【文献】
Journal of the institute of Brewing,1996年,Vol.102,pp.327-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
洗浄された発芽していない前記大麦を使用して調製される前記原料液のフェルラ酸含有量が、洗浄されておらず発芽していない前記大麦を使用して調製される前記原料液のフェルラ酸含有量の85重量%以下となるように、前記大麦を発芽させることなく洗浄する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の発泡性飲料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0014】
本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)は、例えば、原料液を使用して飲料を製造する方法であって、大麦を発芽させることなく洗浄すること、当該大麦の洗浄後に洗浄液を捨てること、及び洗浄された発芽していない当該大麦を含む原料を使用して当該原料液を調製することを含む。
【0015】
すなわち、本方法においては、大麦を含む原料を使用して原料液を調製し、当該原料液を使用して飲料を製造するにあたり、当該大麦を発芽させることなく予め洗浄し、その後、洗浄液を捨てるとともに、洗浄後の当該大麦を当該原料液の調製に使用する。
【0016】
洗浄する大麦は、発芽していない大麦(例えば、芽及び根が出ていない大麦)であれば特に限られない。すなわち、大麦の種類は、特に限られず、任意の1種を使用することとしてもよく、任意の2種以上を組み合わせて使用することとしてもよい。
【0017】
また、大麦は、穀皮が除去されていない大麦であることとしてもよく、穀皮の少なくとも一部が除去された大麦であることとしてもよい。穀皮が除去されていない大麦を使用する場合には、例えば、穀皮の少なくとも一部が除去されている大麦を使用する場合に比べて、原料液のろ過を効率よく行うことができる。また、穀皮が除去されていない大麦を使用する場合には、例えば、穀皮の少なくとも一部が除去されている大麦を使用する場合に比べて、洗浄によるエキスの損失を効果的に防止することができる。
【0018】
大麦を洗浄する条件は、当該大麦を発芽させることなく、当該大麦に由来する好ましくない香味成分の飲料への移行を低減できる範囲であれば特に限られない。すなわち、大麦を発芽させることなく洗浄する条件は、当該大麦の芽及び根が出ない範囲であれば特に限られない。なお、例えば、大麦を40℃未満の温度で洗浄する場合には、当該大麦の水分含量(いわゆる浸麦度)が30重量%未満である範囲で当該大麦を洗浄することが好ましい。また、例えば、大麦を40℃以上の温度で洗浄する場合には、当該大麦の水分含量が70重量%以下である範囲で当該大麦を洗浄することが好ましい。
【0019】
大麦の洗浄に使用する洗浄液は、例えば、水を含む溶媒であることとしてもよい。水を含む溶媒は、特に限られないが、水であることとしてもよく、水と他の溶媒との混合液であることとしてもよい。なお、水を含む溶媒は、例えば、70体積%以上の水を含むこととしてもよく、80体積%以上の水を含むこととしてもよく、90体積%以上の水を含むこととしてもよい。
【0020】
大麦の洗浄は、例えば、当該大麦を洗浄液に浸漬することにより行う。すなわち、大麦を洗浄液に浸漬することにより、当該大麦から好ましくない香味成分を当該洗浄液中に効果的に溶出させることができる。
【0021】
そして、大麦の洗浄後には、当該洗浄に使用した洗浄液を捨てる。すなわち、本方法においては、捨てた洗浄液を使用することなく、当該洗浄液と分離された大麦を使用して原料液を調製する。
【0022】
具体的に、例えば、容器内において大麦を洗浄液に浸漬し、次いで、当該容器内に当該大麦を残したまま当該容器から当該洗浄液を排出し、その後、当該洗浄液と分離された当該大麦を使用して原料液を調製する。また、例えば、容器内において大麦を洗浄液に浸漬し、次いで、当該大麦を当該洗浄液から取り出し、その後、当該洗浄液と分離された当該大麦を使用して原料液を調製する。
【0023】
なお、大麦の洗浄後に捨てる洗浄液の量は、当該大麦に由来する好ましくない香味成分が飲料に移行することを効果的に低減できる範囲であれば特に限られない。すなわち、例えば、大麦の洗浄後であって洗浄液を捨てる前における当該洗浄液の量の70体積%以上を捨てることとしてもよく、80体積%以上を捨てることとしてもよく、90体積%以上を捨てることとしてもよい。
【0024】
大麦を洗浄する温度は、当該大麦の洗浄による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、当該大麦を40℃未満の温度で洗浄することとしてもよい。すなわち、例えば、大麦を40℃未満の温度で洗浄液に浸漬することにより、当該大麦を洗浄する。
