【文献】
Helge Zieler et al.,PNAS,2000年,Vol.97, No.21,pp.11516-11521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マイクロ流体デバイスが、ポリマー有機ケイ素化合物、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、環状オレフィンコポリマー、ポリスチレン及びポリカーボネートからなる群から選択されるポリマーから製作される、請求項1に記載のシステム。
マトリックスが、ヒドロゲル、ゲル化された合成又は天然ヒドロゲル、コラーゲンI、フィブリン;コラーゲンI、IV、ヒアルロナンの組合せ;キチン、キトサン、アルギネート、アガロース、ゼラチン、合成マトリックス、生物学的に導かれた(biologically inspired)合成(ハイブリッド)マトリックス、非生物学的なゲル、キトサン、アルギネート、アガロース及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
無脊椎動物細胞が、蚊中腸細胞、蚊細胞、初代無脊椎動物細胞、培養無脊椎動物細胞、初代蚊中腸細胞、培養蚊中腸細胞、ハエ細胞、害虫(bug)細胞、マダニ細胞及びショウジョウバエ細胞からなる群から選択される、請求項17に記載のシステム。
無脊椎動物細胞が蚊中腸細胞を含み、寄生虫の培養が、マラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫の昆虫段階、三日熱マラリア原虫又は齧歯類寄生虫種のプラスモディウム・ベルゲイ、熱帯熱マラリア原虫及びプラスモディウム・ヨエリを培養することを含む、請求項18に記載のシステム。
少なくとも1つの空洞に定着している細胞が肝細胞であり、前赤血球段階のマラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、プラスモディウム・ベルゲイ、熱帯熱マラリア原虫、プラスモディウム・オバール・クルチシ、プラスモディウム・オバール・ワリケリ、四日熱マラリア原虫、二日熱マラリア原虫及び/又はプラスモディウム・ヨエリの培養に微小環境が使用される、請求項1に記載のシステム。
少なくとも1つの空洞に、細胞接着を増強するアミノ酸又はタンパク質が灌流され、したがって細胞接着を増強するアミノ酸又はタンパク質でコーティングされる、請求項17に記載のシステム。
マイクロ流体デバイスが、ポリマー有機ケイ素化合物、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、環状オレフィンコポリマー、ポリスチレン及びポリカーボネートからなる群から選択されるポリマーから製作される、請求項17に記載のシステム。
マトリックスが、ヒドロゲル、ゲル化された合成又は天然ヒドロゲル、コラーゲンI、フィブリン;コラーゲンI、IV、ヒアルロナンの組合せ;キチン、キトサン、アルギネート、アガロース、ゼラチン、合成マトリックス、生物学的に導かれた合成(ハイブリッド)マトリックス、非生物学的なゲル、キトサン、アルギネート、アガロース及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項17に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面中、同一参照数字は、類似の要素又は成分を特定する。図面中の要素の寸法及び相対的な位置は必ずしも原寸に比例して図示されていない。例えば、種々の要素の形状及び角度は、原寸に比例して図示されておらず、これらの要素の一部は、図面を判読しやすいように恣意的に拡大及び配置されている。さらに、図示されているエレメントの特定の形状は、特定の要素の実際の形状に関するいかなる情報も伝達することを意図するものではなく、図面中で認識しやすいように選択しただけである。
【0014】
本明細書で提示する例は、本発明の理解を深めるためのものである。例は例示的なものであり、本発明は、例示的な実施形態に限定されるものではない。
【0015】
文脈上別段の解釈を要する場合を除き、明細書及び以下の特許請求の範囲の全体を通じて、用語「含む(comprise)」及びその変形体、例えば、「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」は、オープンな、包括的な意味で、即ち、「包含するが、限定されない」として解釈すべきである。
【0016】
本明細書の全体を通じて、「一例」若しくは「例示的な一実施形態」、「一実施形態(one embodiment)」、「一実施形態(an embodiment)」又はこれらの用語の組合せ及び/若しくは変形体への言及は、その実施形態に関連して記載した特定の特徴、構造又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に包含されることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な箇所に出現する「一実施形態において(in one embodiment)」又は「一実施形態において(in an embodiment)」という表現は、必ずしも全てが同一実施形態を指しているのではない。さらにまた、特定の特徴、構造又は特性は、1つ又は複数の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0017】
定義
一般に、本明細書中で使用する以下の用語は、文脈上別段の解釈が示唆される場合を除き、以下の意味を有する。
【0018】
本明細書中で使用する「BBB」は、脳特異的血管内皮によって形成された血液脳関門を意味すると理解される。
【0019】
本明細書中で使用する「ELISA」は、一般に認められているその意味を有し、酵素結合免疫吸着測定を意味すると理解される。
【0020】
本明細書中で使用する「HUVEC」は、一般に認められているその意味を有し、ヒト臍帯静脈内皮細胞を意味すると理解される。
【0021】
本明細書中で使用する「PDMS」は、一般に認められているその意味を有し、ポリジメチルシロキサンを意味すると理解される。
【0022】
本明細書中で使用する「複数」は、1より多いことを意味する。例えば、複数は、少なくとも3、4、5、70、1,000、10,000又はそれ以上を指す。
【0023】
本明細書中で使用する「TEM」は、組織工学的微小環境を意味すると理解される。
【0024】
本明細書中で使用する「組織」は、1つ又は複数の特定の機能を果たすために特化された、細胞外マトリックス分泌物と一体化した、同一起源からの1種又は数種の同様な型の細胞の集合と定義する。
【0025】
本明細書中で使用する「臓器」は、複数の組織からなるより高レベルの組織化した構造を意味し、臓器の機能は、複数の組織の相互作用によってのみ可能である。
【0026】
