(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の実施形態に係る免震構造について説明する。
【0016】
図1の正面図に示すように、本実施形態の免震構造10は、鉄筋コンクリート造の建物12と、セミアクティブダンパー14と、加速度検出手段としての加速度計16と、制御手段としてのコントローラ18とを有して構成されている。
【0017】
建物12は、基礎免震層20に備えられた免震装置22により地盤24上に免震支持されて建物12の下層部分を構成する構造物26と、制御免震層としての中間免震層28に備えられた免震装置22により構造物26上に免震支持されて建物12の上層部分を構成する上部構造物としての構造物30とを有して構成されている。すなわち、建物12は、免震層(基礎免震層20、中間免震層28)を複数備えた多層免震建物となっている。
【0018】
セミアクティブダンパー14は、バルブによるオイルの流量調節によって減衰係数の切り換えが可能な油圧式の流体系可変減衰ダンパーであり、中間免震層28に設置されている。また、セミアクティブダンパー14には、セミアクティブダンパー14のストローク量を測定するストローク計32が備えられている。このストローク計32によって単位時間当たりのストローク量を計測することにより、セミアクティブダンパー14のストローク速度を求めることができる。
【0019】
加速度計16は、中間免震層28の床部上に設置されることにより中間免震層28に配置されており、中間免震層28の床部に生じる加速度を検出する。コントローラ18は、中間免震層28の床部上に設置されることにより中間免震層28に配置されており、セミアクティブダンパー14に制御指令を送る。
【0020】
本実施形態の免震構造10では、
図2に示す振動制御フローによって、地震動に対する建物12の建物応答を低減する。まず、地震時に、加速度計16により中間免震層28の床部に生じる加速度を検出する(ステップ100)。
【0021】
次に、加速度計16によって計測された検出結果としての加速度データがコントローラ18へ送られる。そして、コントローラ18により、セミアクティブダンパー14の減衰係数を切り換えた場合の、中間免震層28に支持された構造物30の応答加速度を、加速度計16により計測された加速度データに基づいてそれぞれ算出して求める(ステップ101)。
図2のステップ101には、セミアクティブダンパー14の減衰係数をC
1からC
nまで切り換えた場合の構造物30の応答加速度をそれぞれ求めている例が示されている。
【0022】
次に、ステップ101の算出結果に基づいてコントローラ18により、構造物30の応答加速度が最も小さくなる減衰係数を、これから切り換えるセミアクティブダンパー14の減衰係数として選択し(ステップ102)、ストローク計32により求められたセミアクティブダンパー14のストローク速度の絶対値が所定値以下のときに、ステップ102で選択した減衰係数に切り換える制御指令をセミアクティブダンパー14へ送る(ステップ103)。
【0023】
これにより、ステップ102で選択された減衰係数にセミアクティブダンパー14の減衰係数が切り換えられ、地震動に対する建物12の建物応答(応答加速度)を低減する(ステップ104)。セミアクティブダンパー14は、セミアクティブダンパー14のストローク速度の絶対値が所定値以下のときに減衰係数を切り換えることにより、セミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えを行ったときに生じる減衰力の変化量が所定値以下になるときに、減衰係数の切り換えを行うことができる。
【0024】
すなわち、本振動制御フローでは、コントローラ18によって、地震時における加速度検出手段としての加速度計16の検出結果に基づき、制御免震層としての中間免震層28に支持された上部構造物としての構造物30の応答加速度を低減するように、セミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えを行ったときに生じる減衰力の変化量が所定値以下になるときに、この切り換えを行う。
【0025】
ここで、
図2に示した振動制御フローを、
図3(a)〜(e)のグラフに示す具体例を用いて説明する。ここでは、短周期成分が卓越する地震動を建物12が受けた際に、建物12の免震周期を長くして構造物30の応答加速度を低減することができる減衰係数C
1と、長周期成分が卓越する地震動を建物12が受けた際に、建物12の免震周期を短くして構造物26の応答加速度を低減することができる、減衰係数C
