特許第6397122号(P6397122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397122血管新生関連疾患を治療するためのペプチドの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397122
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】血管新生関連疾患を治療するためのペプチドの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20180913BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20180913BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20180913BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   A61K38/17
   A61P9/00
   A61P27/02
   A61P29/00
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61P31/00
   A61P9/10
   A61P37/06
   A61P27/06
   A61P17/02
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P17/06
   A61P17/00
   A61P1/04
   A61P31/04
   A61P35/02
   A61P31/12
   A61P31/10
   A61P33/00
   A61P9/10 101
   !C07K14/47ZNA
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-508731(P2017-508731)
(86)(22)【出願日】2015年4月29日
(65)【公表番号】特表2017-514896(P2017-514896A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】CN2015077742
(87)【国際公開番号】WO2015165392
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】61/986,141
(32)【優先日】2014年4月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516019068
【氏名又は名称】マッカイ メモリアル ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】Mackay Memorial Hospital
(73)【特許権者】
【識別番号】516325143
【氏名又は名称】アスクリピウム タイワン シーオー., エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】ASCLEPIUMM TAIWAN CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ル、チ−シェン
(72)【発明者】
【氏名】イェ、フゥン−イ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ミン−チェ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チュン−ウェイ
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−505285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む、血管新生関連状態及び/又は疾患の治療のための医薬組成物であって、
前記血管新生関連状態及び/又は疾患が、眼血管新生疾患、心血管疾患、又は網膜血管新生疾患であるか、又は眼血管新生疾患、心血管疾患、又は網膜血管新生疾患によって引き起こされる、医薬組成物。
【請求項2】
前記眼血管新生疾患が、網膜血管新生疾患、血管新生加齢性黄斑変性、若年性黄斑変性、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植片拒絶反応、角膜疾患、血管新生緑内障、後水晶体線維増殖症、血管新生緑内障、結膜炎、角膜炎、ルベオーシス、網膜炎、脈絡膜炎、ビタミンA欠乏症、コンタクトレンズ過剰装用症、翼状片、フリクテン症、化学的熱傷、強膜炎、テリエン周辺変性、網膜剥離、毛様体扁平部炎、イールズ病、又はレーザー後合併症である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記心血管疾患が、アテローム性動脈硬化、心筋血管新生、過粘稠度症候群、静脈閉塞、動脈閉塞、頸動脈閉塞性疾患、又はオスラー・ウェーバー・ランデュ病である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
血管新生関連状態及び/又は疾患のヒトにおける治療のための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号1又は配列番号3と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号1と同一である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ペプチドが、配列番号3と同一である、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
【0002】
本開示は医療の分野に関する。より具体的には、開示された発明は、血管新生関連疾患を治療するためのデスモグレイン2由来ペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
【0004】
