(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整塔の天端を覆う屋根と、貯水槽と、前記調整塔から前記貯水槽に至る管状部材とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の立坑からの溢水量を低減する構造。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所では、海から海水を組み上げてこの汲み上げた海水を原子力プラントの冷却水として利用することが行われている。海水を汲み上げる取水構造については、例えば、特許文献1に記載されている。
図5は、従来の取水構造を示す概略図である。
【0003】
図5に示すように、従来の取水構造100は、原子炉建屋Pの近くに設置されている。取水構造100は、海(以下、「水源部」とも言う)101に連通するとともに地中に埋設される水路102と、水路102から立ち上がる第一立坑103と、同じく水路102から立ち上がる第二立坑104と、第一立坑103の上部に設置されたポンプ105とで主に構成されている。第一立坑103及び第二立坑104は、筒状を呈し、天端が地面Gに連通している。第一立坑103は、冷却水を組み上げるための取水槽として用いられている。一方、第二立坑104は、空気抜きやメンテナンス等のためのピットとして用いられている。当該取水構造100では、ポンプ105で第一立坑103内の海水を汲み上げることにより、冷却水を得ることができる。
【0004】
ここで、通常、水源部101の水面Waは第一水位H1付近に位置しているが、例えば、津波や高潮により、防波堤Tの第二水位H2付近まで上昇すると、水面Waの上昇に同調して、第一立坑103及び第二立坑104内の水面Waも上昇するため、第一立坑103及び第二立坑104の天端から海水が溢れ出て周辺設備の機能が喪失するとともに避難経路も消失するという問題がある。そこで、例えば、第一立坑103及び第二立坑104の天端に蓋を設置して、当該問題に対処することが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、津波が発生した場合には蓋に非常に大きな水圧が作用するため、当該水圧によって蓋やポンプ105が破損するという問題がある。
【0007】
一方、第一立坑103及び第二立坑104から溢れ出た海水によって周辺設備が浸水しないように、第一立坑103及び第二立坑104の周囲に海水を貯留可能な防水壁106(二点鎖線で描画)を構築する対策も一案であるが、防水壁106の貯水容量の設定が困難になるとともに防水壁106の施工コストが嵩むという問題がある。
【0008】
このような観点から、本発明は、津波等によって水源部の水位が上昇した際の溢水量を簡易な構造で低減することができる立坑からの溢水量を低減する構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決する本発明は、
津波又は高潮によって水位が変化する水源部に連通する水路と、前記水路から立ち上がる立坑と、
前記水源部と前記立坑の間に設けられた防波堤と、前記立坑の天端に設けられた蓋から立ち上がるとともに一端が前記立坑に連通し、他端が外部に連通する筒状の調整塔と、を有し、前記調整塔の天端は、
津波又は高潮が発生した場合に、前記防波堤に設定された前記水源部の想定最高水位よりも上に位置していることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、調整塔の天端が、水源部の想定最高水位よりも上に位置しているため、調整塔から水が溢れ難くなる。また、調整塔の高さを想定最高水位よりも上に設定するだけであるため、簡易な構成とすることができ、施工コストを低減することができる。
【0011】
また、前記調整塔内に、前記調整塔内を上昇する水の流速を低減させる抵抗部が形成されていることが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、調整塔からの溢水をより低減することができる。
【0013】
