。ホウ素およびフッ素は、下水道法や水質汚濁防止法等の環境関連法令によって、排水基準値が厳しく制限されている。このため、適宜薬品を添加して、ホウ素およびフッ素を不溶性の反応物として生成させてから、固液分離を行うことで排水基準値以下までホウ素およびフッ素の濃度を低下させて排出する必要がある。
【0003】
ホウ素およびフッ素を含む溶液の排水処理の難点の一つとして、ホウ素イオンとフッ素イオンが溶液中で結合してホウフッ化物イオンが生じることである。ホウフッ化物イオンは、難分解性の性質を有しているため、そのままでは固形化処理することが難しい。ホウフッ化物含有溶液を処理するためには、ホウフッ化物イオンを分解してから固液分離処理しなければならない。ホウフッ化物を分解する薬品としては、コスト面や入手の容易性からアルミニウム化合物が利用されることが多いが、さらに効率的な処理が求められている。
【0004】
そこで、従来技術のなかには、ホウフッ化物含有溶液にアルミニウム化合物を添加する際に、異なるpH領域で2段階の処理を行うことでホウフッ化物イオンの結合を効率的に分解する手段が開示されている。(例えば、特許文献1。)。この技術によれば、アルミニウム化合物と塩酸等を添加してpH2以下でホウフッ化物を分解する第1分解工程とpH2〜4で処理する第2分解工程との2段階で処理するため、効率的にホウフッ化物を分解できるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−200743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ホウフッ化物イオンを分解する工程において、被処理液のpHを低下させるために塩酸を添加すると、確かに処理効率が向上するが、後工程においてカルシウム化合物を添加した際に、溶液中に含まれる塩化物イオンがホウ素の固形化反応を阻害してしまう。このため、被処理溶液中のホウ素濃度が排出基準値まで低下しなかったり、ホウ素除去のために大量のカルシウム化合物およびアルミニウム化合物を添加する必要があり、汚泥の発生量が増加したりするといった不具合があった。また、塩酸を添加しない場合であっても、ガラス基板のエッチング廃液のように被処理排水中にもともと高濃度の塩化物イオンが含まれている場合、ホウ素の効率的な除去が難しいという課題があった。
【0007】
pHを低下させるための別の手段として硫酸を用いることも考えられるが、後工程でカルシウム化合物を添加する際に、溶液中に硫酸イオンが存在すると、分子量の大きい硫酸カルシウムが生成され、大量の汚泥が発生してしまう。汚泥の大量発生は、処理コストおよび環境負荷が増大してしまうため、pHの調整に硫酸塩の添加は適さないとされていた。ホウフッ化物の分解は、低pHの環境下で反応が促進されるが、上述のような理由のため、pHを低下させるための酸性薬品には制限が多い。
【0008】
また、ホウフッ化物の分解に用いるアルミニウム化合物としてポリ塩化アルミニウム(以下、PAC)、塩化アルミニウムや硫酸バンド等を用いることが可能である。しかし、以下のような不具合があるため、アルミニウム化合物を使用する際にも制約が多い。硫酸バンドは、硫酸イオンを含有しており、大量に添加する必要のある高濃度のホウフッ化物含有溶液を処理する場合、上述のように硫酸カルシウムが生成されるため、使用することが難しい。塩化アルミニウムは、薬品としての供給が不安定であるため、安定的な排水処理が見込めず、場合によっては処理コストが増大してしまう可能性がある。
【0009】
そこで、PACを利用してホウフッ化物を分解することが検討されているが、PACは塩化アルミニウムと比較して酸性度が低いため、ホウフッ化物含有溶液に添加しても所望のpHまで下がらす、ホウフッ化物の分解効率が低下してしまう。しかし、上述のようにホウフッ化物含有溶液のpHを低下させるための薬液には制限が多く、効率的にpHを低下させることが難しい。このような理由により、ホウフッ化物の分解およびホウ素とフッ素の除去を行う排水処理は非常に困難であった。
