特許第6397276号(P6397276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397276
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】耐油剤及び耐油紙
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20180913BHJP
   C08G 77/02 20060101ALI20180913BHJP
   D21H 19/32 20060101ALI20180913BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C09K3/00 R
   C09K3/00 112F
   C08G77/02
   D21H19/32
   D21H21/14 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-180395(P2014-180395)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-53142(P2016-53142A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】立和田 徹
(72)【発明者】
【氏名】側 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】東 公博
(72)【発明者】
【氏名】高木 誠
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−292117(JP,A)
【文献】 特開2005−036322(JP,A)
【文献】 特開昭59−022927(JP,A)
【文献】 特開2008−095251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C08G 77/00− 77/62
D21H 19/32
D21H 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるポリシロキサンを含む、耐油剤。
【化1】
[一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4は水素原子及び炭素数1〜4のアルキル基から選ばれるいずれかであり、かつ、R1,R2,R3及びR4の一部は水素原子である。nは平均重合度であり、4〜20である。]
【請求項2】
前記一般式(1)において、炭素数1〜4のアルキル基がメチル基又はエチル基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の耐油剤。
【請求項3】
前記一般式(1)で表わされるポリシロキサン中のシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率が30〜50モル%である、請求項1又は2記載の耐油剤。
【請求項4】
前記一般式(1)で表わされるポリシシロキサンが、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン、又は平均重合度が4〜10でありかつ炭素数1〜4のアルコキシ基を有するシリケートを、アルコキシ基1モルに対して0.2〜0.5モルの水を使用して、アルコール中で加水分解し、次いで重縮合して得られたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の耐油剤。
【請求項5】
前記一般式(1)で表わされるポリシロキサンの一部が、該ポリシロキサン中のアルコキシ基1モルに対してシランカップリング剤0.01モル〜0.1モルで変性されている、請求項1〜4のいずれかに記載の耐油剤。
【請求項6】
前記ポリシシロキサンが15〜80質量%含まれている、請求項1〜5のいずれかに記載の耐油剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐油剤を塗工して得られた、耐油紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油剤及びそれを使用して得られる耐油紙に関する。
【背景技術】
【0002】
耐油性を有する耐油紙は食品用途、建材用途、産業資材用途等に多用されている。食品用途では食用油を使用している唐揚げ、コロッケ、天ぷら、フライドポテトなどの食品容器またはシート、乳製品やマヨネーズなどを使用した食品容器またはシートなどに使用されている。これまでの食品容器に使用されている耐油紙はフッ素系樹脂を用いた耐油紙が有害性の問題からフィルムラミネート紙が多用されるようになっている。しかし、フィルムラミネート紙は良好な耐油性を有するが廃棄分別の問題や使用時のカールの問題があり使用時に難点を指摘されている。そのために、特許文献1でも知られているように、シリコーンオイルコート剤を塗布したものもあるが、油状であり食品等への転移の問題があった。
【0003】
また、建材用途ではキッチン廻りに使用される化粧合板に耐油性を有する化粧紙が要望されている。耐油性を有する化粧紙はフッ素系樹脂をイソシアネート系硬化剤で硬化した塗膜を建材表面に施した耐汚染化粧板が知られている(例えば、特許文献2)。しかし、フッ素系樹脂をイソシアネート系硬化剤で硬化した塗膜を用いる場合、コスト面で難点があり、フッ素系樹脂は焼却時にフッ化水素や低分子量フッ素化合物が発生し有害な大気汚染をひきおこし、またオゾン層を破壊する可能性もある。従って、このようなフッ素系樹脂を用いることは、近年、使用が禁止されている。また印刷インキの塗布量を上げ、さらにはトップコートを数回印刷することにより原紙への油の浸透を防止する方法もあるが、印刷インキの塗布量を多くしないと目的の耐油性を維持することが困難でありコスト的に不利である。
