(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭化水素、一酸化炭素及び/または窒素酸化物を含むエンジン排気ガスの処理方法であって、一酸化炭素の酸化、炭化水素の酸化及び/または窒素酸化物の還元に適切な状態下で、前記排気ガスを、請求項7から9のいずれかの触媒品に接触させることを含む、前記処理方法。
エンジン排気流との排気流連通状態にある触媒品を含む排気ガス処理システムであって、前記触媒品がサブストレート上に形成された触媒層を含み、前記触媒層が、請求項2から6のいずれかの組成物を含む、前記排気ガス処理システム。
さらに、ディーゼル酸化触媒、ディーゼル微粒子フィルタ、触媒的部分酸化触媒、アンモニア酸化触媒、水性ガスシフト触媒、水蒸気改質触媒、還元剤インジェクター、空気インジェクター、炭化水素インジェクター及び選択触媒的還元触媒の少なくとも一つを含む、請求項11の排気ガス処理システム。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガスは、空気を汚染する炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物窒素酸化物(NO
x)等の汚染物質を含む。未燃炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物窒素酸化物の汚染物質に対する排出基準が、多くの政府により設定され、古い車両も新しい車両もその基準を満たさなければならない。そのような標準規格を満たすために、三元触媒(TWC)を含む触媒コンバータが、内燃機関の排気ガス・ラインに配置される。排気ガス触媒の使用は、大気質の有意な改善に貢献した。TWCは、最も一般的に使用される触媒であり、COの酸化処理、未燃炭化水素(HC)の酸化処理、及びNOxのN
2への還元処理の、三つの機能を提供する。TWCは、典型的に、CO及びHCを同時に酸化させる、また、NOx化合物を還元するために、一つ以上の白金族金属(PGM)を利用する。TWCで最も一般的な触媒成分は、プラチナ(Pt)、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)である。
【0003】
TWC触媒(例えば、プラチナ、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウム)の白金族金属(PGM)は、典型的に、高表面積耐熱金属酸化物担体、例えば、高表面積アルミナ・コーティング、または酸素貯蔵成分(OSC)上に、またはそれらの混合物上に分散させる。担体は、耐熱性セラミックまたは金属蜂の巣構造からなるモノリシック・サブストレート、あるいは球等の耐熱性粒子、または適切な耐熱性材料の短い押出部品等の、適切なキャリアまたはサブストレート上に載置される。TWC触媒サブストレートは、また、ワイヤ・メッシュ、典型的に金属ワイヤ・メッシュであってもよい。そうであれば、特に小型エンジンに有用である。
【0004】
耐熱金属酸化物、例えばアルミナ、希土類金属酸化物、ジルコニア、チタニアとそれらの組合せ、及び他の材料は、触媒品の触媒成分のための担体として、また、酸素貯蔵材(OSC)として、一般的に使用されている。現在では、アルミナ触媒担体及びOSCのほぼすべては、粒度が約5から100ミクロン範囲の固体粉末粒子の形態である、または、サイズが100ミクロンを超える大きな押出成形物である。アルミナ担体材は、典型的に、1グラムにつき60平方メートル(「m
2/g」)を超えるBET表面積を示す、しばしば約200m
2/g、あるいはそれ以上を示すこともある。
【0005】
内燃機関では、気相拡散を向上させるために、これらの触媒担体材が高度なメゾ及びマクロポロシティを持つことも望ましい。そうであれば、触媒は、高空間速度で窒素酸化物(NOx)及び炭化水素(HC)の転換を高度に達成するのに、より有効なものとなる。この点に関して、多孔性微小球体は、中空微小球体を含み、触媒ウォッシュコートの多孔性を改善する目的で、触媒担体として用いられてきた。そのような微小球体の多様な製法は、文献で報告されている。しかし、一般に、比較的に低い温度で形成された中空アルミナ微小球は、薄壁卵殻構造であり、触媒製造中のメカニカル・ミリングやエンジン内の水熱エージングに耐えるには、あまりに脆いものである。壁が厚い中空アルミナ球は、機械的及び熱的エージングに対して、より耐性があり、(例えば、絶縁材料として)市販されているが、それらの材料は、粒度が大きいか、または、触媒適用には、あまりに高い温度で焼結されたものである。ベーマイト・ゾルのイオン引き出し法を用い、そしてその後に1200℃での焼成を行って形成した中空アルミナ微小球は、厚い壁を持つことが分かっている。しかし、これらの微小球体は、高密度アルファ結晶相である。