【0025】
大麦を40℃未満の温度で洗浄する場合、洗浄温度は、40℃未満であれば特に限られないが、例えば、30℃以下であることとしてもよく、20℃以下であることとしてもよい。大麦を40℃未満の温度で洗浄する場合、洗浄温度の下限値は、当該大麦の洗浄による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、当該洗浄温度は、例えば、5℃以上であることとしてもよい。
【0026】
洗浄温度を40℃未満とすることにより、例えば、洗浄による大麦のエキスの損失を効果的に防止することができる。
【0027】
洗浄温度が40℃未満である場合、大麦を洗浄する時間(例えば、当該大麦を、上述した40℃未満の温度で、洗浄液に浸漬する時間)は、当該大麦の洗浄による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、15分以上、360分以下であることとしてもよく、30分超、300分以下であることとしてもよく、60分以上、240分以下であることとしてもよい。
【0028】
また、本方法においては、大麦を40℃以上の温度で洗浄することとしてもよい。すなわち、例えば、大麦を40℃以上の温度で洗浄液に浸漬することにより、当該大麦を洗浄する。
【0029】
大麦を40℃以上の温度で洗浄する場合、洗浄温度は、40℃以上であれば特に限られないが、例えば、50℃以上であることとしてもよく、60℃以上であることとしてもよい。大麦を40℃以上の温度で洗浄する場合、洗浄温度の上限値は、当該大麦の洗浄による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、当該洗浄温度は、例えば、80℃以下であることとしてもよい。
【0030】
洗浄温度を40℃以上とすることにより、例えば、大麦の洗浄を効率よく行うことができる。また、洗浄温度を40℃以上とすることにより、例えば、大麦を効率よく柔らかくし、当該大麦を粉砕しやすくすることができる。また、洗浄温度を40℃以上とすることにより、例えば、洗浄による大麦の発芽を効果的に防止することができる。
【0031】
洗浄温度が40℃以上である場合、大麦を洗浄する時間(例えば、当該大麦を、上述した40℃以上の温度で、洗浄液に浸漬する時間)は、当該大麦の洗浄による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、15分以上、360分以下であることとしてもよく、30分超、300分以下であることとしてもよく、60分以上、240分以下であることとしてもよい。
【0032】
本方法においては、洗浄された発芽していない大麦を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量(より具体的には、洗浄された発芽していない大麦100重量%を含む原料を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量)が、洗浄されておらず発芽していない当該大麦を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量(より具体的には、洗浄されておらず発芽していない大麦100重量%を含む原料を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量)の85重量%以下となるように、好ましくは80重量%以下となるように、当該大麦を発芽させることなく洗浄することとしてもよい。
【0033】
また、この大麦の洗浄は、例えば、洗浄された当該大麦を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量が、洗浄されていない当該大麦を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量の70重量%以下となるように行うこととしてもよく、60重量%以下となるように行うこととしてもよく、50重量%以下となるように行うこととしてもよく、40重量%以下となるように行うこととしてもよく、30重量%以下となるように行うこととしてもよい。
【0034】
さらに、例えば、洗浄された大麦を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量が、洗浄されていない当該大麦を使用して調製される原料液のフェルラ酸含有量の70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、又は30重量%以下となるように、特に、50重量%以下、40重量%以下、又は30重量%以下となるように、当該大麦を40℃以上の温度で洗浄することとしてもよい。これらの場合、大麦を洗浄する温度は、例えば、50℃以上であることとしてもよく、60℃以上であることとしてもよい。
