(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  印刷方式には、印刷版に三次元形状を施すことで印刷が可能になる方式と、化学的な特徴を付与することで印刷可能になる方式とが知られており、前者の代表例としては、凸版印刷及び凹版印刷がある。前記凸版印刷では印刷版の凸部にインキが付着されることで、印刷が可能となり、一方、凹版印刷では印刷版の凹部にインキが付着されることで印刷が可能となる。
【0003】
  凸版印刷に用いられる印刷版、特に、凸版印刷方法の一種であるフレキソ印刷に使用される印刷版は、一般的に支持体としてのポリエステルフィルムの上に感光性樹脂組成物層を積層した構成の感光性樹脂構成体を用いて製造される。
  前記感光性樹脂構成体を用いて印刷版を得る方法としては、以下の方法が挙げられる。
  すなわち、まず、ポリエステルフィルムを通して全面に紫外線露光を行い(バック露光)、薄い均一な硬化層を設ける。次いで、感光性樹脂組成物層上にネガフィルムを配置し、ネガフィルムを通して感光性樹脂組成物層に画像露光(レリーフ露光)を行い、ネガフィルムのパターンに応じて感光性樹脂組成物層を光硬化させる。その後、感光性樹脂組成物層における露光されていない部分(すなわち、硬化されていない部分)を現像溶液で洗浄し、所望の画像、すなわちレリーフ画像を形成し、印刷版を得ることができる。
【0004】
  近年、印刷品質の向上の要求の高まりに対し、従来のネガフィルムの替りに、赤外線レーザーでアブレーション可能な薄膜を設け、レーザーアブレーションすることで、紫外線硬化させる部分と紫外線硬化させない部分とを設ける技術が開発されている。
  赤外線レーザーの高解像度化、フレキソ印刷機の高精度化によってフレキソ印刷版にも高解像度化が求められ、特に網点の大小によって印刷物の濃淡を表現する網点印刷では表現できる網点の細かさを向上させることが求められている。
  この網点の細かさの程度を示す値としては、1インチ当たりに配置される網点個数で表される値が知られており、単位としては、線(ライン/インチ)が用いられている。
【0005】
  高解像度化を図る方法としては、感光性樹脂組成物層中において、光反応に関与するエチレン性飽和化合物、光重合性化合物の組成比率を高める方法が挙げられるが、一方において、感光性樹脂組成物の保存安定性が低下するという問題を有している。
  更に、感光性樹脂組成物中には、液状ゴムを添加する場合が多く、その液状ゴムに含まれる1,2−ビニル結合量を高めることで、高解像度化を図ることも知られている。
  しかしながら、前記液状ゴムに含まれる1,2−ビニル結合量を高めると、感光性樹脂組成物の柔軟性が低下し、取扱いにくくなり、また、保存安定性も低下するという問題を有している。
  なお、保存安定性の低下とは、具体的には感光性樹脂組成物を放置することで、感光性樹脂組成物の感度が変化してしまうなど、化学的な安定性が損なわれることを言う。
  一方、保存安定性を向上させる方法としては、いわゆる安定剤を添加する方法が挙げられる。しかしながら、安定剤を添加すると、感光性樹脂組成物の解像度が低下してしまうという問題を生じる。この高解像度化を図ることと、保存安定性との両立を可能にする技術は未だ知られていないのが現状である。
【0006】
  特許文献1には、凸版印刷用感光材樹脂版が提案されており、感光性樹脂中に紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾールを添加する技術が提案されている。
  特許文献2には、ポリウレタンポリマーを含有するフレキソ印刷に用いる感光性樹脂が提案されており、変色抑制のために、含窒素複素環化合物を添加する技術が記載されている。
  特許文献3には、フレキソ印刷用感光性樹脂組成物に紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤を水現像可能な感光性樹脂へ添加する技術が記載されている。  特許文献4、5、6、7には、印刷に用いる感光性樹脂構成体に関する提案がされており、感光性樹脂を除く構成要素に紫外線吸収剤を添加する技術が提案されている。例えば、マスク層、現像液、支持体、エッジを被覆する成分への紫外線吸収剤を添加する技術が記載されている。
 
【発明を実施するための形態】
【0013】
  以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
  以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
 
【0014】
〔印刷版用感光性樹脂組成物〕
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、
  モノビニル置換芳香族炭化水素からなる重合体ブロックと、共役ジエンからなる重合体ブロックと、を有する熱可塑性エラストマー(A)と、
  液状ジエン(B)と、
  エチレン性不飽和化合物(C)と、
  光重合開始剤(D)と、
  窒素を含有する複素芳香環化合物である安定剤(E)と、
を、含有する。
 
