(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0027】
<実施形態1>
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係る回転工具としてのインパクトドライバ1の概略構成を示す断面図である。インパクトドライバ1は、モータ2(駆動源)から得られる回転駆動力によって、アンビル11に取り付けられたビットと呼ばれる工具(図示省略)を回転させることにより、ボルトやナット等に回転打撃力を与える。
【0028】
なお、
図1では、インパクトドライバ1における駆動部分のみを図示し、インパクトドライバ1の他の部分の構成は図示を省略している。本実施形態のインパクトドライバ1は、駆動部分以外の構成は一般的な電動工具と同様であるため、以下では、インパクトドライバ1の駆動部分についてのみ説明する。また、以下の説明において、
図1における左側をインパクトドライバの前方(以下、単に前方ともいう)といい、
図1における右側をインパクトドライバの後方(以下、単に後方ともいう)という。
【0029】
インパクトドライバ1は、モータ2と、モータ2によって駆動される駆動機構10と、モータ2を覆うとともに駆動機構10に取り付けられるハウジング3とを有する。このハウジング3の詳細な説明は省略するが、一般的な構成を有するインパクトドライバと同様、ハウジング3には、作業者が把持するためのグリップや、モータ2のオン・オフを制御するためのスイッチであるレバー等が設けられている。
【0030】
モータ2は、図示しない充電池等の電源から供給される直流電流によって駆動される直流モータである。ハウジング3に設けられた図示しないレバーによって、充電池からモータ2への直流電流の供給が制御される。すなわち、ハウジング3のレバーによって、モータ2の回転・停止が制御される。なお、モータ2の構成は、一般的な直流モータと同様なので、詳しい構成の説明は省略する。
【0031】
モータ2は、出力軸2aを有する。出力軸2aは、モータ2の図示しない回転子とともに回転し、モータ2の回転駆動力をモータ外部に出力する。出力軸2aには、後述の遊星歯車機構21の太陽歯車22が接続されている。
【0032】
駆動機構10は、アンビル11と、モータ2の回転駆動力をアンビル11に伝達する回転伝達機構20と、アンビル11及び回転伝達機構20を収納するためのケーシング15とを備える。アンビル11は、概略円筒状の鋼製の部材であり、その先端部分にはビット(図示省略)を取り付けるためのチャック12が設けられている。駆動機構10は、モータ2から出力される回転駆動力を、回転伝達機構20を介してアンビル11に伝えることにより、該アンビル11の先端に位置するチャック12に固定されたビット(図示省略)を回転させる。
【0033】
ケーシング15は、アンビル11及び回転伝達機構20を収納する収納空間を形成する。具体的には、ケーシング15は、略円筒状のケーシング本体16と、該ケーシング本体16の後側とモータ2との間を繋ぐケーシングカバー17とを有する。ケーシング本体16は、前側が前方に向かって徐々に外径が小さくなる円錐状に形成されている。このケーシング本体16の前側部分の内部に、アンビル11が収納されている。ケーシングカバー17は、ケーシング本体16の後側の開口を覆うように配置されている。ケーシングカバー17の後側には、モータ2が配置されている。ケーシングカバー17の中央部分には、モータ2の出力軸2aが貫通する貫通穴17aが形成されている。
【0034】
回転伝達機構20は、遊星歯車機構21と、スピンドル30と、衝撃付与機構40とを備える。
図2に、回転伝達機構20を拡大して示す。なお、
図2においても、
図1と同様、
図2における左側をインパクトドライバの前方(以下、単に前方ともいう)といい、
図2における右側をインパクトドライバの後方(以下、単に後方ともいう)という。
【0035】
図1及び
図2に示すように、遊星歯車機構21は、円柱状の太陽歯車22と、該太陽歯車22に噛み合う3個の遊星歯車23と、該3個の遊星歯車23と噛み合う内歯車24とを備える。太陽歯車22は、円柱状の鋼製の部材であり、一方の端部にモータ2の出力軸2aが連結されるとともに、他方の端部の外周面に遊星歯車23と噛み合う複数の外歯22aが設けられている。これらの外歯22aは、
図3に示すように、太陽歯車22の周方向に所定間隔に位置し且つ軸線方向に延びるように形成されている。なお、遊星歯車23の数は、2個であってもよいし、4個以上であってもよい。