【0006】
単純な製造法によって形成可能な、及び小さな球径を持ち厚い壁の、触媒担体としての使用に適切な中空多孔性微小球体の必要性は、依然としてある。そのような微小球体を利用できることは、また、従来の固体粒子の中央に存在するデッドスペースを排除するので、原料使用(例えば、貴金属、アルミナ及びOSC)の有意な削減をもたらすため、相当なコストダウンに至る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のいくつかの模範的な実施形態を説明する前に、本発明は、以下に説明する構造または加工ステップの詳細に限定されないことを理解すべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、多様な方式で実践あるいは実行できる。
【0019】
本明細書における「一つの実施形態」、「特定の実施形態」、「一つ以上の実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定な機能、構造、材料または特徴が、本発明の少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の様々な箇所における、例えば「一つ以上の実施形態においては」、「特定な実施形態においては」、「一つの実施形態においては」または「実施形態においては」等のフレーズの出現は、必ずしも、本発明のその実施形態に言及しているというわけではない。さらに、特定な特徴、構造、材料または特徴は、適切な方式で、一つ以上の実施形態に併用されてもよい。
【0020】
本文中で用いる用語「ナノ粒子」または「ナノ・サイズの粒子」は、ナノメートル範囲(約1から999nm)の直径を持つ粒子を意味する。用語「微小粒子」は、マイクロメートルまたはミクロン範囲(約1から999μm)の直径を持つ粒子を意味する。同様に、用語「微小球」は、マイクロメートルまたはミクロン範囲の直径を持つより小さな粒子の概して球状な凝集体を意味する。
【0021】
触媒担体に関して本文中で用いる「凝集する」、「凝集される」等の用語は、中心粒子テンプレートの周囲で、一つ以上の成分の個々のより小さな粒子が、より大きな概して球状の粒子または塊へ集合することを意味する。テンプレートの除去後、凝集された粒子は、中空中心を囲む凝集粒子からなる壁を持つ中空微小球として留まる。
【0022】
本発明の特定な態様は、触媒担体としての使用に適切な中空多孔性微小球を提供する。この場合、微小球は、高表面積金属酸化物等の金属酸化物の凝集ナノ粒子からなる。触媒担体は、その面上に、または中空微小球の壁内に、一つ以上の触媒あるいは触媒成分を支持するために有用である。一つ以上の実施形態においては、金属酸化物は、アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、セリア、ジルコニア、セリア‐ジルコニア、アルミナ‐ジルコニア、アルミナ‐セリア‐ジルコニア、ランタナ‐アルミナ、ランタナ‐ジルコニア‐アルミナ、バリア‐アルミナ、バリア‐ランタナ‐アルミナ、バリア‐ランタナ‐ネオジミア・アルミナ及びアルミナ‐セリアからなるグループから選択した活性化合物からなる。一つ以上の特定な実施形態においては、ナノ粒子は、アルミナまたはベーマイト・ナノ粒子である。さらに特定な実施形態においては、ナノ粒子は、CeO
2ナノ粒子である。
【0023】
特定な実施形態においては、金属酸化物ナノ粒子の平均直径は、約50から500nmである。特定な実施形態においては、金属酸化物ナノ粒子の平均直径は、約100nmである。出発材料の粒子が大きい場合は、触媒担体を形成する前に所望のサイズに粉砕してもよい。スプレー乾燥後、D
90で測定される中空多孔性微小球の平均直径は、約5から20μm、典型的に約8から12μmまたは約9から11μmである。D
