(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397134
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】内因性変性因子を補正するアンペロメトリッククレアチニンセンサ用較正コンセプト
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20180913BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
G01N27/26 381A
G01N27/416 336J
G01N27/416 336M
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-533012(P2017-533012)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公表番号】特表2018-500564(P2018-500564A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015079524
(87)【国際公開番号】WO2016096683
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年6月21日
(31)【優先権主張番号】PA201400736
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】500554782
【氏名又は名称】ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100203769
【弁理士】
【氏名又は名称】大沢 勇久
(72)【発明者】
【氏名】ハンスン,トマス・スティーン
(72)【発明者】
【氏名】ケーア,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ニュゴー,トマス・ピーダスン
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−270650(JP,A)
【文献】
特開2005−241537(JP,A)
【文献】
特開2009−271075(JP,A)
【文献】
特表2004−506224(JP,A)
【文献】
特表2008−511554(JP,A)
【文献】
特表2007−512519(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0275859(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の酵素変性因子を含むサンプル中のクレアチニンの濃度、を測定する装置の較正方法であって、
2つ以上の較正溶液の各々のための前記装置の感度を決定する工程であって、各較正溶液が異なる量の酵素変性因子を有する、工程と、
前記2つ以上の較正溶液の各々の変性度を決定する工程と、
測定すべきサンプルの変性度を決定する工程と、
前記サンプルのための前記装置の前記感度を計算する工程であって、前記計算する工程が、前記2つ以上の較正溶液のうちの1つのための前記装置の前記感度を係数によって調整することを含み、前記係数は前記決定する工程による変性度の関数である、工程と、
を含む、較正方法。
【請求項2】
前記1つ以上の酵素変性因子が、酸若しくはアルカリ又はそれらの塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の酵素変性因子が、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、Ca2+、及びZn2+、pHのうちの1つ以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2つ以上の較正溶液のための前記装置の前記感度を前記決定する工程が、前記較正溶液における前記装置の出力と、前記較正溶液におけるクレアチニン及び/又はクレアチンの濃度との間の比を計算すること、を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記較正溶液の各々の変性度を前記決定する工程が、前記較正溶液中の酵素変性因子の量に基づいて酵素変性を推定すること、を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記較正溶液の各々の変性度を前記決定する工程が、前記変性度の値を受け取ること、を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記装置が、前記装置を覆い前記サンプルに対向する膜、を更に含み、前記関数が、酵素活性と前記膜の透過性との間の比を更に含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
