特許第6397388号(P6397388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397388圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397388
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20180913BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20180913BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20180913BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180913BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20180913BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20180913BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20180913BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F1/33
   H01F1/147 191
   C22C38/00 303T
   B22F3/00 B
   C22C33/02 N
   B22F1/02 E
   B22F1/00 Y
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-174749(P2015-174749)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-58732(P2016-58732A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-182709(P2014-182709)
(32)【優先日】2014年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坪 将士
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジョンハン
(72)【発明者】
【氏名】服部 毅
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
(72)【発明者】
【氏名】原 昌司
(72)【発明者】
【氏名】田島 伸
(72)【発明者】
【氏名】三枝 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 洪平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利光
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直樹
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−243215(JP,A)
【文献】 特開2006−233268(JP,A)
【文献】 特開2012−049203(JP,A)
【文献】 特開平05−036514(JP,A)
【文献】 特許第5682723(JP,B1)
【文献】 特開2015−103770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12−1/38、27/24−27/26、
H01F 41/00−41/04
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05、33/02、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlとSiを含み残部がFeである鉄合金からなり、該鉄合金の全体を100質量%(単に「%」という。)としたときにAlとSiの合計含有量が10%以下であると共に該合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が0.45以上である軟磁性粒子と、
該軟磁性粒子の表面を被覆する窒化アルミニウムからなる第1被覆層と、
該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスからなり該第1被覆層の少なくとも一部の表面を被覆する第2被覆層と、
を有することを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記第1被覆層は、酸化物を含む請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記酸化物は、AlとOからなる請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記低融点ガラスは、硼珪酸塩系ガラスを含む請求項1〜3のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記低融点ガラスは、圧粉磁心全体を100質量%としたときに0.1〜5質量%含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記低融点ガラスは、圧粉磁心全体を100質量%としたときに0.2〜3.6質量%含まれる請求項5に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
前記低融点ガラスの軟化点は、800℃以下である請求項1〜6のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項8】
軟磁性粒子と、
窒化アルミニウムからなり該軟磁性粒子の表面を被覆する絶縁層と、
該絶縁層上に付着していると共に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスとからなり、
請求項1〜7のいずれかに記載の圧粉磁心の製造に用いられることを特徴とする磁心用粉末。
【請求項9】
AlとSiを含み残部がFeである鉄合金からなり、該鉄合金の全体を100質量%(単に「%」という。)としたときにAlとSiの合計含有量が10%以下であると共に該合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が0.45以上である軟磁性粒子を窒化雰囲気中で800℃以上に加熱することにより該軟磁性粒子の表面に窒化アルミニウムからなる絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
該絶縁層の表面に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスを付着させるガラス付着工程と、
を備えることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、
該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、
該成形工程後に得られた成形体を焼鈍する焼鈍工程と、
