特許第6397196号(P6397196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397196生育土壌にするための電気伝導率の低減法
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  • 特許6397196-生育土壌にするための電気伝導率の低減法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397196
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】生育土壌にするための電気伝導率の低減法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/00 20180101AFI20180913BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20180913BHJP
   C09K 17/48 20060101ALI20180913BHJP
   C09K 101/00 20060101ALN20180913BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   A01G1/00 303E
   A01G7/00 602Z
   C09K17/48
   C09K101:00
   C09K103:00
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-44693(P2014-44693)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-167515(P2015-167515A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(73)【特許権者】
【識別番号】503278740
【氏名又は名称】日本エヌティアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097010
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 豊広
(72)【発明者】
【氏名】吉野 広司
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 晃
(72)【発明者】
【氏名】相良 昌男
(72)【発明者】
【氏名】小野 健司
(72)【発明者】
【氏名】小林 紀子
(72)【発明者】
【氏名】出蔵 隆輝
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−306844(JP,A)
【文献】 特開昭53−038553(JP,A)
【文献】 特開2004−059905(JP,A)
【文献】 特開2003−055948(JP,A)
【文献】 特開平10−279940(JP,A)
【文献】 特公昭48−9325(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00,24/00
C09K 17/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須元素過剰・水分含有量20〜90重量%・電気伝導率が1.5mS/cmを超える土壌に対して、2価以上の水溶性カチオンを放出する無機化合物と水溶性高分子を混在させ、該水溶性カチオンと該水溶性高分子との結合により該水溶性高分子を疎水性にすることを伴う低減処理を行うこと、を特徴とする生育土壌にするための電気伝導率の低減法。
【請求項2】
前記水溶性高分子を疎水性にすることを伴う低減処理が、生育土壌1m3について水溶性高分子が0.01〜5重量部で水溶性カチオンを放出する無機化合物が0.5〜50重量部であること、を特徴とする請求項1に記載の生育土壌にするための電気伝導率の低減法。
【請求項3】
下記(a)~(c)の少なくとも、一つ以上の特徴を有する請求項1に記載の生育土壌にするための電気伝導率の低減法。
(a)前記水溶性高分子として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸若しくはメタクリル酸とアクリルアミドとの共重合体、ポリアクリル酸Na、ポリメタアクリル酸Na、ポリアクリル酸Naとポリメタアクリル酸Naとの共重合体、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート塩のポリアルキルアミノ系の水溶性高分子及びメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド重合体、アルキルアミノアクリレートとアクリルアミドとの共重合体の合成系水溶性高分子が使用される。