90直径範囲が、約10μmであることが望ましい。微小球の壁厚は、約1から5μm、典型的に約1から3μm、より典型的には約2μmである。所望の粒径範囲を達成する必要がある場合は、平均粒径範囲を減少させるために中空多孔性微小球は粉砕されてもよい。
【0024】
もう一つの実施形態においては、前述の実施形態のいずれの中空多孔性微小球も、安定剤、例えばランタニド、アルカリ土類金属、シリコン、遷移金属またはそれらの組合せをさらに含んでもよい。適切な安定剤は、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化ジルコニウム及びそれらの組合せを含む。安定剤の含有量は、1から20wt%の範囲である。安定剤は、中空多孔性微小球内に酸化物の形態として、または、後に酸化すべき硝酸塩の形態などの前駆物質として統合されてもよい。中空多孔性微小球が安定剤を含む本発明の実施形態のいずれの場合も、安定剤は、微小球の壁内に、またはその表面に含まれてもよい。安定剤は、スプレー乾燥の前に、金属酸化物ナノ粒子を含むスラリーに追加してもよい。このプロシージャは、金属酸化物を含む凝集金属酸化物粒子を生じ、安定剤が微小球の壁内に含まれる。択一的に、安定剤は、スプレー乾燥及びテンプレート除去後に、微小球の壁内に含浸させてもよい。安定剤と金属酸化物ナノ粒子は壁内に混合物として生じてもよいが、特定な実施形態における安定剤は、微小球の外面上に高濃度で堆積しやすいため、層として出現することもある。中空多孔性金属酸化物/安定剤微小球の特定な実施例は、ZrO
2/CeO
2及びZrO
2/Al
2O
3を含む。
【0025】
特定な実施形態における微小球は、その外面上または外面近くに酸化ジルコニウムを含む。アルミナ・ナノ粒子を含むスラリーにスプレー乾燥前に追加される酸化ジルコニウムは、スプレー乾燥中に微小球の外面上に、あるいはその近くに、より高濃度で集積するため、SEMで可視である酸化ジルコニウムの外層を生じることが観察されている。この層構成は、微小球内でアルミナからロジウム触媒を分離させるバリヤとして非常に有用である。その多層構造を
図1Bに示す。酸化ジルコニウムの外層は、SEMで、中空微小球のアルミナ壁を覆うより明るい層として確認できる。
図1Aは、軟質ポリマー・テンプレートなしでスプレー乾燥され中空微小球が形成されない場合の、類似の酸化ジルコニウム層も、固体アルミナ・ナノ粒子の外面上に形成されることを示す。
【0026】
もう一つの実施形態においては、中空多孔性微小球の前述のいずれの実施形態も、さらに、焼成または使用後、触媒(通常、金属または金属酸化物)の触媒活性形態へ分解あるいは変換する一つ以上の触媒または触媒成分を含んでもよい。特定な実施例においては、中空多孔性微小球は、金属酸化物ナノ粒子、安定剤及び一つ以上の触媒、及び/または一つ以上の触媒成分からなってもよい。触媒または触媒成分が存在する場合、それらは、スラリーの水性液体中で水溶性あるいは水分散性でなければならない。一例として、適切な触媒は、一つ以上のPGM触媒またはPGM触媒成分を含む。特定な実施形態においては、触媒または触媒成分は微小球の壁内に統合される。このことは、触媒または触媒成分を、製造中に金属酸化物ナノ粒子を含むスラリーに混入させることによって、または製造後に壁内に含浸させることによって達成されてもよい。
【0027】
もう一つの実施形態においては、前述のいずれの実施形態による中空多孔性微小球も、さらに、促進剤などの追加成分を含む。これらの促進剤は、亜鉛、ニッケル及びビスマスの金属酸化物でよい。そのような追加成分は、製造中に金属酸化物ナノ粒子を含むスラリーにそれらを含ませることによって、または、製造後に壁内にそれらを含浸させることによって、微小球の壁内に統合させてもよい。
【0028】
本文で説明される中空多孔性微小球は、相応な固体粉末金属酸化物に比べ、より低密度であることが分かっている。このことは、それらがエンジン排気処置への適用のための触媒品内に触媒担体として使用される場合、重量優位性を提供することを意味する。特定な実施例における微小球の密度は、相応な固体粉末に比べ、約37%減少する。中空多孔性微小球は、エージング(例えば、750℃/10%H
2O/空気/20時間)後も、それらの健全性を維持する。エージング後も中空多孔性微小球上には良い触媒分布が維持される。また、中空構造は、デッドスペース及び製造に必要な材料量を減少させる。
【0029】
