特許第6396899号(P6396899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6396899角部伸長ジョイントを有する電解槽用絶縁性フレーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396899
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】角部伸長ジョイントを有する電解槽用絶縁性フレーム
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/08 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
   C25B9/08
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-521021(P2015-521021)
(86)(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公表番号】特表2015-525831(P2015-525831A)
(43)【公表日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】EP2013064830
(87)【国際公開番号】WO2014009549
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】102012013832.6
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515214822
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ウーデ・クロリン・エンジニアーズ(イタリア)ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100093089
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 滋
(72)【発明者】
【氏名】ホールマン,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ドンスト,ディミトリ
(72)【発明者】
【氏名】フンク,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ポルチン,グレゴル
(72)【発明者】
【氏名】トロス,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルテリング,ペーター
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0110719(US,A1)
【文献】 特公昭63−030045(JP,B2)
【文献】 特公昭56−044545(JP,B2)
【文献】 特表2009−535501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角部を有する外形形状を有する、電解槽用絶縁性フレームであって、
平坦な設計であり、アノード側およびカソード側に加えて外端面および内端面を有し、
前記内端面に直接隣接する端部領域を有することを特徴とする絶縁性フレームにおいて、
前記端部領域が、前記絶縁性フレームの線形伸長を補償するように設計されたカットアウト形態の角部伸長ジョイントを前記角部からオフセットした位置に有し、
前記角部伸長ジョイントは、半球状または半円筒状のカットアウト形態を有し、
前記端部領域は、完全にまたは部分的に覆われたとしても電解液が流通することができるような構造であることを特徴とする絶縁性フレーム。
【請求項2】
前記端部領域は、各角部に1〜10個の前記角部伸長ジョイントを有することを特徴とする請求項に記載の絶縁性フレーム。
【請求項3】
前記端部領域は、各角部に3〜5個の前記角部伸長ジョイントを有することを特徴とする請求項に記載の絶縁性フレーム。
【請求項4】
前記角部伸長ジョイントそれぞれのうちの1つは、前記端部領域の角部において、前記絶縁性フレームの前記外端面に対してとがった角に直接配置されることを特徴とする請求項1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
【請求項5】
前記角部伸長ジョイントは、前記絶縁性フレームの前記外端面に対して直角に配置されることを特徴とする請求項1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
【請求項6】