【0015】
(熱可塑性エラストマー(A))
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、モノビニル置換芳香族炭化水素からなる重合体ブロックと、共役ジエンからなる重合体ブロックと、を有する熱可塑性エラストマー(A)を含有する。
  当該熱可塑性エラストマー(A)を構成するモノビニル置換芳香族炭化水素としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、第三級ブチルスチレン、α−メチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレン等が挙げられる。
  特に、印刷版用感光性樹脂組成物を比較的低温で平滑に成型できる観点から、スチレンが好ましい。
  これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0016】
  熱可塑性エラストマー(A)を構成する共役ジエンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3―ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。
  これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
  印刷版の耐久性の観点から、共役ジエンとしてはブタジエンが好ましい。
 
【0017】
  熱可塑性エラストマー(A)は、1個以上の共役ジエンからなる重合体ブロックを有し、かつ当該共役ジエンからなる重合体ブロックのうちの1個以上が、ポリブタジエンからなる重合体ブロックであることが好ましい形態として挙げられる。
  前記ポリブタジエンからなる重合体ブロックが2種類以上ある場合、これらは互いに、1,2−結合ブタジエンと1,4−結合ブタジエンとの混合比率が異なるものとする。
 
【0018】
  熱可塑性エラストマー(A)は、常温における粘凋性の観点から、数平均分子量が20,000〜300,000であることが好ましく、50,000〜200,000であることがより好ましい。
  本明細書中に記載されている「数平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができ、ポリスチレン換算分子量で表される。
 
【0019】
  熱可塑性エラストマー(A)を構成するブロック共重合体としては、例えば、下記の一般式群(I)で表される直鎖状ブロック共重合体、及び/又は下記の一般式群(II)で表される直鎖状ブロック共重合体若しくはラジアルブロック共重合体が挙げられる。
(A−B)
n、A−(B−A)
n、A−(B−A)
n−B、B−(A−B)
n・・・(I)
[(A−B)
k]
m−X、[(A−B)
k−A]
m−X、[(B−A)
k]
m−X、[(B−A)
k−B]
m−X・・・(II)
  Aは、モノビニル置換芳香族炭化水素からなる重合体ブロックを示す。
  Bは、共役ジエンからなる重合体ブロックを示す。
  Xは、例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、エポキシ化大豆油、ポリハロゲン化炭化水素化合物、カルボン酸エステル化合物、ポリビニル化合物、ビスフェノール型エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、エステル系化合物等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。
  n、k及びmは、1以上の整数を示し、例えば1〜5である。
 
【0020】
  熱可塑性エラストマー(A)中の共役ジエン及びモノビニル置換芳香族炭化水素の含有量は、核磁気共鳴装置(1H−NMR)を用いて測定することができる。
  具体的には、1H−NMRの測定機器としてJNM−LA400(JEOL製、商品名)を用い、溶媒に重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度を50mg/mLとし、観測周波数を400MHz、化学シフト基準にTMS(テトラメチルシラン)を用い、パルスディレイを2.904秒、スキャン回数を64回、パルス幅を45°、測定温度を25℃に設定することにより測定することができる。
 
【0021】
  熱可塑性エラストマー(A)において、モノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合比率(質量比)は、印刷版に使用する感光性樹脂硬度の観点から、モノビニル置換芳香族炭化水素/共役ジエン=10/90〜90/10であることが好ましく、10/90〜85/15であることがより好ましく、10/90〜60/40であることがさらに好ましい。
  モノビニル置換芳香族炭化水素の割合が10以上であると、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物において十分な硬度が得られ、通常の印刷の圧力により適切な印刷を行うことができる。90以下であると、印刷版用感光性樹脂組成物において適切な硬度が得られ、印刷工程においてインキを印刷対象に十分に転移できる。
 
【0022】
  熱可塑性エラストマー(A)には、必要に応じて、他の官能基が導入されていたり、水素添加などの化学修飾がなされていたり、他の成分が共重合されていたりしてもよい。
 
【0023】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物中の熱可塑性エラストマー(A)の含有量は、印刷版に求められる耐久性の観点から、印刷版用感光性樹脂組成物の全材料の量を100質量%としたとき、40〜80質量%であることが好ましく、45〜80質量%であることがより好ましく、45〜75質量%であることがさらに好ましい。
 
【0024】
(液状ジエン(B))
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、液状ジエン(B)を含有する。
  液状ジエン(B)とは液状の炭素・炭素二重結合を有する化合物である。
  ここで、本明細書中、「液状ジエン」の「液状」とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する性状を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対応する用語である。
  なお、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物においては、「液状ジエン(B)」とは、常温以上、すなわち20℃以上で液状のジエンを意味するものとする。
 
【0025】
  液状ジエン(B)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエンの変性物、液状ポリイソプレンの変性物、液状アクリルニトリル−ブタジエンの共重合体、液状スチレン−ブタジエン共重合体が挙げられる。
  液状ジエン(B)が、ジエン成分とそれ以外の成分との共重合体である場合、ジエン成分の含有量は、印刷版の柔軟性の観点から、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
 