中空多孔性微小球のマイクロポロシティが、中空多孔性アルミナ微小球の以下の実施例に説明するように、相応な固体粒子金属酸化物に類似していることは指摘すべきである。その理由は、中空球構造の形成が、材料のマクロポロシティを増加させるが、材料の微小球構造を増やさないためである。
図2A、2B及び2Cは、異なるAl
2O
3/OSCウォッシュコートの、マクロポロシティにおける相違を図示するSEMである。
図2Aは、アルミナ(暗色)及びOSC(より明るい色)の固体粒子からなる従来のウォッシュコートを示す。明らかに、従来のウォッシュコートは低マクロポロシティを持つ。このことは、ウォッシュコートを通してのガス拡散を制限することになる。
図2Bは、本発明による中空微小球アルミナと固体OSC粒子との混合物からなるウォッシュコートを示す。この調合物は、従来のウォッシュコートに比べ、マクロポロシティが向上したウォッシュコートを生じ、触媒活性の改善を現す。
図2Cは、すべてが本発明による中空微小球アルミナ及びOSCからなるウォッシュコートを示す。このウォッシュコートは最高マクロポロシティを持つため、ウォッシュコートを通過するガス拡散が最高速度であり、また、触媒活性が最大に改善されている。
【0030】
本発明のもう一つの態様は、サブストレート上の触媒層からなる触媒品を提供する。この触媒層は、触媒担体として、前述の実施形態のいずれかに従う中空多孔性微小球を含む。中空多孔性微小球は、凝集された金属酸化物ナノ球、触媒担体によって支持された触媒及びオプションとして安定剤を含む。触媒担体は、サブストレート上のウォッシュコートの形態でよい。特定な実施形態においては、触媒は、一つ以上のPGM触媒、例えば、パラジウム、プラチナ、ロジウムまたはそれらの組合せであってもよい。
【0031】
触媒品の一つ以上の実施形態によれば、触媒担体が適用されるサブストレートは、TWC触媒品を製造するために典型的に使用される任意の材料でよく、典型的に金属構造またはセラミック構造を含む。サブストレートのインレットまたはアウトレット面から通過延長する複数の微細な並行ガス流路を持つタイプのモノリシック・サブストレート等の、任意の適切なサブストレートが使用されてもよい。この場合、それらの流路は、通過する流体の流れに対してオープンである。流体入口から流体出口へ本質的に直線路である流路は、触媒物質がウォッシュコートで被覆される壁によって区画形成されるため、流路を通過するガスは、触媒物質に接触する。モノリシック・サブストレートの流路は、例えば、台形、長方形、正方形、正弦波形、六角形、卵形、円形等の、適切な断面形状及びサイズの薄壁チャネルである。そのような構造は、断面一平方インチにつき、約60から約600以上のガス・インレット開口(すなわち、「セル」)を含んでもよい。コーティングは、手作業でのディッピングまたはエアブラッシング等の、本技術において既知である任意のコーティング法で達成されてもよい。その後、典型的に1から2時間、490から550℃で、乾燥及び焼成を行う。
【0032】
セラミック・サブストレートは、例えば、コージェライト、コージェライト‐α・アルミナ、窒化ケイ素、ジルコン・ムライト、スポジュメン、アルミナ‐シリカ・マグネシア、ジルコン・ケイ酸塩、シリマナイト、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト、α‐アルミナ、アルミノケイ酸塩などの、任意の適切な耐熱材で形成されてもよい。本発明の触媒担体に有用なサブストレートは、一つ以上の金属または金属合金から構成されてもよい。金属サブストレートは、波形シート、金属プレート、ワイヤ・メッシュ等の多様な形状で、またはモノリシックな形態で適用されてもよい。
【0033】
本発明のさらにもう一つの態様は、中空多孔性微小球の製造方法を提供する。一つの実施形態においては、本発明の中空多孔性微小球は、概して球状の高分子ミセル・テンプレートの表面に金属酸化物ナノ粒子を凝集させるスプレー乾燥方法によって、製造されてもよい。凝集ナノ粒子の焼成は、中心にあるミセル・テンプレートを焼き払い、本発明の厚壁中空金属酸化物微小球を生じる。本発明の方法におけるテンプレートとして、任意の適切な熱分解性ポリマーを使用してもよい。実施例は、アルキルアリールポリエーテルアルコール、またはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの合成コポリマーを含む。中空球アルミナ合成で有用な、三つの軟質ポリマー・テンプレートの実施例は、BASFからの二つのプルロニック・ポリマー、P123(登録商標)及びF127(登録商標)、及びユニオンカーバイドからの非イオン性界面活性剤、トリトン(登録商標)‐X100である。プルロニック・ポリマーは、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの合成コポリマーであり、以下の化学構造式で表される。
