(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397399
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ダイヤルダウン機構を有する注射装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/20 20060101AFI20180913BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
A61M5/20 510
A61M5/315 550N
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-514386(P2015-514386)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2015-517856(P2015-517856A)
(43)【公表日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】EP2013055403
(87)【国際公開番号】WO2013178372
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年2月26日
(31)【優先権主張番号】12170139.5
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/656,345
(32)【優先日】2012年6月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ペダルセン, シモン ムンク
(72)【発明者】
【氏名】ラルヴィグ, シモン
【審査官】
鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−506273(JP,A)
【文献】
特表2002−501790(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/025448(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/154479(WO,A1)
【文献】
特表2005−514120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された投与分量をダイヤルダウンするための、ダイヤルダウン機構を有する注射装置であって、
投与量を設定する時に、近位に配置された投与量設定ボタン(30)を、ハウジングに対して第1方向に回転させることによって引っ張られ、同じ前記投与量設定ボタン(30)を、前記第1方向とは逆の第2方向に回転させる時には緩む、ねじりばね(2)を備え、前記ダイヤルダウン機構は更に、
前記ハウジングに恒久的に取り付けられた凹凸部(6)を有する固定要素(1)と、
前記注射装置の近位端部に設けられた、前記固定要素(1)と係合する、少なくとも1つのラチェットアーム(22)を有するラチェット要素(20)とを備え、当該ラチェット要素(20)は、前記投与量設定ボタン(30)と動作可能に連結し、
前記少なくとも1つのラチェットアーム(22)は、前記固定要素(1)の前記凹凸部(6)に係合し、前記ラチェットアーム(22)が前記固定要素(1)の前記凹凸部(6)に係合している時に、前記ラチェット要素(20)の前記固定要素(1)に対する前記第2方向への回転を防止するように形成され、かつ、
前記投与量設定ボタン(30)が、前記第2方向に回転することによって、前記少なくとも1つのラチェットアーム(22)を前記固定要素(1)の前記凹凸部(6)から解放して、前記ラチェット要素(20)が前記固定要素(1)に対して前記第2方向に、前記ねじりばね(2)の影響を受けて回転できるようにする時に、前記投与量設定ボタン(30)は前記少なくとも1つのラチェットアーム(22)に直接係合し、
前記投与量設定ボタン(30)が、前記第2方向に回転する時に、前記ラチェットアーム(22)と係合及び解放する解放用突起部(32)を有し、
前記解放用突起部(32)は、前記ラチェットアーム(22)を前記固定要素(1)から解放することによって、前記ねじりばね(2)が、前記ラチェット要素(20)を前記第2方向に回転できるようにするために、前記ラチェットアーム(22)を、ほぼ径方向に動かす、
ダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項2】
前記固定要素(1)の歯部(4、5)はV形状である、請求項1に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのラチェットアーム(22)は、前記固定要素(1)の前記V形状の歯部(4、5)のうちの1つに係合する急端部(24)を有する、請求項1又は2に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項4】
前記ラチェット要素(20)は前記固定要素(1)を超えて上部に、軸方向に突き出る、請求項1から3のいずれか一項に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項5】
前記投与量設定ボタン(30)は、投与量を設定するために、前記投与量設定ボタン(30)が前記第1方向に回転する時に、前記ラチェット要素(20)と係合する第1突起部(31)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項6】
前記解放用突起部(32)の少なくとも一部分は、前記ラチェットアーム(22)が解放された時に、前記解放用突起部(32)に接するように位置付けられる、請求項1に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項7】
前記解放用突起部(32)の前記少なくとも一部分は、前記投与量設定ボタン(30)が前記第2方向に回転することに伴って、前記ラチェットアーム(22)が解放される時に、前記ラチェットアーム(22)の前記急端部(24)の前部に位置付けられる、請求項6に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【請求項8】
前記解放用突起部(32)は、前記投与量設定ボタン(30)が前記第2方向に回転する時に、前記ラチェットアーム(22)を捕捉するよう設計された上部表面(33)を有する、請求項6又は7に記載のダイヤルダウン機構を有する注射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤルダウン機構を有し、かかるダイヤルダウン機構によって、ユーザは高く設定された投与分量をダイヤルダウンできる、ねじりばねで駆動される自動注射装置に関する。具体的には本発明は、一回転方向において、ねじりばねに蓄積されている力を保持することが可能なラチェット機構に関し、かかるラチェットは、ねじりばねに蓄積された力を低減させるよう、制御された様態で能動的に解放されうる。
【背景技術】
【0002】
巻き上げ式ペンのような、ねじりばねに基づく既知の注射装置では、ユーザは通常、回転可能であり、近位に設けられた投与量設定ボタンを回転させることによって、ねじりばねを引っ張る。それによってユーザが印加する力は、ねじりばねに蓄えられ、後に解放される。
【0003】
ねじりばねを適用する既知の巻き上げ式ペンの実施例は、例えば、US5,104,380の中に見出されうる。この巻き上げ式ペンでは、投与量設定部材は近位端部に配置され、ユーザが投与量設定部材を回転させる時に、ばねが引っ張られて、ユーザがハウジングの側部に設けられたラッチを作動させることにより、設定済投与量を放出するまで、この引っ張られた位置に維持されるように動作する。US5,104,380の中で開示された巻き上げ式ペンには、ユーザが投与量を多く設定した場合、設定済投与量を減らすことができないという欠点がある。ユーザはその場合、新たな正しい投与量を設定し、放出する前に、ラッチ機構を解放することによって、設定済投与量の全量を放出しなければならない。
【0004】
ユーザが、投与前に設定済投与量を実使用上減らすことができる巻き上げ式ペンは、例えば、WO2006/045526及びWO2010/089418により既知である。
【0005】
これらの自動注射装置は、投与量設定中に張力が印加され、その後解放されて設定済投与量を注射する、ねじりばねに基づく。ユーザが誤って、必要な量より多い投与量を設定した場合、これらの注射装置は、投与量設定部材を逆回転方向に回転させることにより、設定済投与量を低減できる。従って、かかるダイヤルダウン機構によって、ユーザは、誤った投与量設定により高価な薬剤を放出する必要がなくなる。
【0006】