血管新生は、既存の血管からの新しい毛細血管の形成であり、内在性因子、血管新生促進(又は刺激)因子及び抗血管新生(又は阻害)因子の間のバランスによって調節される、精巧なプロセスである。多数の血管新生促進因子が同定されてきた。その非限定的な例としては、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インターロイキン1(IL−1)、IL−4、IL−6、IL−8、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGFb1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)、MMP−9、上皮増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、骨髄増殖因子(MGF)、アンギオゲニン、アンギオトロピン(angiotropin)、プラスミノーゲン活性化因子、プロテアーゼ、肝細胞増殖因子、インシュリン様増殖因子、プロスタグランジンE、血液酸素不足、及びマクロファージ由来P因子などがある。典型的な抗血管新生因子としては、インターフェロン、トロンボスポンジン、アンギオスタチン、エンドスタチン、IL−10、IL−12、血小板由来因子、血管内皮細胞増殖阻害剤(VEGI)、組織マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤(MMPI)、及びプラスミノーゲン活性化因子阻害剤などがある。
【0005】
1又は複数の血管新生促進因子による、又はそれに由来する血管新生促進シグナルによる活性化時に、親血管中にある内皮細胞が、分解酵素を合成及び放出し、これにより内皮細胞は、移動し、増殖し、最終的に分化して、血管を生じさせることができる。生理的血管新生は通常、胚及び胎児の器官形成、生殖周期(例えば、女性の月経周期)、修復プロセス、創傷治癒プロセス及び組織再生の間に起こる。しかしながら、多くの病的状態において、疾患はアップレギュレートされた血管新生に関連しているとみられる。
【0006】
アップレギュレートされた又は異常な血管新生に関連する疾患としては、以下の(1)〜(5)が挙げられる。(1)眼血管新生疾患(網膜血管新生疾患、血管新生加齢性黄斑変性、糖尿病性網膜症、及び未熟児網膜症など)。網膜又は角膜への新しい血管の侵入により特徴づけられる疾患であって、不可逆的な視力障害をもたらす。(2)関節リウマチ及び変形性関節症。肋軟骨下腔及び脈管内の細胞、及び軟骨細胞は、血管新生を誘導する様々な増殖因子を分泌し、これは、滑膜炎の病因及びその後の関節軟骨の破壊をもたらし得る。(3)炎症及び炎症性疾患。炎症の間、炎症性サイトカイン(シクロオキシゲナーゼ2、プロスタグランジンE2、及びトロンボキサンA2など)、炎症細胞(マクロファージ、T細胞、及びマスト細胞など)、及び低酸素誘導因子(HIF)は、血管新生を引き起こす血管新生促進因子の発現を誘発する。新たに形成された脈管構造が今度は、炎症細胞の浸潤を促進させ、これが炎症をさらに悪化させる。(4)オスラー・ウェーバー・ランデュ病又は遺伝性出血性毛細血管拡張症などの遺伝病。これは血管新生の障害に関連し、そこでは多系統血管形成異常が重度の出血を招く。(5)腫瘍形成及び転移。腫瘍細胞は、血管新生プロセスを介して新しい血管の形成を促進する様々な血管新生促進因子を分泌する。新しい血管は、腫瘍細胞に適切な栄養素及び酸素を供給するという点において腫瘍の増殖に重要であり、腫瘍の移動及び侵入の経路を提供するという点において腫瘍の転移に関連している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記を考慮すると、血管新生の阻害及び/又は血管新生関連疾患の治療をすることができる新規の医薬品及び方法を提供する必要性が本技術分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
以下は、読者に基本的な理解を提供するために開示の簡略化された概要を提示する。この概要は、本開示の広範な要約ではなく、本発明の重要な/決定的な要素を特定するものでも、本発明の範囲を示すものでもない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、ここに開示されるいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0009】
本開示は、少なくとも部分的に、デスモグレイン2(Dsg2)タンパク質に由来する短鎖ペプチドが血管新生を阻害することができるという発見に基づく。したがって、本開示の第1の態様は、血管新生関連状態及び/又は疾患を被験体において治療するための医薬品を調製するためのDsg2由来ペプチドの使用に関する。
【0010】
血管新生が異なる疾患の発症及び進行に関与しているため、Dsg2由来ペプチドの抗血管新生効能に基づいて、本開示の第2の態様は、血管新生関連状態及び/又は疾患を、被験体において治療する方法に関する。この方法は、血管新生関連状態及び/又は疾患の症候を緩和又は改善するために、治療的有効量のDsg2由来ペプチドを被験体に投与するステップを含む。
【0011】
本開示の様々な実施形態によれば、Dsg2由来ペプチドは、配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有してよい。ある実施形態において、配列同一性は少なくとも95%であることができる。1つの特定の実施形態において、Dsg2由来ペプチドの配列は、配列番号1の配列と同一である。別の特定の実施形態において、Dsg2由来ペプチドの配列は、配列番号3の配列と同一である。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態によれば、被験体はヒトなどのほ乳類である。
【0013】
様々な実施形態において、血管新生関連状態及び/又は疾患は、眼血管新生疾患、炎症又は炎症性疾患、腫瘍、腫瘍転移、感染、心血管疾患、又は傷害であるか、又は眼血管新生疾患、炎症又は炎症性疾患、腫瘍、腫瘍転移、感染、心血管疾患、又は傷害によって引き起こされる。
【0014】
眼血管新生疾患の非限定的な例は、網膜血管新生疾患、血管新生加齢性黄斑変性、若年性黄斑変性、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植片拒絶反応、角膜疾患、血管新生緑内障、後水晶体線維増殖症、血管新生緑内障、結膜炎、角膜炎、ルベオーシス、網膜炎、脈絡膜炎、ビタミンA欠乏症、コンタクトレンズ過剰装用症、翼状片、フリクテン症(phylectenulosis)、化学的熱傷、強膜炎、テリエン周辺変性、網膜剥離、毛様体扁平部炎、イールズ病、又はレーザー後合併症である。
【0015】
炎症又は炎症性疾患の例には、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬、シェーグレン症候群、酒さ性ざ瘡、全身性ループス、ウェゲナーサルコイドーシス、多発性動脈炎、強皮症、クローン病、及びバルトネラ症があるが、これらに限定されない。
【0016】
本方法により治療可能な腫瘍には、肺がん腫、乳がん腫、卵巣がん腫、皮膚がん腫、結腸がん腫、膀胱がん腫、肝臓がん腫、胃がん腫、腎臓がん腫、前立腺がん、すい臓がん、腎細胞がん腫、上咽頭がん腫、扁平上皮がん腫、甲状腺乳頭がん腫、子宮頸がん腫、小細胞肺がん腫、非小細胞肺がん腫、頭頸部扁平上皮がん、脳腫瘍、肉腫、メラノーマ、血管腫及び白血病がある。