【0036】
図1から
図3に示すように、遊星歯車23は、円柱状の鋼製の部材であり、外周面に複数の外歯23aを有する。3個の遊星歯車23は、太陽歯車22を囲むように配置されている。各遊星歯車23は、後述するスピンドル30の大径部32に対してピン25によって回転可能に支持されている。すなわち、後述するように、スピンドル30の大径部32の外周面には、3個の遊星歯車23をそれぞれ収納可能な3つの凹部32aが形成されている(
図3参照)。各遊星歯車23は、スピンドル30の大径部32の凹部32a内に配置された状態で、該大径部32に固定されたピン25によって回転可能に支持されている。
【0037】
図1から
図3に示すように、内歯車24は、円筒状の鋼製の部材であり、内周面に複数の内歯24aが形成されている。内歯車24は、内方に3個の遊星歯車23が位置付けられるように、外周面が後述するケーシング15のケーシング本体16に固定されている(
図1及び
図2参照)。内歯車24の内周面の内歯24aには、3個の遊星歯車23の外歯23aが噛み合っている。
【0038】
以上のような遊星歯車機構21の構成により、モータ2の出力軸2aから出力された回転駆動力は、太陽歯車22、遊星歯車23及びピン25を介してスピンドル30に伝達される。これにより、モータ2から出力された回転は、遊星歯車機構21によって減速されて、スピンドル30に伝達される。
【0039】
スピンドル30は、軸線方向に延びる略円柱状に形成された鋼製の部材である。具体的には、
図1から
図3に示すように、スピンドル30は、小径部31と、該小径部31と一体に設けられた大径部32とを有する。大径部32は、小径部31に対して軸線方向の一方側(本実施形態では、モータ2側、すなわちインパクトドライバ1の後側)に設けられている。
図1及び
図2に示すように、スピンドル30において、大径部32よりも前記一方側には、該大径部32よりも小径で且つ軸受35によって回転可能に支持される軸受支持部33が設けられている。これにより、スピンドル30は、前記一方側を軸受35によって回転可能に支持されている。
【0040】
図2に示すように、スピンドル30の前記一方側の端部には、該スピンドル30の軸線方向に延びる挿入穴30aが形成されている。この挿入穴30aは、スピンドル30の軸線方向の長さの略半分の長さを有する。すなわち、挿入穴30aは、スピンドル30において、前記一方側の端部から、大径部32よりも軸線方向の他方側まで伸びるように、設けられている。また、挿入穴30aは、遊星歯車機構21の太陽歯車22を収納可能な径を有する。
【0041】
図3に示すように、大径部32は、円盤状に形成されていて、外周面に径方向内方に向かって延びる凹部32aが3箇所、形成されている。各凹部32aは、遊星歯車機構21の遊星歯車23を収納可能な大きさに形成されている。各凹部32aは、
図2に示すように、スピンドル30に形成された挿入穴30aに繋がるように形成されている。これにより、大径部32の各凹部32a内に配置された遊星歯車23と、スピンドル30の挿入穴30a内に配置された太陽歯車22とを、該スピンドル30の内部で噛み合わせることが可能になる。
【0042】
図2に示すように、小径部31には、外周面上に、後述する衝撃付与機構40の一部を構成する一対のカム溝41が形成されている。各カム溝41は、小径部31をスピンドル30の軸線方向と直交する方向から見て、インパクトドライバ1の前側に折曲部分が位置するような略V字状に形成されている。また、各カム溝41は、断面半円状に形成されている。後述するように、各カム溝41内には、衝撃付与機構40の一部を構成する鋼球42が移動可能に配置される。
【0043】
図1及び
図2に示すように、小径部31におけるスピンドル30の軸線方向の他方側の端部には、該小径部31よりも小径の突出部34が設けられている。突出部34は、スピンドル30の軸線方向の他方に向かって突出するように、小径部31と一体に形成されている。突出部34は、後述するアンビル11に形成された挿入穴11c内に回転可能な状態で挿入される。
【0044】
衝撃付与機構40は、スピンドル30の回転に伴って円筒状の主ハンマ41を軸線方向に移動させつつ回転させることにより、該主ハンマ41によってアンビル11に回転方向の打撃力を付与する機構である。具体的には、衝撃付与機構40は、スピンドル30の小径部31の外周面に形成された上述の一対のカム溝41と、各カム溝41内に配置された鋼球42と、各カム溝41内での鋼球42の移動に伴ってスピンドル30に対して軸線方向に移動する主ハンマ43と、該主ハンマ43を弾性支持するバネ44と、主ハンマ43を囲むように配置された円筒状の副ハンマ45と、該副ハンマ45と主ハンマ43との間に配置された複数のピン46とを備える。