WO2006/045526では、ダイヤルアップ/ダイヤルダウン機構は、歯付リングとの一方向係合で係止される可撓性ラチェットアームに基づく。ユーザが投与量を設定する時に、ユーザは、注射装置の近位端部に設けられた投与量設定ボタンを回転させる。この投与量設定ボタンは、長手方向に延びる管状スリーブを介してラチェット要素に接続される。ラチェット要素は、投与量設定ボタンが回転する時に、ねじりばねの力に抗して、ラチェットアームが歯付リングの後続の歯部に噛み合うことによって、ねじりばねを段階的に引っ張る、歯付リングと噛合係合するラチェットアームを備える。設定済分量を減少させるために、ラチェットアームは、歯付リングとの係合から能動的に引き出され、それによって、ラチェットアームが歯付リングにある、手前の歯に係合することにより、設定済投与量を一刻み分低減するように、ねじりばねに蓄えられた力が、ラチェット要素を反対方向に高速で回転させる。縦通チューブが存在することにより、ラチェット機構を投与量設定ボタンから離して、例えば、側部に取り付けられたラチェット機構が駆動機構上に直接係合する時に好ましいように駆動機構の近位に、配置することが可能になる。
【0007】
類似の機構がWO2010/089418で開示されているが、
図2に示された注射装置のダイヤルアップ/ダイヤルダウン機構においては、ねじりばねの力に抗してラチェットアームを固定する歯付要素は、先端が外側を向いた歯部を有し、ラチェットアームの先端は注射装置の中心軸の方を向いている。この構成はまた、ハウジングの側部に設けられたラッチ機構によって、やはりその係止位置に固定される、駆動機構の近位に設けられたラチェット機構を有する。
【0008】
WO2006/045526及びWO2010/089418により既知である、ダイヤルダウン機構は、設定済投与分量をダイヤルダウンするために、ラチェットアームが径方向に、かつ能動的に、その噛合係合から引き出されて自由になる必要があることから、能動的ダイヤルダウン機構と称されることもある。
【0009】
能動的ではないダイヤルダウン機構は、W02007/063342により既知である。この機構では、
図12において最もよく理解されるように、複数の可撓性アームが、駆動歯車装置の凹凸部の内側に係合することによって、ねじりばねをその引っ張られた位置に保持する。これらのアームは可撓性であり、ユーザが設定済投与量をダイヤルダウンする時に、追加的要素なくしてアームを解放するよう、内側に向けて径方向に曲がりうる。
【0010】
従来技術の能動的ダイヤルダウン機構における主たる問題は、ユーザが設定済投与量をダイヤルダウンする時に、ユーザは実使用上、ラチェットアームを歯付要素との係合から押し出すことによってねじりばねを解放し、実際のダイヤルダウン、すなわちラチェット要素の後退動作は、ねじりばねの力によって実行されることである。
【0011】
自動注射装置は、ねじりばねが比較的一定かつ比較的大きな力を印加する、ねじりばねの特性の範囲内で作動させるために、予備張力を印加されたねじりばねを用いて作動させることが多い。
【0012】
このことは、投与量設定ボタンが、他の要素と直列に連結されることが多い、長手方向に延びるスリーブ要素を介してラチェット機構に接続されている時に、特に問題である。ダイヤルダウン中にねじりばねがラチェット要素を逆回転させると、これらの要素は全て、ねじりばねに蓄えられた比較的大きな力の影響を受けて振動することがある。この振動により、ダイヤルダウン動作は、かなり粗雑と思われるようなものになる。従ってユーザは、投与量設定部材をダイヤルダウン方向に回転させている時に、若干不安な感覚を体感する。更に、ダイヤルダウンしている時、振動は不快なノイズを発生する。
【0013】
ダイヤルダウン中のこの動作を抑圧するための、摩擦を使用する一つの試みが、EP11 195 986.2−2320に記載されている。
【発明の概要】
【0014】
本発明の一目的は、上記を打開し、かつ、設定済投与量をダイヤルダウンしている時により滑らかな印象を与える、自動巻き上げ式ペン用のダイヤルアップ/ダイヤルダウン機構を提供することである。更なる目的は、ハウジングの内側に、他の構成要素のための、より大きな空間を生成することである。
【0015】
第1の実施形態では、選択された投与分量をダイヤルダウンするためのダイヤルダウン機構を有する、ねじりばねで駆動される注射装置は、ねじりばねであって、投与量を設定する時に、近位に配置された投与量設定ボタンを、ハウジングに対して第1方向に回転させることによって引っ張られ、同じ投与量設定ボタンを、第1方向とは逆の第2方向に回転させる時には緩む、ねじりばねを備える。