1よりも大きな値(減衰係数C
1の100倍の値)の減衰係数C
2に切り換え可能なセミアクティブダンパー14を用いて、地震動に対する建物12の建物応答を低減する例について説明する。
【0026】
図3(a)〜(e)のグラフの横軸には、免震構造10による振動制御が開始されてからの時刻が示されており、目盛の値t
n、t
n+1、t
n+2、t
n+3、t
n+4、t
n+5が10秒間隔になっている。また、
図3(a)〜(c)の縦軸には、構造物30の応答加速度が示され、
図3(d)の縦軸には、ストローク計32によって求めたセミアクティブダンパー14のストローク速度が示され、
図3(e)の縦軸には、コントローラ18からセミアクティブダンパー14へ送られる制御指令の指令値が示されている。
【0027】
まず、地震時に、加速度計16により中間免震層28の床部に生じる加速度をリアルタイム(本例では、0.01秒毎)で測定し(ステップ100)、この加速度データが加速度計16の検出結果としてコントローラ18へ送られる。
【0028】
次に、
図3(a)の値34、及び
図3(b)の値36に示すように、建物12を等価質点モデルと考え、コントローラ18へ送られた中間免震層28の床部の加速度データを入力値として、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
1、C
2とした場合(減衰係数C
1、C
2としたセミアクティブダンパー14の減衰力を中間免震層28に付与した場合)の構造物30の周期(下部構造物としての構造物26を、地盤24に固定された剛体と仮定したときの構造物30の周期)、減衰定数、及び頂部の刺激関数に基づいて、構造物30の応答加速度(絶対値)を予測値として計算して求める。
図3(a)の値34は、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
1とした場合の構造物30の応答加速度(絶対値)であり、
図3(b)の値36は、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
2とした場合の構造物30の応答加速度(絶対値)である。
【0029】
なお、構造物30の周期、減衰定数、及び頂部の刺激関数は、建物12の設計時の建物特性や、建物12の実測結果に基づいて事前に設定しておく。また、セミアクティブダンパー14の減衰係数が切り換えられたときには、建物12の等価質点モデルを初期状態(質点の変位と質点の速度を0にした状態)にして、応答加速度の計算を続ける。
【0030】
ここで、
図3(a)、(b)に示すように、値34、36を求めると同時に値38、40を求める。値38は、各時刻(本例では、0.01秒毎)において、その時刻のn秒前(本例では、9秒前)からその時刻までの応答加速度(値34)の最大値とし、値40は、各時刻(本例では、0.01秒毎)において、その時刻のn秒前(本例では、9秒前)からその時刻までの応答加速度(値36)の最大値とする。
図3(c)は、値38、40を重ね合わせて示したグラフである。
【0031】
セミアクティブダンパー14は、値38、40を求める処理と並行してリアルタイム(本例では、0.01秒毎)で値38と値40を比較し、比較毎に以下の(1)、(2)の処理を順に行って建物12の振動を制御する。
【0032】
(1)値40よりも値38の方が小さく、且つ
図3(d)に示すセミアクティブダンパー14のストローク速度42が所定値以下(本例では、0.01cm/s以下)の場合には、セミアクティブダンパー14の減衰係数の中から減衰係数C
1を選択して(ステップ102)、セミアクティブダンパー14へ−1の指令値44を送る(ステップ103)。また、値38よりも値40の方が小さく、且つ
図3(d)に示すセミアクティブダンパー14のストローク速度42が所定値以下(本例では、0.01cm/s以下)の場合には、セミアクティブダンパー14の減衰係数の中から減衰係数C
2を選択して(ステップ102)、セミアクティブダンパー14へ+1の指令値44を送る(ステップ103)。そして、これら以外の場合(値38と値40が同じ場合、又は
図3(d)に示すセミアクティブダンパー14のストローク速度42が所定値よりも大きい場合)には、前回と同じ値の指令値44(本例では、0.01秒前の指令値44)をセミアクティブダンパー14へ送る。
【0033】