【0017】
血管新生を引き起こす細菌、ウイルス、真菌、又は原虫による感染もまた、本方法の範囲内である。
【0018】
心血管疾患の非網羅的な例は、アテローム性動脈硬化、心筋血管新生、過粘稠度症候群、静脈閉塞、動脈閉塞、頸動脈閉塞性疾患、及びオスラー・ウェーバー・ランデュ病である。
【0019】
本開示の様々な実施形態によれば、Dsg2ペプチドは、抗血管新生効果を惹起するのに有効な量で被験体に投与され、治療的効果を示すはずである。
【0020】
本開示の付随する特徴及び利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照して、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本特許又は出願ファイルには、カラーで実行された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を備えるこの特許又は特許出願公開の写しは、要請に応じて必要な料金を支払った上で庁により提供される。
【0022】
本記載は、以下の詳細な説明を添付の図面に照らして読むことで、よりよく理解されるだろう。添付の図面は以下のとおりである。
【0023】
図1図1は、本開示の例1に係る、Dsg2ペプチドのEC2ドメインの3D構造を図示する写真を示す。
【0024】
図2図2は、本開示の例1に係る、マトリゲル上でのヒト内皮前駆細胞(EPC)の管形成(左のパネル)及び形成管の相対的管長を図示するデータを示す。
【0025】
図3図3は、本開示の例2に係る、マトリゲル上でのヒト内皮前駆細胞(EPC)の管形成を図示する写真を示す。
【0026】
図4図4は、本開示の例2に係る、マトリゲル上に形成された管の相対的管長を示すヒストグラムである。
【0027】
図5図5は、本開示の例3に係る、マトリゲル上でのヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の管形成を図示する写真である。
【0028】
図6図6は、本開示の例3に係る、マトリゲル上に形成された管の相対的管長を示すヒストグラムである。
【0029】
図7図7は、本開示の例4に係る、マトリゲルプラグに新しく形成された血管を図示する写真を示す。
【0030】
図8図8は、本開示の例4に係る、マトリゲルプラグから回収されたヘモグロビン含量を示すヒストグラムである。
【0031】
図9図9は、本開示の例5に係る、免疫染色の結果を図示する蛍光写真であり、写真中、マウス網膜の内皮細胞がフルオレセインコンジュゲートイソレクチンB4で染色され、蛍光顕微鏡で検出されている。
【0032】
図10図10は、本開示の例5に係る、マウス網膜における血管新生面積のパーセンテージを示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本例の説明として意図されており、本例が構成又は利用され得る唯一の形態を表すことを意図するものではない。この説明は、この例の機能と、この例を構成し動作させるための一連のステップを示す。しかしながら、同じ又は同等の機能及び一連のステップは、異なる例によって達成され得る。
【0034】
便宜上、本明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲で使用される特定の用語をここに集める。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0035】
本明細書中で他に定義されない限り、本開示において使用される科学技術用語は、当業者によって一般に理解され使用される意味を有するものとする。文脈によって他に必要とされない限り、単数形の用語は複数形のその用語を含むものとされ、複数形の用語は単数形を含むものとされることが理解されるだろう。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」及び「an」には、文脈上特に明記しない限り、複数形の参照が含まれる。また、本明細書及び特許請求の範囲で使用する「少なくとも1つ」及び「1又は複数の」という用語は、同じ意味を有し、1、2、3又はそれ以上を含む。
【0036】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示された数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる、ある特定の誤差を含む。また、本明細書で使用される場合、用語「約」は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。あるいは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合、許容可能な平均の標準誤差内にあることを意味する。操作例/実施例以外において、又は特に明記しない限り、本明細書に開示の材料の量、時間、温度、操作条件、量の比率などについての数値範囲、量、値及びパーセンテージの全てが、全ての場合において、用語「約」によって修飾されていると理解すべきである。したがって、反対に示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、所望に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、各数値パラメータは、報告された有効数字の数に照らし、通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0037】
本明細書中で用いられる場合、用語「血管新生関連状態及び/又は疾患」は、疾患進行又は症候発現のためにアップレギュレートされた血管新生を含む病的状態及び/又は疾患を意味する。
【0038】
本明細書において同定されたアミノ酸配列に関する「パーセンテージ(%)アミノ酸配列同一性」は、配列同一性の最大パーセンテージを達成するために配列を整列させ必要に応じてギャップを導入し、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しない、特定のペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセンテージ配列同一性を決定する目的のアラインメントは、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて、当業者の技能の範囲内の様々な方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書の目的のために、2つのアミノ酸配列間の配列比較は、Nation Center for Biotechnology Information(NCBI)によってオンラインで提供されるコンピュータプログラムBlastp(タンパク質−タンパク質BLAST)によって実施された。具体的には、所与のアミノ酸配列Aと所与のアミノ酸配列Bとのパーセンテージアミノ酸配列同一性(これは、所与のアミノ酸配列Bとある一定の%アミノ酸配列同一性を有する所与のアミノ酸配列Aとして、代わりに表現することができる)は、以下の式により計算される。