【0045】
図1及び
図2に示すように、主ハンマ43は、スピンドル30の外周面上に該スピンドル30の軸線方向に移動可能に嵌合された略円筒状の鋼製の部材である。主ハンマ43は、スピンドル30に対し、軸線方向の他方の端部に配置されている。主ハンマ43は、
図2に示すように、スピンドル30の外周面に対して摺動するハンマ摺動部43aと、該ハンマ摺動部43aよりも前側に位置するハンマ大径部43bとを有する。ハンマ摺動部43a及びハンマ大径部43bは、一体形成されている。
【0046】
ハンマ大径部43bには、内周面に一対のカム溝43cが形成されている。
図4は、主ハンマ43のハンマ大径部43bに形成されたカム溝43c及びスピンドル30の小径部31に形成されたカム溝41を展開して平面状に示した図である。一対のカム溝43cは、
図4に示すように、ハンマ大径部43bを内方から見て、インパクトドライバ1の後側に向かって凸となるような三角形状に形成されている。各カム溝43cは、鋼球42の半径と同等の溝深さを有する。各カム溝43c内には、スピンドル30のカム溝41内に配置された鋼球42も位置付けられる。すなわち、鋼球42は、スピンドル30のカム溝41及び主ハンマ43のカム溝43cにそれぞれ位置付けられて、カム溝41及びカム溝43cに沿って移動する。
【0047】
具体的には、ボルトやナットの締め付けを行う際に、アンビル11に加わる負荷トルクが小さい場合、
図4(a)に示すように、鋼球42は、主ハンマ43のカム溝43cの後側に位置するとともに、スピンドル30のV字状のカム溝41の屈曲部分に位置する。その後、アンビル11に加わる負荷トルクが大きくなると、主ハンマ43に対してスピンドル30が相対移動して、
図4(b)に示すように、主ハンマ43のカム溝43cとスピンドル30のカム溝41とが該スピンドル30の回転方向(
図4における横方向)にずれる。主ハンマ43がバネ44の付勢力に打ち勝ってスピンドル30に対して回転すると、鋼球42は、
図4(b)に示すように、V字状のカム溝41の一方の端部に向かうように動く。このような鋼球42の動きに対応して、
図4(b)、(c)のように、主ハンマ43もインパクトドライバ1の後側に移動する。このような主ハンマ43の動きによって、該主ハンマ43の後述するハンマ爪部43fとアンビル11の後述するアンビル爪部11bとの係合が外れる。その後、主ハンマ43は、バネ44の付勢力によってインパクトドライバ1の前側に移動し、主ハンマ43のハンマ爪部43fがアンビル11のアンビル爪部11bに衝突する。このような主ハンマ43及びアンビル11の回転衝突動作については後述する。
【0048】
図2に示すように、ハンマ大径部43bの後側には、バネ44の一端側を支持するための複数の鋼球47が配置される溝43dが形成されている。溝43dは、スピンドル30の軸線方向から見て、円形状に形成されている。複数の鋼球47は、溝43d内に、円形状に並んで配置されている。バネ44の一端側は、ドーナツ状のワッシャ48を介して複数の鋼球47によって支持されている。このように、バネ44の一端側を複数の鋼球47によって支持することにより、バネ44と主ハンマ43とを相対回転させることが可能になる。
【0049】
図3に示すように、ハンマ大径部43bの外周面には、主ハンマ43の軸線方向に伸びる複数のガイド溝43eが形成されている。本実施形態では、ガイド溝43eは、ハンマ大径部43bの外周面に、等間隔に4本、設けられている。これらのガイド溝43eは、ピン46が配置可能なように、半円状の断面を有する。
【0050】
また、
図3及び
図5に示すように、ハンマ大径部43bには、インパクトドライバ1の前方(スピンドル30の軸線方向の他方)に向かって突出する一対のハンマ爪部43fが設けられている。具体的には、
図5に示すように、一対のハンマ爪部43fは、ハンマ大径部43bの前側の面に、該ハンマ大径部43bの中心を挟んで対向する位置に設けられている。すなわち、一対のハンマ爪部43fは、ハンマ大径部43bをインパクトドライバの前側から見て、180度の間隔で配置されている。一対のハンマ爪部43fをこのような配置にすることで、詳しくは後述するように、主ハンマ43が1回転すると該主ハンマ43のハンマ爪部43fが回転角度で180度の間隔でアンビル11のアンビル爪部11bに対して接触する。
【0051】