例示的な実施形態
組織工学的微小環境(TEM)の作製のためのマイクロ流体デバイスが、本発明者によって開発された。これらのデバイスは、三次元マトリックスが満たされたチャンバーを含む。マトリックスは、種々の細胞種が定着してチューブ状細胞構造を生じることができるチューブ状空洞を含む。これらの細胞チューブは、デバイスの流体チャネルに管腔状に接続しており、したがって、細胞チューブには栄養溶液、被験物質、細胞溶液又は他の流体を灌流させることができる。管腔灌流及びマトリックスを通る灌流又は拡散は、デバイス内における微小環境条件の厳格な制御を可能にする。流体の圧力及び剪断応力は、細胞の形状、増殖、分化及びタンパク質発現に影響を及ぼすことが知られている。
【0027】
流体デバイスは、ガラス板とポリカーボネート板との間に挟まれたポリジメチルシロキサン(PDMS)製の小型チップとして設計される。これらの組織工学的微小環境チップ(TEMチップ)は、種々の組織及び臓器のマイクロ構造及び機能パラメーターを再現するインビトロモデルを作製するために設計されている。このセットアップは、マトリックス(例えば、ゲル化コラーゲンI、フィブリン、又はコラーゲンI、IV、及び/若しくはヒアルロナンの組合せ)によって完全に取り囲まれたチューブ状細胞構造をもたらすので、細胞と非生物学的材料との直接接触が防がれる。組織由来タンパク質との接触は、インビトロで生理的挙動を支持することが示されている。他方、非生物学的材料との接触は、細胞応答に悪影響を与えるおそれがある。
【0028】
TEMチップの構造は、独立して灌流させることができ且つ例えば細胞バリア又は他のバリアによって互いに隔てることができる2つ又はそれ以上の組織コンパートメントの作製を可能にする。例えば、コラーゲンマトリックス内の単一チューブ状細胞構造は、細胞チューブ内の管腔コンパートメント及び取り囲んでいるマトリックスによって構成される管腔外コンパートメントからなる、2コンパートメントシステムを提示する。両コンパートメントは、「内部」と「外部」の間にバリアを形成する細胞の層によって隔てられる。このコンパートメント化されたセットアップは、多くの組織及び臓器、例えば、微小血管系、腎尿細管及び精細管(seminiferous cell tubule)のマイクロ構造を模倣している。重要なことに、このセットアップは細胞を分極させ、これはバリア機能を有する組織に特に重要である。
【0029】
III.TEMチップの設計
この例中で使用及び企図するTEMチップは、光学的に透明であり、蛍光イメージング、共焦点、明視野及び位相差顕微鏡イメージングとの両立を可能にするように構築されている。インプット又はアウトプット流体ポートのいずれかから収集された流体試料は、オフライン技術、例えば、液体クロマトグラフィー、質量分析、ELISA又はゲル電気泳動を用いて分析できる。マルチコンパートメントTEMチップにおいて、細胞チューブには、細胞接種、栄養及び培養物維持のための最適な培地を独立して灌流させることができる。これらの培地には、生物活性剤(例えば、抗体、薬物、毒素又はワクチン)を補充することができる。特定の研究に関しては、灌流液は、血液、血液成分又は代替血液である可能性もある。管腔流体路はまた、マイクロ粒子、ナノ粒子、単一細胞若しくは細胞集合体(例えば、血液細胞、がん細胞、細胞スフェロイド)、又は微生物(ウイルス、細菌又は寄生虫)の投与に役立つ可能性もある。全ての灌流液は、さらなる分析のために流体サンプリング用ポートを使用して収集できる。加えて、細胞をデバイスから抜き取って、遺伝子又はタンパク質発現を評価することもできる。
【0030】
ここで
図1A〜
図1Fを一緒に参照すると、それぞれ、2コンパートメント及び3コンパートメント(単一細胞チューブ及び二重細胞チューブ)TEMチップの例が示されている。
図1A〜
図1Cは、2コンパートメントチップを示し、
図1D〜
図1Fは、3コンパートメントチップを示している。
【0031】
ここで特に
図1B及び
図1Eを参照すると、2つのTEMチップ型の技術設計が示されている。L1−L2は、管腔で臓器細胞チューブに灌流させる流体接続を表す。L3−L4は、血管細胞チューブの灌流のための接続を表す。T1は、臓器細胞によって形成された細胞チューブを表し、T2は、血管細胞によって形成された細胞チューブを表す。B1〜B4は、バブルトラップを表す。N1〜N4は、流体注入又はサンプリングのためにノンコアリングセプタムニードルを挿入できる、セプタムを位置付けることができる領域を表す。N1及びN4はまた、特に細胞注入ポートを表し、細胞を注入して生物学的マトリックス中の空洞に流入させ、したがって、細胞チューブ又は中実細胞塊(T1、T2)を形成する。M1−M2は、細胞外生物学的マトリックスとの流体接続を表し、注入化合物の流体流又は拡散が起こる。図示したデバイスにおいて、生物学的マトリックス中に空洞を形成するための好ましい方法は、マンドレルを使用し、それをデバイスにL2でN1に達するまで(又はL4でN4に達するまで)挿入してから、M1又はM2を介して生物学的マトリックスを注入することである。マトリックスのゲル化後、このマンドレルを除去し、L1−L2又はL3−L4と流体接続する空洞をマトリックス中に残す。
【0032】
図1Cに示す単一チップ内には、2つの別個の、独立して灌流可能なコンパートメントがあり、1つは管腔コンパートメント、1つはマトリックスコンパートメントである。これらのコンパートメントは、細胞チューブによって形成された細胞バリアによって隔てられている。
図1Fは、3コンパートメントチップの概略図を示し、2つの細胞チューブのそれぞれが、マトリックスコンパートメントに加えて、隔てられた独立した流体接続を有する。
【0033】
特定の用途で用いられる際には、マルチコンパートメントTEMチップを使用して、インビトロで臓器又は組織の構造及び/又は機能単位の組合せを作製することができる。例えば、3コンパートメントTEMチップは、血管細胞から作られたチューブを、組織/臓器特異的細胞から作られたチューブと一緒に統合することができる。管腔で灌流される血管構造をシステムに組み込むことによって、栄養を組織/臓器特異的細胞に供給し、代謝産物を除去して、インビボの血管機能を模することができる。血管を含む又は含まない、種々の細胞源からのチューブの他の組合せも可能である。
【0034】
マトリックスコンパートメントは、細胞、組織及び全身レベルで重要で複雑な役割を果たす、インビボの細胞間隙を模している。チューブ状空洞内に播種された細胞に加えて、マトリックスコンパートメントには、微小環境構造の設計にさらなる柔軟性を加える細胞種が定着することができ、例えば、星状細胞、周皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、肝細胞を、細胞外マトリックスへの統合のために選択できる。種々の供給源からの多くの他の細胞種が、単独又は組合せで、細胞外マトリックス中に埋め込まれる潜在的候補である。細胞は、マトリックス全体に均一に分散させることもできるし、又はマトリックスに関して特異的な位置に沈着させることもできる。それらは、特定の配列でグループ化し、他の細胞種と組合せ、又はあらかじめ形成された構造(例えば、スフェロイド)として埋め込むこともできる。TEMチップを用いた予備的研究において示されるように、特定の細胞種を細胞外マトリックスコンパートメントに加えると、細胞チューブを構成する細胞からの細胞応答が影響される。
