(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記中間領域における、前記遠用設定領域との境界と前記近用設定領域との境界の間の度数をsinの2乗曲線に基づいて設定したことを特徴とする累進屈折力レンズ群の設計方法。
請求項1,2の何れかにおいて、前記遠用設定領域との境界を跨ぐ前記中間領域上方から該遠用設定領域下方に亘る領域と、前記近用設定領域との境界を跨ぐ該中間領域下方から該近用設定領域上方に亘る領域とにスムージング処理を行うようになしたことを特徴とする累進屈折力レンズ群の設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、レンズの屈折率、加入度数、累進帯長が変化しても収差デザインの変化が少なく、レンズ交換時の違和感や不快感が生じ難い、累進屈折力レンズ
群の設計方
法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して請求項1は累進屈折力レンズ
群の設計方法に関するもので、
遠方視に対応する遠用部と、近方視に対応する近用部と、これら遠用部及び近用部の間に位置し屈折力が累進的に変化する累進部とを有し、レンズの屈折率、加入度数、累進帯長のうち少なくとも何れか1つが異なる複数の累進屈折力レンズから成るレンズ群に属するレンズを設計するに際し、
個別のレンズについては、
(a
)レンズ面を、該レンズ面に設定された遠用設計基準点からレンズ上方に形成された遠用設定領域と、該遠用設計基準点から累進帯長分だけ下方に位置する近用設計基準点からレンズ下方に形成された近用設定領域と、これら遠用設定領域と近用設定領域との間に位置する中間領域と、に分割し、(b)前記遠用設定領域では処方された遠用度数を全域に亘って設定し、(c)前記近用設定領域では、前記遠用設計基準点及び近用設計基準点を通って上下方向に延びる主子午線から左右方向一定距離以内に位置する中心部に、処方された近用度数を設定し、該中心部の左右方向外側に位置する外側部に、左右方向外側に向かうにつれて前記近用度数から前記遠用度数にまで漸次変化するように度数を設定し、(d)前記中間領域では、前記遠用設定領域との境界で該遠用設定領域と同じ度数を設定し、前記近用設定領域との境界で該近用設定領域と同じ度数を設定し、それら境界の間の領域では一方の境界の設定度数から他方の境界の設定度数へと連続的に変化するように度数を設定し、
累進屈折力を付与するレンズ面に設定した度数分布に基づいて、該レンズ面の各微小エリア毎に設定度数に対応する微小円弧を求め、これら微小円弧を接続することで該レンズ面の点群を求める
ようになし、
前記レンズ群に属する複数のレンズを設計するに際して、
前記遠用設定領域を区画する遠用境界線について各レンズ同じ傾きとし、前記近用設定領域を区画する近用境界線について各レンズ同じ傾きとし、更に、前記近用設定領域における前記中心部について各レンズ同じ幅として、前記個別のレンズを設計することを特徴とする。
【0008】
請求項2は、請求項1において、前記中間領域における、前記遠用設定領域との境界と前記近用設定領域との境界の間の度数をsinの2乗曲線に基づいて設定したことを特徴とする。
【0009】
請求項3は、請求項1,2の何れかにおいて、前記遠用設定領域との境界を跨ぐ前記中間領域上方から該遠用設定領域下方に亘る領域と、前記近用設定領域との境界を跨ぐ該中間領域下方から該近用設定領域上方に亘る領域とにスムージング処理を行うようになしたことを特徴とする。ここでスムージング処理とは、境界部分での点群の平滑化を図るため、所定のアルゴリズムを使用して、境界部分の点群の座標値を修正するものである。
【0011】
累進屈折力レンズにおいて問題となる遠用部及び近用部の広さや、レンズの側方部分での像の歪みや揺れは、レンズの非点収差の分布に依存する。
本発明では予め累進屈折力を付与するレンズ面に、遠用設定領域と近用設定領域と中間領域とを設定し、遠用設定領域の全域に亘って処方された遠用度数を設定し、また近用設定領域の中心部に処方された近用度数を設定する。このように一定度数を設定し、度数が変化しない領域では非点収差を小さく抑えることができる。このため遠用設定領域には遠方の物体を視認できる遠用部が、近用設定領域の中心部には近方の物体を視認できる近用部が形成される。
【0012】
このため本発明によれば、屈折率や加入度数が異なる累進屈折力レンズであっても、遠用設定領域、及び近用設定領域の中心部の位置にそれぞれ一定の度数を設定することで、遠用部及び近用部をほぼ同じ位置・大きさに形成することができる。