(b)前記水溶性高分子は、同一種若しくは異種から選択使用される。
(c)前記無機化合物は、水溶性無機塩、水酸化物、硫酸塩が使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必須元素が過剰な土壌を生育土壌にする為に土壌の電気伝導率を化学的に低減する方法に関する。
本発明は、産業的には、津波堆積土壌等の必須元素が過剰な土壌(電気伝導率が運輸省港湾局「港湾緑地の植栽設計・施工マニュアル 平成11年4月」の目標値を超える土壌)を工業的規模で容易に運輸省港湾局の目標値となる電気伝導率まで化学的に低減させる方法に関する。
本発明は、水溶性高分子の作用(特に、凝集性)と2価以上のカチオン結合による水溶性高分子の化学的作用を相互的に働せて必須元素が過剰な土壌を生育土壌にする電気伝導率の低減法に関する。
【背景技術】
【0002】
<生育土壌の電気伝導率について>
森林生育では、窒素 (N)、リン (P)、カリウム (K)、カルシウム
(Ca)、酸素 (O)、水素 (H)、炭素 (C)、マグネシウム (Mg)、硫黄 (S)、鉄 (Fe)、マンガン、(Mn)、ホウ素 (B)、亜鉛 (Zn)、モリブデン (Mo)、銅 (Cu)、塩素 (Cl)の必須元素が生育土壌から採取される。
生育土壌の必須元素も過剰になると、森林成長が困難になる。運輸省港湾局では、生育土壌に適する電気伝導率mS/cmの目標値を示している。運輸省港湾局の目標値によれば、生育土壌に適する電気伝導率は、1.5mS/cm以下で、上部有効土層では0.1〜1.0mS/cmの範囲が合格で、下部有効土層では1.5mS/cm以下が合格とされ、それらの電気伝導率の領域で森林成長が最適になる。
【0003】
一方、被災地等の土壌等は、金属の廃材等を多く含む場合が多いので、栄養元素イオンが過剰になって電気伝導率dS/mが高くなり(すなわち、塩類濃度が高くなり)、土壌の保水・通気・透水性が悪くなって生育土壌として不適となる。上部有効土層では1.0dS/m以上、下部有効土層では1.5dS/m以上であると森林が生育する生育土壌として不適となる。
電気伝導率は、生育土壌の目標値になるので、公益法人地質工学会において、
JGS0212−2000により土懸濁液の試験方法として電気伝導率dS/m(mS
/cm)の測定方法を定めている。
【0004】
<土木系工事での水溶性高分子の活用について>
土木系工事においても、合成系及び天然系の水溶性高分子等の使用が提案され
ている(特許文献1〜3を参照)。特許文献1は、廃棄物に含まれる電荷を有
する微細粒子を水溶性高分子により化学結合させ、含水状態のままで篩い分け
可能な大きさにして廃棄物を分別可能している。
【0005】
特許文献2は、軟弱又は粘着性の高い含水土壌を埋め戻し等に再利用するために、砂のような流動性を付与して、水中で膨潤しない程度に固化処理するために水溶性高分子を使用している。
特許文献3は、トンネル工事その他で発生する高含水率(含水率約20〜90%)の掘削土を水溶性高分子等により全体を凝集固化して固形形状にし、廃棄可能な形態にしている。
【0006】
特許文献1〜3は、含水土壌の固化を基本的処理とするので、特許文献1では、セメント、石膏、生石灰、酸化マグネシウムが併用され、特許文献2では、石灰、生石灰又は消石灰が併用され、特許文献3では、消石灰、セメント系添加剤、ポルトランドセメントが併用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−176394号
【特許文献2】特開平4−345685号
【特許文献3】特開昭63−44097号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】野田公彦監修;「水溶性高分子の基礎と応用技術」2009年発行株式会社シーエムシ―出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
≪従来の土木工事での水溶性高分子の活用≫
(1)土木工事では、浚渫工事、掘削工事、泥水処理等の工事及び軟弱土での固化処理等での水溶性高分子の活用が主体となるので、水溶性高分子が、高分子凝集剤、保護コロイド剤、増粘剤及びエマルション安定剤として使用される。