【0035】
ここで
図2A、
図2B、
図2C及び
図2Dを参照すると、HUVECで作製された血管細胞チューブを取り囲むマトリックス中への細胞の埋め込みの例が示されている。
図2Aは、血管細胞チューブの近くに埋め込まれたヒト脳星状細胞及び周皮細胞を示している。
図2Bは、血管細胞チューブの壁に集められて、HUVECの出芽(
図2C及び
図2Dに最も良く示されている)を刺激する周皮細胞及び星状細胞を示している。これらの図を一緒に検討すると、細胞応答が他の細胞種の存在によってどのように影響を受けるかがわかる。さらに、非細胞成分(例えば、マイクロ粒子及びナノ粒子、メッシュ又は持続放出材料)も、マトリックスに同様に加えることができる。
【0036】
IV.組織/臓器特異的モデルの例
TEMチップシステムの重点は、ヒトの生理機能、病態又は生物活性化合物、例えば、医薬、ワクチン、化粧品若しくは毒性化合物への応答を研究するために、ヒト細胞(初代の又は培養された)と共に使用することに置かれる。しかし、TEMチップはまた、例えば、動物の生理機能及び病態を研究するための、薬物応答を実験動物から得られたデータと比較するための並びに動物からヒトに伝染する疾患を研究するための動物細胞の使用に適用できる。
【0037】
原理証明を確立するために、多くのTEMチップシステムを開発した。これらには以下が含まれる。
− 「単一臓器」機能サブユニットのインビトロ血管化臓器模倣物としての腎臓、腸及び肝臓3D組織微小環境、
− 多細胞バリア型システムの機能性を実証する血液脳関門モデル、
− 腫瘍生物学におけるアッセイの適合性を実証する及び腫瘍−内皮相互作用に関する研究のための血管化腫瘍モデル、並びに
− 循環腫瘍細胞が血管を通って移動して転移を形成する能力を研究するための血管外溢出モデル。
【0038】
機能性臓器サブユニットの例示的モデルに関する研究のためのシステムは、細胞チューブのうちの1つが血管に相当する2コンパートメント又は3コンパートメントTEMチップ上に構築できる。3コンパートメントTEMチップにおいて、血管細胞チューブと臓器細胞チューブとの間の距離は、血管細胞チューブから組織/臓器様細胞チューブへの又はその逆の化合物の拡散を促進するために、並びに必要があれば、血管芽と臓器細胞との直接的な細胞間接触を作るために、0.5mm未満に保つ。しかし、この距離は、必要に応じて容易に調整できる。
【0039】
腎臓モデル
ここで
図3A、
図3B及び
図3C参照すると、HEK293チューブ及びHUVECから作製された対応する血管細胞チューブを含む腎臓モデルを示す3コンパートメントモデルの一例が4日間にわたって示されている。示した図に関して、スケールバー=150μm。薬物及び他の物質の腎クリアランスの予測のために、ヒト腎臓の多細胞の複雑さ及び3D構造を捕らえるインビトロモデルが非常に望ましい。腎臓TEMチップは、コラーゲンI内の2つのチューブ状空洞のうちの1つにヒト胎児由来腎臓細胞(HEK−293)を播種することによって作製した。次に、初代ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を第2の空洞に播種し、細胞培養培地を用いて連続的に灌流しながら培養した。
【0040】
さらに
図3A、
図3B及び
図3Cを参照すると、示した実験において、腎臓構造には、意図的に灌流させず、栄養及び代謝最終産物の交換は、血管細胞チューブのみによって行った。血管細胞チューブへの及び血管細胞チューブからの栄養の拡散は、少なくとも1週間にわたって腎臓細胞の培養を持続するのに十分であった。機能評価に関しては、管腔灌流を用いて、管腔から細胞への頂端部吸収及び細胞から管腔への排泄を調べることができると同時に、マトリックス灌流を用いて、基底側トランスポーター機能を評価することができる。
【0041】
腸モデル
ここで
図4A〜
図4Cを参照すると、HT29細胞株から作製された細胞チューブ及びHUVECから作製された対応する血管細胞チューブを含む腸モデルを含む3コンパートメントセットアップの一例が示されている。示した図に関して、スケールバー=150μm。
【0042】
肝臓と共に、腸は、薬物又は毒素の初回通過除去に関与し、経口投与された薬物の吸着を調節する重要なバリア組織である。腸バリアは、タイトジャンクションによって細胞が互いに結合している上皮細胞単層からなる。物質は、主に膜拡散によってこのバリアを横切る。腸から消化管に投与された化合物の循環系への移動を予測することは、薬物候補の評価に極めて重要である。しかし、利用できる、腸バリアのインビトロモデルはいずれも、血管成分を含まない。腸TEMチップは、薬物及び毒素の吸着に関する研究のために、腸上皮と並列に機能的血管成分を含む。
【0043】
ここで
図4Aと
図4Bをより具体的に参照すると、ヒト結腸癌由来のHT−29及びCaco−2細胞を利用して、腸様TEMを作製する細胞チューブを形成した。腎臓モデルと同様に、腸細胞を、チューブ状空洞の1つに播種し、広げた。HUVEC細胞を第2の空洞に播種し、培養培地を絶えず流しながら培養した。腸細胞を含む細胞チューブは、灌流させず、血管細胞チューブへの及び血管細胞チューブからの代謝物の拡散によって維持した(
図4Cでもわかる通り)。
【0044】
肝臓モデル
ここで
図5Aに参照すると、Hep−G2細胞から作製された肝細胞チューブ及びHUVECで作製された血管細胞チューブを含み、両チューブが第3のコンパートメントによって隔てられている肝臓モデルを示す3コンパートメントモデルの一例が示されている。
図5Bは、血管を取り囲むマトリックス中に埋め込まれた肝細胞を示す。示した図に関して、スケールバー=150μm。
【0045】
肝臓は、血中グルコース恒常性、血漿タンパク質合成、解毒作用、胆汁生成及び輸送などの重要プロセスを調節する。肝臓は複雑であるため、インビトロモデル、例えば、肝臓の細胞成分ホモジネート、並びに薬物の生体内変換を評価するために一般的に使用される初代肝細胞培養物は、肝細胞特異的機能をインビトロで維持することができない。肝細胞の極性及び他の非実質肝細胞との相互作用を含む、3D微小環境を模した細胞生理機能のインビトロモデルを開発するという重大な必要性がある。さらにまた、肝臓モデルを他の臓器モデルと、特に胃腸バリアモデル及び/又は腎臓のモデルと統合化できるシステムに特別な関心が集まっている。肝臓と共に、これらの臓器は、薬物及び他の化合物を排出する。