【0004】
一方、従来の耐油紙に使用されるフッ素樹脂系やシリコーンオイル系とは異なったシロキサン系の耐油紙を使用することが特許文献3及び4で知られている。このシロキサン系の耐油紙には、平均重合度3〜4のメチルトリメトキシシラン縮合体を主成分としたシラン系コート液が使用され、紙素材に塗布した後、テトラプロポキシチタニウム等の作用で硬化・固化させてシロキサン結合のコーティング層を表面に形成することにより紙素材の10倍の撥油性を付与した耐油紙を作製するものである。しかしシロキサン系コート剤の撥油性はアルコキシ基が加水分解したシラノール基によるものであり、メチルトリメトキシシランとテトラプロポキシチタニウムと架橋しただけではシラノール基はないので耐油性が低いという問題点がある。また、メチルトリメトキシシランが主成分であり4官能のうち一つがアルキル基であると、架橋後のコーティング層自体が三次元架橋するため柔軟性が得られなくなり、さらにはアルキル基があることにより親油性が増し、そのため耐油性が十分発揮できない問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4229850号公報
【特許文献2】特開平10−000428号公報
【特許文献3】特開2005−36322号公報
【特許文献4】特開2005−330623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、環境への影響が少なく、耐ブロッキング性、耐油性及び耐熱性に優れる耐油紙を得るための、ポリシロキサンを含む耐油剤とその耐油剤を使用した耐油紙を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、耐油性を有するシラノール基を多数有する特定のポリシロキサンを含む耐油剤を用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
【0008】
[1]下記一般式(1)で表わされるポリシロキサンを含む耐油剤。
【化1】
[一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4は水素原子及び炭素数1〜4のアルキル基から選ばれるいずれかであり、かつ、R1,R2,R3及びR4の一部は水素原子である。nは平均重合度であり、4〜20である。]
[2]前記一般式(1)において、炭素数1〜4のアルキル基がメチル基又はエチル基から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]に記載の耐油剤。
[3]前記一般式(1)で表わされるポリシロキサン中のシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率が30〜50モル%である、上記[1]又は[2]に記載の耐油剤。
[4]前記一般式(1)で表わされるポリシロキサンが、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン、又は平均重合度が4〜10でありかつ炭素数1〜4のアルコキシ基を有するシリケートを、アルコキシ基1モルに対して0.2〜0.5モルの水を使用して、アルコール中で加水分解し、次いで重縮合して得られたものである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の耐油剤。
[5]前記一般式(1)で表わされるポリシロキサンの一部が、該ポリシロキサン中のアルコキシ基1モルに対してシランカップリング剤0.01モル〜0.1モルで変性されている、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の耐油剤。
[6]前記ポリシロキサンが15〜80質量%含まれている、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の耐油剤。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の耐油剤を塗工して得られた、耐油紙。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐油剤は、環境への影響が少なく、耐ブロッキング性、耐油性及び耐熱性に優れる耐油紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の耐油剤を用いた耐油紙の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の耐油剤を用いた耐油紙の一例を示す概略断面図である。
図3】Si−OH基を含まないメチルシリケートの赤外線吸収スペクトル図である。
図4】Si−OH基を含むメチルシリケートの赤外線吸収スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[耐油剤]
<ポリシロキサン>
本発明の耐油剤は、下記一般式(1)で表わされるポリシロキサンを含むものである。
【化2】
【0012】
上記一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4は水素原子及び炭素数1〜4のアルキル基から選ばれるいずれかであり、かつ、R1,R2,R3及びR4の一部は水素原子である。nは平均重合度であり、4〜20である。
【0013】
