(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る金属製多孔体について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る金属製多孔体10(10A〜10D)は、
図1〜
図4に示すように、重ね巻きされた金属線材2,2同士が接合されてなるチューブ状の多孔体巻線部1と、温度又は磁場等の外場で形状が変形する形状変形部材4とを有し、その形状変形部材4が多孔体巻線部1を変形させるように配置されている。
【0017】
この金属製多孔体10は、形状変形部材4が多孔体巻線部1を変形させるように配置されているので、この金属製多孔体10に温度又は磁場等の外場が与えられることにより、その形状変形部材4が変形して多孔体巻線部1を変形させることができる。その結果、多孔体巻線部1の目開き量を変化させることができる。例えば、形状変形部材4として形状記憶合金を用いた場合には、常温では所定の目開き状態であった金属製多孔体10を、加熱によって目開き状態を拡大又は縮小させ、さらに常温に戻すことにより当初の目開き状態に戻すことができる。拡大又は縮小は、例えばフィルター用途においては、金属製多孔体10を加熱することによって、目開き量の変化に基づくフィルター効果を変化させることができるという利点がある。金属製多孔体10は、目開き量が固定された従来のフィルターとは異なり、様々なフィルターとして利用可能である。
【0018】
以下、金属製多孔体10の構成要素を詳しく説明する。
【0019】
[多孔体巻線部]
多孔体巻線部1は、重ね巻きされた金属線材2,2同士が接合されてなるチューブ状の巻線部である。チューブ状の多孔体巻線部1は、長手方向の両端が開放されていてもよいし、長手方向の一端が開放され、他端が閉じていてもよい。
【0020】
(金属線材)
金属線材2の種類は特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼線、チタン線又はその合金線、ニッケル線又はその合金線等を用いることができる。ステンレス鋼線としては、例えば、JIS規格のSUS304線やSUS316L線等のオーステナイト系ステンレス鋼線を挙げることができる。ニッケル合金線としては、例えば、ニッケル基にモリブデンやクロムを加えた合金線(例えば、ハステロイ線(ハステロイは登録商標)等)や、ニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等を加えた合金線(例えば、インコネル線(インコネルは登録商標)等)を挙げることができる。こうした金属線材2は、耐熱性、耐薬品性及び耐食性を有している。
【0021】
金属線材2の形状は、丸線を圧延した平角線であることが好ましい。圧延前の丸線の直径は、例えば、0.05mm以上、0.2mm以下の範囲内であることが好ましい。丸線は、圧延加工されることによって押しつぶされ、幅方向に伸張され、幅方向に直交する厚さ方向に圧縮される。圧延された後の金属線材2の圧延率は、20%以上、70%以下の範囲内であることが好ましい。なお、「圧延率」とは、圧延加工する前の丸線の直径をd1とし、圧延加工されて圧縮された後の平角線の厚さ方向(圧縮された方向)の寸法をd2としたとき、次の(1)式で表される数値をいう。(圧延率)=[(d1−d2)/d1]×100・・(1)
【0022】
(多孔体巻線部の形態)
多孔体巻線部1は、
図4に示すように、金属線材2が一方向に傾斜し、軸の周りに所定のピッチで巻き付けられて形成された層11と、金属線材2が前記一方向とは逆向きの方向に傾斜し、軸の周りに所定のピッチで巻き付けられて形成された層12とが、順次に積層されているとともに、金属線材2,2同士が接合されている。なお、