(2)(1)の処理によって得られた指令値44が前回の指令値44(本例では、0.01秒前の指令値44)と異なる場合、セミアクティブダンパー14の減衰係数をこの指令値44に対応した減衰係数(指令値44が−1のときには減衰係数C
1、指令値44が+1のときには減衰係数C
2)に切り換え(ステップ104)、(1)の処理によって得られた指令値44のままm秒間(本例では、9秒間)維持する(指令値44を維持している間は、値38と値40の比較処理を止め、m秒経った後に再び値38と値40の比較処理を開始する)。また、(1)の処理によって得られた指令値44が前回の指令値44(本例では、0.01秒前の指令値44)と同じ場合、セミアクティブダンパー14の減衰係数は切り換えない。
【0034】
例えば、
図3(e)の時刻P
1では、値38よりも値40の方が小さく、且つストローク速度42が所定値以下(本例では、0.01cm/s以下)なので、+1の指令値44をセミアクティブダンパー14へ送り、この指令値44が前回の指令値44の−1と異なるので、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
2に切り換えている。
【0035】
また、例えば、
図3(e)の時刻P
2では、時刻P
1でセミアクティブダンパー14の減衰係数を切り換えたので、指令値44を+1に維持している。
【0036】
さらに、例えば、
図3(e)の時刻P
3では、値40よりも値38の方が小さく、且つストローク速度42が所定値以下(本例では、0.01cm/s以下)なので、−1の指令値44をセミアクティブダンパー14へ送り、この指令値44が前回の指令値44の+1と異なるので、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
1に切り換えている。
【0037】
また、例えば、
図3(e)の時刻P
4では、値38よりも値40の方が小さく、且つストローク速度42が所定値以下(本例では、0.01cm/s以下)なので、+1の指令値44をセミアクティブダンパー14へ送り、この指令値44が前回の指令値44の−1と異なるので、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
2に切り換えている。
【0038】
なお、n、mの時間は、建物12に生じる振動を効果的に低減できるように適宜設定すればよい。例えば、mを0としてもよい。
【0039】
次に、本発明の実施形態に係る免震構造の作用と効果について説明する。
【0040】
図4の立面図には、免震装置22が配置された免震層48A、48B、48C、48Dを介して地盤24上に構造物52A、52B、52C、52Dが複数積み重ねられて構成された多層免震建物としての建物54が示されており、
図5の立面図には、免震装置22が配置された免震層48Aを介して地盤24上に構造物56が支持されて構成された単層免震建物としての建物58が示されている。
【0041】
一般に、
図4に示す建物54のような複数の免震層を有する多層免震建物は、
図5に示す建物58のような1つの免震層を有する単層免震建物に比べて、地震時における各免震層48A、48B、48C、48Dの変形を小さくでき、免震層48A、48B、48C、48Dの変形に対する制約を緩和することができるので、免震周期を長くして地震時の建物応答を低減することができる。
【0042】
しかし、長周期成分が卓越する地震動においては、多層免震建物の免震周期が長いほど建物応答(応答加速度)が大きくなってしまう場合がある。
図6のグラフは、構造設計に用いられる代表的な地震波を入力値としたシミュレーションにより求めた、多層免震建物の免震周期に対する多層免震建物に生じる加速度応答スペクトルの値60、62を示した一例である。グラフの横軸に多層免震建物の免震周期が、縦軸に多層免震建物に生じる加速度応答スペクトルが示されている。
【0043】
値60は、短周期地震動の地震波(1995年兵庫県南部地震時にJMA神戸で観測されたNS方向地震波)を入力値とした値であり、値62は、長周期地震動の地震波(2010年に国土交通省が発表した設計用長周期地震動の内の区域2での地震波)を入力値とした値である。値60、62ともに減衰定数は免震を想定して20%としている。
【0044】
図6のグラフから、値60に示すように短周期地震動の地震波では多層免震建物の免震周期が長くなるほど加速度応答スペクトルが低減しているが、値62に示すように長周期地震動の地震波では多層免震建物の免震周期が長くなると、ある周期帯(5〜7秒)で加速度応答スペクトルが増幅していることがわかる。このように、長周期成分が卓越する地震動においては、多層免震建物の免震周期が長いほど建物応答(応答加速度)が大きくなってしまう場合がある。
