【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省「平成23年度航空機用先進システム基盤技術開発(航空機システム革新技術開発(電源安定化システム))に関する委託契約書」に基づく委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電源装置としての直流電源および交流電源と、当該交流電源に接続される交流電源バスと、前記直流電源に接続される直流電源バスと、前記交流電源バスを介して前記直流電源バスに電力を供給するために、少なくとも前記交流電源からの交流電力を直流電力に変換する電力変換部と、を備え、前記交流電源バスおよび前記直流電源バスを介して搭載機器に電力を供給する航空機の電気系統と、
前記電源装置の電気出力を安定化する電源安定化装置と、
から少なくとも構成され、
前記直流電源は、前記搭載機器からの逆起電力を吸収し、かつ、前記搭載機器における過渡的な必要電力を供給するよう構成され、
前記交流電源バスおよび前記直流電源バスにはそれぞれ電力負荷が接続されており、
前記電源安定化装置は、当該電源安定化装置の制御器である電源安定化制御部を備え、
前記電源安定化制御部は、前記交流電源バスおよび前記直流電源バスにおける電圧に基づいて、前記電力変換部の電力変換を制御して前記直流電源の充放電を制御することにより、前記交流電源バスおよび前記直流電源バスの電力を安定化させ、前記電気系統の安定化を図る、
航空機用電気系統安定化システム。
前記電気系統に含まれる複数の前記下位系統のうち、少なくとも一つの下位系統の前記直流電源バスは、電気化された搭載機器の制御器を介して前記APU始動発電機に接続されている、
請求項7に記載の航空機用電気系統安定化システム。
前記電気系統は、前記電力変換部として、直流電力および交流電力を相互に変換するPWMコンバータと、当該PWMコンバータに前記直流電源バスを介して接続される昇圧コンバータと、を備えている、
請求項1に記載の航空機用電気系統安定化システム。
前記電源安定化制御部は、前記基準電圧指令値の前記基本値に対して、前記補正電圧値および前記基準電圧の目標値に加えて、さらに、前記直流電源から交流電源バスに対して補助的な電力を供給するために予め設定される、過負荷対応補正値を加算することによって、前記基準電圧指令値の最終地を生成する、
請求項11に記載の航空機用電気系統安定化システム。
前記電気系統は、前記電力変換部として、前記交流電源バスおよび前記直流電源バスの間に設けられ、交流電力を直流電力に変換する整流器を備えるとともに、前記直流電源バスに接続される昇圧コンバータを備えている、
請求項1に記載の航空機用電気系統安定化システム。
電源装置としての直流電源および交流電源と、当該交流電源に接続される交流電源バスと、前記直流電源に接続される直流電源バスと、前記交流電源バスを介して前記直流電源バスに電力を供給するために、少なくとも前記交流電源からの交流電力を直流電力に変換する電力変換部と、を備え、前記交流電源バスおよび前記直流電源バスを介して搭載機器に電力を供給する航空機の電気系統において、
前記直流電源として、前記搭載機器からの逆起電力を吸収し、かつ、前記搭載機器における過渡的な必要電力を供給するよう構成されているものを用い、
前記交流電源バスおよび前記直流電源バスにはそれぞれ電力負荷が接続されており、
前記交流電源バスおよび前記直流電源バスにおける電圧に基づいて、前記電力変換部の電力変換を制御して前記直流電源の充放電を制御することにより、前記交流電源バスおよび前記直流電源バスの電力を安定化させ、前記電気系統の安定化を図る、
航空機用電気系統安定化方法。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0035】
(実施の形態1)
[航空機の動力系統]
まず、本発明の実施の形態1に係る航空機用電気系統安定化システムが適用される航空機の動力系統の概要について、
図1A,Bを参照して説明する。なお、以下の説明では、便宜上、「航空機用電気系統安定化システム」を単に「安定化システム」と省略する。
【0036】
本実施の形態に係る安定化システムは、航空機が備える動力系統のうち、油圧系統および抽気系統の少なくとも一部を電気系統に置き換えたMEA(またはAEA)に設けられる。
図1Aには、動力系統が全て電気系統に置き換えられた航空機100の模式的な構成を示し、
図1Bには、一般的な動力系統を備える航空機900の模式的な構成を示す。
【0037】
一般的な航空機900は、図中実線で示す電気系統20以外に、図中点線で示す油圧系統40および図中破線で示す抽気系統50を備えている。左エンジン11Lおよび右エンジン11Rには、それぞれ発電機201、油圧ポンプ401、エンジンスタータ501が1つずつ設けられている。発電機201は電気系統20に接続され、油圧ポンプ401は油圧系統40に接続され、エンジンスタータ501は抽気系統50に接続される。また、航空機900の後部には補助動力装置(APU)12が設けられており、このAPU12が備えるAPU始動発電機(