酵素活性と、電極を覆う前記1つ以上の膜の層の透過性との間の比が、前記装置に固有の無次元定数である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記2つ以上の較正溶液のうちの1つが、前記サンプル中の酵素変性因子の量と同じレベルの量の酵素変性因子を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記2つ以上の較正溶液のうちの1つが、低レベルの酵素変性を有し、他の較正溶液が、より高レベルの酵素変性を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記2つ以上の較正溶液のうちの1つが、高レベルの酵素変性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記装置が、クレアチン及び/又はクレアチニンセンサである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
電子装置の1つ以上のプロセッサによって実行される場合に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法に従って前記電子装置を動作させる命令、を含むコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
1つ以上のプロセッサと、
前記プロセッサのうち1つ以上によって実行される場合に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法に従って前記電子装置を動作させる命令、を含むメモリと、
を含む電子装置。
【請求項15】
各較正溶液が異なる量の酵素変性因子を有する2つ以上の較正溶液と、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法又は請求項14に記載の電子装置で使用するための説明書と、
を含むパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチニン及びクレアチン測定装置の較正方法、及び当該方法に使用するための較正溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
クレアチニン(Crn)及びクレアチン(Cr)の濃度の測定技術は、医療において、例えば、腎疾患を監視する際に使用されている。水溶液中のCrの濃度(cCr)及びCrnの濃度(cCrn)は、アンペロメトリック測定により求めることができる。cCrnの測定では2つのセンサ、すなわち、Crを検出するCreaAセンサ、並びにCr及びCrnの両方を検出するCreaBセンサ、を使用することができる。cCrnは、CreaA及びCreaBセンサの測定の差に基づいている。
【0003】
センサは典型的には、クレアチニン及びクレアチンを、アンペロメトリックシステムにおいて検出することができる過酸化水素などの測定可能な生成物に変換するための酵素を使用する。未知のサンプル中のcCrn及びcCrを十分に正確に測定するためには、CreaA及びCreaBセンサをそれらの実際の感度を決定するために較正しなければならない。
【0004】
しかしながら、サンプル中の酵素変性因子
(enzyme modulator)の存在により、センサにおいて酵素の活性が変性(すなわち、増加又は減少)される
(modulate)可能性がある。したがって、測定されるサンプルとは異なる量又は種類の酵素変性因子を有する較正溶液で較正されたセンサは、不正確な結果をもたらす場合がある。
【0005】
酵素変性因子は、測定されるサンプル中に自然に発生する可能性があり、予測できない量で発生する場合がある。例えば、重炭酸塩は、酵素阻害剤であり、血液に内因であり、異なる人々はそれらの人々の血液中に異なる濃度の重炭酸塩を有するであろう。したがって、ヒトの血漿の全てのあり得るサンプルに合致する重炭酸塩濃度を有する単一の較正溶液を調製することは不可能である。より一般的には、目標サンプルと同じ酵素変性度
(degree of enzyme modulation)を有する較正溶液の調製は、達成するのが難しい場合があることが認められている。
【0006】
既存の解決策には、血液中に存在しているものと同様の酵素変性レベルを示す濃度で、酢酸塩を添加すること、を含む。この解決策は、平均レベルの変性因子を有する血液サンプルに対してのみ正確であり、この場合でさえ、センサは、拡散輸送特性の違いのために異なる変性因子に対して異なる応答をする場合がある。
【0007】
したがって、測定されるサンプルにおける異なるレベルの酵素変性を考慮に入れるための、クレアチン及び/又はクレアチニンセンサを較正する有効な方法について満たされていないニーズがある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様では、出願人は、1つ以上の酵素変性因子を含むサンプル中のクレアチニンの濃度、を測定する装置の較正方法であって、2つ以上の較正溶液の各々のための装置の感度を決定する工程であって、各較正溶液が異なる量の酵素変性因子を有する、工程と、2つ以上の較正溶液の各々の変性度を決定する工程と、測定すべきサンプルの変性度を決定する工程と、サンプルのための装置の感度を計算する工程であって、前記計算する工程が、2つ以上の較正溶液のうちの1つの感度を、決定する工程による変性度を含む関数によって修正する工程と、を含む、較正方法を利用可能にする。
