【実施例】
【0061】
《実施例1:磁心用粉末》
先ず、軟磁性粉末の成分組成と窒化処理条件(温度)をそれぞれ変更した種々の磁心用粉末を製造した。次に、得られた各粉末粒子の表面近傍を、オージェ電子分光分析法(AES)またはX線回折(XRD)により観察した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0062】
〈試料の製造〉
(1)軟磁性粉末(原料粉末)
軟磁性粒子となる原料粉末として、表1に示すように成分組成の異なる5種類の鉄合金からなるガスアトマイズ粉を用意した。各ガスアトマイズ粉は、窒素ガス雰囲気中へ、溶解させた原料を窒素ガスを用いて噴霧し、窒素ガス雰囲気中で冷却させることにより製造したものである。各ガスアトマイズ粉の酸素濃度も表1に併せて示した。酸素濃度の特定方法は前述した通りである。
【0063】
各軟磁性粉末を電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)を用いて、所定のメッシュサイズの篩いにより分級した。本実施例では、表1に併せて示すように、各軟磁性粉末の粒度を「−180」とした。なお、本明細書でいう粉末粒度「x−y」は、篩目開きがx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。粉末粒度「−y」は、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。ちなみに、いずれの軟磁性粉末にも、粒度が5μm未満である軟磁性粒子が含まれていないことをSEMにより確認している(以下同様)。
【0064】
(2)窒化処理工程(絶縁層形成工程)
各軟磁性粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N
2)が0.5L/minの割合で流れる窒化雰囲気中で、表1に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化処理を行った軟磁性粉末を得た(試料11〜16)。
【0065】
〈試料の観察〉
(1)試料12から任意に抽出した粉末粒子について、オージェ電子分光分析(AES)を行い、各粒子の表面近傍(最表面から600nmの深さまでの範囲)の成分組成を調べた。この様子を
図1に示した。
【0066】
(2)表1に示した各試料から任意に抽出した粉末粒子の表面近傍を、X線回折(XRD)により分析して得られたプロフィルを
図2にまとめて示した。なお、XRDは、X線回折装置(D8 ADVANCE:ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いて、管球:Fe−Kα、 2θ:30〜50deg、測定条件:0.021deg/step、9step/secとして行った。
【0067】
〈試料の評価〉
(1)
図1から明らかなように、軟磁性粒子の表面近傍には約300〜400nm程度の厚さを有するAlN層(絶縁層、第1被覆層)が形成されることがわかった。なお、最表面近傍(深さ約10nm程度)には、Oが僅かに検出されているが、これは窒化処理(絶縁層形成工程)後に生じた自然酸化膜に由来するものである。このような自然酸化膜が粒子表面に有る粉末も、当然に本発明の磁心用粉末に含まれる。
【0068】
(2)
図2に示す各プロファイルの回折ピークから明らかなように、Al含有量の少ない軟磁性粒子(試料11)や、殆どSiを含まない軟磁性粒子(試料15、16)でも、その表面にAlN層が形成されていることがわかる。一方、Alと共にSiも多い軟磁性粒子(試料14)では、その表面にAlN層が形成されないことがわかる。つまり、Al量の相対的な割合であるAl比率が小さくなると、AlN層が形成され難いことが確認された。
【0069】
軟磁性粒子の成分組成が同じでも、窒化処理温度によってAlN層が形成される場合(試料12)とされない場合(試料13)があることもわかった。AlN層が安定的に形成されるには、800℃以上さらには1000℃以上程度の比較的高温で窒化処理することが好ましいことが明らかとなった。
【0070】
《実施例2:圧粉磁心》