【0026】
  また、液状ジエン(B)の数平均分子量については、20℃において液状である限り、特に限定されないが、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の機械強度、取扱性の観点から、好ましくは500以上60000以下、より好ましくは500以上50000以下、さらに好ましくは800以上50000以下である。
 
【0027】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の機械物性の観点から、液状ジエン(B)としては液状ポリブタジエンが好ましい。
 
【0028】
  また、液状ジエン(B)、好ましくは液状ポリブタジエンの1,2−ビニル結合量は、印刷版の硬度を適切なものとする観点から、10%以上70%以下が好ましく、20%以上60%以下がより好ましく、30%以上60%以下がさらに好ましい。
  前記1,2−ビニル結合量とは、1,2−結合、3,4−結合、及び1,4−結合の結合様式で組み込まれている共役ジエン単量体の中で、1,2−結合で組み込まれているものの割合である。
  なお、前記1,2−ビニル結合を有するポリブタジエンは、二重結合であるビニルが側鎖になっているため、ラジカル重合の反応性が高く、感光性樹脂の硬度を高める観点において好ましい。一方、目的とする印刷版においては、取扱性や印刷工程におけるインクの転写性の観点から柔軟性を確保する必要があるため、液状ポリブタジエンの1,2−ビニル結合量は上記範囲に制御することが好ましい。
 
【0029】
  また、印刷版の柔軟性を向上させるためには、液状ジエン(B)中に1,4−ポリブタジエンを含有させることが有効である。
  1,4−ポリブタジエンには、シス型の1,4−ポリブタジエンと、トランス型の1,4−ポリブタジエンとがある。1,4−ポリブタジエンは、シス型及びトランス型のいずれにおいても、二重結合であるビニル基が内部に存在するため、ラジカル重合における反応性が低く、最終的に柔軟な樹脂を製造することが可能である。一方、1,4−ポリブタジエンは、ユニット自体がラジカル発生種となり得るため、熱安定性を低下させるおそれがある。当該熱安定性の改良を図るためには、後述する安定剤(E)を添加することが有効である。
 
【0030】
  液状ポリブタジエンとして、複数の異なる1,2−ビニル結合量を有する液状ポリブタジエンを混合して用いる場合は、その平均値を、液状ポリブタジエンの1,2−ビニル結合含有量とする。
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の反応性を容易に調整できるという観点から1,2−ビニル結合量が10%以下の液状ポリブタジエンと、1,2−ビニル結合量が80%以上の液状ポリブタジエンとを混合し、全体の1,2−ビニル結合量を調整することが好ましい。より好ましくは、5%以下の1,2−ビニル結合量の液状ポリブタジエンと、80%以上の1,2−ビニル結合量の液状ポリブタジエンとを混合し、全体の1,2−ビニル結合量を調整することが好ましい。
  1,2−ビニル結合量は、液状ポリブタジエンのプロトンNMR(磁気共鳴スペクトル)のピーク比から求めることができる。
 
【0031】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物における液状ジエン(B)の含有量は、印刷版に求められる機械強度の観点から、印刷版用感光性樹脂組成物の全材料の量を100質量%としたとき、10〜40質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。
 
【0032】
(エチレン性不飽和化合物(C))
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、エチレン性不飽和化合物(C)を含有する。
  エチレン性不飽和化合物(C)とは、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する化合物を言う。
  エチレン性不飽和化合物とは、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、ビニルトルエン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類;アセチレン類;(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体;ハロオレフィン類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミドやメタクリルアミドの誘導体;無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体;酢酸ビニル類;N−ビニルピロリドン;N−ビニルカルバゾール;N−置換マレイミド化合物等が挙げられる。特に、種類の豊富さの観点から、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体が好ましい。
 
【0033】
  前記誘導体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基等を有する脂環族化合物;ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、あるいはナフタレン骨格、アントラセン骨格、ビフェニル骨格、フェナントレン骨格、フルオレン骨格等を有する芳香族化合物;アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、グリシジル基等を有する化合物;アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の多価アルコールとのエステル化合物;ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等のポリシロキサン構造を有する化合物等が挙げられる。また、窒素、硫黄等の元素を含有した複素芳香族化合物であってもよい。
  前記(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサンジオール、ノナンジオール等のアルカンジオールのジアクリレート及びジメタクリレート;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコールのジアクリレート及びジメタクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート;イソボロニル(メタ)アクリレート;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
  これらは1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0034】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の機械強度の観点から、エチレン性不飽和化合物(C)としては、少なくとも1種類以上の(メタ)アクリレートを用いることが好ましく、少なくとも1種類以上の2官能(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。
 
【0035】
  エチレン性不飽和化合物(C)の数平均分子量(Mn)は、不揮発性確保の観点から100以上であることが好ましく、ポリマー等の他成分との相溶性の観点から1000未満であることが好ましく、200以上800以下であることがより好ましい。
 