なお、一対のハンマ爪部43fは、ハンマ大径部43bをインパクトドライバ1の前側から見て、ハンマ大径部43bの内方に向かうほど幅寸法が小さくなるような略三角形状に形成されている。
【0052】
バネ44は、圧縮ばねであり、
図1及び
図2に示すように、スピンドル30の小径部31の外径よりも大きな内径を有する。バネ44は、スピンドル30の小径部31を囲むように配置される。すなわち、スピンドル30の小径部31は、バネ44の内方に配置される。バネ44の一端側は、主ハンマ43によって支持される一方、バネ44の他端側は、スピンドル30の大径部32の前側によって支持される。
【0053】
副ハンマ45は、略円筒状の部材であり、主ハンマ43の外周側に配置されている。副ハンマ45は、主ハンマ43よりも大きな内径を有し、且つ、スピンドル30の小径部31と同等の軸線方向長さを有する。
図2及び3に示すように、副ハンマ45の内周面には、周方向に等間隔に4本のガイド溝45aが形成されている。これらのガイド溝45aは、主ハンマ43に対して副ハンマ45を
図1に示す状態で配置した場合に、主ハンマ43のハンマ大径部43bの外周面上に形成されたガイド溝43eと対応する位置に形成されている。各ガイド溝45aは、ピン46の一部を収納可能な半円状の断面を有する。このように、主ハンマ43のガイド溝43e及び副ハンマ45のガイド溝45a内にピン46を配置する構成とすることで、副ハンマ45を主ハンマ43に対して軸線方向に移動させることができる。
【0054】
図2に示すように、副ハンマ45は、後側がワッシャ49を介して遊星歯車機構21の内歯車24の側面に接触する一方、前側がワッシャ50を介してケーシング15のケーシング本体16によって保持されている。
【0055】
ピン46は、円柱状の鋼製の部材であり、本実施形態では、主ハンマ43と副ハンマ45との間に、4本配置されている。ピン46は、副ハンマ45と同等の軸線方向の長さを有する。
【0056】
ピン46は、一端側(スピンドル30の軸線方向の他方側の端部)が主ハンマ43のガイド溝43eの内面と副ハンマ45のガイド溝45aの内面とによって支持される一方、他端側(スピンドル30の軸線方向の一方側の端部)がスピンドル30の大径部32の外周面と副ハンマ45のガイド溝45aの内面とによって支持される。このように支持されたピン46によって副ハンマ45を支持することにより、該副ハンマ45の回転軸がスピンドル30の回転軸Pと一致するように副ハンマ45を支持することが可能になる。
【0057】
また、上述のようにピン46の両端部を支持することにより、ピン46は、副ハンマ45に対して内周面のみに接触するように配置されるため、該副ハンマ45を径方向内周側から支持する。これにより、副ハンマ45の外径をできるだけ大きくすることが可能になり、該副ハンマ45の慣性モーメントをできるだけ大きくすることができる。
【0058】
しかも、上述のようにピン46の両端部を支持することにより、該ピン46によって副ハンマ45を支持することができるため、該副ハンマ45を支持するための軸受が不要になる。これにより、軸受が不要になる分、インパクトドライバ1のコンパクト化を図れる。
【0059】
図1から
図3に示すように、アンビル11は、回転軸がスピンドル30の回転軸P上に位置するように配置されている。アンビル11は、先端部分にチャック12が接続される円柱状のチャック接続部11aと、該チャック接続部11aの後側から径方向外方に向かって突出する一対のアンビル爪部11bとを有する。一対のアンビル爪部11bは、チャック接続部11aを軸線方向から見て180度間隔で配置されていて、チャック接続部11aに対して一体成形されている。アンビル11は、一対のアンビル爪部11bの前側が、ワッシャ51によってケーシング本体16に対して支持されている。また、アンビル11のチャック接続部11aは、その外周側を軸受52によって回転可能に支持されている。これにより、アンビル11は、ケーシング本体16に対して回転可能に支持されている。
【0060】
図1に示すように、アンビル11のチャック接続部11aには、ビットを挿入するための挿入孔11cが形成されている。挿入孔11c内に挿入されたビットは、チャック12によって固定される。
【0061】
図1に示すように、チャック12は、円筒状のチャック本体12aと、該チャック本体12aの内周側に配置され、該チャック本体12aを後側に付勢するバネ12bと、チャック接続部11aに形成された穴部内に配置された複数の鋼球12cとを備える。チャック本体12aには、ビット固定位置(