図4は、金属製多孔体10を構成する金属線材2によって形成された層を2層分(符号11の層と符号12の層)だけ示している。なお、積層の数は、多孔体巻線部1の厚さに応じて500層〜3000層に設定される。例えば、後述の実施例の場合は、1000層〜1500層に設定されている。多孔体巻線部1は、焼結されることによって、金属線材2,2同士が接合されている。
【0023】
金属線材2の巻き角度θは、
図5に示すように、5°以上、90°未満の範囲内で多孔体巻線部1を形成することができる角度である。より具体的には、巻き角度は40°以上、80°以下の範囲内である。なお、「巻き角度」とは、
図5のθで表されている角度であり、一方向に傾斜された金属線材11と、この一方向とは逆向きの方向に傾斜された金属線材12とがなす角度を意味する。多孔体巻線部1の空隙率は、特に限定されないが、例えば、32%以上、62%以下の範囲内である。また、多孔体巻線部1の寸法としては、外径が1mm以上、15mm以下の範囲内に形成され、内径が0.5mm以上、14mm以下の範囲内に形成されていることが好ましい。
【0024】
多孔体巻線部1は、そのままでも、フィルター、センサーカバー、カテーテル、消音材、発泡、拡散材、ガイド等の用途に用いることができる部材である。なお、多孔体巻線部1は、長手方向の一端が開放され、他端が閉じているようにしてもよく、多孔体巻線部1の周面だけでなく、閉じた他端もフィルターとして機能する。また、円環状の多孔体巻線部1は、フィルター、消音材、発泡、拡散材、流動材等の用途に用いることができる。
【0025】
例えば、外径が1mm以上、15mm以下で、内径が0.5mm以上、14mm以下の多孔体巻線部1を、密度が7.75g/cm
3以上、8.06g/cm
3以下の範囲内のステンレス鋼を用いて形成した場合、上記のように空隙率を32%以上、62%以下の範囲内にすると、嵩密度が3.35g/cm
3以上、5.2g/cm
3以下の範囲内になる。そして、接合された金属線材2,2同士の剥離強度を、例えば0.95N以上、1.4N以下の範囲内にすると、特殊なジグを使用しなくても、多孔体巻線部1はキンクしないで変形する。すなわち、人の手で多孔体巻線部1に外力を加えて、多孔体巻線部1が延びる軸方向を湾曲させて所望の形状に変形させても、多孔体巻線部1はキンクしないで変形することができる。本発明に係る金属製多孔体10においては、特に、こうした性質(キンクしにくい)を持つ多孔体巻線部1を用いることが好ましい。ここでいう「キンク」とは、多孔体巻線部1に外力を加えたときに、多孔体巻線部1がつぶれてしまい、多孔体巻線部1から外力を除去してもつぶれてしまった多孔体巻線部1が元の状態に復元しない現象をいう。
【0026】
なお、「嵩密度」とは、[単位体積の質量=製品重量/製品体積]によって表すことができる、製品の重量を製品の体積で除した単位体積あたりの質量のことであり、「空隙率」とは、[(材料比重−製品密度)/材料比重]×100によって表すことができる製品の全容積に対する隙間の容積の割合のことであり、「剥離強度」とは、多孔体巻線部1から金属線材2を1本引き出し、引き出された1本の金属線材2を多孔体巻線部1から引っ張って、1本の金属線材2が接合された部分で多孔体巻線部1から剥離されるのに必要な力のことをいう。
【0027】
(多孔体巻線部の形成方法)
多孔体巻線部1の形成は、圧延された金属線材2を芯材(図示しない)に巻き付けるワインド工程と、芯材に巻き付けられた金属線材同士を焼結する焼結工程と、焼結された金属線材2を、芯材に巻き付けられた状態でスウェージングするスウェージング工程と、スウェージング工程が終了した後に、金属線材2が巻き付けられている芯材を抜き取る芯材抜き取り工程とを備えている。
【0028】
