【文献】
ADACHI, Kei et al.,"Creation of a novel AAV2 vector showing AAV9-Like transduction properties by displaying a galactose binding motif on the capsid",Meeting Info: 15th Annual Meeting of the American Society of Gene and Cell Therapy,2012年,Abstract Number: 816
【文献】
BELL, Christie L. et al.,"Identification of the galactose binding domain of the adeno-associated virus serotype 9 capsid",J. Virol.,2012年,Vol. 86,pp. 7326-7333
【文献】
WU, Zhijian et al.,"Single amino acid changes can influence titer, heparin binding, and tissue tropism in different adeno-associated virus serotypes",J. Virol.,2006年,Vol. 80,pp. 11393-11397
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、本発明の代表的な実施形態が示された添付の図面を参照してここに記載される。しかし本発明は、異なる形態で具体化してもよく、本明細書中に示される実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を当業者に完全に伝達するように提供されるものである。
【0018】
特に規定しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中で発明の説明において使用される術語は、特定の実施形態だけを記載することを目的としており、本発明を限定することを意図しない。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0019】
本発明は、グリカン認識フットプリントを規定するAAVカプシドタンパク質上の「ポケット」の発見に基づいている。このポケットを規定する特定のアミノ酸は同定されており、例えばAAV9のガラクトース結合部位について、本明細書中に記載されている。本発明では、このAAV9ガラクトース結合フットプリントをAAV2カプシドタンパク質鋳型中に移植し、その結果、移植されたAAV2カプシドタンパク質鋳型における新しいグリカン結合部位を導入した。このAAVガラクトース結合フットプリントは、例えば、本明細書の表3に示される対応するアミノ酸を置換することによって、任意の他のAAV血清型中に導入され得る。
【0020】
従って、本発明は、構造モデル化研究によって手引きされ、部位特異的変異誘発によって達成される、1つのAAV株から別のAAV株へのグリカン認識フットプリントの分子移植に関する。レポーターカセットをパッケージングする(これらの新しい株から誘導した)組換えベクターは、細胞培養物および動物モデルにおいて、迅速な開始および増強された導入遺伝子発現を示す。鋳型として天然に存在する血清型/単離体を使用して、この普遍的戦略は、ヒト遺伝子療法臨床試験において観察された用量依存的免疫毒性などの課題に取り組むことができる合成二重グリカン結合性AAV株のパネルを生成するために適用され得る。
【0021】
従って、一態様では、本発明は、1つまたは複数のアミノ酸置換を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質を提供し、これらの置換は、AAVカプシドタンパク質中に新しいグリカン結合部位を導入する。いくつかの実施形態では、これらのアミノ酸置換は、AAV2中のアミノ酸266、アミノ酸463〜475およびアミノ酸499〜502、またはAAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10もしくは表3中に同定される任意の他のAAV血清型中の対応するアミノ酸位置中に存在する。
【0022】
いくつかの実施形態では、新しいグリカン結合部位は、ヘキソース結合部位であり得、ヘキソースは、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、グルコース(Glu)またはフコース(fuc)である。
【0023】
いくつかの実施形態では、新しいグリカン結合部位は、シアル酸(Sia)結合部位であり得、Sia残基は、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)またはN−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)である。
【0024】
いくつかの実施形態では、新しいグリカン結合部位は、二糖結合部位であり得、二糖は、Sia(α2,3)GalまたはSia(α2,6)Galの形態の、ガラクトースに連結されたシアル酸である。
【0025】
いくつかの実施形態では、これらの置換は、第1のAAV血清型のカプシドタンパク質(「ドナー」)由来の新しいグリカン結合部位を、第1のAAV血清型とは異なる第2のAAV血清型のカプシドタンパク質(「鋳型」)中に導入する。
【0026】
本発明は、本発明のAAVカプシドタンパク質を含むAAVカプシドもまた提供する。
【0027】
本発明のAAVカプシドを含むウイルスベクター、ならびに薬学的に許容される担体中に本発明のAAVカプシドタンパク質、AAVカプシドおよび/またはウイルスベクターを含む組成物が、本明細書中でさらに提供される。
【0028】
本発明は、細胞を本発明のウイルスベクターと接触させるステップを含む、細胞中に核酸を導入する方法をさらに提供する。この細胞は、対象中に存在し得、いくつかの実施形態では、この対象はヒト対象であり得る。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態では、AAVカプシドタンパク質ドナーは、AAV血清型9であり得、AAVカプシドタンパク質鋳型は、AAV血清型1(AAV1)、AAV血清型2(AAV2)、AAV血清型3a(AAV3a)、AAV血清型3b(AAV3b)、AAV血清型4(AAV4)、AAV血清型5(AAV5)、AAV血清型6(AAV6)、AAV血清型7(AAV7)、AAV血清型8(AAV8)またはAAV血清型10(AAV10)であり得る。
【0030】
いくつかの例示的な実施形態では、AAVカプシドタンパク質鋳型は、AAV2由来であり得、a)アミノ酸266における置換は、A266Sであり;b)アミノ酸463〜475における置換は、SQAGASDIRDQSR463〜475SX
1AGX
2SX
3X
4X
5X
6QX
7Rであり、式中、X
1〜7は、任意のアミノ酸であり得;かつc)アミノ酸499〜502における置換は、EYSW499〜502EX
8X
9Wであり、式中、X
8〜9は、任意のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、X
1はVであり得;X
2はPであり得;X
3〜6はNMAVであり得;X
7はGであり得、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。いくつかの実施形態では、X
8はFであり得、X
9はWであり得、配列EFAWを生じる。
【0031】
上記例は、AAV9ドナー由来のガラクトース結合部位をAAV2鋳型中に導入することが可能な置換を実証するために提供される。表3は、これらの対応するアミノ酸が同定されたいくつかのAAV血清型、およびAAV9のガラクトース結合部位を導入するためにこれらの血清型の各々においてなされ得る例示的置換を列挙している。特定のアミノ酸位置が保存され、他のアミノ酸位置が置換されることが、表3中に示され、本明細書中に詳細に記載される。置換が示される場合、表3に示される置換セットが、これらの残基位置においてなされ得る種々の置換の例示である。本発明の実施形態は、AAV9以外の他のドナーAAV血清型およびガラクトース結合部位以外の他のグリカン結合部位を包含することが、企図される。
【0032】
表2は、AAVの非限定的な例示的血清型および本発明によって包含され得るゲノムおよびカプシド配列の受託番号を列挙する。ドナーおよび鋳型のAAV血清型は、ヒトAAVに限定されないが、これには、非ヒトAAV、例えば、トリAAVまたはウシAAV、ならびに非ヒト霊長類AAVが含まれ得、これらの例は、表1中に示される。
【0033】
上記例は、AAV9ドナー由来のガラクトース結合部位の導入のためのAAV2鋳型中の可能なアミノ酸置換を示す。別の例では、鋳型は、AAV1またはAAV6であり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、SX
1X
2X
3PX
4X
5MX
6VQX
7X
8であり得、式中、X
1〜8は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1〜3はVAGであり;X
4はSであり;X
5はNであり;X
6はAであり;X
7はGであり、X
8はRであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
9FX
10Wであり得、式中、X
9およびX
10は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
9はEであり、X
10はWであり、配列EFAWを生じる。
【0034】
別の例では、鋳型はAAV3aまたはAAV3bであり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、SX
1AGPX
2X
3MX
4X
5QX
6Rであり得、式中、X
1〜6は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1はVであり;X
2はSであり;X
3はNであり;X
4はAであり;X
5はNであり;X
6はGであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
7FX
8Wであり得、式中、X
7およびX
8は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
7はEであり、X
8はWであり、配列EFAWを生じる。
【0035】
別の例では、鋳型はAAV4であり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
1X
2X
3X
4PX
5NX
6X
7X
8X
9X
10X
11であり得、式中、X
1〜11は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1はSであり;X
2はVであり;X
3はAであり;X
4はGであり;X
5はSであり;X
6はMであり;X
7はAであり;X
8はVであり;X
9はQであり;X
10はGであり;X
11はRであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
12X
13X
14X
15であり得、式中、X
12〜15は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
12はEであり;X
13はFであり;X
14はAであり;X
15はWであり、配列EFAWを生じる。
【0036】
別の例では、鋳型はAAV5であり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
1X
2X
3X
4X
5X
6X
7X
8AX
9X
10X
11X
12であり得、式中、X
1〜12は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1はSであり;X
2はVであり;X
3はAであり;X
4はGであり;X
5はPであり;X
6はSであり;X
7はNであり;X
8はMであり;X
9はVであり;X
10はQであり;X
12はGであり;X
12はRであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
13X
14AX
15であり得、式中、X
13〜15は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
13はEであり;X
14はFであり;X
15はAであり;X
16はWであり、配列EFAWを生じる。
【0037】
別の例では、鋳型はAAV7であり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
1X
2X
3GPSX
4MAX
5QX
6X
7であり得、式中、X
1〜7は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1はSであり;X
2はVであり;X
3はAであり;X
4はNであり;X
5はVであり;X
6はGであり;X
7はRであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
8FAWであり得、式中、X
8は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、式中、X
8はEであり、配列EFAWを生じる。
【0038】
別の例では、鋳型はAAV8であり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、SX
1X
2GPX
3X
4MAX
5QX
6X
7であり得、式中、X
1〜7は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1はVであり;X
2はAであり;X
3はSであり;X
4はNであり;X
5はVであり;X
6はGであり;X
7はRであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
8FAWであり得、式中、X
8は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
8はEであり得、配列EFAWを生じる。
【0039】
別の例では、鋳型はAAV10であり得、AAV2の463〜475位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
1X
2AGPX
3NMX
4X
5QX
6X
7であり得、式中、X
1〜7は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
1はSであり;X
2はVであり;X
3はSであり;X
4はAであり;X
5はVであり;X
6はGであり;X
7はRであり、配列SVAGPSNMAVQGRを生じる。さらなる実施形態では、AAV2中の499〜502位に対応するアミノ酸位置における置換は、X
8FAWであり得、式中、X
8は、任意のアミノ酸であり得る。特定の一実施形態では、X
8は、Eであり得、配列EFAWを生じる。
【0040】
上記例は、AAV9由来のガラクトース結合部位の、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV7、AAV8またはAAV10であり得るカプシドタンパク質鋳型中への導入を記載する。限定することを意図しないこれらの例は、本明細書中に記載される「ポケット」を規定する残基を改変することによって、ドナーAAV血清型由来のグリカン結合部位が、異なるAAV血清型(例えば、表3中に列挙される)のカプシドタンパク質鋳型中に導入され得るというこの普遍的原理を実証している。新規のグリカン結合部位を含む、かかる改変されたまたはキメラのカプシドタンパク質は、増加した細胞表面結合ならびにより迅速かつ増強されたインビボ導入遺伝子発現の有益な表現型を有するウイルスベクターとして使用され得るウイルス粒子を構成するカプシドへとアセンブルされ得る。
【0041】