一般式(1)のポリシロキサンは、ケイ素原子とケイ素原子同士とは、酸素原子で結合されており、そしてそれ以外のケイ素原子との結合は、シラノール基(ヒドロキシ基)と炭素数1〜4のアルコキシ基との結合となっている。炭素数1〜4のアルコキシ基を形成する炭素数1〜4のアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基を挙げることができるが、メチル基及びエチル基であることが耐油性の観点から好ましい。平均重合度を示すnは、4〜20である。nが4未満であると、耐油性が低下するので好ましくない。また。nが20を超えると、耐油剤とした際に、均一な厚みの塗工が困難となったりするので好ましくない。平均重合度nは、8〜14であることが好ましい。
【0014】
上記一般式(1)で示されるポリシロキサンは、水素原子に由来するシラノール基と炭素数1〜4のアルキル基に由来するアルコキシ基を有するが、ポリシロキサン中のシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率が30〜50モル%であることが好ましい。シラノール基の比率がこの範囲であれば、得られるポリシロキサンがゲル化することがないので、耐油剤として用いた場合に紙への塗工が容易となり、かつ耐油紙とした場合に良好な耐油性が得られる。上記一般式(1)で示されるポリシロキサンの構造は、直鎖状や分岐状、網目状等の各種構造を有することができる。
【0015】
上記一般式(1)で表わされるポリシロキサンを含む耐油剤を製造するには、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン、又は平均重合度が4〜10でありかつ炭素数1〜4のアルコキシ基を有するシリケートを、含有するアルコキシ基1モルに対して0.2〜0.5モル量の水を使用して、アルコール中で加水分解し、次いで重縮合して得ることができる。炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン及びテトラブトキシシランを挙げることができる。これらの中でもテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランを用いることが好ましい。また、平均重合度が4〜10でありかつ炭素数1〜4のアルコキシ基を有するシリケートとしては、上記炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランの縮合物を挙げることができ、具体的には重合度が4〜10のメチルシリケート、エチルシリケート、ピロピルシリート、ブチルシリケート等を挙げることができる。平均重合度が4〜10でありかつ炭素数1〜4のアルコキシ基を有するシリケートを用いる場合は、炭素数1〜4のアルコキシ基は、メトキシ基及びエトキシ基であることが好ましい。
【0016】
上記のテトラアルコキシシラン又はシリケートをアルコール中で加水分解するに当り、含有するアルコキシ基1モルに対して、通常、0.1〜0.7モルの水が使用されるが、加水分解に使用される水の使用量は、シラノール基の含有量に影響し、ひいては保存安定性に影響するので極めて重要である。加水分解に使用される水の使用量がアルコキシ基1モルに対して0.1〜0.7モルであれば、シラノール基が適切な量となり、3次元架橋したり、ゲル化する恐れがなく保存安定性を保つことができ、かつ良好な耐油性を有する耐油剤とすることができる。加水分解に使用される水の使用量は、好ましくはアルコキシ基1モルに対して0.2〜0.5モルである。
また、加水分解するに当たっては、触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒としては、特に限定されるものではないが、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、マレイン酸、酢酸等の有機酸類、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸やその塩を適宜併用することができる。触媒の使用量としては、水の使用量1モルに対して、通常、0.01〜0.1モルを用いることができる。
【0017】
この加水分解は、溶媒中で行われ、溶媒としてはアルコールを用いることが好ましい。使用されるアルコールとしては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等の炭素数1〜5のアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1〜3のアルコールが用いられる。これらのアルコールを用いることにより、得られる加水分解物を微小粒子として形成することができ、耐油剤として塗工した後に得られる硬化塗膜の特性が優れたものとなる。特に、炭素数1〜3のアルコキシ基と同じ炭素数を有するアルコールを用いることが好ましく、メタノール及びエタノールを用いることが好ましい。なお、乾燥性を調製するためメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルプロピルセロソルブ、エチルプロピルセロソルブ、ブチルプロピルセロソルブ等のセロソルブ類を少量併用することも可能である。溶媒の使用量は、通常、テトラアルコキシシラン又はシリケート100質量部に対して50〜200質量部の範囲内で使用される。
【0018】
上記の加水分解に当っては、窒素等の不活性ガスでパージされた撹拌機付きの反応器内に、上記のテトラアルコキシシラン又はシリケートとアルコールを導入して室温下で撹拌し、次いで酸触媒と水を必要に応じて使用されるアルールで希釈して、撹拌下で反応器内に少しずつ導入して加水分解反応を行うことができる。加水分解反応中は、反応器内の反応温度は徐々に上昇し、加水分解反応が終了すると反応温度の上昇が止まるので、加水分解反応終了の目安とすることができる。通常、加水分解反応の反応時間は、原料の使用量や種類により相違するが、10分〜2時間程度である。この加水分解反応を行うことにより、上記のテトラアルコキシシラン又はシリケート中のアルコキシ基の一部をシラノール基とすることができる。
