(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定位置に配置されたプローブで受信した超音波の反射波に基づいて断層画像を作成可能なフェイズドアレイ超音波探傷装置を用いた耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法において、
前記プローブを第1速度で前記溶接部の延在方向に沿って走査しながら前記断層画像をリアルタイム表示することにより、前記断層画像に基づいて前記溶接部に含まれる熱影響部の損傷状態を評価する高速PA測定工程と、
前記高速PA測定の評価結果に基づいて、前記溶接部から検査対象領域を決定する検査対象領域決定工程と、
前記プローブを前記検査対象領域に含まれる各測定点を順次移動することにより前記第1速度より遅い第2速度で前記検査対象領域を走査しながら、前記プローブを前記各測定点で固定して取得した前記断層画像を記録する詳細PA測定工程と、
前記記録された断層画像に基づいて、前記溶接部の余寿命を求める解析工程と
を備えることを特徴とする耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法。
前記プローブを前記耐熱部材の前記溶接部から離れた第1の表面に配置しながら、前記溶接部からの反射波を前記耐熱部材の第2の表面で全反射させて受信した超音波信号に基づいて、前記溶接部の前記第1の表面近傍における損傷状態を測定する斜角UT測定工程を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クリープ損傷は、まず配管内部に微小な損傷として発生するが、一度発生すると、その後、速い進展速度で周囲に広がる。そのため、クリープ損傷は、微小な損傷である段階で検出することが好ましい。この観点によれば、複数の探触子を配列して送信のタイミングを変化させることで超音波を任意の位置にフォーカス可能なPA法が、配管内部に発生する微小な損傷検出に適していると考えられる。
【0007】
ところで、ボイラや蒸気タービンのような蒸気設備に使用される配管は、長距離に亘って多数の溶接部を有する。また、湾曲された板材を溶接して製作される溶接製鋼管は、長手方向に沿って溶接部が延在している(例えば数10−数100m)。このような溶接部は、応力解析においても応力分布が一定であるため、クリープ損傷がどの位置から発生するのかが不明である。そのため、全長検査を実施する必要がある。しかしながら、PA法は測定時間が比較的かかるため、このような溶接部に対して、従来のPA法をそのまま適用すると、検査に膨大な時間とコストがかかってしまうという問題点がある。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、溶接部に生じるクリープ損傷を効率的且つ高精度に評価することが可能な耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態に係る耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法は、測定位置に配置されたプローブで受信した超音波の反射波に基づいて断層画像を作成可能なフェイズドアレイ超音波探傷装置を用いた耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法において、前記プローブを第1速度で前記溶接部の延在方向に沿って走査しながら
前記断層画像をリアルタイム表示することにより、前記断層画像に基づいて前記溶接部に含まれる熱影響部の損傷状態を評価する高速PA測定工程と、前記高速PA測定の評価結果に基づいて、前記溶接部から検査対象領域を決定する検査対象領域決定工程と、前記プローブを
前記検査対象領域に含まれる各測定点を順次移動することにより前記第1速度より遅い第2速度で前記検査対象領域を走査しながら、
前記プローブを前記各測定点で固定して取得した前記断層画像を記録する詳細PA測定工程と、前記記録された断層画像に基づいて、前記溶接部の余寿命を求める解析工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