【0036】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物におけるエチレン性不飽和化合物(C)の含有量は、印刷版用感光性樹脂組成物の製造工程において、印刷版の耐刷性の観点から、印刷版用感光性樹脂組成物の全材料の量を100質量%としたとき、2質量%〜30質量%とすることが好ましく、2質量%〜25質量%とすることがより好ましく、2質量%〜20質量%とすることがさらに好ましい。
 
【0037】
(光重合開始剤(D))
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、光重合開始剤(D)を含有する。
  光重合開始剤(D)とは、光のエネルギーを吸収し、ラジカルを発生する化合物であり、崩壊型光重合開始剤、水素引抜き型光重合開始剤、水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物等が挙げられる。
  光重合開始剤(D)としては、各種有機カルボニル化合物や、特に芳香族カルボニル化合物が好適である。
 
【0038】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物における光重合開始剤(D)の含有量は、印刷版の耐刷性の観点から、印刷版用感光性樹脂組成物全体量を100質量%としたとき、0.1〜10質量%の範囲とすることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲とすることがより好ましく、0.5〜5質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
 
【0039】
  光重合開始剤(D)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3',4,4'−テトラメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ミヒラーケトン;ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン、トリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−  トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;メチルベンゾイルホルメート;1,7−ビスアクリジニルヘプタン;9−フェニルアクリジン;アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等のアゾ化合物類が挙げられる。
  これらは1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0040】
(安定剤(E))
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、窒素を含有する複素芳香環化合物である安定剤(E)を含有する。
  当該安定剤(E)の含有量は、反応性の観点から、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の全体量を100質量%としたとき、0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.001〜3質量%、さらに好ましくは0.001〜1質量%である。
 
【0041】
  複素芳香環化合物とは、芳香環に炭素原子だけを含む化合物に対して、炭素以外の原子を芳香環に含む化合物を意味する。
  窒素を含有する複素芳香環化合物としては、例えば、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピラジン等が挙げられる。
  安定剤としての効果の観点から、(E)安定剤は、ベンゼン環と窒素を含有する複素芳香環を含むことが好ましい。ベンゼン環と窒素を含有する複素芳香環を含む化合物としては、例えば、インドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン等が挙げられる。
  上述の窒素を含有する複素芳香環化合物は、置換基で置換されていてもよく、当該置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、直鎖状又は分岐状の、置換、又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基等の炭化水素基;アルコキシル基、アルキルチオ基、及びアルキルアミノ基等の酸素、硫黄、及び窒素などのヘテロ元素を介して炭化水素基が結合する基;置換又は無置換のフェニル基、ナフチル基等の炭化水素数6〜20のアリール基;置換又は無置換のアラルキル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、及びエステル基、クロロ基、ブロモ基等のハロ基等が挙げられる。
  置換基は1置換体であってもよく、2以上の置換体であってもよい良い。2以上の置換体の置換基としては同一でもよく、異なってもよい。
 
【0042】
  更に、安定剤としての作用効果をより高いレベルで発揮するという観点から、安定剤(E)としては、ベンゾトリアゾール、及びその誘導体がより好ましい。
  ベンゾトリアゾール及びその誘導体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、及びその異性体、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)−フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ―3’5’−ジ−t−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ジ−t−ブチル−5’−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス−[4−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール―2−イル)フェノール]等を挙げることができる。
 
【0043】
(補助添加成分(F))
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物には、必要に応じて所定の補助添加成分(F)が含有されていてもよい。
  補助添加成分(F)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、極性基含有ポリマー、液状ジエン(B)以外の可塑剤、安定剤(E)以外の熱重合防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料・顔料等が挙げられる。
 
【0044】
  前記極性基含有ポリマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、燐酸基、スルホン酸基等の親水性基、それらの塩等の極性基を有する水溶性又は水分散性共重合体が挙げられる。さらに具体的には、カルボキシル基含有NBR、カルボキシル基含有SBR、カルボキシル基を含有した脂肪族共役ジエンの重合体、燐酸基、又はカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物の乳化重合体、スルホン酸基含有ポリウレタン、カルボキシル基含有ブタジエンラテックス等が挙げられる。
  目的とする印刷版において高い解像度を得る観点から、カルボキシル基含有ブタジエンラテックスが好ましい。
  これらの極性基含有ポリマーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
  前記液状ジエン(B)以外の可塑剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ナフテン油、パラフィン油等の炭化水素油;液状アクリルニトリル−ブタジエン共重合体、液状スチレン−ブタジエン共重合体等の液状のジエンを主体とする共役ジエンゴム;数平均分子量2000以下のポリスチレン、セバチン酸エステル、フタル酸エステル等が挙げられ、末端にヒドロキシル基やカルボキシル基を有していてもよい。これらには(メタ)アクリロイル基等の光重合性の反応基が付与されていてもよい。
  これらの可塑剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
  前記安定剤(E)以外の熱重合防止剤・酸化防止剤としては、樹脂材料又はゴム材料の分野において通常使用されるものを用いることができる。
  具体的には、フェノール系、ホスファイト系の材料が挙げられる。
  前記フェノール系の材料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ビタミンE、テトラキス−(メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
  これらの熱重合防止剤・酸化防止剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
  前記紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、公知のベンゾフェノン系、サルチレート系、アクリロニトリル系、金属錯塩系、ヒンダートアミン系の化合物が挙げられる。また下記に示す、染料・顔料を紫外線吸収剤として使用してもよい。
  紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2−エトキシ−2'−エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
  前記染料・顔料は、視認性向上のための着色手段として有効である。
  染料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水溶性である塩基性染料、酸性染料、直接染料等や、非水溶性である硫化染料、油溶染料、分散染料等が挙げられる。特にアントラキノン系、インジゴイド系、アゾ系構造の染料が好ましく、アゾ系油油溶染料等がより好ましい。
  顔料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、天然顔料、合成無機顔料、合成有機顔料等が挙げられ、合成有機顔料としては、アゾ系、トリフェニルメタン系、キノリン系、アントラキノン系、フタロシアニン系が挙げられる。
 