【数1】
式中、Xは、配列アラインメントプログラムBLASTによって、そのプログラムのA及びBのアラインメントにおいて、同一のマッチングとしてスコアされたアミノ酸残基の数であり、Yは、A又はBのいずれか短い方におけるアミノ酸残基の総数である。
【0039】
本明細書中で議論されるように、タンパク質/ペプチドのアミノ酸配列におけるわずかな変化は、アミノ酸配列における変化が、少なくとも90%、例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%及び99%、を維持するならば、ここに開示される発明の概念及び特許請求の範囲に記載の発明の概念によって包含されるものと理解される。具体的には、保存的アミノ酸置換が考えられる。保存的置換は、側鎖に関連するアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。遺伝的にコードされたアミノ酸は、一般に、以下(1)〜(4)のファミリーに分けられる。(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;(4)非荷電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。より好ましいファミリーは、セリン及びスレオニンの脂肪族−ヒドロキシファミリー;アスパラギン及びグルタミンのアミド含有ファミリー;アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンの脂肪族ファミリー;及びフェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンの芳香族ファミリー、である。例えば、ロイシンとイソロイシン又はバリンとの、アスパラギン酸とグルタミン酸との、スレオニンとセリンとの孤立した置換、又はあるアミノ酸とそれと構造的に関連したアミノ酸との同様の置換は、特に置換がフレームワーク部位内のアミノ酸を含まない場合には、得られる分子の結合又は特性に大きな影響を与えないだろう、と考えるのが合理的である。アミノ酸の変化が機能性ペプチドをもたらすかどうかは、ペプチド誘導体の比活性をアッセイすることによって容易に決定することができる。タンパク質/ペプチドのフラグメント又はアナログは、当業者によって容易に調製され得る。フラグメント又はアナログの好ましいアミノ末端及びカルボキシ末端は、機能性ドメインの境界付近で生じる。
【0040】
文脈に反しない限り、用語「治療(treatment)」は、所望の薬学的及び/又は生理的効果をもたらす治癒的又は緩和的手段を指すために、本明細書中で用いられる。好ましくは、効果は、血管新生関連状態及び/又は疾患を部分的に又は完全に治すという観点から、治療的である。また、用語「治療(treatment)」及び「治療(treating)」は本明細書中で用いられる場合、血管新生関連状態及び/又は疾患の1又は複数の症候又は特徴の、部分的又は完全な緩和、改善、軽減、発症の遅延、進行の阻害、重症度の軽減、及び/又は発生率の減少を目的とした、血管新生関連状態及び/又は疾患、その症候、その二次的な疾患又は障害、又は傾向を有する被験体への、本発明のDsg2由来の短鎖ペプチド又はそれを含む医薬品の、適用又は投与を指す。
【0041】
用語「有効量」は本明細書中で用いられる場合、本明細書中で上記した所望の「有効な治療」を生じるのに十分な、成分(例えば、Dsg2由来短鎖ペプチド)又はそれを含む医薬品の量を指す。具体的な治療的有効量は、治療される特定の状態、患者の身体的状態(例えば、患者の体重、年齢、又は性別)、治療されるほ乳類又は動物のタイプ、治療期間、併用療法の性質(存在する場合)、及び使用される特定の処方などの因子によって変わる。有効量はまた、化合物又は組成物の毒性又は有害な効果よりも治療的に有益な効果が大きくなる量である。有効量は、例えば、医薬品の総質量(例えば、グラム、ミリグラム又はマイクログラム)、又は体重に対する医薬品の質量の比、例えば、ミリグラム毎キログラム(mg/kg)、として表すことができる。通常の技能を有するものは、動物モデルから決定された用量に基づいて、医薬品(本アスター(aster)抽出物など)のヒト等価用量(HED)を計算することができる。例えば、ヒト被験体における最大安全使用用量を見積もる際に、「Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」と題されて米国食品医薬局(FDA)により公開されている業界の指針に従ってよい。
【0042】
用語「治療的有効量」は、活性成分又はそれを含む医薬品の量であって、それを必要とする被験体に投与された場合に、所望の治療的応答を生じるのに十分な量を指す。治療的有効量はまた、活性成分又はそれを含む医薬品の毒性又は有害な効果よりも治療的に有益な効果が大きくなる量である。
【0043】
用語「被験体」は、本発明のDsg2由来ペプチド又はそれを含む医薬品で治療可能な、ヒト種を含むほ乳類を指す。用語「被験体」は、1つの性別が具体的に示されない限り、オス及びメスの両方の性別を指すことが意図される。
【0044】
本発明は、デスモグレイン−2(Dsg2)に由来する短鎖ペプチドが血管新生を減少させることができるという知見に基づいている。ヒトDsg2タンパク質はデスモソームカドヘリンのファミリーに属しており、このファミリーは、細胞接着、形態形成、細胞骨格系及び細胞選別/移動を含む様々な生物学的プロセス、並びにがんなどの病的状態に関与する。Dsg2は、血管新生のシグナル伝達経路中に必要とされ、以前の研究は、DSG2−siRNAによるDsg2の阻害が、インビトロでの毛細血管形態形成、アクチンストレスファイバーの形成及びインビボでの血管新生を損なった、ということを示している。
【0045】
米国特許出願公開第2012/0276082号公報(以下、'082公開公報)は、Dsg2に由来するある特定の短鎖ペプチドが、細胞における上皮間葉転換(EMT)を低下させることを教示している。EMTは、細胞接着性の損失により細胞移動性が増加し、それにより間葉性の特徴を有する細胞をもたらすプロセスである。このプロセスは、多くの中胚葉形成及び神経管形成に必須である。EMTはまた、腫瘍の進行、侵入及び転移の間に中心的な役割を果たす。それにもかかわらず、'082公開公報は、Dsg2由来の短鎖ペプチドの抗血管新生効果について語っていない。さらに、本発明者は予想外に、本発明のDsg2由来の短鎖ペプチド(例えば、配列番号1及び配列番号3のペプチド)が血管新生を阻害するのに有効であり、配列番号1のペプチドの阻害効能が、周知の血管新生阻害剤、Bevacizumab(商品名アバスチン、Genentech/Roche)よりも大きいことを発見している。