そのために、浚渫工事では、工事での水の濁度を低下させて排水を行うのに、
ノニオン型のポリビニルアクリルアミド及びその共重合体であるアニオン型とカチオン型の水溶性高分子が多用される(例えば、非特許文献1を参照)。
(2)掘削工事等では、泥水を安定化させるために、ポリビニルアルコール、メチルセルローズ及び多糖類の保護コロイド作用が活用される(例えば、非特許文献1を参照)。
(3)軟弱土での固化処理等では、ポリビニルアルコール、水溶性ポリウレタン、アルギン酸ナトリウム及び多糖類が、高分子固化剤として利用される(例えば、非特許文献1を参照)。
(4)従来の土木工事での水溶性高分子の活用は、浚渫工事、掘削工事、泥水処理等の含水土壌の固化処理が主目的になるので、石膏中のカルシウムイオンを水溶性高分子との反応に利用する等の本発明の発想及び提案が存在しない。
≪本発明の創作に際しての問題点≫
【0010】
(1)必須元素が過剰な土壌(例えば、津波堆積土壌等)を生育土壌にする従来の方法は、減肥、新たな土壌の追加等の農業的な対策である。
(2)必須元素が過剰な土壌から生育土壌にする農業的な高塩類除去は、実質的に経済的及び技術的に著しく困難である。
(3)そこで、本発明者により水溶性高分子由来の凝集作用、吸着作用及び固
化作用等と水溶性高分子の反応性の組合せ等の化学的方法が詳細に実験主体に
検討されて、本発明が見いだされた。
≪本発明の電気伝導率の低減法は、以下の目的を備えている。≫
【0011】
(a)本発明は、必須元素が過剰な土壌の電気伝導率を化学的な方法により生育土壌の電気伝導率に低減させる方法を提供すること、を目的とする。
(b)本発明は、水溶性高分子の選択などにより必須元素が過剰な土壌から生育土壌の所望の電気伝導率に低減する方法を提供すること、を目的とする。
(c)本発明は、平地、盛土若しくは津波堆積土壌の複雑形態土等のいずれの条件の土壌に生じる濃度障害であっても、生育土壌の電気伝導率により低減させる方法を提供すること、を目的とする。
(d)本発明は、必須元素が過剰な土壌を工業的規模により容易に生育土壌の電
気伝導率を低減させる方法を提供すること、を目的とする。
【0012】
(e)本発明は、既存の工業製品(水溶性高分子、無機化合物)の活用により経済的に有意義な生育土壌の為の電気伝導率の低減法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1に記載の本発明)の生育土壌にするための電気伝導率の低減法は、必須元素過剰で、水分含有量20〜90重量%、電気伝導率1.5mS/cmを超える土壌に対して水溶性カチオンを放出する無機化合物と水溶性高分子を添加し、該水溶性カチオンと該水溶性高分子との結合により水溶性高分子を疎水性にすることを伴う土壌の低減処理を行うこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下記(i)〜(vii)等の発明の効果が享受される。
(i)運輸省港湾局の生育土壌に関する電気伝導率の目標値を満たす生育土壌が容易に得られる。
(ii)運輸省港湾局の生育土壌に関する電気伝導率の目標値を満たして、かつ、所望の電気伝導率を有する生育土壌が容易に得られる。
(iii)必須元素過剰な土壌に対する電気伝導率の低減処理は、平地、盛土若しくは津波堆積土壌の複雑形態であっても、土壌と基礎的工業薬品と水分系の撹拌等の基礎的操作によるので容易である。
(iv) 水溶性高分子及び2価以上の水溶性カチオンを放出する無機化合物の量的比率の変更により低減条件の変更が容易である。
【0015】
(v)生育土壌の電気伝導率の低減処理が、少数の基礎的薬品によるので工業的規模での低減処理が容易である。
(vi)既存の少数の基礎的工業薬品(水溶性高分子、水溶性無機化合物)を活用するので、電気伝導率の低減が低コストで実施可能になる。
【0016】
(vii)電気伝導率の低減による生育土壌の生成の大規模工事化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】は、必須元素が過剰な土壌に対して水溶性高分子及びカチオンと相互的に作用させて、生育土壌に至る化学的過程を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪本発明の実施の形態の具体的概要≫
【0019】
(A)<電気伝導率の低減法の具体的説明>
【0020】
本発明による生育土壌の電気伝導率の低減法を実施例2に基いて具体的に説明する。
