(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397192
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】補強制震デバイス
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20180913BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20180913BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 Z
F16F7/12
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-16496(P2014-16496)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-143417(P2015-143417A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】592007508
【氏名又は名称】株式会社サトウ
(73)【特許権者】
【識別番号】392032007
【氏名又は名称】株式会社ドムス設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166051
【弁理士】
【氏名又は名称】駒津 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】大川 力
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−019233(JP,A)
【文献】
特開2005−083526(JP,A)
【文献】
特開2008−308911(JP,A)
【文献】
特開2009−275473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 7/12
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性限界を超えると塑性変形する帯状鋼板で構成された制震素子と、前記制震素子を支持する制震素子支持部とからなり、
前記制震素子は、
建屋の構造枠に取り付けるための第1の枠取付面部および第2の枠取付面部と、
前記第1の枠取付面部の内側端部から立ち上がる第1の立上部と、
前記第2の枠取付面部の内側端部から立ち上がる第2の立上部と、
前記第1の立上部および第2の立上部間を繋ぎ、前記構造枠から伝達される地震の振動を斜材取付板を介して受ける上辺面部と、
により構成されてなり、
前記制震素子支持部は、
円弧帯形状の第1の側面部と、円弧帯形状の第2の側面部とを備えてなり、
前記制震素子の前記上辺面部と前記第1および第2の立上部に囲まれた空間部に配されるとともに、
前記第1の側面部が前記第1の立上部と前記上辺面部とで形成される第1の曲げ部の内側近傍に配され、
前記第2の側面部が前記第2の立上部と前記上辺面部とで形成される第2の曲げ部の内側近傍に配されている、
ことを特徴とする補強制震デバイス。
【請求項2】
前記制震素子の側面視形状は、略Ω状に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の補強制震デバイス。
【請求項3】
前記制震素子支持部は、円筒の鋼管により構成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の補強制震デバイス。
【請求項4】
前記制震素子支持部は、前記上辺面部を支持する上辺面支持面部を備えてなり、
前記上辺面支持面部は、前記上辺面部の内側に接触または近傍に配されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の補強制震デバイス。
【請求項5】
前記制震素子は、前記帯状鋼板が低降伏点鋼であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の補強制震デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造又は鉄骨構造の中低層建屋の構造枠に取り付けて建屋に耐力・制震機能を付加する補強制震デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に建屋に装着する主な耐震補強としては、耐力壁、免震基礎、制振装置に大別されるが、これらを建築基準法に準拠して建設された標準的な中小木造住宅に装着した場合を例に強度・コストを比較する。大地震時において耐力壁は破壊されるが倒壊は少なく、耐震コストは並みである。免震基礎は少々の揺れを感じる程度であるが、基礎廻りはやや損壊の危険性があり、平均的な免震コストは非常に高価である。制振装置は建築基準法に未指定で、正式には個別に構造設計を要する場合があり、制震コストは耐震コストに上乗せされるので全体的にやや高価となる。
【0003】
これに対して、本発明者は既に上述の中低層の建屋でも、地震作用力を吸収減衰することの可能な特許文献1に記載の制震デバイスを開発している。