本実施形態によれば、高速PA測定によって溶接部全体に亘って簡易的に損傷状態を把握し、その測定結果に応じて、損傷状態が比較的大きな領域を検査対象領域として決定する。そして当該検査対象領域のみについて詳細PA測定を行うことで、効率的且つ高精度に損傷状態を評価し、余寿命を検査することができる。特に、溶接部が長距離に亘る場合であっても、詳細PA測定を行う範囲を、高速PA測定によって損傷が存在する可能性が高い領域を検査対象領域として決定しておくことで、検査に要する期間・コストを効果的に短縮しながら、精度のよい評価が可能となる。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記高速PA測定工程では、前記損傷状態を前記プローブの測定位置と関連付けて記録すると共に、前記反射波のエコーレベルに対応して予め規定されたクラスに分類し、前記検査対象領域決定工程では、閾値以上の前記エコーレベルに対応する前記クラスに含まれる前記測定位置を検査対象領域として決定する。
【0012】
この実施形態によれば、高速PA測定によって溶接部を各クラスに分類することで、損傷の存在する可能性が高い領域を効率的に選定することができる。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記溶接部の表面の損傷状態を、磁粉探傷法を用いて評価する磁粉探傷工程を備え、前記磁粉探傷工程で得られた損傷状態と前記解析工程で得られた解析結果とに基づいて、前記耐熱部材のメンテナンス計画を作成する。
【0014】
この実施形態によれば、PA法では評価困難である溶接部表面の損傷状態を磁粉探傷法によって補完できる。これにより、溶接部について漏れの少ない損傷評価が可能となり、より高品質な検査を提供できる。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記プローブを前記耐熱部材の前記溶接部から離れた第1の表面に配置しながら、前記溶接部からの反射波を前記耐熱部材の第2の表面で全反射させて受信した超音波信号に基づいて、前記溶接部の前記第1の表面近傍における損傷状態を測定する斜角UT測定工程を更に備える。
【0016】
この実施形態によれば、斜角UT測定によって、PA法や磁粉探傷法では測定困難である溶接部の表面近傍(深さ数mmの範囲)について損傷評価を行うことができる。これにより、溶接部について漏れの少ない損傷評価が可能となり、より高品質な検査を提供できる。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記耐熱部材は円筒状の配管であり、前記溶接部は前記配管の軸方向に沿って延在する。
【0018】
この実施形態によれば、溶接部が長距離に亘って存在する場合であっても、上述の方法に要する期間・コストを効果的に短縮しながら、精度のよい評価が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、溶接部に生じるクリープ損傷を効率的且つ高精度に評価することが可能な耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0022】
図1は、本発明の少なくとも一実施形態に係る余寿命検査方法の検査対象である耐熱部材1の全体構造を示す図である。
図2は
図1に示す耐熱部材1の一部である配管10の側面図及び断面図である。
図3は配管10の溶接部12を拡大して示す模式図である。
【0023】
配管10は大型プラント設備において使用される蒸気配管である。配管10は長手方向の長さが数10−数100mに及ぶため、十分な強度を有するように、湾曲された2枚の板状部材10a及び10bの両端が溶接されることによって製造されている。すなわち、配管10を構成する板状部材10a及び10bの間には、長手方向に沿って延在する溶接部12a及び12bが形成されている。
【0024】
配管10は長期間に亘って高温条件下で使用されるため、耐熱鋼材料から形成されている。具体的には、クロムを9〜12質量%程度含有する高クロム鋼や、高クロム鋼と類似組織を有しクロムを2〜3質量%程度含有する高強度低合金鋼から形成されている。
【0025】