また、前記調整塔の天端を覆う屋根と、貯水槽と、前記調整塔から前記貯水槽に至る管状部材とを有することが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、調整塔から溢水が発生した場合でも、貯水槽に水が貯留されるため、周辺設備への悪影響を回避できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の立坑からの溢水量を低減する構造によれば、津波等によって水源部の水位が上昇した際の溢水量を簡易な構造で低減することができることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る立坑からの溢水量を低減する構造について、図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る立坑からの溢水量を低減する構造1は、原子力発電所の一部の設備として用いられる場合を例示する。立坑からの溢水量を低減する構造1は、原子力プラントの冷却水となる水を水源部である海Sから汲み上げる設備である。立坑からの溢水量を低減する構造1は、原子炉建屋Pの近くに設置される。なお、海岸には、防波堤Tが構築されている。
【0018】
立坑からの溢水量を低減する構造1は、第一溢水量低減構造1Aと、第二溢水量低減構造1Bとで主に構成されている。
【0019】
第一溢水量低減構造1Aは、水路2と、第一立坑3と、蓋4と、ポンプ5と、調整塔6とで構成されている。水路2は、地中に設けられた管路であって、一端が海Sに連通している。水路2は、例えば、鋼管又はコンクリート管で形成されている。
【0020】
第一立坑3は、水路2の他端側に連結される立坑である。第一立坑3は、海水を汲み上げるための取水槽として用いられる。第一立坑3は、水路2に対して立ち上がっている。第一立坑3は、その大部分が地中に設けられているが、天端周りは地面Gから露出している。第一立坑3は、例えば、鋼管又はコンクリート管で形成されている。
【0021】
蓋4は、第一立坑3の天端を水密に覆う板状部材である。
【0022】
ポンプ5は、第一立坑3内の水を汲み上げる装置である。ポンプ5は、モーター等を備えた駆動部12と、筒状の取水管13とで構成されている。取水管13の先端側は、第一立坑3内に存する海水に接している。ポンプ5の設置数、取水管13の口径等は、汲み上げる水量に応じて適宜設定すればよい。
【0023】
調整塔6は、津波や増水等が発生する異常時において、第一立坑3及び調整塔6内の水面Waの高さ位置を調整するための部位である。調整塔6は、蓋4から立ち上がる筒状部材で構成されている。調整塔6は、本実施形態では鋼管で形成しているが、他の部材(材料)を用いてもよい。調整塔6の下端は第一立坑3に連通しており、天端6aは開口している。
【0024】
本実施形態では、津波や高潮が発生した場合における想定最高水位を、防波堤Tの第二水位H2に設定している。調整塔6の天端6aの高さ位置H3は、津波等の異常時における想定最高水位(第二水位H2)よりも高くなるように設定されている。
【0025】
調整塔6の水平断面の面積は、第一立坑3の水平断面の面積よりも小さくなっている。なお、調整塔6の水平断面の形状は特に制限されるものではない。
図2に示すように、調整塔6の側壁部21には点検扉22が形成されている。点検扉22は、側壁部21に対して水密に設置されている。点検扉22を開くことで、調整塔6の内部の点検、補修等が可能になっている。
【0026】
また、
図3に示すように、調整塔6の内部には複数の抵抗部23が形成されている。抵抗部23は、板状部材で構成されている。抵抗部23は、側壁部21の対向する面において、所定の間隔をあけて交互に取り付けられている。抵抗部は、調整塔6内を上昇する海水の流速を低減させる構造であれば、どのような構成であってもよい。例えば、調整塔6の内部に複数のメッシュ部材を配設してもよい。
【0027】
第一溢水量低減構造1Aは、新設として施工する場合はもちろんのこと、既設の第一立坑3に対して施工することも可能である。既設の第一立坑3に対して施工する場合には、まずは、蓋4を第一立坑3に設置する。蓋4の周縁部は、第一立坑3に対して水密にする。そして、予め形成された蓋4の開口と調整塔6の中空部とが連通するように配置する。そして、蓋4と調整塔6とを溶接により接続する。なお、本実施形態では、蓋4と調整塔6とを溶接によって接続してもよいが、ブラケットやボルト等の締結具を用いて蓋4と調整塔6とを着脱自在に接続してもよい。締結具を介して接続する場合は、蓋4と調整塔6との間に、シール部材を介設することが好ましい。
【0028】
図1に示すように、第二溢水量低減構造1Bは、水路2と、蓋4と、第二立坑7と、調整塔6とで構成されている。第二溢水量低減構造1Bは、ポンプ5を備えていない点を除いては、第一溢水量低減構造1Aと共通するため、細かな部分の説明は省略する。
【0029】