【0035】
なお、大麦に由来するフェルラ酸は、飲料に含まれる好ましくない香味成分の一つである4−ビニルグアイアコール(4−VG)の前駆物質である。すなわち、原料液及び飲料においては、フェルラ酸の化学反応によって、4−VGが生成され得る。したがって、上述のように大麦の洗浄によってフェルラ酸含有量を低減することにより、飲料の香味が効果的に向上する。
【0036】
本方法においては、粉砕していない大麦を洗浄し、洗浄された当該大麦を粉砕し、粉砕された当該大麦を含む原料を使用して原料液を調製することとしてもよい。すなわち、この場合、粉砕していない大麦を発芽させることなく洗浄し、当該大麦の洗浄後に洗浄液を捨てるとともに、洗浄された当該大麦を粉砕し、粉砕された洗浄後の発芽していない当該大麦を使用して原料液を調製する。
【0037】
粉砕していない大麦を洗浄する場合には、粉砕された大麦を洗浄する場合に比べて、当該大麦のエキスの損失を効果的に防止することができる。また、洗浄により大麦を柔らかくすることができるため、洗浄後の大麦を粉砕する場合には、洗浄されていない大麦を粉砕する場合に比べて、大麦の粉砕を効率よく行うことができる。この点、例えば、大麦を50℃以上の温度(より好ましくは60℃以上の温度)で洗浄することにより、当該大麦を効率よく柔らかくすることができる。
【0038】
また、本方法は、洗浄された大麦を乾燥させることをさらに含み、乾燥後の当該大麦を含む原料を使用して原料液を調製することとしてもよい。すなわち、この場合、大麦を発芽させることなく洗浄し、当該大麦の洗浄後に洗浄液を捨てるとともに、洗浄された発芽していない当該大麦を乾燥させ、乾燥後の当該大麦を使用して原料液を調製する。なお、この場合、洗浄後の粉砕された大麦を乾燥させることとしてもよいし、洗浄後の粉砕されていない大麦を乾燥させることとしてもよい。
【0039】
洗浄された大麦を、原料液の調製に使用する前に乾燥させることにより、当該大麦が発芽することを効果的に防止することができる。また、洗浄された大麦を乾燥させることにより、洗浄後の当該大麦の保存や輸送を簡便に行うことができる。
【0040】
また、本方法においては、洗浄された大麦を乾燥させることなく、原料液の調製に使用することとしてもよい。すなわち、この場合、洗浄された発芽していない大麦を、湿ったまま原料液の調製に使用する。
【0041】
そして、本方法においては、上述のように予め洗浄された大麦を含む原料を使用して、原料液を調製する。具体的に、例えば、大麦を含む原料と水(好ましくは湯)とを混合し、当該大麦に含まれる成分を抽出することにより原料液を調製する。
【0042】
原料における大麦の使用量は、特に限られないが、当該原料は、例えば、1〜100重量%の大麦を含むこととしてもよく、10〜80重量%の大麦を含むこととしてもよい。
【0043】
大麦を含む原料は、他の植物原料を含むこととしてもよい。他の植物原料は、飲料の製造に使用され得るものであれば特に限られないが、例えば、発芽していない穀類(例えば、小麦、米類及びとうもろこしからなる群より選択される1種以上)、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上、及び/又は発芽した穀類(例えば、大麦、小麦、米類及びとうもろこしからなる群より選択される1種以上)、豆類及びいも類からなる群より選択される1種以上を含むこととしてもよい。
【0044】
具体的に、例えば、大麦及び麦芽を含む原料を使用して原料液を調製することとしてもよい。麦芽としては、大麦麦芽及び/又は小麦麦芽が好ましく使用される。大麦麦芽及び小麦麦芽は、それぞれ大麦及び小麦を発芽させることにより得られる。
【0045】
大麦及び麦芽を含む原料は、大麦及び麦芽エキスを含む原料であることとしてもよい。麦芽エキスは、麦芽から、糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる麦芽抽出物である。麦芽エキスとしては、市販の麦芽エキスを使用することとしてもよい。
【0046】
原料が麦芽を含む場合、当該原料における当該麦芽の使用量は、特に限られないが、当該原料は、例えば、0〜99重量%の麦芽を含むこととしてもよく、20〜90重量%の麦芽を含むこととしてもよい。
【0047】
すなわち、原料は、例えば、1〜100重量%の大麦と、0〜99重量%の麦芽とを含むこととしてもよく、10〜80重量%の大麦と、20〜90重量%の麦芽とを含むこととしてもよい。
【0048】
大麦及び麦芽を含む原料を使用する場合、原料液は、糖化を行うことにより調製されることとしてもよい。この場合、原料液は、大麦及び麦芽と水(好ましくは湯)とを混合し、得られた混合液の糖化を行うことにより調製される。糖化は、例えば、大麦及び麦芽と水とを含む混合液を、当該麦芽に含まれる消化酵素(例えば、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素)が働く温度(例えば、30〜80℃)に維持することにより行う。