【0009】
異なる量の酵素変性因子を有する2つの較正溶液を使用することにより、測定されるサンプルにおける任意のレベルの酵素変性の影響を予測するために、測定装置が酵素変性因子によってどのように影響を受けるかを計算することができる。
【0010】
いくつかの例示的実施形態では、1つ以上の酵素変性因子が、酸若しくはアルカリ又はそれらの塩を含む。
【0011】
いくつかの例示的実施形態では、1つ以上の酵素変性因子が、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、Ca
2+、及びZn
2+のうちの1つ以上を含む。
【0012】
いくつかの例示的実施形態では、pHは酵素変性因子として機能する。
【0013】
いくつかの例示的実施形態では、2つ以上の較正溶液のための装置の感度を決定する前述の工程が、較正溶液における装置の出力と、較正溶液におけるクレアチニン及び/又はクレアチンの濃度との間の比を計算すること、を含む。
【0014】
いくつかの例示的実施形態では、較正溶液の各々の変性度を決定する前述の工程が、較正溶液中の酵素変性因子の量に基づいて酵素変性を推定すること、を含む。
【0015】
いくつかの例示的実施形態では、較正溶液の各々の変性度を決定する前述の工程が、前述の変性度の値を受け取ること、を含む。
【0016】
いくつかの例示的実施形態では、前述の関数が、酵素活性と装置の透過性との間の比を更に含む。
【0017】
いくつかの例示的実施形態では、酵素活性と装置の透過性との間の比が、装置に固有の無次元定数である。
【0018】
いくつかの例示的実施形態では、2つ以上の較正溶液のうちの1つは、サンプルと同一桁の量の酵素変性因子を有する。
【0019】
いくつかの例示的実施形態では、2つ以上の較正溶液のうちの1つは、酵素変性因子を有しないか、低レベルの酵素変性因子を有する。
【0020】
いくつかの例示的実施形態では、2つ以上の較正溶液のうちの1つは、低又はゼロレベルの酵素変性因子よりも少なくとも実質的に高い、高レベルの酵素変性を有する。
【0021】
いくつかの例示的実施形態では、装置は、クレアチン及び/又はクレアチニンセンサである。
【0022】
本発明の別の態様によれば、電子装置の1つ以上のプロセッサによって実行される場合に、上記の方法のいずれかに従って電子装置を動作させる命令、を含むコンピュータ可読媒体が提供される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、1つ以上のプロセッサと、プロセッサのうち1つ以上によって実行される場合に、上記の方法のいずれかに従って電子装置を動作させる命令、を含むメモリと、を含む電子装置が提供される。
【0024】
本発明の別の態様によれば、各較正溶液が異なる量の酵素変性因子を有する2つ以上の較正溶液と、上記の方法又は上記の電子装置のいずれかで使用するための
説明書と、を含むパッケージが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
ここで、提案された本装置の例を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【
図1】アンペロメトリック測定システムの例の概略図である。
【
図2】クレアチニンの過酸化水素への変換用の酵素カスケードを説明する一連の図である。
【
図4】提案された方法の工程を要約するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで、3つの電極のアンペロメトリック測定システム101の概略図である
図1を参照する。アンペロメトリック測定システムは、少なくとも2つの電極、すなわち、作用電極(WE)110、及び、対と参照との組み合わせ電極(CE/RE)を有していてよい。3つの電極のアンペロメトリック測定システム101では、CE/RE電極の機能が、2つの別の電極、すなわち、参照電極(RE)111及び対電極(CE)112に分けられている。例示的アンペロメトリック測定システム101はまた、電流計120、電圧計121及び電源122並びに電解質溶液140を含む。
【0027】
WE110は、正に帯電した電極であり、ここで酸化反応が発生する。RE111は典型的にはAg/AgClでできており、特に電流がそれに流れない場合は安定した電位を維持することができ、電流をWE110から電解質溶液140に戻すためのCE112が必要である。電解質溶液140及びサンプル150は、3つの電極の間のイオン接触を提供する。膜130は、検体を、サンプル150から選択的に通過させることができる物質に選択的に変換する。電源122は、所望の還元又は酸化反応を維持するために必要な電位を印加し、これは電圧計121によって制御される。電流計120は、電気回路を介して流れる、生じる電流を測定し、これは、サンプル150と電解質溶液140との間での化学的反応のために流れる自由電子の指標である。