一方、累進帯長が変化した場合、累進帯の長さに応じて遠用部と近用部の位置関係は変化するが、遠用部の広がり形状や近用部の幅はほぼ同じものとすることができる。
【0013】
累進屈折力レンズでは、レンズの側方部分に像の歪みや揺れが生じる非点収差の大きい領域が生じる。本発明ではこのような非点収差の大きい領域を、中間領域、及び近用設定領域の外側部にて規定する。このため本発明では屈折率等が異なる累進屈折力レンズであっても、中間領域、及び近用設定領域の外側部を同じ位置・大きさに設定することで、非点収差の大きい領域をほぼ同じに規定することができる。
【0014】
また本発明は、近用設定領域の外側部では左右方向外側に向かうにつれて近用度数から遠用度数にまで漸次変化するように度数を設定し、中間領域では遠用設定領域との境界で遠用設定領域と同じ度数を設定し、近用設定領域との境界で近用設定領域と同じ度数を設定し、それら境界の間の領域では一方の境界の設定度数から他方の境界の設定度数へと連続的に変化するように度数を設定しており、屈折率等が異なる累進屈折力レンズであっても、非点収差の大きいレンズ側方部分における非点収差の等高線の配置を近似したものとすることができる。
特に中間領域での度数はsinの2乗曲線に基づいて連続的に変化させるのが望ましい(請求項2)。
即ち本発明によれば、屈折率、加入度数、累進帯長の何れかが異なる累進屈折力レンズであっても統一された収差デザインに設計することができるので、レンズ交換時の違和感や不快感を生じ難くすることができる。
【0015】
本発明では、微小円弧で接続した際に境界の部分で急激な変化等が生じる場合があるため、遠用設定領域との境界を跨ぐ中間領域上方から遠用設定領域下方に亘る領域と、近用設定領域との境界を跨ぐ中間領域下方から近用設定領域上方に亘る領域とにスムージング処理を行うのが望ましい(請求項3)。
【0016】
本発明は、レンズの屈折率、加入度数、累進帯長のうち少なくとも何れか1つが異なる複数の累進屈折力レンズから成るレンズ群
の設計方法に関するものである。
こ
のレンズ群は、加入度の大きさに比例したステップ幅で描かれた非点収差等高線図を重ね合せて、非点収差等高線図の最小の等高線に基づいて規定された低収差領域幅を比較した際、フィッティングポイント、近用測定ポイント、及びこれらフィッティングポイントと近用測定ポイントとの間における各レンズ間での低収差領域幅の差異が6.0mm以内のレンズで構成
することができる。このような累進屈折力レンズ群の中でレンズ交換を行なえば、交換前後で収差デザインの変化が少なく、レンズ交換時の違和感や不快感が生じ難い。
更にフィッティングポイント、近用測定ポイント、及びこれらフィッティングポイントと近用測定ポイントとの間における各レンズ間での低収差領域幅の差異を3.0mm以内とし、各レンズ間での低収差領域幅の差異を小さくすればより望ましい。
このような累進屈折力レンズ群を構成する各レンズは、
本発明の設計方法によって設計することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上のような本発明によれば、レンズの屈折率、加入度数、累進帯長が変化しても収差デザインの変化が少なくレンズ交換時の違和感や不快感が生じ難い、累進屈折力レンズ
群の設計方
法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を以下に説明する。
図1は、本実施形態の設計方法が適用された累進屈折力レンズを模式的に示した図である。
10は累進屈折力レンズ(以下単にレンズとする場合がある)で、レンズ10の前面は球面で構成され、レンズ10の後面に累進屈折面が形成されている。
レンズ10の後面には、上方に位置する遠方視に対応する遠用部12と、下方に位置する近方視に対応する近用部14と、遠用部12と近用部14の間に位置し屈折力が累進的に変化する累進部16とが設けられている。
【0020】
18は累進部16の両側に位置する側方部である。累進屈折力レンズ10では遠用部12と近用部14とで度数が異なるため、側方部18では遠用部12、近用部14及び累進部16に比べて大きな非点収差が発生する。
【0021】
同図において、E
0は遠用部12の下端に位置する遠用設計基準点、またK
0は近用部14の上端に位置する近用設計基準点である。遠用設計基準点E
0から近用設計基準点K