図1の状態)で鋼球12cをチャック接続部11aの内方に押し込むための突起部12dが形成されている。突起部12dによって鋼球12cをチャック接続部11aの内方に押し込むことにより、チャック接続部11aの挿入孔11c内に挿入されたビットを鋼球12cによって固定することができる。突起部12dは、チャック本体12aを前側にスライド移動させた場合に、鋼球12cから離間するように形成されている。これにより、チャック本体12aを前側にスライド移動させた場合、鋼球12cは突起部12dによりチャック接続部11aの内方に付勢されなくなるため、該チャック接続部11aの外方に移動する。これにより、ビットをチャック接続部11aの挿入孔11cから容易に取り外すことができる。
【0062】
<回転衝撃動作>
次に、以上のような構成を有するインパクトドライバ1において、アンビル11に固定されたビットに回転及び衝撃を加える動作について説明する。
【0063】
モータ2が回転すると、該モータ2の出力軸2aによって遊星歯車機構21の太陽歯車22が回転する。太陽歯車22の回転によって、遊星歯車23が内歯車24に対して回転する。これにより、遊星歯車23が内歯車24内で移動するため、該遊星歯車23を支持するピン25を介してスピンドル30が回転する。
【0064】
スピンドル30が回転すると、鋼球42を介して主ハンマ43がスピンドル30とともに回転する。主ハンマ43の回転により、該主ハンマ43の一対のハンマ爪部43fがアンビル11のアンビル爪部11bに当接すると、主ハンマ43とともにアンビル11も回転する(
図5の矢印参照)。これにより、アンビル11にチャック12によって取り付けられたビットが回転し、ボルトやナットに回転力を付与する。こうすることで、ボルトやナットの初期の締め付けを行うことができる。
【0065】
ボルトやナットが締め付けられてビットからアンビル11に加わる負荷が大きくなると、主ハンマ43に対してスピンドル30が回転し、主ハンマ43とスピンドル30との間に位置する鋼球42が移動する。そうすると、主ハンマ43がスピンドル30に対して軸線方向後方へ移動し、該主ハンマ43によってバネ44を圧縮する。そして、主ハンマ43がスピンドル30に対して軸線方向の所定位置まで移動すると、主ハンマ43の一対のハンマ爪部43fとアンビル11のアンビル爪部11bとの係合が外れる。
【0066】
このように主ハンマ43の一対のハンマ爪部43fとアンビル11のアンビル爪部11bとの係合が外れると、主ハンマ43は、圧縮されたバネ44の弾性復元力によって、インパクトドライバ1の前方へ移動しつつ回転する。これにより、主ハンマ43の一対のハンマ爪部43fはアンビル11のアンビル爪部11bに衝突し、該アンビル11に回転方向の打撃力が加わる。
【0067】
このとき、主ハンマ43とともに回転する副ハンマ45によって、アンビル11に加える回転方向の打撃力を向上することができる。すなわち、副ハンマ45は、主ハンマ43とともに回転するように構成されているため、上述のように主ハンマ43がバネ44の弾性復元力によってインパクトドライバ1の前方へ移動しつつ回転する際に、主ハンマ43の回転方向の慣性モーメントを増大させる。一方、副ハンマ45は、スピンドル30の軸線方向には移動せず、主ハンマ43の相対移動を許容するように構成されているため、主ハンマ43がスピンドル30の軸線方向へ移動する際の慣性力を増大させない。
【0068】
したがって、本実施形態の構成を有する副ハンマ45によって、主ハンマ43の回転方向の打撃力を向上させることができる。しかも、副ハンマ45は、主ハンマ43よりも内径及び外径が大きい円筒状に形成されているため、コンパクトな構成によって、大きな慣性モーメントを得ることができる。
【0069】
また、本実施形態の構成を有する副ハンマ45によって、主ハンマ43を介してアンビル11にスピンドル30の軸線方向に大きな衝撃が加わるのを防止できる。これにより、ボルトやナットの締め付け力に寄与しない振動を低減することができる。
【0070】
以上の動作を繰り返すことにより、アンビル11に対して回転方向の打撃力が繰り返し付与される。
【0071】
本実施形態の構成によれば、副ハンマ45を主ハンマ43とともに回転可能に支持するピン46において、軸線方向の一方の端部をスピンドル30の大径部32によって支持し、軸線方向の他方の端部を主ハンマ43の外周面によって支持する。これにより、副ハンマ45を支持するための軸受が不要になるため、インパクトドライバ1を小型化することができる。しかも、副ハンマ45は、径方向内方側からピン46によって支持されるため、副ハンマ45の外径をできるだけ大きくすることができ、該副ハンマ45の慣性モーメントを大きくすることができる。これにより、アンビル11に対して回転方向に与えられる回転打撃力を確保することができる。したがって、締結トルクを低下させることなく、インパクトドライバ1のコンパクト化を図れる。
