特許第6396903号(P6396903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6396903摩擦低減特性および摩耗低減特性が強化されたアークPVDコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396903
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】摩擦低減特性および摩耗低減特性が強化されたアークPVDコーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20180913BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20180913BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C23C14/06 A
   C23C14/24 F
   B23B27/14 A
【請求項の数】21
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-528894(P2015-528894)
(86)(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公表番号】特表2015-528531(P2015-528531A)
(43)【公表日】2015年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2013002217
(87)【国際公開番号】WO2014032753
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】102012017033.5
(32)【優先日】2012年8月29日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】12007926.4
(32)【優先日】2012年11月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507269681
【氏名又は名称】エーリコン・サーフェス・ソリューションズ・アーゲー・プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・ラム
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・ルーカス・ゾビーヒ
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン・ザイベルト
(72)【発明者】
【氏名】ベンノ・ヴィダルク
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/055485(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/078151(WO,A1)
【文献】 A. Ozturk, et al.,Comparative tribological behaviors of TiN-, CrN- and MoN-Cu nanocomposite coatings,Tribology International,2008年,Vol.41, No.1,p.49-59
【文献】 K.E. Pappacena, et al.,Residual stresses, interfacial adhesion and tribological properties of MoN/Cu composite coatings,Wear,2012年 1月12日,vol.278-279,p.62-70
【文献】 Jung Ho Shin, et al.,Microstructural evolution and tribological behavior of Mo-Cu-N coatings as a function of Cu content,Materials chemistry and physics,2011年,vol.130 ,p.870 -879
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディ表面(3)およびボディ表面(3)の少なくとも一部上に堆積されたコーティング系(20)を備えたボディ(1)を含むコーティングされたボディであって、前記コーティング系(20)は、少なくとも1つの、最外層(9)として堆積された硬い摩擦低減コーティングを含み、最外層(9)はその表面にドロップレット(10)が現れ、前記最外層(9)が「(i)モリブデン銅窒化物」および/または「(ii)窒化モリブデンおよび窒化銅」を含み、ドロップレット(10)の少なくとも一部は銅および銅が豊富なモリブデンを含み、モリブデンに対する原子パーセントでの銅含量が3%超であることを特徴とする、コーティングされたボディ。
【請求項2】
ボディ表面(3)およびボディ表面(3)の少なくとも一部上に堆積されたコーティング系(20)を備えたボディ(1)を含むコーティングされたボディであって、前記コーティング系(20)は、少なくとも1つの、最外層(9)として堆積された硬い摩擦低減コーティングを含み、最外層(9)はその表面にドロップレット(10)が現れ、前記最外層(9)が「(i)モリブデン銅窒化物」および/または「(ii)窒化モリブデンおよび(銅および/または窒化銅)」を含み、ドロップレット(10)の少なくとも一部は銅および銅が豊富なモリブデンを含み、モリブデンに対する原子パーセントでの銅含量が3%超であることを特徴とする、コーティングされたボディ。
【請求項3】
最外層(9)が下記式で表される化学組成(at%)を有し、
MoCuMe
0<x<1、0<y≦0.3、0<z≦2、0≦w≦0.3、0≦v≦0.15