図1Bには図示せず)も電気系統20に接続されている。
【0038】
電気系統20については詳細に図示していないが、航空機900が備える電力負荷(搭載機器、電気機器)に対して発電機201またはAPU始動発電機から電力が供給される。油圧系統40は、例えば、前脚402、主脚403、主翼舵面404、尾翼舵面405等のアクチュエータに接続され、油圧ポンプ401によりこれらアクチュエータが駆動される。抽気系統50は、例えば、主翼または尾翼に設けられる防除氷装置502、機体内部に設けられる空調与圧装置503に接続され、防除氷装置502または空調与圧装置503等に供給し、また、高圧空気によりエンジンスタータ501を作動させ、左右の各エンジン11L,11Rを起動する。
【0039】
これに対して、例えば、全ての動力系統が電気化された航空機100は、油圧系統40の油圧配管、抽気系統50の抽気配管等が設けられておらず、電気系統20のみとなっている。また、左右の各エンジン11L,11Rには、それぞれスタータ・ジェネレータ14のみが1つずつ設けられ、また、機体後部にはAPU12の代わりに燃料電池19が設けられている。
【0040】
前脚402、主脚403、主翼舵面404、尾翼舵面405等のアクチュエータは、駆動モータにより駆動され、駆動モータには電気系統20から電力が供給される。また、防除氷装置502は電気ヒータにより構成され、空調与圧装置503は電気的に駆動する空気調和装置等により構成され、いずれも電気系統20から電力が供給される。スタータ・ジェネレータ14は、左右の各エンジン11L,11Rを起動させる電気モータ式のエンジンスタータであるとともに、エンジン起動後は、電気系統20に電力を供給する交流電源となる。
【0041】
このように、MEA化された航空機100は、油圧系統40および抽気系統50を備える一般的な航空機900に比べて明らかに簡素な動力系統となっている。また、特に抽気系統50はエネルギーロスが大きいが、これを電気系統20に置き換えることで省エネルギー化を図ることができ、燃費効率を向上することができる。また、整備時には、一般的な航空機900では電気系統20、油圧系統40および抽気系統50のそれぞれについて、電源車、油圧源車、および空気・抽気源車が必要となるが、航空機100では電源車のみで整備が可能となる。さらに、航空機100においては、油圧配管または抽気配管が不要となるので、製造コストを削減することができる。
【0042】
本実施の形態に係る安定化システムは、
図1Aに示すようなMEA化された航空機100に好適に用いることができる。また、航空機100のように全ての動力系統が電気化されていなくても、油圧系統40または抽気系統50の少なくとも一方が電気化されている航空機、あるいは、油圧系統または抽気系統の一部のみが電気化されている航空機にも適用可能である。
【0043】
[航空機用電気系統安定化システムの全体構成]
次に、本発明の実施の形態1に係る安定化システムの全体構成の一例について、
図2を参照して具体的に説明する。なお、
図1Aに示す航空機100は、電源装置として燃料電池19を備えている構成を例示しているが、以下の実施の形態では、航空機100がより一般的なAPU12を備えている構成を例示して説明する。
【0044】
まず、本実施の形態に係る安定化システムが適用される航空機100において、当該航空機100が備える電源装置について説明する。航空機100の電源装置としては、
図2に示すように、左右のエンジン11L,11Rと、APU12と、ラムエアタービン(RAT)17とが設けられている。左エンジン11Lおよび右エンジン11Rはいずれも航空機の推進用エンジンであり、それぞれ始動発電機141L,142Lおよび始動発電機141R,142Rを備えている。このように、本実施の形態では、左エンジン11Lおよび右エンジン11Rそれぞれに交流発電機が2つずつ設けられている。
【0045】
APU12は、エンジン11L,11Rとは別に装備された補助的な動力源であり、エンジン11L,11Rと同様に燃料の燃焼により動作する。APU12も、交流発電機としてAPU始動発電機121,122を備えている。RAT17は、APU12とは別に装備された補助的な動力源であり、通常は航空機100内に格納され、非常時等には航空機100外に展開される。機外に展開されたRAT17は、航空機100の飛行により生じる空気流(飛行風)により動作する。RAT17も、交流発電機としてRAT発電機171を備えている。
【0046】
APU12は、緊急時の動力源として用いられるだけでなく、後述するように左右のエンジン11L,11Rを起動させる際にも用いられる。一方、RAT17は、基本的に、非常用の動力源であり、飛行中の緊急時に際して安全上で必要最低限の電力を供給できるように構成されている。