【0016】
ダイヤルダウン機構は更に、
ハウジングに連結し、複数の歯部を有する固定要素と、
一方向係合で固定要素に係合する、少なくとも1つのラチェットアームを有するラチェット要素を備える。
【0017】
一又は複数のラチェットアームが可能であるが、少なくとも1つは必要である。固定要素上の凹凸部は、この凹凸部が少なくとも1つのラチェットアームによって係合される限り、固定要素の内側又は外側のいずれにも設けられる。
【0018】
少なくとも1つのラチェットアームを支持するラチェット要素は、投与量設定ボタンと連結し、投与量をダイヤルアップしている時、及び、設定済投与量をダイヤルダウンしている時、の両方で投与量設定ボタンの回転動作に従う。
【0019】
更に、少なくとも1つのラチェットアームは、固定要素の歯部に係合し、ラチェットアームが固定要素の歯部に係合する時に、ラチェット要素の固定要素に対する第2方向への回転を防止するように形成される。投与量設定ボタンが、第2方向に回転することによって、少なくとも1つのラチェットアームを固定要素の歯部から解放し、ラチェット要素が固定要素に対して第2方向に、好ましくは、ねじりばねの力の影響を受けて回転できるようにする時に、投与量設定ボタンは、少なくとも1つのラチェットアームに直接係合する。
【0020】
ラチェットアームと直接接触している投与量設定ボタンを有することにより、注射装置の、ユーザによってしっかりと把持されている部分も、ラチェットアームを制御する要素であることが担保される。ラチェットアームが固定要素の歯部との係合から外れるよう動かされると、ねじりばねは解放されて、ラチェットアームと共にラチェット要素を、手前の歯部に係合するよう後退する。この後退動作の最後に、ラチェットアームは固定要素に衝突することになる。ラチェット要素は固定要素と投与量設定ボタンの間に直接設けられていることから、投与量設定ボタンを保持しているユーザ自身の手によって、衝突の勢いは鈍ることになる。
【0021】
可撓性ラチェットアームの各々は、好ましくは、固定要素の凹凸部に係合する急端部を有する1つの爪を備えるが、そうでなくてはならないという訳ではない。急端部は、可撓性ラチェットアームの端部に直接設けられることも可能である。
【0022】
固定要素は、WO2006/045526及びWO2010/089418において開示されたように駆動機構の一部分であるか、又は、ハウジングの一体部分であるというように、ハウジングに固定的に取り付けられているかのいずれかでありうる。
【0023】
固定要素がハウジングに恒久的に固定されている時、固定要素は、いかなる状況においても、すなわち射出中にも、回転不可能である。ねじりばねは通常、ハウジングと駆動機構の回転可能な部品の間に設けられる。ねじりばねがその蓄積された力を解放するために、回転可能な駆動機構は、投与中一時的に、固定要素及びラチェット要素から離れる必要がある。
【0024】
代替的には、ねじりばねは固定要素とラチェット要素の両方を回転させ、それらは次いで射出中に、ハウジングから解放される必要がある。
【0025】
好ましくは、ラチェットアームがV形状の歯部から能動的に解放されることなく、ラチェットアームとラチェット要素の固定要素に対する回転が、効果的に防止されるように、固定要素の歯部は、少なくとも1つのラチェットアームの急端部と接する急勾配の側部を有するV形状である。
【0026】
ラチェット要素、特に少なくとも1つのラチェットアームが、投与量設定部材に容易に係合されるように、ラチェット要素は、固定要素の上部に、注射装置の軸方向に突き出る。投与量設定ボタンとの係合を適合させるために、ラチェット要素は、注射装置の近位端部に設けられる。
【0027】
投与量設定ボタンは、好ましくは、その内部表面に、投与量設定ボタンが投与量設定方向に回転する時に、ラチェット要素に係合する第1突起部又は突起部の第1セットを備える。この係合により、ラチェット要素は、投与量が設定されている時に、投与量設定ボタンと共に回転する。同時に、ラチェットアームは歯部に当たり、歯毎に1つカチリという明瞭な音を立てる。更に、この回転によってねじりばねが引っ張られる。
【0028】
第2突起部は、反対方向にダイヤルしている時、すなわち、設定済投与分量をダイヤルダウンしている時、ラチェットアームに係合する。