【0046】
肝臓TEMチップにおいては、ヒト肝細胞癌細胞(Hep−G2)、HUVEC細胞及びコラーゲンIマトリックスを、主要な成分として使用した。肝類洞を模するために、HUVECをコラーゲン空洞のうちの一方に播種した。Hep−G2細胞を、コラーゲン空洞の他方に播種し、増殖させ、広げた(
図5Aに示す通り)。インビボで肝細胞プレートと類似する構造を作製するために、肝細胞も細胞チューブを囲むマトリックス中に埋め込んだ(
図5Bに示す通り)。培養物は、血管細胞チューブの灌流によって維持した。このようなモデルは、マラリアの前赤血球段階の研究に適合させることができる。初感染後、マラリア原虫は、肝臓に移動し、そこで発育し、第1段階の複製を起こす。この段階の寄生虫の発育は、マラリアワクチン開発のための最も有望な標的に相当するので、研究者にとって極めて興味深い。適合された肝臓チップにおいて、空洞に、初代ヒト肝細胞又は樹立肝細胞癌細胞株、例えば、HepG2及びHC−04を播種することができる。播種後、これらの細胞を、増殖させ、広げて、細胞チューブを形成する。インビボ様類洞肝組織により類似した構造を作製するために、肝細胞を、細胞チューブを取り囲むマリックス中に埋め込むこともできる。細胞チューブ自体に、他の肝臓類洞細胞、例えば、樹立肝細胞共培養細胞株に由来するKupffer細胞を補充することができる。次いで、寄生虫を、樹立肝臓組織チップに注入することができる。寄生虫は、肝細胞に侵入して肝臓段階を形成し、肝細胞チューブ又は周囲のマトリックスの灌流によって維持されながら、成熟した及びメロゾイト産生肝臓段階(シゾント)に発育することができる。
【0047】
肝細胞を用いる一例において、微小環境は、前赤血球段階のマラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、プラスモディウム・ベルゲイ(Plasmodium berghei)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、プラスモディウム・オバール・クルチシ(Plasmodium ovale curtisi)、プラスモディウム・オバール・ワリケリ(Plasmodium ovale wallikeri)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、二日熱マラリア原虫(Plasmodium knowlesi)及び/又はプラスモディウム・ヨエリ(Plasmodium yoelii)の培養に使用できる。
【0048】
血液脳関門モデル
ここで
図6A〜
図6Fを一緒に参照すると、2コンパートメントデバイス中の血管細胞チューブ(初代ヒト微小血管内皮細胞から作製)の壁を横切る傍細胞透過性を特に示す血液脳関門モデルの一例が図示されている。
【0049】
図6Aは、傾斜照明顕微鏡画像を示す。
図6B〜
図6Dは、5分間灌流後の血管細胞チューブの広視野蛍光画像である。
図6Bは、Oregon Green(MW368)を用いた灌流を示す。
図6Cは、Alexa Fluor 488−デキストラン(MW4kDa)を用いた灌流を示す。
図6Dは、Alexa Fluor 594−デキストラン(MW10kDa)を用いた灌流を示す。この例で、試験した血管細胞チューブ28個のうち14個は、BSAに対して非透過性であることがわかったが、血管細胞チューブ壁の平均透過性は1×10
−6cm/s(N=28)と算出され、これは、単離哺乳動物細静脈の透過性(約2×10
−6cm/s;Yuan,W.ら、2009)に匹敵した。Oregon Greenに対する血管細胞チューブの透過性(2.5×10
−5cm/s、N=22)は、ラット脳内皮細胞−星状細胞共培養物に関して報告された値(1.1x10
−5cm/s;Blasig,I.ら、,2001)に匹敵する。10Kデキストランに対する透過性は、インビボの場合と同様であり、2.7×10
−7cm/s(N=6)であることがわかった。血管細胞チューブ壁の完全被覆が、内皮マーカーVE−カドヘリン(
図6Eに示す通り)及びPECAM(
図6Fに示す通り)の発現によって実証される。
【0050】
血液脳関門モデルを、2コンパートメントTEMチップとして設計する。血液脳関門モデルは、微小血管内皮細胞、周皮細胞及び星状細胞を含むヒト脳神経血管単位を構成する細胞種から作製した。この組織様環境は、血管細胞チューブを支持する3D細胞外マトリックス(ECM)に埋め込まれたヒト脳周皮細胞及び星状細胞を含み、インビボ構造を模して、異なる細胞種間の物理的接触を可能にする。この血管細胞チューブは、管腔流に曝露される。被験薬物は、血管を通る流体路に加えることができる。血管からの薬物透過は、血管外で収集された流体(ECMウォッシュアウト)を分析することによって、又は蛍光トレーサーで薬物を可視化することによって、測定できる。
【0051】
ここで
図7A及び
図7Bを参照すると、hCMEC/D3(ヒト脳微小血管細胞株)並びにECMに埋め込まれた周皮細胞及び星状細胞(初代ヒト脳細胞)からなるBBBモデルにおける細胞の再編成が示されている。特に、
図7Aは、マトリックスに埋め込まれた星状細胞及び周皮細胞が、これらの細胞種とECとの綿密な関連をもたらすことを示しており、
図7Bにおいてみられる血管直径の緩徐な減少を引き起こす。
【0052】
結果は、血管細胞チューブがインビボにおける微小血管内皮の形態的及び機能的特性を示すことを実証している。血管細胞チューブ内の細胞は、内皮の形態を有し、内皮マーカーの典型的な細胞周囲局在を示す(
図6A〜
図6Fに最も良く示される通り)。細胞は、コンタクトインヒビションの形態を有する密集した層を形成する。マトリックスに埋め込まれた星状細胞及び周皮細胞はいずれも、血管細胞チューブに集められ、その形態に対して重大な影響を及ぼす(
図7A及び
図7Bに最も良く示される通り)。BBBモデルを用いて得られるバリア機能は、他のインビトロBBBモデルに関して発表されたデータと類似しているか、又はそれより優れている。
【0053】
がんモデル
がんTEMチップは、がん細胞と微小血管内皮の細胞との相互作用、例えば、血管内異物侵入及び血管外溢出時のホーミングシグナル(homing signal)、腫瘍血管新生並びに新生血管系によって発現されるマーカーに関する研究を可能にするために開発した。重要なことに、このモデルは抗がん薬のスクリーニング並びに他の治療法、例えば、がん細胞及び腫瘍血管系に対する放射線の効果の評価を可能にする。3コンパートメントチップにおいて、細胞チューブの1つには、がん細胞が細胞チューブ又は細胞シリンダーの形態で定着することができ(
図3A、
図3B及び
図3Cに関して前記で示した通り)、他の細胞チューブには内皮細胞を播種して、がん細胞チューブに向かって出芽する能力を有する血管細胞チューブを作製することができる(以下でより詳細に論じる
図8A〜
図8F及び9A〜