0にかけては度数が連続的に変化しており、この間の領域が累進部16に相当する。
尚、遠用設計基準点E
0と近用設計基準点K
0との上下方向の距離Lが累進帯長である。
【0022】
Sはレンズ10の中心部を上下方向(垂直方向)に延びる主子午線で、上下方向に移動する視線はこの主子午線S上を主に通過する。本例では輻輳を考慮して近用設計基準点K
0がレンズ10の中心軸よりも鼻側寄り(図中左側)に設けられており、主子午線Sは遠用設計基準点E
0から近用設計基準点K
0の間で傾斜している。
【0023】
次にレンズ10における累進屈折面の設計方法を
図2〜
図7を用いて説明する。
ここで
図2〜
図4、
図7はレンズ10の後面を正面視にて示したものである。これらの図においてレンズ10の左右方向をX軸(但し、図中右方向を正方向)、上下方向をY軸(但し、上方向を正方向)とする。
レンズ10を設計するための情報として、屈折率、加入度数、累進帯長の他、レンズ前面側のベースカーブ、遠用度数、レンズ径が必要となる。
本例においては、処方された遠用度数に応じてレンズ前面のベースカーブを設定し、このベースカーブを有するセミフィニッシュレンズに対して、レンズ後面、即ち累進屈折面の設計を行なうものとする。
【0024】
(ステップ1)
図2(I)で示すように先ず主子午線Sの形状を決定する。
本例では遠用設計基準点E
0をレンズ10の幾何学中心に設定する。次に近用設計基準点K
0を遠用設計基準点E
0よりも累進帯長Lだけ下方で且つレンズ10の中心軸よりも内寄せ量H(この例では2.5mm)だけ鼻側寄りに設定する。
次に上記遠用設計基準点E
0及び近用設計基準点K
0上を通過するように、主子午線Sを設定する。主子午線Sは遠用設計基準点E
0より上方、及び近用設計基準点K
0より下方において上下方向に延び、遠用設計基準点E
0と近用設計基準点K
0との間で傾斜する。
【0025】
(ステップ2)
次に同図(II)で示すように、遠用設計基準点E
0からそれぞれレンズ縁部に向かって角度αで斜め上方に延びる左右一対の遠用境界線E
1,E
2を設定する。この左右一対の遠用境界線E
1、E
2により区画された領域を遠用設定領域20とする。
この遠用設定領域20の中に
図1で示した遠方視のための遠用部12が形成される。
これら遠用境界線E
1,E
2は、角度αを小さくすれば、遠用設定領域20が拡大して遠方視のための視野が広くなる。しかしながら遠用設定領域20と後述する近用設定領域22との間隔が小さくなるため、後述する中間領域24に発生する収差が増大し、ゆれ・歪みの原因となる。遠用境界線E
1,E
2の傾き(角度α)は光線追跡によるシミュレーション等により適宜決定することができる。尚、本例では遠用境界線E
1,E
2を直線としているが曲線形状とすることも可能である。
【0026】
(ステップ3)
次に
図3(III)で示すように、近用設計基準点K
0からレンズ縁部に向かって斜め下方に延びる左右一対の近用境界線K
1、K
2を設定する。
詳しくは部分拡大図で示すように近用設計基準点K
0から水平方向に近用幅Q(この例では3mm)だけ離間させた後、角度βで斜め下方に延びるように設定する。
この左右一対の近用境界線K
1、K
2により区画された領域を近用設定領域22とする。
そして遠用設定領域20と近用設定領域22の間に位置する領域を中間領域24とする。
【0027】
(ステップ4)
以降のステップ4〜6では上記ステップ2,3で設定した各領域に度数を設定する。同図(IV)で示すように、左右一対の遠用境界線E
1,E
2により区画された遠用設定領域20にはその全域に亘って処方された遠用度数を設定する。
【0028】
(ステップ5)
次に
図4(V)で示すように、左右一対の近用境界線K
1,K
2により区画された近用設定領域22内の度数を設定する。
本例では近用設計基準点K
0から下方に延びる主子午線Sから水平方向に近用幅Q(この例では3mm)以内を近用中心部26とし、近用中心部26にはその全域に亘って処方された近用度数を設定する。ここで近用度数とは、遠用度数に対し加入度数を加えたものである。
【0029】
一方、近用設定領域22のうち近用中心部26よりも左右方向外側の近用外側部28には、近用中心部26から左右方向外側に向かうにつれて、近用度数から遠用度数へ漸次変化するように度数を設定する。
詳しくは