【0046】
したがって、一つの態様において、本開示は、血管新生関連状態及び/又は疾患を被験体において治療するための医薬品の調製のためのDsg2由来短鎖ペプチドの使用に関する。Dsg2由来短鎖ペプチド及び/又はそれを含む医薬品は、被験体において血管新生を阻害する方法に、及び血管新生関連状態及び/又は疾患を治療する方法に、適用することができる。
【0047】
本開示の様々な実施形態によれば、血管新生関連状態及び/又は疾患を、治療を必要とする被験体において治療するための方法は、配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを、治療的有効量で被験体に投与し、被験体の標的部位で血管新生を阻害して治療的効果示すステップを含む。
【0048】
本開示の様々な実施形態において、Dsg2由来短鎖ペプチドは、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する。例えば、同一性は90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%であることができる。好ましくは、同一性は少なくとも95%である。1つの特定の実施形態において、Dsg2由来短鎖ペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列と100%同一である。最も好ましくは、Dsg2由来短鎖ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列と100%同一である。
【0049】
本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、アルファ−アミノ基のt−BOC又はFMOC保護などのような、一般に使用される方法によって合成することができる。両方の方法は、ペプチドのC末端から開始する各段階で単一のアミノ酸が付加される段階的合成を含む。本発明のペプチドはまた、周知の固相ペプチド合成法によって合成することもできる。
【0050】
本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、インビボ、エクスビボ、又はインビトロの血管新生を阻害することができる。血管新生は、基底膜分解、内皮細胞及び/又は内皮前駆細胞増殖、内皮細胞及び/又は内皮前駆細胞移動、及び管形成のステップを含む、複雑な発達プロセスである。内皮細胞は血管の内層を形成する。血管新生プロセスの間、細胞外マトリックスは分解され、内皮細胞は基底膜から放出される。内皮前駆細胞は、内皮細胞に分化する能力を有する血液中を循環する稀細胞の集団である。血管新生プロセスにおいて、内皮細胞及び内皮前駆細胞は、血管新生刺激に向かって移動し、続いて整列し、分岐し、最終的に血管の管状多角形ネットワークを形成する。各ステップは、介入の標的となり、様々なインビトロアッセイにより測定することができる。例えば、細胞増殖を測定するために用いられるインビトロアッセイとしては、チミジン取り込みアッセイ、トリパンブルー染色、MTTアッセイ、又はフローサイトメトリーが可能である。細胞移動を決定するのに有用なインビトロアッセイとしては、ボイデンチャンバー、細胞運動アッセイ(ファゴキネティックトラックアッセイとしても知られている)、及びギャップクロージャーアッセイ(創傷治癒アッセイとしても知られている)がある。内皮細胞が三次元構造を形成する能力(すなわち、管形成)の測定に関して、内皮細胞は一般に、Engelbreth−Holm−Swarm(EHS)マトリックスなどの適切な細胞外マトリックス成分上に最初に播種され、次いでタイトジャンクションの形成が電子顕微鏡によって確認及びアッセイされる。インビトロアッセイの他に、インビトロで得ることのできるよりも現実的な血管新生応答の評価を可能にする、いくつかのエクスビボアッセイ及びインビボアッセイも開発されている。エクスビボアッセイとしては、大動脈リングアッセイ、及びニワトリ大動脈弓アッセイがある。血管新生のインビボ評価は、ニワトリ絨毛尿膜(CAM)アッセイ、マトリゲルプラグアッセイ、スポンジ移植アッセイ、角膜血管新生アッセイ、及び網膜血管新生アッセイによって行うことができる。
【0051】
本開示において、種々のアッセイを用いて、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドの抗血管新生効能を評価する。一実施形態によれば、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドが内皮細胞又は内皮前駆細胞のいずれかによって形成される管長を減少させることができる、管形成アッセイが用いられる。
【0052】
別の実施形態によれば、生物学的組織の複雑な細胞外環境に似たゼラチン状のEHSタンパク質混合物であるマトリゲルが用いられる。この実施形態において、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、マトリゲルにおける血管形成を阻害する点で抗血管新生効能を示す。
【0053】
さらに別の実施形態によれば、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドが網膜血管新生を効率よく抑制する、網膜血管新生アッセイが用いられる。
【0054】
上記の実施形態のいずれかによれば、Dsg2由来短鎖ペプチドが、血管新生を阻害するのに十分な有効量で存在する。
【0055】
本開示のいくつかの実施形態によれば、内皮細胞/内皮前駆細胞増殖、移動及び管形成を阻害するのに用いられる本発明のDsg2由来短鎖ペプチドの適切な濃度は、約0.1−10mg/mlである。すなわち、濃度は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、又は10mg/mlが可能である。好ましくは、濃度は約0.5−5mg/mlである。1つの特定の実施形態において、濃度は0.5−1mg/mlである。
【0056】