を備えることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積比抵抗値(以下単に「比抵抗」という。)または強度に優れる圧粉磁心、その圧粉磁心が得られる磁心用粉末およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等、我々の周囲には電磁気を利用した製品が多々ある。これらの製品は交番磁界を利用したものが多く、局所的に大きな交番磁界を効率的に得るために、通常、磁心(軟磁石)をその交番磁界中に設けている。
【0003】
磁心には、交番磁界中における高磁気特性のみならず、交番磁界中で使用したときの高周波損失(以下、磁心の材質に拘らず単に「鉄損」という。)が少ないことが求められる。鉄損には、渦電流損失、ヒステリシス損失および残留損失があるが、中でも交番磁界の周波数が高くなる程に高くなる渦電流損失の低減が重要である。
【0004】
このような磁心として、絶縁層(膜)で被覆された軟磁性粒子(磁心用粉末の構成粒子)を加圧成形した圧粉磁心の開発、研究が行われている。圧粉磁心は、各軟磁性粒子間に絶縁層が介在することにより、高比抵抗で低鉄損であり、また形状自由度も高いため、種々の電磁機器に用いられる。さらに最近では、圧粉磁心の用途を拡大する上で、その比抵抗と共に強度の向上も重視されている。このような圧粉磁心に関する記載が下記の特許文献等にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−243215号公報
【特許文献2】特開2006−233268号公報
【特許文献3】特開2013−171967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、窒化層を表面に形成したFe−Si系軟磁性粒子と、シリコーン樹脂等からなる絶縁性結着剤(バインダー)とからなる圧粉磁心に関する記載がある。この窒化層は窒化ケイ素からなり、絶縁材(シリコーン樹脂等)が高温焼鈍時に軟磁性粒子中へ拡散することを抑制するために形成されている([0013]等)。この圧粉磁心は、例えば、Fe−4Si−3Al(wt%)の粉末とシリコーン樹脂を混練したコンパウンドを加圧した成形体を、N中で800℃×30分間加熱して窒化処理および焼鈍処理を行うことにより製造されている([0019]、表1中の試料15)。
【0007】
しかし、そのような製法で得られる圧粉磁心の場合、絶縁材であるシリコーン樹脂等の耐熱温度よりも焼鈍温度が高いため、結局、軟磁性粒子間の絶縁性や結着強度が不十分となり易い。なお、特許文献1のような製法では、均質的または均一的な窒化層が軟磁性粒子間に形成され得ないと考えられる。
【0008】
特許文献2には、SUS316製の容器(易酸化性容器)に入れたガスアトマイズ粉(Fe−Cr−Al)を、大気(窒素含有雰囲気)中で1000℃まで加熱することにより、表面が高電気抵抗なAlN系皮膜で覆われた粒子からなる磁性粉末が得られる旨が記載されている([0022]、[0023]等)。このAlN系皮膜の形成には、粉末中に含まれるCrが必須であり、Crが含まれないときはFe窒化物が生成される旨も特許文献2に記載されている([0011])。
【0009】
特許文献2のようにFe−Cr−Al粉末を大気中で加熱した場合、通常は、粒子表面に酸化皮膜が少なからず形成されるはずであり、粒子表面にAlNが均質的に形成されるとは考え難い。なお、特許文献2は磁心用粉末に関するものであり、圧粉磁心の比抵抗や強度に関する具体的な提案は何らしていない。
【0010】
特許文献3には、SiOによる絶縁処理を行ったガスアトマイズ粉(Fe−6.5wt%Si)からなる成形体を、窒素含有雰囲気中でマイクロ波加熱(焼鈍処理)することにより、窒化物が表面に形成された粒子からなる圧粉磁心が得られる旨の記載がある。もっとも、その窒化物は明らかにSi系窒化物であり、後述するようなAlNではなく、また低融点ガラスに関する記載も特許文献3には一切ない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、比抵抗や強度の向上を安定的に図れる新たな圧粉磁心を提供することを目的とする。また、そのような圧粉磁心の製造方法と、その圧粉磁心の製造に好適な磁心用粉末およびその製造方法も併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、この課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、窒化アルミニウムからなる第1被覆層と低融点ガラスからなる第2被覆層を粒界に有する軟磁性粒子からなる圧粉磁心が、従来よりも優れた比抵抗および強度を安定的に発現することを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0013】
《圧粉磁心》
本発明の圧粉磁心は、AlとSiを含み残部がFeである鉄合金からなり、該鉄合金の全体を100質量%(単に「%」という。)としたときにAlとSiの合計含有量が10%以下であると共に該合計含有量に対するAl含有量の質量割合であるAl比率が0.45以上である軟磁性粒子と、該軟磁性粒子の表面を被覆する窒化アルミニウムからなる第1被覆層と、該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスからなり該第1被覆層の少なくとも一部の表面を被覆する第2被覆層と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の圧粉磁心の場合、セラミックスである窒化アルミニウムからなる第1被覆層(適宜、「AlN層」という。)は、絶縁性および耐熱性に優れる。このため成形時に軟磁性粒子へ導入された残留歪み等を除去するために高温焼鈍がなされても、第1被覆層は変質したり欠陥を生じたりせず、高い絶縁性を発揮し、隣接する軟磁性粒子間の短絡を抑止する。仮に、第1被覆層に亀裂等の欠陥が生じたとしても、その表面を被覆する低融点ガラスからなる第2被覆層により軟磁性粒子間の絶縁性は維持される。こうして本発明の圧粉磁心は、第1被覆層および第2被覆層が相乗的に作用して高比抵抗を発揮し得る。
【0015】
また、焼鈍時に軟化または溶融した低融点ガラスは、AlN層に対する濡れ性が良好であり、AlN層上を均一的に濡れ拡がる。このため本発明の圧粉磁心は、軟磁性粒子間の微細な隙間(三重点等)にも低融点ガラスが充填された状態となり、破壊起点となる空隙等を殆ど生じることがない。この結果、低融点ガラスからなる第2被覆層(適宜、「低融点ガラス層」ともいう。)は、第1被覆層と相まって隣接する軟磁性粒子間の絶縁性を高めると共に、隣接する軟磁性粒子同士を強固に結合し得る。
【0016】
このように第1被覆層と第2被覆層が相乗的に作用することにより、本発明の圧粉磁心は優れた比抵抗と強度を高次元で両立しつつ、高い磁気特性(低保磁力、低ヒステリシス損失等)を発揮し得る。
【0017】
ちなみに、本発明の圧粉磁心の場合、理由は定かではないが、高温焼鈍後でも、低融点ガラスと軟磁性粒子の間で各構成元素の拡散は殆ど生じない。つまり、それらの間に介在するAlN層が、まるでバリヤー層のように機能して、低融点ガラスの変質や劣化が抑止されている。このようなAlN層の作用も、圧粉磁心の比抵抗と強度の向上に寄与していると考えられる。
【0018】
《磁心用粉末》