水路2は、第一溢水量低減構造1Aと共用されている。第二立坑7は、水路2の中腹から立ち上がり、先端が地面Gに露出している。第二立坑7は、空気抜きやメンテナンス等のために用いられている。第二立坑7の天端には、蓋4が設置されている。蓋4は、第二立坑7に対して水密に設置される。
【0030】
調整塔6は、蓋4から立ち上がる筒状部材で構成されている。調整塔6の下端は第二立坑7に連通しており、天端6aは開口している。
【0031】
本実施形態では、津波や高潮が発生した場合における想定最高水位を、防波堤Tの第二水位H2に設定している。第二溢水量低減構造1Bに係る調整塔6の天端6aの高さ位置H3は、津波等の異常時における想定最高水位(第二水位H2)よりも高くなるように設定されている。
【0032】
次に、本実施形態に係る立坑からの溢水量を低減する構造1の作用効果について説明する。
図1に示すように、平常時においては、海Sの水面Waは第一水位H1付近に位置している。本実施形態に係る立坑からの溢水量を低減する構造1によれば、平常時においては、ポンプ5の駆動によって、第一立坑3内の海水を汲み上げることができる。
【0033】
一方、津波や高潮等が発生した異常時の場合、海Sの水面Waは第二水位H2付近まで上昇する。これに伴って、第一立坑3及び第二立坑7内の水面Waも上昇して、調整塔6の内部に海水が流入する。しかし、調整塔6の天端6aの高さ位置H3は、第二水位H2よりも十分に上方に位置するため、調整塔6から海水が溢れるのを無くすか、若しくは溢水量を低減することができる。
【0034】
また、本実施形態であれば、津波や高潮等が発生した後に改めて行う操作が無いため、確実に溢水を防ぐことができる。
【0035】
また、調整塔6の水平断面の面積は、第一立坑3及び第二立坑7の水平断面の面積よりも小さくてもよいため、既設の第一立坑3及び第二立坑7の蓋4にポンプ5や配管等が設置されている場合であっても、限られたスペース内での施工が可能となる。
【0036】
また、第一立坑3及び第二立坑7に調整塔6を設置する際には、蓋4に対して調整塔6を着脱自在にすることも可能である。これにより、第一立坑3、第二立坑7及び調整塔6の点検、補修が容易となる。
【0037】
また、本実施形態では調整塔6の内部に抵抗部23が形成されているため、調整塔6内を上昇する海水の流速を低減させることができる。これにより、調整塔6から海水が溢れるのを確実に無くすか、若しくは溢水量をより低減することができる。なお、抵抗部23は、必要に応じて設ければよい。
【0038】
また、本実施形態に係る調整塔6は、点検扉22が形成されているため、調整塔6の内部の点検や修理等を容易に行うことができる。
【0039】
<変形例>
図4は、本発明の変形例を示す概略斜視図である。変形例では、屋根24、貯水槽31及び管状部材32を有する点で、前記した実施形態と相違する。変形例では、前記した実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0040】
変形例に係る立坑からの溢水量を低減する構造41は、水路2と、第一立坑3と、蓋4と、ポンプ5と、調整塔6と、屋根24と、貯水槽31及び管状部材32とで構成されている。
【0041】
屋根24は、調整塔6の天端6aに設置されている。屋根24は、板状部材であって、調整塔6の天端6aの開口を水密に覆う。
【0042】
貯水槽31は、所定の量の海水を貯留するための水槽である。管状部材32は、例えば、チューブを用いており、一端側が屋根24に接続されており、他端が貯水槽31に接続されている。なお、本実施形態では、管状部材32の一端は屋根24に接続されているが、調整塔6の側壁部21に接続されていてもよい。
【0043】
調整塔6の水平断面の面積は、ポンプ5や配管等を配置する(若しくは、既設の場合はポンプ5や配管等が既に配置されている)ため第一立坑3の水平断面の面積よりも小さくなる。そのため、津波等が発生して調整塔6内に海水が進入した際に、調整塔6の水面Waが急上昇して、溢水するおそれがある。しかし、変形例のように、屋根24、貯水槽31及び管状部材32を備えることにより、仮に、水面Waが調整塔6の天端6aをも超えてしまう場合であっても溢水が貯水槽31に流入する。これにより、ポンプ5や他の設備への浸水を防ぐことができる。
【0044】
以上の本発明の実施形態について説明したが、本発明に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、海の海水を取水する場合を例示したが、水を取得する水源部については海に限定されるものではない。水源部は、例えば、河川、湖、池等であってもよい。河川、湖、池等では、津波や風雨、ダムの放流による増水等によって水位が変化する場合があるが、そのような場合でも本発明を適用することができる。