本明細書中で使用する場合、用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)には、1型AAV、2型AAV、3型AAV(3A型および3B型を含む)、4型AAV、5型AAV、6型AAV、7型AAV、8型AAV、9型AAV、10型AAV、11型AAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、クレードF AAV、および現在公知のまたは後に発見される任意の他のAAVが含まれるが、これらに限定されない。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)を参照のこと。多数の比較的新しいAAV血清型およびクレードが同定されている(例えば、Gaoら(2004)J.Virology 78:6381〜6388頁;および表1を参照のこと)。
【0042】
AAVの種々の血清型のゲノム配列、ならびにネイティブ末端反復(TR)、Repタンパク質およびカプシドサブユニットの配列が、当該分野で公知である。かかる配列の例示的ではあるが非限定的な例は、文献中またはGenBank(登録商標)データベースなどの公的データベース中で見出され得る。例えば、GenBank(登録商標)データベース受託番号NC_002077.1、NC_001401.2、NC_001729.1、NC_001863.1、NC_001829.1、NC_006152.1、NC_001862.1、AF513851.1、AF513852.1を参照のこと;その開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸配列およびアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書中に組み込まれる。例えば以下もまた参照のこと:Srivistavaら(1983)J.Virology 45:555頁;Chioriniら(1998)J.Virology 71:6823頁;Chioriniら(1999)J.Virology 73:1309頁;Bantel−Schaalら(1999)J.Virology 73:939頁;Xiaoら(1999)J. Virology 73:3994頁;Muramatsuら(1996)Virology 221:208頁;Shadeら(1986)J.Virol.58:921頁;Gaoら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854頁;国際特許公開公報WO 00/28061、WO 99/6160およびWO 98/11244;ならびに米国特許第6,156,303号;これらの開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸配列およびアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書の一部をなすものとする。
【0043】
自律的パルボウイルスおよびAAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDSら、Virology、第2巻、第69章および第70章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)中により詳細に記載されている。AAV2(Xieら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405〜10頁)、AAV4(Padronら(2005)J.Virol.79:5047〜58頁)、AAV5(Waltersら(2004)J.Virol.78:3361〜71頁)およびCPV(Xieら(1996)J.Mol.Biol.6:497〜520頁およびTsaoら(1991)Science 251:1456〜64頁)の結晶構造の説明もまた参照のこと。
【0044】
[定義]
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数形も同様に含むことが意図される。
【0045】
さらに、用語「約」は、本明細書中で使用する場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さ、用量、時間、温度などの量などの測定可能な値をいう場合、特定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0046】
また、本明細書中で使用する場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうち1つまたは複数の、任意のおよび全ての可能な組み合わせ、ならびに代替として解釈される場合(「または」)には組み合わせの欠如をいい、かつこれらを包含する。
【0047】
文脈が他を示さない限り、本明細書中に記載される本発明の種々の特徴が任意の組み合わせで使用され得ることが、具体的に意図される。
【0048】
さらに、本発明は、本明細書中に示される本発明のいくつかの実施形態、任意の特徴または特徴の組み合わせが排除または割愛できることも企図している。
【0049】
例えば、特定のアミノ酸がA、G、I、Lおよび/またはVから選択できることを本明細書が示す場合をさらに説明するために、この言葉は、各かかる下位の組み合わせが本明細書中に明示的に示されるかのように、例えばA、G、IまたはL;A、G、IまたはV;AまたはG;Lのみなどの、これらの(1つまたは複数の)アミノ酸の任意のサブセットからアミノ酸を選択できることもまた示す。さらに、かかる言葉は、1つまたは複数の特定されたアミノ酸が放棄され得ることもまた示す。例えば、特定の実施形態では、各かかる可能な放棄が明示的に示されるかのように、アミノ酸は、A、GまたはIではなく;Aではなく;GまたはVではない、など。
【0050】
本明細書中で使用する場合、用語「低下する(reduce/reduces)」、「低下」および類似の用語は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、35%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、100%またはそれ以上の減少を意味する。
【0051】
本明細書中で使用する場合、用語「増強する(enhance/enhances)」「増強」および類似の用語は、少なくとも約10%、20%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれ以上の増加を示す。
【0052】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、特に示さない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
【0053】
「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNAまたはDNA−RNAハイブリッド配列(天然に存在するヌクレオチドおよび天然に存在しないヌクレオチドの両方を含む)であり得るが、代表的な実施形態では、一本鎖または二本鎖のいずれかのDNA配列である。
【0054】
本明細書中で使用する場合、「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、そのポリヌクレオチドと一般的には関連して見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」ヌクレオチドは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
【0055】
同様に、「単離された」ポリペプチドとは、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、そのポリペプチドと一般的には関連して見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」ポリペプチドは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
【0056】
本明細書中で使用する場合、ウイルスベクターを「単離する」もしくは「精製する」(または文法的等価物)とは、そのウイルスベクターが、出発材料中の他の成分の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されることを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」または「精製された」ウイルスベクターは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
【0057】
「治療用ポリペプチド」は、細胞または対象中のタンパク質の非存在または欠損から生じる症状を緩和、低下、予防、遅延および/または安定化できるポリペプチド、ならびに/あるいは抗がん効果または移植生存率における改善などの利益を他の方法で対象に付与するポリペプチドである。
【0058】
用語「治療する(treat/treating)」または「〜の治療」(およびその文法的な変形)は、対象の状態の重症度が低下され、少なくとも部分的に改善または安定化されること、および/あるいは少なくとも1つの臨床症状における幾分かの緩和、軽減、減少または安定化が達成されること、および/あるいは疾患または障害の進行の遅延が存在することを意味する。
【0059】
用語「予防する(prevent/preventing)」および「予防」(およびその文法的な変形)とは、対象における疾患、障害および/または(複数の)臨床症状の発症の予防および/または遅延、ならびに/あるいは本発明の方法の非存在下で生じるものと比較した、疾患、障害および/または(複数の)臨床症状の発症の重症度における低下をいう。予防は、疾患、障害および/または(複数の)臨床症状の完全な非存在のように、完全であり得る。予防は部分的でもあり得、その結果、対象における疾患、障害および/または(複数の)臨床症状の出現ならびに/あるいは発症の重症度は、本発明の非存在下で生じるものよりも低くなる。
【0060】
「治療有効」または「有効」量は、本明細書中で使用する場合、いくらかの改善または利益を対象に提供するのに充分な量である。代替的に述べると、「治療有効」または「有効」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状におけるいくらかの緩和、軽減、減少または安定化を提供する量である。いくらかの利益が対象に提供される限り、治療効果は完全である必要も治癒的である必要もないことを、当業者は理解するであろう。
【0061】
「予防有効」量は、本明細書中で使用する場合、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症を予防および/または遅延するのに充分な量、ならびに/あるいは本発明の方法の非存在下で生じるものと比較して、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症の重症度を低下および/または遅延させるのに充分な量である。いくらかの利益が対象に提供される限り、予防のレベルが完全である必要がないことを、当業者は理解するであろう。
【0062】
用語「異種ヌクレオチド配列」および「異種核酸」は、本明細書中で互換的に使用され、ウイルス中に天然には存在しない配列をいう。一般に、異種核酸は、対象のポリペプチドまたは非翻訳RNA(例えば、細胞または対象への送達のための)をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0063】
本明細書中で使用する場合、用語「ウイルスベクター」、「ベクター」または「遺伝子送達ベクター」とは、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含む、ウイルス(例えば、AAV)粒子をいう。あるいは、いくつかの文脈では、用語「ベクター」は、ベクターゲノム/vDNA単独をいうために使用され得る。
【0064】
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO00/28004およびChaoら、(2000)Molecular Therapy 2:619頁に記載されるように、「標的化された」ウイルスベクター(例えば、指向性指向性を有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(即ち、ウイルスTRおよびウイルスカプシドが異なるパルボウイルスに由来するもの)であり得る。
【0065】
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO01/92551(その開示は、その全体が参照により本明細書の一部をなすものとする)に記載されるように、二重鎖パルボウイルス粒子であり得る。従って、いくつかの実施形態では、二本鎖(二重鎖)ゲノムが、本発明のウイルスカプシド中にパッケージングされ得る。
【0066】
[ウイルスベクターを生成する方法]
本発明は、本発明の改変されたカプシドタンパク質およびカプシドを含むウイルスベクターもまた包含する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、パルボウイルスカプシドおよび/またはベクターゲノムを含んでいる)、例えば、AAVベクター(例えば、AAVカプシドおよび/またはベクターゲノムを含んでいる)である。代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、本発明の改変されたカプシドサブユニットを含む改変されたAAVカプシドとベクターゲノムとを含む。
【0067】
例えば、代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、(a)本発明の改変されたカプシドタンパク質を含む改変されたウイルスカプシド(例えば、改変されたAAVカプシド)と、(b)末端反復配列(例えば、AAV−TR)を含む核酸とを含み、この末端反復配列を含む核酸は、改変されたウイルスカプシドによってカプシド封入されている。核酸は、2つの末端反復(例えば、2つのAAV−TR)を任意選択で含み得る。
【0068】
代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、対象のポリペプチドまたは機能的RNAをコードする異種核酸を含む組換えウイルスベクターである。組換えウイルスベクターは、以下により詳細に記載される。
【0069】
特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターは、改変されたカプシドタンパク質なしのウイルスベクターによる形質導入のレベルと比較して、肝臓の形質導入が減少している。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、筋肉に対する全身性形質導入を有し、例えば、ベクターは、体中の複数の骨格筋群を形質導入し、任意選択で、心筋および/または横隔膜筋を形質導入する。
【0070】
本発明の改変されたカプシドタンパク質、ウイルスカプシドおよびウイルスベクターは、そのネイティブ状態において特定の位置に示されたアミノ酸を有するカプシドタンパク質、カプシドおよびウイルスベクター(即ち、変異体ではない)を排除することが、当業者に理解されるであろう。
【0071】
本発明は、本発明のウイルスベクターを生成する方法をさらに提供する。1つの代表的な実施形態では、本発明は、ウイルスベクターを生成する方法を提供し、この方法は、(a)少なくとも1つのTR配列(例えば、AAV−TR配列)を含む核酸鋳型と、(b)核酸鋳型の複製およびAAVカプシド中へのカプシド封入に充分なAAV配列(例えば、本発明のAAVカプシドをコードするAAV−rep配列およびAAV−cap配列)とを、細胞に提供するステップを含む。任意選択で、核酸鋳型は、少なくとも1つの異種核酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、核酸鋳型は2つのAAV−ITR配列を含み、これらは、(存在する場合)異種核酸配列に対して5’側および3’側に位置するが、異種核酸配列と直接隣接している必要はない。
【0072】
核酸鋳型ならびにAAV−repおよびcap配列は、AAVカプシド内にパッケージングされた核酸鋳型を含むウイルスベクターが細胞中で生成されるような条件下で提供される。この方法は、細胞からウイルスベクターを回収するステップをさらに含み得る。ウイルスベクターは、培地からおよび/または細胞を溶解することによって回収され得る。
【0073】