本発明は、上述した圧粉磁心の製造に好適な磁心用粉末としても把握できる。つまり本発明は、軟磁性粒子と、窒化アルミニウムからなり該軟磁性粒子の表面を被覆する絶縁層(AlN層)と、該絶縁層上に付着していると共に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスと、からなることを特徴とする磁心用粉末でもよい。この磁心用粉末は、上述した圧粉磁心の製造に好適である。
【0019】
なお本明細書では、その絶縁層(AlN層)上に低融点ガラスが付着している軟磁性粒子を適宜「磁心用粒子」という。この磁心用粒子の集合体が本発明の磁心用粉末となる。また、磁心用粒子中の低融点ガラスは、その存在形態を問わない。例えば、軟磁性粒子よりも粒径の小さいガラス微粒子として絶縁層上に付着していてもよいし、その絶縁層を被覆する膜状または層状として付着していてもよい。これらは磁心用粉末の製造方法についても同様である。
【0020】
いずれにしても、磁心用粉末の成形体(圧粉磁心)を焼鈍した際に、その低融点ガラスが軟化さらには溶融して、各軟磁性粒子を被覆する窒化アルミニウムからなる第1被覆層と、その第1被覆層上に低融点ガラスからなる第2被覆層が形成されれば足る。
【0021】
《磁心用粉末の製造方法》
本発明は、上記の磁心用粉末の製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、少なくともAlを含む鉄合金からなる軟磁性粒子を窒化雰囲気中で800〜1300℃さらには850〜1250℃に加熱することにより該軟磁性粒子の表面に窒化アルミニウムからなる絶縁層を形成する絶縁層形成工程を備えることを特徴とする磁心用粉末の製造方法でもよい。本発明の製造方法は、さらに、その絶縁層の表面に該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラスを付着させるガラス付着工程を備えると好適である。
【0022】
《圧粉磁心の製造方法》
本発明は、圧粉磁心としてのみならず、その製造方法としても把握し得る。つまり本発明は、上述した磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、該成形工程後に得られた成形体を焼鈍する焼鈍工程と備え、比抵抗または強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする圧粉磁心の製造方法でもよい。
【0023】
《その他》
(1)本発明でいう「軟磁性粒子の焼鈍温度」とは、具体的には、磁心用粉末の加圧成形体から残留歪みや残留応力を除去するためになされる焼鈍工程の加熱温度である。焼鈍温度は、選択した低融点ガラスの軟化点より大きければ、その具体的な温度を問わないが、例えば、650℃以上、700℃以上、800℃以上さらには850℃以上とすると好ましい。一方、低融点ガラスの軟化点は、800℃以下、750℃以下さらには725℃以下であると好ましい。逆に、その軟化点は、350℃以上、375℃以上、500℃以上さらには570℃以上であると好ましい。
【0024】
なお、本発明でいう「軟化点」は、加熱された低融点ガラスの粘度が、温度上昇の過程で1.0x107.5dPa・sとなる温度である。従って本発明でいう軟化点は、一般的にいわれるガラス転移点(Tg)とは必ずしも一致しない。ちなみにガラスの軟化点はJIS R3103−1 ガラスの粘性および粘性定点−第1部:軟化点の測定方法− により特定される。
【0025】
(2)本発明に係るAlN層は、完全な結晶構造からなる場合の他、不完全な結晶構造が含まれていてもよく、AlとNの原子比が厳密に1:1でなくてもよい。その絶縁性も軟磁性粒子自体よりも大きければよく、その具体的な抵抗値までは問わない。
【0026】
ちなみに、第1被覆層はAlNのみからなる場合の他、上述した絶縁性、耐熱性または濡れ性等を損なわない範囲で、AlN以外の物質を含有していてもよい。例えば、第1被覆層はAlN以外に酸化物を含むものでもよい。この酸化物は、例えば、AlとOの化合物(適宜、「Al−O」という。)である。Al−Oは、例えば、α−Al またはγ−Alで表される酸化アルミニウム(III)、AlOで表される酸化アルミニウム(I)、AlOで表される酸化アルミニウム(II)の他、それらのOが一部欠損した酸化アルミニウム等のいずれかと考えられるが、その組成や構造を一概に特定したり規定することは容易ではない。なお、本明細書では、組成や構造を問わず、Al−Oを単に「酸化アルミニウム」ともいう。
【0027】
Al−Oは、第1被覆層の内部、上層側(第2被覆層側)、下層側(軟磁性粒子側)のいずれに存在していてもよいし、全体的に分散(分布)していてもよい。また、Al−Oは、その存在位置によって組成や構造が異なっていてもよい。Al−O量は特に問わないが、第1被覆層に含まれる不純物の一種と考えるなら、少ないほど好ましい。第1被覆層で被覆された軟磁性粒子全体(第2被覆層を含まない軟磁性粒子全体)を100質量%として、例えば、O量は、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下さらには0.08質量%以下であると好ましい。
【0028】
なお、本発明に係る第1被覆層または第2被覆層は、全軟磁性粒子の外表面に均一的または均質的に存在していると好ましいが、一部に被覆されていない部分や不均一または不均質な部分が存在してもよい。また本発明でいう第2被覆層は、圧粉磁心を構成する粒子間に介在する粒界層と換言できる。
【0029】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。また本明細書に記載した種々の数値や数値範囲内に含まれる数値を任意に組み合わせて「a〜b」のような新たな数値範囲を構成し得る。さらに、「α以上」は「α超」に、「β以下」は「β未満」に、それぞれ適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】窒化処理した軟磁性粒子(試料12)の表面近傍を観察したAES図である。
図2】窒化処理した各軟磁性粒子の表面近傍を示すXRDプロファイル図である。
図3】圧粉磁心(試料23)の粒界を示すBSE組織写真と、その粒界を構成する各元素の分布を示すマッピング組織写真である。
図4】各試料に係る圧粉磁心の比抵抗と曲げ強度の関係を示す分散図である。
図5A】窒化処理した軟磁性粒子(試料41)の表面近傍を観察したAES図である。
図5B】窒化処理した軟磁性粒子(試料43)の表面近傍を観察したAES図である。
図5C】窒化処理した軟磁性粒子(試料46)の表面近傍を観察したAES図である。
図5D】窒化処理した軟磁性粒子(試料D6)の表面近傍を観察したAES図である。
図6】窒化処理した軟磁性粒子(試料43)の表面近傍を示すXRDプロファイル図である。
図7】窒化処理した軟磁性粒子(試料46)の表面近傍に係る暗視野STEM像とSTEM−EDX元素マッピング像である。
図8】各試料に係る圧粉磁心の比抵抗と圧環強度の関係を示す分散図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含めて本明細書で説明する内容は、本発明に係る圧粉磁心のみならず、それに用いられる磁心用粉末やそれらの製造方法等にも適宜適用され得る。従って、上述した本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。この際、製造方法に関する構成は、一定の場合(構造または特性により「物」を直接特定することが不可能であるかまたは非実際的である事情(不可能・非実際的事情)等がある場合)、プロダクトバイプロセスとして「物」に関する構成ともなり得る。なお、最良な実施形態は、要求性能等に応じて適宜選択される。