膜によって物理的に隔離され、請求項1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレームが設けられたアノード室シェルおよびカソード室シェルを備える電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0002]本発明は、電解槽用絶縁性フレームに関し、絶縁性フレームは、角部に角部伸長ジョイントを有する内部端部領域を有することを特徴とする。角部伸長ジョイントは、角部伸長ジョイントが絶縁性フレームの線形伸長を補償することができるように設計される。また、本発明は、前記絶縁性フレームが設けられた電解槽を備える。
【背景技術】
【0002】
[0004]塩素元素、水素および/または苛性ソーダを生成する電解槽が知られており、従来技術に広く記載されている。通常の従来技術においては、当該産業において幅広く使用されている2つの設計タイプが主に記載されている。2つの種類のうちの1つは、フィルタプレスタイプであり、もう一方のタイプは、直列に電気的に接続された単槽にみられる、いわゆる「単槽エレメント」タイプである。
【0003】
[0005]例えば独国特許出願公開第10249508(A1)号(Uhde)または独国特許出願公開第102004028761(A1)号(Uhdenora)に記載されている単槽エレメントタイプのこれらの電解槽は、とりわけ、それぞれカソードまたはアノードを含むカソード室シェルおよびアノード室シェルからなる。フランジ間に保持されたイオン交換膜は電極間に位置する。上記従来技術に記載されているように、絶縁性フレームは、アノード室シェルのフランジと膜との間に配され、組み付け状態において、膜は、カソード室シェルのフランジ表面と絶縁性フレーム表面との間で挟持され、これにより所定の位置に保持される。
【0004】
[0006]また、独国特許出願公開第102006020374(A1)号(Uhdenora)によっても電解槽用の絶縁性フレームが知られている。この絶縁性フレームは、端部領域が、例えば、微細なこぶの形態である微細構造を有することを特徴とする。これにより、膜を脱水から守る液膜が確実に存在するようになる。
【0005】
[0007]絶縁性フレームは、電解槽の運転の間使用される膜をアノード室シェルの金属表面から離隔しておくことにも役立つ。ここで、フランジが膜と接触して、短絡電流または膜の損傷を引き起こすことを防止しなければならないので、アノード室シェルからフランジにわたる領域は特に重要である。この接触を妨げるために、絶縁性フレームは、電解槽の内部へ数ミリメートルはみ出る端部領域を設けてわずかに大きくなっており、室シェルの隣接する金属表面から膜を離隔する。
【0006】
[0008]しかしながら、電解槽の運転の間、温度に起因する金属材料の伸長が生じ得ることは不利益である。絶縁性フレームの歪みが生じた場合に、膜が損傷するおそれがある。これにより、続いて、電解槽の操業停止および膜の交換が必要となり得る。しかしながら、膜の長期耐用年数は、電解プロセスの費用効果に直接関連する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0009]したがって、本発明の目的は、上述の従来技術の不利益を確実に回避すると共に、特に、膜、特にフレーム端部の角部、の損傷を回避するような方法で、電解槽の運転の間に生じる変形力を補償するおよび/または逸らすように、かつ、起こり得る変形が好ましくは膜から離隔して対向する端部領域において生ずるように設計された電解槽用絶縁性フレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0011]本発明の第1の主題は、角部を有する外形形状を有する、電解槽用の絶縁性フレームであって、平坦な設計であり、アノード側およびカソード側に加えて外端面および内端面を有し、内端面に直接隣接する端部領域を有することを特徴とする絶縁性フレームにおいて、端部領域がカットアウト(cut−outs)形態の角部伸長ジョイントを有し、カットアウトが絶縁性フレームの線形伸長を補償するように設計されることを特徴とする絶縁性フレームに関する。
【0009】
[0012]驚くべきことに、本発明による構成は、上記に記載の目的を完全に達成することが判明した。角部伸長ジョイントは、膜に機械的圧力が作用する場合に、これらの力を吸収かつ逸らす材料のカットアウトに存ずる。好ましくは、絶縁性フレームの伸長ジョイントは、膜から離隔して面するように構成される。これにより、フレームの変形が、常に膜から離れて生じて、付加的な保護を提供することも確保する。したがって、本発明の絶縁性フレームは、電解工場の操業中に生ずるゆがみおよび変形に関する問題を減少させ、膜が損傷する危険性を低減させ、これにより膜の使用期間を著しく延長する。
【0010】
[0013]第1の好ましい実施形態において、端部領域は、内端面の内周に沿って連続的にかつ隙間なく構成される。
[0014]本発明の絶縁性フレームのさらに有利な実施形態において、端部領域は、完全にまたは部分的に覆われていても、電解液が流通することができるような構造であり、前記端部領域は、理想的には微細構造表面を有する。