図9Dを参照のこと)。
【0054】
ここで
図8A〜
図8Fを参照すると、7日間にわたる腫瘍−内皮相互作用の2コンパートメントモデルの一例のインビトロ画像。特に
図8Aを参照すると、チューブ状空洞を作製するために使用されたマンドレルの近くのコラーゲン中に埋め込まれたBT−474細胞(乳がん細胞株)のがん細胞クラスターが示されている。次に、
図8Bで示すように、HUVECを空洞に播種した。
図8C〜
図8Fは、「親の」HUVECチューブからがん細胞に向かって成長した芽の拡大図である。示した図に関して、スケールバー=150μm。
【0055】
ここで
図9A〜
図9Dを参照すると、それらは、腫瘍−内皮相互作用の3コンパートメントモデルの一例を16日間にわたって一緒に示す。
図9Aは、HUVECチューブ(上部チューブ)の形成後に、1つのコラーゲン空洞(底部チューブ)中に沈着させたCaco−2(ヒト結腸直腸腺癌)細胞を示す。
図9Bは、播種の4日後に親のHUVEC血管から形成された芽を示す。
図9C及び
図9Dは、底部コラーゲンチャネル中に沈着したヒト肝癌細胞(Hep−G2細胞株)、及びHUVECが上部チャネルに播種されたことを示す。示した図に関して、スケールバー=150μm。
【0056】
実験のために、ヒト乳がん細胞(BT−474)、結腸直腸腺癌細胞(Caco−2)及び肝細胞癌細胞(Hep−G2)を使用した。2つのチュープ状空洞のうちの一方にがん細胞を、他方にHUVECを播種した。培養物は、血管細胞チューブ(HUVECチューブ)を通る灌流のみによって維持し、がん細胞が定着した細胞チューブには、灌流させなかった。例えば、
図8C及び
図9Dに示される通り、血管細胞チューブは、がん細胞構造に向かう芽を発育させた。
【0057】
がん細胞血管外溢出モデル
ここで
図10A及び
図10Bを一緒に参照すると、がん細胞血管外溢出の一例が示されている。特に
図10Aを参照すると、蛍光タグ付き前立腺癌(PC3)細胞は、HUVECチューブの管腔に投与され、HUVECチューブにおいて細胞は、矢印10によって示されるように、内皮芽の内壁に接着する。
【0058】
ここで
図10Bを参照すると、血管外溢出の進行を連続的にモニターできる。播種の20時間後、矢印10’によって示されるように、PC3細胞は内皮を通って周囲のECM右画像に移動した。
【0059】
血管外溢出は、循環腫瘍細胞が血管を通って移動して転移を形成する能力である。腫瘍細胞が内皮細胞間結合を透過するメカニズムは、一つには適切なモデルがないことにより、依然として、がん進行において最も理解されていないものの1つである。腫瘍細胞が内皮細胞層を透過するメカニズムに影響を与える因子の研究は、新しいがん治療法につながると期待される。血管外溢出の研究のために現在商業的に入手可能なのは、インビトロモデルの1つの型のみである:1960年代にBoydenによって走化性に関する研究のために開発された、Boyden−Chamber/Transwell−lnvasion−Assay。このアッセイは、安価で実施しやすいが、腫瘍細胞及び内皮のリアルタイム観察を可能にしない。加えて、内皮と循環腫瘍細胞との相互作用及び腫瘍細胞変形に対する剪断応力の役割が重要であるにもかかわらず、このアッセイは、静止状態下での腫瘍細胞移動を扱う。TEMチップは、管腔流の存在下において組織様マトリックス内で出芽微小血管系を用いる腫瘍細胞血管外溢出のリアルタイム研究を可能にする。さらにまた、このモデルは、重要なエレメント、例えば、追加の細胞、細胞外マトリックス、成長因子、並びに灌流パラメーター及び他の物理的条件を加え、変更することができる。例えば、マトリックスに、種々の間質細胞(正常細胞、反応細胞又は老化細胞)、様々ながん細胞種又は患者特異的な細胞(個別化薬物の試験のための)が定着することができる。
【0060】
がん細胞血管外溢出TEMチップは、2コンパートメント及び3コンパートメントセットアップの両方を用いて設計した。2コンパートメントデバイスにおいては、単一の「親」血管細胞チューブを作製し、その後にそれを血管新生出芽に誘導する。このシステムにおいてそれらの血管外溢出可能性を試験するために、蛍光タグ付き(即ち、CellTracker染料を含む)高転移性PC−3前立腺癌細胞(
図10Aにおいて最もよく見える)の懸濁液を、管腔流体流に加えて、血管芽に沈着させた。特定の時間枠内で内皮芽中を通ってマトリックスに移動したがん細胞の割合を、芽内に捕捉されたままであるがん細胞の割合に対して決定することによって、血管外溢出能を測定する。
【0061】
3コンパートメントデバイスにおいては、2つの「親」血管細胞チューブを作製する。その後にその芽が吻合し、毛細血管網を形成する。流体流は、1つの「親」細胞チューブから毛細血管網を経て、動脈及び静脈末端を有する血管床に類似する第2の「親」細胞チューブに送ることができる。がん細胞は、その転移能を評価するために、この血管床を循環させることができる。その後に、内皮細管壁を経たそれらの進行を、連続的に又は時間間隔をあけてモニターすることができる。
【0062】
種々の組織/臓器モデルの統合
TEMチップ設計は、他と統合してより大きなプラットフォームにすることができる単一モジュールとして個々のチップを使用し、それによって、生理的及び病理学的意義を有する多臓器セットアップ、例えば、腸モジュール、肝臓モジュール及び腎臓モジュールの組合せを作製することを可能にする。それぞれが同一の又は異なる種々の組織/臓器種に相当する2個、3個及び最大で10個までのTEMチップを有するプラットフォームを、開発のために提示する。
【0063】
これらの統合した多臓器プラットフォームは、薬物候補及び他の物質の毒性効果を、個々の臓器培養物だけでなく、対応する順序での複数の臓器モデルの複合臓器システム(例えば腸、肝臓及び腎臓)に対して検討するための新規方法を提示する。このようなセットアップは、同じ臓器の構造/機能サブユニット(例えば、遠位腎尿細管に関して近位の)の組合せ又は異なる臓器(例えば、腸バリアと肝臓及び血液脳関門)の組合せを含み得る。一方向循環流システムを設計した。
図11〜
図13は、後述のように4〜10個のTEMチップを統合する流体セットアップを示す。
【0064】
ここで