【0045】
これに対して、本実施形態の免震構造10では、セミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えを行うことにより、構造物30の応答加速度を低減するように建物12の免震周期を変化させて地震動の周期成分から逃れさせて(短周期成分が卓越する地震動の場合には、セミアクティブダンパー14の減衰係数を小さくすることで建物12の免震周期を長くし、長周期成分が卓越する地震動の場合には、セミアクティブダンパー14の減衰係数を大きくすることで建物12の免震周期を短くして)、短周期及び長周期の地震動に対する建物12の建物応答(応答加速度)を低減することができる。
【0046】
また、セミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えを行ったときに生じる減衰力の変化量が所定値以下になるときに、この切り換えを行うことにより、切り換え時にセミアクティブダンパー14に発生する衝撃を低減することができる。これにより、セミアクティブダンパー14から建物12へ伝達される振動を低減することができ、地震時における建物12の居住性を向上させることができる。
【0047】
さらに、本実施形態の免震構造10では、セミアクティブダンパー14のストローク速度が所定値以下のときにセミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えを行うことにより、確実に、セミアクティブダンパー14の減衰力の変化量が所定値以下になるときにこの切り換えを行うことができる。
【0048】
また、本実施形態の免震構造10では、想定される構造物30の応答加速度が小さくなる方の減衰係数を選択するといった振動制御方法によって地震動に対する建物12の建物応答を低減するので、簡易な振動制御方法で安定した振動低減効果を得ることができる。
【0049】
さらに、本実施形態の免震構造10では、制御免震層の床部に生じる加速度を振動制御のための入力値としているので、地震動の観測データを用いる必要がなく、計測装置としては加速度計とストローク計を設置するだけでよい。これにより、低コストで免震構造を構築することができる。
【0050】
また、本実施形態の免震構造10では、セミアクティブダンパー14、加速度計16、ストローク計32、及びコントローラ18といった振動制御に必要な装置が、制御免震層としての中間免震層28に集約されているので、これらの装置の設置手間を軽減し、メンテナンスをし易くすることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、建物12を2つの免震層(基礎免震層20、中間免震層28)を有する多層免震建物とした例を示したが、本実施形態の建物は、免震層を複数有している多層免震建物であればよい。例えば、3つ以上の免震層を有していてもよい。また、どの免震層を制御免震層にしてもよいし、複数の免震層を制御免震層にしてもよい。すなわち、セミアクティブダンパー14は、建物の有する免震層の内の少なくとも1つの免震層に設置されていればよい。セミアクティブダンパー14が設置された免震層が制御免震層となる。
【0052】
例えば、
図7に示す建物64のようにしてもよい。建物64は、免震装置22が配置された免震層(基礎免震層66、中間免震層68A、68B、68C)を介して地盤24上に構造物70A、70B、70C、70Dが複数積み重ねられて構成された多層免震建物である。構造物70Aが基礎免震層66を介して地盤24上に免震支持され、構造物70Bが中間免震層68Aを介して構造物70A上に免震支持され、構造物70Cが中間免震層68Bを介して構造物70B上に免震支持され、構造物70Dが中間免震層68Cを介して構造物70C上に免震支持されている。また、中間免震層68A、68Bには、セミアクティブダンパー14、加速度計16、及びコントローラ18が設置されており、これにより中間免震層68A、68Bが制御免震層になっている。
【0053】
図7の建物64のように建物が複数の制御免震層を有する場合、各制御免震層に設置されたコントローラ18間で振動制御情報のやり取りをして、一方の制御免震層で行われる振動制御に、他方の制御免震層の振動制御情報を利用するようにしてもよい。
【0054】