【0028】
図1に示すアンペロメトリック測定システムは、説明のための例であり、いくつかの他の実施が想定される。例えば、アンペロメトリック測定システムは、上述したように2つの電極のシステムであり得る。
【0029】
電極鎖を介して流れる電流の大きさは、WE110において酸化(又は還元)されている物質の濃度に比例する。理想的には、電流の濃度に対する比例定数が分かっている場合、いずれの所与のサンプルにおける濃度も、その特定のサンプルによって起こされる電流を測定することによって得ることができる。
【0030】
アンペロメトリック測定システムにおける測定プロセスを説明するため、我々は以下のことを想定する。サンプル150は種Bを含有し、これは膜130において種Aに選択的に変換され、これはWE110(WE)においてA
+に酸化されて、電極140は種Xを含有し、これはCE112(カソード)においてX
−に還元される。我々はまた、膜130により、種Aのみをサンプルから電解質溶液140に通過させることができることを想定する。
【0031】
適切な電位が電極を通して印加されると、AはWE110において次の反応に従って酸化される。
【数1】
【0032】
Aの酸化は電子の流れを生成する。電気回路を完成させるため、電子が消費される還元反応が必要である。そのため、種Xは、次の反応に従ってCE112において還元される。
【数2】
【0033】
回路を介して流れる電流の大きさは、酸化されている検体の濃度に比例する。したがって、分析器は、所与の種Xが余剰であるサンプルにおける検体の濃度を自動的に計算する。
【0034】
サンプル150を除く
図1に示されているように、センサという用語は、完成したアンペロメトリック測定システムのことを指す。
【0035】
Crnは、それが可逆的にCrに変換される水溶液中、例えば、血液中では安定ではない(スキーム1を参照)。cCrを測定するために、クレアチンセンサを使用する(CreaA)。cCrnを測定するために、一方のセンサ(CreaA)がCrのみを検出し、他方のセンサ(CreaB)がCr及びCrnの両方を検出する2センサシステムを使用することができる。異なる測定を用いることにより、cCrn値を得ることが可能である。
【化1】
【0036】
センサは、少なくとも3つの機能層、すなわち、Crn及びCrに対して透過性の外膜の層、中間酵素層、及びH
2O
2に対して透過性の内膜の層からなる複層膜130によって保護される。
【0037】
別の実施形態では、cCrnは、本質的にCrnに対する感度のみを有するセンサを用いて直接的に決定される。これは、Crに対して不透過性であるがCrnに対しては透過性である外膜を適用することによって行うことができ、これは、Crがアニオンであり、Crnは中性であるために実行可能である。
【0038】
図2は、クレアチン及びクレアチニンを過酸化水素に変換するための例示的酵素カスケードを説明している。この例では、酵素クレアチナーゼ(クレアチンアミジノヒドロラーゼ)220、サルコシンオキシダーゼ230及びクレアチニナーゼ(クレアチニンアミドヒドロラーゼ)210が酵素カスケードで使用される。これらの酵素は、内膜の層と外膜の層との間に固定され、一方でCrn及びCr分子は外膜の層を通って拡散することができる。
【0039】
CreaAセンサは、反応202及び203に従ってクレアチンを過酸化水素に変換することによって、クレアチンを検出する。この変換を達成するために、CreaAセンサは、クレアチンアミジノヒドロラーゼ220及びサルコシンオキシダーゼ230を使用する。CreaAセンサでは、酵素カスケードは次のようにCrを変化させる。
【表1】
【0040】
CreaBセンサは、クレアチニンアミドヒドロラーゼ210、クレアチンアミジノヒドロラーゼ220及びサルコシンオキシダーゼ230の3つの酵素全てを含み、それ故にCrn及びCrの両方を検出する。酵素カスケードでは、Crn/Crは反応201、202及び203を伴う。
【表2】
【0041】
CreaA及びCreaBセンサの両方について、酵素反応は同一の最終生成物をもたらし、そのうちの1つは、内膜の層を通ってWE110(好ましくは白金)に拡散し得るH
2O
2である。CreaA及びCreaBセンサの電極鎖に十分に高い電位を印加することによって、H
2O
2をPtアノード240で酸化させることができる。
【数3】
【0042】
電気回路を完成させるために、電子はCE112での還元反応において消費され、これによりWE110とCE112との間の電荷バランスが維持される。
【0043】
H
2O
2の酸化は、H
2O
2の量に比例して電流(dE)を生成し、これは次にセンサ応答モデル、
dE
A=Sens
A,Cr・[Cr]
A 方程式1
dE
B=Sens
B,Crn・[Crn]
B+Sens
B,
Cr・[Cr]
B 方程式2
【0044】
に従ってCreaAのCrの量並びにCreaBセンサのCr及びCrnの量に直接的に関係する。
ここで、dE
A及びdE
Bは、それぞれCreaA及びCreaBセンサで生成される電流であり、Sens
A,Cr及びSens
B,Crは、それぞれCreaA及びCreaBセンサにおける電流(dE)のCr濃度に対する感度定数であり、Sens