【0045】
  上述した補助添加成分(F)全成分の添加量は、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の材料の全量を100質量%としたとき、0〜10質量%が好ましく、0〜5質量%がより好ましく、0〜3質量%がさらに好ましい。
 
【0046】
〔印刷版用感光性樹脂組成物の製造方法〕
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、種々の方法で調製することができる。
  例えば、印刷版用感光性樹脂組成物の原料を、適当な溶媒、例えば、クロロホルム、テトラクロロエチレン、メチルエチルケトン、トルエン等の溶媒に溶解させて混合することにより製造できる。
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、所定の型枠の中に流延して溶剤を蒸発させることにより、所定の板とすることができる。また、溶剤を用いずに、ニーダーあるいはロールミルで混練し、押し出し機、射出成形機、プレス等により所望の厚さの板に成型することもできる。
 
【0047】
〔印刷版用感光性樹脂構成体、印刷版〕
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂構成体は、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物を、所定の支持体上に積層した構成を有する。
  本実施形態の印刷版は、前記印刷版用感光性樹脂構成体を用いて製造することができる。例えば、印刷版用感光性樹脂組成物の層に透明画像担体を用いてパターン露光を行い、未露光部を洗浄して除去することにより製造することができる。
 
【0048】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物は、その組成によっては、常温で粘着性を有する場合がある。従って、必要に応じて、製版時に、その上に重ねられる透明画像担体との接触性を良好にし、同時に透明画像担体の剥離性を良好にするために、印刷版用感光性樹脂組成物の層の表面に、薄いフィルム(カバーシート)をラミネートすることが好ましい。
  このカバーシートの材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン等が挙げられる。なお、このフィルム(カバーシート)は、印刷版の製造工程において、透明画像担体を貼り付ける前段階で除去する。
 
【0049】
  また、前記印刷版用感光性樹脂組成物の層と透明画像担体との接触性を向上させるために、上記のフィルムの代わりに、溶剤可溶性の、薄いたわみ性の保護層(以下、単に「保護層」と称する場合がある)を設けてもよい(例えば、特公平5−13305号公報)。
  この保護層は、例えば、以下のようにして設けられる。
  すなわち、溶剤可溶性のポリアミド、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロースエステル等を、トルエンやイソプロピルアルコール等の所定の溶剤に溶解して溶液を得、この溶液を、直接、印刷版用感光性樹脂組成物の層の表面にコーティングして、保護層を形成することができる。また、この溶液をポリステルフィルムやポリプロピレンフィルム等のカバーシート上にコーティングして保護層を形成し、この後、保護層が具備されたカバーシートを印刷版用感光性樹脂組成物の層の表面にラミネート、又はプレス圧着して、保護層を転写させてもよい。
  当該保護層は、透明画像担体を当該保護層の上に貼り付けて露光し、その後、印刷版用感光性樹脂組成物の層の未露光部を洗い出しする際に、溶解等により同時に除去される。
 
【0050】
  前記保護層の代わりに、赤外線感受性物質を含む紫外線遮蔽層を形成し、赤外線レーザーでの直接描画を行うことにより、紫外線遮蔽層を透明画像担体として用いてもよい。この場合も、前記紫外線遮蔽層は、露光が終了して、未露光部分を洗い出しする際に、同時に除去される。
 
【0051】
  本実施形態の印刷版用感光性樹脂構成体は、支持体、例えば、ポリエステルフィルムに積層された接着剤層上に、本実施形態の印刷版用感光性樹脂組成物の層を形成し、その後、ロール等を用いてラミネート加工することにより、ポリエステルフィルムと印刷版用感光性樹脂組成物の層とが密着し、これにより製造できる。
  ラミネート加工後、さらに加熱プレスすることにより、より厚み精度のよい印刷版用感光性樹脂構造体が得られる。
 