【0045】
また、本実施形態では、立坑からの溢水量を低減する構造1を原子力発電所の一部の設備として用いられる場合を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、他のプラント施設、工場施設や、上水施設、下水施設等における取水設備として用いてもよい。
【0046】
本実施形態では、立坑からの溢水量を低減する構造1は、第一溢水量低減構造1Aと第二溢水量低減構造1Bの両方を有しているが、いずれか一方のみを設置するだけでもよい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の立坑からの溢水量を低減する構造の実施例について説明する。
図6の(a)は一般的な取放水設備の概略斜視図を示し、(b)は立坑の上に調整塔を設けた場合を示す概略斜視図である。
図6の(a)に示すように、一般的な取放水設備は、水路2と、水路2に対して垂直に立設された立坑3とで構成されている。
【0048】
ここでは、水路2の断面積は、例えば、a=16.0m
2(縦4.0m×横4.0m)に設定され、立坑3の断面積は、例えば、A
0=16.0m
2(縦4.0m×横4.0m)に設定されている。一般的に、津波襲来時の立坑3内の水位上昇速度は、津波水位上昇速度w
0(0.05〜0.30m/S)と概ね同等である。
【0049】
図6の(b)に示すように、調整塔6は、既設の立坑3の上に設けられる。調整塔6の断面積は、例えば、A
1=4.0m
2(縦2.0m×横2.0m)に設定されている。立坑3の断面積に対する調整塔6の断面積の比率は、A
1/A
0=4.0/16.0=0.25となる。調整塔6内の水位上昇速度w
1は、断面積比の逆数と津波水位上昇速度w
0との積で表される。つまり、調整塔6(縦2.0m×横2.0m)の調整塔内水位上昇速度w
1は、w
1=1/(A
1/A
0)×w
0=4w
0となる。調整塔6内の水位上昇速度w
1は、津波水位上昇速度w
0の4倍の速度となる。
【0050】
津波が襲来した際に取放水設備でのピット(立坑3及び調整塔6)での水位変動を算出するため、非定常一次元管路流れモデルを適用した。これは、
図7に示すように、水路とピットの2要素を用いて取放水設備をモデル化し、水路内平均流速及びピット内水位の2変数を時間発展で求める方法である。なお、この方法では、水路は常に満管の条件が前提となる。
【0051】
非定常一次元管路流れモデルの基礎方程式を以下に示す。
連続式(式1)
【数1】
【0052】
運動方程式(式2)
【数2】
【0053】
ここで、z:ピット水位(地上GLからピット(立坑3及び調整塔6)内の水位)、t:時間、a:水路断面積、v:水路内流速、A:ピット断面積、c:水路の総損失係数、l:水路長、g:重力加速度、i:水路又はピットの位置をそれぞれ示す。なお、水路の総損失係数cは、形状損失係数と摩擦損失係数の和として以下のように表せる。
【0054】
水路の総損失係数c(式3)
【数3】
【0055】
ここで、Σζ:水路の形状損失係数、n:水路に対するマニングの粗度係数、R:水路の径深である。
【0056】
次に、計算条件について説明する。
図8の(a)は本実施例における計算条件を示す概略図であり、(b)は計算結果を示すグラフである。
図8の(a)に示すように、当該計算条件では、津波の大きさTをT=60s(Tは水位が増加し始めてから減少し、初期水位に戻るまでの時間)、津波の波高HをH=5.0mに設定した。また、地上GLから立坑3の天端までの高さを3.0mに設定した。
【0057】
また、初期水位から水路2までの深さを6.0mに設定した。また、水路2の水路長lをl=50.0m、水路断面積aをa=16.0m
2(縦4.0m×横4.0m)、立坑3の立坑断面積AをA=16.0m
2、調整塔6の調整塔断面積を4.0m
2(縦2.0m×横2.0m)に設定した。なお、当該計算においては、水路2の損失については無視した。
【0058】
上記計算条件において、上記式1及び式2に基づいて算出された経過時間ごとのピット内水位zの計算結果を
図8の(b)に示す。
図8の(b)に示すように、本実施例におけるピット内水位zの最高水位は6.45mとなった。地上GLから立坑3の天端までの高さは3.0mに設定しているため、本実施例の計算条件においては、調整塔6の高さを少なくとも3.45mよりも高く設定することで溢水量をなくすか、もしくは低減することができる。