ワインド工程は、芯材に金属線材2を巻き付けて管状の部材を形成する工程である。ワインド工程は、金属線材2を芯材に巻き付ける際に一般的に使用されているワインダー(巻き付け装置)を用いて行われる。金属線材2は、圧延機で事前に圧延加工されたものを使用してワインダーで芯材の外周面に巻き付けられたり、ワインダーの内部で圧延しつつ芯材の外周面に巻き付けられたりする。金属線材2を芯材に巻き付けるとき、金属線材2は、芯材の軸に対して一方向に傾斜されて、芯材の軸方向に所定のピッチで芯材の一端側から他端側に向けて順次巻き付けられる。このように芯材に巻き付けられた金属線材2は、芯材の外周面で1つの層11を形成する。金属線材2は、こうして形成された1つの層11の外周にさらに巻き付けられて、別の層12が形成される。この際、金属線材2は、芯材の軸に対して上記した一方向とは逆方向に傾斜されて、芯材の軸方向に所定のピッチで芯材の他端側から一端側に向けて巻き付けられる。
【0029】
ワインド工程は、一方向に傾斜させて芯材の周りに所定のピッチで巻き付けて形成された層11と、一方向とは逆向きの方向に傾斜させて芯材の周りに所定のピッチで巻き付けて形成された層12とを順次に形成して金属線材2の層を積層して管状の部材を形成する工程である。
【0030】
焼結工程は、金属線材2からなる管状の部材を芯材ごと炉に入れて焼結し、金属線材同士を接合する工程である。炉は、真空炉であってもよいし、酸化を防ぐための還元ガスを含む炉であってもよい。焼結は、800℃以上、1300℃以下の温度で180分程度行われる。こうした焼結工程によって金属線材同士は、拡散接合される。なお、この焼結工程は、次のスウェージング工程の前後の2回に分けて行ってもよい。
【0031】
スウェージング工程は、金属線材2からなる管状の部材の外径を所望の寸法に整える冷間鍛造加工工程である。スウェージング工程は、例えば、分割された金型を回転させて、叩きながら管状の部材の外径を絞っていくことによって行われる。
【0032】
芯材抜き取り工程は、金属線材2からなる管状の部材から芯材を抜き出して、所望の内径と外径とを有する多孔体巻線部1を形成させる工程である。芯材が抜き出された管状の部材は、芯材の外径と一致する内径を有すると共に、積層された金属線材2の層の数に応じた外径を有する多孔体巻線部1となる。
【0033】
[形状変形部材]
形状変形部材4は、温度又は磁場等の外場で形状が変形する部材であり、多孔体巻線部1に形状変形部材4を変形させることができるように配置されている。形状変形部材4は、チューブ状の多孔体巻線部1の中に設けられていてもよいし、外に設けられていてもよい。この形状変形部材4が配置されて金属製多孔体10が構成される。なお、
図1に示す形状変形部材4は、その断面が円形であるが、円形以外の形状であってもよく、例えば平角形でも多角形でもよく、特に限定されない。
【0034】
(形態)
具体的には、
図1(A)に示す金属製多孔体10Aは、形状変形部材4が、多孔体巻線部1の中空内部に配置された例である。この金属製多孔体10Aでは、形状変形部材4は、多孔体巻線部1の内面に接合されていてもよいし、接合されずに挿入だけされていてもよい。形状変形部材4が多孔体巻線部1の内面に接合されている場合は、形状変形部材4の変形によって多孔体巻線部1も変形する。形状変形部材4が多孔体巻線部1の内面に接合されずに挿入されている場合も、形状変形部材4が曲がることによって多孔体巻線部1も曲がることができる。このときの接合は、形状変形部材4と多孔体巻線部1との焼結によって行ってもよいし、用途に悪影響がでないように選定された接合手段をとることが望ましい。接合手段としては、接着剤による接着、ロウ材によるろう接、又は、溶接、等を挙げることができる。
【0035】
図1(B)に示す金属製多孔体10Bは、形状変形部材4が、多孔体巻線部1の外側に配置された例である。この金属製多孔体10Bでは、形状変形部材4は、多孔体巻線部1の外面に、形状変形部材4の長手方向に沿って接合されている。この場合も、形状変形部材4が曲がることにより、多孔体巻線部1も曲がる。このときの接合も、上記同様の焼結や各種の接合手段を採用することが好ましい。