図11を参照すると、各チップが異なる臓器に相当する複合システムを形成する4つの接続されたTEMチップの一例が図示されている。腎臓、腸及びBBB TEMチップに接続された中央の2コンパートメント肝臓TEMチップ。他の臓器種のTEMも、研究者の所望に応じて加えることができる。全てのモジュールは、血管(「血液」)流に相当する共通の流体路を共有する。酸素を流れに拡散させて、存在しない生理的システム(例えば、肺)に代えることができる。I1は、腸細胞チューブによって吸収されて血管細胞チューブに移される栄養の注入用ポートを表す。E1は、分析、例えば、グルコースモニタリングのために流体を抜き取るためのポートを表す。測定(例:酸素、pH)のためにこれらの点でセンサーを直接挿入できることに留意されたい。I2は、肝臓によって緩衝化及び吸収される化合物の注入用ポートを表し、E2は、肝臓チップによって濾過される流体を抜き取るためのポートを表し、前記化合物の濃度及びその動態の変化の研究から、予備的肝臓機能が示される。I3−E3は、肝臓モジュールから胆汁を抜き取るためのポートを表す。I4は、血液脳関門試験のための化合物の注入用ポートを表し、ポートE4及びE5から、バリア機能の測定のための試料を抜き取る。I5は、腎臓チップへの、例えば窒素含有物質の、注入用ポートを表す。ポートE7から、この腎臓モジュールの近位腎尿細管からの試料を抜き取り、窒素含有物質について分析する。ポートI6においてグルコース溶液を注入し、ポートE6を大気に開放したままにしておき、グルコース溶液がマトリックスコンパートメント中に集まるかどうかチェックすることによって、他の腎機能を実証できる。
【0065】
ここで
図12を参照すると、各チップが異なる臓器に相当する4つのTEMチップを接続するための、複合システムの代替構造の一例が図示されている。中央の3コンパートメント肝臓チップは、腎臓、腸及びBBB TEMチップに接続されている。
【0066】
ここで
図13を参照すると、代替構造の一例は、1つの回路に統合された複数のさらに多くの生理的モジュールを使用する代替構造の一例を示している。3つの遮断弁対50A、50B及び50Cのうちの1つが、所定の任意の時間に機能している。遮断部のための再循環ポンプ(図示せず)が、必要とされることもある。
【0067】
ここまで、インビトロで組織及び臓器の複数のコンパートメント化微小環境を作製するためのマイクロ流体システムについて記載した。前記で開示したシステムは、別個のコンパートメントの独立した灌流を可能にする。このシステムは、インビボ機能を模した組織及び臓器のインビトロモデルを作製するために設計されている。
【0068】
簡潔に要約すると、マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの空洞を取り囲むマトリックスで満たされたチャンバーを含む。デバイスの流体チャネルの、チャンバーへの接続は、空洞中を流れる流体がマトリックスと接続せず且つマトリックス中を流れる流体が空洞と接続しないように行う。複数の細胞種を空洞に播種することができ、空洞で、細胞は機能的な組織又は臓器単位を形成することができる。空洞内の細胞は、バリアを形成する細胞膜によってマトリックスと隔てられている。したがって、細胞付着又は足場材料のために人工材料は必要ない。このシステムの重要な特徴としては、コンパートメント化されたセットアップ、人工材料がないこと及び独立した灌流能が挙げられる。
【0069】
これらの特徴は一緒になって、システムがインビボ環境を厳密に模することができるようにし、組織生物学の複数の側面を研究する柔軟性を使用者に与える。特に、細胞膜によって隔てられたコンパートメントに独立して灌流する能力により、これまでは実行不可能であった実験を行うことが可能となる。これらには、細胞バリアに関連した実験、例えば、種々の刺激に応答する特異的な細胞のバリア能力の検討、及び細胞バリアを横切る種々の化合物の輸送の検討が含まれる。さらに、研究者は、サイトカイン又は薬物代謝産物のような種々の細胞アウトプットを単離するために、複数のコンパートメントから独立して試料を抜き取ることができる。勾配は1つの空洞から作製でき、細胞の影響は、第2の空洞に定着している別個の組織又は細胞において研究できる。最後に、このシステムにより、使用者は複数の組織間の相互作用を研究できる。これは、種々の組織及び刺激がどのように相互作用するかを理解するために複数のマイクロ流体デバイスを接続する場合に特に重要である。このシステムを使用する場合、モジュールは血管(「血液」)流に相当する共通の流体路を共有し、研究者は、どのように化合物が代謝され且つ種々の刺激に応答して組織機能が影響され得るかを正確に予測できるようになる。
【0070】
寄生虫の培養環境として無脊椎動物組織及び臓器の機能単位を再現するための用途に関する説明
上記で基本的なマイクロ流体デバイスについて記載したが、次にこれらのデバイスのより具体的な用途を、特にワクチン研究用途に関して扱う。ここでの例は蚊中腸チップ及び細胞を扱うが、本発明はそのように限定するものではない。他の無脊椎動物の細胞を種々の他の用途に使用できることは、この開示の利益を有する当業者には理解されるであろう。例えば、ダニ媒介疾患、例えば、ライム病及び他の関連状態などに関連した潜在的薬物を分析するためにダニ細胞をダニ細胞チップに使用できることが企図される。同様に、マラリアなどを含む寄生虫疾患のための試験チップを作るために、ショウジョウバエからの細胞を使用できる。ここでの例は蚊中腸環境の要約を扱うが、それは、他の無脊椎動物組織、例えば、プラスモディウム属スポロゾイトの培養のための蚊唾液腺微小環境を作製するためにも使用できる。
【0071】
再び
図1A〜
図1Cを同時に参照すると、TEMチップ設計の一例が示されており、
図1Aは、容易に組み立てられるTEMチップの写真を示し、
図1Bは、Seattle,WAのNortis,Inc.によって構築された2コンパートメントシステムの詳細な概略図を示している。
図1Cに示されている単一チップ内には、2つの別個の、独立して灌流可能なコンパートメントがあり、1つは管腔コンパートメントであり、1つはマトリックスコンパートメントである。これらのコンパートメントは、細胞チューブによって形成された細胞バリアによって隔てられている。Nortisチップにおいて、マトリックスコンパートメントは細胞外マトリックスを含み、細胞外マトリックスは、結合組織又は間隙の形態で組織及び血管を自然に取り囲んでいる。両コンパートメントは一緒になって、培養デバイスの独特な構造を生じ、新規で且つシステムに特有である実質的な有益をもたらす。必要に応じて、中腸組織を構成する細胞チューブへの栄養の供給は、作製された細胞チューブを経て適用されるのではなく、側部の灌流ポートからの及び細胞チューブの周囲の培地流を経て行い得る。組織特異的細胞及び細胞チューブ管腔からの流れのこの空間的分離は、培地流から剪断応力による損傷及び撹乱から両者を保護すると同時に、拡散による最適な栄養補助も可能にする。
【0072】
チューブ状空洞内に播種された細胞に加えて、細胞外マトリックスコンパートメントには、個々の実験計画に望ましい細胞が定着することができる。このコンパートメントは、細胞チューブと独立して灌流させることができ、細胞分析又は生化学分析のために試料を取り出すことができる。初代蚊中腸細胞又は樹立蚊細胞株からの細胞を選択して、統合し、細胞外マトリックスに埋め込むことができる。種々の供給源(例えば、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster))からの他の細胞種も、単独又は組合せで、同様に細胞外マトリックスに埋め込まれる潜在的候補である。