【0034】
HO(C
2H
4O)
a(C
3H
6O)
b(C
2H
4O)
aH (1)
【0035】
トリトン(登録商標)X‐100非イオン性界面活性剤は、アルキルアリールポリエーテルアルコールとして一般に説明されるタイプのもので、以下の構造式を持つ。
【0037】
前述の方法の一つ以上の実施形態におけるポリマー・テンプレート材は、水などの水性液体に溶かされ、テンプレート材からなる概略球状の、親水基がミセル表面を向いたミセルを形成する。この水性混合物には、ナノ・サイズの金属酸化物粒子が追加され、スラリーが形成される。特定な実施形態においては、テンプレートの約1から5wt%が、水性液体中に溶け出す。ポリマーの重量パーセントは、金属酸化物ナノ粒子の乾燥重量に基づいて計算される。その後、スラリーは、水性液体を蒸発させるためにスプレー乾燥され、ナノ・サイズの金属酸化物粒子が概略球状のテンプレートの親水性面上へ凝集する。それから、スプレー乾燥後の集塊の中心からテンプレートが焼成によって焼き払われることで、金属酸化物の厚壁中空微小球が形成される。上述のように、中空多孔性微小球の製造方法には、任意の適切な金属酸化物ナノ粒子を用いてもよいが、特定な実施形態における金属酸化物は、ベーマイトまたは擬ベーマイトである。これらには、中空微小球アルミナを形成する活性アルミナ、例えばγ‐アルミナ等に比べ、粒度が非常に小さいという長所がある。
【0038】
特定な実施形態においては、上述の安定剤がスラリーに含まれるので、スラリーがスプレー乾燥されて焼成されると、生じた中空微小球は、さらに安定剤を、壁内に分布された状態で、または外面上あるいは外面内に堆積した一層として現れた状態で含む。先に考察したように、本発明の方法には、任意の適切な安定剤を用いてもよいが、特定な実施形態における安定剤は、ランタンである。安定剤を含む前述のいずれの実施形態においても、安定剤は、スラリー内に酸化物の形態として、または、後に酸化すべき硝酸塩などの形態をとる前駆物質として統合されてもよい。
【0039】
特定な実施形態においては、触媒または触媒成分(例えば、一つ以上のPGM)は、スプレー乾燥前にスラリー内に含まれる。この場合、触媒は、微小球触媒担体の壁内に単一ステップで統合される。択一的に、触媒は、スプレー乾燥後の微小球触媒担体の壁内に、または表面に、従来の含浸技術を用いて含浸させてもよい。例えば、触媒または触媒成分(例えば、白金族金属)の溶液は、初期の湿りによって触媒担体の細孔内へ導入してもよい。この場合、希釈された白金族金属の量は、触媒担体の細孔容積にほぼ等しい。初期の湿り浸透は、概して、壁の細孔システム全体に及ぶ前駆物質溶液の実質的に均一な分布、または中空微小球触媒担体面上への触媒の豊かな層を生じる。
【0040】
本文で説明する製造法には、スラリーの水性液状成分を蒸発させて中空多孔性微小球を製造するのに適切な、任意のスプレー乾燥プロセスを用いてもよい。先に考察したように、多様な実施形態におけるスラリーは、以下のものを含んでもよい。1)金属酸化物ナノ粒子、2)金属酸化物ナノ粒子及び安定剤、3)金属酸化物ナノ粒子、安定剤及び触媒または触媒成分、または4)金属酸化物ナノ粒子、安定剤ナノ粒子、触媒または触媒成分、及び促進剤などの少なくとも一つの追加成分。安定剤及び/または触媒などの成分が、スプレー乾燥前にスラリーに含まれない場合は、スプレー乾燥後に、それらを中空多孔性微小球内に含浸できる。金属酸化物のナノ粒子が、中空微小球酸化物を形成するための好適前駆物質であるが、金属酸化物の硝酸塩や酢酸塩などの水溶性塩も、スプレー乾燥のためのスラリー内に利用可能である。一つの実施形態におけるスプレー乾燥プロセスは、次のことを含む。