図4(V)で示すように、遠用度数を0ディオプタ(以降”D”とする場合がある)、加入度数を2.0D、近用度数を2.0Dとした場合、本例では主子午線Sから6mm離れた位置では近用度数2.0Dに対し加入度数の半分を減じた度数1.0Dを設定し、更に主子午線Sから9mm以上離れた領域では遠用度数の同じ値0Dを設定する。但し、左右方向外側の移動量と設定する度数との関係はこの例に限定されるものではない。
【0030】
(ステップ6)
遠用設定領域20と近用設定領域22との間に位置する中間領域24では、遠用境界線E
1,E
2にて遠用設定領域20と同じ度数となるよう、また近用境界線K
1,K
2にて近用設定領域22と同じ度数となるよう設定する。これら境界線の間に位置する部分では上下方向にsinの2乗曲線(sin
2θ)に基づいて度数を変化させる。例えば遠用境界線E
1,E
2上の度数が0Dで、近用境界線K
1,K
2上の度数が2.0Dで、境界間での度数差が2.0Dである場合、
図5で示すように遠用境界線E
1,E
2上の位置が角度θ=0°、近用境界線K
1,K
2上の位置が角度θ=90°に相当すると考えると、sinθの2乗の値は0.0〜1.0の間で変化する。これら境界線の間の領域では、遠用境界線E
1,E
2からの距離に応じた角度θに対するsinθの2乗の値に、度数差2.0Dを乗じた値だけ遠用境界線E
1,E
2上の度数よりも大きな度数を設定する。このようにすることで
図5に示すように中間領域24の設定度数を上下方向に滑らかに変化させることができる。
以上のステップを経ることによりレンズ全体の度数分布を設定することができる。
尚、本例ではsin曲線の変化を用いて中間領域24の度数を設定したが、場合によっては、直線の変化や、sin曲線と直線をある比率で合成した変化を用いることも可能である。また放物線や三次曲線の変化を用いることも可能である。
【0031】
(ステップ7)
次にレンズ10の後面全体を細かな微小エリアに分割して、その微小エリア毎に上記設定度数を得るために必要な微小円弧を求める。微小円弧の曲率半径R(単位:mm)は下記式(1)に基づいてレンズ素材の屈折率n及び面屈折力(単位:D)から算出される。尚、面屈折力は上記ステップで設定した設定度数とレンズ前面のベースカーブの値に基づいて算出される。
曲率半径R=(n―1)×1000/面屈折力・・・式(1)
【0032】
そして得られた微小円弧を上下方向及び左右方向に0.1mm間隔で接続する。具体的には先ず主子午線Sに沿って上下方向に微小円弧を接続する。
図6はその状態を模式的に示した図である。
遠用設計基準点E
0より上方では遠用度数より算出された曲率半径R
0の円弧が連続的に接続されている。また近用設計基準点K
0より下方では近用度数より算出された曲率半径Rmの円弧が連続的に接続されている。遠用設計基準点E
0から近用設計基準点K
0に至る部分では曲率半径をR
1,R
2,R
3・・・と変化させながら微小円弧が連続的に接続され縦方向(上下方向)の面形状が生成される。
次に図示は省略するが主子午線Sから左右方向に0.1mm間隔で算出した微小円弧を接続しレンズ10の後面の横方向(左右方向)の面形状が生成される。
その後2.0mmピッチの格子上の点について座標(X、Y、Z)を算出してレンズ後面の点群を得る。
【0033】
(ステップ8)
上記ステップにて水平方向へ微小円弧を繋いだ際、境界線の部分では急激な変化等が生じる場合があるため、
図7で示すように、遠用設定領域20と中間領域24との境界部分、更に中間領域24と近用設定領域22との境界部分の点群に対してスムージンング処理を行う。
ここで本例におけるスムージング処理とは、境界部分での点群の平滑化を図るため、所定のアルゴリズムを使用して、境界部分の点群の座標値を修正するものである。
具体的には先ず同図(A)で示すように遠用設計基準点E
0(幾何学中心)からY軸方向に+10〜−5mm、X軸方向に−10mm以下及び+10mm以上の領域、近用設計基準点K
0からY軸方向に+2〜−18mm、X軸方向に−14mm以下及び+14mm以上の領域、について上下方向の三次でラグランジェ補間を行なう。
次に同図(B)で示すように遠用設計基準点E
0からY軸方向に+5〜−5mm、X軸方向に−5〜−12mm及び+5〜+12mmの領域、近用設計基準点K
0からY軸方向に+2〜−18mm、X軸方向に−9〜−14mm及び+9〜+14mmの領域、について左右方向の三次でラグランジェ補間を行なう。但しスムージング処理を行う領域や使用するアルゴリズムは上記のものに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0034】