【0032】
《軟磁性粒子(軟磁性粉末)》
軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子は、VIII属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、取扱性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。鉄合金は、Alを含む鉄合金(Al含有鉄合金)であると、窒化アルミニウムからなる絶縁層(第1被覆層)の形成が容易となり好ましい。さらに鉄合金は、Siを含むと、軟磁性粒子の電気抵抗率の向上、圧粉磁心の比抵抗の向上(渦電流損失の低減)または強度向上等も図れて好ましい。また、鉄合金中にAlと共にSiが含まれていると、AlN層の形成が容易となり好ましい。
【0033】
ここで本発明に係る鉄合金がSiを含む場合、その含有量が過多になると、軟磁性粒子の表面に窒化アルミニウムよりも窒化ケイ素(Si)が優先的に形成され易くなって好ましくない。そこで、本発明に係る鉄合金は、AlとSiの合計含有量(Al+Si)に対するAl含有量の質量割合であるAl比率(Al/Al+Si)が0.447以上、0.45以上、0.5以上さらには0.7以上であると好ましい。なお、Al比率の上限値は1以下、0.9以下であると好ましい。その際、AlとSiの合計含有量は、鉄合金の全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに10%以下、6%以下、5%以下さらには4%以下であると好ましい。なお、AlとSiの合計含有量の下限値は1%以上さらには2%以上であると好ましい。
【0034】
鉄合金中のAlやSiの具体的な組成は、AlN層の形成性、圧粉磁心の磁気特性、磁心用粉末の成形性等を考慮して適宜調整され得る。例えば、軟磁性粒子を構成する鉄合金全体を100%としたときに、Al:0.5〜6%、1〜5%さらには1.2〜3%であり、Si:0.01〜5%、1〜3%さらには1.2〜2.5%であると好ましい。AlまたはSiが過少なら上述した効果が乏しく、過多なら圧粉磁心の磁気特性や成形性の低下、コストの増大等を招き好ましくない。
【0035】
なお、本発明に係る鉄合金は、主たる残部はFeであるが、Feおよび不可避不純物以外の残部として、AlNの生成性、圧粉磁心の磁気特性や比抵抗、磁心用粉末の成形性等を改善し得る改質元素を一種以上含有し得る
【0036】
軟磁性粒子の粒径は問わないが、通常、10〜300μmさらには50〜250μmであると好ましい。粒径が過大になると比抵抗の低下または渦電流損失の増加を招き、粒径が過小になるとヒステリシス損失の増加等を招くため、好ましくない。なお、本明細書でいう粉末の粒径は、特に断らない限り、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分法で定まる粒度で規定する。
【0037】
軟磁性粒子となる原料粒子またはその集合体である原料粉末は、上述した本発明の圧粉磁心が得られる限り、その製法は問わない。但し、原料粉末の製法の影響等を受けて、軟磁性粒子に含有される酸素量(酸素濃度)は変動し得る。特に、含有させる意図がなくても、Oは軟磁性粒子の表面に酸化物等として不可避的に付着し得ることが多い。被覆処理前の軟磁性粒子の表面(つまり原料粒子の表面)に存在する酸素は、過多でなければ、少なくても多くても、良好な第1被覆層の形成は可能であり、比抵抗や強度に優れた圧粉磁心を得ることができる。
【0038】
そこで本発明に係る軟磁性粒子(軟磁性粉末)は、例えば、粒子表面の酸素濃度が0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.08%以下、0.07%以下さらには0.06%以下である原料粒子(原料粉末)からなると好ましい。なお、本明細書でいう酸素濃度は次のように特定され、被覆処理前の原料粉末全体(測定対象である原料粒子全体)を100質量%として規定される。
【0039】
本明細書でいう酸素濃度は、赤外線吸収法(赤外分光法:IR)により特定される。具体的にいうと、測定する対象試料である原料粒子(原料粉末の一部)を不活性ガス(He)雰囲気中で加熱・融解させ、発生したCOを抽出し、これを検出器により検出して定量化することにより、上述の酸素濃度が特定される。
【0040】
また、軟磁性粒子となる原料粉末は、擬球状粒子からなるアトマイズ粉であると、粒子相互間の攻撃性も低くなって比抵抗値の低下も抑制されて好ましい。アトマイズ粉は、例えば、NあるいはArなどの不活性ガス雰囲気中へ溶解させた原料を噴霧して得られるガスアトマイズ粉でも、溶解させた原料の噴霧後に水冷して得られるガス水アトマイズ粉でもよい。アトマイズ粉の噴霧雰囲気中に含まれる酸素の他、その噴霧粒子の冷却媒体である水も酸素源になっていると考えられる。このため、ガスアトマイズ粉を用いると、軟磁性粒子の表面における酸素濃度をより低くできる。ガス水アトマイズ粉を用いると、磁心用粉末または圧粉磁心の原料コスト低減を図れる。なお、本発明に係る軟磁性粉末は、単種の粉末からなる場合のほか、粒度、製法、組成の異なる複数種の粉末を混合したものでもよい。
【0041】
《低融点ガラス》
本発明に係る低融点ガラスは、圧粉磁心に要求される比抵抗、強度、焼鈍温度等を考慮して、適切な組成からなる低融点ガラスが選択されると好ましい。また本発明に係る低融点ガラスは、硼珪酸鉛系ガラスよりも環境負荷の小さい組成からなる低融点ガラス、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、硼珪酸塩系ガラス、酸化バナジウム系ガラス、リン酸塩系ガラス等が好ましい。
【0042】
より具体的にいうと、珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−ZnO、SiO−LiO、SiO−NaO、SiO−CaO、SiO−MgO、SiO−Al等を主成分とするものがある。ビスマス珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−Bi−ZnO、SiO−Bi−LiO、SiO−Bi−NaO、SiO−Bi−CaO等を主成分とするものがある。硼酸塩系ガラスには、例えば、B−ZnO、B−LiO、B−NaO、B−CaO、B−MgO、B−Al等を主成分とするものがある。硼珪酸塩系ガラスには、例えば、SiO−B−ZnO、SiO−B−LiO、SiO−B−NaO、SiO−B−CaO、SiO−B−NaO−Al等を主成分とするものがある。酸化バナジウム系ガラスには、例えば、V−B、V−B−SiO、V−P、V−B−P 等を主成分とするものがある。リン酸塩系ガラスには、例えば、P−LiO、P−NaO、P−CaO、P−MgO、P−Al 等を主成分とするものがある。本発明に係る低融点ガラスは、上述した成分以外に、SiO、ZnO、NaO、B、LiO、SnO、BaO、CaO、Al等の1種以上を適宜含有し得る。
【0043】