【0029】
第2突起部は、好ましくは、それがラチェットアーム及びラチェット要素に対して回転する時に、ラチェットアームを径方向に動かしうるように形成される。
【0030】
更に第2突起部は、好ましくは、少なくとも設定済投与量をダイヤルダウンしている時に、第2突起部の少なくとも一部が、ラチェットアームの急端部の前部に位置するように形成される。この場合、ラチェットアームは、ラチェットアームが持ち上げられて隣接した歯(又はむしろ歯部の間の凹部)に入る時に、V形状の歯部の底部に打ちつけられることはないが、その代わり、第2突起部の、ラチェットアームの前部に延在する部分によって支持され、V形状の歯部の底部に至るよう、より穏やかに誘導される。
【0031】
すなわち、投与量設定ボタンによって支持される第2突起部は、二重機能を有する。ダイヤルダウンしている時、すなわち、第2方向において、それはラチェットアームを動作させてラチェットアームを固定要素の歯部から解放し、例えば、ラチェットアームを径方向に動作させてその係合から外し、同時にそれは、ラチェットアームの急端部が隣接した歯部を超えて近傍の凹部へと後退する時に、ラチェットアームを支持するように構成される。
【0032】
第2突起部は、好ましくは、設定済投与量を減少させるために投与量設定ボタンが第2方向へ回転する時に、ラチェットアームを捕捉するよう設計された上部表面を備える。ラチェットアームを捕捉する上部表面は、ラチェットアームに適合する任意の形状を有しうる。好ましくは、第2突起部及びラチェットアームは、係合する類似の形状、例えば傾斜表面を有する。ラチェットアームは、第2突起部によって、歯との係合から外れるよう動かされると同時に、隣接した凹部へと誘導されるということが重要である。第2突起部は、投与量設定ボタンの一部分、好ましくは(一体成型されたような)一体部分である。ラチェットアームが解放された時に衝突する第1要素は、ゆえに、やはり投与量設定ボタンの一部である第2突起部であり、それはユーザの指との接触によって勢いが鈍る。
【0033】
二重機能を備えた第2突起部は、第1突起部が絶対に必要という訳ではないことから、解放突起として設計されることもありうる。投与量ダイヤルボタンは、ラチェット要素を第1方向に駆動するために、第1突起部以外の手段を備えることが可能である。第1方向に駆動するための機構は、例えば、ラチェット要素と投与量設定ボタンの間の中心接続の一部でありうる。
【0034】
例えば、WO2011/025448では、ラチェットアームは、解放アームによって歯部を超えるよう動かされるだけである。ラチェットアームを把持し、その結果として、ラチェットアームをリング形状要素の底部に、勢いを全く鈍らせることなく打ちつける機構は存在しない。ゆえに、ノイズはハウジングに直接伝わる。
【0035】
定義:
「注射ペン」は一般的に、書くためのペンのような縦長の、又は細長い形状を有する注射器具である。かかるペンは通常、管状の断面を有するが、三角形、長方形又は正方形、或いはこれらの形状の任意の変形例などの異なる断面を、容易に有することが可能である。
【0036】
本書で使用する場合、「薬剤(drug)」という用語は、制御された様態で中空針などの放出手段を通過することができる、例えば、液体、溶液、ジェル又は微細懸濁液といった、任意の薬剤含有流動可能薬物を包含することが意図されている。代表的な薬剤は、ペプチド、タンパク質(例えば、インシュリン、インシュリン類似体、及びCペプチド)、及びホルモン、生物学的な由来の又は生物学的に活性な化学物質、ホルモン剤、及び遺伝子に基づく化学物質、栄養処方物、並びに固体(調剤されたもの)若しくは液体の両方の形をとる他の物質などの薬を含む。
【0037】
「注射針カニューレ」という用語は、注射中に、皮膚の貫通を実行する実際の導管を説明するために使用される。注射針カニューレは通常、例えば、ステンレス鋼などの金属材料から作られ、「注射針アセンブリ」と称されることが多い、完成した注射針を形成するために、ハブに接続される。
【0038】
「カートリッジ」は、薬剤を内包する容器を説明するために使用される用語である。カートリッジは通常、ガラスから作られるが、任意の適切な高分子化合物から成形されることもありうる。カートリッジ又はアンプルは、好ましくは、「隔壁」と称される突き通し可能な膜によって一端部で密封され、「隔壁」は、例えば、注射針カニューレの患者側ではない端部によって突き通される。反対側の端部は、一般的に、ゴム又は適切な高分子化合物から作られるプランジャ又はピストンによって閉じられる。プランジャ又はピストンは、カートリッジの内側で摺動可能に動かされる。突き通し可能な膜と可動性プランジャの間の空間は、薬剤を保持する空間の容積をプランジャが減少させることによって押し出される薬剤を保持する。しかし、任意の種類の容器が、硬性でも可撓性でも、薬剤を内包するために使用されうる。