図3に示すように、溶接部12は、板状部材10a及び10b間に位置しており、溶金14と、該溶金14の両側の熱影響部16とを含む。熱影響部16には、長期間に亘る高温での使用によってクリープボイドが発生する。クリープボイドは長時間の使用によってその数が増加し、隣接するクリープボイド同士が繋がってクラックとなる。そして、クラックは徐々に成長し、最終的には溶接部12を厚さ方向に貫通して、内部流体のリークが発生する。このため、ボイラ等の運用においては、配管10の溶接部12の余寿命検査を適確に行う必要がある。
【0026】
本発明の少なくとも一実施形態では、このようなクリープ損傷を検査するためにフェイズドアレイ(PA)法を用いた探傷装置20を使用する。ここで
図4は探傷装置20の使用状態を模式的に示す図である。
【0027】
探傷装置20は、探傷装置本体22と、探傷装置本体22と電気的に接続されたプローブ24とを有する。
探傷装置本体22は、例えばコンピュータによって構成されており、プローブ24からの超音波の送受信制御や、受信信号の解析処理を行い、解析結果を断層画像としてディスプレイなどの表示装置(不図示)に表示可能に構成されている。
【0028】
プローブ24は、一列に配列された複数の振動素子26からなるアレイ素子28を有する。各振動素子26は圧電素子からなり、電気信号が加えられることによって振動して超音波を出射し、超音波が入射したときに超音波の振幅に対応する電気信号を出力するように構成されている。超音波の出射角度は、圧電素子に加える電気信号の位相を調整することによって制御可能に構成されている。
【0029】
プローブ24は、配管10の外表面(第1表面)11の測定位置に配置され、探傷装置本体22は、プローブ24を用いて、超音波の反射波を検知する。そして、探傷装置本体22はプローブ24の検知信号に基づいて、測定位置座標に対応付けられた断層画像を作成する。
【0030】
図5は、本発明の少なくとも一実施形態に係る配管10の溶接部12の余寿命検査方法を概略的に示すメインフローチャートである。メインフローチャートは高速PA測定工程S10と、検査対象領域決定工程S12と、詳細PA測定工程S14と、解析工程S16とを備えており、これら各工程は
図6乃至
図9に示すサブルーチンを有している。
【0031】
高速PA測定工程S10では、通常に比べて測定感度を高く設定すると共に、プローブ24を溶接部12に沿って手動走査しながら、プローブ24の位置に対応する溶接部12の断層画像をリアルタイム表示する。オペレータは当該断層画像を参照することにより溶接部12の損傷状態を確認しながらプローブ24を走査する。確認した損傷状態は、プローブ24の測定位置と関連付けて、後に利用可能に記録される。
このように高速PA測定工程S10では、プローブ24を走査しながら溶接部12の全体に亘って高い測定感度で損傷状態を簡易的に測定する。これにより、溶接部が広範囲に亘る場合であっても、比較的短時間・低コストで損傷状態について信頼性のあるデータを取得することができる。
【0032】
検査対象領域決定工程S12では、S10の測定結果に基づいて、更に詳細な検査を要する検査対象領域を決定する。当該工程では、高速PA測定工程S10の結果、内部に損傷が存在する可能性がある領域を検査対象領域として決定する。このように高速PA測定の結果に基づいて検査対象領域を決定することで、検査を行うべき領域を効率的に選択することができる。
【0033】
詳細PA測定工程S14では、検査対象領域について詳細PA測定を実施する。詳細PA測定では、上記工程で決定された検査対象領域について、高速PA測定工程S10に比べてPA法による詳細な損傷状態の測定が実施される。具体的には後述するが、プローブ24の位置を検査対象領域内で順次移動させながら(つまり各測定点でプローブ24を固定した状態で、PA測定完了毎に順次移動させながら)、PA測定を実施する。このように詳細PA測定工程では、高速PA測定工程に比べて遅い走査速度、且つ、短い測定ピッチで評価が行われるため、より高精度で鮮明なPA法による評価がなされる。
【0034】
解析工程S16では、上記S10−S14で取得した各種データに基づいて、溶接部12を解析することにより、余寿命を評価する。余寿命の評価は、例えば損傷状態と余寿命に関係する余寿命パラメータPrとの対応関係を予め規定しておき、当該関係に実測データを当てはめ、余寿命パラメータPrを求めることにより行われる。