(ステップ9)
ステップ8で得られた2mmピッチの各格子上の点の座標(X、Y、Z)から4つの格子点で囲まれた領域を双三次式で定義することで、レンズ後面(累進屈折面)全体の面形状を得る。
以上の手順に基づいて得られたレンズ後面の面形状をフリーフォーム加工データとしてレンズ10の後面を切削加工し、累進屈折力レンズが作製される。
【0035】
次に本実施形態の設計方法を用いて設計された累進屈折力レンズにおける非点収差の分布を以下に示す。各レンズはレンズ幾何学中心よりも4mm上方をフィッティングポイントF(装用者の眼の瞳孔位置と一致するポイント)とするもので、かかるフィッティングポイントに遠用設計基準点E
0が位置するようにレンズ外形が加工されている。
但し、フィッティングポイントFの位置はこれに限定されるものではなく適宜変更可能である。
【0036】
最初に示す例は、本実施形態の設計方法を用いてレンズの屈折率が異なる3つのレンズ30,32,34を設計し、その非点収差の分布を比較した例である。
具体的なレンズデータは以下の通りである。尚、上記設計方法の中で用いる近用幅Q、各境界線の傾きα、β等は各レンズで同じ値を使用している。
レンズ30 レンズ32 レンズ34
遠用度数(D) 0.00 0.00 0.00
屈折率n 1.60 1.67 1.74
加入度数(D) 1.50 1.50 1.50
累進帯長(mm) 12.0 12.0 12.0
内寄せ量H(mm) 2.5 2.5 2.5
レンズ外径(mm) Φ50 Φ50 Φ50
【0037】
図8はレンズ30,32,34についての非点収差等高線図で、収差量0.5Dのステップ幅での等高線で表している。同図において白地部分は非点収差等高線図の最小の等高線(収差量0.5D)に基づいて規定された低収差領域である。同図で示すように屈折率がそれぞれ異なる各レンズ30,32,34であるが、屈折率の値の如何に拘らず各等高線はほぼ同じ位置に描かれている。
尚、図中点線で示されているのは5mmピッチの格子で、以降の
図9〜
図13においても同様である。
【0038】
これらレンズ30,32,34についての非点収差等高線図を重ね合わせると
図9で示すように各等高線はほぼ同じ位置で重なっている。
レンズ上方における遠用部の広がりを示すフィッティングポイントFにおける低収差領域幅W
1は各レンズ30,32,34何れも8.5mmで同じである。
またフィッティングポイントFよりも下方に位置する累進部及び近用部における低収差領域幅をみると、その絶対値は場所により異なるが、各レンズ間での幅のばらつき(差異)はほとんど生じていない。
尚同図において、W
2は近用測定ポイントMにおける低収差領域幅を示している。ここで近用測定ポイントMは、各製造業者により指定された近用度数を測定するためのポイントである。本例では近用設計基準点K
0よりも3mm下方に近用測定ポイントMを設定している。
この
図9の例では、図中矢印で例示した近用測定ポイントMにおける低収差領域幅W
2は各レンズ30,32,34何れも8.3mmである。
【0039】
このように本例の設計方法によって設計されてレンズ同士であれば、屈折率の異なるレンズであっても遠用部から近用部にかけての低収差領域幅や側方領域における収差の分布に変化はない。即ち処方度数が変化して屈折率の異なる別レンズに掛け換えるような場合であっても、レンズ交換時の違和感や不快感は生じ難い。
【0040】
次は本実施形態の設計方法を用いて加入度数が異なる3つのレンズ40,32,44を設計し、その非点収差の分布を比較した例である。
具体的なレンズデータは以下の通りである。
レンズ40 レンズ32 レンズ44
遠用度数(D) 0.00 0.00 0.00
屈折率n 1.67 1.67 1.67
加入度数(D) 0.75 1.50 3.00
累進帯長(mm) 12.0 12.0 12.0
内寄せ量H(mm) 2.5 2.5 2.5
レンズ外径(mm) Φ50 Φ50 Φ50
【0041】
図10はレンズ40,32,44についての非点収差等高線図を示したものである。処方される加入度数が大きくなると非点収差も大きくなるため、同図では、等高線を描くためのステップ幅を、加入度数の大きさに比例して設定し、非点収差の分布を表示している。具体的には加入度数0.75Dのレンズ40についてはステップ幅を0.25Dとし、加入度数1.50Dのレンズ32についてはステップ幅を0.50Dとし、加入度数3.00Dのレンズ44についてはステップ幅を1.00Dとしている。同図において白地部分は、各非点収差等高線図の最小の等高線に基づいて規定された低収差領域である。