【0049】
また、例えば、大麦及びホップを含む原料を使用して原料液を調製することとしてもよい。この場合、例えば、大麦、麦芽及びホップを含む原料を使用して原料液を調製することとしてもよい。
【0050】
大麦及びホップを含む原料を使用する場合、原料液は、当該ホップが添加された状態で煮沸することにより調製されることとしてもよい。また、大麦、麦芽及びホップを含む原料を使用する場合、原料液は、糖化を行い、さらに当該ホップが添加された状態で煮沸することにより調製されることとしてもよい。具体的に、原料液は、大麦及び麦芽と水(好ましくは湯)とを混合し、得られた混合液の糖化を行い、糖化後の混合液にホップを添加し、煮沸することにより調製されることとしてもよい。
【0051】
そして、本方法においては、上述のようにして調製された原料液を使用して、飲料を製造する。すなわち、本実施形態に係る飲料(以下、「本飲料」という。)は、上述した本方法により製造される。
【0052】
本飲料は、例えば、アルコール飲料であることとしてもよい。アルコール飲料は、エタノールの含有量が1体積%以上(アルコール分1度以上)の飲料である。アルコール飲料のエタノール含有量は、1体積%以上であれば特に限られないが、例えば、1〜20体積%であることとしてもよい。
【0053】
本方法においてアルコール飲料を製造する場合、本方法は、上述のようにして調製した原料液に酵母を添加してアルコール発酵を行うことをさらに含むことしてもよい。アルコール発酵は、例えば、原料液に酵母(例えば、ビール酵母を添加して所定の温度(例えば、0〜40℃)で所定の時間(例えば、1〜14日)維持することにより行う。発酵開始時の発酵液における酵母の密度は特に限られず、例えば、1×10
6個/mL〜3×10
9個/mLであることとしてもよい。
【0054】
また、本方法においては、アルコール発酵に続いて、熟成を行うこととしてもよい。すなわち、この場合、原料液に酵母を添加してアルコール発酵を行い、さらに熟成を行って、飲料を製造する。熟成は、アルコール発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、香味を向上させることができる。
【0055】
なお、本方法においてアルコール飲料を製造する場合、本方法は、上述のようにアルコール発酵を行うものに限らない。すなわち、例えば、原料液と、エタノール又はエタノールを含有する水溶液とを混合することにより、アルコール飲料を製造することとしてもよい。この場合、本方法においては、アルコール発酵を行わないこととしてもよい。
【0056】
本飲料は、例えば、ノンアルコール飲料であることとしてもよい。ノンアルコール飲料は、エタノールの含有量が1体積%未満の飲料である。ノンアルコール飲料のエタノール含有量は、1体積%未満であれば特に限られないが、例えば、0.5体積%未満であることとしてもよく、0.05体積%未満であることとしてもよく、0.005体積%未満であることとしてもよい。
【0057】
本方法においてノンアルコール飲料を製造する場合、例えば、アルコール発酵を行うことなく、当該ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。本方法において、アルコール発酵を行うことなくノンアルコール飲料を製造する場合、例えば、原料液と他の原料とを混合することにより当該ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。この場合、他の原料としては、例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。
【0058】
本飲料は、例えば、発泡性飲料であることとしてもよい。発泡性飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有する飲料である。すなわち、発泡性飲料は、例えば、炭酸ガスを含有する飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有する飲料である。本飲料は、発泡性アルコール飲料であることとしてもよく、発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。
【0059】
なお、アルコール発酵を行うことなく本飲料に発泡性を付与する方法としては、例えば、原料液と炭酸ガスとを接触させる方法(いわゆるガス付け(carbonation))及び/又は原料液と炭酸水とを混合する方法を使用することとしてもよい。
【0060】