【0010】
本発明の目的は、PACを用いてホウフッ化物含有溶液を効率的に処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るホウフッ化物含有排水の処理方法は、ホウフッ化物分解工程と、固形化工程と、固液分離工程とを含む。ホウフッ化物分解工程は、排水中のホウ素およびフッ素を分解するための工程であり、処理される排水のホウ素濃度に応じた量のポリ塩化アルミニウムを添加するステップと、必要あればポリ塩化アルミニウム添加後の排水のpHを酸性物質によって調整するステップと、必要あればポリ塩化アルミニウム添加後の排水に硫酸イオン含有物質を添加するステップとを含む。固形化工程は、ホウフッ化物分解工程によって得られた溶液にカルシウム化合物を添加して、ホウ素およびフッ素を固形物として析出させる工程である。固液分離工程は、固形化工程によって得られた溶液を固液分離する工程である。
【0012】
本発明では、ホウフッ化物の分解の際に、ホウ素の濃度に基づいてPACの添加量を決定する。PACの添加量等の条件によってホウフッ化物分解工程において被処理液のpHが高くなる可能性があるため、必要であれば酸性物質を添加してpHを調整する必要がある。pHの調整を行うことにより、ホウフッ化物の分解を効率的に行うことが可能になる。さらに、必要であれば、硫酸イオン含有物質を含むことが物質を添加する。被処理溶液中に硫酸イオンが含まれていることによって、固形化工程において、カルシウム化合物を添加した際に効率的にホウ素を除去することが可能になる。また、被処理容器中に塩化物イオンが含まれていたとしても、硫酸イオンが存在することによってホウ素除去時の阻害反応が起こったとしても、良好な処理を行うことが可能になる。
【0013】
また、ホウフッ化物分解工程において、pHが2以下になるように硫酸以外の無機酸または有機酸を添加することが好ましい。ホウフッ化物の分解は、特にpH2以下で反応が促進されるが、前述のように硫酸を添加すると、カルシウム化合物の添加時に硫酸カルシウムが発生してしまうため、pHを低下させる酸性物質は硫酸以外の酸を用いることが好ましい。
【0014】
また、ホウフッ化物分解工程において、処理される排水中の硫酸イオンの濃度が1000ppm〜3000ppmになるように硫酸イオン含有物質を添加することが好ましい。硫酸イオン含有物質の濃度が1000ppm未満になると、ホウ素を効率的に除去できず、排水基準値以下までホウ素の除去することが難しくなる。また、硫酸イオンの濃度が3000ppmを超えると、硫酸カルシウムが大量に発生してしまうため、汚泥の処理コストが増大してしまう。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、PACを利用して、効率的にホウフッ化物イオン含有排水を処理することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る排水処理システムの概略示す図である。
図2】ホウ素濃度とPACの添加量の関係を示すグラフである。
図3】硫酸イオン濃度とホウ素濃度および汚泥の発生量の関係を示すグラフである。
図4】硫酸イオン濃度と硫酸カルシウムの発生量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態として、液晶表示パネル等に利用されるフラットパネルディスプレイ用のガラス基板のエッチング廃液を処理する方法について説明する。ガラス基板のエッチングは、フッ酸を含むエッチング液が利用されており、フッ酸とガラス基板中に含まれるホウ素が反応することで、エッチング廃液にはホウフッ化物イオンが含まれている。
【0018】