この場合の振動制御フローは、例えば、まず、中間免震層68Bに設置された加速度計16により計測された加速度データに基づいて、中間免震層68Bに免震支持された上部構造物(構造物70C、中間免震層68C、及び構造物70Dを合わせた構造物)の応答加速度を、中間免震層68Bに設置されたセミアクティブダンパー14の減衰係数C
11、C
12に対してそれぞれ求め、中間免震層68Bに設置されたセミアクティブダンパー14の減衰係数を上部構造物(構造物70C、中間免震層68C、及び構造物70Dを合わせた構造物)の応答加速度が小さくなる方の減衰係数(C
11又はC
12)に切り換える。
【0055】
次に、中間免震層68Bに設置されたセミアクティブダンパー14の切り換えた減衰係数の情報を、中間免震層68Bに設置されたコントローラ18から、中間免震層68Aに設置されたコントローラ18へ送られる。
【0056】
次に、中間免震層68Aに設置された加速度計16により計測された加速度データに基づいて、中間免震層68Aに免震支持された上部構造物(構造物70B、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
11又はC
12とした中間免震層68B、構造物70C、中間免震層68C、及び構造物70Dを合わせた構造物)の応答加速度を、中間免震層68Aに設置されたセミアクティブダンパー14の減衰係数C
21、C
22に対してそれぞれ求め、中間免震層68Aに設置されたセミアクティブダンパー14の減衰係数を上部構造物(構造物70B、セミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
11又はC
12とした中間免震層68B、構造物70C、中間免震層68C、及び構造物70Dを合わせた構造物)の応答加速度が小さくなる方の減衰係数(C
21又はC
22)に切り換える。
【0057】
また、本実施形態では、セミアクティブダンパー14を、減衰係数の切り換えが可能な油圧式の流体系可変減衰ダンパーとした例を示したが、セミアクティブダンパー14は、このセミアクティブダンパー14のストローク変位量の増分方向(ストローク速度方向)と反対の方向へ減衰力を作用させることができ、この減衰力を複数の所定値に変更可能な装置であればよく、オイルを送る流路に設けられたオリフィスの面積を変えたり、流路に設けられた弁を切り換えたり、弁の開度を切り換えたりすることによって減衰力を変更する方式のオイルダンパーや、摩擦板への押し付け力を変化させて減衰力を変更する方式の摩擦ダンパー等のセミアクティブダンパーとしてもよい。また、セミアクティブダンパー14に、このセミアクティブダンパー14に過大な負荷が加わることを防ぐリリーフ機構を備えるようにしてもよい。
【0058】
さらに、本実施形態では、制御免震層としての中間免震層28にセミアクティブダンパー14を設置した例を示したが、制御免震層に設けられるセミアクティブダンパー14の数や配置は適宜決めればよい。
【0059】
また、本実施形態では、2つの減衰係数に切り換え可能なセミアクティブダンパー14を用いた例を示したが、セミアクティブダンパー14は、複数の減衰係数に切り換え可能なものであればよく、切り換える減衰係数の値は適宜決めればよい。
【0060】
例えば、セミアクティブダンパー14を、セミアクティブダンパー14のピストンやピストンロッドをロックして減衰係数を∞に切り換えることにより制御免震層の剛性を変えることができるダンパーとし、セミアクティブダンパー14の減衰係数を∞に切り換えることによって、制御免震層としての中間免震層28を支持する下部構造物としての構造物26に上部構造物としての構造物30を固定するようにしてもよい。
【0061】
このようにすれば、セミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えによって構造物26に構造物30が固定されることにより、建物12の免震周期を効果的に短くすることができる。これにより、長周期成分が卓越する地震動が発生した場合に、効果的に建物12の建物応答(応答加速度)を低減することができる。
【0062】
なお、この場合、セミアクティブダンパー14は、セミアクティブダンパー14のピストンやピストンロッドをロックして減衰係数を∞にしたロック状態と、セミアクティブダンパー14のピストンやピストンロッドに負荷を作用させないフリー状態とに切り換え可能なようにしてもよいし、セミアクティブダンパー14のピストンやピストンロッドをロックして減衰係数を∞にしたロック状態と、セミアクティブダンパー14の減衰係数を所定の値にした状態とに切り換え可能なようにしてもよい。セミアクティブダンパー14をフリー状態に切り換え可能なようにする場合、セミアクティブダンパー14をフリー状態にしたときに、所定の減衰力を制御免震層へ付与できるように、制御免震層にオイルダンパー等の減衰装置をセミアクティブダンパー14とは別に設置する。