【0072】
<実施形態2>
図6に、本発明の実施形態2に係る回転工具としてのインパクトドライバ100の概略構成を示す。この実施形態では、副ハンマ145の構成が実施形態1の構成とは異なる。以下の説明において、実施形態1と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。なお、
図6においても、インパクトドライバ100において、駆動部分のみを図示し、他の構成は図示を省略している。以下の説明においても、
図6における左側をインパクトドライバの前方(以下、単に前方ともいう)といい、
図6における右側をインパクトドライバの後方(以下、単に後方ともいう)という。
【0073】
モータ2の出力軸2aによって出力される回転力を、スピンドル130に伝達する遊星歯車機構121は、実施形態1と同様の構成を有する太陽歯車22及び遊星歯車23と、後述するピン146を内周側で受ける内歯車124とを備える。内歯車124は、円筒状の部材であり、後側の内周面に遊星歯車23の外歯23aと噛み合う内歯124aが形成されている一方、前側の内周面にはピン146を受けるためのピン受け部124bが形成されている。なお、内歯車124の外周面は、ケーシング115のケーシング本体116の内周面に接触している。
図6において、符号117は、ケーシング115のケーシングカバーである。
【0074】
スピンドル130は、実施形態1のスピンドル30と同様、小径部131と大径部132とを有する。大径部132は、小径部131の後側に位置し、該小径部131と一体形成されている。大径部132と小径部131との接続部分には、主ハンマ43を弾性支持するためのバネ44を保持するバネ保持機構150が設けられている。
【0075】
バネ保持機構150は、複数の鋼球151と、該鋼球151をスピンドル130の大径部132側に押し付けるためのリング152と、後述する副ハンマ145のフランジ部145aとを備える。
【0076】
図7に示すように、リング152は、中央にスピンドル130の小径部131が貫通可能な貫通穴152aを有するドーナツ状に形成されていて、内周側に鋼球151を配置可能な屈曲部152bが設けられている。このような構成を有するリング152によって、複数の鋼球151を、スピンドル130の小径部131と大径部132との接続部分に回転可能な状態で押し付けることができる。したがって、リング152は、複数の鋼球151によって、スピンドル130に対して回転可能に配置される。
【0077】
図6から
図8に示すように、副ハンマ145のフランジ部145aは、円筒状の副ハンマ145の後側に内方に突出するように設けられている。このフランジ部145aは、バネ44の一方の端部を支持するとともに、リング152の外周側に接触するように、配置されている(
図6参照)。これにより、バネ44及び副ハンマ145は、スピンドル130に対して回転可能なリング152によって支持されるため、スピンドル130が回転した場合でも、バネ44の回転を防止することができる。
【0078】
なお、バネ44の他方の端部は、主ハンマ43に設けられた溝43d内に配置されている。
【0079】
ピン146は、軸線方向長さが副ハンマ145の軸線方向の長さよりも長い。これにより、後述するように、副ハンマ145に対してピン146を配置した状態で、ピン146は、副ハンマ145の外方に突出する。なお、ピン146は、軸線方向の長さ以外、実施形態1のピン46と同様の構成を有する。
【0080】
副ハンマ145は、略円筒状の鋼製の部材であり、一方の端部側は、他方の端部側に比べて内径が小さい。すなわち、
図8に示すように、副ハンマ145は、他方の端部側に位置する薄肉部145bと、一方の端部側に位置する厚肉部145cとを有する。また、副ハンマ145の一方の端部、すなわち厚肉部145cの端部には、他の部分に比べて外径が小さい小径部145dが形成されている。小径部145dの端部には、上述のフランジ部145aが形成されている。
【0081】
