(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
既設構造物の解体は、解体作業に伴って発生する騒音や粉じん等の周囲への拡散を抑制するために、既設構造物の周囲を仮設養生により囲った状態で行う。
【0003】
ところが、都市部での高層建物等の解体作業は、建物全体を仮設養生で覆うことが困難であるとともに、仮設養生を設置するために必要なスペースを十分に確保することができない場合があった。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1に示すように、既設建物の最上階に仮設屋根を設けることで、この仮設屋根と建物自体の側壁とで囲まれた空間内で解体作業を行う構造物解体方法が開発されている。この構造物解体方法によれば、解体作業に伴う騒音や粉じんによる近隣への影響を防止することができる。
このような仮設屋根の屋根材は、ほとんど傾斜がない陸屋根か、中央が外縁よりも高い切妻屋根が一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仮設屋根の屋根材として、薄く軽量な材料を採用すれば、コスト削減を図ることができる。
ところが、屋根材として、薄く軽量な材料を採用すると、解体作業時の騒音や振動によって屋根材が振動してしまい、ひいては当該騒音等が周囲に伝搬するおそれがあった。
かかる問題は、構造物を新設する際の仮囲いにもあてはまる。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、構造物を解体あるいは構築する際の騒音が周囲に伝搬することを抑制することを可能とした仮設屋根構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の仮設屋根構造は、作業空間を囲む側壁部分と、前記作業空間の上方を覆う屋根部分とを備えるものであって、前記屋根部分の外縁部は前記側壁部分の上部に固定されており、前記屋根部分は中央部が前記外縁部よりも低くなるように
断面V字状に形成されていることを特徴としている
。
【0009】
かかる仮設屋根構造によれば、屋根部分の中央部が外縁部に比べて低く窪んでいるため、解体作業時に発生する騒音等が拡散することを抑制することができる。
すなわち、陸屋根や切妻屋根に比べて、周囲から見える屋根部分の面積が小さいため、騒音等が伝搬する範囲が小さい。
【0010】
前記屋根部分の内面に、吸音材が設置されていれば、外部への騒音等の伝搬を、より効果的に抑制することができる。
【0011】
前記屋根部分の前記中央部と前記外縁部との高低差が変化可能に構成されていれば、解体作業の進行によって既設建物が低くなっても、外部への騒音等の伝搬を抑えることができる。
すなわち、解体作業の進行に応じて屋根部分の高低差を大きくすれば、解体作業により既設建物が低くなっても、外部から見える屋根部分の面積が大きくなることを抑制し、ひいては、騒音等が周囲に伝搬することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の仮設屋根構造によれば、構造物を解体あるいは構築する際の騒音が周囲に伝搬することを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態では、既設建物Bを解体する場合に、本発明の仮設屋根構造1を使用する場合について説明する。
仮設屋根構造1は、
図1に示すように、側壁部分2と、屋根部分3とを備えている。
【0015】
側壁部分2は、既設建物Bの解体時の作業空間を囲むように形成されている。
本実施形態の側壁部分2は、上部が既設建物Bの上端よりも上方に突出するように、既設建物Bの外側面に設置されている。
【0016】
すなわち、側壁部分2は、既設建物Bの上方から、解体作業中の階層(以下、「解体階F
K」という)の下方の複数階を含むように、既設建物Bの外周囲上部を囲っている。
【0017】
本実施形態の側壁部分2は、仮設足場を壁状に組み合わせることで形成されており、外周囲は防音シートで覆われている。なお、側壁部分2を構成する材料は限定されない。
【0018】
側壁部分2は、解体階F
Kの上方に横架された大梁4に固定されている。
側壁部分2と大梁4との固定方法は限定されないが、本実施形態では、側壁部分2から延設された取付部材5により側壁部分2を大梁4に固定している。
【0019】
大梁4は、解体階F
Kから上方に延びる仮設柱6,6の上端に横架されている。
なお、大梁4には、既設建物Bの既存の梁部材を使用してもよいし、別途搬入した仮設部材を利用してもよい。
【0020】
仮設柱6は、解体階F
Kを含めて複数階(F
K−1〜F
K−3)わたって、既存の床スラブに固定されている。
仮設柱6は、各階の床スラブに形成された開口部を貫通しているとともに、各床スラブの上面に敷設された水平部材7に固定されている。
【0021】
また、仮設柱6は、ジャッキ8を備えており、上下方向に伸縮可能に形成されている。
仮設柱6が伸縮することで、大梁4が上下動するとともに、大梁4の上下動に追従して側壁部分2が上下動する。なお、仮設柱6の構成は限定されない。
【0022】
屋根部分3は、既設建物Bの解体時の作業空間(解体階F
K)の上方を覆っている。
屋根部分3の外縁部は、側壁部分2の上端に固定されている。なお、屋根部分3の固定位置は、側壁部分2の上部であれば限定されない。
【0023】
屋根部分3は、その中央部が外縁部よりも低くなるように、断面V字状に形成されている。
なお、屋根部分3は、下向きに凸の断面形状であれば、断面V字状に限定されるものない。例えば、
図2の(a)に示すように、下向きに凸の弧状に形成されていてもよい。また、屋根部分は、下辺が上辺よりも短い台形状断面であってもよい。
【0024】