この制震デバイスは、側面視が略Ω形状の低降伏点鋼を加工変形して曲げ変形を卓越させた制震素子と、地震作用力の伝達用の斜材からなり、地震の作用力が制震素子の弾性限界を超えても、さらに安定した履歴型の塑性変形が最大耐力まで進行するため、耐力効果と制震効果を併せ持ち、性能コスト的にも前記耐力壁あるいは制振装置と比較して安価であって、耐震対策上非常に有効である。
【0004】
特にこの制震デバイスを装着した建屋の構造枠は、制震性能と耐力性能を同時に合わせ持っている。
すなわち、地震力が建屋構造枠に作用すると、地震作用力の正負交番荷重が制震デバイスの斜材を介して側面視略Ω形状の制震素子に伝わり、制震素子の湾曲部に弾性変形が生じ、弾性限界まで耐力を保持するという耐力性能とともに、制震デバイスがさらに塑性変形に移行すると、その塑性曲げ変形によって制震性能が発揮され地震作用力を効果的に吸収減衰する、両者の相乗効果によって卓越した耐震性能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−275473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに近年、木造あるいは鉄骨構造の中低層の建屋は、構造部材の増強や規模拡大に伴い固定荷重が増すにつれて、建屋の構造枠に作用する地震力が増大し、構造枠に装着した制震デバイスに作用する地震力も大きくなる傾向にある。この点に鑑み建屋の構造枠を模した木造軸組実験構面に従来より大きい繰り返し作用力を加える静的加力実験を行った結果、制震素子の湾曲部に塑性クラックが発生し最終的に損傷したことがあった。これは繰り返し加力によって、制震素子の曲げ部に集中する曲げ応力が耐力限界を超えたことに起因するものである。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、固定荷重の増大した中低層の建屋においても、制震デバイスの取付け個数を増さずに地震振動の減衰性能を維持し、且つ制震素子の保有耐力を向上させて制震素子の曲げ部の破損を防止する補強制震デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の補強制震デバイスにおいては、前記課題を解決するため、弾性限界を超えると塑性変形する帯状低降伏点鋼板で構成された制震素子と、前記制震素子を支持する制震素子支持部とからなり、前記制震素子は、建屋の構造枠に取り付けるための第1の枠取付面部および第2の枠取付面部と、前記第1の枠取付面部の内側端部から立ち上がる第1の立上部と、前記第2の枠取付面部の内側端部から立ち上がる第2の立上部と、前記第1の立上部および第2の立上部間を繋ぎ、前記構造枠から伝達される地震の振動を斜材取付板を介して受ける上辺面部とにより構成されてなり、前記制震素子支持部は、円弧状の第1の側面部と、円弧状の第2の側面部とを備えてなり、前記制震素子の上辺面部と前記第1および第2の立上部に囲まれた空間部に配されるとともに、前記第1の側面部が前記第1の立上部と前記上辺面部とで形成される第1の曲げ部の内側近傍に配され、前記第2の側面部が前記第2の立上部と前記上辺面部とで形成される第2の曲げ部の内側近傍に配されていることを特徴とする補強制震デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の補強制震デバイスの作用効果を説明する。
本発明の補強制震デバイスは、制震素子の第1および第2の曲げ部の近傍内側に制震素子支持部の円弧状の第1および第2の側面部を備えているので、制震素子に地震力が作用して変形を始めても、第1および第2の側面部により制震素子の第1および第2の曲げ部の変形が抑制され、第1および第2の曲げ部に集中する曲げ応力が抑制・分散される。これは、制震素子の第1または第2の曲げ部に曲げ変形が発生すると、各々近傍に配置された円弧状の第1または第2の側面部に沿って徐々に制震素子の第1または第2の曲げ部が接触変形しながら、円弧状の第1または第2側面部上に載置される。さらに加振によって制震素子の摺動が円滑に続き、制震素子の第1または第2の曲げ部が第1または第2の側面部に密接すると、制震素子の第1または第2の曲げ部の変形はとどまり、制震素子の部材の耐力強度で作用力に耐え、部材の靱性によって塑性変形に移行する。やがて振動の向き(地震波形の向き)の正負が切り替わり、この作用が反復されても発生する応力はその都度十分に分散・軽減され、第1および第2の曲げ部が設定以上に大きく変形することなく地震は終焉をむかえる。
【0010】
すなわち、本発明の補強制震デバイスは、上記の作用によって第1および第2の曲げ部に発生する曲げ応力が第1及び第2の側面部によって十分に抑制・分散されるとともに、第1および第2の曲げ部が大きく変形することなくほぼ湾曲状態を維持したまま制震素子の摺動が円滑に進行する。結果、制震素子の保有耐力性能が向上し、塑性クラックの発生による損壊が防止されるともに、地震エネルギーを良く吸収減衰する制震性能も発揮されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る補強制震デバイスと建屋構造枠との立面レイアウト例の実施例1を示す図である。
【
図2】本発明に係る補強制震デバイスと建屋構造枠との立面レイアウト例の実施例2を示す図である。
【
図3】本発明に係る補強制震デバイスの第1実施形態を示す断面構成図である。