なお、余寿命とは、現時点から溶接部16がクリープ損傷により破断するまでの時間であるが、余寿命パラメータPrは、溶接部16の余寿命に関係する値を表すものであればよく、全寿命に対し現時点までに経過した時間の割合を示す寿命消費率であってもよい。
【0035】
図6を参照して、高速PA測定工程S10のサブルーチンを詳細に説明する。
まず探傷装置20を高速PA測定に適した測定条件に設定する(ステップS20)。ここでは、一般的なPA測定に比べて測定感度が約10−20dB高く、且つ、プローブ24を手動走査可能なように測定条件が設定される。このような測定条件に設定することにより、プローブ24を手動走査した場合に、損傷状態を簡易的に把握可能な程度に波形情報を得ることができる。
【0036】
続いて、オペレータは溶接部12の延在方向に沿ってプローブ24を手動走査しながら(ステップS21)、表示される断層画像を評価する(ステップS22)。前述したように、溶接部12は配管10の長手方向に沿って長距離に亘って延在している。オペレータは溶接部12に沿ってプローブ24を走査し、本体22にリアルタイム表示される断層画像に基づいて内部の損傷状態を評価する。損傷は断層画像中に点状や線状に表示されるが、着色によって区別が容易にしてもよい。
【0037】
溶接部12のうち熱影響部16における損傷の有無が、余寿命に影響が大きい。そのため、S22においてオペレータは熱影響部16における損傷の有無に着目して評価することで、より精度のよい損傷評価を行うとよい。
【0038】
ある実施形態では、S22における損傷評価を、予め設定された評価基準に照合してクラス分けして行ってもよい。ここで
図10は、S22で用いられる評価基準の一例を示す表である。
この評価基準は、損傷状態に応じて、シンボル"A"、"B"、"C"及び"D"で示される4段階から構成される。シンボル"A"はエコーレベルが25%未満であり、波形に有意な指示が見られない場合に対応する。シンボル"B"はエコーレベルが25%以上&50%未満であり、波形に周囲と識別可能なエコーがある場合に対応する。シンボル"C"はエコーレベルが50%以上であり、波形に周囲と識別可能な高いエコーがある場合に対応する。シンボル"D"はエコーレベルが50%以上であり、波形に高いエコーが連続的に分布している場合に対応する。
【0039】
尚、当該評価基準では、エコーレベルが50%以上である場合を、波形に基づいてシンボル"C"及び"D"に分類している。これらは、波形から推定される損傷状態が点状であるか連続状(例えば線状、面状)であるかが異なっている。波形が連続状である場合には、点状である場合に比べて損傷が進行していることを示すため、これらを区別している。
【0040】
図11は、高速PA測定によって得られる断層画像のうち
図10に示す各クラスに対応する測定データの一例を示す図である。
図11(a)はクラスAに該当する断層画像の一例であり、全体に亘って損傷が存在しておらず、きれいな状態が示されている。
図11(b)はクラスBに該当する断層画像の一例であり、矢印で示すように損傷の痕跡が小さい点として確認されている。
図11(c)はクラスCに該当する断層画像の一例であり、矢印で示すように
図11(b)に比べて大きな天井の損傷が熱影響部16に存在している。
図11(d)はクラスDに該当する断層画像の一例であり、矢印で示すように線状の損傷が熱影響部16にが存在しており、
図11(c)に比べて損傷が進行していることを意味している。
【0041】
ここで
図12は、一般的なPA測定におけるエコーレベルに基づく損傷状態の判定基準の一例を示す表である。一般的なPA測定では測定感度が比較的低いため、エコーレベル25%が損傷有無の判定閾値として用いられていた。本実施形態の高速PA測定では、一般的なPA測定に比べて測定感度を約10−20dB高く設定することによって、
図10のシンボル"B"で示すように、一般的なPA測定では識別困難なエコーレベル25−50%の領域でも判定に使用可能となっている。
【0042】