【0047】
次に、本実施の形態に係る安定化システムは、
図2に示すように、左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rと、左側電気系統20Lに含まれる電源安定化装置30Lおよび二次電池13Lと、右側電気系統20Rに含まれる電源安定化装置30Rおよび二次電池13Rから少なくとも構成されている。
【0048】
左側電気系統20Lは、電源装置として、左エンジン11Lに設けられる第一始動発電機141Lおよび第二始動発電機142L、並びに、二次電池13Lを備えている。また、右側電気系統20Rは、右エンジン11Rに設けられる第一始動発電機141Rおよび第二始動発電機142R、並びに二次電池13Rを備えている。
【0049】
また、推進用エンジンとは別の動力装置としてAPU12が設けられ、このAPU12は交流発電機である第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122を備えている。また、非常用の動力装置としてRAT17が設けられ、このRAT17は、RAT発電機171を備えている。これら発電機は左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rの双方に接続されている。具体的には、第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122は、
図2に示すように、左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rの双方に直接接続可能に構成されている。また、RAT発電機171は、
図2に示すように、バックアップバス29を介して左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rの双方に接続可能に構成されている。それゆえ、第一APU始動発電機121、第二APU始動発電機122およびRAT発電機171は、左側電気系統20Lの電源装置であるとともに、右側電気系統20Rの電源装置でもある。
【0050】
したがって、本実施の形態では、左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rのいずれも、電源装置として5つの交流電源と1つの直流電源との合計6つを備えていることになる。なお、本実施の形態では、APU12の第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122はAPU12の始動器(starter)を兼ねており、左右エンジン11L,11Rの始動は、第一始動発電機141L,141Rと第二始動発電機142L,142Rとが、第一APU始動発電機121と第二APU始動発電機122の発電電力を利用して行う。
【0051】
2つの電気系統のうち左側電気系統20Lの構成について説明すると、左側電気系統20Lの第一始動発電機141Lは、一次電源リレー281を介して第一一次交流電源バス(第一一次ACバス)211Lに接続されており、第一一次ACバス211Lは、各APU始動発電機121,122、変圧整流器(TRU)251L、変圧器261L、第一PWMコンバータ253L、および第二一次交流電源バス(第二一次ACバス)212Lに対して、それぞれ二次電源リレー282を介して接続されている。
【0052】
また、第二始動発電機142Lは、一次電源リレー281を介して第二一次ACバス212Lに接続されており、第二一次ACバス212Lは、第一一次ACバス211Lおよび第二PWMコンバータ254Lに対して、それぞれ二次電源リレー282を介して接続可能となっている。また、第二一次ACバス212Lは、舵面制御用のアクチュエータ151(以下、説明の便宜上、「舵面アクチュエータ151」と略す。)にも接続されている。
【0053】
したがって、第一始動発電機141Lは、第一一次ACバス211Lを介して、TRU251L、変圧器261L、第一PWMコンバータ253L、および第二一次ACバス212Lに交流電力を供給可能となっており、また、第二始動発電機142Lは、第二一次ACバス212Lを介して、第一一次ACバス211L、第二PWMコンバータ254L、および舵面アクチュエータ151に交流電力を供給可能となっている。
【0054】
また、第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122は、それぞれ一次電源リレー281および二次電源リレー282を介して第一一次ACバス211Lに接続されている。また、RAT発電機171は、一次電源リレー281を介してバックアップバス29に接続され、このバックアップバス29は、二次電源リレー282を介して第二一次ACバス212Lに接続されている。
【0055】