【0036】
図1(C)に示す金属製多孔体10Cは、形状変形部材4が、多孔体巻線部1の中空内部に配置された例である。この金属製多孔体10Cでは、形状変形部材4は、多孔体巻線部1の中空内部で螺旋状(スパイラル状)に設けられている。螺旋状の形状変形部材4は、多孔体巻線部1の内面に接合されていてもよいし、接合されずに挿入だけされていてもよい。螺旋状の形状変形部材4が多孔体巻線部1の内面に接合されている場合は、形状変形部材4の変形によって多孔体巻線部1も変形し、螺旋状の形状変形部材4が多孔体巻線部1の内面に接合されずに挿入されている場合も、形状変形部材4の変形によって多孔体巻線部1も変形することができる。
【0037】
この金属製多孔体10Cにおいて、螺旋状の形状変形部材4がバネのように伸縮する場合には、多孔体巻線部1は長手方向に伸縮して変形することができるし、螺旋状の形状変形部材4が曲がる場合には、多孔体巻線部1も曲がることができる。このときの接合も、上記同様の焼結や各種の接合手段を採用することが好ましい。
【0038】
図1(D)に示す金属製多孔体10Dは、形状変形部材4が、多孔体巻線部1の外側に配置された例である。この金属製多孔体10Dでは、形状変形部材4は、多孔体巻線部1の外面に螺旋状に沿わせて設けられている。螺旋状の形状変形部材4は、多孔体巻線部1の外面に接合されていてもよいし、接合されずに巻き付けられていてもよい。螺旋状の形状変形部材4が多孔体巻線部1の外面に接合されている場合は、形状変形部材4の変形によって多孔体巻線部1も変形し、螺旋状の形状変形部材4が多孔体巻線部1の外面に接合されずに巻き付けられている場合も、形状変形部材4の変形によって多孔体巻線部1も変形することができる。
【0039】
この金属製多孔体10Dにおいて、螺旋状の形状変形部材4がバネのように伸縮する場合には、多孔体巻線部1は長手方向に伸縮して変形することができるし、螺旋状の形状変形部材4が曲がる場合には、多孔体巻線部1も曲がることができる。このときの接合も、上記同様の焼結や各種の接合手段を採用することが好ましい。
【0040】
なお、
図2は、
図1(A)に示す金属製多孔体10Aの平面視写真であり、多孔体巻線部1の内部に棒状の形状記憶合金を形状変形部材4として挿入した後(
図2(A)参照)、その形状変形部材4に温度を加えて約90°に変形した状態(
図2(B)参照)を示したものである。また、
図3は、
図1(A)に示す金属製多孔体10Aの断面写真である。なお、符号50は、研磨時に、金属製多孔体10Aを沿わせた金属治具である。
【0041】
(構成材料)
形状変形部材4としては、温度や磁場等の外場によって形状を変化することができる形状記憶合金又は磁歪材料を好ましく挙げることができる。これらの材料は、周囲の環境温度、又は、外力(磁場)の変化をトリガーとして形状変化を発現する性質を有するので、この形状変形部材4と上記した多孔体巻線部1とで金属製多孔体10を構成することにより、広範な目開き量を実現できるフィルターチューブを提供することができる。
【0042】
具体的な材料は、形状記憶合金としては、ニッケルチタン、チタンニオブ、鉄パラジウム等の二元系
合金を好ましく挙げることができる。これらのうち、ニッケルチタン
合金が好ましい。形状記憶特性を有する磁歪材料としては、NiMnGa合金、CoNiGa合金等の強磁性形状記憶合金を挙げることができる。磁歪材料としては、Galfenol(登録商標、Fe−Ga合金)、Terfenol−D(登録商標、TbDyFe合金)等の超磁歪材料を挙げることができる。
【0043】