細胞は、AAVウイルスの複製を許容する細胞であり得る。当該分野で公知の任意の適切な細胞が使用され得る。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。別の選択肢として、細胞は、複製欠損ヘルパーウイルスから欠失した機能を提供するトランス補完性(trans−complementing)パッケージング細胞株、例えば、293細胞または他のE1aトランス補完性細胞であり得る。
【0074】
AAV複製およびカプシド配列は、当該分野で公知の任意の方法によって提供され得る。現在のプロトコールは典型的に、単一のプラスミド上のAAV−rep/cap遺伝子を発現する。AAV複製およびパッケージング配列は、一緒に提供される必要はないが、一緒に提供するのが簡便であり得る。AAV−repおよび/またはcap配列は、任意のウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによって提供され得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供され得る(例えば、欠失型アデノウイルスベクターのE1a領域またはE3領域中に挿入される)。EBVベクターもまた、AAV−capおよびrep遺伝子を発現するために使用され得る。この方法の1つの利点は、EBVベクターがエピソームであるが、連続的な細胞分裂の間中、高コピー数をなおも維持することである(即ち、「EBVベースの核エピソーム(EBV based nuclear episome)」と称される染色体外エレメントとして細胞中に安定に組み込まれる、Margolski(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67頁を参照のこと)。
【0075】
さらなる代替として、rep/cap配列は、細胞中に安定に取り込まれ得る。
【0076】
典型的には、AAV−rep/cap配列は、これらの配列のレスキューおよび/またはパッケージングを防止するために、TRと隣接して配置されない。
【0077】
核酸鋳型は、当該分野で公知の任意の方法を使用して細胞に提供され得る。例えば、鋳型は、非ウイルスベクター(例えば、プラスミド)またはウイルスベクターによって供給され得る。特定の実施形態では、核酸鋳型は、ヘルペスウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターによって供給される(例えば、欠失型アデノウイルスのE1a領域またはE3領域中に挿入される)。別の説明として、Palomboら(1998)J.Virology 72:5025頁は、AAV−TRが隣接するレポーター遺伝子を保有するバキュロウイルスベクターを記載している。EBVベクターもまた、rep/cap遺伝子に関して上記したように、鋳型を送達するために使用され得る。
【0078】
別の代表的な実施形態では、核酸鋳型は、複製するrAAVウイルスによって提供される。なお他の実施形態では、核酸鋳型を含むAAVプロウイルスは、細胞の染色体中に安定に組み込まれる。
【0079】
ウイルス力価を増強するために、増殖性AAV感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)が、細胞に提供され得る。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当該分野で公知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターによって提供される。あるいは、アデノウイルス配列またはヘルペスウイルス配列は、例えば、Ferrariら(1997)Nature Med.3:1295頁;ならびに米国特許第6,040,183号および同第6,093,570号によって記載されるような、効率的なAAV生成を促進するヘルパー遺伝子の全てを保有する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして、別の非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって提供され得る。
【0080】
さらに、ヘルパーウイルス機能は、染色体中に埋め込まれたまたは安定な染色体外エレメントとして維持されるヘルパー配列を有するパッケージング細胞によって提供され得る。一般に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオン中にパッケージングすることはできず、例えば、TRが隣接していない。
【0081】
単一のヘルパー構築物上のAAV複製およびカプシド配列ならびにヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を提供することが有利であり得ることを、当業者は理解するであろう。このヘルパー構築物は、非ウイルス構築物でもウイルス構築物でもよい。1つの非限定的説明として、ヘルパー構築物は、AAV−rep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
【0082】
1つの特定の実施形態では、AAV−rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。このベクターは、核酸鋳型をさらに含み得る。AAV−rep/cap配列および/またはrAAV鋳型は、アデノウイルスの欠失した領域(例えば、E1a領域またはE3領域)中に挿入され得る。
【0083】
さらなる実施形態では、AAV−rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。この実施形態によれば、rAAV鋳型は、プラスミド鋳型として提供され得る。
【0084】
別の例示的実施形態では、AAV−rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、rAAV鋳型は、プロウイルスとして細胞中に取り込まれる。あるいは、rAAV鋳型は、染色体外エレメント(例えば、EBVベースの核エピソーム)として細胞内で維持されるEBVベクターによって提供される。
【0085】
さらなる例示的な実施形態では、AAV−rep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって提供される。rAAV鋳型は、別個の複製するウイルスベクターとして提供され得る。例えば、rAAV鋳型は、rAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供され得る。
【0086】
上述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは典型的に、アデノウイルスの複製およびパッケージングに充分なアデノウイルスの5’および3’のシス配列(即ち、アデノウイルス末端反復およびPAC配列)を含む。AAV−rep/cap配列および存在する場合にはrAAV鋳型は、アデノウイルス骨格中に埋め込まれ、5’および3’のシス配列がそれに隣接しており、その結果これらの配列は、アデノウイルスカプシド中にパッケージングされ得る。上記のように、アデノウイルスヘルパー配列およびAAV−rep/cap配列には一般に、これらの配列がAAVビリオン中にパッケージングされないように、TRが隣接していない。
【0087】
Zhangら((2001)Gene Ther.18:704〜12頁)は、アデノウイルスならびにAAV−repおよびcap遺伝子の両方を含むキメラヘルパーを記載している。
【0088】
ヘルペスウイルスもまた、AAVパッケージング法においてヘルパーウイルスとして使用され得る。AAV−Repタンパク質(複数でもよい)をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、拡大縮小可能なAAVベクター生成スキームを有利に促進し得る。AAV−2のrepおよびcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV−1)ベクターが、Conwayら(1999)Gene Therapy 6:986頁およびPCT公開公報WO00/17377号に記載されている。
【0089】
さらなる代替として、本発明のウイルスベクターは、例えばUrabeら(2002)Human Gene Therapy 13:1935〜43頁に記載されるように、rep/cap遺伝子およびrAAV鋳型を送達するためのバキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞中で生成され得る。
【0090】
混入するヘルパーウイルスを含まないAAVベクターストックは、当該分野で公知の任意の方法によって得られ得る。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスは、サイズに基づいて容易に識別され得る。AAVはまた、ヘパリン基質に対する親和性に基づいて、ヘルパーウイルスから分離され得る(Zolotukhinら(1999)Gene Therapy 6:973頁)。任意の混入するヘルパーウイルスが複製コンピテントにならないように、欠失型複製欠損ヘルパーウイルスが使用され得る。アデノウイルス初期遺伝子発現のみがAAVウイルスのパッケージングを媒介するために必要なので、さらなる代替として、後期遺伝子発現を欠くアデノウイルスヘルパーが使用され得る。後期遺伝子発現が欠損したアデノウイルス変異体は当該分野で公知である(例えば、ts100Kおよびts149アデノウイルス変異体)。
【0091】
[組換えウイルスベクター]
本発明のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボおよびインビボで細胞に核酸を送達するために有用である。特に、ウイルスベクターは、例えば哺乳動物細胞を含む動物細胞に核酸を送達または移入するために有利に使用され得る。
【0092】
対象の任意の異種核酸配列(複数であってもよい)は、本発明のウイルスベクター中で送達され得る。対象の核酸には、治療用(例えば、医療用途または獣医学用途のため)ポリペプチドまたは免疫原性(例えば、ワクチンのため)ポリペプチドを含むポリペプチドをコードする核酸が含まれる。
【0093】
治療用ポリペプチドには以下が含まれるがこれらに限定されない:嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質(cystic fibrosis transmembrane regulator protein(CFTR))、ジストロフィン(ミニジストロフィンおよびマイクロジストロフィンが含まれる。例えば、Vincentら(1993)Nature Genetics 5:130頁;米国特許公開公報2003017131号;PCT公開公報WO/2008/088895号、Wangら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714〜13719頁(2000);およびGregorevicら Mol.Ther.16:657〜64頁(2008)を参照のこと)、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF−1、抗炎症性ポリペプチド(例えば、IκB優性変異体)、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsleyら(1996)Nature 384:349頁)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β−グロビン、α−グロビン、スペクトリン、α
1−アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β−グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分岐鎖ケト酸脱水素酵素、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、インターフェロン−γ、インターロイキン−2、インターロイキン−4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様増殖因子1および2、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、神経栄養因子−3および−4、脳由来神経栄養因子、骨形態形成(bone morphogenic)タンパク質[RANKLおよびVEGFが含まれる]、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子−αおよび−βなど)、リソソーム酸α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死増殖因子α可溶性受容体)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、カルシウムハンドリングをモジュレートする分子(例えば、SERCA
2A、PP1のインヒビター1およびそれらの断片[例えば、PCT公開公報WO2006/029319号およびWO2007/100465号])、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、IRAPなどの抗炎症性因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体が含まれる;例示的なMabは、Herceptin(登録商標)Mabである)、ニューロペプチドおよびその断片(例えば、ガラニン、ニューロペプチドY(米国特許第7,071,172号を参照のこと)、バソヒビンなどの血管新生インヒビターならびに他のVEGFインヒビター(例えば、バソヒビン2[PCT公開公報WO:JP2006/073052号を参照のこと])。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、および腫瘍壊死因子)、がん療法において使用される薬物に対する耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt−1)、TRAIL、FAS−リガンド、およびそれを必要とする対象において治療効果を有する任意の他のポリペプチドをコードする。AAVベクターは、モノクローナル抗体および抗体断片、例えば、ミオスタチンに対する抗体または抗体断片を送達するためにも使用され得る(例えば、Fangら Nature Biotechnology 23:584〜590頁(2005)を参照のこと)。
【0094】
ポリペプチドをコードする異種核酸配列には、レポーターポリペプチド(例えば酵素)をコードする異種核酸配列が含まれる。レポーターポリペプチドは当該分野で公知であり、緑色蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼおよびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれるがこれらに限定されない。
【0095】
任意選択的に、異種核酸は、分泌型ポリペプチド(例えば、そのネイティブ状態で分泌型ポリペプチドであるポリペプチド、または例えば当該分野で公知の分泌シグナル配列との作動可能な関連によって分泌されるように操作されたポリペプチド)をコードする。
【0096】
