(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396972
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】合成樹脂製保持器および玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/44 20060101AFI20180913BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
F16C33/44
F16C19/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-236587(P2016-236587)
(22)【出願日】2016年12月6日
(62)【分割の表示】特願2012-119729(P2012-119729)の分割
【原出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-72257(P2017-72257A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2016年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】石田 光
(72)【発明者】
【氏名】眞岩 勉
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−2243(JP,A)
【文献】
仏国特許出願公開第2308013(FR,A1)
【文献】
特開昭60−227014(JP,A)
【文献】
特開2010−112461(JP,A)
【文献】
実開平6−1848(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/44
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半球状のポケット部が周方向に等間隔に設けられ、隣接するポケット部間に形成された結合板部のそれぞれに係合孔と係合爪とが形成された2枚の合成樹脂製の波形保持器半体からなり、前記係合孔に対する係合爪の係合により2枚の波形保持器半体を互いに結合して、軸方向で対向する一対のポケット部間にボール収容用のポケットを形成する玉軸受用の合成樹脂製保持器であって、
軸方向で対向する一対の半球状ポケット部のうち、一方の半球状ポケット部の保持器突合せ面での開口部における両端に対向一対のつのを、その半球状ポケット部の球形内面に延長するようにして設け、他方のポケット部の保持器突合せ面での開口部の両端部に、前記つのが収容される切欠部を形成し、その切欠部が形成されたポケット部の球形内面の半径を前記つの付きポケット部の球形内面の半径より大径として、つの付きポケット部でボールを保持するとともに、
前記2枚の波形保持器半体は、開口部の両端につのを有するつの付きポケット部と開口部の両端に切欠部を有する切欠部付きポケット部とを周方向に交互に設けた同一形状のものであり、一方の波形保持器半体のつの付きポケット部が他方の波形保持器半体の切欠部付きポケット部と対向する組み合わせとされており、
前記係合爪とこの係合爪が係合された係合孔の内面とは周方向に接触しており、
前記つのとこのつのが収容された切欠部の内面との間には周方向の隙間を有する玉軸受用の合成樹脂製保持器において、
前記軸方向に対向する一対のポケット部のうち、一方のポケット部の保持器突合せ面での開口部の両端に設けられたつのの先端部は、他方のポケット部の保持器突合せ面での開口部の両端に設けられた切り欠き部の底部に接していることを特徴とする玉軸受用の合成樹脂製保持器。
【請求項2】
外輪と内輪間にボールと、そのボールを保持する保持器とを組込んだ玉軸受において、
前記保持器が請求項1に記載の合成樹脂製保持器からなることを特徴とする玉軸受。
【請求項3】
前記ボールが、セラミックスからなる請求項2に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールを保持する合成樹脂製保持器およびその保持器が組み込まれた玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの回転軸のように、高速回転される回転軸を回転自在に支持する高速回転用玉軸受には、発熱を抑制する目的等から合成樹脂製保持器が一般的に採用されている。
【0003】
高速回転用玉軸受の合成樹脂製保持器として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この保持器においては、
図6に示すように、複数の半球状ポケット部71が周方向に等間隔に形成され、隣接するポケット部71間に形成された結合板部72のそれぞれに係合孔73と係合爪74が形成された2枚の同一形状とされた波形保持器半体70を、係合孔73に対する係合爪74の係合によって互いに連結して、対向するポケット部71間にボール75を収容するポケット71aを形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−226448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の合成樹脂製保持器においては、ポケット部71および結合板部72のそれぞれが等間隔の配置とされているが、成形後の熱収縮量の相違によってポケット部71および結合板部72の等間隔の配置にずれが生じる場合があり、その配置にずれがある波形保持器半体70が組み合わせされて保持器が形成される場合がる。