【0019】
上記加水分解の終了後は、反応器内の反応温度は上昇が止まり、次第に低下するので、そのまま撹拌を続けることにより、重縮合することができる。重縮合は、シラノール基を有するアルコキシシラン又はシラノール基を有するシリケート中のシラノール基とアルコキシ基との反応、シラノール基を有するアルコキシシラン中のアルコキシ基同士との反応、シラノール基を有するシリケート中のアルコキシ基同士との反応等により、Si−O−Siが生成し、重縮合が行われる。重縮合時間は、通常、1〜10時間程度である。重縮合時間が長くなりすぎると、平均重合度が上昇し、20を超えるので注意する必要がある。そのために、所定の重縮合時間が終了したら、得られた反応混合液を室温以下の温度まで冷却することが好ましい。
【0020】
前記の重縮合後に得られる反応混合液中には、前記一般式(1)で示されるポリシロキサンが含まれる。本発明の耐油剤は、重縮合後に得られる反応混合液をそのまま耐油剤として用いてもよいし、必要に応じて、反応混合液から有機溶媒を除去したり、あるいは有機溶媒を添加して、耐油剤として使用することができる。
【0021】
<シランカップリング剤変性ポリシロキサン>
本発明の耐油剤は、前記で説明した一般式(1)で示されるポリシロキサンをシランカップリング剤と反応させ、シランカップリング剤で変性したポリシロキサン(シランカップリング剤変性ポリシロキサンともいう。)を製造し、このシランカップリング剤で変性したポリシロキサンを含むものを耐油剤とすることもできる。このシランカップリング剤変性ポリシロキサンは、シラノール基の一部をシランカップリング剤で部分的に変性することにより、縮重合物のゲル化を防止することができる。シラノール基の一部を部分的に変性する方法としては、一般式(1)で示されるポリシロキサン中のアルコキシ基1モルに対してシランカップリング剤を0.01モル〜0.1モルの割合で添加し、さらに混合撹拌することにより反応させて、変性することができる。撹拌時間としては、30分〜2時間程度行なえばよい。
【0022】
シランカップリング剤変性ポリシロキサンを製造する際に使用されるシランカップリング剤としては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、スチリルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシトリメトキシシラン、N‐アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシシラン等のアルコキシ基を有するシランカップリング剤を挙げることができ、これらのシランカップリング剤は、単独もしくは数種類組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明の耐油剤には、必要に応じて硬化促進剤、増粘剤、界面活性剤、その他の添加剤等を添加して含有させることができる。
【0024】
[耐油紙]
このようにして得られた本発明の耐油剤は、種々の紙基材を用いることができる。これらの紙基材としては、例えば、クラフト紙、純白ロール紙、薄口模造紙などの包装紙、化粧板用原紙、壁紙原紙、食品容器原紙などの工業用紙、薄紙印刷用紙、グラビア用紙などの印刷用紙などが挙げられる。これらの紙基材に、グラビアコーター、バーコーター、ロールコーター、フローコーターなどの各種塗工方法により塗工して耐油紙を得ることができる。また、本発明の耐油剤は、場合によってはスプレー、ディッピングにより種々の紙基材に含浸させることも可能である。塗布量は、耐油剤の乾燥質量(固形分質量)で、1〜10g/m2、好ましくは3〜5g/m2が望ましい。塗布量が1g/m2以上であれば、紙の繊維を十分に蔽うことができ、十分な耐油性を得ることができる。また、塗布量が10g/m2以下であれば、塗工中に十分な乾燥塗膜を得ることができ、ブロッキングして巻き取ができなくなる恐れが少なくなる。さらには紙の柔軟性が損なわれる恐れも少なくなる。塗工後の乾燥温度は通常、70℃〜200℃、好ましくは100〜150℃であり、乾燥時間は、通常、5秒〜1分、好ましくは10秒〜30秒行う事が望ましい。このようにして、本発明の耐油紙を得ることができる。乾燥後に得られた、本発明の耐油紙は、耐油剤の固形分が紙基材の表面に直接又は間接に積層され、コート層として形成されていてもよいし、また、紙基材中に含浸した状態で含まれていてもよい。
【0025】
図1では、本発明の耐油紙を用いた具体例を示す。図1には、原紙(紙基材)の上に耐油コート層(耐油剤の固形分)が積層された本発明の耐油紙の耐油コート層の上に硝化綿またはアクリル系インキでベタ印刷して白ベタ層を形成し、さらにその白ベタ層上に絵柄層を形成し、ウレタン系樹脂等を用いてトップコート層を形成したものである。また、図2に示すように、原紙(紙基材)の上に白ベタ層を形成し、その上に絵柄層を形成し、その絵柄層の上に本発明の耐油剤を塗布し、乾燥させた後、耐油コート層を形成し、その上にトップコート層を形成してもよい。
本発明の耐油剤を塗布し、乾燥させた後は、ただちに巻き取り操作あるいは印刷操作が可能である。さらには、巻き取った原反を40〜100℃、好ましくは50〜80℃の雰囲気下で1日〜7日、好ましくは2日〜4日間養生させても良く、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐汚染性、耐熱性を有する耐油紙を得ることができる。