屋根部分3は、解体する既設建物Bに隣接する他の建物側の外縁部よりも中央部が低くなるように形成されている。すなわち、既設建物Bの左右に他の建物が隣接している場合には、屋根部分3は切妻屋根を逆さにしたような形状にすればよい(
図2の(b)参照)。また、既設建物Bの四方に他の建物が隣接している場合には、屋根部分3は四角錐を逆さにしたような形状にすればよい(
図2の(c)参照)。
【0025】
本実施形態では、図示しない骨組に、防音シートを固定することにより屋根部分3を形成するが、屋根部分3を構成する材料は限定されない。例えば、鋼板等の板状部材を組み合わせることにより屋根部分3を形成してもよい。
【0026】
本実施形態の屋根部分3の内面(下面)には、図示しない吸音材を設置している。
吸音材を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、グラスウールや通気性を備えた膜を採用すればよい。
なお、吸音材は必要に応じて設置すればよい。
【0027】
本実施形態の屋根部分3は、大梁4の上面に立設された支保部材9により下面から支持されている。また、本実施形態では、屋根部分3の中央部(下端部)が、大梁4に当接している。
なお、支保部材9は、必要に応じて配設すればよい。また、屋根部分3の中央部は必ずしも大梁4に当接している必要はない。
【0028】
本実施形態の仮設屋根構造1は、側壁部分2と屋根部分3との角部に、作業空間の換気を行うための通気口10が形成されている。なお、通気口10の形状や配設ピッチ等は限定されない。
【0029】
本実施形態の仮設屋根構造1によれば、屋根部分3の中央部が外縁部(側壁部分2の上端)に比べて低く窪んでいるため、解体作業時に発生する騒音等が拡散することを抑制することができる。
【0030】
なお、仮設屋根構造1の外部への騒音伝搬の大きさは、受音箇所から見える屋根部分3の面積によって決定する。すなわち、受音箇所から見える屋根部分3の面積が大きいと、屋根部分3の振動により伝搬される騒音が大きい。
【0031】
本実施形態の仮設屋根構造1によれば(
図3の(a)参照)、従来の陸屋根の仮設屋根構造(
図3の(b)参照)に比べて、周囲の建物(受音箇所P)から見える屋根部分の面積が小さいため、騒音等の伝搬が小さい。
図3の(a)に示すように、本実施形態の仮設屋根構造1は、屋根部分3の一部分のみしか受音箇所Pから視認できないのにたいし、
図3の(b)に示すように、陸屋根により屋根部分101が形成された従来の仮設屋根構造100の場合は、受音箇所Pから屋根部分101の全体を視認することができる。
【0032】
仮設屋根構造1は、屋根部分3の側壁部分2に対する傾斜角αが小さいほど、周囲の建物への騒音伝搬の抑制効果が期待できる。例えば、
図4の(c)に示すように、傾斜角αが小さい場合(α=45°)には、従来の屋根部分(
図4の(d)参照)に比べて、騒音は横方向には広がらずに、上方に広がる傾向にある。したがって、屋根部分3の側壁部分2に対する傾斜角を小さくする(鋭角にする)ことで、特に解体階F
Kと同等の高さにおいて、近隣への騒音伝搬を抑制することができる。
【0033】
図4の(a)〜(c)に示すように、騒音分布は、屋根部分3の傾斜角αが大きくなるに従って横方向に広がり、屋根部分3の傾斜角αが小さくなるに従って上方に広がる傾向にある。ここで、図中の等高線上の数字は、解体作業に伴う騒音の最大値を0とした場合の相対A特性音圧レベル(相対騒音レベル)である。
なお、
図4の(d)に示すように、陸屋根の場合には、屋根部分3が傾斜している場合に比べて、騒音分布は略水平に広がる。
【0034】
また、屋根部分3の内面(下面)に吸音材が設置されているため、外部への騒音等の伝搬をより効果的に抑制することができる。
【0035】
屋根部分3の形状により、騒音の伝搬を抑えることを可能としているため、軽量な材料により屋根部分3を構築しても、近隣への騒音を抑制することができる。そのため、屋根部分の軽量化により、仮設柱6の小断面化や、ジャッキ8に求められる性能の低減化が可能となり、コスト削減を図ることができる。
【0036】
既設建物Bの解体は、作業空間を仮設屋根構造1により覆った状態で施工するため、解体作業に伴う騒音の伝搬を抑えるとともに、近隣に粉じん等が飛散することを防止することができる。
【0037】
また、仮設柱6を設けるための開口が各階(F
K−1〜F
K−3)に形成されているため、地上からの給気位置から、側壁部分2と屋根部分3との角部に設けられた通気口10までの距離が長く、上下温度差、内外温度差を大きく取ることができる。そのため、通気口10の開口面積が小さい場合であっても、十分な換気量(排気量)を確保することができる。ゆえに、通気口10から騒音や粉じんが外部に拡散することを抑制できる。
【0038】
仮設屋根構造1は、伸縮可能な仮設柱6により支持されているため、解体作業により低くなる既設建物B(作業空間)に伴って、側壁部分2および屋根部分3を下降させることができる。ゆえに、仮設屋根構造1に盛り替えに要する手間を低減することができる。
【0039】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0040】
例えば、前記実施形態では、既設建物の解体工事に仮設屋根構造を使用する場合について説明したが、仮設屋根構造は、新設構造物の構築時に使用してもよい。また、解体する構造物は建物に限定されない。
【0041】
また、屋根部分の中央部と外縁部との高低差(屋根部分の側壁部分に対する傾斜角)が変化可能に構成されていてもよい。
このようにすることで、解体作業の進行によって、既設建物(仮設屋根構造の位置)が低くなっても、外部への騒音の伝搬を抑制することができる。
すなわち、解体作業の進行に応じて屋根部分の高低差を大きくすることで、解体作業により既設建物が低くなっても、外部から見える屋根部分の面積が大きくなることを抑制し、ひいては、騒音等が周囲に伝搬することを抑制することができる。