【0042】
また
図11は、これらレンズ40,32,44についての各非点収差等高線図を重ね合わせたものである。同図で示すように、各レンズの非点収差等高線図において低収差領域を規定する最小の等高線の形状はほぼ同一である。フィッティングポイントFにおける低収差領域幅W
1は約8.5mmで各レンズ40,32,44間での差異は約0.5mmに収まっている。また近用測定ポイントMにおける低収差領域幅W
2は約8.3mmで各レンズ40,32,44間での差異は約0.5mmに収まっている。図示したW
2以外の累進部及び近用部における低収差領域幅の差異も各レンズ40,32,44間で約1mmに収まっている。
またレンズの側方部に表れている等高線の配置は各レンズで同様の傾向が認められる。
このように本実施形態の設計方法によれば、加入度数の異なるレンズであっても遠用部から近用部にかけての低収差領域の形状はほぼ同じであり、側方部における収差の分布の差異も小さいため、加入度数の変更を伴うレンズ交換を行なった場合であっても、レンズの収差デザインの違いによる違和感・不快感を抑制することができる。
【0043】
次は本実施形態の設計方法に基づいて累進帯長が異なる3つのレンズ50,52,54を設計し、その非点収差の分布を比較した例である。
具体的なレンズデータは以下の通りである。
レンズ50 レンズ52 レンズ54
遠用度数(D) 0.00 0.00 0.00
屈折率n 1.67 1.67 1.67
加入度数(D) 2.00 2.00 2.00
累進帯長(mm) 10.0 12.0 14.0
内寄せ量H(mm) 2.5 2.5 2.5
レンズ外径(mm) Φ50 Φ50 Φ50
【0044】
図12はレンズ50,52,54についての非点収差等高線図を示したものである。同図において白地部分は非点収差等高線図の最小の等高線(収差量0.5D)に基づいて規定された低収差領域である。
同図で示すように累進帯長の値が大きくなるに従って、近用部の位置が図中下方に移動するとともにレンズ側方に表れている等高線の間隔が上下方向に広がっている。
【0045】
図13はこれらレンズ50,52,54についての非点収差等高線図を重ね合わせたものである。同図(A)において、フィッティングポイントFにおける低収差領域幅W
1はレンズ50が5.4mm,レンズ52が6.1mm,レンズ54が7.2mmでその差異は各レンズの間で約2mm程に収まっている。
また同図(B)で示すように各レンズの累進帯長の差分だけ各非点収差等高線図を上下方向に偏心させて重ね合せてみると、近用測定ポイントMにおける低収差領域幅W
2はレンズ50が6.5mm,レンズ52が7.1mm,レンズ54が7.2mmでその差異は各レンズの間で約0.7mmに収まっている。図示したW
2以外の累進部及び近用部における最も差異が大きい箇所でも、低収差領域幅の各レンズの間での差異は約1.5mmに収まっている。またレンズの側方部における収差量に大きな差異はない。
従って、本例のレンズであれば累進帯長の変更を伴う眼鏡の掛け替えを行なった場合であっても、レンズの収差デザインの違いによる違和感・不快感を抑制することができる。
【0046】
本実施形態の設計方法によって設計された上記レンズについては、加入度数の大きさに比例したステップ幅で描かれた非点収差等高線図を重ね合せ、非点収差等高線図の最小の等高線に基づいて規定された低収差領域幅を比較した際、フィッティングポイントF、近用測定ポイントM、及びこれらフィッティングポイントFと近用測定ポイントMとの間における各レンズ間での低収差領域幅の差異が6.0mm以内となっており、例えばレンズ30,32,34で構成した累進屈折力レンズ群の中でレンズ交換を行なえば、交換前後で収差デザインの変化が少なく、レンズ交換時の違和感や不快感を抑制することができる。
【0047】
尚、上記実施例は遠用度数0Dのレンズを設計した例であるが、遠用度数がある場合はベースカーブから算出した面屈折力の座標を設計面であるレンズ後面に付加することが可能である。また乱視度数が処方された場合は、ベースカーブから算出したS度数とC度数の面屈折力(トーリック面)の座標を設計面であるレンズ後面に付加することが可能である等、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。