【実施例】
【0026】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の測定評価は以下に示す方法で行った。
【0027】
<加水分解率>
シリケートを加水分解して得られたシラノール基を有するシリケートの加水分解率は、赤外線吸収スペクトルにより測定した。
赤外線吸収スペクトルの各吸収波長(ピーク強度)は以下のとおりである。
3400cm
-1 :Si−OHに起因するOH基の振動吸収
2840cm
-1 :Si−OCH3に起因するCH3基の振動吸収
1100cm
-1 :Si−O−Siに起因するSi−O−Si振動吸収
【0028】
<メトキシ基の含有率>
Si−OH基を含むメチルシリケートにおけるメトキシ基(Si−OCH3)の含有率は、Si−OH基を含まないメチルシリケートとSi−OH基を含むメチルシリケートの2つの赤外線スペクトル図から、Si−O−Siに起因する最も強いピーク(1100cm
-1)に対するメトキシ基に起因するピーク(2840cm
-1)の比率を算出し、Si−OH基を含まないメチルシリケートのメトキシ基比率を100%として、その比率から求めた。なお、
図3は、Si−OH基を含まないメチルシリケート[テトラメチルシリケートの4量体であるメチルシリケート(メチルシリケート51、コルコート(株)製)]の赤外線吸収スペクトル図を示し、
図4は、実施例1−1で得られたSi−OH基を含むポリシロキサンの赤外線吸収スペクトル図を示す。
【0029】
<シラノール基比率>
得られたポリシロキサンのシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率(モル%)は、上記メトキシ基の含有率からの残分[100モル%−メトキシ基の含有率(モル%)]をシラノール基の比率(モル%)とした。
【0030】
<平均重合度n>
得られたポリシロキサンの平均重合度nは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算による重量平均分子量を測定して求めたものである。なお、GPCは、分離カラムとして昭和電工(株)製のポリスチレンゲル充填カラム「Shodex KF−2002とShodex KF−2004とを直列に接続して充填カラムとした。」、流出液としてテトラヒドロフランを使用し、流量を2.0ミリリットル/分、流出温度を30℃として測定したものである。
【0031】
<耐油剤中のポリシロキサンの含有量>
得られた耐油剤中のポリシロキサンの含有量は、蒸発乾固法により求めた。
【0032】
<耐ブロッキング性>
得られた耐油紙の耐ブロッキング性は、以下の方法により評価した。
○:40℃にて3日間エージング後、印刷した紙同士が全く付着していない。
△:40℃にて3日間エージング後、印刷した紙にタック感(ヌメリ感)がある。
×:40℃にて3日間エージング後、印刷した紙同士が付着し剥がすと破断する。
【0033】
<耐油性>
得られた耐油紙の耐油性は、以下の方法により評価した。
○:流動パラフィンを滴下し、1日後でも浸透拡散は見られない。
△:流動パラフィンを滴下し、1日後に部分的に浸透拡散している箇所が見られる。
×:流動パラフィンを滴下し、1日後に全面的に浸透拡散している。
【0034】
<経時安定性>
得られた耐油剤の経時安定性は、以下の方法により評価した。
○:50℃雰囲気下に静置し、1ヶ月以上経過後も流動性を保持している。
×:50℃雰囲気下に静置し、1ヶ月以内でゲル化する。
【0035】
<キット値>
得られた耐油紙のキット値は、以下の方法により測定した。
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法NO.41:2000に示された「紙及び板紙―撥油度試験方法―キット値」に基づいて行った。撥油性テストの実施に際しては、まず、ヒマシ油、トルエン及びヘプタンを所定の割合で混合してキットナンバー1〜12の試験液を調整した。次に、50mm×50mm程度の大きさに切断した耐油紙を試験片として5枚以上用意し、撥油性試験を行った。なお、キット値の値が大きいほど耐油性が強く、様々な油に適用することができ、油との長時間の接触にも耐えることができることを示す。
【0036】
実施例1−1(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラメトキシシランの4量体であるメチルシリケート(メチルシリケート51、コルコート(株)製)[一般式(1)において、R
1,R
2,R
3及びR
4の全てがメチル基であり、nが4の化合物]1kg、およびイソプロピルアルコール1kgを室温下で混合しその後、0.1モル濃度の塩酸100gと水90g[メトキシ基1モルに対して0.5モルの水に相当する。]を混合しメタノール100gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し30分後に40℃に達し、全のメトキシ基の37モル%がシラノール基であるシリケートを得た(37%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(1−1)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中には、一般式(1)で示されるnが10であるポリシロキサンが得られていることを分析により確認した。なお、このポリシロキサン中のシラノール基とメトキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は37モル%であることを分析により確認した。そして、反応混合液中には、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(1−1)]が45質量%含まれていた。結果を表1に示す。なお、製造原料として用いたメチルシリケート51の赤外線吸収スペクトル図を
図3に、得られたポリシロキサンの赤外線吸収スペクトル図を
図4に示す。
【0037】
実施例1−2(耐油剤の製造)
実施例1−1で得られた反応混合液にグリシドキシプロピルトリエトキシシラン(シランカップリング剤)1kgをイソプロピルアルコール1kgに溶解させた溶液を徐々に滴下混合し、グリシドキシプロピルトリエトキシシランで変性したポリシロキン(1−2)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中の変性ポリシロキン(1−2)を分析したところ、メトキシ基の1.7×10
-2モル%がグリシドキシプロピルトリエトキシシランで変性されていた。反応混合液中には、グリシドキシプロピルトリエトキシシランで変性したポリシロキン(1−2)が43質量%含まれていた。
【0038】
実施例2−1(耐油紙の製造)
実施例1−1で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(1−1)]が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、グラビアコーティング機にて塗工した。塗工は建材用薄用原紙(秤量30g/m
2)を用い、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(1−1)]が乾燥重量5g/m
2となるようにグラビア版を用い、印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後130℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行った。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0039】
実施例2−2(耐油紙の製造)
実施例1−2で得られた変性ポリシロキン(1−2)が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、グラビアコーティング機にて塗工した。塗工は建材用薄用原紙(秤量30g/m
2)を用い、変性ポリシロキン(1−2)が乾燥重量5g/m
2となるようにグラビア版を用い、印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後130℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行った。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0040】