【0011】
[0015]絶縁性フレームのフレーム領域のこの実施形態は、独国特許出願公開第102006020374(A1)号に記載されているように、裂ける等のさらなる損傷に対して膜を保護することに利点がある。フレーム領域に微細構造が設けられていない場合、これにより、結果的に以下の展開となる:カソード室内の圧力はアノード室内の圧力よりも高いので、膜は、アノード室の方に折れ曲がる、および/または、フレームの支持されていない部分に押圧され、この接触領域においては片側からのみ濡れることになる。アノード側を覆うために、吸湿性のアルカリ液はこの領域において膜を脱水し、この脱水は、カルボキシル基層における塩の比例的析出を伴い、続いて、泡の形成、両膜層の剥離、および/または裂けを引き起こす。このような損傷は、裸眼で部分的に目視することができるか、または塩化物イオンが、損傷した端部領域に沿ってカソード室に拡散的に流入することができるので、アルカリ液中のCl濃度の上昇によって確認することができる。
【0012】
[0016]このため、カソード側の端部領域は、多数の突起が構成された平坦な段形状を有すると有利である。しかしながら、これらの突起は、いずれの形状を有してもよく、好ましくは、材料において円筒状または半球状の突起形状を有する。加えて、端部領域は、連続した波または歯のような凹凸形状を有することができる。波または歯はフレームの中心方向に開いた構造であり、これによりアノード液はアノード室に流入することができ、もしくはアノード室から拡散的に入ることができ、および/または後でこの領域から流出することができる。改善された実施形態において、波または歯は、アノード液の流入および流出を改善する多数の小さな開口を有する。これらの開口は、孔、流路のような切り欠き、または他の外形形状を有することができる。
【0013】
[0017]したがって、微細構造表面は、脱水から、すなわち化学的損傷から、膜を保護することに役立つ。しかしながら、微細構造は、この目的のために非常に堅いので、微細構造表面は、変形力を逃がす機能は有していない。
【0014】
[0018]本発明の絶縁性フレームの構造化端部領域のさらなる改善は、絶縁性フレームを完全に貫通する多数の小さな開口、穴または孔を有する端部領域に存ずる。これらの開口は、流路によって相互接続され、絶縁性フレームの表面に挿入される。好ましくは、これらの流路は、膜から遠い側、すなわちアノード側、に配される。この実施形態は、開口を相互接続する、および/または内端面の方へもしくは内端面から離れる方へ向かう流路が、絶縁性フレームの両面に挿入されることによって改善することができる。両側の流路構造はアノード液の流入および流出を改善する。
【0015】
[0019]本発明の有利な実施形態において、角部の領域における端部領域は構造化されていない。好ましくは、端部領域は、各角部に1〜10個の角部伸長ジョイント、好ましくは各角部に3〜5個の角部伸長ジョイント、最も好ましくは各角部に3個の角部伸長ジョイントを有する。さらに好ましい実施形態において、各角部の角部伸長ジョイントのうちの1つは、端部領域の角部において、絶縁性フレームの外端面に対してとがった角に直接配置される。
【0016】
[0020]代替的実施形態として、本発明は、絶縁性フレームの外端面に対して直角に構成された角部伸長ジョイントを提供する。
[0021]本発明によれば、角部伸長ジョイントが配される角部領域の寸法は1.5〜10cmであり、好ましくは3〜6cmである。
【0017】
[0022]好ましくは、角部伸長ジョイントは、半球状または半円筒状カットアウトとして成形される。
[0023]また、本発明は、膜によって物理的に隔離されたアノード室シェルおよびカソード室シェルを有すると共に、両セル室シェルを封止するおよび/または膜を締め付ける上述の実施形態の1つに本発明の絶縁性フレームが設けられた電解槽も備える。

[0024]本発明は、いくつかの図面を使用してより詳細に以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来技術による電解槽のフランジ領域の断面図である。
図2】本発明による絶縁性フレームの角部部分の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[0025]添付の図1において、電解槽のフランジ領域が断面図で示される。膜1は、アノード室シェル2とカソード室シェル3とのフランジの両片面間に挟持され、絶縁性フレーム4は、アノード室シェル2と膜1との間に配される。正常に組み付けられると、絶縁性フレーム4の支持されていない部分5は、電解槽内部にはみ出る。カソード室6内の圧力はアノード室7内の圧力よりも約2000〜4000Pa(20〜40mbar)高いので、膜1はフレームの支持されていない部分上に押圧される。