図1は、ガラスエッチング廃液を処理するための排水処理システム10の概略を示す図である。排水処理システム10は、廃液収容部12、フッ素除去部14、ホウフッ化物分解部16、固形化処理部18、固液分離部20および中和処理部22を備えている。廃液収容部12は、ガラス基板のエッチング廃液を収容するように構成される。フッ素除去部14は、エッチング廃液中の遊離フッ素を除去するように構成される。ホウフッ化物分解部16は、本発明のホウフッ化物分解工程に相当し、エッチング廃液中に含まれるホウフッ化物を分解するように構成される。固形化処理部18は、本発明の固形化工程に相当し、ホウフッ化物分解部16にてホウフッ化物が分解された廃液にカルシウム化合物を添加して、ホウ素およびフッ素を不溶性の反応物として析出するように構成される。固液分離部20は、本発明の固液分離工程に相当し、固形化処理部18で生成された不溶性の反応物を固液分離するように構成される。中和処理部22は、固液分離部20で得られた溶液のpHを河川や下水に放流可能なpHに調整するように構成される。
【0019】
廃液収容部12は、ガラスエッチング装置から送られてくるエッチング廃液を収容するように構成される。また、廃液収容部12において、エッチング廃液中のホウ素イオンおよび硫酸イオンの濃度を測定する。廃液収容部12で測定した濃度をもとに後段のホウフッ化物分解部16でのPACおよび硫酸イオン含有物質の添加量を決定する。ホウ素イオンおよび硫酸イオンの濃度を測定する手段として、ICP発光分光分析装置等を用いることが可能である。廃液収容部12で各イオン濃度を測定したエッチング廃液は、フッ素除去部14に送られる。
【0020】
フッ素除去部14は、フッ素除去槽24およびフッ素除去剤収容槽26を備えている。フッ素除去槽24は、廃液収容部12と接続されており、廃液収容部12から送られてくるエッチング廃液を収容するように構成される。なお、廃液収容部12とフッ素除去槽24は、送液パイプで接続されて、制御弁および制御ポンプによって流量管理を行っており、後述する各処理槽も同様に送液管理が行われている。フッ素除去剤収容槽26は、フッ素除去槽24と接続されており、エッチング廃液中の遊離フッ素を除去するためのカルシウム化合物を収容するように構成される。
【0021】
エッチング廃液にはホウフッ化物イオンだけでなく、遊離フッ素イオンも含まれている。ホウフッ化物イオンの分解の際に被処理溶液中にフッ素イオンが存在すると、ホウフッ化物イオンの効率的な分解が難しくなるため、被処理溶液に遊離フッ素が含まれている場合、ホウフッ化物分解工程の前段でフッ素を除去する必要がある。遊離フッ素は、カルシウム化合物を添加して、フッ化カルシウムとして析出させる。また、フッ素の固形化には被処理容器のpHが5以上であることが好ましいため、必要であれば、苛性ソーダ等を添加して予めエッチング廃液のpHを調整することが好ましい。フッ素を除去するためのカルシウム化合物としては、消石灰、炭酸カルシウムまたは塩化カルシウム等を使用することができる。フッ素が十分に除去されたエッチング廃液は、ホウフッ化物分解部16に送られる。
【0022】
ホウフッ化物分解部16は、ホウフッ化物分解槽28、PAC収容槽30、酸性物質収容槽32および硫酸化合物収容槽34を備えている。ホウフッ化物分解槽28は、フッ素除去槽24と接続されており、フッ素除去槽24から供給されるエッチング廃液を収容するように構成される。PAC収容槽30、酸性物質収容槽32および硫酸化合物収容槽34は、ホウフッ化物分解槽28と接続されており、それぞれの槽でPAC、pH調整のための酸性物質および硫酸イオン含有物質を収容するように構成される。なお、本実施形態では、薬液を収容するための槽を個別に備えているが、被処理溶液のホウ素イオンおよび硫酸イオンの濃度が予め判明していれば、所定の割合で混合した薬液を1つの薬液収容槽に保管することも可能である。また、ホウフッ化物分解槽28内では、攪拌機等を用いて、被処理溶液を攪拌することが好ましい。