低融点ガラスは、磁心用粉末全体または圧粉磁心全体を100質量%としたときに、0.1〜5質量%、0.2〜3.6質量%さらには1〜4質量%含まれると好ましい。低融点ガラスが過少では十分な第2被覆層が形成されず、高比抵抗で高強度な圧粉磁心が得られない。一方、それが過多では圧粉磁心の磁気特性が低下し得る。
【0044】
ところで、磁心用粉末中の低融点ガラス(焼鈍前の低融点ガラス)は、例えば、軟磁性粒子よりも粒径の小さな微粒子となって軟磁性粒子の絶縁層の表面に点在している状態でもよい。このような低融点ガラス(ガラス微粒子)の粒径は、軟磁性粒子の粒径にも依るが、0.1〜100μmさらには0.5〜50μmとするとよい。ガラス微粒子は、粒径が過小になるとその製造や取扱性が困難となり、粒径が過大になると均一な第2被覆層の形成が困難となる。ちなみにガラス微粒子の粒径の特定方法には、湿式法、乾式法、照射したレーザ光の散乱パターンから求める方法、沈降速度の相違から求める方法、画像解析により求める方法等があるが、本明細書では走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析によりガラス微粒子の粒径を特定する。
【0045】
《絶縁層形成工程》
絶縁層形成工程は、軟磁性粒子の表面に窒化アルミニウムからなる絶縁層(第1被覆層)を形成する工程である。絶縁層の形成方法は種々考えられるが、上述したように、少なくともAlを含む鉄合金からなる軟磁性粒子を窒化雰囲気中で800℃以上で加熱することにより、軟磁性粒子の表面に均一的な絶縁層(AlN層)が形成され得る。こうして得られるAlN層は、薄くても高絶縁性であると共に、低融点ガラスとの濡れ性にも優れる。軟磁性粒子の加熱温度は、800〜1300℃、820〜1270℃さらには850〜1250℃であると、より好ましい。
【0046】
この加熱温度は、前述した軟磁性粒子の表面における酸素濃度に応じて調整されてもよい。例えば、酸素濃度が大きいときは、加熱温度を高くするとよい。一方、酸素濃度が小さいときは、加熱温度を高くても低くてもよい。一例を挙げると、酸素濃度が0.08%以上(超)、0.09%以上(超)さらには0.1%以上(超)のとき、加熱温度は900〜1300℃、950〜1250℃さらには980〜1230℃とすると好ましい。逆に、酸素濃度が0.1%以下(未満)、0.09%以下(未満)さらには0.08%以下(未満)のとき、加熱温度は上述した範囲(800〜1300℃)内で調整すれば良いが、特に800〜1050℃、820〜1000℃さらには850〜950℃のように低くしてもよい。このように原料粉末の種類(酸素濃度)に応じて、絶縁層形成工程時の加熱温度を適切に選択することにより、絶縁層の安定形成と生産効率の両立を図ることが可能となる。
【0047】
窒化雰囲気は、種々考えられるが、例えば、窒素(N)雰囲気であると好ましい。窒素雰囲気は、純粋な窒素ガス雰囲気でも、窒素ガスと不活性ガス(N、Ar等)との混合ガス雰囲気でもよい。さらに窒化雰囲気は、アンモニアガス(NH)雰囲気等でもよい。なお、窒化処理中の窒素濃度を一定とするために、窒化雰囲気は気流雰囲気であると好ましい。ちなみに、窒化雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%以下であると好ましい。
【0048】
加熱時間は、窒化雰囲気中の窒素濃度や加熱温度にも依るが、例えば、0.5〜10時間さらには1〜3時間とすると効率的である。絶縁層の厚さ(層厚)は圧粉磁心の仕様により調整されるが、加熱時間または加熱温度の制御により、その層厚を調整できる。特に、加熱温度を比較的高温にすると、層厚は大きくなり易い。
【0049】
《ガラス付着工程》
ガラス付着工程は、軟磁性粒子の表面に形成された絶縁層上に低融点ガラスを付着させる工程である。例えば、低融点ガラスからなる微粒子(ガラス微粒子)を付着させる場合なら、ガラス付着工程は湿式で行っても乾式で行ってもよい。例えば湿式の場合なら、ガラス付着工程は、ガラス微粒子と絶縁層形成工程後の軟磁性粒子とを分散媒中で混合した後、それを乾燥させる湿式付着工程とすることができる。また乾式の場合なら、ガラス付着工程は、ガラス微粒子と絶縁層形成工程後の軟磁性粒子とを分散媒を介さずに混合する乾式付着工程とすることができる。湿式であればガラス微粒子を軟磁性粒子の絶縁層表面に均一に付着させ易い。乾式の場合、乾燥工程を省略できて効率的である。
【0050】
低融点ガラスは、磁心用粉末の成形体(本明細書では適宜、この成形体も含めて「圧粉磁心」という。)を焼鈍する際に軟化または溶融すれば足る。但し、本発明は、磁心用粉末の調製時に低融点ガラスが軟化または溶融する場合を除くものではない。
【0051】
《圧粉磁心の製造》
本発明の圧粉磁心は、所望形状のキャビティを有する金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、その磁心用粉末を加圧成形して成形体とする成形工程と、その成形体を焼鈍する焼鈍工程とを経て得られる。ここでは成形工程と焼鈍工程について説明する。
【0052】
(1)成形工程
成形工程で軟磁性粉末に印加される成形圧力は問わないが、高圧成形するほど高密度で高磁束密度の圧粉磁心が得られる。高圧成形方法として、金型潤滑温間高圧成形法がある。金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、磁心用粉末と金型の内面との間に高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸被膜が生成される成形温度と成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程とからなる。
【0053】
ここで「温間」とは、表面被膜(または絶縁被膜)への影響や高級脂肪酸系潤滑剤の変質などを考慮して、例えば、成形温度を70℃〜200℃さらには100〜180℃とすることをいう。金型潤滑温間高圧成形法の詳細については、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報など多数の公報に詳細が記載されている。この金型潤滑温間高圧成形法によれば、金型寿命を延しつつも超高圧成形が可能となり、高密度な圧粉磁心を容易に得ることが可能となる。
【0054】
(2)焼鈍工程
焼鈍工程は、成形工程中に軟磁性粒子に導入された残留歪みや残留応力を除去して、圧粉磁心の保磁力またはヒステリシス損失を低減するためになされる。焼鈍温度は、軟磁性粒子や低融点ガラスの種類に応じて適宜選択され得るが、650℃以上、700℃以上、800℃以上さらには850℃以上であると好ましい。なお、本発明に係る絶縁層は耐熱性に優れるため、高温焼鈍しても絶縁層の高絶縁性と高バリヤー性は維持される。但し、過度な加熱は不要であると共に圧粉磁心の特性を低下させ得るため、焼鈍温度は1000℃以下、970℃以下さらには920℃以下とするとよい。また加熱時間は、例えば0.1〜5時間さらには0.5〜2時間であれば十分であり、加熱雰囲気は不活性雰囲気(窒素雰囲気を含む)とすると好ましい。
【0055】
《圧粉磁心》
(1)被覆層
本発明に係る第1被覆層または第2被覆層は、層厚(膜厚)を問わないが、それらが過小では圧粉磁心の比抵抗や強度の向上を十分に図れず、過大では圧粉磁心の磁気特性の低下を招来する。
【0056】