形状記憶特性は、JIS H7001:2009「形状記憶合金用語」で定義されており、ある形状の合金を低温相(マルテンサイト)の状態で異なる形状に変形させても、高温で安定な相(オーステナイト)になる温度に加熱するとマルテンサイト逆変態が起こることで、変形前の形状に戻る現象(形状記憶効果とも言う)を示すという特性である。形状記憶合金の場合は、二方向形状記憶効果を発現させることも可能であるので、低温時と高温時とで目開き量を制御することができる。形状記憶合金が一方向形状記憶効果を有している場合、適切なばね材料も併せて接合することにより、高温時は形状記憶合金が記憶した形状への変形を可能にし、低温時はばね材料の弾性力に起因した初期形状への回復を可能にするという制御を行うことができる(バイアス法という。)。このように、バネ材料等のような変形をアシストしたり、変形を抑えたりする部材を、形状変形部材4とともに併用することにより、両者の働きを利用した変形を実現でき、温度等に応じた目開き量を得ることができる。
【0044】
形状記憶合金が有する形状記憶効果は、ニッケルチタン
合金に限ら
ず熱弾性型マルテンサイト変態をする
合金に共通な現象であり、熱弾性型マルテンサイト変態を発現する
合金を構成する元素で構成されている。例えばニッケルチタン
合金であればニッケルとチタンであり、チタンニオブ
合金であればチタンとニオブであり、鉄パラジウム
合金であれば鉄とパラジウムであるが、その形状記憶特性を阻害しない範囲内でその他の元素が含まれていてもよい。その他の元素としては、銅、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の遷移元素、希土類元素、及び不可避不純物から選ばれる1又は2以上の元素が含まれていてもよい。
【0045】
磁歪材料の場合は、磁場の印加と除荷に応じて形状を変化させることができるので、磁歪材料からなる形状変形部材4を接合した多孔体巻線部1の目開き量も、その変形に応じて変化させることができる。
【0046】
強磁性形状記憶合金の場合は、温度及び磁場の両者によって形状を変化させることができるので、強磁性形状記憶合金からなる形状変形部材4を接合した多孔体巻線部1の目開き量も、それの変形に応じて変化させることができる。
【0047】
形状変形部材4は、
図1に示すように、多孔体巻線部1に直線状に沿わせ又は接合したり、螺旋状に沿わせ又は接合したりすることができる。形状変形部材4の形態は、丸線であってもよいし、圧延した平角線や異形線であってもよいし、帯状にした線材であってもよい。こうした形態は、多孔体巻線部1をどのような形状に変形させるか、形状回復時の回復力等によって任意に選択することができる。
【0048】
形状変形部材4の大きさは、形状変形部材4が変形して多孔体巻線部1の及ぼす力と、多孔体巻線部1の変形に要する力とのバランスによって設定される。その要因としては、形状変形部材4として形状記憶合金とするか、強磁歪材料とするか、強磁性形状記憶合金とするかによっても異なるので、それぞれの力の大きさによって、形状変形部材4の大きさを任意に設定する。
【0049】
形状変形部材4の多孔体巻線部1への接合は、焼結、溶接、ろう接、接着、カシメ等の方法で行うことができる。このときの接合の方法、接合点の数、接合点の間隔等は、変形、回復又は目開き量を考慮して、任意に設定することができる。
【0050】
(金属製多孔体の応用)
以上説明した金属製多孔体10は、形状変形部材4の性質に応じた外場を加除することにより形状が変化し、その変化によって多孔体巻線部1の形状を変化させることができる。その結果、外場を印加する前の形状と、外場を印加したときの形状とを変化させることができ、目開き量の程度を任意に変化させることができるという従来にない新しい効果を奏することができ、様々なフィルター等に使用することができる。また、金属線材同士2,2の接合部が接合されるので、全体形状を大きな乱れなく保持可能な金属製多孔体10を製造することができる。
【0051】