(1)擬ベーマイト・ナノ粒子を水中に拡散させること、(2)別個に、水中に軟質ポリマーを溶解させること、(3)撹拌しながら、ポリマー水溶液を擬ベーマイト水性スラリーに加えること、(4)この混合スラリーをスプレー乾燥すること、そして(5)このスプレー乾燥粉を、空気中で約400から600℃、例えば550℃で焼成すること。スプレー乾燥プロセスは、金属酸化物ナノ粒子が、ポリマー・テンプレートを覆う層を形成することを可能にする。焼成によってポリマー・テンプレート・コアが除去され、中空構造が形成される。この方法によって形成した中空微小球の粒度は、また、有意なミリングを必要とすることがないサブストレート上への三元触媒コーティングにも概して適切である。しかし、特定なサイズ範囲を達成する必要がある、あるいは望ましい場合には、中空微小球は、焼成後に粉砕されてもよい。中空多孔性微小球の製造へのスプレー乾燥プロセスの使用は、また、プロセスからの収率を実質的に100%にできるという長所を提供するだけでなく、単一のスプレー乾燥プロセスで多成分生成物が製造できるという事実から、コスト削減をも提供する。
【0041】
概して、本発明による中空多孔性微小球の形成方法は、典型的に、約10μmの平均直径を持つ微小球を生じる。D
90範囲の直径は、通常、約5から20μmである。特定な実施形態においては、微小球の平均直径は、D
90で測定される8から12または9から11μmの範囲に入る。
【0042】
さらに一つの態様においては、本発明は、一酸化炭素、炭化水素及び/または窒素酸化物を含む、内燃機関からの排気ガスの処理方法を提供する。この方法は、CO酸化、HC酸化及び/あるいはNOx還元に適切な状態下で、先に述べたように、触媒を支持する中空多孔性微小球を、エンジン排気流中のガスに接触させることを含む。中空多孔性微小球触媒は、先に述べたような触媒品としての用途のために、担体上に層として形成されてもよい。特に、排気流のCO及びNOxは、本発明の触媒及び触媒品との接触によって実質的に減少する。
【0043】
さらに一つの態様においては、触媒を支持する中空多孔性微小球を含む触媒品は、内燃機関からの排気ガスを処理する排気ガス処理システムに含まれてもよい。処理システムは、エンジン排気流と流体連通する触媒を含む触媒品を含む。特定な実施形態における排気ガス処理システムは、さらに、ディーゼル酸化触媒(DOC)、ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)、触媒的部分酸化触媒(CPO)、アンモニア酸化触媒(AMOX)、還元剤インジェクター、空気インジェクター、炭化水素インジェクター、選択触媒的還元触媒(SCR)、水性ガスシフト触媒及び水蒸気改質触媒の、一つ以上を含む。排気流の処理方法の特定な実施形態は、本文で説明の触媒品を通して排気流を通過させること、あるいは触媒品に排気流を接触させることを含む。
【実施例】
【0044】
実施例1
中空微小球アルミナの製造及び物理的性質
中空微小球アルミナの製造は、以下のことを必要とした。(1)スラリーAを形成するために、7500グラムのDI‐水に1330グラムの擬ベーマイトをスラリー化させること、(2)溶液Bを形成するために、250グラムの水に35グラムの軟質ポリマーを溶解させること、(3)撹拌しながら、スラリーAに溶液Bを加えることにより、スラリーCを形成すること、(4)310℃のインレット温度、110℃から120℃のアウトレット温度、30,000RPM(毎分回転数)の噴霧ホイール回転速度及び50cc/分のスラリー供給速度で噴霧乾燥器を用いて、スラリーCをスプレー乾燥すること、そして(5)流動空気中において550℃で、1℃/分の加熱率で、また、2時間550℃で保留させることによって、そのスプレー乾燥粉を加熱すること。
【0045】
SEMデータは、Spiritソフトウェアを使用して、Bruker Ge EDSシステムを持つJEOL JEM2011 200KeV LaB6ソース顕微鏡で収集した。デジタル画像は、底部取付型Gatan 2K CCDカメラ及びデジタル・マイクログラフ収集ソフトウェアで捕えた。すべての断面サンプルは、200メッシュのレース状炭素被覆Cuグリッド上に乾燥分散物として形成されて分析された。断面サンプルは、Denton DV‐502A真空鍍金装置を用いて、(S及びClを含む)Buehler Epothinエポキシ/硬化剤内に配置し、30nmの炭素層で被覆した。