(1)本発明は、必須元素が過剰な土壌(実施例2:津波堆積土壌)に対して、水溶性高分子(実施例2:ポリアクリル酸Na)及び2価以上の水溶性カチオンを放出する無機化合物(実施例2:半水石膏CaSO4・1/2H2O)が添加され混成物にして低減処理される
実施例2の津波堆積土壌は、湿潤密度1.640t/m3 である。湿潤密度は、直接的に含水土壌の含水量%に換算できないが、おおよそ約30〜50%の含水量である。
【0021】
必須元素が過剰な土壌(実施例2:津波堆積土壌)では、その結果として時間の経過により以下の化学的現象が必然的に進行することになる。
高分子量の水溶性高分子(実施例2:ポリアクリル酸Na)は、必須元素が過剰な土壌(実施例2:津波堆積土壌)の土壌の水分に溶解して粘性水溶液になり、それが、土壌粒子及び土壌粒子群の表面、周囲、隙間に吸着・付着・侵入して凝結、団粒化及び固化が生じる(図1の(1)及び(2)を参照)。
水溶性高分子が溶存の粘性水溶液は、土壌粒子及び土壌粒子群表面に接触する場合が多いので凝結・団粒化の凝集固化物が多くなると推察される(図1の(3)を参照)。図1は、多くの実験での観察によるが、凝固状態を含む多様な形態の混成物が生成するが、図1の(3)の形態になるものが多い。
なお、本発明の「混成物」は、異なる成分(水分、土壌粒子、土壌粒子群、水溶性高分子等)により生成され物の意味で使用している。
【0022】
本発明の水溶性高分子が2価以上の水溶性カチオンと結合して疎水性になるは、少しの時間遅れ若しくは同時的に進行する。
【0023】
本発明の実施例2では、半水石膏の硫酸カルシウムから解離した2価の水溶性カチオンのCaイオンが、水溶性高分子溶存の粘性水溶液を移動して土壌粒子及び土壌粒子群の表面、周囲、隙間に侵入・付着し、混成物を覆った水溶性高分子(実施例2:ポリアクリル酸Ca)にも結合する現象が必然的に進行する。
なお、実施例2の場合には、水溶性高分子が、ポリアクリル酸Naの塩の形になっているので、Caイオンとポリアクリル酸Naとは置換反応によりポリアクリル酸Caになる。ポリアクリル酸Caは、疎水性であるので、土壌粒子及び土壌粒子群の周囲、隙間に侵入・付着・覆った水溶性高分子が疎水性になり、凝集等により一体になっている「混成物」内部も疎水性になる。
なお、水溶性高分子がポリアクリル酸の場合には、Caイオンとポリアクリル酸とが反応してポリアクリル酸Caとなり同様の効果が得られる。
(B)<疎水化水溶性高分子による津波堆積土壌の電気伝導率の低減実験>
【0024】
深さ20cmで直径約30cmの透明プラスチック容器において、実施例2の電気伝導率の低減の実験を行わせて、本発明の構成要件(A)と同じ条件で混成物を生成させた。水溶性高分子はポリアクリル酸Naで,2価の水溶性カチオンを生じる無機化合物は半水石膏CaSO4・1/2H2O)を使用した。
約30分後に透明プラスチック容器を観察すると混成物の凝結、団粒化が観察された(図1を参照)。団粒表面は水溶性高分子溶存の粘性水溶液の凝結層で覆われていた。水溶性高分子溶存の粘性水溶液の電気伝導率は、実施例2と近似であった。団粒表面の凝結層を破壊すると電気伝導率が高くなった。団粒表面の凝結層は、通常の状態では破壊しなかった。
(C)<本発明に使用の補助材料>
【0025】
水溶性高分子及び2価以上の水溶性カチオンを放出する無機化合物が、必須の資材であるのに対して、半水石膏(CaSO4・1/2H2O )の水への未溶解部分は、水を吸収してCaSO4・2H2Oとなり、強力な凝集剤として働く。水への不溶解成分が強力な凝集剤として働く場合(例えば、石膏)には、本発明の効果が相乗的に付与されるので、不溶解成分も使用される。
(D)<本発明に使用の合成系水溶性高分子>
【0026】
(1)本発明に使用する合成系水溶性高分子は、凝集性に優れるものが好適である。
合成系水溶性高分子は、下記(a)〜(d)に例示するものが好適である。但し、下記(a)〜(d)以外のものでも発明の効果の効率等を重視しない場合には、
使用可能である。
(a) ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩の使用である。塩
としては、例えば、ポリアクリル酸Na、ポリメタアクリル酸Na等が適している。
(b)アクリル酸若しくはメタクリル酸とアクリルアミドとの共重合体の使用
である。ポリアクリル酸Naとポリアクリルアミドとの共重合体も同様である。
(c)ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート
の塩のポリアルキルアミノ系の使用である。
(d)メタアクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド重合体
及びアルキルアミノアクリレートとアクリルアミドとの共重合体の使用であ
る。その共重合体は、アクリルアミドとアクリロイルオキシメチルアンモニウ
ムクロリドとの共重合体である。
なお、複数の合成系水溶性高分子が使用される場合には、同一種若しくは異種
の水溶性高分子から選択してもよい。
【0027】
(2)合成系水溶性高分子には、オリゴマー状態の高分子も存在するが、本発
明で使用するのは、分子量100万、数100万及び1000万それ以上のレベルの分子量のものである。分子量が大きいと疎水化に有効である。
(E)<本発明に使用する天然系水溶性高分子>
【0028】
(1)天然系水溶性高分子は、含水土壌との親和性等から天然多糖類及び天然多糖類の変性化合物の使用が好適である。
(2)天然多糖類は、例えば、グァーガム、アルギン酸ソーダ、ローカストビーンガム、タマリンドニードガム、サイリウムニードガム、ザンサンガム、アラビアガム等の使用が好適である。
(3)天然多糖類の変性化合物は、例えば、カチオン化グァーガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩等の使用が好適である。
なお、天然系水溶性高分子も、同一種若しくは異種からの選択が可能である。
(F)<2価以上の水溶性カチオンを放出する無機化合物>
【0029】
2価以上のカチオンを放出する無機化合物は、例えば、水溶性無機塩類を使用が好適であり、例えば、水酸化物、硫酸塩及び硝酸塩等である。水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム若しくは水酸化マグネシウムの使用が好適である。硫酸塩は、例えば、半水石膏(CaSO4・1/2 )の使用が好適である。
水酸化アルミニウムは、3価のアルミニウムイオンを放出させるのに使用可能
である。鉄化合物も、3価以上のカチオンを放出するの使用可能である。
(G)<本発明の低減処理の対象となる土壌>
【0030】
本発明の電気伝導率を化学的に低減する対象となる土壌は、必須元素過剰で生
育土壌に適さない土壌である。代表的には、電気伝導率が、1.5mS/cmを超える土壌で、上部有効土層では1.0mS/cm上の土壌で、下部有効土層では1.5cm超える土壌である。土壌がそれらの電気伝導率以下であっても、森林によっては、より低い電気伝導率の場合に最適な生育条件になる場合がある。そのような場合も、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
(1)本発明では、生育土壌が1m3に対して、2価以上の水溶性カチオンを放出する無機化合物が0.5〜50重量部、水溶性高分子が0.01〜5.0重量部であれば、実施が容易である。
無機化合物の上限量が大きいのは、無機化合物中の水溶性カチオン放出量が小さい場合があって、事前にそれらを分離できないからである。
(2)必須元素が過剰な土壌は、水分含有量が20〜90重量%まで可能である。ただし、水分含有量が30〜60重量%の必須元素が過剰な土壌について本発明の低減法を実施すると、目的の電気伝導率(mS/cm)にするのが容易である。
(3)本発明では、水溶性高分子及び2価以上のカチオンを放出する無機化合物、副資材は原則として粉末の使用が適している。


【実施例】
【0032】
次に本発明を実施例により説明するが、実施例は例示であってそれの範囲に拘束されない。
【実施例1】
【0033】
〔津波堆積土壌の性質確認の実験〕
実施例1は、実施例2以下の本発明の実施例の対象として「津波堆積土壌」を使用して半水石膏のみを添加したときの特性確認実験を行った。
津波堆積土壌Aの湿潤密度は、土の湿潤密度試験(JGS0191-2000)により測定し、1.640t/m3であった。本実施例における材料の添加量は、この湿潤密度の試料(1m3)に対する材料の添加量としている。
表−1は、本実施例で使用した津波堆積土壌Aに半水石膏を添加したときの電気伝導率及びpHを示している。
電気伝導率は、土懸濁液の電気伝導率試験方法(JGS0212-2000)により測定した。電気伝導率計は、東亜ディケーケー社製、CM−31Pを使用した。
pHは土懸濁液のpH試験(JGS0211-2000)により測定した。pH計は、東亜ディケーケー社製、HM−30Pを使用した。津波堆積土壌と半水石膏との混和には、通常の混合機を使用した。