この押圧の結果として生じ得る膜の損傷を防止するための実施態様において、端部領域8には、アノード室7に面する膜側を完全に覆うことなく膜1を支持する半球形状の多数のこぶ9が設けられている。しかしながら、端部領域8が微細構造表面を有さない場合であっても、本発明の目的は達成される。本実施形態において、絶縁性フレーム4および有段端部10は、有段端部10が両室シェルのフランジ領域にあるように配される。したがって、組み付けられた位置において、膜1は、有段端部10での限定された方法で押しつぶされ、両面で不活性化される。運転の間、膜の損傷を引き起こす絶縁性フレームの線形伸長が電解槽の角部領域で生ずる。本発明は、本発明の絶縁性フレームを提供することによってこの問題を解決することを試みる。
【0020】
この押圧の結果として生じ得る膜の損傷を防止するための実施態様において、端部領域8には、アノード室7に面する膜側を完全に覆うことなく膜1を支持する半球形状の多数のこぶ9が設けられている。しかしながら、端部領域8が微細構造表面を有さない場合であっても、本発明の目的は達成される。本実施形態において、絶縁性フレーム4および有段端部10は、有段端部10が両室シェルのフランジ領域にあるように配される。したがって、組み付けられた位置において、膜1は、有段端部10での限定された方法で押しつぶされ、両面で不活性化される。運転の間、膜の損傷を引き起こす絶縁性フレームの線形伸長が電解槽の角部領域で生ずる。本発明は、本発明の絶縁性フレームを提供することによってこの問題を解決することを試みる。
【0021】
[0026]図2は、本例において、半円筒形状を有する3個の角部伸長ジョイント11を有する実施形態において本発明の絶縁性フレーム4の角部部分の上面図を示す。3個の角部伸長ジョイントの中央は、端部領域の角部において、絶縁性フレームの外端面に対してとがった角に直接配置される。図面において、多数の開口14を有する端部領域8は、外端面13と内端面12との間に示される。端部領域8の外側において、大きな開口15は、図面に示されていないフランジを閉じるために使用される、同じく図面に示されていない締め付けボルトの通路として使用される。図面に示された角部伸長ジョイント11の構成によって、膜は、絶縁性フレーム4が電解槽の運転時に伸長するとき絶縁性フレーム4によってさらに損傷されることがない。絶縁性フレーム4の線形伸長は、フレームがさらにゆがまずに、これによって膜をさらに損傷しないように、角部伸長ジョイントによって補償される。
(項目1)
角部を有する外形形状を有する、電解槽用絶縁性フレームであって、
平坦な設計であり、アノード側およびカソード側に加えて外端面および内端面を有し、
前記内端面に直接隣接する端部領域を有することを特徴とする絶縁性フレームにおいて、
前記端部領域がカットアウト形態の角部伸長ジョイントを有することを特徴とする絶縁性フレーム。
(項目2)
前記端部領域は、完全にまたは部分的に覆われたとしても電解液が流通することができるような構造であることを特徴とする項目1に記載の絶縁性フレーム。
(項目3)
前記端部領域は、微細構造表面を有することを特徴とする項目1または2に記載の絶縁性フレーム
項目
前記端部領域は、連続する波または歯のような凹凸形状を有することを特徴とする項目1に記載の絶縁性フレーム。
(項目
前記端部領域は、各角部に1〜10個の前記角部伸長ジョイントを有することを特徴とする項目1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
(項目
前記端部領域は、各角部に3〜5個の前記角部伸長ジョイントを有することを特徴とする項目に記載の絶縁性フレーム。
(項目
前記角部伸長ジョイントそれぞれのうちの1つは、前記端部領域の角部において、前記絶縁性フレームの前記外端面に対してとがった角に直接配置されることを特徴とする項目1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
(項目
前記角部伸長ジョイントは、前記絶縁性フレームの前記外端面に対して直角に配置されることを特徴とする項目1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
(項目
前記角部伸長ジョイントが配置された前記角部領域の寸法は1.5〜10cmであることを特徴とする項目1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
(項目10
前記角部伸長ジョイントが配置された前記角部領域の寸法は3〜6cmであることを特徴とする項目に記載の絶縁性フレーム。
(項目11
前記角部伸長ジョイントは、半球状または半円筒状のカットアウト形態を有することを特徴とする項目1〜の少なくとも一項に記載の絶縁性フレーム。
(項目12
膜によって物理的に隔離され、項目1〜11の少なくとも一項に記載の絶縁性フレームが設けられたアノード室シェルおよびカソード室シェルを備える電解槽。
図1
図2