Meは、Ag、Sn、Zn、Au、Cr、Si、Wから選択される1つ以上の元素であり、Xは非金属または非金属の混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコーティングされたボディ。
【請求項4】
コーティング系(20)が、ボディ表面(3)および最外層(9)の間に堆積される少なくとも1つのハードコーティング(5)を含むことを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載のコーティングされたボディ。
【請求項5】
少なくとも1つのハードコーティング(5)が、ta−Cおよび/またはチタンおよび/またはアルミニウムおよび/またはクロムおよび/またはケイ素および/または窒素および/または金属酸化物からなり、または含むことを特徴とする、請求項4に記載のコーティングされたボディ。
【請求項6】
少なくとも1つのハードコーティング(5)が、全体の硬度が少なくとも20GPaであり、ドロップレット(6)を現すことを特徴とする、請求項4または5に記載のコーティングされたボディ。
【請求項7】
コーティング系(20)が、ボディ表面(3)と最外層(9)との間に堆積された、または少なくとも1つのハードコーティング(5)と最外層(9)との間に堆積された、少なくとも1つのさらなる硬い摩擦低減コーティング(7)を含むことを特徴とする、請求項1から6の何れか1項に記載のコーティングされたボディ。
【請求項8】
少なくとも1つのさらなる硬い摩擦低減コーティング(7)が、窒化モリブデンおよび/または酸窒化モリブデンおよび/または酸化モリブデンおよび/または一酸化モリブデンからなる、または含むことを特徴とする、請求項7に記載のコーティングされたボディ。
【請求項9】
少なくとも1つのさらなる硬い摩擦低減コーティング(7)が、窒化モリブデンを含むか、または窒化モリブデンからなり、全体の硬度が少なくとも20GPaであり、モリブデンおよび/または窒素を含むが、銅を含まないドロップレット(8)を現すことを特徴とする、請求項8に記載のコーティングされたボディ。
【請求項10】
コーティング系(20)が、ボディ表面(3)上に直接堆積されるか、および/またはボディ表面(3)上に直接形成され、ボディ表面(3)に対するコーティング系(20)の接着強度を増大させる1つ以上の接着向上層を含むことを特徴とする、請求項1から9の何れか1項に記載のコーティングされたボディ。
【請求項11】
銅が豊富である最大ドロップレット(10)の多くが、加工対象物表面の、コーティング系(20)で被覆されたコーティングされた切削工具表面との初期のトライボロジー接触が、加工対象物表面と、銅が豊富である最大ドロップレット(10)との接触を少なくとも大部分についてもたらすようなやり方で、最外層(9)の表面に沿って分散されることを特徴とする、請求項1から10の何れか1項に記載のコーティングされたボディ。
【請求項12】
コーティングされたボディが、そのコーティングされた表面が、トライボロジー操作の間、少なくとも部分的にトライボロジー摩耗に曝される部品または工具であることを特徴とする、請求項1から11の何れか1項に記載のコーティングされたボディ。
【請求項13】
コーティングされたボディが切削工具または成形工具であることを特徴とする、請求項12に記載のコーティングされたボディ。
【請求項14】
切削工具または成形工具が、スチール鋼および/または超硬合金および/またはセラミック化合物および/または立方晶系窒化ホウ素からなる、または含む材料で作られることを特徴とする、請求項13に記載のコーティングされたボディ。
【請求項15】
コーティング系(20)に含まれるコーティング(5または7または9)の1つ以上が、コーティング中へのドロップレットの組み込みを回避するための手段を用いることなく、カソードアークPVD法によって堆積されることを特徴とする、請求項1から14の何れか1項に記載のコーティングされたボディの製造方法。
【請求項16】
コーティング系(20)が、コーティング中へのドロップレットの組み込みを回避するための手段を用いることなく、カソードアークPVD法によってボディ表面(3)上に堆積されることを特徴とする、請求項1から15の何れか1項に記載のコーティングされたボディの製造方法。
【請求項17】
前記コーティングされた表面が、トライボロジー摩耗に少なくとも部分的に曝され、また少なくとも一時的に500℃以上の高温に曝される、請求項12から14の何れか1項に記載の部品または工具の使用。
【請求項18】
最外層(9)が、コーティング中のドロップレットの組み込みを回避するためのフィルタを使用することなく、反応性、カソードアークPVD法により堆積され、本質的にモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットが使用され、銅が豊富である最大ドロップレット(10)が、アーク操作により窒素を含む大気中でカソードとして操作され、モリブデンおよび銅を含む、少なくとも1つのターゲットからの材料の溶融および蒸発によって生成されることを特徴とする、請求項1から16の何れか1項に記載のコーティングされたボディの製造方法。
【請求項19】
最外層(9)を生成するために使用されるモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットが、粉末冶金法で作られたターゲットであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
モリブデンに対する原子パーセントでの銅の濃度は、層(9)の最も外側の10nmの領域において(これは表面に最も近い)、原子パーセントでターゲットの濃度と比較して高い濃度を有することを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