本実施例では、実施例1の結果を考慮して、種々の圧粉磁心を製造し、それらの比抵抗および曲げ強度を測定・評価した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0071】
〈磁心用粉末の製造〉
(1)軟磁性粉末(原料粉末)
軟磁性粉末として、表2に示すように、組成または粒度の異なる複数のガスアトマイズ粉を用意した。ガスアトマイズ粉の製造方法および粒度調整は既述した通りである。
【0072】
(2)窒化処理工程(絶縁層形成工程)
各軟磁性粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N
2)が0.5L/minの割合で流れる窒化雰囲気中で、表2に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化処理を行った軟磁性粉末を得た(試料21〜31および試料C1、C2)。なお、本明細書では、粒子表面に絶縁層が形成された軟磁性粉末を絶縁被覆粉末という。
【0073】
比較のため、上述した窒化処理を行わない未処理の軟磁性粉末(試料C3)、窒化処理に替えて酸化処理した軟磁性粉末(試料C4、C5)および窒化処理に替えてシリコーン樹脂で粒子表面を被覆した軟磁性粉末(試料C6)も用意した。
【0074】
軟磁性粒子の表面に酸化ケイ素からなる絶縁層を形成する酸化処理(試料C4)は、原料粉末を酸素ポテンシャルを調整した水素雰囲気中で900℃×3時間加熱して行った。軟磁性粒子の表面に酸化鉄からなる絶縁層を形成する酸化処理(試料C5)は、原料粉末を750℃×1時間、酸素濃度10vol%の窒素雰囲気で加熱して行った。シリコーン樹脂の被覆は次のようにして行った。先ず、市販のシリコーン樹脂(MOMENTIVE社製、「YR3370」)をエタノール(溶媒)に溶解させたコーティング樹脂液を調製した。このコーティング樹脂液へ原料粉末を投入して混合した後、エタノールを揮発させた。こうして得られた残存物を250℃に加熱してシリコーン樹脂を硬化させた。この際、シリコーン樹脂量は、原料粉末全体に対して0.2質量%とした。便宜上、それらの粉末も含めて単に絶縁被覆粉末という。
【0075】
(3)ガラス付着工程
試料C1を除き、上述した各絶縁被覆粉末の各粒子に低融点ガラスを以下のようにして付着させて磁心用粉末を製造した。なお、表2に示した低融点ガラスの種類は、表3に示したいずれかである。表3には、各低融点ガラスの成分組成に加えて、本明細書でいう軟化点も併せて示した。
【0076】
(i)ガラス微粒子の調製
低融点ガラスとして、表3に示す各組成を有する市販のガラスフリット(D以外:日本琺瑯釉薬社製/D:東罐マテリアル・テクノロジー社製)を用意した。各ガラスフリットを湿式粉砕機(ダイノーミル:シンマルエンタープライズ社製)のチャンバーへ投入し、攪拌用プロペラを作動させて、各ガラスフリットを微粉砕した。この微粉砕したものを回収して乾燥させた。こうして各種の低融点ガラスからなるガラス微粒子を得た。得られたガラス微粒子の粒径(粒度)は、いずれも軟磁性粒子よりも小さく、最大粒径が約5μmであった。なお、この粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析により確認した。
【0077】
(ii)乾式コーティング
絶縁被覆粉末とガラス微粒子粉末とを回転ボールミルで攪拌した。攪拌後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうして表面にガラス微粒子が付着した絶縁被覆粒子からなる磁心用粉末を得た。なお、低融点ガラス(ガラス微粒子粉末)の添加量は、磁心用粉末全体を100質量%として表2に併せて示した。
【0078】
〈圧粉磁心の製造〉
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、金型潤滑温間高圧成形法により、円板状(外径:φ23mm×厚さ2mm)の成形体を得た。この際、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。具体的には次のようにして各粉末を成形した。
【0079】