【0052】
  本実施形態の印刷版は、前記印刷版用感光性樹脂構成体を用いて製造することができる。
  以下に、その製版方法の一例を示す。
  先ず、前記支持体、例えば、ポリエステルフィルムを通して露光を行って、印刷版用感光性樹脂組成物の層を光硬化させ、薄い均一な硬化層を設ける(バック露光)。
  次いで、印刷版用感光性樹脂組成物の層上に、ポリエステル等のネガフィルムを部分的に形成し、ネガフィルムを通して印刷版用感光性樹脂組成物の層に画像露光を行い、ネガフィルムのパターンに応じて硬化する(レリーフ露光)。
  その後、印刷版用感光性樹脂組成物の層における露光されていない部分(すなわち、光硬化されていない部分)を現像溶液で洗浄し、所望の画像、すなわちレリーフ画像を形成し、印刷版を得ることができる。
 
【0053】
  印刷版用感光性樹脂組成物の層を光硬化させるため用いられる光源としては、以下に限定されるものではないが、例えば、高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、太陽光等が挙げられる。
  露光の際には、支持体、例えばポリエステルフィルムと印刷版用感光性樹脂組成物の層との接着をより強固なものにするため、又は未露光部分の洗い出し時の応力に対してレリーフ像をより安定なものにするために、支持体側から全面露光することが好ましい。
  透明画像担体からの露光と、支持体側からの露光は、どちらを先に行ってもよいが、画像再現性の観点からは、支持体側からの露光を先に行うことが好ましい。
 
【0054】
  印刷版用感光性樹脂組成物の層に、透明画像担体を通して露光し、画像を形成させた後、現像溶剤を用いて未露光部を洗い出す。
  このような現像溶剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロルエチレン等の塩素系有機溶剤;ヘプチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;石油留分、トルエン、デカリン等の炭化水素類;さらに、これらにプロパノール、ブタノール、ペンタノールのアルコール類を混合したものを挙げることができる。
  現像溶液としては、水系現像液も使用することができ、現像溶液としては、水をアルコールの混合液、界面活性剤等が挙げられる。
  水系洗浄液としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノニオン系、アニオン系、カチオン系あるいは両性の界面活性剤を一種又は二種類以上含有する洗浄液が挙げられる。
  前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、平均炭素数8〜16のアルキルを有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、平均炭素数10〜20のα−オレフィンスルホン酸塩、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が4〜10のジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸低級アルキルエステルのスルホン酸塩、平均炭素数10〜20のアルキル硫酸塩、平均炭素数10〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有し、平均0.5〜8モルのエチレンオキサイドを附加したアルキルエーテル硫酸塩、及び平均炭素数10〜22の飽和または不飽和脂肪酸塩等が挙げられる。
  前記カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、アルキルアミンエチレンオキシド付加物、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、サパミン型第4級アンモニウム塩、あるいはピリジウム塩等が挙げられる。
  前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール型の高級アルコールアルキレンオキシド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキシド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキシド付加物、油脂のアルキレンオキシド付加物、及びポリプロピレングリコールアルキレンオキシド付加物、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールとソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル及びアルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
  前記両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウムやラウリルジメチルベタイン等が挙げられる。
  現像溶液中の界面活性剤の濃度については、特に限定されるものではないが、通常洗浄液全量に対して0.5〜10質量%の範囲が好ましい。
  水性洗浄液には、上述した界面活性剤のほかに、必要に応じて、洗浄促進剤やpH調整剤等の洗浄助剤を配合してもよい。
  未露光部の洗い出しは、ノズルからの噴射によって行ってもよく、またはブラシによるブラッシングによって行ってもよい。洗い出し後、リンス洗浄・乾燥の工程を経て、後露光を行ってもよい。
 