このように評価基準に基づく判定がなされると、オペレータは当該評価結果をプローブ24の測定位置と関連付けて記録する(ステップS23)。これにより、長距離に亘って延在する溶接部の各領域が上記評価基準のどのクラスに分類されるかが記録される。つまり、長い溶接部のどの領域に損傷がある可能性があるのかについて、おおよその見当をつけることができる。
【0043】
続いて、オペレータは高速PA測定が対象範囲(溶接部12全体)について完了したか否かを判定する(ステップS24)。測定が完了している場合(ステップS24:YES)、当該サブルーチンを終了してメインフローチャート(
図5)に処理を戻す(リターン)。一方、測定が完了していない場合(ステップS24:NO)、処理をS21に戻して高速PA測定を継続する。
【0044】
図7を参照して、検査対象領域決定工程S12のサブルーチンを詳細に説明する。
S10の高速PA測定結果を取得し(ステップS30)、当該結果から評価レベルがシンボル"C"及び"D"である領域を検査対象領域として決定する(ステップS31)。これらの領域は、エコーレベルが50%以上と高いため、損傷が存在する可能性が高いため、詳細な検査を行う必要性が高いからである。
尚、後述する詳細PA測定工程にかける時間を更に確保可能である場合には、シンボル"B"についても検査対象領域に含めてもよい。
このように検査対象領域決定工程S12では、高速PA測定の結果に基づいて詳細検査を行う領域を、検査漏れリスクを抑えながら効率的に選定することができる。
【0045】
図8を参照して、詳細PA測定工程S16のサブルーチンを詳細に説明する。
まず探傷装置20を詳細PA測定に対応する測定条件に設定する(ステップS40)。ここでは、高速PA測定工程と同様に、一般的なPA測定に比べて測定感度が約10−20dB高く設定する一方で、プローブ24を自動走査するように測定条件が設定される。自動走査は、検査対象領域決定工程で決定された領域について詳細PA測定がなされるように設定される。
【0046】
続いて、ステップS40で設定された測定条件に従ってプローブ24の自動走査が開始され(ステップS41)、各位置においてPA測定が実施される(ステップS42)。具体的には、検査対象領域内において、まず第1位置にプローブ24を固定してPA測定を行った後、同じく検査対象領域に含まれる第2位置に移動してプローブ24を固定してPA測定を行う。このように検査対象領域内の各位置において、プローブ24が固定された状態でPA測定を行い、所定ピッチ間隔で順次移動するように自動走査が実施される(ピッチ間隔は、高速PA測定時のピッチ間隔に比べて十分に小さく設定されることが好ましい。例えば、ピッチ間隔は0.5mmである)。
【0047】
ここで
図13はプローブ24の自動操作を実現するための構成例を示す模式図である。上記自動走査は、プローブ24が先端に取り付けられた走査体26が溶接部12に沿って設けられたガイド28に取り付けられ、当該ガイド28に沿って自動的に移動されながらPA測定が行われるように制御されることで実現するとよい。
【0048】
このような自動走査とPA測定は、検査対象領域の全体について完了されるまで継続され(ステップS43)、その後、処理はメインフロー(
図5)に戻される。
【0049】
各ポイントにおける詳細PA測定は、高速PA測定に比べて時間を要するものではある。しかしながら、上述したように予め高速PA測定結果に基づいて決定された検査対象領域についてのみ詳細PA測定を実施することにより、溶接部12の全領域について詳細PA測定を行う場合に比べて、大幅に所要期間・コストを削減することができる。
【0050】
図9を参照して、サブルーチンである解析工程S18について詳細に説明する。
解析工程18では、予めクリープボイド個数密度と余寿命パラメータPr(例えば寿命消費率)との相関を示す特性曲線を用意しておく(ステップS50)。
図14はクリープボイド個数密度と余寿命パラメータPrとの相関を示す特性曲線の一例を示すグラフである。
尚、特性曲線は、解析工程S18を実行する探傷装置本体20に内蔵又は外付けされた記憶媒体に予め記憶されている。
【0051】
ここで特性曲線の求め方について簡潔に説明する。