所望形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4z(十点平均粗さ/Rzjis)とした。
【0080】
加熱した金型の内周面に、ステアリン酸リチウム(1%)の水分散液をスプレーガンにて10cm
3/分程度の割合で均一に塗布した。なお、この水分散液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものである。その他の詳細は、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報等に記載に沿って行った。
【0081】
各磁心用粉末をステアリン酸リチウムが内面に塗布された金型へ充填し(充填工程)、金型を130℃に保持したまま1568MPaで温間成形した(成形工程)。なお、この温間成形時、いずれの成形体も金型とかじり等を生じることはなく、低い抜圧で金型からの取り出しが可能であった。
【0082】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体を加熱炉に入れ、窒素ガスが8L/minの割合で流れる雰囲気中で1時間加熱した。そのときの加熱温度(焼鈍温度)も表2に併せて示した。こうして表2に示す各種の圧粉磁心(試料)を得た。
【0083】
〈圧粉磁心の観察・測定〉
(1)各圧粉磁心の粒界部(軟磁性粒子の隣接部)をCP研磨(Cross-section Polishing)して、走査型電子顕微鏡(SEM/株式会社日立ハイテクノロジーズ製:SU3500)により観察した。その一例として、試料23に係る反射電子像(BSE組織写真)と、それをエネルギー分散型X線分析(EDX)により得られた各成分元素の分布像(マッピング組織写真)を
図3にまとめて示した。
【0084】
(2)各圧粉磁心の比抵抗および曲げ強度を求めた。比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法により測定した電気抵抗と、各試料を実際に採寸して求めた体積とから算出した。曲げ強度は、円板状の試料に対して3点曲げ強度試験より算出した。これらの結果を表2に併せて示した。また、各試料の比抵抗と曲げ強度の関係を
図4に示した。なお、表2中にある比抵抗欄に示した「≧10
5」は、測定試料の比抵抗が大きくて、測定限界を超えたこと(オーバーレンジ)を示す。
【0085】
《圧粉磁心の評価》
(1)粒界構造
図3および表2から次のことがわかる。Al比率および窒化処理条件が本発明の範囲内にある試料はいずれも、軟磁性粒子の表面にAlとNが濃化したAlN層(第1被覆層)が形成されていると共に、それらの粒界部にはSiおよびOが濃化した低融点ガラス層(第2被覆層)が形成されていることが確認された。また、
図3から明らかなように、軟磁性粒子の主成分であるFeは粒界側に拡散しておらず、低融点ガラスの主成分であるSiおよびOも軟磁性粒子側へ拡散していない。従って、軟磁性粒子の表面を覆うAlN層は、それらの拡散を抑止するバリヤー層として機能していることも確認された。
【0086】
(2)特性
図4および表2から明らかなように、軟磁性粒子の表面がAlN層で被覆されていると共にその粒界部に低融点ガラスがある圧粉磁心(試料21〜31)はいずれも、十分な比抵抗と相応な曲げ強度を発揮することがわかった。特に、軟磁性粒子中に適量なSiを含有する試料21〜30では比抵抗が大きく、軟磁性粒子中にSiを殆ど含まない試料31では曲げ強度が大きくなった。
【0087】
一方、試料C1からわかるように、AlN層(第1被覆層)が有っても低融点ガラス層(第2被覆層)が無い場合、比抵抗は高いものの曲げ強度は極端に低くなった。逆に、試料C2や試料C3からわかるように、低融点ガラス層があってもAlN層が無い場合、曲げ強度は高いものの比抵抗が極端に低くなった。
【0088】
また、試料C4や試料C5からわかるように、第1被覆層が酸化物層(Si−O系層またはFe−O系層)の場合、第2被覆層(低融点ガラス層)により曲げ強度は高くなったが、比抵抗が極端に低くなった。この理由として、軟磁性粒子の表面にある酸化物層が、焼鈍時の加熱により溶融(軟化)した低融点ガラスと反応して変質し、その絶縁性が低下したためと考えられる。