【0039】
出版、特許出願、及び特許を含む、本書において挙げられた全ての参照は、それら全体で参照によって組み合わされ、各参照が、個別にかつ具体的に参照によって組み合わされることが示され、本書においてその全体が記載されているかのような場合と同程度まで組み合わされる。
【0040】
全ての表題及び副題は、本書において便宜のためにのみ使用され、いかなるやり方においても発明を限定するものとして構成されるべきではない。任意の及び全ての実施例の使用、又は本書において提供される例示的な文言(例えば「など」)の使用は、単に発明の理解を容易にすることを企図するものであり、特許請求の範囲で主張されない限り、発明の範囲に限定を課するものではない。明細書におけるいかなる文言も、特許請求されていない任意の要素が、発明の実施にとって本質的であることを示すと解釈されるべきではない。
【0041】
本書における特許文献の引用及び組み合わせは、便宜のためにのみ行われるものであり、かかる特許文献の有効性、特許性、及び/又は権利行使可能性についてのいかなる見解も反映しない。
【0042】
この発明は、適用法令によって認められるように、本書に添付された特許請求の範囲の中で挙げられている主題の、全ての変形例及び等価物を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0043】
発明は、好適な実施形態に関連して、また次なる図面を参照しながら、より十分に説明されることになる。
図面は明瞭にするために概略的にかつ単純化されており、それらは発明の理解にとって必要不可欠な詳細のみを示す一方、他の詳細部分は除外されている。全体を通して、同一の参照番号は、全く等しい又は対応する部分に対して使用されている。
【
図2】ダイヤルアップモードの注射装置の近位端部を通る断面図を示す。
【
図3】ダイヤルダウンモードの注射装置の近位端部を通る断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下において、「上部」及び「下部」、「右」及び「左」、「水平」及び「垂直」、「時計回り」及び「反時計回り」という用語、又は類似の関連表現が使用される場合、それらは添付の図面に対してのみ言及するものであり、実使用状況に対して言及するものではない。示されている図面は概略表現であり、このため種々の構造体の構成及びそれらの相対的寸法は、例示目的のみを意図する。
【0045】
かかる文脈において、添付図面における「遠位端部」という用語は、注射針アセンブリが取り付けられる注射装置の端部を表すことが意図されるのに対し、「近位端部」という用語は、投与量設定ボタンを保持する反対の端部を表すよう意図されると定義することは、都合がよいかもしれない。
【0046】
図1の分解図では、投与量ダイヤル機構が示されている。ばね基材又は固定要素1は、ねじりばね2を固定する。この固定要素1は、固定要素1がハウジングに恒久的にかつ回転不可能に固定されるように、図示されていないハウジングに圧入される円周延在部3を有する。固定要素1は更に、ねじりばね2の近位端部がハウジングに係止されるように、ねじりばね2の近位端部を保持する。ねじりばね2の反対側の遠位端部は、駆動チューブ10が時計回りに回転する時に、ねじりばね2に張力が印加されるように、駆動チューブ10に固定される。
【0047】
駆動チューブ10は近位に、ラチェット要素20が回転する時に駆動チューブがそれと共に回転するように、ラチェット要素20上で類似の凹凸部21と係合する凹凸部11を備える。ラチェット要素20は最近位で、以下に説明されるように、投与量設定ボタン30に接続される。
【0048】
投与量設定ボタン30を回転させる時に、設定される投与量の分量を視覚的に示すために、駆動チューブ10は、スケールドラム30の内部で対応する棒状隆起部42に係合される溝12を有することにより、スケールドラム40に接続される。スケールドラム40は、この様態で、駆動チューブ10に対して軸方向に摺動しうるが、駆動チューブ10と共に回転する。スケールドラム40はその外部表面上に、図示されていないハウジングに装着される、らせん状トラック41を備える。ユーザが、投与量設定ボタン30、次いでラチェット要素20と駆動チューブ10を(凹凸部11/21を介して)回転させると、ねじりばね2は引っ張られ、スケールドラム40は、その溝が駆動チューブ10と接続していることにより、らせん状に動く。