被験体において血管新生を抑制するためには、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドの治療的有効量は、被験体の体重1kgあたり約0.1−100mg/kgである。例えば、治療的量は、被験体の治療状態又は身体的状態に応じて、体重1kgあたり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、20.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、80.0、90.0、又は100.0mg/kgが可能である。一実施形態によれば、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、被験体の体重1kgあたり約0.5−50mg/kgの量で投与される。1つの特定の実施形態において、体重1kgあたり0.5−10mg/kgは、血管新生を阻害するのに十分である。
【0057】
本開示の一実施形態によれば、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、血管新生関連疾患及び/又は状態を有する被検体に投与される。ここで本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、被験体の生理的血管新生(すなわち、修復プロセス、創傷治癒プロセス及び組織再生)に影響を及ぼさずに、病的血管新生を効率よく阻害することができ、その結果血管新生関連疾患及び/又は状態を治療することができる。
【0058】
アバスチンは血管新生阻害剤であり、VEGFによって媒介されるシグナル伝達経路をブロックし、それ故に新しい血管の増殖を抑制する。アバスチンは、結腸がん、肺がん、腎がん、卵巣がん、及び脳の多形性神経膠芽腫を含む、ある特定の癌について、米国食品医薬局(FDA)による認可を受けている。本開示の1つの特定の実施形態によれば、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドは、血管新生の阻害についてアバスチンよりも有効性を示す。
【0059】
本発明のDsg2由来短鎖ペプチドに加えて、調製された医薬品は、ヒトを含む生きたほ乳類への適切な投与のための形態を提供するために、薬学的に許容される担体をさらに含んでよい。例えば、薬学的に許容される担体は、液体、ゲル、クリーム、軟膏、接着剤、羊膜、皮膚代替物、人工皮膚、又は皮膚同等物のいずれかであり得る。薬学的に許容される担体として役立ち得る物質のいくつかの例は、ゼラチン、賦形剤、パイロジェンフリーの水、等張性生理食塩水、及びリン酸緩衝液である。
【0060】
本発明のDsg2由来短鎖ペプチドと共に使用される薬学的に許容される担体の選択は基本的に、医薬品が投与される方法により決定される。本発明の医薬品は、局部に(例えば、局所的に、結膜下に、関節内に、又は皮内に)又は全身に(例えば静脈内又は皮下に)投与してよい。
【0061】
局所適用のために適切な薬学的に許容される担体としては、液体(溶液及びローションを含む)、クリーム、ゲルなどにおける使用に適した担体が挙げられる。有利には、医薬品は滅菌されており、例えば、局所的な眼への使用に適切な単位剤形であることができる。医薬品は、滴下器を備えた容器などの、定量適用に適した形態で包装することができる。一実施形態において、薬学的に許容される担体は、眼科的に許容される薬学的賦形剤を含む。一実施形態において、医薬品は、生理的食塩水を担体として用いて調製された溶液である。別の実施形態において、医薬品は、Dsg2由来短鎖ペプチドを適切な濃度で含有する軟膏である。溶液又は軟膏のpHは、好ましくは、適切な緩衝系を用いて4.5〜8.0に維持される。中性pHがより好ましい。あるいは、Dsg2由来短鎖ペプチドは、羊膜、皮膚代替物、人工皮膚、又は創傷部位に適用するのに適した他の皮膚等価物に組み込んでよい。
【0062】
注射(局所、経腸及び非経口注射を含む)のために、Dsg2由来短鎖ペプチドを、好ましくはレシピエントの血液と等張である滅菌水溶液などの薬学的に許容される担体と共に処方してよい。このような処方は、固体活性成分を、塩化ナトリウム、グリシンなどの生理的に適合性のある物質を含有し、生理的条件に適合性のある緩衝化pHを有する水に溶解又は懸濁して水溶液を作製し、前記溶液を滅菌状態にすることにより調製してよい。
【0063】
滅菌注射液又は懸濁液を製造するのに適した他の希釈剤又は溶媒としては、1,3−ブタンジオール、マンニトール、水、及びリンガー溶液があるが、これらに限定されない。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体などの脂肪酸もまた、注射剤を調製するのに有用である。なぜならば、それらはオリーブ油又はヒマシ油などの天然の薬学的に許容される油であるからである。これらの油溶液又は懸濁液はまた、アルコール希釈剤又はカルボキシメチルセルロース又は同様の分散剤を含有してもよい。薬学的に許容される剤形の製造に一般に用いられる、Tweens又はSpans又は他の同様の乳化剤又は生物学的利用能向上剤などの他の一般に用いられる界面活性剤もまた、処方の目的で使用することができる。
【0064】
本発明の医薬品はまた、当業者に公知の様々な添加剤を含むことができる。例えば、比較的少量のアルコールを含む溶媒を用いて、ある特定の薬物を可溶化してよい。他の任意選択の薬学的に許容される添加剤としては、乳白剤、抗酸化剤、芳香剤、着色剤、ゲル化剤、増粘剤、安定剤、界面活性剤などがある。貯蔵時の腐敗を防止するため、すなわち、酵母及びカビなどの微生物の増殖を阻害するために、抗微生物剤などの他の薬剤を添加してもよい。透過促進剤及び/又は刺激緩和添加剤もまた、本発明の医薬品に含まれ得る。
【0065】
本開示のいくつかの実施形態によれば、被験体はヒトなどのほ乳類である。
【0066】
本方法により治療可能な血管新生関連疾患としては、眼血管新生疾患、炎症又は炎症性疾患、腫瘍、腫瘍転移、感染、心血管疾患、及び傷害がある。当業者に理解されるように、上述のカテゴリーは例示の目的で提供されており、疾患の臨床的分類を提供することを意図しない。具体的には、特定の疾患カテゴリーに記載された所与の状態/疾患はまた、別の疾患カテゴリーの一般的な定義にも適合し得る。例えば、角膜炎は、本開示において眼血管新生疾患として列挙されているが、しばしば細菌、真菌又はウイルス感染により引き起こされ、通常は炎症を伴う。
【0067】
血管の過剰な増殖を示す様々な眼状態及び/又は疾患が存在する。その非限定的な例としては、網膜血管新生疾患、血管新生加齢性黄斑変性、若年性黄斑変性、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植片拒絶反応、角膜疾患、血管新生緑内障、後水晶体線維増殖症、血管新生緑内障、結膜炎、角膜炎、ルベオーシス、網膜炎、脈絡膜炎、ビタミンA欠乏症、コンタクトレンズ過剰装用症、翼状片、フリクテン症、化学的熱傷、強膜炎、テリエン周辺変性、網膜剥離、毛様体扁平部炎、イールズ病、又はレーザー後合併症がある。
【0068】