あるいは、本発明の特定の実施形態では、異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライソソーム介在性のトランススプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら(1999)Nature Biotech.17:24頁6;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照のこと)、遺伝子サイレンシングを仲介するsiRNA、shRNAまたはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら(2000)Science 287:2431頁を参照のこと)および「ガイド」RNAなどの他の非翻訳RNA(Gormanら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929頁;Yuanらに対する米国特許第5,869,248号)などをコードし得る。例示的な非翻訳RNAには、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療および/もしくは予防するため、ならびに/または化学療法による損傷を予防するために心臓に投与するため)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのため)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療および/または予防するため)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Andinoら J.Gene Med.10:132〜142頁(2008)およびLiら Acta Pharmacol Sin.26:51〜55頁(2005)を参照のこと);ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Hoshijimaら Nat.Med.8:864〜871頁(2002)を参照のこと)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、癲癇のため)、ならびに病原性生物およびウイルス(例えば、B型および/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルスなど)に対するRNAiが含まれる。
【0097】
さらに、選択的スプライシングを指示する核酸配列が送達され得る。説明するために、ストロフィンエクソン51の5’および/または3’スプライス部位に相補的なアンチセンス配列(または他の阻害配列)が、このエクソンの読み飛ばしを誘導するためにU1またはU7低分子核内(sn)RNAプロモーターと合わせて送達され得る。例えば、アンチセンス/阻害配列(複数可)に対して5’側に位置するU1またはU7−snRNAプロモーターを含むDNA配列は、本発明の改変されたカプシド中にパッケージングされて送達され得る。
【0098】
ウイルスベクターは、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を共有し、宿主染色体上の遺伝子座と組み換わる異種核酸もまた含み得る。このアプローチは、例えば、宿主細胞中の遺伝的欠陥を修正するために利用され得る。
【0099】
本発明は、例えばワクチン接種のための免疫原性ポリペプチドを発現するウイルスベクターもまた提供する。核酸は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIVのgagタンパク質、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原など由来の免疫原が含まれるがこれらに限定されない、当該分野で公知の対象の任意の免疫原をコードし得る。
【0100】
ワクチンベクターとしてのパルボウイルスの使用は当該分野で公知である(例えば、Miyamuraら、(1994)Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507頁;Youngらに対する米国特許第5,916,563号、Mazzaraらに対する米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらに対する米国特許第5,863,541号を参照のこと)。抗原は、パルボウイルスカプシド中に存在し得る。あるいは、抗原は、組換えベクターゲノム中に導入された異種核酸から発現され得る。本明細書中に記載されるおよび/または当該分野で公知の対象の任意の免疫原は、本発明のウイルスベクターによって提供され得る。
【0101】
免疫原性ポリペプチドは、免疫応答を惹起するのに適した、ならびに/または微生物、細菌、原生動物、寄生生物、真菌および/もしくはウイルスの感染および疾患が含まれるがこれらに限定されない感染および/もしくは疾患に対して対象を保護するのに適した任意のポリペプチドであり得る。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルソミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質、またはウマインフルエンザウイルス免疫原などの、インフルエンザウイルス免疫原)もしくはレンチウイルス免疫原(例えば、HIVもしくはSIVのエンベロープGP160タンパク質、HIVもしくはSIVのマトリックス/カプシドタンパク質ならびにHIVもしくはSIVのgag、polおよびenv遺伝子産物などの、ウマ感染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原)であり得る。免疫原性ポリペプチドは、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルス核カプシドタンパク質および/またはラッサ熱エンベロープ糖タンパク質などのラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアL1またはL8遺伝子産物などのワクシニアウイルス免疫原)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NPおよびGP遺伝子産物などの、エボラウイルス免疫原またはマールブルグウイルス免疫原)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHFおよび/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質などの感染性ヒトコロナウイルス免疫原、またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原またはトリ感染性気管支炎ウイルス免疫原)でもあり得る。免疫原性ポリペプチドはさらに、ポリオ免疫原、ヘルペスウイルス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)ムンプスウイルス免疫原、麻疹ウイルス免疫原、風疹ウイルス免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)免疫原、および/または当該分野で現在公知のまたは免疫原として後に同定される任意の他のワクチン免疫原であり得る。
【0102】
あるいは、免疫原性ポリペプチドは、任意の腫瘍細胞またはがん細胞の抗原であり得る。任意選択で、腫瘍抗原またはがん抗原は、がん細胞の表面上に発現される。例示的ながんおよび腫瘍細胞の抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281頁(1991))に記載されている。他の例示的ながん抗原および腫瘍抗原には、以下が含まれるがこれらに限定されない:BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE−1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY−ESO−1、CDK−4、β−カテニン、MUM−1、カスパーゼ−8、KIAA0205、HPVE、SART−1、PRAME、p15、メラノーマ腫瘍抗原(Kawakamiら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515頁;Kawakamiら(1994)J.Exp.Med.180:347頁;Kawakamiら(1994)Cancer Res.54:3124頁)、MART−1、gp100 MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、CEA、TRP−1、TRP−2、P−15、チロシナーゼ(Brichardら(1993)J.Exp.Med.178:489頁);HER−2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19−9、NSE、DU−PAN−2、CA50、SPan−1、CA72−4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c−erbB−2タンパク質、PSA、L−CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制因子タンパク質(Levine、(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623頁);ムチン抗原(PCT公開公報WO 90/05142号);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;および/あるいは現在公知のまたは以下のがんに関連することが後に発見される抗原:メラノーマ、腺がん腫、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がん、および現在公知のまたは後に同定される任意の他のがんまたは悪性状態(例えば、Rosenberg、(1996)Ann.Rev.Med.47:481〜91頁を参照のこと)。
【0103】
さらなる代替として、異種核酸は、インビトロ、エクスビボまたはインビボにおいて細胞中で生成されることが望ましい任意のポリペプチドをコードし得る。例えば、ウイルスベクターは、培養細胞中に導入され得、発現された遺伝子産物がそこから単離される。
【0104】
対象の異種核酸(複数でもよい)が適切な制御配列と作動可能に関連し得ることが、当業者に理解されよう。例えば、異種核酸は、発現制御エレメント、例えば転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーターおよび/またはエンハンサーなどと、作動可能に関連し得る。
【0105】
さらに、対象の異種核酸(複数でもよい)の調節された発現は、転写後レベルで、例えば、オリゴヌクレオチド、小分子および/または特定の部位におけるスプライシング活性を選択的に遮断する他の化合物(例えば、PCT公開公報WO 2006/119137号に記載される)の存在または非存在によって、異なるイントロンの選択的スプライシングを調節することによって、達成され得る。
【0106】
種々のプロモーター/エンハンサーエレメントが、所望されるレベルおよび組織特異的発現に依存して使用され得ることを、当業者は理解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに依存して、構成的または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーは、ネイティブまたは外来であり得、天然配列または合成配列であり得る。外来とは、転写開始領域が、その転写開始領域が導入される野生型宿主において見出されないものであることを意図する。
【0107】
特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞または治療される対象にとってネイティブであり得る。代表的な実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列にとってネイティブであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは一般に、対象の標的細胞(複数でもよい)において機能するように選択される。さらに、特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳動物のプロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的でも誘導性でもよい。
【0108】
誘導性発現制御エレメントは典型的に、異種核酸配列(複数でもよい)の発現の調節を提供することが望ましい適用において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的プロモーター/エンハンサーエレメントまたは好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントであり得、筋特異的または好ましい(心筋、骨格筋および/または平滑筋特異的または好ましいものが含まれる)、神経組織特異的または好ましい(脳特異的または好ましいものが含まれる)、眼特異的または好ましい(網膜特異的および角膜特異的なものが含まれる)、肝臓特異的または好ましい、骨髄特異的または好ましい、膵臓特異的または好ましい、脾臓特異的または好ましい、および/あるいは肺特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントが含まれる。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、ホルモン誘導性エレメントおよび金属誘導性エレメントが含まれる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
異種核酸配列(複数であってもよい)が標的細胞において転写され、次いで翻訳される実施形態では、特異的開始シグナルが一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために含まれる。ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得るこれらの外因性翻訳制御配列は、天然および合成の両方の、種々の起源のものであり得る。
【0110】
本発明に従うウイルスベクターは、分裂細胞および非分裂細胞を含む広範な細胞中に異種核酸を送達する手段を提供する。ウイルスベクターは、例えば、インビトロでポリペプチドを生成するためまたはエクスビボの遺伝子療法のために、対象の核酸をインビトロで細胞に送達するために使用され得る。ウイルスベクターは、例えば、免疫原性もしくは治療用ポリペプチドまたは機能的RNAを発現するために、それを必要とする対象に核酸を送達する方法において、さらに有用である。この様式で、ポリペプチドまたは機能的RNAは、対象中においてインビボで生成され得る。対象は、ポリペプチドの欠乏症を有するので、そのポリペプチドを必要とし得る。さらに、対象におけるポリペプチドまたは機能的RNAの生成は、いくらかの有益な効果を付与し得るので、この方法が実施され得る。
【0111】
ウイルスベクターは、(例えば、スクリーニング方法と合わせて、例えばポリペプチドを生成するためまたは対象に対する機能的RNAの影響を観察するためのバイオリアクタとして対象を使用して)培養細胞または対象において対象のポリペプチドまたは機能的RNAを生成するためにも使用され得る。
【0112】