A-1は、半水石膏25kg/m3を混和したものを試験した結果である。
A-2は、半水石膏40kg/m3を混和したものを試験した結果である。
A-3は、半水石膏50kg/m3を混和したものを試験した結果である。
【0034】
【表1】
注1:土壌A−1〜A−3の電気伝導率ECは、水への溶解量は0.24g/100cm3
25〜50kg/m3に対応する部分と津波堆積土壌の電気伝導率の合計量で ある。
2:表1の土壌A−1〜A−3は、電気伝導率が1.52dS/m以上であるので、不合格である。
3:土壌A−1〜土壌A−3では、水溶性高分子が未配合であるので、本発明の効果が得られていない。
【実施例2】
【0035】
〔津波堆積土壌の電気伝導率の低減の実験〕
実施例2で使用した石膏は半水石膏、水溶性高分子はポリアクリル酸ソーダである。表−2は、本材料により津波堆積土壌Aの電気伝導率を低減した結果を示している。
土壌A-4は、津波堆積土壌Aに半水石膏24kg/m3及びポリアクリル酸ソーダ1kg/m3の合計25 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
土壌A-5は、津波堆積土壌Aに半水石膏39kg/m3及びポリアクリル酸ソーダ1kg/m3の合計40 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
土壌A-6は、津波堆積土壌Aに半水石膏49kg/m3及びポリアクリル酸ソーダ1kg/m3の合計50 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
【0036】





【表2】
注1:土壌A−4〜A−6は、電気伝導率がdS/m換算で下部有効土層の1.5dS/m以下で合格である。土壌A−6は、上部有効土層の1.0dS/m以下で合格である。
【実施例3】
【0037】
〔津波堆積土壌の電気伝導率を低減の実験〕
実施例3で使用した石膏は半水石膏、水溶性高分子はポリアクリル酸ソーダアクリルアマイド共重合物である。
土壌A-7は、津波堆積土壌Aに半水石膏24kg/m3及びアクリル酸ソーダアクリルアマイド共重合物1kg/m3の合計25 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
土壌A-8は、津波堆積土壌Aに半水石膏39kg/m3及びアクリル酸ソーダアクリルアマイド共重合物1kg/m3の合計40 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
土壌A-9は、津波堆積土壌Aに半水石膏49kg/m3及びアクリル酸ソーダアクリルアマイド共重合物1kg/m3の合計50 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
【0038】
【表3】
注1:土壌A−7〜9は、下部有効土層の1.5dS/m以下で合格である。土壌
A−8〜9は、上部有効土層の1.0dS/m以下で合格である。
2:土壌A−7〜9は、他の実施例に比較して電気伝導率の低減率が最も優れている。
【実施例4】
【0039】
〔津波堆積土壌の電気伝導率を低減の実験〕
実施例4で使用した石膏は半水石膏、水溶性高分子はグアーガム共重合物である。表−4は、本材料により津波堆積土壌Aの電気伝導率を低減した結果を示している。
土壌A-10は、津波堆積土壌Aに半水石膏24kg/m3及びグアーガム1kg/m3の合計25 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
土壌A-11は、津波堆積土壌Aに半水石膏39kg/m3及びグアーガム1kg/m3の合計40 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
土壌A-12は、津波堆積土壌Aに半水石膏49kg/m3及びグアーガム1kg/m3の合計50 kg/m3を混和したものを試験した結果である。
【0040】
【表4】
注1:土壌A−10〜A−12は、下部有効土層の1.5dS/m以下で合格である。
なお、本発明に合目的であって、本発明の効果を特に害さない限りにおいて、改変若しくは部分的な変更及び付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
従来においては、津波堆積土壌その他の高塩類濃度の災害土壌では、植生可能な土壌にする有効な方法が存在しなかった。しかし、本発明の方法により
植生可能な土壌にすることが経済的及び技術的にも可能になる。
図1