副ハンマ145の薄肉部145bには、内周面にガイド溝145eが形成されている。また、副ハンマ145の厚肉部145cには、ガイド溝145eと連続するガイド穴145fが形成されている。すなわち、ガイド穴145fは、厚肉部145cを貫通している。副ハンマ145の小径部145dには、外周面にガイド穴145fに連続してガイド溝145gが形成されている。なお、ガイド溝145eは、副ハンマ145の端部には設けられていない。
【0082】
これらのガイド溝145e,145g及びガイド穴145fによって、ピン146を保持することができる。すなわち、ピン146は、副ハンマ145に対して、ガイド穴145fを貫通した状態で、すなわちガイド穴145fの開口部よりも軸線方向外方に突出した状態で、ガイド溝145e,145g内で保持される。また、ピン146は、一方の端部(スピンドル130の軸線方向の他方側)が主ハンマ43の外周面によって支持されていて、他方の端部(スピンドル130の軸線方向の一方側)が遊星歯車機構121の内歯車124のピン受け部124bによって支持されている。既述のとおり、内歯車124の外周面は、ケーシング115のケーシング本体116の内周面に接触しているため、ピン146の他方の端部は、ケーシング115によって支持されている。
【0083】
このように、副ハンマ145に貫通孔としてのガイド穴145fを設け、該ガイド穴145f及びガイド溝145e,145g内にピン6を保持するとともに、主ハンマ43及び内歯車124のピン受け部124bによってピン46の端部を支持することにより、副ハンマ145を、軸受等を用いることなく、支持することができる。これにより、副ハンマ145を軸受等によって支持する構成に比べて、インパクトドライバ100の構成を小型化することができる。
【0084】
しかも、上述のように、主ハンマ43及び内歯車124によって支持されたピン46によって、副ハンマ145を支持することにより、副ハンマ145を製造する際に焼き入れ等の熱処理を行って歪みが生じた場合でも、副ハンマ145を、その軸心がスピンドル130の軸心から大きくずれることなく保持することができる。すなわち、本実施形態のような副ハンマ145の支持構造によって、スピンドル130に対して副ハンマ145を精度良く配置することができる。
【0085】
なお、上述の実施形態1、2の構成において、以下の構成が好ましい。
【0086】
ピン46,146は、軸線方向の長さが副ハンマ45,145における軸線方向の長さと同等以上であるのが好ましい。これにより、ピン46,146の一部をスピンドル30及びケーシング15,115の少なくとも一方によって該ピン46,146の径方向に容易に支持することができる。
【0087】
また、ピン46,146は、主ハンマ43の外周面上に、周方向に少なくとも3つ配置されているのが好ましい。これにより、ピン46,146によって、副ハンマ45,145を主ハンマ43に対して安定して支持することができる。すなわち、副ハンマ45,145を主ハンマ43に対して少なくとも3点で支持することにより、該主ハンマ43が副ハンマ45,145の内面に接触しないように、該副ハンマ45,145をより確実に支持することができる。したがって、主ハンマ43の回転を副ハンマ45,145に安定して伝達できるとともに、該主ハンマ43と該副ハンマ45,145とを安定して相対移動させることができる。
【0088】
また、ピン46は、軸線方向の一方側の端部が副ハンマ45とスピンドル30との間に位置付けられているのが好ましい。これにより、ピン46を介して副ハンマ45の回転軸をスピンドル30の回転軸と容易且つ確実に一致させることができる。
【0089】
また、スピンドル30は、軸線方向の一方の端部に位置し、副ハンマ45の内面との間にピン46を挟み込む大径部32と、前記軸線方向の他方の端部に位置し、主ハンマ43がスピンドル30とともに回転可能に且つ該スピンドル30に対して前記軸線方向に移動可能に配置された小径部31とを有するのが好ましい。
【0090】
これにより、スピンドル30の大径部32によってピン46を支持できるとともに、スピンドル30の小径部31において主ハンマ43を軸線方向に移動させることができる。したがって、副ハンマ45の回転軸をスピンドル30の回転軸に一致させることができるとともに、主ハンマ43をスピンドル30に対して軸線方向に移動可能に配置することができる。
【0091】
しかも、上述の構成により、ピン46の軸線方向の一方側の端部をスピンドル30の大径部32によって支持できるため、副ハンマ45を径方向内方側で支持する構成を容易に実現することができる。
【実施例】
【0092】