【0049】
引っ張られたねじりばね2を解放し、設定済投与量を射出するために、ラチェット要素20と駆動チューブ10は、駆動チューブ10の凹凸部11がラチェット要素20の凹凸部21との係合を解き、それによって、投与量設定中にねじりばね2に蓄えられた力が解放され、駆動チューブ10を回転させて、その初期位置に戻すように、互いに対して軸方向に動く。駆動チューブ10は更に、薬剤の設定済投与量が、駆動チューブ10が逆回転する間に放出されるように、図示されていない注射機構に接続される。注射機構は更に、遠位に設けられた注射針を通して、押出される液体薬剤を内包するカートリッジを含む。
【0050】
投与量設定ボタン30とラチェット要素20の間の係合が、更に
図2及び
図3に示されている。中心部に配置された凹凸部21を備えたラチェット要素20は、この実施形態では、各々が急端部24を有する爪23を支持する、2つの全く等しい可撓性ラチェットアーム22を備える。この急端部24は、ラチェットアーム22及びラチェット要素20が、固定要素1に対して1方向(
図2では時計回り)にのみ回転しうるように、固定要素1に設けられた近位かつ内部の凹凸部6のV形状の歯部4に係合する。
【0051】
投与量設定中にラチェット要素20の回転を駆動するために、投与量設定ボタン30は、投与量設定ボタン30が投与量設定方向(
図2では時計回り)に回転する時に、ラチェット要素20に接する第1突起部31を備える。
【0052】
ラチェット要素20は、第1突起部31と接する表面25を備える。この表面25と第1突起部31は、
図2及び
図3に描写したように、2つ一組で設けられる。この表面25はラチェットアーム22と共に、軸方向に見た時に、表面25とラチェットアーム22が固定要素1の近位端部の上部に位置するように、ラチェット要素20の残りの部分に対して、近位に隆起している。このことは、
図1より明白であり、下記に説明するように、投与量設定ボタン30の内側での、様々な突起部との係合を強化するという目的にかなう。
【0053】
投与量設定ボタン30は更に、急勾配の上部表面33を有する第2突起部32を備える。この上部表面33は、ラチェットアーム22上の類似の表面26に当接する。
図3に描写したように、ユーザが設定済投与量を低減するために投与量設定ボタン30を回転させると、この急勾配の上部表面33は、急端部24が径方向に持ち上げられてV形状の歯部4との係合から外れるように、ラチェットアーム22に、径方向へと内側向きに力を印加する。このことに続いて、ねじりばね2は、ラチェット要素20を(
図3では)反時計回り方向に回転させ、ラチェットアーム22の急端部24は、手前のV形状の歯部5に係合し、そこに拘束されることになる。その結果、設定済投与量が一刻み分減少する。投与量設定ボタン30の更なる反時計回りの回転の結果、投与量は更に低減することになる。
【0054】
任意の無作為な数のラチェットアーム22を設けることが可能であり、ラチェットアーム22の各々につき1つの、同様の数の第2突起部32が奨励される。
【0055】
図4及び
図5は、ラチェットアーム22が能動的ではない、WO2007/063342の開示に若干類似した実施形態を示す。
【0056】
この実施形態では、
図5に描写したように、投与量設定ボタン30は、設定済投与量をダイヤルダウンしている時に、ラチェット要素20上の表面25に接する、追加的な突起部34を備える。投与量をダイヤルアップしている時は、
図4のように、突起部31が表面25に接する。
【0057】
ラチェットアーム22は、橋部又は梁部に若干類似して構成され、投与量設定ボタン30がダイヤルダウンされる時に、
図5に示すように、爪23が固定要素1の手前のV形状の歯部5の上を滑り、それらと係合状態になりうるように、内側に向けて径方向に曲がることが可能である。
【0058】
いくつかの好ましい実施形態が上記に示されたが、発明はこれらに限定されるものではなく、下記の特許請求の範囲において定義される主題の範囲内で、他のやり方においても具現化されうるということが、強調されるべきである。