炎症のある特定の症候は、炎症部位で血管新生を引き起こし得る。そのため、血管新生関連疾患はまた、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬、シェーグレン症候群、酒さ性ざ瘡、全身性ループス、ウェゲナーサルコイドーシス、多発性動脈炎、強皮症、クローン病、及びバルトネラ症などの、いくつかの炎症性障害を含む。
【0069】
血管新生は、腫瘍の進行と転移において役割を果たす。腫瘍の例としては、肺がん腫、乳がん腫、卵巣がん腫、皮膚がん腫、結腸がん腫、膀胱がん腫、肝臓がん腫、胃がん腫、腎臓がん腫、前立腺がん、すい臓がん、腎細胞がん腫、上咽頭がん腫、扁平上皮がん腫、甲状腺乳頭がん腫、子宮頸がん腫、小細胞肺がん腫、非小細胞肺がん腫、頭頸部扁平上皮がん、脳腫瘍、肉腫、メラノーマ、血管腫及び白血病があるが、これらに限定されない。
【0070】
血管新生を伴う、細菌、ウイルス、真菌、又は原虫による感染もまた、本方法の範囲内である。
【0071】
血管新生に関連する因子もまた、アテローム性動脈硬化、心筋血管新生、過粘稠度症候群、静脈閉塞、動脈閉塞、頸動脈閉塞性疾患、及びオスラー・ウェーバー・ランデュ病などの心血管疾患において役割を果たし得る。
【0072】
以下の実施例は、本発明のある特定の態様を明らかにし、本発明を実施する上で当業者を助けるために提供される。これらの実施例は決して本発明の範囲を限定するものとはみなされない。さらなる詳細の追加なしに、当業者は本明細書の記載に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。本明細書に引用される全ての刊行物は、その全体が参照により本明細書の一部となる。
【実施例】
【0073】
[材料及び方法]
【0074】
[Dsg2由来短鎖ペプチド]
【0075】
配列番号1の配列(KINATDADEPNTLNSKISYRC)を有するDsg2由来短鎖ペプチド、ヒト遺伝子由来のスクランブルペプチド(配列番号2、KNITAADEDNPLTSNKIYSR)、及び配列番号3の配列(IVSLEPAYPP)を有する短鎖ペプチドを、Genimics BioSci &Tech (Taipei)により合成した。
【0076】
[細胞]
【0077】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、PromoCell(Heidelberg)から購入した。ヒト内皮前駆細胞(EPC)は、ヒト組織の使用のためのヘルシンキ宣言に概説された原則にしたがって、健康なドナーから調製した。この研究にはヒト参加者が関与し、Mackay Memorial Hospital, New Taipei City, Taiwan (R.O.C.)の治験審査委員会によって倫理的承認が与えられた。
【0078】
[他の材料]
【0079】
マトリゲルはBD Bioscieces(Franklin Lakes)から購入した。アバスチンはGenetech/Roche(South San Francisco)から入手した。
【0080】
[マトリゲル血管新生アッセイ]
【0081】
全部で200μlのマトリゲルを24ウェルプレートのウェルに添加し、30分間37℃で重合させた。様々な濃度のDsg2ペプチド(0.25mg/ml、0.5mg/ml、又は1mg/ml)、スクランブルペプチド(1mg/ml)又はアバスチン(10μg/ml)を含有するEPC懸濁液を、2%FBSを含有するMV2培地中の5x10細胞(EPC、又はHUVEC)の密度で、24時間37℃で、5%CO加湿インキュベーター内で、マトリゲルコーティングしたウェル上に蒔いた。各サンプルを同じプレートで三重に試験し、ウェルをライカカメラ(倍率×40)で撮影した。
【0082】
[相対的管長]
【0083】
コントロールに対して相対的な管長を、QWIN ソフトウェアを用いて、各ウェルからランダムに選択した5つのフィールドで、管を測定することにより定量化した。実験を、3回以上繰り返した。値は、3つの独立した実験についての平均±S.D.として表した。
【0084】
[マトリゲルプラグアッセイ]
【0085】
(1)ヘパリン(60U/mL);(2)ヘパリン(60U/mL)、VEGF(10ng/ml)、及びPBS;(3)ヘパリン(60U/mL)、VEGF(10ng/ml)、及びスクランブルペプチド(1mg/ml);及び(4)ヘパリン(60U/mL)、VEGF(10ng/ml)、及びDsg2ペプチド(1mg/ml)、をそれぞれ含有する0.5mlの増殖因子低減液体マトリゲルを、C57BL/6マウスの腹部正中線近くの皮膚に皮下注射した。注射の7日後、マウスを安楽死させ、マトリゲルプラグを外科的に取り出し、分析した。
【0086】
[ヘモグロビン含量]
【0087】
血管新生の巨視的解析のために、マトリゲル中のヘモグロビン含量をDrabkin試薬525(Sigma−Aldrich)で測定した。簡潔に述べると、マトリゲルプラグサンプルを赤血球溶解試薬と共に氷上で4℃で24時間置くことによって再液化した。短時間の遠心分離後、20μlの上清を100μlのDrabkin溶液に添加した。混合物を30分間室温で放置し、吸光度を540nmで測定した。得られたヘモグロビン含量をプラグの質量に対して正規化し、値をμgヘモグロビン/mgマトリゲルプラグとして表した。
【0088】
[動物実験]
【0089】
酸素正常状態群(コントロールとしての役割を果たす)の新生児マウス(C57BL/6)仔を、生後12日(P12)まで室内空気中に保った。一方、OIR群の仔をP7でそれらの授乳中の母親と共に5日間75%酸素中に維持し、次いでP12で酸素誘発血管新生を生じるように室内空気に戻した(相対的低酸素状態)。1μlのDsg2ペプチド(25μg)、スクランブルペプチド(25μg)及びアバスチン(10μg)をそれぞれ、P12でマウスの眼に硝子体内注射した。動物を殺し、P17でマウスの眼を摘出した。
【0090】
[ホールマウント免疫蛍光染色]
【0091】
マウスの眼杯を4%パラホルムアルデヒドで2時間固定した。網膜を眼杯から慎重に分離し、次いでフルオレセイン標識イソレクチン−B4(Life technologies)と共に4℃で一晩インキュベートした。Vectashield培地(Vector Laboratories)を用いてサンプルにカバーガラスをかけ、レクチン標識を、Zeiss LSM−510共焦点顕微鏡の20×対物レンズを用いて調べた。蛍光量測定は、QWINソフトウェアを用いて病変部内の光学スライスの画像スタックを作製することにより記録した。潜在量(implicit volume)の値を平均全表面積として指定した。
【0092】
[例1 Dsg2ペプチドフラグメントの同定]
【0093】