窒素含有雰囲気において、モリブデンおよび銅からなり、銅濃度がモリブデンに対して3at%を超える粉末冶金法で作られたターゲットが使用されるカソードアーク蒸発によってモリブデン銅の窒化物コーティングを合成する方法であって、前記ターゲット表面から300μmを超える距離に前記モリブデン−銅ターゲットの濃度が存在することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トライボロジーシステムにおいて使用される部品の摩耗保護のためのコーティング系に関する。このコーティング系は、もしも部品表面におけるトライボロジー接触の間に起こる摩耗メカニズムが初期の摩擦応答によって強く影響を受ける場合、表面摩耗を低減し、製品寿命を延ばすのに特に有益である。さらに、本発明は、その表面が少なくとも部分的に本発明によるコーティング系で被覆された耐摩耗性部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トライボロジーは、相対的に動く相互作用する表面に関する科学技術の一分野である。互いに接触する2つの表面の間の相対的な動きは、常に摩擦と摩耗とを含む。技術的には、各可動アセンブリは、トライボロジー系であると理解することができる。
【0003】
トライボロジー系は、本質的には、互いに動きながら接触する2つのボディの接触表面から成る。媒体(通常は流体)が、相対的に動いている2つのボディの表面の間、およびその周囲に配置されてよい。トライボロジー接触の間ボディの表面において生じる摩耗のタイプ、進行、および程度は、多くの場合、材料および各々の表面の表面仕上げ、並びに表面間に配置される中間材料、周囲環境、および概して操作条件に、依存する。
【0004】
本発明に関連して、トライボロジー接触に関わるボディは、部品と呼ばれるだろう。特に、もしもトライボロジー操作が切削作業である場合、部品とは切削工具および加工対象物であり、これらはまた、各々ボディおよびアンチボディとも呼ばれるだろう。そのような場合、周囲は通常酸素および水蒸気を含む空気であり、および切削工具の表面と加工対象物の表面との間の媒体であり、各々通常潤滑剤および/または冷却剤と呼ばれる。
【0005】
切削性能を改良し、切削工具の製品寿命を延ばすために、摩耗保護コーティングを使用するのが最新の技術である。
【0006】
米国特許第5707748号明細書は、切削端に蓄積された材料の形成を低減するのに役立つコーティング系で被覆された工具を記述する。このコーティング系は、硬い層および摩擦低減層を含む。摩擦低減層を持たない硬い層は、切削端において蓄積された材料を形成する傾向がある。摩擦低減層の形成に特に適する材料は、蒸発、イオンプレーティング、およびスパッタリングPVD法などの既知の真空堆積法によって作られる炭素系材料である。そのような摩擦低減層は、好ましくは米国特許第4992153号明細書(スパッタリングおよび化学気相堆積法を組み合わせる方法)に記載されるコーティング法を用いて堆積されるだろう。摩擦低減層の厚みは、硬い層の厚みの約3分の1であるだろう。米国特許第5707748号明細書の請求項に記載の工具は、摩耗に曝される少なくとも1つの領域、および摩耗に曝される少なくとも1つの領域上のコーティング系を有する工具本体を含み、これは真空法によってコーティングされ、コーティング系は、工具本体上に直接配置される少なくとも1つの硬い層と、硬い層上の、少なくとも1つの、外側に重ねられた摩擦低減層とから本質的になり、摩擦低減層は、金属炭化物と炭素との混合物であり、任意のハロゲン化物を含まないように作られ、硬い層および摩擦低減層の粒径は線形平均で1μm未満の幅を有し、摩擦低減層は硬い層よりも小さな厚みを有する。
【0007】
同様のコーティング系が米国特許第7067191号明細書において提案されており、これは硬い層と摩擦低減層との間に金属中間層を追加する点に関して、米国特許第5707748号明細書で提案されるコーティング系と本質的に異なる。記載によれば、そのような層系は不十分な潤滑条件下で、または乾燥した操作条件下で使用される工具または機械部品に対して特に利点を有するだろう。提案されるコーティング系は、硬い物質の層系を含み、基部に始まり、その後金属層があり、最後にスライド層系を持つ。スライド層系は、炭化物、特に炭化タングステンまたは炭化クロムおよび分散された炭素から作られる(米国特許第5707748号明細書における摩擦低減層と同様に)。米国特許第7067191号明細書による被覆された工具または機械部品の製造方法が提案され、米国特許第6827976号明細書において主張される。
【0008】
しかしながら、最新のコーティング系(上述のもの)並びにコーティング製造方法は以下のような重大な欠点を含む。
【0009】
1.提案されるコーティング製造方法は、それらが摩擦低減層またはスライド層系の形成に関して各々スパッタリングおよび化学気相堆積(CVD)法を含むので、複雑かつ高価である。
【0010】
2.提案されるコーティング系に含まれる摩擦低減層またはスライド層系を含む炭素は、カソードアーク蒸発タイプの物理気相堆積(PVD)法などの、さほど複雑ではなく、またさほど高価ではないコーティング方法によっては、適切に製造することができない。さらに、もしもカソードアーク蒸発法が摩擦低減層またはスライド層系の形成に使用されると、もしもドロップレットフィルタが使用されない場合、この層または層系に硬いマクロ粒子(ドロップレット)が組み込まれるのを回避するのは実際可能ではないだろう。ドロップレットは、コーティングチャンバに含まれる反応ガスと完全に反応することができなかったマクロ粒子である。結果的に、ドロップレットは、もしも材料源およびコーティング層または層系を形成するためのアーク蒸発のためのカソードとしてターゲットが使用される場合、少なくともターゲット表面において溶融し、ターゲット表面から落下した材料から主になる。これらのドロップレットは、コーティング系の最外層に組み込まれ、許容できない粗さを、また結果的に許容できない摩擦および摩耗をもたらす。