【0089】
さらに、試料C6からわかるように、第1被覆層がシリコーン樹脂層である場合、第2被覆層(低融点ガラス層)の存在にも拘わらず、比抵抗も曲げ強度も低くなった。この理由として、シリコーン樹脂層が焼鈍時の加熱により変質して絶縁性を低下させたことと、溶融(軟化)した低融点ガラスはシリコーン樹脂層との濡れ性が悪く、粒界部に破壊起点となる微細な空隙等を生じたこととが考えられる。
【0090】
以上のことから本発明の圧粉磁心は、AlN層(第1被覆層)と低融点ガラス層(第2被覆層)の相乗的な作用により、高温焼鈍後ても高比抵抗および高強度を発揮したと考えられる。
【0091】
《実施例3:磁心用粉末および圧粉磁心》
[磁心用粉末]
実施例1または実施例2に対して、組成や製法が異なる原料粉末を用いると共に窒化処理条件(温度)を変更して、種々の磁心用粉末を製造した。そして得られた各粉末の粒子表面近傍を、AES、XRDまたは走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0092】
〈試料の製造〉
(1)原料粉末
原料粉末として、表4に示すように、組成の異なる6種類のFe−Si−Al系合金からなるガス水アトマイズ粉を用意した。各ガス水アトマイズ粉はいずれも、窒素ガス雰囲気中へ溶解させた原料を窒素ガスを用いて噴霧した後に水冷して製造したものである。各ガス水アトマイズ粉の酸素濃度を表4に併せて示した。酸素濃度の特定方法は前述した通りである。ガス水アトマイズ粉は、噴霧後の高温粒子が冷却媒体である水と反応するため、ガスアトマイズ粉よりも粒子表面に酸化膜(特にAl−O膜)が形成され易いと考えられる。
【0093】
各原料粉末を電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)を用いて、所定のメッシュサイズの篩いにより分級した。本実施例では、表4に併せて示すように、各粉末の粒度を「−180」とした。
【0094】
(2)窒化処理工程(絶縁層形成工程)
各粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N
2)フロー中で、表4に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化処理を行った軟磁性粉末を得た(試料41〜48、試料D1〜D3、試料D6)。
【0095】
〈試料の観察〉
(1)試料41、試料43、試料46および試料D6から任意に抽出した粉末粒子について、AESを行い、各粒子の表面近傍(最表面から500nmの深さまでの範囲)における組成分布を調べた。この様子を
図5A〜
図5D(これらを併せて単に「
図5」ともいう。)に示した。
【0096】
(2)試料43から任意に抽出した粉末粒子の表面近傍を、XRDにより分析して得られたプロフィルを
図6に示した。なお、XRDは、実施例1の場合と同様に行った。
【0097】
(3)試料46の粉末粒子から、収束イオンビームマイクロサンプリング法(FIB法)により作製した観察用試料を用いて、粒子表面を走査型透過電子顕微鏡(STEM/日本電子株式会社製:JEM-2100F)で観察した。これにより得られた粒子の表層部の暗視野像と、そこに含まれる元素(N、Al、FeおよびO)のマッピング像を
図7に併せて示した。
【0098】
[圧粉磁心]
上記のようにして製造した各試料の粉末(絶縁被覆粉末)を用いて圧粉磁心を製造し、それらの比抵抗および圧環強度を測定・評価した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0099】
〈磁心用粉末の製造〉
(1)絶縁被覆粉末
上述したようにガス水アトマイズ粉(軟磁性粉末)に窒化処理を施して得られた粉末(試料41〜48および試料D1〜D3)の他に、窒化未処理の軟磁性粉末(試料D4)と、Alを含まないガス水アトマイズ粉からなる窒化未処理の軟磁性粉末(試料D5)も用意した。試料D4および試料D5に係る粉末を併せて、単に未処理粉末ともいう。
【0100】
(2)ガラス付着工程