また、本飲料は、例えば、非発泡性飲料であることとしてもよい。非発泡性飲料は、上述のような泡特性を有しない飲料である。本飲料は、非発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよく、非発泡性アルコール飲料であることとしてもよい。
【0061】
上述した本方法によれば、香味が効果的に向上した飲料(本飲料)を製造することができる。すなわち、本方法においては、大麦を発芽させることなく洗浄し、洗浄後の洗浄液を捨てるとともに、当該洗浄液と分離された洗浄後の発芽していない当該大麦を使用して原料液を調製し、当該原料液を使用して飲料を製造することにより、当該大麦に由来する好ましくない香味成分の当該飲料への移行を効果的に低減することができる。
【0062】
その結果、本方法においては、洗浄された発芽していない大麦に代えて、洗浄されておらず発芽していない大麦を使用する場合に比べて、香味が向上した飲料を製造することができる。
【0063】
したがって、本方法は、例えば、大麦を含む原料を使用して製造される飲料の香味を向上させる方法であって、当該大麦として、洗浄された発芽していない大麦を使用することにより、当該洗浄された発芽していない大麦に代えて、洗浄されておらず発芽していない大麦を使用する場合に比べて、当該飲料の香味を向上させる方法であることしてもよい。
【0064】
本方法による飲料の香味の向上は、当該飲料における大麦に由来する好ましくない香味の低減であれば特に限られないが、例えば、当該飲料における当該大麦に由来する雑味の低減を含むこととしてもよい。
【0065】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0066】
[大麦の洗浄]
大麦を発芽させることなく洗浄し、洗浄後の大麦を回収するとともに、当該大麦の洗浄後に洗浄液を捨てた。すなわち、洗浄する大麦として、実施例1−1では、穀皮の10%が除去された大麦を使用し、実施例1−2では、穀皮が除去されていない大麦を使用した。また、実施例1−1及び実施例1−2のいずれにおいても、洗浄液として水を使用し、粉砕されておらず発芽していない大麦を洗浄した。
【0067】
具体的に、まず、大麦を、タンク内で、80℃の水に浸漬した。次いで、浸漬を開始してから15分後に、大麦をタンクから回収した。さらに、回収された大麦を粉砕した。この回収された大麦は発芽していなかった。また、大麦を回収した後にタンクに残った水は捨て、後述する原料液の調製には使用しなかった。なお、80℃での洗浄後の大麦の水分量は約67重量%であった。
【0068】
[原料液の調製]
洗浄された発芽していない大麦を含む原料を使用して原料液を調製した。すなわち、洗浄後の大麦と、麦芽と、ホップとを含む原料を使用して原料液を調製した。
【0069】
具体的に、まず、粉砕された洗浄後の大麦及び粉砕された大麦麦芽に50℃の湯を加え、得られた混合液を65℃で維持することにより、糖化を行った。次いで、糖化後の混合液から大麦麦芽の穀皮を除去した。その後、混合液にホップを添加して煮沸を行った。煮沸後の混合液を原料液として得た。なお、原料における大麦の使用量は50重量%であり、大麦麦芽の使用量は50重量%であった。
【0070】
[飲料の製造]
原料液に酵母を添加してアルコール発酵を行い、飲料を製造した。すなわち、上述のようにして調製した原料液にビール酵母を添加してアルコール発酵を行い、さらに、熟成を行った。そして、熟成後の発酵液をろ過し、殺菌した。
【0071】
こうして、実施例1−1及び実施例1−2においては、洗浄された発芽していない大麦を使用して発泡性アルコール飲料を製造した。また、比較例1として、実施例1−1において大麦の洗浄を行わなかった以外は同一の条件で、洗浄されておらず発芽していない大麦を使用して、発泡性アルコール飲料を製造した。これら3種類の発泡性アルコール飲料のエタノール含有量は、約5体積%であった。
【0072】
[官能検査]
飲料の香味を評価した。すなわち、上述のようにして製造した3種類の飲料のそれぞれについて、熟練した8人のパネラーによる官能検査を行った。官能検査においては、A、B及びCの3段階(Aが最も優れた評価)で香味を評価した。
【0073】
[結果]
図1には、飲料の香味を評価した結果を示す。
図1に示すように、洗浄していない大麦を使用して製造された比較例1の飲料に比べて、洗浄された大麦を使用して製造された実施例1−1及び実施例1−2の飲料は、香味が優れていると評価された。すなわち、比較例1では、4人のパネラーが「C」と評価したのに対し、実施例1−1で「C」と評価したパネラーは1人であり、実施例1−2で「C」と評価したパネラーはいなかった。
【0074】
また、実施例1−1で製造された飲料に比べて、実施例1−2で製造された飲料は、より優れた香味を有していると評価された。すなわち、実施例1−1で「A」と評価したパネラーは1人であったのに対し、実施例1−2では7人のパネラーが「A」と評価した。