実施例3(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラメトキシシランの7量体であるメチルシリケート(メチルシリケート53A、コルコート(株)製)[一般式(1)において、R
1,R
2,R
3及びR
4の全てがメチル基であり、nが7の化合物]1kgおよびメチルアルコール1kgを室温下で混合しその後、酢酸(20質量%の水溶液)60gを水210g[メトキシ基1モルに対して0.7モル量の水に相当する。]及びメタノール100gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し20分後に50℃に達し、全のメトキシ基の70モル%がシラノール基であるシリケートを得た(70%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(2)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中には、一般式(1)で示されるnが14であるポリシロキサンが得られていることを分析により確認した。なお、このポリシロキサン中のシラノール基とメトキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は、加水分解が完全に行われて、70モル%となった。そして、反応混合液中には、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(2)]が44質量%含まれていた。結果を表1に示す。
【0041】
実施例4(耐油紙の製造)
実施例3で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(2)]が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(2)]の乾燥重量7g/m
2となるようにグラビア版を用い、印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後、140℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0042】
実施例5(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラエトキシシランの5量体であるエチルシリケート(エチルシリケート40、コルコート(株)製)[一般式(1)において、R
1,R
2,R
3及びR
4の全てがエチル基であり、nが5の化合物]1kgおよびエチルアルコール1kgを室温下で混合しその後、0.1モル濃度の塩酸20gを水80g[エトキシ基1モルに対して0.41モル量の水に相当する。]及びエチルアルコール100gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し30分後に45℃に達し、全のエトキシ基の41モル%がシラノール基であるシリケートを得た(41%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(3)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中には、一般式(1)で示されるnが10であるポリシロキサンが得られていることを分析により確認した。なお、このポリシロキサン中のシラノール基とエトキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は、加水分解が完全に行われて、41モル%となった。そして、反応混合液中には、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(3)]が45質量%含まれていた。結果を表1に示す。
【0043】
実施例6(耐油紙の製造)
実施例5で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(3)]が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(3)]の乾燥重量7g/m
2となるようにマイヤーバーコーターを用いて実施例2で使用した建材用薄用原紙に印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後140℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0044】
比較例1(耐油剤の製造)
テトラメトキシシランの8量体であるシリケート(Mシリケート51、コルコート(株)製)1kgとイソプロピルアルコール1kgを混合し、チタンテトラプロポキシド100gとイソプロピルアルコール1kgの混合液を徐々に添加し0.5時間撹拌することにより、シリケートの一部にチタンテトラプロポキシドを付加して変性させた。チタンテトラプロポキシドの付加量は、全メトキシ基に対して1.7×10
-2モル%が付加していることを確認した。そして、得られた反応混合液中にはチタンテトラプロポキシドが付加したシリケートが51質量%含まれていた。結果を表1に示す。
【0045】
比較例2(耐油紙の製造)
比較例1で得られた反応混合液を耐油剤として用い、乾燥重量10g/m
2となるようにグラビアコーティング機にて実施例2で使用した建材用薄用原紙に印刷速度50m/分のスピードで塗工し、塗工後120℃の乾燥炉中で30秒程度乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に 3日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0046】
比較例3(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラエトキシシランの5量体であるエチルシリケート(エチルシリケート40、コルコート(株)製)1kgおよびイソプロピルアルコール1kgを室温下で混合しその後、0.1モル濃度の塩酸40gと水200g[エトキシ基1モルに対して1.0モル量の水に相当する。]をメタノール200gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し30分後に40℃に達し、全のエトキシ基の全て(100モル%)がシラノール基であるシリケートを得た(100%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(5)を含む反応混合液2.4Kgを得た。反応混合液中には、一般式(1)において、R
1,R
2,R
3及びR
4の全てが水素原子であり、nが15であるポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(5)]が得られていた。このポリシロキサン中のシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は100モル%である。結果を表1に示す。
【0047】
比較例4(耐油紙の製造)
比較例3で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(5)]を含む反応混合液を耐油剤として用い、乾燥重量7g/m
2となるようにグラビアコーティング機にて実施例2で使用した建材用薄用原紙に印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後150℃の乾燥炉中で15秒程度乾燥した。乾燥後、直ちに巻き取り40℃の熟成室に3日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表2の実施例2、4及び6で示されるとおり、本発明の耐油剤を用いて得られる耐油紙は、耐ブロッキング性、耐油性、経時安定性及びキット値に優れ、優れた耐油剤が得られることが分かる。これに対して、比較例2の耐油紙では、ポリシロキサン中にシラノール基が含まれないため、耐ブロッキング性及び耐油性が良くなく、比較例4の耐油紙では、ポリシロキサン中にアルコキシ基が含まれないため、耐ブロッキング性及び経時安定性が良くないことがわかる。