【実施例】
【0055】
  以下、具体的な実施例を挙げて、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
  なお、実施例に適用した原料及び評価方法は以下の通りである。
〔原料〕
(成分(A):熱可塑性エラストマー)
  ポリマーA:スチレン−ブタジエンのブロック共重合体である熱可塑性エラストマー「D−KX405」(クレイトンポリマージャパン、商品名)
  ポリマーB:スチレン−ブタジエンのブロック共重合体である熱可塑性エラストマー「TR2787」(JSR、商品名)
(成分(B):液状ジエン)
  液状ポリブタジエンA:数平均分子量6000、重量平均分子量/数平均分子量=1.15、1,2−ビニル結合量55%、38℃における粘度5.3Pa・sである液状ポリブタジエン
  液状ポリブタジエンB:数平均分子量3200、重量平均分子量/数平均分子量=1.29、1,2−ビニル結合量90%、45℃における粘度25.0Ps・sの液状ポリブタジエン
  液状ポリブタジエンC:数平均分子量4600、重量平均分子量/数平均分子量=3.79、1,2−ビニル結合量1%、40℃における粘度0.70Pa・sの液状ポリブタジエン
(成分(C):エチレン性不飽和化合物)
  1,9−ノナンジオールジアクリレート
  1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート
(成分(D):光重合開始剤)
  2,2−ジメトキシ−フェニルアセトフェノン
(成分(E):安定剤)
  1,2,3−ベンゾトリアゾール
  2−(2’−ヒドロキシ−5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
  2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール
(成分(F):補助添加成分)
  フェノール系安定剤:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
  リン系安定剤:トリスノニルフェニルホスファイト
【0057】
〔評価方法〕
(1)保存安定性評価(ゲル化試験評価)
  通常の感光性樹脂の保存安定性試験評価では、非常に時間が必要になるために、簡便な評価方法として保存安定性評価結果と相関を取ることができるゲル化試験で、印刷版用感光性樹脂組成物の保存安定性評価を行った。
  先ず、後述する〔実施例〕及び〔比較例〕の印刷版用感光性樹脂組成物のポリマー成分(成分(A):熱可塑性エラストマー)を1/5質量部に減らした組成の感光性樹脂組成物を製造し、測定用サンプルとした。
  当該測定用サンプルをガラス棒の入った試験管に入れ、140℃窒素雰囲気下において、一定時間ごとに観察し、ガラス棒が動かなくなった時間をゲル化時間とし、以下の基準により評価した。
ゲル化時間
×:0〜48時間未満(保存安定性は不十分)
○:48以上96時間未満(保存安定性は良好)
◎:96時間経過した時点でゲル化発生しない(保存安定性はより良好)
【0058】
(2)印刷版用感光性樹脂組成物の解像度の評価
  後述する〔実施例〕及び〔比較例〕で製造した印刷版用感光性樹脂構成体において、紫外線遮蔽層が印刷版用感光性樹脂組成物層に転写するようにポリエステルフィルムのみを剥ぎ取り、紫外線遮蔽層を外側にして、「CDI−classic」(Esko−Graphics社製、商品名、1064nmのYAGレーザー)上のドラムに装填した。
  レーザーパワーを20W、ドラム回転スピードを1600rpmとし、印刷版用感光性樹脂構成体上の紫外線遮蔽層にレーザー描画を行い、紫外線遮蔽層の一部を切除し、150線(1インチあたりの網点が何個配置されるかを示す値)5%〜10%(印刷の濃淡を表現するために使用する網点の面積率を表す値)の1%毎のハイライトがあるテストパターンのレーザー描画を行った。
  「AFP−1216E」露光機(旭化成イーマテリアルズ社製、商品名)上で、下側紫外線ランプ(PHILIPS社製UVランプTL80W/10R、商品名)を用いて、まず下引き層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム側から100mJ/cm
2のバック露光を行った。続いて、上側ランプ(PHILIPS社製UVランプTL80W/10R、商品名)にて紫外線遮蔽層側から4000及び8000mJ/cm
2の紫外線を照射した。なお、このときの露光強度はオーク製作所製のUVメーター「UV−MO2」機を用いて「UV−35−APRフィルター」にて測定した。
  次いで、3−メトキシブチルアセテートを現像液として、「AFP−1500」現像機(旭化成イーマテリアルズ社製、商品名)の回転するドラムに、上述したバック露光を行った側に両面テープを貼り付けて固定を行い、液温25℃で5分間現像を行い、60℃で2時間乾燥させた。
  その後、後露光処理として、ALF−200UP(旭化成イーマテリアルズ社製、商品名)を用いて254nmを中心波長に持つ殺菌灯(東芝社製、GL−30、商品名)を用いて、乾燥後の印刷版用感光性樹脂構成体表面全体に2000mJ/cm
2の露光を行い、印刷版を得た。ここでの殺菌灯による後露光量は「UV−MO2」機のUV−25フィルターを用いて測定した照度から算出したものである。
  後露光を行った印刷版を光学顕微鏡で観察し、以下の基準により評価を行った。
  なお、紫外線遮蔽層側から4000mJ/cm
2の紫外線照射した場合の解像度を解像度の評価−1とし、8000mJ/cm
2の紫外線を照射した場合の解像度を解像度−2として評価を行った。
  C:150線8%のハイライトが形成された場合は解像度良好とし、Cとした。
  B:150線7%のハイライトが形成され、より解像度が良好とし、Bとした。
  A:150線6%のハイライトまで形成されている場合は、さらにより解像度が優れているものとし、Aとした。
  D:150線8%のハイライトが形成されていない場合は形成不良とし、Dとした。