図3は、このプロセスによって形成した中空微小球アルミナのモルホロジー及び断面の典型的なSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示す。大部分の粒子が中空球の形態にあるが、いくらかの壊れた球や固体球もある。大きな中空構造内にカプセル化されている小さな中空球もある。多様な形状の中空球及び固体球の分布は、合成に使用されるアルミナ前駆物質のタイプ及び量とポリマー・テンプレートに依存する。
【0046】
平均粒度は、Horiba LA‐950粒径分析器で測定した。典型的な測定のために、水中に0.1gの吸着剤をスラリー化した。粒度(直径)は、総粒子の50%及び90%未満の値として、各々、D
50及びD
90と表される。
図3に示すように、中空微小球アルミナのD
90は、初期擬ベーマイトの約100nm(0.1μm)と比較して、約10μmである。550℃での焼成後、中空球構造は、ミリングまたは水熱処理に対してかなり剛性があった。例えば、中空構造は、950℃/10%H
2O/空気/4時間での水熱エージングまたは約30分間の物理的ボールミリング後も、比較的無傷のままであった。微細擬ベーマイト粒子は、焼成後、ガンマ・アルミナに変えられ、強い接着中空微小球構造を形成した。
【0047】
突き固め密度測定では、以下のことを行った。100mlの目盛付きプラスチック・シリンダ内に吸着剤サンプルを60mlレベルまで満たすこと、RoTAP R‐30050(WS Tayler,Inc)を用いて、そのシリンダを3000回自動的にタップすること、そしてそのサンプルの最終的な体積及び質量を測定すること。突き固め密度は、質量を最終体積で割ったものとして定義する。測定値の相対誤差は、約±5%である。中空微小球の内側の空隙のため、
図5に示すように、その突き固め密度は、固体粒子または固体球よりも低い。概して、中空微小球は、ポリマー・テンプレートの使用を除いて中空微小球と同様に形成された固体粒子よりも約30%軽く、固体微小球よりも20%軽い。
【0048】
N
2ポロシティ・データは、Micromeritics TriStar3000ポロシティ・アナライザで取得した。0.3から0.5グラムのサンプルを、最初に300℃で6時間脱ガスし、それから、液体窒素で平衡化した。BET法に基づいて総表面積を計算した。半径10から1400Åの細孔に対する単一点総細孔容積を用いて、細孔容積(PV)を計算した。BETによる4V/Aの方法を用いて、平均細孔径(PD)を計算した。表1は、スプレー乾燥なしで擬ベーマイトを焼成することによって得た固体アルミナ粒子と比較して、中空微小球Al
2O
3及びZrO
2/Al
2O
3のN
2ポロシティ・データを示す。フレッシュ・サンプルは、空気中で2時間550℃で焼成されたものである。老朽化サンプルは、空気中10%のH
2Oで20時間750℃で蒸気エージングされたものである。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例2
ランタンまたはバリウム安定剤を含む中空微小球アルミナの製造
実施例1によって製造された中空微小球アルミナに、初期の湿りにより、ランタンまたはバリウム水溶液を含浸させた。そのペーストを乾燥させ、挽いて、空気中で2時間550℃で焼成した。最終焼成粉末内のランタンまたはバリウムの乾燥ゲインは、4%であった。La‐またはBa‐安定化中空微小球アルミナは、各々、HMA‐La4及びHMA‐Ba4として識別した。比較のために、中空微小球アルミナは、(スプレー乾燥していない)固体アルミナ粒子または(ポリマー・テンプレートを用いることなくスプレー乾燥させた)固体球アルミナと置き換えた。
【0051】
実施例3
中空微小球アルミナ上に支持されたパラジウムを含む単層コア触媒の製造
中空微小球アルミナまたはLa‐またはBa‐安定化中空微小球アルミナを硝酸パラジウム水溶液で含浸することによって、中空球アルミナを含む粉末触媒を製造した。その含浸ペーストを、一晩中110℃で乾燥し、挽いて、空気中で2時間550℃で焼成した。アルミナ上のパラジウムの乾燥ゲイン(DG)は、2%であった。
【0052】
アルミナ結合剤及びDI‐水に、2%Pd/アルミナ粉末を混合することによって、コーティング・スラリーを形成した。そのスラリーをボールミル粉砕し、D