一般に、本発明のウイルスベクターは、治療用ポリペプチドまたは機能的RNAを送達することが有利な任意の疾患状態を治療および/または予防するために、ポリペプチドまたは機能的RNAをコードする異種核酸を送達するために使用され得る。例示的な疾患状態には、以下が含まれるがこれらに限定されない:嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質)および他の肺の疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β−グロビン)、貧血(エリスロポエチン)および他の血液障害、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β−インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するためのRNAi)、筋萎縮性側索硬化症、癲癇(ガラニン、神経栄養因子)および他の神経学的障害、がん(エンドスタチン、アンジオスタチン、TRAIL、FAS−リガンド、インターフェロンを含むサイトカイン;VEGFまたは多剤耐性遺伝子産物に対するRNAiを含むRNAi、mir−26a[例えば、肝細胞癌腫のため])、真正糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型(ジストロフィン、ミニジストロフィン、インスリン様増殖因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンに対するRNAi、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソン読み飛ばしを誘導するためのジストロフィン遺伝子中のスプライスジャンクションに対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、PCT公開公報WO/2003/095647号を参照のこと]、エクソン読み飛ばしを誘導するためのU7−snRNAに対するアンチセンス[例えば、PCT公開公報WO/2006/021724号を参照のこと]、およびミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体断片)およびベッカー型を含む筋ジストロフィー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α−L−イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠乏症(アデノシンデアミナーゼ)、糖原貯蔵疾患(例えば、ファブリー病[α−ガラクトシダーゼ]およびポンペ病[リソソーム酸α−グルコシダーゼ])および他の代謝障害、先天性肺気腫(α1−アンチトリプシン)、レッシュ・ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ・サックス病(Tays Sachs disease)(リソソームヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分岐鎖ケト酸脱水素酵素)、網膜変性疾患(ならびに眼および網膜の他の疾患;例えば、黄斑変性症についてPDGF、および/あるいは例えばI型糖尿病における網膜障害を治療/予防するためのバソヒビンもしくはVEGFの他のインヒビターまたは他の血管新生インヒビター)、固形臓器の疾患、例えば脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]、膠芽腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]が含まれる)、肝臓、腎臓、うっ血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含む心臓(例えば、プロテインホスファターゼインヒビターI(I−1)およびその断片(例えば、I1C)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、Barkct、β2アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド−3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子;カルサルシン(calsarcin)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子などを送達することによる)、関節炎(インスリン様増殖因子)、関節障害(インスリン様増殖因子1および/または2)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することによる)、心臓移植物の生存の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様増殖因子I)、腎臓欠損症(kidney deficiency)(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(IRAPおよびTNFα可溶性受容体などの抗炎症性因子)、肝炎(α−インターフェロン)、LDL受容体欠乏症(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2およびSCA3を含む脊髄性大脳性運動失調症(spinal cerebral ataxias)、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患など。本発明はさらに、移植の成功率を増加させるためおよび/または臓器移植もしくは補助療法の負の副作用を低下させるために、臓器移植後に使用され得る(例えば、サイトカイン生成を遮断するために免疫抑制剤または阻害核酸を投与することによって)。別の例として、骨形態形成タンパク質(BNP2、7など、RANKLおよび/またはVEGFを含む)が、例えば、がん患者における破壊(break)または外科的除去後に、骨同種移植片と共に投与され得る。
【0113】
本発明は、誘導多能性幹細胞(iPS)を生成するためにも使用され得る。例えば、本発明のウイルスベクターは、例えば成人線維芽細胞、皮膚細胞、肝臓細胞、腎細胞、脂肪細胞、心臓細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞などの非多能性細胞中に、幹細胞関連核酸(複数であってもよい)を送達するために使用され得る。幹細胞に関連する因子をコードする核酸は、当該分野で公知である。かかる幹細胞および多能性に関連する因子の非限定的な例には、Oct−3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3および/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4および/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C−myc、L−mycおよび/またはN−myc)、NANOGおよび/またはLIN28が含まれる。
【0114】
本発明はまた、代謝障害、例えば糖尿病(例えば、インスリン)、血友病(例えば、第IX因子または第VIII因子)、リソソーム蓄積症、例えば、ムコ多糖症障害(例えば、スライ症候群[β−グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[α−L−イズロニダーゼ]、シャイエ症候群[α−L−イズロニダーゼ]、ハーラー・シャイエ症候群[α−L−イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群A[ヘパランスルファミダーゼ]、B[N−アセチルグルコサミニダーゼ]、C[アセチル−CoA:α−グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、D[N−アセチルグルコサミン6−スルファターゼ]、モルキオ症候群A[ガラクトース−6−硫酸スルファターゼ]、B[β−ガラクトシダーゼ]、マロトー・ラミー症候群[N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ]など)、ファブリー病(α−ガラクトシダーゼ)、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、または糖原貯蔵障害(例えば、ポンペ病;リソソーム酸α−グルコシダーゼ)を治療および/または予防するために実施され得る。
【0115】
遺伝子移入は、疾患状態のための療法を理解および提供するためのかなり有望な用途を有する。欠損した遺伝子が既知でありクローニングされている多数の遺伝性疾患が存在する。一般に、上記疾患状態は2つのクラスに入る(劣性様式で一般に遺伝する、通常は酵素の欠乏状態、および、調節タンパク質または構造タンパク質が関与し得、典型的には優性様式で遺伝するバランスを欠いた状態)。欠乏状態の疾患について、遺伝子移入は、補充療法のために罹患組織中に正常な遺伝子をもたらすため、ならびにアンチセンス変異を使用して疾患の動物モデルを創出するために使用され得る。バランスを欠いた疾患状態について、遺伝子移入は、モデル系において疾患状態を創出するために使用され得、このモデル系は次いで疾患状態に対抗するための試みにおいて使用され得る。従って、本発明に従うウイルスベクターは、遺伝疾患の治療および/または予防を可能にする。
【0116】
本発明に従うウイルスベクターは、機能的RNAをインビトロまたはインビボで細胞に提供するためにも使用され得る。細胞における機能的RNAの発現は、例えば、細胞による特定の標的タンパク質の発現を減少させ得る。従って、機能的RNAは、それを必要とする対象において特定のタンパク質の発現を減少させるために投与され得る。機能的RNAはまた、遺伝子発現および/または細胞生理学を調節するため、例えば、細胞もしくは組織培養系を最適化するために、またはスクリーニング方法において、インビトロで細胞に投与され得る。
【0117】
さらに、本発明に従うウイルスベクターは、診断方法およびスクリーニング方法において用途を見出し、それにより、対象の核酸が、細胞培養系において、あるいはトランスジェニック動物モデルにおいて、一過的にまたは安定に発現される。
【0118】
本発明のウイルスベクターは、当業者に明らかなように、遺伝子の標的化、クリアランス、転写、翻訳などを評価するためのプロトコールにおける使用が含まれるがこれらに限定されない種々の非治療的目的のためにも使用され得る。ウイルスベクターは、安全性(伝播、毒性、免疫原性など)を評価する目的のためにも使用され得る。かかるデータは、例えば、臨床的有効性の評価の前に、通常の承認プロセスの一部として、米国食品医薬品局によって検討される。
【0119】
さらなる態様として、本発明のウイルスベクターは、対象において免疫応答を生成するために使用され得る。この実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターが対象に投与され得、その免疫原性ポリペプチドに対する能動免疫応答が、対象によって開始される。免疫原性ポリペプチドは、本明細書中で上記したとおりである。いくつかの実施形態では、防御免疫応答が惹起される。
【0120】
あるいは、ウイルスベクターは、エクスビボで細胞に投与され得、変更された細胞が対象に投与される。異種核酸を含むウイルスベクターが細胞中に導入され、その細胞が対象に投与され、ここで、免疫原をコードする異種核酸が発現され得、対象においてその免疫原に対する免疫応答を誘導し得る。特定の実施形態では、細胞は抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)である。
【0121】
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原との遭遇後の宿主組織および細胞の関与」を特徴とし、「これは、抗体の合成もしくは細胞媒介反応性の発生またはそれら両方を導く、リンパ細網組織における免疫担当細胞の分化および増殖に関与する。」Herbert B.Herscowitz、Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation、IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti編、1985)。代替的に述べると、能動免疫応答は、感染またはワクチン接種による免疫原への曝露後に宿主によって開始される。能動免疫は受動免疫と対比され得、受動免疫は、「能動免疫された宿主から非免疫宿主への、予め形成された物質(抗体、トランスファー因子、胸腺移植片、インターロイキン−2)の移入」を介して達成される(同文献)。
【0122】
「防御」免疫応答または「防御」免疫は、本明細書中で使用される場合、疾患の発生率を予防するまたは低下させるという点で、免疫応答が対象にいくらかの利益を付与することを示す。あるいは、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特にがんまたは腫瘍の治療および/または予防において有用であり得る(例えば、がんまたは腫瘍の形成を予防することによって、がんまたは腫瘍の退縮を引き起こすことによって、および/あるいは転移を予防することによって、および/あるいは転移性小結節の増殖を予防することによって)。防御効果は、治療の利益がその任意の不利益を上回る限り、完全でも部分的でもよい。
【0123】
特定の実施形態では、異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、本明細書中に記載される免疫原的に有効な量で投与され得る。
【0124】
本発明のウイルスベクターは、1つまたは複数のがん細胞抗原(または免疫学的に類似の分子)あるいはがん細胞に対する免疫応答を生成する任意の他の免疫原を発現するウイルスベクターの投与によるがん免疫療法のためにも投与され得る。説明するために、例えばがんを有する患者を治療するためおよび/または対象においてがんの発生を予防するために、がん細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することによって、対象においてがん細胞抗原に対する免疫応答が生成され得る。ウイルスベクターは、本明細書中で記載されるように、インビボでまたはエクスビボ方法を使用することによって、対象に投与され得る。あるいは、がん抗原は、ウイルスカプシドの一部として発現され得るか、またはウイルスカプシドと他の方法で関連し得る(例えば、上記されるように)。
【0125】
別の代替として、当該分野で公知の任意の他の治療的核酸(例えば、RNAi)またはポリペプチド(例えば、サイトカイン)が、がんを治療および/または予防するために投与され得る。
【0126】
本明細書中で使用する場合、用語「がん」は、腫瘍形成がんを包含する。同様に、用語「がん性組織」は腫瘍を包含する。「がん細胞抗原」は腫瘍抗原を包含する。
【0127】
用語「がん」は、当該分野で理解される意味を有し、例えば、身体の離れた部位に伝播する能力を有する組織の制御されない増殖(即ち、転移)である。例示的ながんには、メラノーマ、腺癌腫、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がんならびに現在公知のまたは後に同定される任意の他のがんまたは悪性状態が含まれるが、これらに限定されない。代表的な実施形態では、本発明は、腫瘍形成がんを治療および/または予防する方法を提供する。
【0128】
用語「腫瘍」もまた、例えば、多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊として、当該分野で理解される。腫瘍は悪性または良性であり得る。代表的な実施形態では、本明細書中に開示される方法は、悪性腫瘍を予防および治療するために使用される。
【0129】
用語「がんを治療する」、「がんの治療」および等価な用語は、がんの重症度が低下されもしくは少なくとも部分的に排除されること、ならびに/または疾患の進行が減速されるおよび/もしくは制御されること、ならびに/または疾患が安定化されることを意図する。特定の実施形態では、これらの用語は、がんの転移が予防もしくは低下もしくは少なくとも部分的に排除されること、ならびに/または転移性小結節の増殖が予防もしくは低下もしくは少なくとも部分的に排除されることを示す。
【0130】
用語「がんの予防」または「がんを予防する」および等価な用語は、その方法が、がんの発症の発生率および/または重症度を、少なくとも部分的に排除または低下および/または遅延させることを意図する。代替的に述べると、対象におけるがんの発症は、尤度もしくは確率において低下され得る、および/または遅延され得る。
【0131】
特定の実施形態では、細胞は、がんを有する対象から取り出され得、本発明に従うがん細胞抗原を発現するウイルスベクターと接触され得る。次いで、改変された細胞が対象に投与され、それにより、がん細胞抗原に対する免疫応答が惹起される。この方法は、インビボで充分な免疫応答を開始できない(即ち、充分な量で促進抗体を生成できない)易感染性対象と共に有利に使用され得る。
【0132】
免疫応答は、免疫調節性サイトカイン(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロン、ω−インターフェロン、τ−インターフェロン、インターロイキン−1α、インターロイキン−1β、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、インターロイキン−9、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン12、インターロイキン−13、インターロイキン−14、インターロイキン−18、B細胞増殖因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子−α、腫瘍壊死因子−β、単球走化性因子タンパク質−1、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子およびリンホトキシン)によって増強され得ることが、当該分野で公知である。従って、免疫調節性サイトカイン(好ましくは、CTL誘導性サイトカイン)が、ウイルスベクターと合わせて対象に投与され得る。