【0075】
また、香味向上の効果としては、例えば、雑味の低減が確認された。すなわち、
図1に示すように、比較例1の飲料について、4人のパネラーが雑味ありと評価したのに対し、実施例1−1の飲料について雑味ありと評価したパネラーは2人であり、実施例1−2の飲料について雑味ありと評価したパネラーはいなかった。
【実施例2】
【0076】
実施例2として、大麦の洗浄において、大麦をタンク内で20℃の水に浸漬し、浸漬を開始してから60分後に当該大麦をタンクから回収したこと以外は、上述の実施例1−2と同様にして、洗浄された発芽していない大麦を使用して発泡性アルコール飲料を製造した。なお、20℃での洗浄後の大麦の水分量は30重量%未満であった。また、比較例2として、実施例2において大麦の洗浄を行わなかった以外は同一の条件で、洗浄されておらず発芽していない大麦を使用して発泡性アルコール飲料を製造した。そして、これら2種類の飲料のそれぞれについて、上述の実施例1と同様に、熟練した7人のパネラーによる官能検査を行った。
【0077】
図2には、飲料の香味を評価した結果を示す。
図2に示すように、洗浄していない大麦を使用して製造された比較例2の飲料に比べて、洗浄された大麦を使用して製造された実施例2の飲料は、香味が優れていると評価された。
【0078】
すなわち、比較例2の飲料について、「A」と評価したパネラーはいなかったのに対し、実施例2の飲料については、6人のパネラーが「A」と評価した。また、比較例2の飲料について、4人のパネラーが雑味ありと評価したのに対し、実施例2の飲料について雑味ありと評価したパネラーはいなかった。
【実施例3】
【0079】
[原料液の調製]
実施例3−1として、上述の実施例1−2と同様、大麦を発芽させることなく、80℃の水に15分浸漬することで洗浄し、当該洗浄された発芽していない大麦を100重量%含む原料を使用して原料液を調製した。
【0080】
実施例3−2として、上述の実施例2と同様、大麦を発芽させることなく、20℃の水に60分浸漬することで洗浄し、当該洗浄された発芽していない大麦を100重量%含む原料を使用して原料液を調製した。
【0081】
実施例3−3として、80℃の水に代えて、20℃の水酸化ナトリウム水溶液(0.03%)を使用したこと以外は、上述の実施例3−1と同様にして、洗浄された発芽していない大麦を100重量%含む原料を使用して原料液を調製した。
【0082】
また、比較例3として、上述の実施例3−1において大麦の洗浄を行わなかった以外は同一の条件で、洗浄されておらず発芽していない大麦を100重量%含む原料を使用して原料液を調製した。
【0083】
[フェルラ酸含有量の測定]
上述のようにして調製された4種類の原料液の各々について、フェルラ酸の含有量を測定した。原料液のフェルラ酸含有量は、質量分析計付き液体クロマトグラフィー(LC/MS)により測定した。具体的には、まず上述のようにして調製した原料液の一部を試料として採取し、当該試料を0.45μmのフィルターで処理した。その後、カラム(X Bridge C18、3.5μm、2.1mm、150mm、BEHテクノロジー社)を備えたLC/MS分析装置(LC:Agilent1100、アジレントテクノロジー社/MS:ZQ、Waters社)を使用して、次のような条件で分析を行った。サンプル注入量:2μL、移動相A:0.1%酢酸水溶液、移動相B:メタノール、移動相流速:0.25mL/分、定量イオン:193m/z。グラジエントプログラム(移動相B(%))は、次のとおりとした。0〜2分:1%、2〜5分:75%、5〜12分95%、12〜14分:95%、14〜15分:1%。
【0084】
[結果]
図3には、原料液のフェルラ酸含有量を測定した結果を示す。
図3に示すように、実施例3−1、実施例3−2及び実施例3−3において、洗浄された大麦を使用して調製された原料液のフェルラ酸含有量(それぞれ1.1ppm、3.7ppm及び2.7ppm)は、比較例3において、洗浄されていない大麦を使用して調製された原料液のそれ(4.8ppm)に比べて顕著に小さかった。すなわち、洗浄された大麦を使用することによって、洗浄されていない大麦を使用する場合に比べて、原料液のフェルラ酸含有量を効果的に低減された。
【0085】
具体的に、実施例3−1、実施例3−2及び実施例3−3において、原料液のフェルラ酸含有量は、比較例3におけるそれの約23重量%、約77重量%及び約56重量%にそれぞれ低減された。ここで、フェルラ酸は、飲料に含まれる好ましくない香味成分の一つである4−VGの前駆物質である。したがって、洗浄された大麦を使用して原料液を調製することによって、洗浄されていない大麦を使用する場合に比べて、当該原料液を使用して製造される飲料の香味が効果的に向上すると考えられる。