試料D1を除き、各試料に係る絶縁被覆粉末または未処理粉末の粒子表面に、表3に示したいずれかの低融点ガラスを、実施例2の場合と同様に付着させて磁心用粉末を製造した。なお、低融点ガラス(ガラス微粒子粉末)の添加量は、いずれの試料でも、磁心用粉末全体(100質量%)に対して1質量%とした。
【0101】
〈圧粉磁心の製造〉
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、実施例2の場合と同様に、金型潤滑温間高圧成形法により成形体を製造した。但し、その形状は円環状(外径φ39mm×内径φ30mm×高さ5mm)とした。また成形圧力は、いずれの試料でも1000MPaとした。
【0102】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体を加熱炉に入れ、窒素ガスフロー中の750℃の雰囲気中で30分間加熱した。いずれの試料でも同条件で焼鈍工程を行った。こうして表4に示す各種の圧粉磁心(試料)を得た。
【0103】
〈圧粉磁心の測定〉
各圧粉磁心の比抵抗および圧環強度を求めた。比抵抗は、実施例2の場合と同様に測定および算出した。圧環強度は、円環状の各圧粉磁心を用いて、JIS Z2507に準じて測定して求めた。これらの結果を表4に併せて示した。また、各試料の比抵抗と圧環強度の関係を
図8に示した。
【0104】
《評価》
(1)磁心用粉末
表4、
図5、
図6および
図7から明らかなように、ガスアトマイズ粉よりも酸素濃度が高いガス
水アトマイズ粉を用いた場合でも、比較的高温で窒化処理することにより、軟磁性粒子の表面近傍には約200〜600nm程度の厚さを有する均一的なAlN層(絶縁層、第1被覆層)が形成されることがわかった。
【0105】
そして窒化処理温度が高くなるほど、AlN層中に含まれるO(ひいては酸化物)が少なくなった。また、原料粉末の組成が同じ試料41(
図5A)と試料43(
図5B)を比較するとわかるように、窒化処理温度が高くなるほど、AlN層が厚くなった。この傾向は、Al比率が高くなるほど顕著であることも、それら試料41、43と試料46(
図5C)とを比較することによりわかる。
【0106】
一方、試料D6に係る
図5Dからわかるように、原料粉末の酸素濃度が高い場合に、窒化処理温度が不十分であると、Al−O系酸化物が多くなり、AlNの形成が不十分となることもわかった。なお、
図5A〜
図5Cにおいて、粒子最表面近傍(深さ約10nm程度)に検出されている僅かなOは、実施例1の場合と同様に、主に、窒化処理(絶縁層形成工程)後に生じた自然酸化膜に由来する。
【0107】
以上のことから、酸素濃度の高い原料粉末を用いても、高温で窒化処理すれば、原料粉末の粒子表面近傍にあったOは粒子内部側へ移動し、逆に軟磁性粒子にあったAlは最表面側に移動して、厚くて均一的なAlN層が粒子表面に形成されるといえる。そして、原料粉末の粒子表面近傍に存在していたOは、酸化アルミニウム(Al−O)としてAlN層の最表面近傍または内部に分散するといえる。
【0108】
(2)圧粉磁心
表4および
図8から明らかなように、軟磁性粒子の表面がAlN層で被覆されていると共にその粒界に低融点ガラスがある圧粉磁心(試料41〜48)はいずれも、十分な比抵抗と相応な圧環強度を発揮することがわかった。
【0109】
一方、試料D1のように、AlN層(第1被覆層)が有っても低融点ガラス層(第2被覆層)が無い場合、比抵抗は高いが強度はかなり低くなることもわかった。逆に、試料D2〜試料D5のように、低融点ガラス層があってもAlN層が形成されていない場合、強度は高いが比抵抗が極端に低くなることもわかった。
【0110】
以上のことから、原料粉末の種類に依らず、適切な窒化処理を施すことにより、軟磁性粒子の表面には、均一的なAlN層(第1被覆層)の形成が可能となることがわかった。そして、粒子表面がAlN層で被覆された軟磁性粉末(絶縁被覆粉末)と低融点ガラスとを組合わせて製造される圧粉磁心は、高温焼鈍後に、高比抵抗および高強度を発揮することもわかった。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】