こうした金属製多孔体10は、種々の応用例に適用できる。例えば、(ア)多孔体巻線部1内を流れる流体(粉流体を含んでいてもよい。)に、他の粉粒体を多孔体巻線部1の外側から導入することができる。(イ)多孔体巻線部1内を流れる流体(粉流体を含む。)から、細かい粉粒体を多孔体巻線部1の外側に排出して分級することができる。(ウ)温度や磁場で変形するので、助燃性(支燃性)及び可燃性を有する物質の排出や取り込みを安全に行うことができる。なお、粉粒体としては、匂い粒子、菌、花粉等をはじめ、各種の粉流体を適用できる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
【0053】
[実施例1]
材質がJIS規格のSUS304(密度は7.93g/cm
3である。)、線径が0.06mmの丸線材を圧延加工して圧延率63%の金属線材2を用いて多孔体巻線部1を作製した。作製した多孔体巻線部1は、内径が1.6mm、外径が2.3mm、全長が34.9mm、重量が0.27gである。また、多孔体巻線部1は、嵩密度が2.61g/cm
3、空隙率が67.2%である。また、金属線材2の巻き角度は、47.4°である。多孔体巻線部1は、以下の工程で作製した。
【0054】
最初にワインダーの内部で丸線材を圧延加工し、圧延率が63%の金属線材2を形成した。次に、圧延加工された金属線材2をセラミックス製の芯材(図示しない)に巻き付けて芯材の外周面に管状の部材を形成した。具体的には、まず、金属線材2を芯材の軸に対して一方向に傾斜させ、芯材の周りに一定のピッチで芯材の軸方向の一方向に順次巻き付けて1つの層11を形成した。次に、この1つの層11の外周から金属線材2を芯材の軸に対して逆向きの方向に傾斜させ、芯材の周りに一定のピッチで芯材の軸方向の逆方向に巻き付けてさらに層12を形成した。こうした手順を300回繰り返して行い、金属線材2からなる複数の層を芯材の外周面に形成して管状の部材を芯材の外周面に作製した。
【0055】
次いで、熱処理を行った。熱処理は、管状の部材を芯材ごと真空炉に入れて、温度を1180℃にして180分行った。こうした熱処理を行うことによって、金属線材2同士を焼結した。その後、管状の部材の外径が所定の寸法に形成されるように、芯材の外周面に巻かれた管状の部材をスウェージングした。スウェージングを行った後、管状の部材を芯材ごと真空炉に入れてもう一度熱処理を行った。熱処理は、温度を1180℃にして180分行った。2回目の熱処理後、芯材を取り外して、
図2(A)に示すような長さ30mmの多孔体巻線部1を得た。
【0056】
形状変形部材4としては、直径0.5mmのニッケルチタンの形状記憶合金線を用いた。この形状記憶合金線を長さ40mmに切断し、多孔体巻線部1の中に差し込んで、エポキシ系接着剤にて多孔体巻線部1の内面に接合した。なお、この形状記憶合金線は、75℃の加熱によって形状記憶効果を発現し、
図2(B)に示すように、延びていた多孔体巻線部1を90°曲げるように作用した。その後、温度を75℃から20℃に下げることにより、もとの直線形態の多孔体巻線部1に戻った。
【0057】
[実施例2]
材質がJIS規格のSUS304(密度は7.93g/cm
3である。)、線径が0.08mmの丸線材を圧延加工して圧延率40%に形成された金属線材2を用いて多孔体巻線部1を作製した。作製した多孔体巻線部1は、内径が1.6mm、外径が2.3mm、全長が34.6mm、重量が0.2gである。また、多孔体巻線部1は、嵩密度が3.02g/cm
3、空隙率が62.2%である。また、金属線材2の巻き角度は、45.9°である。この多孔体巻線部1は、実施例1で作製した多孔体巻線部1と同様の工程を経て作製した。この多孔体巻線部1に対しても、実施例1と同じ形状変形部材4を用い、同様にして多孔体巻線部1を変形させることができた。
【0058】
[実施例3]
材質がJIS規格のSUS316L(密度は7.98g/cm
