特許第6397240号(P6397240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397240
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ダストシール
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/16 20060101AFI20180913BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B62D1/16
   F16J15/16 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-142053(P2014-142053)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2016-16802(P2016-16802A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦志
(72)【発明者】
【氏名】神前 剛
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−087718(JP,A)
【文献】 実開昭59−143870(JP,U)
【文献】 特開昭62−188861(JP,A)
【文献】 特開2006−248312(JP,A)
【文献】 実開昭57−147162(JP,U)
【文献】 特開2000−130606(JP,A)
【文献】 特開2009−058054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の軸孔部とこの軸孔部に挿通された軸との間に配置され、前記軸の外周面に密接する内径筒部と、この内径筒部の前記機器側となる軸方向一端から外径側に拡がる顎部とを有し、円周方向1か所以上の分割部で円周方向に分割されたゴム状弾性材料からなる第一のシールリングと、
前記第一のシールリングの内径筒部に重ね合わされる内径筒部と、この内径筒部の前記機器側となる軸方向一端から外径側に拡がる顎部と、この顎部から延びて先端部が前記第一のシールリングの顎部に密接する外側筒部とを有し、円周方向1か所以上の分割部で円周方向に分割されたゴム状弾性材料からなる第二のシールリングと、
前記第一のシールリングと前記第二のシールリングとの間の空間に包み込まれるように介在し、円周方向1か所以上の分割部で円周方向に分割されたゴム状弾性材料からなる第三のシールリングと、
前記第一のシールリングの顎部に形成され、前記軸孔部の外周側で前記機器側の面に摺動可能に密接するシール突条と、
前記第三のシールリングを収納した状態で前記第一のシールリングの内径筒部と前記第二のシールリングの内径筒部とを共締めし、前記シール突条を前記機器側の面に密接させて前記軸の外周面に固定する結束部材と
を備えることを特徴とするダストシール。
【請求項2】
前記第一のシールリングと前記第二のシールリングと前記第三のシールリングそれぞれの前記分割部は、互いに円周方向異なる位置にあることを特徴とする請求項1に記載のダストシール。
【請求項3】
前記第三のシールリングは、気泡又は金属粉を混在させたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のダストシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング装置等の軸周からの泥水やダストの浸入を防止する手段として用いられ、かつ遮音性を高めたダストシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置用ダストシールとして、従来、例えば下記の特許文献1に記載されたようなものが知られている。すなわち図3に示すように、ステアリングホイール(ハンドル)100に接続されたステアリングメインシャフト101と不図示のギアに接続されたギアシャフト102を、自在継手104,105を介してトルク伝達可能に連結するインターミディエイトシャフト103と、このインターミディエイトシャフト103が挿通されたフロントダッシュパネル106のコラムホール106aとの間にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるダストシール107を設け、このダストシール107によって、エンジンルームB側から車室A側への泥水やダストの浸入を防止している。
【0003】
また近年は、この種のダストシール107に、泥水やダストの浸入を防止するといった本来の機能に加えて、車室Aの静粛性を高めるためにロードノイズやエンジン音に対する遮音性が要求され、このような遮音シールとしては、例えば下記の特許文献2のようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1−87960号公報
【特許文献2】WO2005/068277
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら自動車の製造(組立)において、フロントダッシュパネル106のコラムホール106aへインターミディエイトシャフト103を挿通してステアリングメインシャフト101とギアシャフト102に連結する作業を、工程上の理由によってダストシール107の組み付けに先行して行う必要がある場合は、従来の技術では、インターミディエイトシャフト103の組み込み後にコラムホール106aにダストシール107を装着することは不可能であった。