【0063】
さらに、本実施形態では、セミアクティブダンパー14のストローク速度の絶対値が所定値以下のときに減衰係数を切り換える例を示したが、ストローク速度の所定値は、建物の許容される振動を考慮して適宜決めればよい。また、他の計測装置で、セミアクティブダンパー14の減衰係数の切り換えを行ったときに生じる減衰力の変化量が所定値以下になるかどうかを判断してもよい。例えば、セミアクティブダンパー14に生じている負荷を計測する荷重計や、セミアクティブダンパー14の内部オイルの圧力を計測する圧力計であってもよい。
【0064】
また、本実施形態では、建物12を等価質点モデルと考え、中間免震層28の床部の加速度データを入力値として、セミアクティブダンパー14の減衰係数と、構造物30の周期、減衰定数、及び頂部の刺激関数とに基づいて上部構造物としての構造物30の応答加速度を求めた例を示したが、他の方法で構造物30の応答加速度を求めてもよい。例えば、構造物30の応答加速度は、多質点非線形モデルや多層免震構造モデルを用いて解析して求めてもよい。
【0065】
さらに、本実施形態では、建物12を鉄筋コンクリート造とした例を示したが、本実施形態の免震構造10は、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、CFT造(Concrete-Filled Steel Tube:充填形鋼管コンクリート構造)、それらの混合構造など、さまざまな構造や規模の建物に対して適用することができる。
【0067】
本実施例では、本実施形態の免震構造による建物の振動低減効果を、シミュレーションによって検証した結果を示す。
【0068】
免震構造の検証モデルは、10階建ての多層免震建物を想定し、免震層として基礎階の基礎免震層とM6階の中間免震層を追加した、表1に示す諸元を有する等価せん断モデルである。M6階の中間免震層には、セミアクティブダンパー14が設置されている。セミアクティブダンパー14は、減衰係数を減衰係数C
1(=4.36kN・s/cm)と、減衰係数C
2(=C
1×100=436kN・s/cm)に切り換え可能になっている。
【0070】
検討ケースは、セミアクティブダンパー14の減衰係数が減衰係数C
1に固定されている免震建物(以下、「W免震建物」とする)と、セミアクティブダンパー14の減衰係数が減衰係数C
2に固定されている免震建物(以下、「S免震建物」とする)と、セミアクティブダンパー14の減衰係数が減衰係数C
1と減衰係数C
2に切り換え可能な本実施形態の構成である免震建物(以下、「SemiW免震建物」とする)の3ケースとした。表2には、W免震建物とS免震建物に対して行った複素固有値解析の結果が示されている。SemiW免震建物では、
図2、3で説明した振動制御フローにより建物の振動制御を行った。また、この振動制御フローにおいて、上部構造物(6階からR階までを合わせた構造物)の応答加速度の最大値(
図3の値38、40)は、各時刻の9秒(n=9)前からその時刻までの応答加速度の最大値とし、指令値を切り換えた場合は、切り換えた指令値を9秒(m=9)間維持させた。
【0072】
また、W免震建物における上部構造物(6階からR階までを合わせた構造物)の建物周期T1を4.26s、減衰定数h1を0.25%、頂部の刺激関数β1を1とし、S免震建物における上部構造物(1階からR階までを合わせた構造物)の建物周期T2を0.52s、減衰定数h2を0.03%、頂部の刺激関数β2を1.4とした。
【0073】
さらに、シミュレーションには、短周期地震動の地震波(1995年兵庫県南部地震時にJMA神戸で観測されたNS方向地震波)と、長周期地震動の地震波(2010年に国土交通省が発表した設計用長周期地震動の内の区域2での地震波)の2種類の地震波を用いた。
【0074】
図8、9のグラフには、短周期地震動の地震波に対するシミュレーション結果が示されている。
図8のグラフの横軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の各階に生じる最大絶対振動加速度が示され、縦軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の階が示されている。