3である。)、線径が0.070mmの丸線材を圧延加工して圧延率40%に形成された金属線材2を用いて多孔体巻線部1を作製した。作製した多孔体巻線部1は、内径が1.6mm、外径が2.3mm、全長が35.1mm、重量が0.24gである。また、多孔体巻線部1は、嵩密度が3.58g/cm
3、空隙率が55.1%である。また、金属線材2の巻き角度は、47.5°である。この多孔体巻線部1も、実施例1で作製した多孔体巻線部1と同様の工程を経て作製した。
【0059】
形状変形部材4としては、直径0.5mmのニッケルチタンの形状記憶合金線を用いた。この形状記憶合金線に対して、らせん状に巻き回した形態で、高温時と低温時に異なる全長となる二方向形状記憶処理を施した。なお、実施例3の場合は、低温(20℃)時の形状は内径6mm、ピッチ1mm、全長30mmであったが、高温(75℃)時には、全長が45mmに延び、その全長の伸び量に応じて内径は低温時よりも減少し、ピッチは低温時よりも増加した。このように、二方向形状記憶処理を施した形状記憶合金線を、室温(20℃)にて、多孔体巻線部1の外面にエポキシ系接着剤にて接合した。なお、この形状記憶合金線は、75℃の加熱によって高温時の形状を発現し、多孔体巻線部1をその長手方向に伸ばすように作用した。その後、温度を75℃から20℃に下げることにより、元の位置にまで縮み、当初の大きさと形状の多孔体巻線部1に戻った。
【0060】
[実施例4]
材質がJIS規格のSUS316L(密度は7.98g/cm
3である。)、線径が0.06mmの丸線材を圧延加工して圧延率40%に形成された金属線材2を用いて多孔体巻線部1を作製した。作製した多孔体巻線部1は、内径が1.6mm、外径が2.3mm、全長が35.1mm、重量が0.23gである。また、多孔体巻線部1は、嵩密度が3.35g/cm
3、空隙率が58.0%である。また、金属線材2の巻き角度は、46.8°である。この多孔体巻線部1も、実施例1で作製した多孔体巻線部1と同様の工程を経て作製した。この多孔体巻線部1に対しては、実施例3と同じ形状変形部材4を用い、同様にして多孔体巻線部1を変形させることができた。
【0061】
なお、実施例1〜4の「嵩密度」は、上述した単位体積の質量=製品重量/製品体積によって表すことができる、製品の重量を製品の体積で除した単位体積あたりの質量のことであり、「空隙率」は、上述した[(材料比重−製品密度)/材料比重]×100によって表すことができる製品の全容積に対する隙間の容積の割合のことであり、「圧延率」は、上記の(1)式によって求められた数値をそれぞれ意味する。
【0062】
[変形評価]
実施例1〜4で作製した多孔体巻線部1は、キンクを起こさないで人の手で自在に変形させることができる多孔体巻線部1であった。多孔体巻線部1と形状変形部材4とを組み合わせて金属製多孔体10を構成することにより、温度を外場として印加することにより、形状変形部材4は変形し、その変形によって多孔体巻線部1を変形させることができた。
【0063】
[目開き量の評価]
目開き量の評価として、バブルポイント測定装置100を用いてバブルポイント測定を行い、その結果から評価した。バブルポイント測定は、ASTM−E−128−61に準拠する方法であり、
図6に示すように、水槽101に20℃のイソプロピルアルコール102を満たし、その中に金属製多孔体10を液面から110mmの位置まで沈めた。測定は、実施例1と実施例3の金属製多孔体10で行った。両端を封止材104,105で封止するとともに、片方の封止材104にパイプ103を通した。そのパイプに空気を送って内圧を徐々に上げていくと、多孔体巻線部1の最も大きい孔から気泡が発生するイニシャルポイントが得られ、さらに内圧を高めていくと、空気の流量が変化するバーストポイントと呼ばれる変曲点が得られる。この点が、フィルターの平均孔径として評価できる。結果を表1に示した。表1の結果より、変形前後での孔径が変化しているのを確認した。
【0064】
【表1】