【0011】
3.最新技術において言及される炭素含有層または層系は、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC)材料のグループに属する材料であり、したがって潤滑剤および冷却溶液に含まれる幾つかの物質と不都合に反応する。
【0012】
4.炭化タングステンでドープされた炭素材料(一般的に、WC/C、またはa−C:H:WC、またはa−C:H:W)は親水性が非常に高い。結果的に、コーティング条件の再現性を確実にするために、コーティングのバッチ間のコーティングチャンバおよび基板ホルダの大掛かりな洗浄手順が必要とされる。
【0013】
5.もしも酸素含有雰囲気において高温(約400℃以上)に曝されたとき、炭素含有材料は、酸素との反応性が高く、制御できない。
【0014】
国際公開第2012/055485号は、特定されない基板上に、基板と窒化モリブデン層との間に300nmの厚みの層を接着層として用いて、カソードアークPVD法によって堆積された窒化モリブデンコーティングについて報告する。この窒化モリブデン層は、非常に高い硬度(HV 3000±500)、低い粗さ(Rz=1.07μmおよびRa=0.13μm)を示し、明示されない温度において100Cr6に対して実施される往復運動摩耗試験(SRV試験)において材料の移動を防ぐのに適していた。さらに、少量の窒化モリブデンを他の窒化コーティングに埋め込むことによって、元々のベースの窒化物と同様の特性を有することができるが、より良好な性能を示し、かつ加工対象物表面から部品表面、例えばインサートの切削端への材料の移動の防止に関して最も少ない、窒化モリブデンを含む新たな窒化コーティングを創り出すことが可能であることが示された。さらに、窒化モリブデンコーティングが、高い温度の下で、制御不可能に酸化され得ることが報告された。この現象が生じるのを回避または遅らせるために、窒化モリブデンを、少なくとも部分的に一酸化モリブデンで置換すること、および/または一酸化モリブデンの上部層を使用することが推奨された。
【0015】
国際公開第2012/055485号に記載されるMo−N−O系は多くの用途に適する。しかしながら、この系はフィルタを用いないアーク蒸発によって合成される全てのコーティングに共通する欠点を有する。欠点とは、コーティング中へのドロップレットの組み込み、およびこれに関連するかなり大きな表面粗さである。これらのドロップレットは非常に硬く、コーティングマトリックスに対して非常に良好な接着性を示す。そのため、これらのドロップレットは工具と加工対象物との間の初期の接触の間、最外層の表面に硬いドロップレットを有する全てのPVDハードコーティングに関する場合などで、特に重要な意味を持つ。
【0016】
トライボロジー接触の初期の場合において、硬い、研磨性のドロップレットは、加工対象物から工具への材料移動を促し、少なくとも2つの負の結果を生じる。
1)一方で、Mo系材料(国際公開第2012/055485号に記載されるようなもの)に特徴的な良好な潤滑条件がある程度阻害される。
2)他方で、トライボロジー接触の結果として、ドロップレットがコーティングから抜け落ち、または粉々に崩れるとき、初期の摩擦応答は悪くなり、その結果コーティング中のクラック形成のリスクが高まる。
【0017】
このような理由で、ドロップレットを取り除くための、またはコーティング表面を平滑にするための、これらのMo系コーティングの表面後処理は、コーティングへのドロップレットの組み込みを回避するためにフィルタを使用しないカソードアークPVD法によって堆積される殆ど全てのコーティングに対して役立つと同時に、一般的にも役に立つ。ある場合には、コーティングの後の研磨または艶出し処理がさらに不可欠となる。しかしながら、これらの後処理はさらなるコストを必要とし、かつ概して少なくとも1つのさらなる処理段階を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5707748号明細書
【特許文献2】米国特許第4992153号明細書
【特許文献3】米国特許第7067191号明細書
【特許文献4】米国特許第6827976号明細書
【特許文献5】国際公開第2012/055485号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の主な目的は、その表面がトライボロジー系における摩耗に曝される部品の摩耗の保護に関するコーティング系を提供することである。特に、このコーティング系は、トライボロジー系におけるトライボロジー摩耗に曝され、初期の摩擦応答の低減が特に有益である表面の、品質、耐摩耗性、および製品寿命を向上すべきである。
【0020】
さらに、本発明によるコーティング系は、付着摩耗に対する保護を提供すべきである。特に、このコーティング系は、加工対象物の材料が工具表面上を汚す傾向を有する、または摩減する傾向を有する、切削または成形操作に使用される工具に関して、向上された性能および摩耗の保護を提供するべきである。
【0021】
特に、これらのコーティング系は、約400℃以上、またはより好ましくは約500℃以上の高温で使用されることができるべきであり、約15GPa以上、好ましくは約20GPa以上、より好ましくは約30GPa以上の高硬度を示し、材料が加工対象物から部品または工具に移動することを防ぐべきである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、上述のようなコーティング系を有するコーティングされた部品を製造する方法を提供することである。コーティング系は、トライボロジー接触に曝される部品表面の少なくとも一部分に堆積されるべきである。さらに、本発明は、ドロップレットを除去するために、または操作の間トライボロジー接触領域において生じる初期の摩耗を小さくすることを意図して、コーティングの後の表面粗さを低減するために、(機械的手段によっても、化学的な後処理によっても)表面後処理を必要としない、カソードアーク被覆された表面を製造する方法を提供する。上述の背景に対して、結果的に本発明は、コーティングにクラックを生じ始めることなく、この初期接触においてドロップレットを除去することによって、トライボロジー接触の開始の間「表面研磨」の開始を実現する方法として理解できるということになる。結果的に、コーティングされた部品の表面は、以降のトライボロジー操作に対して本質的に自己調整されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明によるコーティング系20でコーティングされたボディ1の図を示す。