【0133】
サイトカインは、当該分野で公知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインが対象に投与され得るか、あるいはサイトカインをコードする核酸が適切なベクターを使用して対象に送達され得、サイトカインがインビボで生成され得る。
【0134】
[対象、医薬製剤および投与様式]
本発明に従うウイルスベクターおよびカプシドは、獣医学適用および医療適用の両方において用途を見出す。適切な対象には、トリおよび哺乳動物の両方が含まれる。用語「トリ」には、本明細書中で使用する場合、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどが含まれるがこれらに限定されない。用語「哺乳動物」には、本明細書中で使用する場合、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが含まれるがこれらに限定されない。ヒト対象には、新生児、乳幼児、若年、成人および老人の対象が含まれる。
【0135】
代表的な実施形態では、対象は、本発明の方法「を必要とする」、従っていくつかの実施形態では、「それを必要とする対象」であり得る。
【0136】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体中に本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドを含み、任意選択で、他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝剤、担体、補助剤、希釈剤などを含む、医薬組成物を提供する。注射について、担体は典型的には液体である。他の投与方法について、担体は固体または液体のいずれかであり得る。吸入投与について、担体は呼吸用であり、任意選択で、固体または液体の粒状形態であり得る。
【0137】
「薬学的に許容される」とは、毒性でなくその他の点でも望ましくない材料、即ち、その材料が、望ましくない生物学的影響をいずれも引き起こすことなしに対象に投与され得ることを意味する。
【0138】
本発明の一態様は、核酸をインビトロで細胞に移入する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に適した標準的な形質導入法に従って、適切な感染多重度で細胞中に導入され得る。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞の型および数、ならびに特定のウイルスベクターに依存して変動し得、過度の実験なしに当業者によって決定され得る。代表的な実施形態では、少なくとも約10
3感染単位、任意選択で少なくとも約10
5感染単位が、細胞に導入される。
【0139】
ウイルスベクターが導入される細胞(複数でもよい)は、任意の型の細胞であり得、以下が含まれるがこれらに限定されない:神経細胞(末梢神経系および中枢神経系の細胞、特に、ニューロンおよびオリゴデンドロサイトなどの脳細胞が含まれる)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮および角膜細胞が含まれる)、上皮細胞(例えば、腸および呼吸器の上皮細胞)、筋細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞および/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(島細胞が含まれる)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞など。代表的な実施形態では、細胞は任意の前駆細胞であり得る。さらなる実施形態として、細胞は幹細胞(例えば、神経幹細胞、肝臓幹細胞)であり得る。なおさらなる実施形態として、細胞はがん細胞または腫瘍細胞であり得る。さらに、細胞は、上で示したような任意の種起源であり得る。
【0140】
ウイルスベクターは、改変された細胞を対象に投与する目的のために、インビトロで細胞中に導入され得る。特定の実施形態では、細胞は、対象から取り出されたものであり、ウイルスベクターがその細胞に導入され、次いでその細胞が対象中に戻し投与される。エクスビボでの操作のために対象から細胞を取り出し、その後対象中に戻し導入する方法は、当該分野で公知である(例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと)。あるいは、組換えウイルスベクターは、ドナー対象由来の細胞中に、培養細胞中に、または任意の他の適切な供給源由来の細胞中に導入され得、この細胞が、それを必要とする対象(即ち、「レシピエント」対象)に投与される。
【0141】
エクスビボ核酸送達に適した細胞は上記のとおりである。対象に投与する細胞の投薬量は、対象の年齢、状態および種、細胞の型、細胞が発現する核酸、投与様式などに応じて変動する。典型的には、少なくとも約10
2〜約10
8細胞または少なくとも約10
3〜約10
6細胞が、1投薬当たり薬学的に許容される担体中で投与される。特定の実施形態では、ウイルスベクターで形質導入された細胞は、医薬担体と組み合わせて、治療有効量または予防有効量で対象に投与される。
【0142】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが細胞中に導入され、(例えば、導入遺伝子として発現されたまたはカプシド中にて)送達されたポリペプチドに対する免疫原性応答を惹起するために、その細胞が対象に投与され得る。典型的には、免疫原的に有効な量のポリペプチドを発現する細胞の量が、薬学的に許容される担体と組み合わせて投与される。「免疫原的に有効な量」は、医薬製剤が投与される対象において、そのポリペプチドに対する能動免疫応答を誘起するのに充分な、発現されたポリペプチドの量である。特定の実施形態では、投薬量は、(上で定義したような)防御免疫応答を生成するのに充分である。免疫原性ポリペプチドを投与することの利益がその任意の不利益を上回る限り、付与される保護の程度は、完全または永続的である必要はない。
【0143】
本発明のさらなる態様は、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを対象に投与する方法である。それを必要とするヒト対象または動物への、本発明に従うウイルスベクターおよび/またはカプシドの投与は、当該分野で公知の任意の手段によってであり得る。任意選択で、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、薬学的に許容される担体中で、治療有効用量または予防有効用量で送達され得る。
【0144】
本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドはさらに、(例えば、ワクチンとして)免疫原性応答を惹起するために投与され得る。典型的には、本発明の免疫原性組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、免疫原的に有効な量のウイルスベクターおよび/またはカプシドを含む。任意選択で、投薬量は、(上で定義したような)防御免疫応答を生成するのに充分である。
【0145】
対象に投与されるウイルスベクターおよび/またはカプシドの投薬量は、投与様式、治療および/または予防される疾患または状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクターまたはカプシド、送達される核酸などに依存し、慣用的な様式で決定され得る。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約10
5、10
6、10
7、10
8、10
9、10
10、10
11、10
12、10
3、10
14、10
15形質導入単位、任意選択的に約10
8〜10
13形質導入単位の力価である。
【0146】
特定の実施形態では、1回より多い投与(例えば、2回、3回、4回またはそれ以上の投与)が、例えば、毎日、週1回、月1回、年1回などの種々の間隔の期間にわたって、所望のレベルの遺伝子発現を達成するために使用され得る。
【0147】
例示的な投与様式には、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介して)、頬側(例えば、舌下)、膣、髄腔内、眼内、経皮、子宮内(または胚内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋内[骨格筋、横隔膜筋および/または心筋への投与が含まれる]、皮内、胸膜内、脳内および関節内)、外用(例えば、気道表面を含む皮膚表面および粘膜表面の両方への、ならびに経皮投与)、リンパ内など、ならびに直接的な組織または臓器への注射(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋または脳への)が含まれる。投与は、腫瘍への投与であり得る(例えば、腫瘍またはリンパ節の中または近傍)。任意の所与の場合における最も適切な経路は、治療および/または予防される状態の性質および重症度、ならびに使用されている特定のベクターの性質に依存する。
【0148】
本発明に従う骨格筋への投与には、四肢(例えば、上腕、前腕、大腿および/または下腿)、背部、頚部、頭部(例えば、舌)、胸郭、腹部、骨盤/会陰部および/または指の骨格筋への投与が含まれるが、これらに限定されない。適切な骨格筋には以下が含まれるがこれらに限定されない。小指外転筋(手の)、小趾外転筋(足の)、母趾外転筋、第五中足骨外転筋(abductor ossis metatarsi quinti)、短母指外転筋、長母指外転筋、短内転筋、母趾内転筋、長内転筋、大内転筋、母指内転筋、肘筋、前斜角筋、膝関節筋、上腕二頭筋、大腿二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、頬筋、烏口腕筋、皺眉筋、三角筋、口角下制筋、下唇下制筋、顎二腹筋、背側骨間筋(手の)、背側骨間筋(足の)、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋、指伸筋、短趾伸筋、長趾伸筋、短母趾伸筋、長母趾伸筋、示指伸筋、短母指伸筋、長母指伸筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、短小指屈筋(手の)、短小趾屈筋(足の)、短趾屈筋、長趾屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、短母趾屈筋、長母趾屈筋、短母指屈筋、長母指屈筋、前頭筋、腓腹筋、オトガイ舌骨筋、大臀筋、中臀筋、小臀筋、薄筋、頸腸肋筋、腰腸肋筋、胸腸肋筋、腸骨筋(illiacus)、下双子筋、下斜筋、下直筋、棘下筋、棘間筋、横突間筋(intertransversi)、外側翼突筋、外直筋、広背筋、口角挙筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋、上眼瞼挙筋、肩甲挙筋、長回旋筋(long rotators)、頭最長筋、頸最長筋、胸最長筋、頭長筋、頸長筋、虫様筋(手の)、虫様筋(足の)、咬筋、内側翼突筋、内直筋、中斜角筋、多裂筋、顎舌骨筋、下頭斜筋、上頭斜筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、後頭筋、肩甲舌骨筋、小指対立筋、母指対立筋、眼輪筋、口輪筋、掌側骨間筋、短掌筋、長掌筋、恥骨筋、大胸筋、小胸筋、短腓骨筋、長腓骨筋、第三腓骨筋、梨状筋、底側骨間筋、足底筋、広頸筋、膝窩筋、後斜角筋、方形回内筋、円回内筋、大腰筋、大腿方形筋、足底方形筋、前頭直筋、外側頭直筋、大後頭直筋、小後頭直筋、大腿直筋、大菱形筋、小菱形筋、笑筋、縫工筋、最小斜角筋、半膜様筋、頭半棘筋、頸半棘筋、胸半棘筋、半腱様筋、前鋸筋、短回旋筋(short rotators)、ヒラメ筋、頭棘筋、頸棘筋、胸棘筋、頭板状筋、頸板状筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、茎突舌骨筋、鎖骨下筋、肩甲下筋、上双子筋、上斜筋、上直筋、回外筋、棘上筋、側頭筋、大腿筋膜張筋、大円筋、小円筋、胸部の筋、甲状舌骨筋、前脛骨筋、後脛骨筋、僧帽筋、上腕三頭筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋、大頬骨筋および小頬骨筋、ならびに当該分野で公知の任意の他の適切な骨格筋。
【0149】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、四肢灌流(任意選択で、下肢および/または腕の孤立した四肢灌流;例えば、Arrudaら(2005)Blood 105:3458〜3464頁を参照のこと)、および/または直接的筋内注射によって骨格筋に送達され得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、四肢灌流、任意選択で孤立した四肢灌流(例えば、静脈内投与または関節内投与による)によって、対象(例えば、DMDなどの筋ジストロフィーを有する対象)の四肢(腕および/または下肢)に投与される。本発明の実施形態では、本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、「水力学的」技術を使用することなく有利に投与され得る。ベクターの組織送達(例えば、筋肉への)は、脈管構造中の圧力を増加させ、内皮細胞障壁を横切るベクターの能力を促進する水力学的技術(例えば、大容量での静脈内/静脈内投与)によって増強されることが多い。特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、高容量注入および/または上昇した血管内圧力(例えば、正常な収縮期血圧より高い、例えば、血管内圧力における5%以下、10%以下、15%以下、20%以下、25%以下の、正常な収縮期血圧を超えた増加)などの水力学的技術の非存在下で投与され得る。かかる方法は、浮腫、神経損傷および/またはコンパートメント症候群などの、水力学的技術に関連する副作用を低下または回避し得る。
【0150】
心筋への投与には、左心房、右心房、左心室、右心室および/または中隔への投与が含まれる。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、静脈内投与、大動脈内投与などの動脈内投与、直接的心臓注射(例えば、左心房、右心房、左心室、右心室中への)および/または冠状動脈灌流によって、心筋に送達され得る。
【0151】
横隔膜筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与および/または腹腔内投与を含む任意の適切な方法によるものであり得る。
【0152】
標的組織への送達は、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーを送達することによっても達成され得る。代表的な実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーは、骨格筋、心筋および/または横隔膜筋組織中に移植され、あるいは組織が、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触され得る。かかる移植可能なマトリックスまたは基材は、例えば米国特許第7,201,898号中に記載されている。
【0153】
特定の実施形態では、本発明に従うウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、(例えば、筋ジストロフィー、心臓疾患[例えば、PADまたはうっ血性心不全]を治療および/または予防するために)骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与される。
【0154】
代表的な実施形態では、本発明は、骨格筋、心筋および/または横隔膜筋の障害を治療および/または予防するために使用される。
【0155】