したがって、第一一次ACバス211Lには、第一始動発電機141Lだけでなく、第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122から交流電力が供給可能となっており、さらに、第二一次ACバス212Lを介して、第二始動発電機142Lからも交流電力が供給可能となっている。第二一次ACバス212Lも同様に、第二始動発電機142Lだけでなく、第一始動発電機141L、第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122の他、RAT発電機171からも交流電力が供給可能となっている。
【0056】
第一一次ACバス211Lに接続されるTRU251Lは直流電源バス(DCバス)27Lに接続され、このDCバス27Lは、直流電源切換リレー285を介してエッセンシャルバス22Lに接続されている。第一一次ACバス211Lに接続される変圧器261Lは二次交流電源バス(二次ACバス)23Lに接続されている。また、第一PWMコンバータ253Lは、DCバス切換リレー286を介して第一直流電源バス(第一DCバス)241Lに接続されている。さらに第一DCバス241Lは、モータコントローラ331およびモータ切換リレー287を介して駆動モータ(図中M)を備える電力負荷152に接続されている。
【0057】
なお、この電力負荷152は、舵面アクチュエータ151以外の電力負荷15、例えば、油圧ポンプまたは空調コンプレッサ等の大型の電気モータであり、その種類等は具体的に限定されない。本実施の形態では、「電力負荷15」は、全ての電気機器を含み、電力負荷152は、舵面アクチュエータ151以外の大型の電気モータを指すものとする。そのため、説明の便宜上、「電力負荷152」を「その他の電力負荷152」と称する。
【0058】
また、第二一次ACバス212Lに接続される第二PWMコンバータ254Lは、前述した第一PWMコンバータ253Lと同様に、DCバス切換リレー286を介して第二DCバス242Lに接続され、この第二DCバス242Lは、他のモータコントローラ331およびモータ切換リレー287を介してその他の電力負荷152に接続されている。さらに、第二PWMコンバータ254Lは、昇圧コンバータ332Lに対して双方向に接続されており、昇圧コンバータ332Lは、二次電池13Lに接続されている。なお、第二PWMコンバータ254Lおよび昇圧コンバータ332Lは、図中一点鎖線で囲んでいるように、後述する電源安定化装置30Lの一部を構成している。
【0059】
また、二次電池13Lは、電圧変換器262Lおよび整流素子252Lを介してエッセンシャルバス22Lに接続されている。前述したように、エッセンシャルバス22Lには、DCバス27LおよびTRU251Lを介して第一一次ACバス211Lに接続されているので、エッセンシャルバス22Lは、交流電源(第一始動発電機141L、第二始動発電機142L、各APU始動発電機121,122およびRAT発電機171)から電力の供給が可能となっているとともに、直流電源である二次電池13Lからも電力の供給が可能となっている。
【0060】
ここで、左側電気系統20Lにおいては、第一始動発電機141Lに第一一次ACバス211Lが接続され、この第一一次ACバス211Lには、第一PWMコンバータ253Lを介して第一DCバス241Lが接続され、この第一DCバス241Lには、その他の電力負荷152が接続されている。同様に、第二始動発電機142Lには第二一次ACバス212Lが接続され、この第二一次ACバス212Lには、第二PWMコンバータ254Lを介して第二DCバス242Lが接続され、この第二DCバス242Lには、その他の電力負荷152が接続されている。
【0061】
それゆえ、左側電気系統20Lは、第一始動発電機141Lから第一一次ACバス211Lに接続される下位の電気系統と、第二始動発電機142Lから第二一次ACバス212Lに接続される下位の電気系統との2つから構成されていることになる。下位の電気系統を、説明の便宜上「下位系統」と略すれば、第一一次ACバス211Lに接続される下位系統を「第一下位系統」ということができ、第二一次ACバス212Lに接続される下位系統を「第二下位系統」ということができる。
【0062】
左側電気系統20Lの第一下位系統と第二下位系統とは、一次ACバス211L,212L同士で互いに二次電源リレー282を介して接続可能となっており、さらに、DCバス241L,242L同士でも互いにDCバス切換リレー286を介して接続可能となっている。したがって、左側電気系統20Lは、二重冗長系を構成していることになる。
【0063】
もう一方の電気系統である右側電気系統20Rの構成は、