特性曲線は、予めクリープボイド個数密度及び余寿命パラメータPrが判明している複数の標準試料に基づいて規定される。これら標準試料は、検査対象となる配管10と同一又は類似の溶接部12を要するサンプルを高温クリープ試験に供し、当該高温クリープ試験を何回かに分けて中断し、その都度幾つかの標準試料32を抜き取ることにより用意される。これにより、異なるクリープボイド個数密度及び余寿命パラメータPrの組合せを有する複数の標準試料32が作成される。
【0052】
そして、このように用意された複数の標準試料について、クリープボイド個数密度及び余寿命パラメータPrの測定を実施することにより、
図14に示されるような特性曲線が得られる。
なお例えば、前記抜き取りは、破断時間の20%、40%、60%、及び、80%に相当する時間で行われる。
【0053】
続いて、詳細PA測定工程で取得したデータ類に基づいて、詳細な断層画像を作成し(ステップS51)、当該断層画像を分析することにより、クリープボイド個数密度を評価する(ステップS52)。そして、当該評価したクリープボイド個数密度の実測値を、S50で用意した特性曲線に当てはめることによって、対応する余寿命パラメータPrが求められる(ステップS53)。
【0054】
以上説明したように、本発明に係る幾つかの実施形態では、高速PA測定によって損傷可能性の高い箇所を検査対象領域として選定すると共に、当該選定された領域について詳細PA測定を実施することで、余寿命評価を行うことができる。これにより、溶接部が広範囲に及ぶ場合であっても、短期間且つ低コストで精度のよい評価を実施することができる。
【0055】
(MT法を組み合わせた応用例)
上述した余寿命評価方法では、2種類のPA測定(高速PA測定及び詳細PA測定)を組み合わせることによって、溶接部12の内部における損傷評価を行った。このようにPA法を用いた測定は高精度で配管10の内部を探傷する手法として非常に有効であるが、表面近傍(例えば表面から数mm)の範囲は不感帯となるため、探傷ができない。
【0056】
そこで、本発明の一実施形態では、更にMT(磁粉探傷)法による評価を組み合わせることによって、より精度のよい寿命評価が可能となる。MT法は配管10の表面を磁粉探傷することで、該表面におけるキズの有無を評価可能である。
ここで
図15は、MT法の測定例を示す図である。
図15では、配管10の長手方向に沿って約70mmの連続した傷が存在していることが示されている。
【0057】
図16は本発明の一実施形態に係る寿命評価方法を示すフローチャートである。
まずMT法を用いて磁粉探傷することにより、表面状態の損傷を評価する(ステップS60)。また上述のPA法(
図5を参照)を用いて、溶接部12の内部損傷について評価する(ステップS61)。上述したように、本実施形態で検査対象とされる配管10は、クロムを9〜12質量%程度含有する高クロム鋼や、高クロム鋼と類似組織を有しクロムを2〜3質量%程度含有する高強度低合金鋼から形成されるため、表面と内部の損傷状態に相関が少ない。そのため、ステップS60及びS61では、MT法とPA法によって、それぞれ表面及び内面の損傷状態が独立して評価される。
尚、ステップS60及びS61の実施順はこれに限定されず、同時であっても良いし、逆であっても良い。
【0058】
続いて、ステップS60及びS61の評価結果に基づいて、検査対象である配管10のユーザについて、メンテナンスを場合分けして提案する(ステップS62)。
図17は
図16のS62における場合わけの条件を設定する基準表である。
【0059】
まずS60のMT法によって表面損傷が見つからず、S61のPA法によって測定された内部キズ高さdが許容内部キズ高さda以下である場合(すなわち配管10の表面、内部共に異常がない場合)、パターンAが選択され、処置不要となる(ステップS63)。この場合、標準的な定期点検として次回点検時期・補修予定時期・取替予定時期を提案する。
【0060】
一方、S61のPA法によって許容キズ内部高さdaを超える損傷が見つかった場合(すなわち表面上は異常がなくとも、内部に損傷が確認される場合)、パターンCが選択される。この場合、更にキズ高さdが閾値da1より大きいか否か、または、キズ長さLが補修可能なキズ長さLaより大きいか否かが判定される(ステップS64)。S64を満たす場合、当該配管10について工場修理又は新管取替を提案する(ステップS65)。S64を満たさない場合(ステップS64:NO)、溶接部12の肉盛補修で対応することを提案する(ステップS66)。