【
図4】本発明に係る制震補強デバイスの第1実施形態に応力を与えた状態を示す図である。
【
図5】本発明に係る補強制震デバイスの制震素子の他の実施形態を示す断面構成図である。
【
図6】本発明に係る補強制震デバイスの制震素子支持部の他の実施形態を示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1、
図2は何れも本発明に係る制震デバイス1と建屋の耐力制震構造枠2(以下、単に構造枠2と称す)とのレイアウト例を示す図である。中低層建屋の壁体は木造軸組構造あるいは鉄骨構造であって、主柱等の柱材3と、梁や土台等の横材4とからなる矩形の構造枠2で構成されている。そして、構造枠2は、柱材3のほぼ中間位置に制震デバイス1が配設されている。なお、本実施形態の構造枠2は、木造軸組構造としたが、木質枠組構造・木質2×4構造や鉄骨構造等にも同様に利用可能である。さらに、構造枠2では制震デバイス1を柱材3に配設しているが、上下の横材4の中央にも同様の方法で装着し、斜材取付板8から斜材6をV字状に配設した上、その自由端を固定金具5によって柱材3に螺設することも可能である。
【0013】
また、構造枠2は、その四隅あるいは四隅に近い場所に各々固定金具5が固定されており、各々固定金具5に斜材6が取り付けられている。そして、この上隅側(梁側)および下隅側(土台側)の固定金具5に各々固定された斜材6は、構造枠2内において、上下2段のX状になるように交差して制震デバイス1に高力ボルトとワッシャー・ナットで緊結される。
【0014】
図3は、本発明に係る制震デバイス1の第1実施形態を示す断面構成図である。制震デバイス1は、低降伏点鋼からなる帯状鋼板で構成された制震素子7と、斜材6を支持する斜材取付板8と、制震素子7を支持する制震素子支持部9とにより構成されている。
【0015】
制震素子7は、柱材3に取り付けるための第1の枠取付面部10aおよび第2の枠取付面部10bと、第1の枠取付面10aの内側端部(制震素子支持部9側の端部)から立ち上がるS字状の第1の立上部11aと、第2の枠取付面10bの内側端部(制震素子支持部9側の端部)から立ち上がる逆S字状の第2の立上部11bと、第1および第2の立上部11a、11b間を繋ぎ、構造枠2からの地震震動を斜材6および斜材取付板8を介して受ける上辺面部12とにより側面視で略Ω形状に構成されている。そして、制震素子7の第1および第2の枠取付面部10a、10bは、その下面に一体的に溶着された鋼板製ベース板13を介して柱材3に角ビットビス等で緊結される。
【0016】
また、斜材取付板8は、矩形平板状の鋼板からなり、制震素子の上辺面部12の上面長手中心線上の長手方向に直角に立ち上がり、予め一体的に固定されている。そして、斜材取付板8の両面を挟むようにして斜材6が高力ボルト・ワッシャーおよびナットで緊結される。
【0017】
制震素子支持部9は、制震素子7の上辺面部12と第1および第2の立上部11a、11bに囲まれた空間部14(左右の空間部14)が配されている。そして、この制震素子支持部9は、円筒形の鋼管からなる第1および第2の制震素子支持部9a、9bにより構成され、ベース部材13に溶接等により固定されている。ここで、第1の制震素子支持部9aは、円弧状の第1の側面部15が制震素子7の第1の立上部11aと上辺面部12とで形成される第1の曲げ部16aの内側近傍に配され、第2の制震素子支持部9bも円弧状の第2の側面部17が制震素子7の立上部11bと上面部12とで形成される第2の曲げ部16bの内側近傍に配されている。さらに、第1および第2の制震素子支持部9a、9bは、第1および第2の上辺面支持面部18a、18bとを有し、この第1及び第2の上辺面支持面部18a、18bが上辺面部12の内側と接触している状態にある。
【0018】
図4は、本発明に係る補強制震デバイスの第1実施形態に応力を与えた状態を示す図である。構造枠2に対して水平方向に地震力Tが作用すると、制震素子7の上辺面部12には、
図1に示すように、上下2段のX状になるように交差する斜材6を介して斜材取付板8から垂直分力V1、V2、V1’、V2’、水平分力H1、H2、H1’、H2’が作用する。この際、垂直分力V1、V1’及びV2、V2’は互いに相殺されるため、制震素子7の上辺面部12には、水平分力H1、H2、H1’、H2’が作用する。本補強制震デバイス1の制震素子7は、低降伏点鋼によって側面視で略Ω形状に構成されている。制震素子7の第1または第2の曲げ部16a、16bがこれを受けて弾性変形が発生し、弾性限界耐力まで粘る。これが本耐力制震デバイスの保有耐力であって、やがて降伏点に達すると制震素子7は塑性曲げ変形に移行しつつ変形だけが伸長して、地震エネルギーを吸収する。これが制震性能である。このとき制震素子7の第1および第2の曲げ部16a、16bには、特に曲げ応力が集中する。
【0019】
ここで、制震デバイス1は、第1の制震素子支持部9aの円弧状の側面部15を制震素子7の第1の曲げ部16aの内側近傍に、第2の制震素子9bの円弧状の側面部17を制震素子7の第2の曲げ部16bの内側近傍に備えているために、第1の曲げ部16aは、制震素子7の上辺面部12に水平分力H1が加わり、変形が弾性限界を超えて塑性曲げ変形を始めると、