図2に示すように、前述した左側電気系統20Lと同一である。すなわち、電源装置として、第一始動発電機141R、第二始動発電機142R、および二次電池13Rを備えるとともに、左側電気系統20Lと共有する形で、第一APU始動発電機121および第二APU始動発電機122、並びにRAT発電機171を備えている。また、右側電気系統20Rは、電源バスとして、第一一次ACバス211R、第二一次ACバス212R、DCバス27R、エッセンシャルバス22R、二次ACバス23R、第一DCバス241R、第二DCバス242Rを備え、整流器および変圧器として、TRU251R、整流素子252R、第一PWMコンバータ253R、第二PWMコンバータ254R、変圧器261R、電圧変換器262R、および昇圧コンバータ332Rを備えている。
【0064】
第一一次ACバス211Rには、一次電源リレー281を介して第一始動発電機141Rが接続されているとともに、二次電源リレー282および一次電源リレー281を介して各APU始動発電機121,122が接続され、さらに、二次電源リレー282を介して第二一次ACバス212Rにも接続されている。
【0065】
また、第二一次ACバス212Rは、一次電源リレー281を介して第二始動発電機142Rが接続されているとともに、二次電源リレー282を介して第一一次ACバス211Rにも接続されている。また、第二一次ACバス212Rは、二次電源リレー282、バックアップバス29および一次電源リレー281を介してRAT発電機171に接続できるようになっている。
【0066】
第一一次ACバス211Rおよび第二一次ACバス212Rは、左側電気系統20Lと同様に、二次電源リレー282を介して、前述したTRU251R、変圧器261R、PWMコンバータ253R,254R、または舵面アクチュエータ151等にそれぞれ接続されている。また、PWMコンバータ253R,254Rは、DCバス切換リレー286を介して第一DCバス241Rまたは第二DCバス242Rに接続され、これらDCバス241R,242Rは、モータコントローラ331または333とモータ切換リレー287とを介してその他の電力負荷152に接続されている。また、TRU251Rは、DCバス27Rに接続され、DCバス27Rは、直流電源切換リレー285を介してエッセンシャルバス22Rに接続されている。また、変圧器261Rは二次ACバス23Rに接続されている。
【0067】
このように、右側電気系統20Rは、左側電気系統20Lと同様に、第一始動発電機141Rから第一一次ACバス211Rに接続される第一下位系統と、第二始動発電機142Rから第二一次ACバス212Rに接続される第二下位系統との2つの下位系統が構成されている。ただし、後述するように、第二DCバス242Rに接続されるモータコントローラ333は、モータ切換リレー287を介してその他の電力負荷152に接続されているとともに、始動切換リレー283を介して、APU始動発電機121,122、第一一次ACバス211L,211Rにも接続されている。なお、右側電気系統20Rについては、これ以上の具体的な説明は省略する。
【0068】
左側電気系統20Lと右側電気系統20Rとは、左右間接続リレー284を介してエッセンシャルバス22L,22R同士、二次ACバス23L,23R同士、および第一DCバス241L,241R同士で接続されている。さらに、第一一次ACバス211L,211R同士も二次電源リレー282を介して互いに接続されているとともに、各APU始動発電機121,122にも接続されている。左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rは、電気系統としてそれぞれ独自に作動するよう構成されているが、一方の電気系統において発電が停止すれば、これら電源バス同士の間に介在する左右間接続リレー284が切り換えられることにより他方の電気系統に電力が供給される。
【0069】
このように、左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rは、互いの第一下位系統同士で接続されている。左側電気系統20Lの交流電源である始動発電機141L,142Lから右側電気系統20Rに電力の供給が可能であり、また、左側電気系統20Lの直流電源である二次電池13Lから右側電気系統20Rに電力の供給が可能である。右側電気系統20Rから左側電気系統20Lの電力供給も同様である。また、各APU始動発電機121,122およびRAT発電機171は左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rのいずれにも接続されているので、双方に電力供給が可能である。
【0070】
本実施の形態では、各電気系統20L,20Rが互いに電源バス同士で接続されている。それゆえ、航空機100の電気系統としては、各電気系統20L,20Rが互いに接続された二重冗長系として構成されている。さらに各電気系統20L,20Rはそれぞれ第一下位系統および第二下位系統により構成され、各下位系統同士が互いに接続されているので、実質的に四重冗長系を構成していることになる。いずれか1つの下位系統が電力供給可能であれば、電気系統全体を維持することが可能になっている。それゆえ、電気系統の信頼性をより一層向上することができる。なお、各電気系統20L,20Rの間には、左右間接続リレー284(第一一次ACバス211L,211Rの間には2つの二次電源リレー282)が介在しているので、これら電気系統20L,20Rの間は、常に電気的に接続されているわけではない。