上述の実施形態1のような構成を有するインパクトドライバを試作して、実際の性能評価試験を行った。実施例1,2は、実施形態1と同様の構成を有するインパクトドライバを用いた場合の試験結果である。従来例1,2は、市販品のインパクトドライバを用いた場合の試験結果であり、従来例1、2のインパクトドライバは、副ハンマを有しておらず、主ハンマのみを有する。
【0093】
性能評価試験として、アンビルの回転速度の測定、ボルト締付トルクの測定、電流値の測定を行った。
【0094】
アンビルの回転速度の測定は、アンビルを30秒以上、正転(インパクトドライバの後方側から見て右回転)及び逆転(インパクトドライバの後方側から見て左回転)させたときのそれぞれの最高値を回転計によって計測することにより求めた。
【0095】
ボルト締付トルクは、ボルト軸力計を用いて測定した。具体的には、ボルト及びナットにグリスを塗布した後、トルクレンチを用いてボルト及びナットを締め付けて、100N・m、200N・m、300N・mで締め付けたときのボルト軸力計の表示値を読み取った。この読み取り値からトルクの換算値を算出した。そして、インパクトドライバによって、ボルト及びナットを締め付けた状態でボルト軸力計によって表示値を読み取り、予め求めたトルク換算値から、締付トルクを求めた。
【0096】
電流値は、モータ電流を測定した。上述の各測定を行う際に、電流計を用いてモータ電流の最大値を測定した。
【0097】
表1に、実施例1,2、従来例1,2における性能評価試験の結果を示す。なお、表1において、慣性モーメントは、主ハンマ、副ハンマ及び主ハンマと副ハンマとの間に配置されるピンの慣性モーメントの合計を計算によって求めた。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、実施例1,2の構成は、従来例1,2の構成に比べて慣性モーメントが大きいため、従来例1,2の場合の回転速度よりも小さい回転速度で、同等程度の締付トルクが得られる。すなわち、実施例1,2の構成では、従来例1,2の構成における電流値よりも低い値で同等以上の締付トルクが得られた。したがって、実施例1,2の構成は、従来例1,2の構成に比べて効率良く締付トルクが得られる。
【0100】
以上の試験結果から、実施形態1の構成によって、従来の構成と同等の締付トルクを小さい電流によって効率良く得られるため、従来よりも高性能なインパクトドライバを実現できることが分かった。
【0101】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0102】
前記各実施形態では、衝撃付与機構40は、バネ44によって弾性支持された主ハンマ43を、カム溝41及び鋼球42を用いてスピンドル30の回転を利用して軸線方向に移動させることにより、主ハンマ43によってアンビル11に回転打撃力を与える。しかしながら、衝撃付与機構は、アンビル11に回転打撃力を与えることができる構成であれば、他の構成であってもよい。
【0103】
前記各実施形態では、ピン46,146は、主ハンマ43と副ハンマ45,145との間に周方向に4本配置されている。しかしながら、3本以上であれば、主ハンマ43と副ハンマ45,145との間にピンを何本配置してもよい。
【0104】
前記各実施形態では、スピンドル30,130を回転させるための駆動源としてモータ2を用いている。しかしながら、スピンドル30,130を回転させることができる駆動源であれば、モータ以外の駆動源であってもよい。
【0105】
前記各実施形態では、各実施形態の構成をインパクトドライバに適用している。しかしながら、インパクトレンチなどのように回転打撃力を付与する装置であれば、インパクトドライバ以外の装置に対して各実施形態の構成を適用してもよい。
【0106】
前記実施形態2では、ピン146は、副ハンマ145よりも長く、該副ハンマ145よりも後方に突出している。しかしながら、ピンが副ハンマよりも短く、該副ハンマよりも後方に突出していない構成であってもよい。
【0107】
前記実施形態2では、ピン146は、一方の端部が主ハンマ43によって径方向に支持されているとともに、他方の端部がケーシング115によって径方向に支持されている。しかしながら、ピン146の一方の端部が、ケーシング115または該ケーシング115上に設けられた部材によって径方向に支持される構成であってもよい。また、ピン146の他方の端部が、スピンドル130によって径方向に支持される構成であってもよい。さらに、ピン146の他方の端部が、スピンドル130及びケーシング115(ケーシング115によって支持された部材も含む)によって径方向に支持される構成であってもよい。