図2】2つの異なる切削インサートの切削試験の間に測定された側面摩耗の進行を示す。
図3】本発明による主に銅からなる、または銅が豊富なドロップレット10を備えた硬い摩擦低減層9表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を説明するために、発明に関する記載は図1、2、および3によって裏付けられる。図1は、本発明によるコーティング系20でコーティングされたボディ1の図(縮尺どおりの寸法ではない)を示す。この図において、寸法は必ずしも原寸に対応していない。特に、ドロップレットの寸法および配分は、意図をより良く説明するために、誇張されている。図2は、2つの異なる切削インサートの切削試験の間に測定された側面摩耗の進行を示す。円でプロットされた、側面摩耗の進行結果は、最新の技術によるコーティングで被覆されたインサートに対応する。星形でプロットされた、側面摩耗の進行結果は、本発明によるコーティング系で被覆された他のインサートに対応する。図3は、本発明による主に銅からなる、または銅が豊富なドロップレット10を備えた硬い摩擦低減層9表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。本発明において、銅が豊富とは、モリブデン含量に対する銅含量が原子パーセントで3at.%よりも大きい、すなわちモリブデンにおける銅の溶解度と比較して高いことを意味する。
【0025】
本発明の主な目的は、ボディ表面3およびボディ表面の少なくとも一部上に堆積されたコーティング系20を含む、コーティングされたボディ1を提供することによって達成され、前記コーティング系は少なくとも、最外層として堆積された硬い摩擦低減層9を含み、最外層はモリブデン銅窒化物および/または窒化モリブデンおよび銅および/または窒化銅、および主に銅からなるドロップレット10を含む。
【0026】
本発明の主な目的は、ボディ表面3およびボディ表面の少なくとも一部上に堆積されるコーティング系20を含むコーティングされたボディ1を提供することによっても達成され、前記コーティング系は少なくとも、最外層として堆積された硬い摩擦低減層9を含み、最外層はモリブデン銅窒化物および/または窒化モリブデンおよび銅および/または窒化銅、および部分的に銅からなるドロップレット10を含む。好ましくは、ドロップレット10は銅が豊富であり、より好ましくは、ドロップレット10は、モリブデンに対して原子パーセントで3at%から30at%の間、またはそれ以上の銅含量を有する。
【0027】
本発明のさらなる目的は、最外層9が、フィルタを用いない、反応性カソードアークPVD法によって形成される(すなわち、この堆積方法においてはドロップレットの形成を抑制するための取組みはなされない)、コーティングされたボディ1の製造方法を提供することによって達成される。最外層は、モリブデン銅窒化物(および/または窒化モリブデンおよび銅および/または窒化銅)、および主に銅からなるかまたは銅が豊富である、好ましくはモリブデンに対する原子パーセントで3at%から30at%の間またはそれ以上の濃度で銅を含むドロップレット10を含む。最外層9は、窒素含有雰囲気においてカソードとして操作されるモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットを用いて作られる。
【0028】
本発明によるコーティングされたボディの製造方法の好ましい実施形態において、最外層9は、窒素含有雰囲気においてカソードとして操作されるモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットを用いて作られ、ここでターゲットは主に銅からなるか、または少なくとも主に銅を含むか、銅が豊富である。
【0029】
本発明によるコーティングされたボディの製造方法のさらなる好ましい実施形態において、最外層9は、窒素含有雰囲気においてカソードとして操作されるモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットを用いて作られ、ターゲットはモリブデンに対する原子パーセントで3at%から30at%の間の銅含量を有する。
【0030】
本発明によるコーティングされたボディの製造方法のもう一つの好ましい実施形態において、最外層9は、窒素含有雰囲気においてカソードとして操作されるモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットを用いて作られ、ターゲットはモリブデンに対する原子パーセントで30at%以上の銅含量を有する。
【0031】
本発明によるコーティング系の好ましい実施形態において、コーティング系20はハードコーティング5および図1に示されるように最外層として堆積される硬い摩擦低減コーティング9を備える。
【0032】
ハードコーティング5は、好ましくはカソードアークPVD法によって堆積される。この蒸発法によって生成されるマクロ粒子(ドロップレット)6はコーティング中に埋め込まれ、および/またはコーティング表面に堆積される。このような理由で、このハードコーティングは、Rz=1.5μmまたはそれ以上の、高い平均表面粗さを示すことができる。
【0033】