【0071】
また、各電気系統20L,20Rのそれぞれの第二下位系統には、二次電池13L,13Rが接続されており、かつ、図中一点鎖線で囲んだ電源安定化装置30L,30Rが含まれている。したがって、舵面アクチュエータ151が接続されていることで電力変動が大きい第二下位系統の安定化を図ることができる。この点については後述する。
【0072】
また、各電気系統20L,20Rは、前記の通り、第一PWMコンバータ253L,253R、第二PWMコンバータ254L,254R、昇圧コンバータ332L,332Rを含んでいるため、交流が流れる領域と直流が流れる領域とに区分することができる。前者を「交流領域」と称し、後者を「直流領域」と称すれば、第一一次ACバス211L,211Rおよび第二一次ACバス212L,212Rは交流領域の電源バスに対応し、第二DCバス242L,242Rおよび第一DCバス241L,241Rは直流領域の電源バスに対応する。そして、交流領域と直流領域との間には、DCバス切換リレー286が介在している。
【0073】
前記構成の電気系統20L,20Rにおいて、交流電源から電力が供給される基本的な経路について簡単に説明する。まず、第一始動発電機141L,141R、第二始動発電機142L,142Rまたは各APU始動発電機121,122からの三相交流電力(説明の便宜上、「通常交流電力」と称する。)は、全て一次ACバス211L,212L,211R,212Rに供給されるので、電力負荷15(舵面アクチュエータ151およびその他の電力負荷152)に対する通常交流電力の供給は、一次ACバス211L,212L,211R,212Rを介して行われることになる。
【0074】
また、航空機100が飛行中であって、第一始動発電機141L,141R、第二始動発電機142L,142Rまたは各APU始動発電機121,122のいずれからも電力が供給できない状態が発生すれば、RAT17が始動して、RAT発電機171が発電を開始する。RAT発電機171もバックアップバス29を介して一次ACバス212L,212Rに接続されているので、RAT発電機171で発電される三相交流電力(説明の便宜上、「RAT交流電力」と称する。)も、バックアップバス29を介して一次ACバス212L,212Rに供給される。
【0075】
このとき、RAT交流電力は、航空機100の飛行に際して安全上で必要最小限となる電力負荷15、すなわち、舵面アクチュエータ151およびエッセンシャルバス22L,22Rに接続されている電気機器に限って供給される。具体的には、RAT交流電力は、第二一次ACバス212L,212Rから舵面アクチュエータ151に供給される。また、RAT交流電力は、後述するように、第二一次ACバス212L,212Rから電源安定化装置30L,30Rで直流電力に変換され、電圧変換器262L,262Rおよび整流素子252L,252Rを経由して、エッセンシャルバス22L,22Rへ供給される。
【0076】
このとき、その他の電力負荷152に対しては、RAT交流電力は供給されない。それゆえ、電源安定化装置30L,30Rを構成する第二PWMコンバータ254L,254Rと第二DCバス242L,242Rとの間に介在するDCバス切換リレー286、並びに、第一一次ACバス211L,211Rと第一PWMコンバータ253L,253Rとの間に介在する二次電源リレー282が切断状態に切り換わるとともに、第二一次ACバス212L,212Rと第一一次ACバス211L,211Rとの間に介在する二次電源リレー282も切断状態となる。これにより、その他の電力負荷152に対するRAT交流電力の供給が遮断される。
【0077】
[電気系統の構成要素]
次に、各電気系統20L,20Rを構成する電源装置、電源バス、整流器、および変圧器等について具体的に説明する。まず、電源装置のうち交流電源の一つである始動発電機141L,142L,141R,142Rは、前述した通り、それぞれ左エンジン11L、右エンジン11Rに設けられており、三相交流電力を発電する。三相交流電力の電圧および周波数は特に限定されないが、本実施の形態では、230VAC、360〜800Hz可変周波数(VF)である。あるいは、115VAC、360〜800HzVFであってもよい。さらには、始動発電機141L,142Lのいずれか1つと、始動発電機141R,142Rのいずれか1つとは、230VACあるいは115VACで、AC400Hzの一定周波数(CF)であってもよい。なお、始動発電機141L,142L,141R,142Rの電圧が115VACの場合には、