【0006】
このとき、
図6に示すように、軸方向で対向する一対の半球状ポケット部71の球形内面71aに周方向の位相ずれδが生じ、ボール75が本来接触する箇所で接触しなかったり、ポケット隙間が過小となって、ボール75との接触により異常に発熱し、あるいは、回転時のトルク損失が多くなって円滑に回転させることができなくなる。
【0007】
この発明の課題は、ポケット部と結合板部の等間隔の配置にずれがある2枚の波形保持器半体が組み合わせされた場合でも、ポケット隙間が過小となるようなことがない合成樹脂製保持器および玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明に係る合成樹脂製保持器においては、複数の半球状のポケット部が周方向に等間隔に設けられ、隣接するポケット部間に形成された結合板部のそれぞれに係合孔と係合爪とが形成された2枚の合成樹脂製の波形保持器半体からなり、前記係合孔に対する係合爪の係合により2枚の波形保持器半体を互いに結合して、軸方向で対向する一対のポケット部間にボール収容用のポケットを形成する玉軸受用の合成樹脂製保持器において、軸方向で対向する一対の半球状ポケット部のうち、一方の半球状ポケット部の保持器突合せ面での開口部における両端に対向一対のつのを、その半球状ポケット部の球形内面に延長するようにして設け、他方のポケット部の保持器突合せ面での開口部の両端部に、前記つのが収容される切欠部を形成し、その切欠部が形成されたポケット部の球形内面の半径を前記つの付きポケット部の球形内面の半径より大径として、つの付きポケット部でボールを保持するようにした構成を採用したのである。
【0009】
また、この発明に係る玉軸受においては、外輪と内輪間にボールと、そのボールを保持する保持器とを組込んだ玉軸受において、前記保持器として、この発明に係る上記合成樹脂製保持器を採用する構成としたのである。
【0010】
この発明に係る合成樹脂製保持器においては、上記のように、軸方向で対向する一対の半球状ポケット部の相互において、一方のポケット部の保持器突合せ面での開口部における両端に対向一対のつのを設け、他方のポケット部の保持器突合せ面での開口部の両端部に、上記つのが収容される切欠部を形成し、その切欠部が形成されたポケット部の球形内面の半径をつの付きポケット部の球形内面の半径より大径として、つの付きポケット部でボールを保持するようにしたことにより、ポケット部と結合板部の等間隔の配置にずれがある2枚の波形保持器半体の組み合わせによって対向一対のポケット部間に周方向で位相ずれが発生しても、つの付きポケット部の内面とボール間に一定大きさのポケット隙間が確保されることになってポケット隙間が過小になるというようなことがない。
【0011】
このため、異常な発熱を抑制し、損失トルクの低減を図り、玉軸受を円滑に回転させることができる。
【0012】
この発明に係る合成樹脂保持器において、2枚の波形保持器半体のそれぞれを、開口部の両端につのを有するつの付きポケット部と開口部の両端に切欠部を有する切欠部付きポケット部とを周方向に交互に設けた構成とすると、2枚の波形保持器半体を同一の形状とすることができるため、一種類の成形用金型によって2枚の波形保持器半体を成形することができ、コストの低減を図ることができる。
【0013】
この発明に係る玉軸受において、ボールをセラミックスとすると、保持器に対するボールの衝突力を低減し、保持器の損傷防止に効果を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明においては、上記のように、ポケット部と結合板部の等間隔の配置にずれがある2枚の波形保持器半体の組み合わせによって対向一対のポケット部間に周方向で位相ずれが発生しても、つの付きポケット部の内面とボール間に一定大きさのポケット隙間が確保されることになってポケット隙間が過小になるというようなことがないため、異常な発熱を抑制し、損失トルクの低減を図り、玉軸受を円滑に回転させることができる。
【0015】
また、対向一対のつのは他方の波形保持器半体のポケット部に形成された切欠部内に収容されているため、つのが周方向に変形するようなことがなく、つの付きポケット部によってボールを確実に保持することができ、ボールの脱落を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】2枚の波形保持器半体を結合して形成された保持器の一部分を示す断面図
【
図5】2枚の波形保持器半体の結合前の状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、玉軸受は、外輪11と、内輪21と、その外輪11と内輪21間に組み込まれたボール31およびそのボール31を保持する保持器40を有し、上記外輪11と内輪21の対向面間に形成された軸受空間の両端開口部は、シール部材60の組込みによって密閉されている。
【0018】
ここで、外輪11は、内径面に軌道溝12を有し、一方、内輪21は外径面に軌道溝22を有し、その両軌道溝12、22間にボール31が組み込まれている。
