(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397167
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ソリッドボディ型エレクトリック・アコースティックギター
(51)【国際特許分類】
G10H 3/18 20060101AFI20180913BHJP
G10D 1/08 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
G10H3/18 Z
G10D1/08
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-133358(P2013-133358)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-7727(P2015-7727A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年5月31日
【審判番号】不服2017-15905(P2017-15905/J1)
【審判請求日】2017年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】513161324
【氏名又は名称】佐藤 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健志
【合議体】
【審判長】
鳥居 稔
【審判官】
渡辺 努
【審判官】
小池 正彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−244636(JP,A)
【文献】
特開平10−249808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D1/00-3/18
G10H3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソリッドボディ型のエレクトリック・アコースティックギターにおいて、
ボディ材にサザンイエローパインを用いたことを特徴とするソリッドボディ型エレクトリック・アコースティックギター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリッドボディ型のエレクトリック・アコースティックギターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、弦楽器として、アコースティックギターやエレキギターが知られている。アコースティックギターは、楽器本体を構成する胴部(ボディ)に共鳴穴が形成されており(ホロウボディという)、弦を爪弾くことにより、弦の空気振動音がボディ内で共鳴して発音する構成となっている。アコースティックギターは、音の電気増幅を伴わないため、コンサートホール等の広い空間内において期待する音量を確保できない傾向が強くなる。
【0003】
一方、エレキギターは、多くの場合、ボディに共鳴穴を持たないタイプのソリッドボディが使用されており、共鳴穴による響きのない電気ギター特有の音色を得ることができる。エレキギターは、専用のピックアップが装備されて音を電気的に増幅させる機能を備えているため、コンサートホール等においても期待する音量を確保することができる。
【0004】
さらに、共鳴穴を備えたアコースティックギターにピックアップを取り付け、アンプ等から大音量で演奏音を出力できるようにしたエレクトリック・アコースティックギター(通称、エレアコ)も提供されている。
【0005】
しかしながら、ホロウボディ型のエレアコを用いて演奏を行った場合には、共鳴穴で音が響き過ぎてハウリングを起してしまうという弊害が生じていた。これに対して、ハウリングの発生を防止するために、共鳴穴を持たないソリッドボディ型のエレアコが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載のエレアコでは、ソリッドボディに内蔵したピックアップで検出した弦の振動に基づく音声信号を加工することにより、共鳴穴を備えたアコースティックギターの音色を電子的に模擬するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−244636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のエレアコによれば、共鳴穴を持たないので、大音量で演奏をしてもハウリングが生じないというメリットを有する。しかしながら、アコースティックギターの音色は、ピックアップで検出した弦の振動に基づく音声信号を加工し、共鳴穴による響きをシミュレートすることによって電子的に生成している。そのため、出力される音はあくまでも電子音であって、アコースティックギターの生音よりはエレキギターの電子音に近い音になってしまうという問題があった。
【0008】
なお、ソリッドボディ型のエレアコがいくつか市販されている(例えば、ブランド名:Crafter、型番・モデル名:CT-120など)。市販されているソリッドボディ型のエレアコによれば、特許文献1に記載されたソリッドボディ型のエレアコに比べて、電子的なシミュレート音ではない分だけ、アコースティックギターの生音に近い音が出力可能であると思われる。しかしながら、アコースティックギター特有に共鳴胴を持たないため、アコースティックギターの生音に近づけるためにまだまだ改善の余地がある。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、ハウリングの発生を防止できるソリッドボディ型のエレアコにおいて、アコースティックギターの生音により近い音色を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明では、ソリッドボディ型のエレアコにおいて、ボディ材にサザンイエローパインを用いている。