【実施例】
【0026】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の測定評価は以下に示す方法で行った。
【0027】
<加水分解率>
シリケートを加水分解して得られたシラノール基を有するシリケートの加水分解率は、赤外線吸収スペクトルにより測定した。
赤外線吸収スペクトルの各吸収波長(ピーク強度)は以下のとおりである。
3400cm-1 :Si−OHに起因するOH基の振動吸収
2840cm-1 :Si−OCH3に起因するCH3基の振動吸収
1100cm-1 :Si−O−Siに起因するSi−O−Si振動吸収
【0028】
<メトキシ基の含有率>
Si−OH基を含むメチルシリケートにおけるメトキシ基(Si−OCH3)の含有率は、Si−OH基を含まないメチルシリケートとSi−OH基を含むメチルシリケートの2つの赤外線スペクトル図から、Si−O−Siに起因する最も強いピーク(1100cm-1)に対するメトキシ基に起因するピーク(2840cm-1)の比率を算出し、Si−OH基を含まないメチルシリケートのメトキシ基比率を100%として、その比率から求めた。なお、図3は、Si−OH基を含まないメチルシリケート[テトラメチルシリケートの4量体であるメチルシリケート(メチルシリケート51、コルコート(株)製)]の赤外線吸収スペクトル図を示し、図4は、実施例1−1で得られたSi−OH基を含むポリシロキサンの赤外線吸収スペクトル図を示す。
【0029】
<シラノール基比率>
得られたポリシロキサンのシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率(モル%)は、上記メトキシ基の含有率からの残分[100モル%−メトキシ基の含有率(モル%)]をシラノール基の比率(モル%)とした。
【0030】
<平均重合度n>
得られたポリシロキサンの平均重合度nは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算による重量平均分子量を測定して求めたものである。なお、GPCは、分離カラムとして昭和電工(株)製のポリスチレンゲル充填カラム「Shodex KF−2002とShodex KF−2004とを直列に接続して充填カラムとした。」、流出液としてテトラヒドロフランを使用し、流量を2.0ミリリットル/分、流出温度を30℃として測定したものである。
【0031】
<耐油剤中のポリシロキサンの含有量>
得られた耐油剤中のポリシロキサンの含有量は、蒸発乾固法により求めた。
【0032】
<耐ブロッキング性>
得られた耐油紙の耐ブロッキング性は、以下の方法により評価した。
○:40℃にて3日間エージング後、印刷した紙同士が全く付着していない。
△:40℃にて3日間エージング後、印刷した紙にタック感(ヌメリ感)がある。
×:40℃にて3日間エージング後、印刷した紙同士が付着し剥がすと破断する。
【0033】
<耐油性>
得られた耐油紙の耐油性は、以下の方法により評価した。
○:流動パラフィンを滴下し、1日後でも浸透拡散は見られない。
△:流動パラフィンを滴下し、1日後に部分的に浸透拡散している箇所が見られる。
×:流動パラフィンを滴下し、1日後に全面的に浸透拡散している。
【0034】
<経時安定性>
得られた耐油剤の経時安定性は、以下の方法により評価した。
○:50℃雰囲気下に静置し、1ヶ月以上経過後も流動性を保持している。
×:50℃雰囲気下に静置し、1ヶ月以内でゲル化する。
【0035】
<キット値>
得られた耐油紙のキット値は、以下の方法により測定した。
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法NO.41:2000に示された「紙及び板紙―撥油度試験方法―キット値」に基づいて行った。撥油性テストの実施に際しては、まず、ヒマシ油、トルエン及びヘプタンを所定の割合で混合してキットナンバー1〜12の試験液を調整した。次に、50mm×50mm程度の大きさに切断した耐油紙を試験片として5枚以上用意し、撥油性試験を行った。なお、キット値の値が大きいほど耐油性が強く、様々な油に適用することができ、油との長時間の接触にも耐えることができることを示す。
【0036】
実施例1−1(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラメトキシシランの4量体であるメチルシリケート(メチルシリケート51、コルコート(株)製)[一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4の全てがメチル基であり、nが4の化合物]1kg、およびイソプロピルアルコール1kgを室温下で混合しその後、0.1モル濃度の塩酸100gと水90g[メトキシ基1モルに対して0.5モルの水に相当する。]を混合しメタノール100gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し30分後に40℃に達し、全のメトキシ基の37モル%がシラノール基であるシリケートを得た(37%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(1−1)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中には、一般式(1)で示されるnが10であるポリシロキサンが得られていることを分析により確認した。なお、このポリシロキサン中のシラノール基とメトキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は37モル%であることを分析により確認した。そして、反応混合液中には、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(1−1)]が45質量%含まれていた。結果を表1に示す。なお、製造原料として用いたメチルシリケート51の赤外線吸収スペクトル図を図3に、得られたポリシロキサンの赤外線吸収スペクトル図を図4に示す。