カソードアークPVD法を用いる場合、これらのドロップレット6はアーク操作処理の間に、ターゲット材料の溶融および蒸発によってカソード表面で生成される。この場合、コーティング生成物に用いられる固体材料源もまたカソードとして使用され、通常ターゲットと呼ばれる。結果的に、コーティング中および/またはコーティング表面上のドロップレット6は、少なくとも部分的に、コーティング形成中に反応ガスと完全に反応しなかったものであり得るターゲット材料からなる。
【0034】
ハードコーティング5は、少なくともRz>1μm、Ra>0.15μmの、ただしアーク蒸発コーティングの表面粗さは累積的影響の結果であり、したがって厚みに依存するので、厚い層に関して容易にRz>3μm、Ra>0.4μmという値を超え得る、典型的な粗さを示す。最外層として堆積された硬い摩擦低減コーティング9は、スチール鋼(100Cr6)に対して乾燥条件下で低い摩擦係数を有し、モリブデン−窒素化学結合Mo−N、および銅を含む。銅は、コーティング中に溶解されていてもよく、窒素との化学結合Cu−Nを形成してもよい。しかしながら多くの場合は、銅は、モリブデンに対する銅の溶解度よりも高い濃度、すなわち約3at%よりも高い濃度で、コーティング後表面に観察されるドロップレット10の主な成分として最外層に存在する。
【0035】
本発明において、ハードコーティング5は、少なくとも15GPa、好ましくは約20GPa以上、より好ましくは約30GPa以上の硬度を示す。さらに、本発明によるハードコーティングは、その非常に良好な摩耗保護特性(特に機械的摩耗またはむしろ摩損の見地から)のために、工具および部品の摩耗保護コーティングとして使用することができる。好ましくは、本発明におけるハードコーティングは、約400℃以上の、より好ましくは約500℃以上の高温で化学的に、かつ熱的に安定である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態は、以下からなる、または以下を含む少なくとも1つのハードコーティング5を有する。
・アルミニウム、チタン、窒素、および/または
・アルミニウム、クロム、窒素、および/または
・金属酸化物、および/または
・金属酸窒化物、および/または
・ta−C(テトラヘドラルアモルファスカーボン)、および/または
・アルミニウム、チタン、ケイ素、窒素、および/または
・アルミニウム、クロム、ケイ素、窒素
【0037】
任意に、コーティング系20は、ハードコーティング5と硬い摩擦コーティング9との間にさらなる硬い摩擦コーティング7を含むこともできる。
【0038】
好ましくは、この硬い摩擦コーティング7は、モリブデンおよび/または窒素を含むが、銅を含まないドロップレット8を含む。この場合、硬い摩擦コーティング7は、銅を含まないモリブデンターゲットから生成される。
【0039】
本発明において、硬い摩擦低減コーティング7、9はハードコーティングと同程度の硬度を有することができるが、さらに非常に良好な摩擦低減特性を持つことができる。このような理由で、窒化モリブデンを含むコーティングは、本発明において優れた摩擦低減コーティングである。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、少なくとも1つの硬い摩擦低減層7は酸素を含む。好ましくは、摩擦低減層7は一酸化モリブデンを含む。
【0041】
さらに、本発明による硬い摩擦低減コーティングは、好ましくは約400℃以上の高温で良好な化学的安定性および熱的安定性を示す。
【0042】
本発明によれば、最外層9として堆積された硬い摩擦低減コーティングは、主に軟質銅からなる、または銅が豊富なドロップレット10の硬いマトリックスとして機能しなくてはならない。
【0043】
最外層9は、優先的に、ハードコーティング表面の上に存在する最大のドロップレットの厚みと比較して少なくとも同程度またはそれより大きい厚みを有するが、ただし厚みが小さくても、かなりの摩耗低減効果である、初期の工具の摩耗に対する顕著な正の効果を示すことができる。
【0044】
好ましくは、最外層は下記式で与えられる化学組成(at%)を有する。
MoCu 0<x<1、0<y≦0.3、0<z≦2
【0045】
例えば最外層9が化学組成Mo0.85Cu0.15で調製されたとき、非常に良好な結果が得られた。
【0046】
さらに、この化合物は、Me(例えばMeはAg、Sn、Zn、Au、Cr、Si、Wから選択される1つ以上の元素)で示される、ドーパントとしての、他の金属、またはメタロイド、または金属若しくはメタロイドの混合物、並びにX(例えばXは酸素)で示される他の非金属、を含んでよい。この場合、もしもドーパント元素または元素の混合物が添加された場合、最外層は下記式で表される化学組成(at%)を有する。
MoCuMe
0<x<1、0<y≦0.3、0<z≦2、0≦w≦0.3、0≦v≦0.15
【0047】
本発明による最外層9の主な機能は、ハードコーティング5の初期の摩擦応答を低減することであり、かつコーティング系20の全体の粗さが大きいにもかかわらず、ハードコーティング5中の硬いドロップレット6の損失による層のクラック発生のリスクをこの手段によって低減することである。
【0048】