【0023】
ホウフッ化物分解槽28にエッチング廃液が収容されると、まずPAC収容槽30からPACが供給される。ホウフッ化物を分解するためのPACの添加量は、前述のようにエッチング廃液中のホウ素イオンの濃度に基づいて決定される。図2は、ホウ素イオン濃度とホウフッ化物分解薬液の添加量の関係を示すグラフであり、ホウフッ化物含有廃液1リットルに対してのPACの添加量を示すグラフである。また、ホウフッ化物分解工程において、反応温度の制限はないが、10℃〜40℃範囲であれば、特に問題なく反応する。
【0024】
PACを添加することでホウフッ化物分解槽28内の排水のpHが上昇した場合、酸性物質収容槽32からpHを調整するための酸性物質を添加して、pHを調整する必要がある。ホウフッ化物の分解は、特にpH2以下で良好に反応するため、pHを調整する場合はpH2以下になるように酸性物質を添加することが好ましい。このため、ホウフッ化物分解槽28にはpHメータを設置して、モニタリングを行い、pHが2を超えるようであれば、適宜酸性物質を添加してpHを調整することが好ましい。
【0025】
酸性物質としては、硫酸以外の無機酸または有機酸を使用することができる。硫酸はpHを低下させるためには適しているが、後工程で硫酸カルシウムが発生するため、大量に使用する場合は好ましくない。また、pH調整のための酸として、無機酸であれば、塩酸、硝酸等を用い、有機酸を用いる場合であれば、クエン酸やフマル酸等を用いることが可能である。コスト面や添加溶液の酸性度等を考慮すると、本実施例では塩酸を用いることが好ましい。塩酸を添加したとしても、被処理溶液中に含まれる硫酸イオンによりホウ素の除去が促進されるため、上述の塩化物イオンによる阻害反応による影響はない。
【0026】
また、廃液収容部12において、硫酸イオンの濃度を測定した際に硫酸イオンの濃度が1000ppm未満であれば、硫酸イオン含有物質を添加する。硫酸化合物の添加量は、硫酸イオン濃度が1000ppm〜3000ppmになるように添加することが好ましく、より好ましくは2000ppm〜3000ppmである。ガラスエッチングでは、フッ酸のほかに硫酸や塩酸を用いているため、廃液には硫酸イオンが含まれているが、硫酸イオンの濃度が1000ppm未満の場合、ホウ素の除去が十分に行われないことがあるため、ホウフッ化物分解工程において追加で硫酸イオン含有物質を添加することが好ましい。また、被処理溶液中の硫酸イオン濃度が3000ppmを超えた場合、固形化処理部18において硫酸カルシウムが発生するため、処理効率の低下や汚泥の廃棄コストも増大といった不具合が発生する。硫酸イオン含有物質としては、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等を使用することができる。ホウフッ化物分解工程での被処理物のpHの低下を防ぐためには、硫酸を添加することが好ましい。
【0027】
ホウフッ化物分解用の各薬液が添加されたエッチング廃液は、ホウフッ化物の分解が十分に進行するまで反応させる。反応時間は、被処理液の液温によって異なるが、液温が40℃であれば約30分で液中のホウフッ化物が十分に分解される。ホウフッ化物分解部16で処理されたエッチング廃液は固形化処理部18に送られる。
【0028】
固形化処理部18は、固形化処理槽36およびカルシウム化合物収容槽38を備えている。固形化処理槽36は、ホウフッ化物分解槽28と接続されており、ホウフッ化物分解槽28から供給されるエッチング廃液を収容するように構成される。カルシウム化合物収容槽38は、固形化処理槽36と接続されており、固形化処理槽36にカルシウム化合物を供給するように構成される。ホウフッ化物が分解されたエッチング廃液にカルシウム化合物を添加することで、ホウ素およびフッ素を不溶性の反応物として生成させることが可能になる。