90約10μmの粒度を得た。そのスラリーを、(1インチの直径x1インチの高さの)セラミック・モノリス・ハニカムコア上にコーティングした。その被覆コアを乾燥させ、それから、空気中で2時間550℃で焼成した。コアの粉末のDGは0.60グラム/コアであった。それは、25グラム/ft
3の貴金属装填を生じた。比較のために、中空微小球アルミナを、他の触媒組成物を同じに維持しながら、参照La‐安定化アルミナ粒子によって、またはLa‐安定化固体球アルミナによって置き換えた。
【0053】
実施例4
フル調製の触媒部品の製造
(1)ボトム触媒層の形成。20%の水溶液の形態にあるパラジウム成分及び13%の水溶液の形態にあるプラチナ成分を、La‐安定化中空微小球アルミナ及び水と混合し、初期湿りから得られる湿潤粉体を形成した。別個に、20%溶液の形態にあるパラジウム成分を、OSC材料及び水に混合し、初期湿りから得られる湿潤粉体を形成した。二つの湿潤粉体を混合し、D
90約20μmの粒度に粉砕した。セリア‐ジルコニア、オクタノール、酢酸、アルミナ結合剤及び酢酸ジルコニウムを加え、遊星型ミキサー(P‐ミキサー)内でPd/担体混合物に結合させた。触媒を金属サブストレート上に堆積させるための、本技術において既知であるデポジション法を用いて、スラリーを金属担体キャリア上にコーティングした。コーティング後、ボトム触媒層を持つキャリアを乾燥させてから、約2時間550℃の温度で焼成した。最終的なボトムコート触媒組成物は、以下の成分を含んだ。La‐安定化中空微小球アルミナ、乾燥ゲイン(DG)の54.7%。OSC、DGの41.0%。酸化バリウム、DGの2.7%。パラジウム、DGの1.6%。そしてプラチナ、DGの0.01%。
【0054】
(2)トップコート触媒層の形成。OSC材上に支持されたロジウム及びプラチナからなる第二の触媒層を、ボトムコートの場合と実質的に類似の手順で、第一の触媒層(ボトムコート)上にコーティングした。最終的なトップコート触媒層組成物は、以下の成分を含んだ。OSC、乾燥ゲイン(DG)の69.6%。Zr‐安定化アルミナ、DGの27.8%。ZrO
2、DGの2.3%。ロジウム、DGの0.19%。そしてプラチナ、DGの0.08%。比較のために、中空微小球アルミナを、他の触媒組成物を同じに維持しながら、ボトムコート内の参照La‐安定化アルミナ粒子で置き換えた。
【0055】
実施例5
研究室リアクタを用いての単層コア触媒上の触媒活性評価
実施例3で調製した単層Pd/アルミナ触媒コアの触媒性能を、以下のガス組成において、通気型リアクタ内で40,000hr
−1の空間速度で評価した。CO、約0.5から5.6%。CO
2、10%。HC、1350ppm(C
3H
6/C
3H
8=2)。NO、400ppm。H
2O、約6から7%。ラムダは、濃(ラムダ約0.93)及び薄(ラムダ約1.04)条件に合うよう、CO/O
2と共に変化した。空気中10%のH
2Oで4時間900℃で蒸気エージングを行った。触媒性能は、汚染物質の転換が開始値の50%に到達する温度と定義するライトオフ温度T
50として表現する。結果を
図6に示す。La‐またはBa‐安定化中空微小球アルミナを含む触媒は、CO、HC及びNOに対して、従来の固体La‐安定化アルミナ粒子を含む参照触媒よりも有意に低いT
50値(または、より高い触媒活性)を示した。
【0056】
実施例6
フル調製触媒のオートバイ車両評価
実施例4による中空多孔性微小球アルミナを含むフル調製の触媒部品を、オートバイへの適用におけるエンジン運転条件下でテストした。従来の固体粒子アルミナ触媒(40g/ft
3、Pt/Pd/Rh=1/20/2)を、同じ触媒を支持する中空多孔性微小球と比較した。蒸気を含む空気及び窒素中で合計8時間900℃でエージング後、CO、HC及びNO転換を評価した。結果を
図7に示す。中空微小球触媒を用いるCO転換は、参照触媒よりも20%良好であった。HC転換は1%、NO転換は41%良好であった。
【0057】
本文では特定な実施形態を参照して発明を説明したが、それらの実施形態は、単に本発明の原理及び適用を説明するためであることを理解すべきである。本発明の方法及び装置には、発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多様な修正及び変更が可能であることは、当業者には明らかである。したがって、本発明は、添付の請求項及びそれらに等価なものの範囲内にある修正及び変更をも含むことを意図している。