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その目的は、軸の組み込み後でも装着可能で、かつ遮音性に優れたダストシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のダストシール、機器の軸孔部とこの軸孔部に挿通された軸との間に配置され、前記軸の外周面に密接する内径筒部と、この内径筒部の前記機器側となる軸方向一端から外径側に拡がる顎部とを有し、円周方向1か所以上の分割部で円周方向に分割されたゴム状弾性材料からなる第一のシールリングと、
前記第一のシールリングの内径筒部に重ね合わされる内径筒部と、この内径筒部の前記機器側となる軸方向一端から外径側に拡がる顎部と、この顎部から延びて先端部が前記第一のシールリングの顎部に密接する外側筒部とを有し、円周方向1か所以上の分割部で円周方向に分割されたゴム状弾性材料からなる第二のシールリングと、
前記第一のシールリングと前記第二のシールリングとの間の空間に包み込まれるように介在し、円周方向1か所以上の分割部で円周方向に分割されたゴム状弾性材料からなる第三のシールリングと、
前記第一のシールリングの顎部に形成され、前記軸孔部の外周側で前記機器側の面に摺動可能に密接するシール突条と、
前記第三のシールリングを収納した状態で前記第一のシールリングの内径筒部と前記第二のシールリングの内径筒部とを共締めし、前記シール突条を前記機器側の面に密接させて前記軸の外周面に固定する結束部材とを備える。
【0008】
上記構成のダストシールによれば、各シールリングが円周方向1か所以上で円周方向に分割されているため、各シールリングをその分割部を開くようにしながら軸の外周に配置した後で、これらのシールリングを互いに密接重合させて結束部材で環状に結束することによって、機器の軸孔部とこの軸孔部に挿通された軸との間に組み込むことができる。そしてこのダストシールは、複数のシールリングが密接重合した構造を有するため、遮音性の高いものとすることができる。
【0009】
また、本発明は上記目的を達成するため更に以下の手段を採用してもよい。
シールリングの分割部が互いに円周方向異なる位置にある。
【0010】
ールリングの分割部が、このシールリングに密接重合した他のシールリングによって閉塞されるので、各シールリングの分割部が不連続となってシール性を向上することができる。
【0011】
数のシールリングのうち少なくとも1つのシールリングが気泡又は金属粉を混在させたものである。
【0012】
泡を混在させたシールリングは音波を吸収して熱エネルギに変換することにより透過音を低減し、金属粉を混在させたシールリングは密度が高い(質量が大きい)ことによって音の反射率を高め、透過音を低減するため、遮音性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るダストシールによれば、各シールリングをその分割部を開くようにしながら軸の外周に配置して結束することができるので、軸の組み込み後でも装着可能で、しかも軸孔部と軸との間からの泥水やダストの浸入を防止するといったダストシール本来の機能に加えて、遮音性に優れた構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るダストシールの好ましい実施の形態を自動車のステアリング装置に組み込んだ状態を示す断面斜視図である。
図2】本発明に係るダストシールの好ましい実施の形態を分離した状態を示す斜視図である。
図3】自動車のステアリング装置に組み込んだ従来のダストシールを示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るダストシールの好ましい実施の形態について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0016】
まず図1において、参照符号106は自動車の車室AとエンジンルームBの間を仕切るフロントダッシュパネル、参照符号103はフロントダッシュパネル106のコラムホール106aに挿通されたステアリング装置のインターミディエイトシャフトである。なお、コラムホール106aは機器の軸孔部に相当し、インターミディエイトシャフト103は軸に相当するものである。
【0017】
インターミディエイトシャフト103の外周には本発明に係るダストシールが装着されていて、このダストシールは、第一のシールリング1と、第二のシールリング2と、この第一及び第二のシールリング1,2間に密接重合状態で介在された第三のシールリング3と、第一及び第二のシールリング1,2の後述する内径筒部11及び内径筒部21を結束してインターミディエイトシャフト103の外周面に固定する結束バンド4を備える。なお、第一のシールリング1、第二のシールリング2及び第三のシールリング3はシールリングに相当するものであり、結束バンド4は結束部材に相当するものである。
【0018】
詳しくは、第一のシールリング1はゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で成形されたものであって、インターミディエイトシャフト103の外周面に密接状態に外挿される内径筒部11と、この内径筒部11の軸方向一端から外径側へ円盤状に展開した鍔部12からなり、鍔部12における内径筒部11と反対側を向いた面に形成された環状の複数のシール突条12aがフロントダッシュパネル106におけるコラムホール106aの外周側かつ車室A側の面に密接されるものである。図2に示すように、この第一のシールリング1は、円周方向1か所に分割部13を有し、すなわち分割部13において円周方向へ分割されている。
【0019】