【0029】
固形化処理部18において添加するカルシウム化合物としては消石灰、炭酸カルシウムまたは塩化カルシウム等を使用することができる。固形化処理槽36にエッチング廃液が収容されると、カルシウム化合物収容槽38からカルシウム化合物が添加される。カルシウム化合物の添加量は、固形化処理槽36中の被処理溶液のpHが10以上になるように添加することが好ましい。ホウ素とフッ素の除去はpHが10以上でないと十分に行えなかったり、固形化処理の効率が低下したりするといった不具合が発生する。そのため、固形化処理槽36にpHメータを設けて、pHが10未満になれば、追加でカルシウム化合物を添加することが好ましい。また、固形化処理槽36内では、被処理溶液の反応を促進させるために、攪拌機等を用いて、被処理溶液を攪拌することが好ましい。固形化処理部18で処理されたエッチング廃液は、固液分離部20に送られる。
【0030】
固液分離部20は、沈降槽40とフィルタープレス42を備えている。沈降槽40は、固形化処理槽36と接続されており、固形化処理部18で処理された溶液が供給され、固形化処理槽36で生成させた不溶性の反応物が沈降するように構成される。フィルタープレス42は、沈降槽40の底部と接続されており、沈降槽40の底部に沈殿した汚泥が供給されるように構成される。
【0031】
本実施形態では、沈降槽40では自然沈降によって不溶性の反応物を沈降させているが、凝集剤を添加して反応物の沈殿速度を増大させることも可能である。使用する凝集剤としては、大明化学工業株式会社製のタイポリマー等の凝集剤を用いることができる。また、凝集剤を添加する場合、沈降槽40だけに限定されず、固液分離部20の前段に凝集剤を添加するための処理槽を設けることも可能である。
【0032】
フィルタープレス42は、沈降槽40の底部から汚泥を引き込み、固液分離するように構成される。なお、本実施形態では、固液分離の手段としてフィルタープレスを用いているが、汚泥を固液分離できるものならば特に限定されず、スクリュープレスやローラープレス等の固液分離装置を用いることも可能である。フィルタープレス42で脱水された汚泥は、産業廃棄物として適切な処理するか、産廃処理業者に引き取ってもらうことが好ましい。フィルタープレス42から発生した濾液は、後述する中和処理部22でpH調整を行った後に排水される。
【0033】
固液分離部20で得られた溶液は中和処理部22に送られる。中和処理部22は、中和処理槽44と中和剤収容槽46を備えている。中和処理槽44は、沈降槽40およびフィルタープレス42と接続されており、沈降槽40の上澄液とフィルタープレス42の濾液を収容するように構成される。中和剤収容槽46は、中和処理槽44と接続され、中和処理槽44に収容されている溶液のpHを調整するためのpH調整薬液を収容するように構成される。
【0034】
沈降槽40とフィルタープレス42から被処理溶液が中和処理槽44に送られると、pH測定器を用いて中和処理槽44中の被処理溶液のpHを測定する。測定されたpHの値に基づいて、河川や下水に放流可能なようにpHの調整を行う。本発明では、固形化処理部18において、アルカリ性の排水になっているため、pH調整薬液として、塩酸や硝酸等の酸性薬品を用いることができる。pHの調整として、アルカリ性薬品が必要であれば、水酸化ナトリウム等を使用することができる。
【0035】
放流前に被処理溶液のホウ素濃度およびフッ素濃度を測定し、法定基準値以上の濃度が含有されている場合、被処理溶液をホウフッ化物分解槽28に返送する。もう一度、ホウフッ化物分化部18から処理を行い、ホウ素およびフッ素の濃度が放流可能な濃度以下になるまで処理を繰り返すことで、適法な排水処理を行うことが可能である。
【0036】