【0037】
実施例1−2(耐油剤の製造)
実施例1−1で得られた反応混合液にグリシドキシプロピルトリエトキシシラン(シランカップリング剤)1kgをイソプロピルアルコール1kgに溶解させた溶液を徐々に滴下混合し、グリシドキシプロピルトリエトキシシランで変性したポリシロキン(1−2)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中の変性ポリシロキン(1−2)を分析したところ、メトキシ基の1.7×10-2モル%がグリシドキシプロピルトリエトキシシランで変性されていた。反応混合液中には、グリシドキシプロピルトリエトキシシランで変性したポリシロキン(1−2)が43質量%含まれていた。
【0038】
実施例2−1(耐油紙の製造)
実施例1−1で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(1−1)]が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、グラビアコーティング機にて塗工した。塗工は建材用薄用原紙(秤量30g/m2)を用い、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(1−1)]が乾燥重量5g/m2となるようにグラビア版を用い、印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後130℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行った。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0039】
実施例2−2(耐油紙の製造)
実施例1−2で得られた変性ポリシロキン(1−2)が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、グラビアコーティング機にて塗工した。塗工は建材用薄用原紙(秤量30g/m2)を用い、変性ポリシロキン(1−2)が乾燥重量5g/m2となるようにグラビア版を用い、印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後130℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行った。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0040】
実施例3(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラメトキシシランの7量体であるメチルシリケート(メチルシリケート53A、コルコート(株)製)[一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4の全てがメチル基であり、nが7の化合物]1kgおよびメチルアルコール1kgを室温下で混合しその後、酢酸(20質量%の水溶液)60gを水210g[メトキシ基1モルに対して0.7モル量の水に相当する。]及びメタノール100gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し20分後に50℃に達し、全のメトキシ基の70モル%がシラノール基であるシリケートを得た(70%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(2)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中には、一般式(1)で示されるnが14であるポリシロキサンが得られていることを分析により確認した。なお、このポリシロキサン中のシラノール基とメトキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は、加水分解が完全に行われて、70モル%となった。そして、反応混合液中には、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(2)]が44質量%含まれていた。結果を表1に示す。
【0041】
実施例4(耐油紙の製造)
実施例3で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(2)]が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(2)]の乾燥重量7g/m2となるようにグラビア版を用い、印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後、140℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0042】