  それぞれ表1に評価結果を示した。
【0059】
(3)取扱性の評価(柔軟性試験)
  上述した(2)の解像度の評価において製造した印刷版を、幅30cm×50cmのサイズに切り出し、幅40cm、周長60cmのフレキソ印刷機の版胴に両面テープを用いて固定し、以下の基準により評価した。
  ◎:柔軟性があり、容易に固定できた場合。
  ○:樹脂が強直であるため、固定自体は可能であったが、固定作業、特に両端部の固定作業に注意が必要であった場合。
【0060】
(4)液状ジエン(B)の1,2−ビニル結合量
  測定機器としてJNM−LA400(JEOL製、商品名)を用い、溶媒として重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度50mg/mL、観測周波数は400MHz、化学シフト基準にTMS(テトラメチルシラン)を用い、パルスディレイ2.904秒、スキャン回数64回、パルス幅45°、及び測定温度26℃の条件下で、液状ジエン(B)の1,4−結合単位及び1,2−結合単位を1H−NMRで測定した。
  これらの値から、ビニル結合量を算出した。
【0061】
(5)液状ジエン(B)の重量平均分子量、数平均分子量、Mw/Mn
  装置としてLC−10(島津製作所製、商品名)を用い、カラムとして、TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm)2本を使用し、オーブン温度を40℃とし、溶媒にはテトラヒドロフラン(1.0ml/min)を用い、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算分子量として、重量平均分子量、数平均分子量の測定を行った。
【0062】
(6)液状ジエン(B)の所定の温度における粘度(Pa・s)
  250mLのサンプル瓶に入れた液状ジエン(B)を、各測定温度に温調したウォーターバスに2時間浸し、測定温度になったことを確認後、B形粘度計形式B8H(株式会社東京計器製)を用いて、粘度を測定した。
【0063】
〔実施例1〜8〕、〔比較例1〜2〕
  (印刷版用感光性樹脂組成物の調製、印刷版用感光性樹脂構成体の製造)
<印刷版用感光性樹脂組成物の調製>
  下記表1に示す材料組成に従い、これらをニーダー(株式会社パウレック、FM−MW−3型)にて140℃で60分間、混練し、印刷版用感光性樹脂組成物を得た。
  下記表1に示す記載している比率は、全て質量部を示す。
【0064】
<下引き層を有する支持体の製造>
  次に、下引き層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)を、下記のようにして製造した。
  エチレングリコール93g、ネオペンチルグリコール374g、及びフタル酸382gを、空気雰囲気中、反応温度180℃、1.33×10
3Paの減圧下で6時間縮合反応させ、その後、4,4−ジフェニレンジイソシアネート125gを加え、更に80℃で5時間反応させ、樹脂を得た。当該樹脂を10%水溶液とし、溶融押し出したポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、塗布後、二軸延伸することで、下引き層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
  得られた下引き層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体に相当)の厚みは100μmであり、下引き層の厚みは0.05μmであった。
【0065】
<紫外線遮蔽層の製造>
  次に、紫外線遮蔽層を製造した。
  スチレンと1,3−ブタジエンとのブロック共重合体である「アサフレックス810」(旭化成ケミカルズ社製、商品名)65質量部と、赤外線感受物質としてのカーボンブラック35質量部とを、ニーダーで混練し、ペレット状に断裁した。その後、このペレット90質量部と1,6−ヘキサンジオールアジペート10質量部とを、酢酸エチル/酢酸ブチル/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=50/30/20の質量比で調製した混合溶剤に、超音波を利用して溶解し、固形分12質量%の均一な溶液を調製した。
  この溶液を100μmの厚みのカバーシートとなるポリエステルフィルム上に、乾燥後の塗布量が4〜5g/m
2となるようにナイフコーターを用いて塗布し、80℃で1分間乾燥して、赤外線で切除可能な紫外線遮蔽層を具備する構成体を得た。
【0066】
<印刷版用感光性樹脂構成体の製造>
  次に、上述のようにして製造した印刷版用感光性樹脂組成物、下引き層を有するポリエステルフィルム(支持体)、及び紫外線遮蔽層を有する構成体を用いて、印刷版用感光性樹脂構成体を製造した。
  前記支持体の下引き層側を、上述のようにして調整した印刷版用感光性樹脂組成物に合わせ、また、前記構成体の紫外線遮蔽層側を印刷版用感光性樹脂組成物に面するように、前記印刷版用感光性樹脂組成物の層を、前記下引き層を有するポリエステルフィルムと、前記紫外線遮蔽層を有する構成体とで挟み込み、全体が1.5mmになるように、加熱及び圧縮成型し、印刷版用感光性樹脂構成体を得た。このときの熱プレスは130℃の条件で1.96×10
7Paの圧力をかけた。
【0067】
  評価結果を下記表1に示した。材料組成の単位は質量部である。
【0068】
【表1】
【0069】
  なお、実施例1〜8及び比較例1、2において製造した印刷版用感光性樹脂体を用いて、上記((2)印刷版用感光性樹脂組成物の解像度の評価)で製造した印刷版と、XS−716(DIC株式会社、商品名)とを用いて、ポリエチレンフィルムへの印刷を行った。
  印刷版の固定に注意を要した場合でも、印刷中に両面テープから剥離することもなく、印刷を行うことができた。
【0070】
  実施例1〜8においては、取扱性が良好で、解像度が高い画像を形成可能で、かつ保存安定性に優れている印刷版用感光性樹脂組成物が得られた。