第1被覆層(AlN層)の厚さは、例えば、0.05〜2μm、0.1〜1μmさらには0.2〜0.6μm(200〜600nm)であると好ましい。また第2被覆層の厚さは、例えば、0.5〜10μmさらには1〜5μmであると好ましい。なお、各層(被覆層)は軟磁性粒子の一粒毎に形成されていることが理想的であるが、部分的に数個の粒子からなる塊状物に対して各被覆層が形成されていてもよい。
【0057】
(2)本発明の圧粉磁心は、その詳細な特性を問わないが、例えば、軟磁性粒子の真密度(ρ)に対する圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ)が85%以上、95%以上さらには97%以上であると、高磁気特性が得られて好ましい。
【0058】
圧粉磁心の比抵抗は、形状に依存しない圧粉磁心ごとの固有値であり、例えば、10μΩ・m以上、10μΩ・m以上、10μΩ・m以上さらには10μΩ・m以上であると好ましい。また圧粉磁心は、高強度であるほどその用途が拡大して好ましい。その曲げ強度は、例えば、50MPa以上、80MPa以上さらには100MPa以上であると好ましい。
【0059】
(3)用途
本発明の圧粉磁心は、その形態を問わず、各種の電磁機器、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等に利用され得る。具体的には、電動機または発電機の界磁または電機子を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心に本発明の圧粉磁心は好適である。ちなみに駆動用モータは自動車等に用いられる。
【0060】
なお、本発明に係る窒化アルミニウム(第1被覆層)は熱伝導率が高く、放熱性に優れる。このため本発明の圧粉磁心が例えばモータ等の鉄心に用いられると、その鉄心やその周囲に設けられたコイルに渦電流等によって生じた熱が外部へ伝導されて放熱され易くなる。
【実施例】
【0061】
《実施例1:磁心用粉末》
先ず、軟磁性粉末の成分組成と窒化処理条件(温度)をそれぞれ変更した種々の磁心用粉末を製造した。次に、得られた各粉末粒子の表面近傍を、オージェ電子分光分析法(AES)またはX線回折(XRD)により観察した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0062】
〈試料の製造〉
(1)軟磁性粉末(原料粉末)
軟磁性粒子となる原料粉末として、表1に示すように成分組成の異なる5種類の鉄合金からなるガスアトマイズ粉を用意した。各ガスアトマイズ粉は、窒素ガス雰囲気中へ、溶解させた原料を窒素ガスを用いて噴霧し、窒素ガス雰囲気中で冷却させることにより製造したものである。各ガスアトマイズ粉の酸素濃度も表1に併せて示した。酸素濃度の特定方法は前述した通りである。
【0063】
各軟磁性粉末を電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)を用いて、所定のメッシュサイズの篩いにより分級した。本実施例では、表1に併せて示すように、各軟磁性粉末の粒度を「−180」とした。なお、本明細書でいう粉末粒度「x−y」は、篩目開きがx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。粉末粒度「−y」は、篩目開きがy(μm)の篩いを通過する大きさの軟磁性粒子により原料粉末が構成されていることを意味する。ちなみに、いずれの軟磁性粉末にも、粒度が5μm未満である軟磁性粒子が含まれていないことをSEMにより確認している(以下同様)。
【0064】
(2)窒化処理工程(絶縁層形成工程)
各軟磁性粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N)が0.5L/minの割合で流れる窒化雰囲気中で、表1に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化処理を行った軟磁性粉末を得た(試料11〜16)。
【0065】
〈試料の観察〉
(1)試料12から任意に抽出した粉末粒子について、オージェ電子分光分析(AES)を行い、各粒子の表面近傍(最表面から600nmの深さまでの範囲)の成分組成を調べた。この様子を図1に示した。
【0066】
(2)表1に示した各試料から任意に抽出した粉末粒子の表面近傍を、X線回折(XRD)により分析して得られたプロフィルを図2にまとめて示した。なお、XRDは、X線回折装置(D8 ADVANCE:ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いて、管球:Fe−Kα、 2θ:30〜50deg、測定条件:0.021deg/step、9step/secとして行った。
【0067】
〈試料の評価〉
(1)図1から明らかなように、軟磁性粒子の表面近傍には約300〜400nm程度の厚さを有するAlN層(絶縁層、第1被覆層)が形成されることがわかった。なお、最表面近傍(深さ約10nm程度)には、Oが僅かに検出されているが、これは窒化処理(絶縁層形成工程)後に生じた自然酸化膜に由来するものである。このような自然酸化膜が粒子表面に有る粉末も、当然に本発明の磁心用粉末に含まれる。
【0068】
(2)図2に示す各プロファイルの回折ピークから明らかなように、Al含有量の少ない軟磁性粒子(試料11)や、殆どSiを含まない軟磁性粒子(試料15、16)でも、その表面にAlN層が形成されていることがわかる。一方、Alと共にSiも多い軟磁性粒子(試料14)では、その表面にAlN層が形成されないことがわかる。つまり、Al量の相対的な割合であるAl比率が小さくなると、AlN層が形成され難いことが確認された。
【0069】
軟磁性粒子の成分組成が同じでも、窒化処理温度によってAlN層が形成される場合(試料12)とされない場合(試料13)があることもわかった。AlN層が安定的に形成されるには、800℃以上さらには1000℃以上程度の比較的高温で窒化処理することが好ましいことが明らかとなった。
【0070】
《実施例2:圧粉磁心》
本実施例では、実施例1の結果を考慮して、種々の圧粉磁心を製造し、それらの比抵抗および曲げ強度を測定・評価した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0071】
〈磁心用粉末の製造〉
(1)軟磁性粉末(原料粉末)
軟磁性粉末として、表2に示すように、組成または粒度の異なる複数のガスアトマイズ粉を用意した。ガスアトマイズ粉の製造方法および粒度調整は既述した通りである。
【0072】
(2)窒化処理工程(絶縁層形成工程)
各軟磁性粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N)が0.5L/minの割合で流れる窒化雰囲気中で、表2に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化処理を行った軟磁性粉末を得た(試料21〜31および試料C1、C2)。なお、本明細書では、粒子表面に絶縁層が形成された軟磁性粉末を絶縁被覆粉末という。
【0073】
比較のため、上述した窒化処理を行わない未処理の軟磁性粉末(試料C3)、窒化処理に替えて酸化処理した軟磁性粉末(試料C4、C5)および窒化処理に替えてシリコーン樹脂で粒子表面を被覆した軟磁性粉末(試料C6)も用意した。
【0074】