以下の実施例を用いて、硫酸イオンとホウ素の除去効果について説明する。ホウ素イオン濃度65ppmのガラスエッチング廃液1リットルに対して、10%PAC15ml、35%塩酸および濃硫酸を添加し、液温40℃で30分反応させてホウフッ化物分解を行った。塩酸は、エッチング廃液のpHが2以下になるように添加し、濃硫酸は、硫酸イオン濃度が0〜6000ppmになるように添加した。その後、pH10になるように10%消石灰を添加して固形化処理と固液分離処理を行い、エッチング廃液のホウ素イオン濃度と汚泥の発生量を調べた。図3は、上述の実験のホウフッ化分解工程における硫酸イオン濃度とエッチング廃液の最終的なホウ素イオン濃度と発生した汚泥のSS濃度の関係を示すグラフである。図3に示すように、硫酸イオン濃度が上昇していくにつれて、ホウ素イオン濃度も低下していき、硫酸イオン濃度が1000ppmを越えると顕著にホウ素の除去効果が確認できる。この程度であれば、他の工程から排出されるようなホウ素濃度の低い溶液等と希釈することによって、十分に排水基準を満たすことが可能である。硫酸イオン濃度が2000ppmを越えると、ホウ素イオン濃度が10ppm未満となり、希釈しなくとも放流可能な数値になる。一方、硫酸イオン濃度が3000ppmを超えても顕著なホウ素の除去効果は確認できない。
【0037】
また、硫酸イオン濃度については、3000ppmまでは硫酸イオン濃度を一定量増加させたときの汚泥のSS濃度の増加量が減少しており、上に凸の曲線状のグラフになっている。ところが、3000ppmを超えると硫酸イオン濃度を一定量増加させたときの汚泥のSS濃度の増加量が一定になり、直線上のグラフになっている。その理由は、硫酸イオン濃度が3000ppmに到達するまではエトリンガイトと硫酸カルシウムが生成されており、かつ、新たに生成されるエトリンガイトの量が逓減しているからであると考えられる。そして、3000ppmを超えるとエトリンガイトが生成されなくなるために、単純に、硫酸イオン濃度の添加量に正比例して硫酸カルシウムの量が増加し、グラフが直線状を呈するようになるものと考えられる。つまり、硫酸イオン濃度が3000ppmを超えて生成された汚泥は、ほぼ硫酸カルシウムであり、硫酸イオン濃度を高くしてもエトリンガイトの生成には寄与していないと考えられる。図4は、硫酸イオン濃度と硫酸カルシウムの発生量の関係を示すグラフである。硫酸イオン濃度が3000ppmを超えた領域での汚泥の増加量は、図4の硫酸カルシウムの汚泥の増加量とほぼ同じである。つまり、硫酸イオン濃度が3000ppmを超えたとしても、ホウ素の除去にはほとんど貢献しないと考えられる。
【0038】
本発明では、ホウフッ化物を分解するアルミニウム化合物としてPACを用いるので、低pHでのホウフッ化物の分解処理が難しくなるが、塩酸等の酸性物質を用いてpHを低下させている。また、排水中に塩化物イオンが含有されている場合でも、硫酸イオンの濃度が1000ppm〜3000ppmになるように硫酸化合物を添加することで、塩化物イオンの阻害反応を抑制することが可能になる。このような創意工夫により、ホウフッ化物含有排水に塩化物イオン等の排水処理に好ましくない物質が含まれている場合や被処理溶液のpHがホウフッ化物イオンの分解に適さない数値でもあっても、ホウフッ化物含有排水を適切に処理することが可能になる。
【0039】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
10‐排水処理システム
12‐廃液収容部
14‐フッ素除去部
16‐ホウフッ化物分解部
18‐固形化処理部
20‐固液分離部
22‐中和処理部
24‐フッ素除去槽
26‐フッ素除去剤収容槽
28‐ホウフッ化物分解槽
30‐PAC収容槽
32‐酸性物質収容槽
34‐硫酸化合物収容槽
36‐固形化処理槽
38‐カルシウム化合物収容槽
40‐沈降槽
42‐フィルタープレス
44‐中和処理槽
46‐中和剤収容槽
図1
図2
図3
図4