さらに、最外(ランイン)層9は、トライボロジー接触の開始の間、ハード層5の表面研磨を開始する動因として働き、すなわち基本的には、コーティングされた部品の表面がその後のトライボロジー操作に対して本質的に自己調節される。これらの場合において、ハードコーティング5は、ランイン層9の潤滑挙動によってトライボロジー系におけるトライボロジー接触の間カウンターボディとの摩擦を通じて「研磨」される。より正確には、主に銅からなる、または銅が豊富である最大のドロップレット10の多く(最外層9の表面上で働くことができる)は、一種の固体潤滑剤として作用し、コーティングされたボディ1とアンチボディ表面との間の第1の接触を支配することによって初期の摩擦およびそれによる摩耗を低減する。さらに、これらのドロップレットは、それらの銅含有量がモリブデンへの銅の溶解度と比較して高いことに起因して、コーティングマトリクスにただ緩く組み込まれる。したがって、ハードコーティング5若しくは硬い摩擦低減コーティング7から硬いドロップレット6若しくは8が各々抜け落ちることによって、またはコーティングから硬いドロップレットが砕け落ちることによって生じるコーティングの欠陥は、本質的に回避されるか、またはクラック発生による不具合を引き起こさない。主に銅からなる、または銅が豊富なドロップレット10を有する硬い摩擦低減コーティング9の初期の摩擦低減に加えて、摩擦低減コーティング7および摩擦低減コーティング9の組み合わせは、ハードコーティング5のドロップレット6に関して機械的安定性を増大する、およびドロップレット6の損失によるハードコーティング5のクラック発生を起こすことなく、ハードコーティング5の平滑化を可能にするという、さらなる機能を有する。
【0049】
本発明によるコーティング系を適用することにより実現される切削工具の性能向上の例:
本発明により適用される最外層9の切削工具の性能に対する影響が図2に示される。切削インサートは、ある場合には6μmの厚みのTiAlNコーティング(標準コーティング)で、他の場合には(4μm TiAlN+1μm MoN+1μm MoCuN)コーティング(本発明によるコーティング系20の例)で被覆された。切削インサート表面の後処理はどちらの場合にも行われなかった。双方の切削インサートに関して、冷却剤なしで、かつ加工対象材料として1.1191鋼(C45)を用いて、切削試験が外側の丸削りにおいて実施された。供給速度0.3mm/revおよび切削深さ2mmで、切削速度240m/分が用いられた。側面摩耗は、光学顕微鏡によって測定され、インサートの操作時間に対してプロットされた。標準コーティングの側面摩耗の進展が、円を用いてプロットされた。これらのインサートは高い初期摩耗(約100μm)を示し、工具の寿命はわずか約11分であった。これとは対照的に、本発明による切削工具(星印で表示)は、初期の側面摩耗を大幅に減らし(80μm未満)、工具寿命を16分近くまで延ばすという結果が得られた。2つのインサートの合計はほぼ同じであるが、主に銅からなるドロップレットを有する最外層を持つ本発明によるインサートに関して、コーティングの安定性は改良された。
【0050】
基本的には、本発明は、ボディ表面3と、ボディ表面3の少なくとも一部に堆積されたコーティング系20とを備えたボディ1を含むコーティングされたボディを提供する。コーティング系20は、その表面にドロップレット10が現れる最外層9として堆積された少なくとも1つの硬い摩擦低減コーティングを含む。コーティング最外層9は、特に以下によって特徴付けられる。
・最外層9は、モリブデン銅窒化物および/または窒化モリブデンおよび銅および/または窒化銅を含む。
・少なくとも一部のドロップレット(10)は、主に銅からなるか、または銅が豊富である。
【0051】
好ましくは、最大のドロップレット(10)の殆どは、主に銅からなるか、または銅が豊富である。これは、最外層9の表面に現れたドロップレット(10)がモリブデンおよび/または銅および/または窒化モリブデンおよび/または窒化銅および/またはモリブデン銅窒化物などの様々な元素または化合物を含み得ることを意味する。しかしながら、もしも最外層9の表面が(例えば、走査型電子顕微鏡法を使用して)観察された場合、最大の寸法を有するドロップレット10を観察することができ、本発明によれば、少なくともこれらの最大寸法のドロップレット10の大多数が、主に銅からなるか、または銅が豊富である。これらのドロップレットの銅含量は、モリブデン中の銅の溶解度と比較して少なくとも大きく、すなわちモリブデン含量に対して約3at%よりも大きい。これは、コーティングマトリックスに対するドロップレットの緩やかな付着を確実にし、クラック発生による欠陥のリスクを低減する。
【0052】
本発明において、最大寸法を有するドロップレットは最大ドロップレットとも呼ばれる。これらの最大ドロップレットは、直径がマイクロメートルの範囲であり、ほぼ球形の形状を有することによって特徴付けられるが、図3に示されるように、最大約5から10マイクロメートルである大きな直径を有してもよい。
【0053】
最外層(9)は、好ましくは、下記式によって与えられる化学組成(at%)を有する。
MoCu 0<x<1、0<y≦0.3、0<z≦2
【0054】
最外層(9)は、ドーパントとして、Meで示される他の金属またはメタロイドまたは金属および/またはメタロイドの混合物をさらに含むことができる(例えば、Meは、Ag、Sn、Zn、Au、Cr、Si、およびW、から選択される1つ以上の元素)。最外層(9)は、Xで示される他の非金属または非金属の混合物を含むこともでき(例えば、Xは酸素)、この場合、下記式で与えられる化学組成(at%)を有する。
MoCuMe
0<x<1、0<y≦0.3、0<z≦2、0≦w≦0.3、0≦v≦0.15
【0055】
コーティング系(20)は、ボディ表面(3)と最外層(9)との間に堆積された1つ以上のハードコーティング(5)を含むことができる。
【0056】
少なくとも1つのハードコーティング(5)は、ta−Cおよび/またはチタンおよび/またはアルミニウムおよび/またはクロムおよび/またはケイ素および/または窒素および/または金属酸化物からなり、または含むことができる。
【0057】
幾つかの用途において、少なくとも1つのハードコーティング(5)は、好ましくは全体の硬度が少なくとも20GPaである。そのようなハードコーティング(5)は、真空堆積法によって製造することができ、堆積工程の間ソース材料(ターゲット)からドロップレットが生成され、コーティング中に組み込まれる。このような理由で、そのようなハードコーティング(5)は、その表面に硬いドロップレット(6)が現れることができる。
【0058】