第二のシールリング2は、第一のシールリング1と同様のゴム状弾性材料で成形されたものであって、第一のシールリング1における内径筒部11の外周面に重合状態で外挿される内径筒部21と、この内径筒部21の軸方向一端から外径側へ円盤状に展開した鍔部22と、この鍔部22の外径部から内径筒部21と反対側へ向けて延び、先端が第一のシールリング1の鍔部12の外径部と密接衝合される外径筒部23からなるものである。図2に示すように、この第二のシールリング2は、円周方向1か所に分割部24を有し、すなわち分割部24において円周方向へ分割されている。
【0020】
第三のシールリング3は、気泡を混在させたゴム状弾性材料(スポンジ状の発泡弾性体)からなるものであって、軸心を通る平面で切断した断面形状が略長方形をなし、第一のシールリング1における内径筒部11の一部及び鍔部12と、第二のシールリング2における鍔部22及び外径筒部23との間に包み込まれるように密接重合状態で介在されるものである。図2に示すように、この第三のシールリング3は円周方向1か所に分割部31を有し、すなわち分割部31において円周方向へ分割されている。
【0021】
結束バンド4は金属又は合成樹脂からなるものであって、帯状のバンド本体及びその一端に設けられて他端を差し込んで固定する留め具を有する既知の構成のものであり、インターミディエイトシャフト103に外挿した第一のシールリング1の内径筒部11及びこれに外挿した第二のシールリング2の内径筒部21を、共締めして前記インターミディエイトシャフト103の外周面に固定するために、前記第二のシールリング2の内径筒部21に巻き付けて締め付け、前記留め具によって環状に結合するものである。
【0022】
以上のように構成されたダストシールは、第一のシールリング1、第二のシールリング2及び第三のシールリング3がそれぞれ円周方向1か所で円周方向に分割されているため、例えばフロントダッシュパネル106のコラムホール106aに挿通されたインターミディエイトシャフト103に装着するに際しては、まず各シールリング1〜3を、その分割部13,24,31を開くようにしながらインターミディエイトシャフト103の外周に抱き付かせるように配置する。このとき、第一のシールリング1の鍔部12に形成されたシール突条12aを、フロントダッシュパネル106におけるコラムホール106aの外周側かつ車室A側の面に密接させる。またこのとき、各シールリング1〜3の分割部13,24,31が円周方向に対して例えば90°程度、互いに異なる位置になるようにする。
【0023】
これらのシールリング1〜3は互いに密接重合状態とする。詳しくは第一のシールリング1の内径筒部11の外周面及び鍔部12に第三のシールリング3の内周面3a及び一端面3bをそれぞれ密接重合させ、第三のシールリング3の外周面3c及び他端面3dに第二のシールリング2の外径筒部23の内周面及び鍔部22の内側面をそれぞれ密接重合させ、第一のシールリング1の内径筒部11の外周に第二のシールリング2の内径筒部21を密接重合させる。そしてこの状態で、第二のシールリング2の内径筒部21に結束バンド4を巻き付けて結束することによって、装着が完了する。
【0024】
上記構成のダストシールは、フロントダッシュパネル106のコラムホール106aとこれに挿通されたインターミディエイトシャフト103との間を塞ぐように配置され、インターミディエイトシャフト103に締め付け固定されると共に、シール突条12aがフロントダッシュパネル106における車室A側の面に摺動可能に密接することによって、エンジンルームB側から車室A側への泥水やダストの浸入を防止するものである。そして各シールリング1〜3の分割部13,24,31が互いに円周方向異なる位置にあるため、分割部13,24,31同士が軸方向に互いに不連続となり、すなわち軸方向に貫通する隙間による漏れ経路が形成されず、第一のシールリング1の分割部13のうち、内径筒部11に形成された分割部13aは、この内径筒部11が結束バンド4からの緊結力によりインターミディエイトシャフト103の外周面に締め付けられることで塞がれるので軸方向に貫通する隙間がなくなる。このため、泥水やダストに対する所要の密封性能が確保される。
【0025】
また、このダストシールは、第一〜第三のシールリング1〜3を密接重合した構造とすることによって十分な厚みを有することに加え、第一のシールリング1及び第二のシールリング2がゴム状弾性材料からなり、その間の第三のシールリング3がスポンジ状の発泡弾性体からなることによって優れた吸音性を有するため、コラムホール106aをエンジンルームB側から車室A側へ透過しようとする音波のエネルギを十分に吸収・減衰することができ、遮音性の高いものとすることができる。
【0026】
そして上記構成のダストシールによれば、自動車の製造(組立)において、フロントダッシュパネル106のコラムホール106aへインターミディエイトシャフト103を挿通して図3に示すステアリングメインシャフト101やギアシャフト102に連結して組み込んだ後でも、各シールリング1〜3をその分割部13,24,31を開くようにしながらインターミディエイトシャフト103の外周に配置して結束バンド4で締め付け結束することによって装着可能となる。
【0027】
また、上述の説明では、第三のシールリング3がスポンジ状の発泡弾性体からなるものとしたが、ゴム状弾性材料に磁性粉などの金属粉を混在させたものであっても良い。金属粉を混在させたシールリング3は密度が高い(質量が大きい)ことによって音の反射率が高まり、これによって透過音を低減し、遮音性を高めることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 第一のシールリング(シールリング)
12a シール突条
13 分割部
2 第二のシールリング(シールリング)
24 分割部
3 第三のシールリング(シールリング)
31 分割部
4 結束バンド(結束部材)
103 インターミディエイトシャフト(軸)
106 フロントダッシュパネル
106a コラムホール(軸孔部)
図1
図2
図3