B,Crnは、CreaBセンサにおける電流(dE)のCrn濃度に対する感度定数である。
【0045】
電流の濃度に対する比例定数Sensは、典型的には感度と称する。定数は、センサを較正することによって決定される。各センサの電流(信号)は、分析器において電流計120によって測定される。センサの感度Sが分かっている場合、所与のサンプル中の未知のCrn濃度は、上記の方程式から容易に求められる。
【0046】
図2に説明する反応は、酵素変性因子によって変性され得る。そのような酵素変性因子は、重炭酸塩のようにサンプルに内因であってよく、これらの酵素変性因子は、使用される酵素のいずれかの作用を阻害する場合がある。酵素変性因子という用語は、酵素の性能を低下させる物質(阻害剤)、又は酵素の性能を高める物質を含む。
【0047】
図3は、サンプル中に存在し得る内在性変性因子の多くの例を示している。表は、例示的変性因子並びに酵素を変性する際のそれらの有効性の指標、すなわちI
50値(半数阻害濃度)(mM単位)を示す。酵素変性因子は、特定の分子に限定されず、溶液又はサンプルのpH、又は温度などの他の要因を含み得る。溶液のpHのような要因が酵素の性能に影響を及ぼし得ることが知られているので、pHなどの要因を、本明細書では酵素変性因子と称する場合がある。
【0048】
例示的な実施形態では、較正溶液を設定して、Crセンサのセンサ計測値に対するpH及び重炭酸塩濃度の影響を決定する。この例示的な実施形態では、Crの濃度はCreaAセンサを使用して測定されるが、CreaA及びCreaBセンサを使用して、Crnの濃度を測定するために、その溶液を適応させてもよいことが想定される。
【0049】
この例示的な実施形態では、センサは、Cal2及びCal3で示される2つの較正溶液を使用して較正される。次のスキームは、その2つの溶液及び所与のサンプルの内容物を示している。
【表3】
【0050】
表1は、較正溶液Cal2及びCal3が、Cr及びHCO
3−の既知の濃度、既知のpHレベル、並びに既知のCO
2分圧をどのように有しているかを示している。較正液Cal2及びCal3はまた、緩衝液、塩、防腐剤及び洗剤を含有してもよいが、この例示的実施形態ではそれらを無視する。
【0051】
サンプルは、測定されるべき血液サンプルであってよく、適切なセンサによって測定されるそのpH、HCO
3−濃度及びCO
2分圧を有してよい。サンプルの生の計測値(dEサンプル)を、アンペロメトリック測定システムを使用して測定することができるが、サンプルについてCr濃度を測定し得る前に、感度を決定する必要がある。
【0052】
Cal2及びCal3のCr濃度が分かると、較正溶液用のセンサの感度は、測定された装置出力(dE)と既知の濃度との間の比を測定することによって計算することができる。
【数4】
【0053】
各較正溶液の計測値(dECal)を記録し、感度比に変換する。
【数5】
【0054】
比0.883は、センサにより、クレアチン1μM当たりの電流が、Cal3のような溶液中で、重炭酸塩を含まない溶液Cal2よりも、12.3%少ないことを示している。既知のpH(pH_Cal2及びpH_Cal3)及び[HCO
3−]([HCO
3−]
Cal2及び[HCO
3−]
Cal3)を使用して両方の較正溶液について変性度(mod)を計算する。
【数6】
【0055】
方程式6及び7は、単一塩基のプロトライゼーションの方程式と単なる競合阻害の表示とを掛け合わせることによって、当業者によって導き出すことができる。
【0056】
変性度(mod
Cal2及びmod
Cal3)は、所与のpH及び重炭酸塩において酵素が変性される程度についての推定値を提供する。K
aは較正溶液用の酸イオン化定数であり、一方でK
iは阻害定数である。所与の例の場合、当初の酵素活性の86.3%(1−0.137)及び97.5%(1−0.025)が、それぞれCal2及びCal3における阻害によって奪われると予想される。
【0057】
既知の変性値及び感度比から、センサ固有の定数ファイ(φ)を計算することができる。ファイは、酵素活性とセンサの透過性との間の比の表示である無次元定数である。提供された例示的実施形態では、ファイの値は次により得られる。
【数7】
【0058】
サンプルが吸引されると、この特定のサンプルからのpH及び重炭酸塩でのセンサの変性を計算することができる。
【数8】
【0059】
方程式9は方程式6及び方程式7の書き換えであり、センサにおけるpHに対するpCO
2の影響を構成する追加の項が加えられている。
【0060】
ここで、pH
rinse値は、サンプル間でセンサが曝されるすすぎ(rinse)溶液におけるpHであり、pCO
2rinseは、サンプル間でセンサが曝されるすすぎ溶液におけるCO
2の分圧であり、C
3は全てのセンサについて一定の定数であり、CO
2の透過性と相互に関係がある。
【0061】
所与のサンプルにおける感度は、較正溶液のうちの1つの感度を係数で調整することによって計算される。その係数は、サンプル及び較正溶液の変性度の関数であり、また値ファイを含み得る。この例では、Cal3における変性度がCal2よりもサンプルの変性度に近いので、Cal3用の感度(sens