さらに、コーティング系(20)は、ボディ表面(3)と最外層(9)との間に、または少なくとも1つのハードコーティング(5)と最外層(9)との間に堆積された1つ以上のさらなる硬い摩擦低減コーティング(7)を含むことができる。
【0059】
好ましくは、少なくとも1つのさらなる硬い摩擦低減コーティング(7)は、窒化モリブデンおよび/または酸窒化モリブデンおよび/または酸化モリブデンおよび/または一酸化モリブデンからなるか、または含む。
【0060】
より好ましくは、少なくとも1つのさらなる硬い摩擦低減コーティング(7)は、多くの場合、窒化モリブデンを含むか、または本質的に窒化モリブデンからなり、全体の硬度が少なくとも20GPaであり、ほぼモリブデンからなるドロップレット(8)を示す。
【0061】
さらに、コーティング系(20)は、ボディ表面(3)上に直接堆積されるか、および/またはボディ表面(3)上に直接形成され、ボディ表面(3)に対するコーティング系(20)の接着強度を増大させる1つ以上の接着向上層を含むことができる。
【0062】
同様に、コーティング系(20)は、コーティング系(20)を形成している様々な種類のコーティングの間(例えば5と7との間、または7と9との間)に1つ以上の中間層を含むことができる。この場合、中間層は、本質的に、様々な種類のコーティングの間の接着を改良することを、また結果的にコーティング系(20)全体の、または少なくともコーティング系(20)の一部の、内部の密着を改良することを意図している。
【0063】
好ましくは、主に銅からなるか、または銅が豊富である最大ドロップレット(10)の多くは、アンチボディ表面の、コーティング系(20)で被覆されたコーティングされたボディ表面との初期のトライボロジー接触が、アンチボディ表面と、主に銅からなるか、または銅が豊富である最大ドロップレット(10)との接触を少なくとも大部分についてもたらすようなやり方で、最外層(9)の表面に沿って分散される。
【0064】
本発明によれば、コーティング系(20)に含まれるコーティング(5または7または9)の1つ以上は、コーティング中へのドロップレットの組み込みを回避するための手段を用いることなく、カソードアークPVD法によって堆積することができる。
【0065】
同様に、場合によってさらに好ましくは、コーティング系(20)全体を、コーティング中へのドロップレットの組み込みを回避するための手段を用いることなく、カソードアークPVD法によって、ボディ表面(3)上に堆積することができる。これにより、信頼性を有し、同時に安価で、複雑ではなく、かつロバストなコーティング法を実現することを可能にする。
【0066】
特に、本発明によるコーティングされたボディは、トライボロジー操作の間、そのコーティングされた表面がトライボロジー摩耗に少なくとも部分的に曝される、部品(例えば、エンジン部品または機械部品)または工具であってよい。
【0067】
より詳細には、本発明によるコーティングされたボディは、切削工具または成形工具であってよい。例えば、そのような切削工具またはそのような成形工具は、スチール鋼および/または超硬合金および/またはセラミック化合物(例えばサーメット)および/または立方晶系窒化ホウ素からなる、または含む材料で作ることができる。
【0068】
本発明によれば、そのようなコーティングされた部品または工具は、対応するコーティングされた表面がトライボロジー摩耗に少なくとも部分的に曝され、また少なくとも一時的に500℃以上の高温に曝される用途において使用することができる。
【0069】
本発明によるコーティングされたボディの好ましい製造方法は、コーティング中のドロップレットの組み込みを回避するためのフィルタを使用することなく、反応性、カソードアークPVD法による最外層(9)の堆積を含む。最外層(9)の堆積に関して、本質的にモリブデンおよび銅を含む少なくとも1つのターゲットが使用されなくてはならない。その結果、主に銅からなるか、または銅が豊富である最大ドロップレット(10)が、アーク操作により窒素を含む大気中でカソードとして操作され、モリブデンおよび銅を含む、少なくとも1つのターゲットからの材料の溶融および蒸発によって生成される。最外層(9)の表面において、主に銅からなるか、または銅が豊富である最大ドロップレット(10)の量は、主に銅からなるものではなく、または銅が豊富ではない他の最大ドロップレット(10)の量と比較して多くあるべきである。
【0070】
好ましくは、少なくとも1つの、最外層(9)を生成するために使用されるモリブデンおよび銅を含むターゲットは、粉末冶金法で作られる。
【0071】
本発明によるコーティングされたボディの製造方法の好ましい実施形態において、粉末冶金法で作られた少なくとも1つのモリブデン−銅ターゲットは、主に銅を含むか、または銅が豊富である。
【0072】
本発明によるコーティングされたボディの好ましい実施形態において、モリブデンに対する原子パーセントでの銅の濃度は、層(9)の最も外側の10nmの領域において、好ましくは層(9)の最も外側の20nmの領域において(これらは表面に最も近い)、原子パーセントでターゲットの公称濃度と比較して高い濃度を有する。
【0073】
カソードアーク蒸発によりモリブデン銅コーティングを合成するための本発明による好ましい方法により、主にモリブデンおよび銅からなり、銅濃度がモリブデンに対して3at%を超える、好ましくは10at%を超える、粉末冶金法で作られたターゲットが使用され、前記ターゲット表面において、モリブデン−銅ターゲットの公称濃度に対して、銅濃度が激減していることを特徴とする。そのような公称濃度は、例えば表面から300μmを超える距離に存在する。
【符号の説明】
【0074】
1 コーティングされたボディ
3 ボディ表面
5 ハードコーティング
6 ドロップレット
7 硬い摩擦低減コーティング
8 ドロップレット
9 最外層
10 最大ドロップレット
20 コーティング系
図1
図2
図3