【発明の効果】
【0011】
ギターから出力される演奏音の音色は、使用木材が有する音色感もしくは質感と相関関係が非常に高いことが知られている。本出願人はこの点に着目し、サザンイエローパインをソリッドボディの材料に使用したエレアコを作成した結果、アコースティックギターの生音に最も近い音色を実現できることを突き止めた。つまり、上記のようにボディ材にサザンイエローパインを用いた本発明のエレアコによれば、アコースティックギターの生音により近い音色を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態によるソリッドボディ型エレクトリック・アコースティックギターの構成例を示す図である。
【
図2】本実施形態によるソリッドボディ型エレクトリック・アコースティックギターの音色分析結果を比較例と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態によるソリッドボディ型エレクトリック・アコースティックギター(以下、単にエレアコ10と記す)の構成例を示す図である。
【0014】
図1において、エレアコ10は、平面が略瓢箪型に形成されたボディ1と、当該ボディ1から延設されたネック2と、このネック2に沿って張設された弦4とを備えて構成されている。
【0015】
ボディ1には、弦4の一端側を固定するブリッジ11が備えられている。また、このブリッジ11には、インブリッジ型のピエゾピックアップ(図示せず)が設けられている。
【0016】
ボディ1の内部には、ピエゾピックアップで検出した電気信号を増幅するプリアンプ(図示せず)が備えられている。ピエゾピックアップで検出された電気信号は、プリアンプにより増幅された後、図示しないジャックに接続された接続コードを介して外部のアンプに送られる。
【0017】
本実施形態では、ボディ1の材料としてサザンイエローパインを用いている。また、ブリッジ11の材料にはローズウッド、ネック2の材料にはメイプル(メイプルネックにメイプル指板、つまりメイプルワンピースネック)を用いている。サザンイエローパインは、スラッシュパイン(エリオットマツ)、ロングリーフパイン、ショートリーフパイン、ロブロリーパインなどの総称であり、マツ科マツ属の針葉樹である。パインの中では木質が硬い方に分類され、建材、フローリング、木箱、合板、パルプ、ボーリング場のレーンなどに一般的に利用される。
【0018】
従来、サザンイエローパインをギターのボディ材として利用することは皆無であった。強度があり耐磨耗性に優れているという性質が、ギターの用途には無関係であると思われてきたからである。しかし、本出願人は敢えてこのサザンイエローパインをボディ1の材料に用いてソリッドボディ型のエレアコ10を試作したところ、アコースティックギターの生音に極めて近い音色を実現できることが分かった。
【0019】
図2は、本実施形態によるエレアコ10の音色分析結果を比較例と共に示す図である。比較例として用いたのは以下の2つである。
・アコースティックギター(ブランド名:Martin 、型番・モデル名:D-28)
・ソリッドボディ型エレアコ(ブランド名:Crafter、型番・モデル名:CT-120)
【0020】
音色分析の実験では、本実施形態のエレアコ10、比較例1としてのアコースティックギター(D-28)、比較例2としてのエレアコ(CT-120)のストローク演奏音を測定用マイクロホンで収録した後、収録した音声について周波数分析を行った。本実施形態のエレアコ10と比較例2のエレアコ(CT-120)については、同じアコースティックアンプ(SX AGA-1065:シールド・フェンダー製)に接続してストローク演奏を行った。
【0021】
図2は、この周波数分析の結果を示しており、横軸は時間、縦軸は周波数(倍音の位置)を示している。また、色の濃淡は相対信号強度を示しており、色が濃いほど相対信号強度が強くなっている。
図2(a)は比較例1のアコースティックギター(D-28)、
図2(b)は本実施形態のエレアコ10、
図2(c)は比較例2のエレアコ(CT-120)の周波数分析結果を示している。
【0022】
図2から明らかなように、本実施形態のエレアコ10では、比較例2のエレアコ(CT-120)と比べて、比較例1のアコースティックギター(D-28)とほぼ同じ倍音の周波数位置に同じ程度の信号強度が表れていることが分かる。このように、本実施形態によれば、市販されている従来のソリッドボディ型エレアコと比べて、アコースティックギターの生音に極めて近い音色を実現することができる。
【0023】
なお、上記実施形態では、ブリッジ11の材料としてローズウッドを用い、ネック2の材料としてメイプルを用いる例について説明したが、用いる材料はこれに限定されない。例えば、ネック2の材料として、メイプルネックにローズ指板、マホガニーネックにローズ指板など、従来のギターによく用いられている材料を用いるようにしてもよい。
【0024】
その他、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明は、ボディ材にサザンイエローパインを用いるという要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 ボディ
2 ネック
4 弦
10 ソリッドボディ型エレクトリック・アコースティックギター
11 ブリッジ