【0073】
追加の細胞及び細胞種がマトリックスコンパートメントに定着するための選択肢によって、細胞増殖、成長及び組織化の操作につながる実験条件のさらなる変数、例えば、細胞培養培地及び環境の状態調節の刺激が可能になる。他の組織微小環境を用いた予備的研究において示されるように、特定の細胞種を細胞外マトリックスコンパートメントに加える(典型的には、生物学的マトリックスに細胞を混ぜることによって行う)と、細胞チューブを構成する細胞からの細胞応答が影響を受ける。
【実施例1】
【0074】
蚊中腸微小環境
ここに開示するTEMチップシステムの重点は、蚊中腸様生理機能を発生させ且つ熱帯熱マラリア原虫の昆虫段階の培養を成功させることができる微小環境を作製するために、蚊中腸細胞(初代の又は培養された)を使用することに置かれる。しかし、ここに記載するTEMチップは、他のプラスモディウム属種、例えば、三日熱マラリア原虫又はマウス寄生虫種のプラスモディウム・ベルゲイ、熱帯熱マラリア原虫及びプラスモディウム・ヨエリを培養するのに同様に使用できる。このシステムは、潜在的なマラリアワクチン候補、伝染阻止ワクチン候補又は他の抗マラリア化合物の試験のために最適化されたプラットフォームを提供し、インビトロマラリア原虫培養物に対する及び古典的な膜フィーディングアッセイの現在の「ゴールドスタンダード」の実質的な改善を可能にする。
【0075】
蚊細胞の培養環境としてのTEMチップの適性のための原理証明を確立するために、樹立蚊細胞株からTEMチップに細胞を播種してコンフルエンスまで培養する予備的なシステムを開発した。このシステムは、蚊中腸様構造に相当する細胞チューブを含む2コンパートメントチップ上に構築する。
【0076】
細胞外マトリックスコンパートメントは、コラーゲンIから構成し、内側の、空洞表面は、細胞播種の前にポリ−L−リシンでコーティングした。コラーゲンI表面のコーティングは、室温においてコラーゲン空洞に10μg/mlポリ−Lリシン溶液を流量0.25〜5μl/分で1時間にわたって管腔灌流させることによって行った。
【0077】
細胞チューブは、蚊幼虫の細胞調製物に由来する培養された不死化蚊細胞(4A−3B細胞)であって、公表され、ATCC/MR4に既に寄託されている細胞(George K. Christophodes、Imperial College、London、2002)によって形成した。細胞を、緩和なトリプシン処理後に細胞培養血管から採取し、細胞100万個/mlの濃度でN1セプタムから注入し、室温で流量5ml/分で約15分間循環させた。4A−3B細胞の培養物を、最初の培養血管中及びTEMチップの内部の両方において、10%不活性化ウシ胎仔血清を補充したSchneiders昆虫培養培地で維持した。播種後、新鮮な培地の流量を終夜維持し、コラーゲン空洞の管腔壁に細胞を付着させた。その後、チップ内における生存能力、持続的な細胞接着及び細胞維持を確実にするために新鮮な培地を0.25〜5μl/分で絶えず流しながら、細胞を最高でさらに5日間にわたってチップ内で培養した。
【0078】
その結果、それらの蚊細胞から作製した組織は、環状の単細胞単層コーティングとして細胞チューブ管腔の内側面を形成し、したがって、まさに期待通りに所望の細胞チューブを形成する。細胞には、細胞チューブ管腔を経て灌流によって栄養を供給した。
【0079】
既にかなり有望である不死化蚊胚細胞を用いた予備的な実験によれば、他の蚊由来細胞種がチップにおいて等しく機能できると考えられる。したがって、新たに切開した蚊中腸から直接単離した初代細胞又は樹立細胞の使用は、将来の実験への使用に対して、作製された蚊中腸環境がネイティブ組織に最もよく類似することを確実にするために計画される。
【0080】
ここで
図14A〜
図14Cを同時に参照すると、蚊の4A−3A細胞コーティング細管が5日間にわたって発育している細胞チューブを示す2コンパートメント蚊中腸チップの一例が示されている。画像は、蚊細胞が播種された蚊細胞チップ及びTEMチップ内に形成された蚊細胞チューブを示す。
図14Aは、1日目の、播種された細胞を含むコラーゲン空洞を示す。
図14Bは、2日後の、
図14Aと同一の細胞チューブを示し、蚊細胞が付着して、広がっている。
図14Cは、5日目の、同一細胞チューブを示し、細胞は依然として付着しており、コンフルエンスまで成長している。
【実施例2】
【0081】
熱帯熱マラリア原虫の培養環境
有用な一実施形態において、前記の蚊中腸チップ内におけるプラスモディウム属の昆虫段階のための培養環境を作製するためのチップモデルを設計した。目標とするエンドポイント段階は、スポロゾイト産生オーシストである。これは、いくつかの、生存可能なより早期の段階の完了を必要とし、したがって最適培養環境内で行われる必要がある寄生虫生活環の後期段階である。プラスモディウム属の寄生虫は、宿主血流中の赤血球(RBC)においてみられる無性生活環で反復複製される。
【0082】
時間が経つにつれて、発育中の寄生虫の一部は、さらなる複製無性段階へと発育する代わりに、有性段階へと発育し、休止する。血粉後に蚊中腸に移行すると、成熟した有性段階(生殖母細胞)はRBCから出て、互いに受精し、運動性のオーキネートに変わる。これらの細胞は、中腸上皮の通過によって中腸環境から能動的に出て行き、上皮と周囲の基底膜との間の外側境界面にとどまり、それが次に蚊血リンパによって取り囲まれる。そこで、オーキネートはオーシストに変わって、成長し始め、次いで、感染段階のスポロゾイトを産生して、最終的に放出する。これは次に、蚊によって次のホストに移され、周期を永続させる。したがって、オーシストの発育を支持する培養環境を作製するためには、受精及びオーキネート形成を可能にする環境を提供しなければならない。別の研究所によって以前のプロジェクトにおいて適合され且つ最適化された以前の研究を利用でき、これがそれらの条件の特定につながった。これにより、我々は、非常に予備な培養環境において早期段階のオーシストを産生させることができる(以下に記載する
図15A〜
図15Fを参照のこと)。
【0083】
ここで
図15A〜
図15Fを同時に参照すると、非常に予備的な培養環境における早期段階のオーシストの例が示されている。
【0084】
ここで特に
図15Aを参照すると、
図1に示したセットアップによって作製されたGFP発現オーシストの例示的な画像が示されている。
【0085】
ここで特に
図15Bを参照すると、インビトロで産生されたオーシストの例示的な画像が示されている。これは、膜フィーディングアッセイによって、それらのサイズ及び形状が、インビボで産生されたオーシストと同一であることを示している。
【0086】
ここで特に
図15C〜
図15Fを参照すると、正常な発育の指標であるスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)を発現する、インビトロで産生されたオーシストの一例が示されている。(