軟磁性粒子の表面に酸化ケイ素からなる絶縁層を形成する酸化処理(試料C4)は、原料粉末を酸素ポテンシャルを調整した水素雰囲気中で900℃×3時間加熱して行った。軟磁性粒子の表面に酸化鉄からなる絶縁層を形成する酸化処理(試料C5)は、原料粉末を750℃×1時間、酸素濃度10vol%の窒素雰囲気で加熱して行った。シリコーン樹脂の被覆は次のようにして行った。先ず、市販のシリコーン樹脂(MOMENTIVE社製、「YR3370」)をエタノール(溶媒)に溶解させたコーティング樹脂液を調製した。このコーティング樹脂液へ原料粉末を投入して混合した後、エタノールを揮発させた。こうして得られた残存物を250℃に加熱してシリコーン樹脂を硬化させた。この際、シリコーン樹脂量は、原料粉末全体に対して0.2質量%とした。便宜上、それらの粉末も含めて単に絶縁被覆粉末という。
【0075】
(3)ガラス付着工程
試料C1を除き、上述した各絶縁被覆粉末の各粒子に低融点ガラスを以下のようにして付着させて磁心用粉末を製造した。なお、表2に示した低融点ガラスの種類は、表3に示したいずれかである。表3には、各低融点ガラスの成分組成に加えて、本明細書でいう軟化点も併せて示した。
【0076】
(i)ガラス微粒子の調製
低融点ガラスとして、表3に示す各組成を有する市販のガラスフリット(D以外:日本琺瑯釉薬社製/D:東罐マテリアル・テクノロジー社製)を用意した。各ガラスフリットを湿式粉砕機(ダイノーミル:シンマルエンタープライズ社製)のチャンバーへ投入し、攪拌用プロペラを作動させて、各ガラスフリットを微粉砕した。この微粉砕したものを回収して乾燥させた。こうして各種の低融点ガラスからなるガラス微粒子を得た。得られたガラス微粒子の粒径(粒度)は、いずれも軟磁性粒子よりも小さく、最大粒径が約5μmであった。なお、この粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像解析により確認した。
【0077】
(ii)乾式コーティング
絶縁被覆粉末とガラス微粒子粉末とを回転ボールミルで攪拌した。攪拌後に固化していた粉末は乳鉢で解砕した。こうして表面にガラス微粒子が付着した絶縁被覆粒子からなる磁心用粉末を得た。なお、低融点ガラス(ガラス微粒子粉末)の添加量は、磁心用粉末全体を100質量%として表2に併せて示した。
【0078】
〈圧粉磁心の製造〉
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、金型潤滑温間高圧成形法により、円板状(外径:φ23mm×厚さ2mm)の成形体を得た。この際、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。具体的には次のようにして各粉末を成形した。
【0079】
所望形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4z(十点平均粗さ/Rzjis)とした。
【0080】
加熱した金型の内周面に、ステアリン酸リチウム(1%)の水分散液をスプレーガンにて10cm/分程度の割合で均一に塗布した。なお、この水分散液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものである。その他の詳細は、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報等に記載に沿って行った。
【0081】
各磁心用粉末をステアリン酸リチウムが内面に塗布された金型へ充填し(充填工程)、金型を130℃に保持したまま1568MPaで温間成形した(成形工程)。なお、この温間成形時、いずれの成形体も金型とかじり等を生じることはなく、低い抜圧で金型からの取り出しが可能であった。
【0082】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体を加熱炉に入れ、窒素ガスが8L/minの割合で流れる雰囲気中で1時間加熱した。そのときの加熱温度(焼鈍温度)も表2に併せて示した。こうして表2に示す各種の圧粉磁心(試料)を得た。
【0083】
〈圧粉磁心の観察・測定〉
(1)各圧粉磁心の粒界部(軟磁性粒子の隣接部)をCP研磨(Cross-section Polishing)して、走査型電子顕微鏡(SEM/株式会社日立ハイテクノロジーズ製:SU3500)により観察した。その一例として、試料23に係る反射電子像(BSE組織写真)と、それをエネルギー分散型X線分析(EDX)により得られた各成分元素の分布像(マッピング組織写真)を図3にまとめて示した。
【0084】
(2)各圧粉磁心の比抵抗および曲げ強度を求めた。比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法により測定した電気抵抗と、各試料を実際に採寸して求めた体積とから算出した。曲げ強度は、円板状の試料に対して3点曲げ強度試験より算出した。これらの結果を表2に併せて示した。また、各試料の比抵抗と曲げ強度の関係を図4に示した。なお、表2中にある比抵抗欄に示した「≧10」は、測定試料の比抵抗が大きくて、測定限界を超えたこと(オーバーレンジ)を示す。
【0085】
《圧粉磁心の評価》
(1)粒界構造
図3および表2から次のことがわかる。Al比率および窒化処理条件が本発明の範囲内にある試料はいずれも、軟磁性粒子の表面にAlとNが濃化したAlN層(第1被覆層)が形成されていると共に、それらの粒界部にはSiおよびOが濃化した低融点ガラス層(第2被覆層)が形成されていることが確認された。また、図3から明らかなように、軟磁性粒子の主成分であるFeは粒界側に拡散しておらず、低融点ガラスの主成分であるSiおよびOも軟磁性粒子側へ拡散していない。従って、軟磁性粒子の表面を覆うAlN層は、それらの拡散を抑止するバリヤー層として機能していることも確認された。
【0086】
(2)特性
図4および表2から明らかなように、軟磁性粒子の表面がAlN層で被覆されていると共にその粒界部に低融点ガラスがある圧粉磁心(試料21〜31)はいずれも、十分な比抵抗と相応な曲げ強度を発揮することがわかった。特に、軟磁性粒子中に適量なSiを含有する試料21〜30では比抵抗が大きく、軟磁性粒子中にSiを殆ど含まない試料31では曲げ強度が大きくなった。
【0087】
一方、試料C1からわかるように、AlN層(第1被覆層)が有っても低融点ガラス層(第2被覆層)が無い場合、比抵抗は高いものの曲げ強度は極端に低くなった。逆に、試料C2や試料C3からわかるように、低融点ガラス層があってもAlN層が無い場合、曲げ強度は高いものの比抵抗が極端に低くなった。
【0088】
また、試料C4や試料C5からわかるように、第1被覆層が酸化物層(Si−O系層またはFe−O系層)の場合、第2被覆層(低融点ガラス層)により曲げ強度は高くなったが、比抵抗が極端に低くなった。この理由として、軟磁性粒子の表面にある酸化物層が、焼鈍時の加熱により溶融(軟化)した低融点ガラスと反応して変質し、その絶縁性が低下したためと考えられる。
【0089】
さらに、試料C6からわかるように、第1被覆層がシリコーン樹脂層である場合、第2被覆層(低融点ガラス層)の存在にも拘わらず、比抵抗も曲げ強度も低くなった。この理由として、シリコーン樹脂層が焼鈍時の加熱により変質して絶縁性を低下させたことと、溶融(軟化)した低融点ガラスはシリコーン樹脂層との濡れ性が悪く、粒界部に破壊起点となる微細な空隙等を生じたこととが考えられる。
【0090】