実施例5(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラエトキシシランの5量体であるエチルシリケート(エチルシリケート40、コルコート(株)製)[一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4の全てがエチル基であり、nが5の化合物]1kgおよびエチルアルコール1kgを室温下で混合しその後、0.1モル濃度の塩酸20gを水80g[エトキシ基1モルに対して0.41モル量の水に相当する。]及びエチルアルコール100gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し30分後に45℃に達し、全のエトキシ基の41モル%がシラノール基であるシリケートを得た(41%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(3)が含まれている反応混合液を得た。反応混合液中には、一般式(1)で示されるnが10であるポリシロキサンが得られていることを分析により確認した。なお、このポリシロキサン中のシラノール基とエトキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は、加水分解が完全に行われて、41モル%となった。そして、反応混合液中には、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(3)]が45質量%含まれていた。結果を表1に示す。
【0043】
実施例6(耐油紙の製造)
実施例5で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(3)]が含まれている反応混合液を耐油剤として用い、ポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(3)]の乾燥重量7g/m2となるようにマイヤーバーコーターを用いて実施例2で使用した建材用薄用原紙に印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後140℃の乾燥炉中で15秒乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に1日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0044】
比較例1(耐油剤の製造)
テトラメトキシシランの8量体であるシリケート(Mシリケート51、コルコート(株)製)1kgとイソプロピルアルコール1kgを混合し、チタンテトラプロポキシド100gとイソプロピルアルコール1kgの混合液を徐々に添加し0.5時間撹拌することにより、シリケートの一部にチタンテトラプロポキシドを付加して変性させた。チタンテトラプロポキシドの付加量は、全メトキシ基に対して1.7×10-2モル%が付加していることを確認した。そして、得られた反応混合液中にはチタンテトラプロポキシドが付加したシリケートが51質量%含まれていた。結果を表1に示す。
【0045】
比較例2(耐油紙の製造)
比較例1で得られた反応混合液を耐油剤として用い、乾燥重量10g/m2となるようにグラビアコーティング機にて実施例2で使用した建材用薄用原紙に印刷速度50m/分のスピードで塗工し、塗工後120℃の乾燥炉中で30秒程度乾燥した。乾燥後ただちに巻き取り40℃の熟成室に 3日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0046】
比較例3(耐油剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置にテトラエトキシシランの5量体であるエチルシリケート(エチルシリケート40、コルコート(株)製)1kgおよびイソプロピルアルコール1kgを室温下で混合しその後、0.1モル濃度の塩酸40gと水200g[エトキシ基1モルに対して1.0モル量の水に相当する。]をメタノール200gで希釈したものを攪拌下に、少しずつ投入し加水分解を行った。温度が徐々に上昇し30分後に40℃に達し、全のエトキシ基の全て(100モル%)がシラノール基であるシリケートを得た(100%加水分解率)。そのまま攪拌を続けると次第に温度が低下し、さらに5時間攪拌を続けシリケートの加水分解縮合物(5)を含む反応混合液2.4Kgを得た。反応混合液中には、一般式(1)において、R1,R2,R3及びR4の全てが水素原子であり、nが15であるポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(5)]が得られていた。このポリシロキサン中のシラノール基とアルコキシ基の合計量に対するシラノール基の比率は100モル%である。結果を表1に示す。
【0047】
比較例4(耐油紙の製造)
比較例3で得られたポリシロキサン[シリケートの加水分解縮合物(5)]を含む反応混合液を耐油剤として用い、乾燥重量7g/m2となるようにグラビアコーティング機にて実施例2で使用した建材用薄用原紙に印刷速度100m/分のスピードで塗工し、塗工後150℃の乾燥炉中で15秒程度乾燥した。乾燥後、直ちに巻き取り40℃の熟成室に3日間放置しエージングを行って耐油紙を得た。得られた耐油紙について、各評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表2の実施例2、4及び6で示されるとおり、本発明の耐油剤を用いて得られる耐油紙は、耐ブロッキング性、耐油性、経時安定性及びキット値に優れ、優れた耐油剤が得られることが分かる。これに対して、比較例2の耐油紙では、ポリシロキサン中にシラノール基が含まれないため、耐ブロッキング性及び耐油性が良くなく、比較例4の耐油紙では、ポリシロキサン中にアルコキシ基が含まれないため、耐ブロッキング性及び経時安定性が良くないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の耐油剤は、環境への影響が少なく、耐ブロッキング性、耐油性及び耐熱性に優れる耐油紙を提供することができるため、食品用途、建材用途、各種産業資材用等に広く使用することができる。
図1
図2
図3
図4