図15C)位相コントラスト、(
図15D)DAPI、(
図15F)CSP標識、(
図15E)オーバレイ。ここで、
図15Cに示される通り、スケールバー=10ミクロン。
【0087】
本発明の方法及びシステムに対する理解をさらに深めるため、あらかじめ決定した培養条件を蚊中腸チップに適用することによる、はるかに精巧なアプローチを、以下に初めて開示する。
【0088】
予備的な研究は、いくつかの因子、中でも、赤血球及び蚊蛹からの抽出物によって強化された培養培地を用いて寄生虫と共培養された蚊細胞の有益な効果を示している。Nortis TEMチップを用いることによって、それらの要求の実質的に全てに対応することができ、別の重要な特徴によってさらに最適化される培養環境を提供できる。これまで公表されている全ての他のアプローチとは異なり、蚊中腸TEMチップ中の共培養された細胞は、「内側」及び「外側」細胞表面アセンブリーにそれらの細胞構造を分極化させる能力を有し、したがって、いかなる先行研究において達成されたものよりはるかにネイティブ環境に近い細胞表面受容体のレパートリーを移動性のオーキネートに提供する。
【0089】
培養された寄生虫を容易に可視化できるようにするために、ルシフェラーゼ及び緑色蛍光タンパク質(GFP)を構成的に発現する、別の研究所であらかじめ生成された、トランスフェクトされている寄生虫を使用する。作製された中腸の管腔を、高密度に充填されたRBCが完全に満たす状態に達するまで、赤血球の懸濁液を、強化された、高濃度の成熟した寄生虫生殖母細胞又は強化された寄生虫オーキネートと共に(
図17A〜17Fを参照のこと)、蚊中腸チップの管腔に注入する。生殖母細胞は、あらかじめ開発されたプロトコールを用いて産生させる。性的に決定された寄生虫の16日培養物を、37℃において成熟するまで培養する。その後、注入前に、寄生虫を強化して、より高い鞭毛発生率、受精効率及びオーキネート収率を可能にする。強化は、MACカラム(Miltenyi)上で寄生虫を磁気的に濃縮することによって達成する。この簡便なアプローチは、寄生虫の鉄−ヘモゾイン含有量のために可能である。この技術は、寄生虫含有赤血球の比率を最大で50%とする。温度を26℃に低下させると、寄生虫の鞭毛発生が誘発され、条件が最適である場合には、RBCが充填された中腸管腔内で受精及びオーキネート形成が引き起こされる。
【0090】
接種後の次の最初の24時間において、公表されたプロトコールに基づいて開発された「オーキネート培地」を灌流させることによって、培養物を維持する。培養培地の灌流は、細胞チューブを経て又は側部の灌流ポートを経て維持される。24〜26℃において24時間後には、オーキネートは、十分に発育しており、運動性で且つ中腸管腔から出て行こうとしているはずである。これは、TEMチップの材料が透明であるために、培養を中断することなく、顕微鏡によってリアルタイムにモニターできると我々が予測するプロセスである。
【0091】
オーキネート発育の完了後、培地を、既に前記グループによって開発された「オーシスト培地」に置き換え、側部のポート及びチューブ周囲のマトリックスを通して灌流させる。前述と同様に、このプロセスにおいて、細胞チューブ内の発育中の培養物を連続的にモニターする。中腸壁の反管腔側に固着すると、寄生虫は、オーシストに変わると予想される。しかし、培養条件及び蚊細胞との共培養は、例えば、培養培地をさらに状態調整するためにチューブ周囲のマトリックスの内部に追加の蚊細胞を播種することによって、最適結果を達成するように調整しなければならない可能性がある。GFPを発現する寄生虫は、自動顕微鏡及びカメラソフトウェアによって容易に検出可能な強力な蛍光を発するので、10〜12日間の連続培養後に、蚊中腸チップ当たりの発育オーシストの数を手動で又は自動的にカウントすることができる。システムが12日目にどのように発育するはずであるかという予測を示す概略イメージに関しては、以下に記載する
図16を参照のこと。
【0092】
ここで特に
図16を参照すると、中腸チップの一例が概略的に示されている。蚊中腸上皮細胞162から作製された細胞チューブの管腔160には、マラリア感染赤血球の懸濁液が装填されている。寄生虫164は、有性生殖を受け、中腸上皮を通って周囲のマトリックス170に移動し、そこでオーシスト(OC)172に変わる。OCは、明るい蛍光を発する球(直径約20ミクロン)のように見える。アッセイの読み出し情報は、中腸の反管腔側のOCの数である。OCカウントが少ないほど、被験化合物の伝染阻止活性は高い。微小環境は、成長培地の灌流によって維持される。
【0093】
実現可能性が確実に立証されたら、中腸チップ及び培養条件を最適化して、中腸微小環境当たりのオーシストの収率を増大し、したがってチップ当たりの可能な実験の統計的妥当性を高めることができる。培養条件を最適化する他に、Nortis TEMチップの特性及びその製作法により、1つのチップ内でより長い中腸チューブ又は複数の中腸チューブのより長い配列を作製することが可能である。これにより、オーシストをとどまらせ、発育する全体的な培養体積及び表面を増加させることができる。したがって、チップ当たりの数百個のオーシストが達成可能であり得る。
【0094】
確立されたオーシスト培養プロトコールを用いれば、マラリアワクチン又は伝染阻止ワクチンのための潜在的化合物に関する研究にこのシステムを適用できる。しかし、成熟の状態まで発育しているオーシストを用いると、このシステムは、インビトロで多数の熱帯熱マラリア原虫スポロゾイトを生じる、これまでに記載された第1の選択肢−非常に必要とされているマラリアワクチンを生成するのに不可欠なステップ−を提供する。
【0095】
ここで
図17A〜
図17Dを参照すると、RBCの懸濁液中における受精の48時間後における、強化されたGFP発現熱帯熱マラリア原虫オーキネートの一例が示されている。
図17A及び
図17Cは、GFP蛍光下で撮影された。
図17B及び
図17Dは、透射光を使用して撮影された。
【0096】
ここで
図17E〜
図17Fを参照すると、接合子並びに発育中及び成熟したオーキネートの段階における、注入GFP発現寄生虫を含む4A−3B細胞の細胞チューブを含む一例が示されている。
図17Eは、GFP蛍光下で撮影された。
図17Fは、透射光を使用して撮影された。
【0097】
本発明は、特許法に従うように及び本発明の新規原理を適用するのに必要な情報を当業者に提供するために、並びに必要とされるこのような例示的な及び特殊な成分を構築及び使用するために、本明細書中でかなり詳細に説明した。しかし、本発明は明確に異なる装置並びにデバイス及び再構成アルゴリズムによって実施できること、並びに装置の詳細及び操作手順の両方に関する種々の変更形態を、本発明の真の意図及び範囲から逸脱することなく達成できることを理解すべきである。