図9のグラフの横軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の各層に生じる最大層間変位が示され、縦軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の階が示されている。
図8、9のグラフ中の値72(黒丸の記号)はW免震建物の値、値74(四角形の記号)はS免震建物の値、値76(三角形の記号)はSemiW免震建物の値をそれぞれ示している。
【0075】
図8のグラフから、S免震建物の最大絶対振動加速度(値74)が上層階に向かって増幅しているのに対して、W免震建物の最大絶対振動加速度(値72)は長周期効果によって上層階で小さくなっているのがわかる。また、
図9のグラフから、S免震建物の最大層間変位(値74)よりもW免震建物の最大層間変位(値72)の方が、基礎階の基礎免震層で小さくなっていることがわかる。
【0076】
SemiW免震建物においては、コントローラ18からセミアクティブダンパー14へ送られる指令値が、
図10のグラフに示すように全ての時刻において−1に維持された。
図10のグラフの横軸には、シミュレーションを開始してからの時刻が示され、縦軸には、コントローラ18からセミアクティブダンパー14へ送られた指令値が示されている。指令値が−1のときにはセミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
1とし、指令値が+1のときにはセミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
2としている。このように、SemiW免震建物においては、指令値が−1(減衰係数がC
1)に維持されたので、
図8に示すように、SemiW免震建物の最大絶対振動加速度(値76)は、W免震建物の最大絶対振動加速度(値72)と同じになっている。
【0077】
図11、12のグラフには、長周期地震動の地震波に対するシミュレーション結果が示されている。
図11のグラフの横軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の各階に生じる最大絶対振動加速度が示され、縦軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の階が示されている。
図12のグラフの横軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の各層に生じる最大層間変位が示され、縦軸には、W免震建物、S免震建物、及びSemiW免震建物の階が示されている。
図11、12のグラフ中の値72(黒丸の記号)はW免震建物の値、値74(四角形の記号)はS免震建物の値、値76(三角形の記号)はSemiW免震建物の値をそれぞれ示している。
【0078】
図11のグラフから、S免震建物の最大絶対振動加速(値74)に比べてW免震建物の最大絶対振動加速(値72)が上層階で大きくなっているのがわかる。また、
図12のグラフから、S免震建物の最大層間変位(値74)よりもW免震建物の最大層間変位(値72)の方が、基礎階の基礎免震層で大きくなっていることがわかる。
【0079】
SemiW免震建物においては、コントローラ18からセミアクティブダンパーへ送られる指令値が、
図13のグラフに示すように時々刻々と−1と+1に切り換わっている。
図13のグラフの横軸には、シミュレーションを開始してからの時刻が示され、縦軸には、コントローラ18からセミアクティブダンパー14へ送られた指令値が示されている。指令値が−1のときにはセミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
1とし、指令値が+1のときにはセミアクティブダンパー14の減衰係数を減衰係数C
2としている。
【0080】
このように、SemiW免震建物においては、指令値が−1(減衰係数がC
1)と+1(減衰係数がC
2)に切り換わったので、
図11に示すように、SemiW免震建物の最大絶対振動加速度(値76)は、S免震建物の最大絶対振動加速度(値74)と同じになっている。また、
図12に示すように、SemiW免震建物の最大層間変位(値76)は、基礎階の基礎免震層ではS免震建物(値74)と同程度になり、M6階の中間免震層ではW免震建物(値72)よりも小さくなっている。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。