代表的な実施形態では、本発明は、それを必要とする対象において筋ジストロフィーを治療および/または予防する方法を提供し、この方法は、治療有効量または予防有効量の本発明のウイルスベクターを哺乳動物対象に投与するステップを含み、このウイルスベクターは、以下をコードする異種核酸を含む。ジストロフィン、ミニジストロフィン、ミクロジストロフィン、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF−1、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミクロジストロフィン、ラミニン−α2、α−サルコグリカン、β−サルコグリカン、γ−サルコグリカン、δ−サルコグリカン、IGF−1、ミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体断片、および/あるいはミオスタチンに対するRNAi。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、本明細書中の別の箇所に記載するように、骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与され得る。
【0156】
あるいは、本発明は、骨格筋、心筋または横隔膜筋に核酸を送達するために実施され得、これらの筋肉は、正常に血中を循環するポリペプチド(例えば、酵素)または機能的RNA(例えば、RNAi、マイクロRNA、アンチセンスRNA)の生成のための、あるいは障害(例えば、代謝障害、例えば糖尿病[例えば、インスリン]、血友病[例えば、第IX因子または第VIII因子]、ムコ多糖障害[例えば、スライ症候群、ハーラー症候群、シャイエ症候群、ハーラー・シャイエ症候群、ハンター症候群、サンフィリポ症候群A、B、C、D、モルキオ症候群、マロトー・ラミー症候群など]、またはリソソーム蓄積症、例えば、ゴーシェ病[グルコセレブロシダーゼ]もしくはファブリー病[α−ガラクトシダーゼA]、またはポンペ病[リソソーム酸αグルコシダーゼ]などの糖原貯蔵障害)を治療および/または予防するための他の組織への全身送達のための、プラットフォームとして使用される。代謝障害を治療および/または予防するのに適した他のタンパク質は、本明細書中に記載されている。対象の核酸を発現するためのプラットフォームとしての筋肉の使用は、米国特許公開公報20020192189号に記載されている。
【0157】
従って、一態様として、本発明はさらに、それを必要とする対象において代謝障害を治療および/または予防する方法を包含し、この方法は、治療有効量または予防有効量の本発明のウイルスベクターを対象の骨格筋に投与するステップを含み、このウイルスベクターはポリペプチドをコードする異種核酸を含み、この代謝障害は、ポリペプチドの欠乏および/または欠損の結果である。例示的な代謝障害およびポリペプチドをコードする異種核酸は、本明細書中に記載されている。任意選択的に、ポリペプチドは分泌される(例えば、そのネイティブ状態で分泌されたポリペプチドであるポリペプチド、あるいは例えば当該分野で公知の分泌シグナル配列との作動可能な関連によって分泌されるように操作されたポリペプチド)。本発明の任意の特定の理論に限定されず、この実施形態によれば、骨格筋への投与は、全身循環中へのポリペプチドの分泌および標的組織(複数でもよい)への送達を生じ得る。ウイルスベクターを骨格筋に送達する方法は、本明細書中でより詳細に記載される。
【0158】
本発明は、全身送達のためのアンチセンスRNA、RNAiまたは他の機能的RNA(例えば、リボザイム)を生成するためにも実施され得る。
【0159】
本発明は、それを必要とする対象において先天性心不全またはPADを治療および/または予防する方法もまた提供し、この方法は、治療有効量または予防有効量の本発明のウイルスベクターを哺乳動物対象に投与するステップを含み、このウイルスベクターは、例えば以下をコードする異種核酸を含む。筋小胞体(sarcoplasmic endoreticulum)Ca
2+−ATPase(SERCA2a)、血管新生因子、ホスファターゼインヒビターI(I−1)およびその断片(例えば、I1C)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、β2アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、PI3キナーゼ、カルサルカン(calsarcan)、βアドレナリン受容体キナーゼインヒビター(βARKct)、プロテインホスファターゼ1のインヒビター1およびその断片(例えば、I1C)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、Pim−1、PGC−1α、SOD−1、SOD−2、EC−SOD、カリクレイン、HIF、チモシン−β4、mir−1、mir−133、mir−206、mir−208および/またはmir−26a。
【0160】
注射剤は、液体溶液もしくは懸濁液、注射の前に液体中で溶液もしくは懸濁液にするのに適した固体形態、または乳濁液のいずれかとして、従来の形態で調製され得る。あるいは、本発明のウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを、全身様式ではなく局所様式で、例えば、デポー製剤または徐放性製剤で、投与し得る。さらに、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、外科的に移植可能なマトリックスに付着して送達され得る(例えば、米国公開公報20040013645号に記載される)。
【0161】
本明細書中に開示されるウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、対象が吸入する、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドから構成される呼吸用粒子のエアロゾル懸濁液を任意選択で投与することによって、任意の適切な手段で対象の肺に投与され得る。呼吸用粒子は、液体または固体であり得る。ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを含む液体粒子のエアロゾルは、圧力駆動式エアロゾルネブライザーまたは超音波ネブライザーなどの任意の適切な手段によって、当業者に公知のように生成され得る。例えば、米国特許第4,501,729号を参照のこと。ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含む固体粒子のエアロゾルも同様に、医薬分野で公知の技術によって、任意の固体粒状医薬エアロゾル生成器を用いて生成され得る。
【0162】
ウイルスベクターおよびウイルスカプシドは、中枢神経系(CNS)の組織(例えば、脳、眼)に投与され得、本発明の非存在下で観察されるものよりも広い分布のウイルスベクターまたはカプシドを有利に生じ得る。
【0163】
特定の実施形態では、本発明の送達ベクターは、遺伝性障害、神経変性障害、精神障害および腫瘍を含むCNSの疾患を治療するために投与され得る。CNSの例示的疾患には、以下が含まれるがこれらに限定されない。アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄および頭部の損傷に起因する外傷、テイ・サックス病、レッシュ・ナイハン病(Lesch−Nyan disease)、癲癇、脳梗塞、気分障害(例えば、うつ病、双極性感情障害、持続性感情障害、二次的気分障害)、統合失調症、薬物依存性(例えば、アルコール依存症および他の物質の依存性)、神経症(例えば、不安症、強迫障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、産後うつ病)、精神病(例えば、幻覚および妄想)、認知症、パラノイア、注意欠陥障害、精神性的障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食障害もしくは体重障害(例えば、肥満症、悪液質、神経性食欲不振症および過食症(bulemia))を含む精神障害、ならびにCNSのがんおよび腫瘍(例えば、原発性腫瘍)。
【0164】
CNSの障害には、網膜、後方路(posterior tract)および視神経に関与する眼科障害(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症および他の網膜変性疾患、ブドウ膜炎、加齢性黄斑変性症、緑内障)が含まれる。
【0165】
全部ではないが殆どの眼科の疾患および障害は、3つの型の指標のうち1つまたは複数と関連する:(1)血管新生、(2)炎症および(3)変性。本発明の送達ベクターは、抗血管新生因子;抗炎症性因子;細胞変性を遅延させ、細胞温存(sparing)を促進し、または細胞増殖を促進する因子、および上述の組み合わせを送達するために使用され得る。
【0166】
例えば、糖尿病性網膜症は、血管新生によって特徴付けられる。糖尿病性網膜症は、眼内(例えば、硝子体中)または眼窩周囲(例えば、テノン下領域中)のいずれかに、1つまたは複数の抗血管新生因子を送達することによって治療され得る。1つまたは複数の神経栄養因子もまた、眼内(例えば、硝子体内)または眼窩周囲のいずれかに同時送達され得る。
【0167】
ブドウ膜炎は炎症に関与する。1つまたは複数の抗炎症因子が、本発明の送達ベクターの眼内(例えば、硝子体または前房)投与によって投与され得る。
【0168】
比較として、網膜色素変性症は、網膜変性によって特徴付けられる。代表的な実施形態では、網膜色素変性症は、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼内(例えば、硝子体)投与によって治療され得る。
【0169】
加齢性黄斑変性症は、血管新生および網膜変性の両方に関与する。この障害は、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内(例えば、硝子体)に、および/あるいは1つまたは複数の抗血管新生因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内または眼窩周囲(例えば、テノン下領域中)に投与することによって、治療され得る。
【0170】
緑内障は、眼圧の増加および網膜神経節細胞の喪失によって特徴付けられる。緑内障の治療には、本発明の送達ベクターを使用して興奮毒性損傷から細胞を保護する1つまたは複数の神経保護剤の投与が含まれる。かかる薬剤には、眼内に、任意選択で硝子体内に送達される、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、サイトカインおよび神経栄養因子が含まれる。
【0171】
他の実施形態では、本発明は、発作を治療するため、例えば、発作の発症、発生率および/または重症度を低下させるために使用され得る。発作の治療的処置の効力は、行動的手段(例えば、眼または口の震え、チック(tick))および/または電気記録手段(殆どの発作は、顕著な電気記録の異常を有する)によって評価され得る。従って、本発明は、経時的な複数の発作を特徴とする癲癇を治療するためにも使用され得る。
【0172】
1つの代表的な実施形態では、ソマトスタチン(またはその活性断片)が、下垂体腫瘍を治療するために、本発明の送達ベクターを使用して脳に投与される。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性断片)をコードする送達ベクターは、微量注入によって下垂体中に投与される。同様に、かかる治療は、先端巨大症(下垂体からの異常な成長ホルモン分泌)を治療するために使用され得る。ソマトスタチンの核酸配列(例えば、GenBank受託番号J00306)およびアミノ酸配列(例えば、GenBank受託番号P01166;プロセシングされた活性ペプチドソマトスタチン−28およびソマトスタチン−14を含む)は、当該分野で公知である。
【0173】
特定の実施形態では、ベクターは、例えば米国特許第7,071,172号に記載された分泌シグナルを含み得る。
【0174】
本発明の代表的な実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、CNSに(例えば、脳にまたは眼に)投与される。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、脊髄、脳幹(延髄、脳橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果体)、小脳、終脳(線条体、後頭葉皮質、側頭葉皮質、頭頂葉皮質および前頭葉皮質、基底核、海馬ならびに扁桃体(portaamygdala)を含む大脳)、辺縁系、新皮質、線条体、大脳および/または下丘中に導入され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、網膜、角膜および/または視神経などの眼の異なる領域にも投与され得る。
【0175】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、送達ベクターのより分散した投与のために、脳脊髄液中に(例えば、腰椎穿刺によって)送達され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドはさらに、血液脳関門が撹乱された状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)において、CNSに血管内投与され得る。
【0176】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、髄腔内、脳内、脳室内、静脈内(例えば、マンニトールなどの糖の存在下)、鼻腔内、耳内、眼内(例えば、硝子体内、網膜下、前房)および眼窩周囲(例えば、テノン下領域)送達、ならびに運動ニューロンへの逆行性送達と合わせた筋内送達が含まれるがこれらに限定されない当該分野で公知の任意の経路によって、CNSの所望の領域(複数であってよい)に投与され得る。
【0177】
特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、CNS中の所望の領域または区画への直接的注射(例えば、定位注射)によって、液体製剤で投与される。他の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、所望の領域への外用適用によって、またはエアロゾル製剤の鼻腔内投与によって提供され得る。眼への投与は、液滴の外用適用によるものであり得る。さらなる代替として、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、固体の持続放出製剤として投与され得る(例えば、米国特許第7,201,898号を参照のこと)。
【0178】
なおさらなる実施形態では、ウイルスベクターは、運動ニューロンに関与する疾患および障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)など)を治療および/または予防するための逆行性輸送に使用され得る。例えば、ウイルスベクターは、筋肉組織に送達され得、そこからニューロン中に移動し得る。
【0179】
本発明を説明してきたが、同内容は以下の実施例においてさらに詳細に説明され、以下の実施例は、本発明の説明目的のためだけに本明細書中に含まれるものであり、本発明を限定する意図ではない。
【実施例】
【0180】
[二重グリカン結合性AAVの操作]
構造モデル化。AAV2およびAAV9のウイルスタンパク質(VP)結晶構造についての座標を、RCSB Protein Databankから得た(それぞれ、PDB受託番号1LP3および3UX1)
30、31。SWISS−MODELタンパク質構造モデル化サーバー(http://swissmodel.expasy.org/)
32を使用して、2G9−VP3モノマーの相同性モデルを、AAV2−VP3の結晶構造を鋳型として用いて生成した。インタクトな2G9カプシドの三次元正二十面体モデルを、VIPERdb−Virus Particle ExploreR2においてOligomer Generatorユーティリティを使用して創出した
33。同様に、AAV2−VP3トリマー、2G9トリマーおよびAAV9トリマーの図解を、Oligomer Generatorユーティリティを使用して得た。全ての構造モデルを、それぞれ橙色および紫色で強調したガラクトース結合部位を形成する残基(AAV9−VP1での番号付け:D271、N272、Y446、N470、A472、V473、W503)
13およびヘパラン硫酸結合部位を形成する残基(AAV2−VP1での番号付け:R487、K527、K532、R585、R588)