Cal3)が調整される。-この例では、係数は次により得られる。
【数9】
【0062】
この例では、調整係数は約0.89であるため、サンプル用の感度はCal3用の感度にこの係数を乗じたものに等しい。
【数10】
【0063】
所与のサンプルでの計測値(例えば、dESamp=2640pA)を使用すると、補正されたクレアチン含有量が得られる。
【数11】
【0064】
酵素変性因子を考慮に入れた感度の代わりにCal3の感度を使用して濃度を計算した場合、判明する濃度は約10%低くなるであろう。
【数12】
【0065】
さらに、重炭酸塩酵素変性因子を有しないCal2の感度を使用して濃度を計算した場合、Crの濃度は79.6μMとなるであろうが、これは提案された方法を使用して計算された濃度とは大きく異なる。このことは、提案された解決策が、較正溶液を使用してセンサを較正する場合に、酵素変性因子を考慮に入れない既存の方法よりも、改善された結果を提供すること、を示している。
【0066】
図4は、提案された方法の例示的実施形態を行うための工程を要約している。提案された方法は、
図4に示す工程の順序付けに限定されず、その方法が、この提供された例示的実施形態だけに限定されることも想定されない。
【0067】
工程410では、2つ以上の較正溶液の各々のための装置の感度が決定される。前述の感度の決定は、アンペロメータ出力(電流)と較正溶液のクレアチン又はクレアチニンの既知の濃度との間の比を計算すること、を含んでよい。いくつかの実施形態では、較正溶液のクレアチン又はクレアチニンの濃度は、初期濃度から決定又は調整される必要があり、一方で他の実施形態では、その濃度は較正溶液に付随するデータとして提供される。
【0068】
2つの較正溶液又は異なる量の酵素変性因子を提供してよく、酵素変性因子と感度との間の関係を決定するための2つのデータポイントが有効に提供される。異なる量の酵素変性因子の2つより多い較正溶液を提供することにより、より正確な結果がもたらされ得る。1つの較正溶液は、酵素変性因子が非常に少ないか又は酵素変性因子を有しないように選択してよく、一方で別の較正溶液は、サンプル中の酵素変性因子の予想される量と略同一桁の酵素変性因子を有するように選択してよい。このようにして、第2の較正溶液は、予想されるサンプルに近い感度を提供し、一方で第1の較正溶液は、第2の較正溶液から十分に離れた感度を提供して、酵素変性と感度との間の関係の良好な指標を提供する。
【0069】
工程420では、2つ以上の較正溶液の各々について、酵素変性度が決定される。この酵素変性度は、所与の溶液中で酵素活性が変性される程度の指標である。例えば、重炭酸塩[HCO
3−]濃度及び最適より高いアルカリ性(pH)が存在する場合、これは、変性度によって与えられる所定のパーセンテージだけ酵素活性を阻害し得る。このような例では、[HCO
3−]、pH、K
a及びK
iの既知の値を用いてこれを決定することができる。あるいは、その決定は、入力値として入力される酵素変性度を有すること、を単に含むことができる。この例では、その値は、データベース又は参照元から知ることができ、この方法で使用する既知の無次元変数として入力することができる。
【0070】
工程430では、測定されるべきサンプルについて酵素の変性度が決定される。この決定は、工程420における酵素変性度の決定と同様でよい。サンプルについての酵素変性度の決定はまた、例えば、pHの寄与に影響を及ぼし得る、サンプル間でのすすぎが発生し得るという事実を考慮に入れることができる。工程420は、較正溶液の各セットについて1回行うことができる一方、測定される各サンプルについて工程430を繰り返すことができる。
【0071】
工程440において、サンプルについて測定装置の感度が計算される。この工程は、較正溶液の1つについて既に決定された感度の1つを調整するための係数を決定する工程、を含むことができる。サンプルの酵素変性度に最も近い酵素変性度を有する較正溶液の感度は、調整される感度であり得る。
【0072】
較正溶液の感度を調整する係数は、その較正溶液及びサンプルについての酵素変性度の関数であり得る。その係数は、酵素活性と装置の透過性との間の比の表示であるセンサ固有の定数の関数で更にあり得る。このセンサ固有の定数は、工程420の後で工程430の前に計算してよく、提案された方法を使用して測定されるいずれの更なるサンプル用の感度の計算に再使用してもよい。
【0073】
工程450において、アンペロメータの生の出力を測定し、それを計算された感度で除することによって、サンプルのクレアチン又はクレアチニンの正確な濃度を決定するために、サンプル用の感度を使用してよい。
【0074】
本開示は、上述した実施形態において記載された任意の特徴の組み合わせの変形を含むことが理解されるべきである。特に、添付の従属請求項に記載された特徴は、提供され得るいずれかの他の関連する独立請求項と組み合わせて開示され、この開示は、それらの従属請求項とそれらが当初従属する独立請求項の特徴の組み合わせだけに限定されないことが理解されるべきである。