Dsg2ペプチドのEC2ドメインの3D構造がSWISS−MODELを用いて予測され、アンカー残基を備えた3つのループを含む非CARドメインが生物学的機能において重要であるとみられることが示された。Dsg2ペプチドのEC2ドメインがRasmolソフトウェアによって示され(図1)、予測されたEC2ドメイン構造に基づいて、Dsg2ペプチドのEC2ドメインをEV10、KR20、IP10、VE10、YY15、及びAQ15を含む、6つのフラグメントに分けることができることが示された。
【0094】
図2に示されるように、KR20フラグメントとIP10フラグメントの両方(1.0mg/ml)は、マトリゲル上で内皮前駆細胞(EPC)の血管新生を阻害することができ(p<0.05)、ここでKR20フラグメントが管形成の阻害についてより強力な効果を示した。したがって、本発明のDsg−2ペプチドは、1つの余分なシステインアミノ酸残基が最後に結合しているKR20フラグメント(形成されるペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を有する)に由来する。
【0095】
[例2 Dsg2由来ペプチドは内皮前駆細胞において血管新生を阻害する。]
【0096】
本発明のDsg−2由来短鎖ペプチドをマトリゲル血管新生モデルで評価して、EPCに対するその抗血管新生効能を決定した。
【0097】
結果は、図3及び4に示されるように、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドが0.5mg/ml(200uM)及び1.0mg/ml(400uM)の濃度でEPCにおいて血管新生を有意に阻害したことを示した。特に、1.0mg/ml(400uM)では、Dsg2由来短鎖ペプチドは50%を超える管形成の減少を誘発し、それによりコントロール群に対して相対的管長が50%未満となった(p<0.05)。
【0098】
[例3 Dsg2由来ペプチドはヒト臍帯静脈内皮細胞において血管新生を阻害する。]
【0099】
本発明のDsg−2由来短鎖ペプチドをマトリゲル血管新生モデルにおいて評価して、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に対するその抗血管新生効能を決定した。この例において、がんを治療するために臨床的に使用される抗血管新生剤であるアバスチンもまた、本発明のDsg−2由来短鎖ペプチドの効能を調べるために使用した。
【0100】
図5及び6のデータは、本発明のDsg2由来短鎖ペプチド、及びアバスチンはマトリゲル上のHUVEC細胞の血管新生を阻害することができ、スクランブルペプチドは阻害することができないことを示した。管形成の阻害において本発明のDsg2由来短鎖ペプチドはアバスチンよりも有効であったことに注目すべきであり、このことは、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドが血管新生を阻害することによって網膜血管新生疾患を治療するための潜在的な治療薬であることを示している。
【0101】
[例4 Dsg2由来ペプチドはマトリゲルプラグにおいて血管新生を阻害する。]
【0102】
本発明のDsg−2由来短鎖ペプチドの抗血管新生効能を、マトリゲルプラグアッセイによって更に調べた。一般に、マトリゲルプラグアッセイはマウスに移植されたゲルプラグにおいて新たに形成される血管を検出するのに用いられる単純なインビボ技術であり、それ故に血管新生促進化合物及び抗血管新生化合物の両方の効能をインビボで評価するのに用いることができる。
【0103】
図7のデータは、PBS又はスクランブルペプチドコントロールと比較すると、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドはマトリゲルプラグにおいて新たに形成される血管の形成を阻害することができたことを示した。図8の分析結果は、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドを含有するマトリゲルプラグのヘモグロビン含量が、PBS又はスクランブルペプチドのどちらかを含有するマトリゲルプラグのものよりも有意に低かったことをさらに示した(p<0.05)。
【0104】
[例5 Dsg2由来ペプチドは酸素誘発網膜症(OIR)を有する動物における血管新生を阻害する。]
【0105】
網膜低酸素状態は、様々な網膜症における失明及び視力喪失に関連する状態である網膜血管新生の発症における主要な原因因子であると考えられている。この例において、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドの抗血管新生効能を、動物モデル(低酸素状態を模倣するために使用されるモデル)によって評価した。このモデルでは、マウスを最初に高酸素状態でインキュベートし、次いで酸素誘発血管新生を発症させるために酸素正常状態(相対的低酸素状態)に移し、次いで特定の治療を行った。結果は、内皮細胞を認識し特異的に結合するフルオレセインコンジュゲートイソレクチンB4によって分析した。
【0106】
図9及び10のデータは、OIR群のマウスは網膜で血管新生を発症したが、コントロール群のマウス(酸素正常状態に保たれた)は発症しなかったことを示した。さらに、PBS又はスクランブルペプチドのコントロールと比較すると、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドとアバスチンの両方が、OIRモデルにおいて血管新生を有意に阻害した(p<0.01)。本発明のDsg2由来短鎖ペプチドの抗血管新生効能がアバスチンのものよりも良好であったことは、注目に値する。
【0107】
要約すると、本発明のDsg2由来短鎖ペプチドが、インビトロ及びインビボの両方で血管新生を阻害するのに有効であることが見出された。本発明のDsg2由来短鎖ペプチドの抗血管新生効能が、市販の抗血管新生剤のそれに匹敵することも見出された。血管新生が多数の状態及び/又は疾患に関与するので、本発明の医薬品及び/又は方法は、血管新生を阻害することによってこれらの状態及び/又は疾患を治療するのに適している。
【0108】
実施形態の上記記載は単なる例示として与えられており、当業者によって様々な変更がなされ得ることが理解されるであろう。上記の明細書、実施例及びデータは、本発明の例示的な実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態は、ある程度特別に、又は1又は複数の個別の実施形態を参照して上述されているが、当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多数の変更を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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