【0019】
図5に示すように、保持器40は、2枚の合成樹脂製の波形保持器半体41a、41bからなる。
図2乃至
図4に示すように、波形保持器半体41a、41bは、周方向に等間隔に形成された複数の半球状のポケット部42を有し、隣接するポケット部42間に帯板状の結合板部43が形成されている。
【0020】
結合板部43には、両側面に貫通する角形の係合孔44が形成されている。また、結合板部43には、他方の波形保持器半体41a、41bの結合板部43に形成された係合孔44に挿入される係合爪45が形成されている。
【0021】
係合孔44および係合爪45のそれぞれは、断面が角形とされている。係合爪45は、その係合孔44側の一方の端面が係合孔44の周方向で対向する一方の端面と同一面を形成するようにして設けられおり、その一方の端面の先端部に鈎部46が形成されている。一方、係合孔44の一方の端面には、上記鈎部46が係合可能な係合段部47が設けられている。
【0022】
2枚の波形保持器半体41a、41bは、係合孔44に係合爪45が挿入される組み合わせとされ、係合段部47に対する鈎部46の係合によって結合状態とされる。その結合によって保持器40が形成され、軸方向で対向する一対の半球状のポケット部42間に、
図4に示すように、ボール31を収容するポケット48が形成される。
【0023】
ポケット48を形成する対向一対のポケット部42において、一方のポケット部42の保持器突合せ面での開口部における両端には対向一対のつの50が、ポケット部42の球形内面に延長するようして設けられ、他方のポケット部42の保持器突合せ面での開口部における両端には、上記つの50が収容される切欠部51が設けられている。
【0024】
図5に示すように、一対の波形保持器半体41a、41bにおいては、つの付きポケット部42と切欠部付きポケット部42が周方向に交互に設けられた構成とされ、その切欠部付きポケット部42の球形内面の半径φ1は、つの付きポケット部42の球形内面の半径φ2より大径とされ、上記つの付きポケット部42でボール31を保持し、切欠部付きポケット部42は、つの50の周方向への変形を防止して、つの付きポケット部42からボール31が脱落するのを防止するようになっている。
【0025】
一対の波形保持器半体41a、41bは、つの付きポケット部42が相手方波形保持器半体の切欠部付きポケット部42と対向する組み合わせとされ、係合孔44に対する係合爪45の係合により結合されて保持器40を形成する。
【0026】
上記のように、軸方向で対向する一対の半球状ポケット部42の相互において、一方のポケット部42の保持器突合せ面での開口部における両端に対向一対のつの50を設け、他方のポケット部42の保持器突合せ面での開口部の両端部に、上記つの50が収容される切欠部51を形成し、その切欠部51が形成されたポケット部42の球形内面の半径φ1をつの付きポケット部42の球形内面の半径φ2より大径として、つの付きポケット部42でボール31を保持することにより、ポケット部42と結合板部43の等間隔の配置にずれがある2枚の波形保持器半体41a、41bの組み合わせによって対向一対のポケット部42間に周方向で位相ずれが発生しても、つの付きポケット部42の内面とボール31間に一定大きさのポケット隙間が確保されることになる。
図4に示すgは、そのポケット隙間を示している。
【0027】
ここで、切欠部51を有するポケット部42の球形内面の半径φ1は、上記のように、つの付きポケット部42の球形内面の半径φ2より大径とされているため、切欠部51を有するポケット部42の球形内面とボール31間もポケット隙間が確保されることになって、その球形内面がボール31と接触するようなことはない。このため、異常な発熱を抑制することができると共に、トルク損失の低減を図り、玉軸受を円滑に回転させることができる。
【0028】
実施の形態では、一対の波形保持器半体41a、41bのそれぞれを開口部の両端につの50を有するつの付きポケット部42と、開口部の両端に切欠部51を有する切欠部付きポケット部42とを周方向に交互に設けた構成としているが、一対の波形保持器半体41a、41bの一方に複数のつの付きポケット部42を設け、他方に複数の切欠部付きポケット部42を設けるようにしてもよい。
【0029】
実施の形態で示すように、一対の波形保持器半体41a、41bのそれぞれを開口部の両端につの50を有するつの付きポケット部42と、開口部の両端に切欠部51を有する切欠部付きポケット部42とを周方向に交互に設けた構成とすると、2枚の波形保持器半体41a、41bを同一の形状とすることができるため、一種類の成形用金型によって2枚の波形保持器半体41a、41bを成形することができ、コストの低減を図ることができる。
【0030】
図1に示す玉軸受において、ボール31は鋼製のものであってもよく、あるいは、セラミックス製のものであってもよい。セラミックス製とすると、保持器40に対するボール31の衝突力を低減し、保持器40の損傷防止に効果を挙げることができる。
【符号の説明】
【0031】
11 外輪
21 内輪
31 ボール
40 保持器
41a、41b 波形保持器半体
42 ポケット部
43 結合板部
44 係合孔
45 係合爪
48 ポケット
50 つの
51 切欠部