10〜12、34と共にPyMOLを使用して可視化した。異なるモノマーを、淡緑色、明るい青色および明るい桃色で着色した。
【0181】
二重グリカン結合性AAV株の生成。ヘルパープラスミドpXR1、2、6、8および9を、UNCベクターコアから得た。AAV9カプシドタンパク質サブユニット上のGal認識部位に直接関与するまたは隣接するアミノ酸残基を、AAV2のカプシドサブユニット上の対応する残基上に置換することによって(AAV2 VP1の番号付け:A266S、Q464V、A467P、D469N、I470M、R471A、D472V、S474G、Y500F、S501A)、原型pXR2G9キメラプラスミド構築物を生成した。置換を、以下のプライマー(IDT)を使用し、QuikChange(登録商標)Lightning部位特異的変異誘発キット(Agilent)を使用して生成した:5’−GGAACCACCA CGCAGTCAAG GCTTCAGTTT TCTGTGGCCG GACCCAGTAA CATGGCTGTC CAGGGAAGGA ACTGGCTTCCT GGACCCTGTT ACCGC−3’および5’−GACATCTGCG GATAACAACA ACAGTGAATTT GCTTGGACTG GAGCTACCAA GTACCACCT−3’。CBA−Luc導入遺伝子カセットをパッケージングする組換えAAVベクターを、以前に記載されたように生成した
14。ウイルス力価を、定量的PCRによって得た。
【0182】
インビトロ結合、形質導入および競合的阻害アッセイ。CHO−Lec2細胞を、10%胎仔ウシ血清(FBS)、100U/mlのペニシリン(Cellgro)、100μg/mlのストレプトマイシン(Cellgro)および2.5μg/mlのアンホテリシンB(Sigma)を補充したαMEM(Thermo Scientific)中で培養した。細胞を、24ウェルプレート中1×10
5細胞/ウェルの密度で播種した。競合的阻害アッセイのために、細胞を、4℃で30分間予め冷却し、αMEM中100μg/mlのFITC標識アメリカデイゴ(Erythrina Cristagalli)レクチン(FITC−ECL、Vector Labs)と共に、4℃で1時間インキュベートした。あるいは、異なるウイルスカプシドを、室温で1時間、100μg/mlの可溶性ヘパリン(Sigma)または1×PBS(対照)と共にインキュベートした。次いで、模擬処理またはFITC−ECL処理した細胞に、1000ベクターゲノム(vg)コピー/細胞のMOIで、CBA−Luc導入遺伝子カセットをパッケージングする、HS結合したまたは模擬処理したAAV2、AAV2G9またはAAV9カプシドを感染させた。低温室中で1時間のインキュベーション後、未結合ビリオンを、氷冷1×PBSでの3回の洗浄によって除去した。細胞表面結合アッセイのために、結合ビリオンの数を、定量的PCRを使用して、各ウェル中のベクターゲノムコピー数/細胞を定量することによって測定した。形質導入アッセイのために、感染Lec2細胞を、37℃に移動させ、細胞溶解物からのルシフェラーゼ導入遺伝子発現の定量前に24時間インキュベートした。
【0183】
親AAV2またはAAV9カプシドとの競合的阻害のために、CBAプロモーター駆動性tdTomato導入遺伝子カセットをパッケージングするベクターを利用した。簡潔に述べると、Lec2細胞を、1×10
5細胞/ウェルの密度で、24ウェルプレート中に一晩播種した。4℃で30分間予め冷却した後、Lec2細胞を、500〜100,000vg/細胞の範囲の感染多重度(MOI)で、AAV2−tdTomatoまたはAAV9−tdTomatoベクターのいずれかと共に、4℃でもう30分間予めインキュベートした。次いで、細胞に、4℃で45分間、1000vg/細胞のMOIでAAV2G9−CBA−Lucを重感染させ、その後、氷冷PBSを使用して未結合ビリオンを除去した。次いで、感染細胞を、ルシフェラーゼ発現分析前に37℃で24時間インキュベートした。対照は、AAV2−CBA−LucまたはAAV9−CBA−Lucベクターを含んだ。
【0184】
インビボでの導入遺伝子発現の動態。雌性BALB/cマウス(6〜8週齢)を、Jackson Laboratoriesから購入し、UNC Chapel Hillにおいて、NIHガイドラインに従って、IACUC承認されたプロトコールを使用して取り扱った。CBA−Lucカセットをパッケージングする異なるAAVベクターを、1×10
11vg/マウスの用量で、尾静脈中に静脈内注射した。投与後の示された時間間隔(3日、7日および18日)において、マウスに、ルシフェリン(120mg/kg;Nanolight)を腹腔内注射し、生物発光画像を、Xenogen IVIS(登録商標)Luminaシステム(Caliper Lifesciences)を使用して得た。肝臓および動物全体の画像からの光アウトプットの定量を、WAVEMETRICS(登録商標)ソフトウェアを使用して実施した。異なる組織におけるルシフェラーゼ導入遺伝子発現のさらなる定量およびベクターゲノム生体内分布を、ベクター投与後3日目および18日目に屠殺した2つの異なる群のマウスにおいて実施した。ルシフェラーゼ導入遺伝子発現を、上に記載したように、異なる組織溶解物においてモニタリングした。ベクターゲノム生体内分布を、DNeasy(登録商標)Kit(Qiagen)を使用して、組織溶解物からゲノムDNAを最初に抽出することによって決定した。ルシフェラーゼ導入遺伝子のコピー数を、qPCRを使用して決定し、マウスラミン遺伝子のコピー数に対して正規化して、各組織中のvg/細胞を決定した。特異的プライマーセットは、それぞれ、5’−AGGGCACCTC CATCTCGGAA AC−3’/5’−GGACCCAAGG ACTACCTCAA GGG−3’(マウスラミンに対して)および5’−AAAAGCACTC TGATTGACAA ATAC−3’/5’−CCTTCGCTTC AAAAAATGGA AC−3’(CBA−Lucに対して)であった。
【0185】
統計分析。全てのデータを、平均±標準誤差として表し、各実験についての複製の数を、対応する図の説明文中に提供する。特に示さない限り、統計的有意性を、対応なし片側スチューデントt検定を使用して決定し、0.05未満のp値を、異なる実験について統計的に有意であるとみなした。
【0186】
[結果]
AAV9のGalフットプリントをいくつかのAAV株上に「移植すること」の実行可能性を調査するために、本発明者らは、最初に、AAV血清型1、2、6および8のVP3サブユニットトリマーの三次元構造を、AAV9のVP3のものとアラインさせて比較した(
図1)。結合に直接関与するまたはGal受容体フットプリントに直接隣接する対応するAAV9のVP3残基と重複する鋳型カプシド上のアミノ酸残基を、複数ラウンドの部位特異的変異誘発によって改変した。生成された全てのキメラAAV株を、以前に確立されたプロトコール
14を使用して、ニワトリβ−アクチンプロモーター駆動性ホタルルシフェラーゼ(CBA−Luc)レポーター導入遺伝子カセットをパッケージングする組換えベクターとして調製した。AAV9由来のGal認識に関与するアミノ酸残基および他の隣接する残基は、異なるAAV血清型カプシド上でも顕著に良好に許容され、これらのAAVキメラのパッケージング効率が親株と匹敵するものであった。AAV血清型1、2、6、8および以前に操作されたAAV2i8変異体
15に基づく複数のAAVキメラを取得したところ(5×10
11〜5×10
12ウイルスゲノムコピー/mLの範囲の力価で)、これらは、CHO−Lec2細胞をインビトロにおいて形質導入する際の新規の主な受容体としてGalを利用することが観察された(
図2)。次いで、本発明者らは、原型二重グリカン結合性AAVキメラの詳細な特徴付けを実施し、AAV2G9と命名した(Gは、Galフットプリントを示し、数字は、それぞれレシピエントおよびドナーのカプシド血清型を同定する)。
【0187】
強調した推定二重グリカン受容体結合部位(HSおよびGal)を有する、合成により操作されたAAV2G9の三次元モデル(
図3A中に完全カプシドおよび
図3D中にVP3トリマー)を、Swiss Model(登録商標)を使用した相同性モデル化によって生成した。AAV2G9完全カプシドの分子モデルは、正二十面体カプシド上の三回対称軸の周囲に位置するHSおよびGal結合部位の幾何学的分布および直交性を実証している。三回対称軸からのHSおよびGal受容体フットプリントのクローズアップ図は、AAV2カプシドの骨格上に直交性Gal結合部位を移植することが、カプシドアセンブリに関して許容され得るという観察をさらに支持する。HS認識に関与する正に荷電した残基の側鎖を有するAAV2のVP3サブユニットトリマーの三次元構造(
図3A)ならびにAAV9のVP3サブユニットトリマー上のGal認識部位を含むアミノ酸残基の側鎖を有するAAV2のVP3サブユニットトリマーの三次元構造(
図3C)もまた示される。
【0188】
AAV2G9は、HS受容体およびGal受容体を、インビトロで互換的に利用する。AAV2G9による二重グリカン受容体の使用を支持する最も重要な証拠が、可溶性ヘパリンおよび末端ガラクトシル化グリカンに選択的に結合するアメリカデイゴレクチン(ECL)が関与する細胞表面上のウイルス結合の競合的阻害アッセイから得られた。
図4A〜Bに示すように、HSは、CHO−Lec2細胞においてAAV2形質導入を顕著に阻害するがECLは阻害せず(暗灰色のバー)、一方でECLは、ほぼ2log単位、AAV9形質導入を選択的に遮断する(白色のバー)。これらの結果は、AAV2およびAAV9について予測された形質導入プロファイルと一致する
16〜18。対照的に、AAV2G9は、ECLおよびHSの両方の組み合わせによる予めの処理によってのみ効率的に中和され得る(明るい灰色のバー、
図4C)。小さいが顕著な阻害効果が、ECLについて観察される。
【0189】
AAV2およびAAV9についての形質導入プロファイルを、ECLまたはHSを使用した、各株による細胞表面結合の阻害によってさらに補強した(
図4D〜E)。キメラAAV株の独自の細胞表面結合は、いずれかの試薬単独ではなく、排他的にECLおよびHSの組み合わせによるAAV2G9の細胞表面結合の競合的阻害によってさらに支持される(
図4F)。さらに、異なるAAVカプシドに対するモノクローナル抗体を使用して得られた共焦点免疫蛍光顕微鏡写真(
図5)は、AAV2G9が、AAV2またはAAV9よりも強く、CHO−Lec2細胞の表面に結合することを示唆している。かかるシナリオは、2つの異なるグリカンと互換的に結合するAAV2G9の見かけの能力に基づいて予測され得る。
【0190】
AAV2G9による代替的形質導入経路の利用をさらに調査するために、本発明者らは、親血清型AAV2およびAAV9との競合アッセイを実施した。
図6A〜Bに示されるように、500〜100,000vg/細胞の範囲のMOIでのAAV2−CBA−tdTomまたはAAV9−CBA−tdTom競合ベクターとの予めのインキュベーションは、ルシフェラーゼ導入遺伝子発現によって測定されるように、それぞれAAV2−CBA−LucまたはAAV9−CBA−Lucによる形質導入を効率的に遮断する。しかし、AAV2およびAAV9は両方とも、10倍過剰の感染多重度(MOI)では、AAV2G9形質導入を効率的に遮断することはできない。より高いMOI(100倍過剰)では、AAV2は、AAV2G9形質導入を中和するにあたり、AAV9よりも低い効率で競合するように見える。合わせて考えると、これらの結果は、AAV2G9が実際に、形質導入のための主な受容体としてHSおよびGalの両方を利用する独自の能力を有する新規二重グリカン結合性株であるという意見を支持する。
【0191】
AAV2G9は、導入遺伝子発現の迅速な開始をもたらす。次いで、本発明者らは、二重グリカン結合が、インビトロおよびインビボのウイルス形質導入に特定の利益を付与するかどうかを調査した。CHO−Lec2細胞中のルシフェラーゼレポーター発現の時間過程をモニタリングすることにより、AAV2G9がインビトロにおいて迅速な開始および改善された遺伝子移入を媒介することが明らかになった(
図7)。次いで、生動物画像化研究を実施して、BALB/cマウスにおける異なるAAV株の全身性投与後のルシフェラーゼ導入遺伝子発現をモニタリングした(
図8A)。注射後3日目、7日目および18日目に得た肝臓および動物全体内の光アウトプットの生物発光画像および定量的評価は、インビトロデータと相関し、AAV2G9が迅速な開始および増強された遺伝子発現を媒介し得るという意見を支持する(
図8B〜C)。興味深いことに、AAV2G9によって示される動態プロファイルは、AAV9の動態プロファイルと酷似するが、AAV2の動態プロファイルとは似ていない。対照的に、AAV2G9の形質導入プロファイル/組織指向性は、以前に確立されたように
4、19〜21、AAV2とは類似するが、AAV9によって示される全身性指向性とは異なって、主に肝臓指向性のようである。従って、二重グリカン受容体係合は、AAV株の形質導入効率を改善するが、組織指向性を変更しないようである。
【0192】
AAV2G9ベクターのインビボでの形質導入および生体内分布プロファイル。AAV2G9のインビボ形質導入および生体内分布プロファイルをさらに評価するために、BALB/cマウス由来の組織溶解物の定量的分析を、投与後3日目および18日目に実施した。具体的には、AAV2G9は、投与後3日目に、AAV2(ほぼ2log単位)およびAAV9(約1log単位)と比較して、肝臓において顕著により高いルシフェラーゼ導入遺伝子の発現を示す(
図9A)。AAV9は、心臓においてAAV2G9よりも10倍よりも高い形質導入効率を示すが、AAV2と比較してAAV2G9による心臓形質導入における中程度の増加もまた観察される。18日目に、AAV2G9で処理したマウスから回収した心組織および肝臓組織は、導入遺伝子のより高い発現を実証し続けるが、AAV9は、この段階において、最も効率的な株として現れる。具体的には、AAV2、AAV2G9およびAAV9による心組織における形質導入効率は、投与後3日目に観察されたのと類似の傾向を維持する。肝臓では、AAV2、AAV2G9およびAAV9によるルシフェラーゼ導入遺伝子発現間の差異は、注射後18日目まで、進行に際して縮小する。具体的には、AAV9は、それぞれAAV2G9およびAAV2と比較した場合、5〜10倍の間のより高い導入遺伝子発現を実証する。
【0193】
投与後3日目のAAV2G9株および親AAV株による肝臓および心臓におけるベクターゲノムコピー数の定量的分析(
図9B)は、
図5Aに示される形質導入効率について観察された傾向と一致する。具体的には、AAV2G9は、AAV2と比較して、心組織においてより高い程度まで蓄積したが、AAV9よりも、なお約2log単位低かった。肝臓では、AAV2G9のコピー数は、AAV9のコピー数と匹敵するが、AAV2よりも1log単位を超えてより高い。18日目に、全ての血清型についてのコピー数は、以前に報告されたように
22、23、連続的細胞ターンオーバーおよび一本鎖AAVゲノムの分解におそらくは起因して減少した。
【0194】
図10は、CBA−ルシフェラーゼ導入遺伝子カセットをパッケージングするAAV2i8、2i8G9およびAAV9ベクターのインビボ導入遺伝子の発現動態を示す。BALB/cマウス(n=4)に、1×10
11vg/動物の用量で、尾静脈を介してAAVベクターを投与し、生物発光画像を、Xenogen(登録商標)Lumina画像化システムを使用して、注射後3日目、7日目および18日目に収集した。代表的生動物画像は、虹色スケールで表される生物発光で示される(10
5〜10
6フォトン/秒/cm
2/ステラジアン)。
【0195】
図11は、新生児マウスにおける代表的AAV−G9株の中枢神経系(CNS)指向性プロファイルを示す。生後0(P0)子(n=3)に、ハイブリッドニワトリβアクチン(CBh)プロモーターによって駆動されるGFP導入遺伝子を含む3.5×10e9のAAVベクターゲノムを、左脳室中に片側性に注射した。注射の2週間後、GFP免疫組織化学により、マウス脳内の各AAV「G9」株についての示差的伝播、領域的指向性および細胞指向性が明らかになった。
【0196】
上記は、本発明の例示であり、本発明の限定として解釈すべきではない。
【0197】
【表1】
【0198】
【表2】
【0199】
【表3A】
【表3B】
【表3C】
【0200】
[参考文献]
【表4A】
【表4B】
【表4C】
【表4D】