図4(a)に示すように、制震素子7は第1の制震素子支持部9aの円弧状の第1の側面部15に沿いながら徐々に接触変形し、その円弧状の第1の側面部15に円滑に摺動・支持されていき、左側の空間部14の余裕が無くなるに従い変形の進行が次第に抑制され、曲げ部16aには応力がそれ以上に集中し難い構成となっている。
また同様に第2の曲げ部16bは、制震素子7の上辺面部12に水平分力H2が加わり、変形が弾性限界を超えて塑性曲げ変形を始めても、
図4(b)に示すように、第2の制震素子支持部9bの円弧状の第2の側面部17に沿って徐々に接触し、円弧状の第2の側面部17に円滑に摺動・支持されていくため、前記と同様に補強制震デバイス1は、第2の曲げ部16bに応力がそれ以上集中し難い構成となっている。
【0020】
このため本発明の補強制震デバイス1は、第1および第2の曲げ部16a、16bに発生する曲げ応力が十分に分散され抑制・軽減されるとともに、第1および第2の曲げ部16a、16bが大きく変形することなく当初の湾曲に近い状態を維持したまま第1および第2の制震素子支持部9a、9bに支持される。結果、本発明の制震デバイス1は、制震素子7の保有耐力が向上し、クラックの発生による破損を防止することが可能となる。
【0021】
また、第1および第2の制震素子支持部9a、9bは、2個の円筒の鋼管によって構成されてなるために、特定の形状の制震素子7を作成せずとも通常に市販されている鋼管を使用し、この鋼管を制震素子7の空間部14内に収納できるよう剪断して、ベース部材13に溶接固定することで容易に設置することが可能である。結果、第1および第2の制震素子支持部9a、9bは、特許文献1にある既存の制震デバイスにも容易に設置可能となるとともに、特定の形状の加工品も必要なくなり、低コストで補強制震デバイスの製作提供が可能となる。
【0022】
さらに、第1および第2の制震素子支持部9a、9bは、各々上辺面部12を支持する第1および第2の上辺面支持面部18a、18bを有し、これが上辺面部12の内側と接触しているために、制震素子7の上辺面部12に水平分力H1、H2が作用した際に、上辺面12が上辺支持面部18a、18bに円滑に摺動・支持される。結果、制震素子7の保有耐力がより一層向上する。
【0023】
そして、制震素子7は、低降伏点鋼であるために、予め低降伏点鋼に曲げ加工(曲げ部形成)をしておくことにより、曲げ変形が効率よく行われ、第1及び第2の側面部15、17の抑制のもと、その第1および第2の曲げ部16a、16bの塑性曲げ変形によって効果的に応力(地震応力)を吸収することが可能となる。
【0024】
図5は、本発明に係る補強制震デバイスの制震素子の他の実施形態を示す断面構成図である。本実施形態の補強制震デバイス1は、制震素子7として側面視が略Ω状に形成されたものを使用したが、図示にある制震素子19のように側面視がハット型に形成されたものであっても対応可能である。
【0025】
図6は、本発明に係る補強制震デバイスの制震素子支持部9の他の実施形態を示す断面構成図である。本実施形態の補強制震デバイス1においては、制震素子支持部9として2つの円筒の鋼管からなる第1および第2の制震素子支持部材9a、9bを使用したが、図示にある、断面楕円形状に形成された制震素子支持部20等のように円弧状の第1および第2の側面部21a、21bを有し、その円弧状の側面部21a、21bが制震素子7の第1および第2の曲げ部16a、16bの内側近傍に配置することが可能な形状のものであればいずれの形状であっても対応可能である。
【0026】
さらに、本実施形態の補強制震デバイス1は、制震素子7の素材として低降伏点鋼を使用したが弾性限界を超えると塑性変形する素材(例えばZn―Al合金、弾塑性履歴型金属、焼き鈍し鋼等)であれば対応可能である。
【0027】
加えて、本実施形態の補強制震デバイス1は、制震素子7の空間部14において、制震素子支持部9a、9bの上辺面支持面部18a、18bと制震素子7の上辺面部12の内側とを接触させている。ここで、制震素子支持部9a、9bの上辺面支持面部18a、18bと制震素子7の上辺面部12の内側とは接触が好ましいが、5mm前後以下の空隙を設けても、制震素子7に地震作用力が加わり始めると、作用力の水平分力H1、H2による曲げ部16a,16bの初期変形に伴う上辺面部12の変形・摺動によって、前記の空隙は速やかに解消され、上辺面部13を支持する効果を回復することが可能である。このように、準備可能な鋼管によっては、制震素子7の上辺面部12の内側と制震素子支持部9a、9bの上辺面支持面部18a、18bとの間、第1の制震素子支持部9aと第2の制震素子支持部9bとの間に空隙ができる場合がある。この空隙を処理する手段としては、制震素子支持部9a、9bとベース板13との間に制震素子7と干渉しないキャンバー鋼板を配設する、第1の制震素子支持部9aと第2の制震素子支持部9bとの間に鋼板または硬質ゴム等のフィラーを配設するなどがある。
【符号の説明】
【0028】
1 補強制震デバイス
2 構造枠
7 制震素子
8 斜材支持部
9 制震素子支持部
9a 第1の制震素子支持部
9b 第2の制震素子支持部
11a 第1の立上部
11b 第2の立上部
13 上辺面部
14 空間部
15 第1の側面部
16a 第1の曲げ部
16b 第2の曲げ部
17 第2の側面部
T 作用力
V1 鉛直分力
V2 鉛直分力
H1 水平分力
H2 水平分力