以上のことから本発明の圧粉磁心は、AlN層(第1被覆層)と低融点ガラス層(第2被覆層)の相乗的な作用により、高温焼鈍後ても高比抵抗および高強度を発揮したと考えられる。
【0091】
《実施例3:磁心用粉末および圧粉磁心》
[磁心用粉末]
実施例1または実施例2に対して、組成や製法が異なる原料粉末を用いると共に窒化処理条件(温度)を変更して、種々の磁心用粉末を製造した。そして得られた各粉末の粒子表面近傍を、AES、XRDまたは走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0092】
〈試料の製造〉
(1)原料粉末
原料粉末として、表4に示すように、組成の異なる6種類のFe−Si−Al系合金からなるガス水アトマイズ粉を用意した。各ガス水アトマイズ粉はいずれも、窒素ガス雰囲気中へ溶解させた原料を窒素ガスを用いて噴霧した後に水冷して製造したものである。各ガス水アトマイズ粉の酸素濃度を表4に併せて示した。酸素濃度の特定方法は前述した通りである。ガス水アトマイズ粉は、噴霧後の高温粒子が冷却媒体である水と反応するため、ガスアトマイズ粉よりも粒子表面に酸化膜(特にAl−O膜)が形成され易いと考えられる。
【0093】
各原料粉末を電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)を用いて、所定のメッシュサイズの篩いにより分級した。本実施例では、表4に併せて示すように、各粉末の粒度を「−180」とした。
【0094】
(2)窒化処理工程(絶縁層形成工程)
各粉末を熱処理炉に入れ、窒素ガス(N)フロー中で、表4に示す条件の窒化処理(加熱)を行った。こうして窒化処理を行った軟磁性粉末を得た(試料41〜48、試料D1〜D3、試料D6)。
【0095】
〈試料の観察〉
(1)試料41、試料43、試料46および試料D6から任意に抽出した粉末粒子について、AESを行い、各粒子の表面近傍(最表面から500nmの深さまでの範囲)における組成分布を調べた。この様子を図5A図5D(これらを併せて単に「図5」ともいう。)に示した。
【0096】
(2)試料43から任意に抽出した粉末粒子の表面近傍を、XRDにより分析して得られたプロフィルを図6に示した。なお、XRDは、実施例1の場合と同様に行った。
【0097】
(3)試料46の粉末粒子から、収束イオンビームマイクロサンプリング法(FIB法)により作製した観察用試料を用いて、粒子表面を走査型透過電子顕微鏡(STEM/日本電子株式会社製:JEM-2100F)で観察した。これにより得られた粒子の表層部の暗視野像と、そこに含まれる元素(N、Al、FeおよびO)のマッピング像を図7に併せて示した。
【0098】
[圧粉磁心]
上記のようにして製造した各試料の粉末(絶縁被覆粉末)を用いて圧粉磁心を製造し、それらの比抵抗および圧環強度を測定・評価した。以下、その内容を具体的に説明する。
【0099】
〈磁心用粉末の製造〉
(1)絶縁被覆粉末
上述したようにガス水アトマイズ粉(軟磁性粉末)に窒化処理を施して得られた粉末(試料41〜48および試料D1〜D3)の他に、窒化未処理の軟磁性粉末(試料D4)と、Alを含まないガス水アトマイズ粉からなる窒化未処理の軟磁性粉末(試料D5)も用意した。試料D4および試料D5に係る粉末を併せて、単に未処理粉末ともいう。
【0100】
(2)ガラス付着工程
試料D1を除き、各試料に係る絶縁被覆粉末または未処理粉末の粒子表面に、表3に示したいずれかの低融点ガラスを、実施例2の場合と同様に付着させて磁心用粉末を製造した。なお、低融点ガラス(ガラス微粒子粉末)の添加量は、いずれの試料でも、磁心用粉末全体(100質量%)に対して1質量%とした。
【0101】
〈圧粉磁心の製造〉
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、実施例2の場合と同様に、金型潤滑温間高圧成形法により成形体を製造した。但し、その形状は円環状(外径φ39mm×内径φ30mm×高さ5mm)とした。また成形圧力は、いずれの試料でも1000MPaとした。
【0102】
(2)焼鈍工程
得られた各成形体を加熱炉に入れ、窒素ガスフロー中の750℃の雰囲気中で30分間加熱した。いずれの試料でも同条件で焼鈍工程を行った。こうして表4に示す各種の圧粉磁心(試料)を得た。
【0103】
〈圧粉磁心の測定〉
各圧粉磁心の比抵抗および圧環強度を求めた。比抵抗は、実施例2の場合と同様に測定および算出した。圧環強度は、円環状の各圧粉磁心を用いて、JIS Z2507に準じて測定して求めた。これらの結果を表4に併せて示した。また、各試料の比抵抗と圧環強度の関係を図8に示した。
【0104】
《評価》
(1)磁心用粉末
表4、図5図6および図7から明らかなように、ガスアトマイズ粉よりも酸素濃度が高いガスアトマイズ粉を用いた場合でも、比較的高温で窒化処理することにより、軟磁性粒子の表面近傍には約200〜600nm程度の厚さを有する均一的なAlN層(絶縁層、第1被覆層)が形成されることがわかった。
【0105】
そして窒化処理温度が高くなるほど、AlN層中に含まれるO(ひいては酸化物)が少なくなった。また、原料粉末の組成が同じ試料41(図5A)と試料43(図5B)を比較するとわかるように、窒化処理温度が高くなるほど、AlN層が厚くなった。この傾向は、Al比率が高くなるほど顕著であることも、それら試料41、43と試料46(図5C)とを比較することによりわかる。
【0106】
一方、試料D6に係る図5Dからわかるように、原料粉末の酸素濃度が高い場合に、窒化処理温度が不十分であると、Al−O系酸化物が多くなり、AlNの形成が不十分となることもわかった。なお、図5A図5Cにおいて、粒子最表面近傍(深さ約10nm程度)に検出されている僅かなOは、実施例1の場合と同様に、主に、窒化処理(絶縁層形成工程)後に生じた自然酸化膜に由来する。
【0107】
以上のことから、酸素濃度の高い原料粉末を用いても、高温で窒化処理すれば、原料粉末の粒子表面近傍にあったOは粒子内部側へ移動し、逆に軟磁性粒子にあったAlは最表面側に移動して、厚くて均一的なAlN層が粒子表面に形成されるといえる。そして、原料粉末の粒子表面近傍に存在していたOは、酸化アルミニウム(Al−O)としてAlN層の最表面近傍または内部に分散するといえる。
【0108】
(2)圧粉磁心
表4および図8から明らかなように、軟磁性粒子の表面がAlN層で被覆されていると共にその粒界に低融点ガラスがある圧粉磁心(試料41〜48)はいずれも、十分な比抵抗と相応な圧環強度を発揮することがわかった。
【0109】
一方、試料D1のように、AlN層(第1被覆層)が有っても低融点ガラス層(第2被覆層)が無い場合、比抵抗は高いが強度はかなり低くなることもわかった。逆に、試料D2〜試料D5のように、低融点ガラス層があってもAlN層が形成されていない場合、強度は高いが比抵抗が極端に低くなることもわかった。
【0110】
以上のことから、原料粉末の種類に依らず、適切な窒化処理を施すことにより、軟磁性粒子の表面には、均一的なAlN層(第1被覆層)の形成が可能となることがわかった。そして、粒子表面がAlN層で被覆された軟磁性粉末(絶縁被覆粉末)と低融点ガラスとを組合わせて製造される圧粉磁心は、高温焼鈍後に、高比抵抗および高強度を発揮することもわかった。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8