【0061】
続いて、S60のMT法によって表面損傷が見つかり、S61のPA法によって測定された内部キズ高さdが許容内部キズ高さda以下である場合(すなわち表面に異常があるのみで、内部には異常がない場合)、パターンBが選択される。この場合、配管10の表面を所定厚さ(数mm)研削し、再度MT法によって磁粉探傷を行う(ステップS67)。そして、表面キズが消失したか否かを確認する(ステップS68)。その結果、表面キズが消失した場合(ステップS68:YES)、表面ならしを行う(ステップS69)。
一方、依然として表面キズが消失しない場合(ステップS68:NO)、処理をステップS64に進め、上記処理を行う。
【0062】
このように本実施形態では、MT法を組み合わせることによって、PA法では測定不能な表面状態の評価が可能となる。その結果、配管10の全領域において損傷評価を行うことができ、より高品質な検査が可能となる。
【0063】
本発明に係る一の実施形態では、更に上記MT法やPA法に他の測定方法を組み合わせることによって、より高品質な検査を実施することもできる。
尚、本願明細書では他の測定方法としてレプリカ法、斜角UT法、形状測定を組み合わせる例を示すが、これに限られない。
【0064】
レプリカ法は上述のMT法と同様に配管10の表面状態について検査を行うことができる。MT法に比べてレプリカ採取時間が必要なため、測定に時間を要するが、ボイド生成状況について詳しい評価を行うことができる。そのため、例えば溶接部12全体に亘ってMT法で簡易的な表面状態の評価を行った後、損傷可能性が高い箇所について重点的にレプリカ法を適用することにより、効率的に精度のよい検査を行うことができる。
【0065】
図18は斜角UT法による測定の様子を模式的に示す図である。斜角UT法では、配管10の外表面(第1表面)11に配置したプローブ24によって、溶接部12からの反射波を内側表面(配管10の内径側表面である第2表面13)で全反射させて受信する。これにより、上述のPA法では測定困難であった表面から数mmの深さの範囲についても探傷を行うことができる。
尚、斜角UTは測定に多くの時間を要さないため、溶接部12の全体に亘って行ってもよい。
【0066】
配管10の溶接部12の形状について、外径、肉厚、溶金形状を計測する。これらの形状には、溶接部12の内面及び表面の損傷状態に関する情報が反映されている。そのため、形状測定を行うことによって、上記各種評価のデータを補完し、検査精度の向上を図ることができる。
尚、このような形状測定は比較的時間を要する作業であるため、例えば他の評価によって損傷可能性の高い箇所に限定して実施するとよい。
【0067】
これらの各種測定を用いた余寿命評価方法について説明する。
図19は本発明の一実施形態に係る余寿命評価方法のフローチャートである。
【0068】
MT法(S70)及びレプリカ法(S71)の測定結果に基づいて、表面の損傷状態について評価を行う(ステップS72)。
一方、内部の損傷状態については、
図5に示すPA法(S73)に加えて、
図18に示す斜角UT法の評価結果を考慮する(ステップS74)。そして更に、形状計測(外径、肉厚、溶金形状)も考慮する(S75)。これにより、PA法、斜角UT法、形状測定によって総合的に内部の損傷状態を評価して亀裂伝播解析(応力解析)が可能となる(ステップS76)。そして、当該解析結果に基づいて余寿命評価を行う(ステップS77)。
【0069】
尚、ステップS73における余寿命評価は、例えば
図5の解析工程S16に倣って、予め亀裂長さと余寿命パラメータPrとの相関を規定しておき、S72で得られた実測値を当てはめることによって、対応する余寿命パラメータPrを求めるとよい。
【0070】
そしてS70で得られた表面に関する評価結果と、S73で得られた内部に関する評価結果とを考慮して総合評価を行い、今後のメンテナンス処置を決定する(ステップS78)。
【0071】
以上説明したように、本実施形態によれば、配管10の溶接部12の全体に亘って効率的且つ高精度な余寿命評価を実施することができる。