図1に示す変圧器261L,261Rは無くてもよい。
【0078】
また、交流電源の一つであるAPU始動発電機121,122は、APU12が備えるマイクロガスタービン(図示せず)に設けられ、始動発電機141L,142L,141R,142Rと同様に三相交流電力を発電する。マイクロガスタービンは、タービンおよびコンプレッサが同軸に結合され、そのコンプレッサ軸に各APU始動発電機121,122が設けられている。APU始動発電機121,122が発電する三相交流電力は、230VAC、400HzCF、または115VAC、400HzCFである。
【0079】
また、非常用の交流電源であるRAT発電機171は、RAT17が備えるプロペラの回転により発電する交流発電機であり、飛行に際して安全上で必要最小限の三相交流電力を発電できるように構成されている。RAT発電機171に接続されるバックアップバス29は、RAT発電機171からの三相交流電力を第二一次ACバス212L,212Rに供給するために設けられる。
【0080】
一次ACバス211L,212L,211R,212Rは、本実施の形態では、230VACを定格電圧とする電源バスであり、始動発電機141L,142L,141R,142R、APU始動発電機121,122またはRAT発電機171からの三相交流電力を左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rにそれぞれ供給するために設けられる。また、一次ACバス212L,212Rには、前述したように舵面アクチュエータ151が接続されている。
【0081】
TRU251L,251Rは、第一一次ACバス211L,211Rからの230VACの電力を28VDCの電力に変換する。DCバス27L,27Rは、TRU251L,251Rで変換された28VDCの電力をエッセンシャルバス22L,22Rに供給するための電源バスである。エッセンシャルバス22L,22Rは、本実施の形態では28VDCを定格電流とする電源バスであり、TRU251L,251Rで変換された28VDCの電力を、航空機100を操縦する上で重要な制御システム(例えば、航空機100を操縦する上で重要な表示装置あるいは制御装置等)に供給する。
【0082】
変圧器261L,261Rは、第一一次ACバス211L,211RからのAC230Vの電力を115VACに降圧する。二次ACバス23L,23Rは、変圧器261L,261Rで降圧された115VACの電力を、航空機100に搭載されている各種電気機器または電子機器に供給する。
【0083】
電源安定化装置30L,30Rは、交流電源(始動発電機141L,142L,141R,142R)と二次電池13L,13Rとの間に介在し、第二一次ACバス212L,212Rの電圧を調整することにより、当該第二一次ACバス212L,212Rの安定化を図る。なお、その具体的な構成については、電源安定化装置30L,30Rに含まれる昇圧コンバータ332L,332Rとともに後述する。二次電池13L,13Rは各電気系統20L,20Rの直流電源であり、本実施の形態では、250Vの定格電圧、10AH(Ampere-Hour)の容量を有する。
【0084】
二次電池13L,13Rは、大きな電力負荷15(例えばアクチュエータ等)からの逆起電力を吸収し、かつ、電力負荷15における過渡的な必要電力を供給するよう構成されている。具体的には、二次電池13L,13Rは、電力負荷15からの逆起電力を吸収可能とする定格電圧を有していればよく、本実施の形態では、前記の通り250Vとなっているが、この値に限定されない。また、二次電池13L,13Rの容量も、本実施の形態では、前記の通り10AHとなっているが、この値に限定されない。
【0085】
例えば、後述するように、従来の航空機の一般的な電気系統においては、二次電池の定格電圧としては、例えば24VDC(
図16の二次電池913参照)、あるいは28VDCが挙げられる。これに対して、本実施の形態の二次電池13L,13Rの定格電圧は、例えば250Vであり、始動発電機141L,142L,141R,142Rの電圧(230VAC)あるいはAPU始動発電機121,122の電圧と略同等である。
【0086】
それゆえ、本実施の形態で用いられる直流電源(二次電池13L,13R、あるいは後述するキャパシタ等)の定格電圧は、従来の一般的な航空機用二次電池を基準とすれば、少なくともその約10倍(具体的には8〜12倍程度)の定格電圧を有していることが好ましく、交流電源の電圧を基準とすれば、少なくとも略同等(具体的には0.9〜1.1倍程度)の定格電圧を有していることが好ましい。直流電源としてこのような定格電圧を有するものを用いれば、電力負荷からの逆起電力を吸収することができ、また、後述する過負荷による電圧低下にも十分対応することができる。
【0087】
なお、直流電源としては、このような定格電圧または容量を有するものに限定されず、電力負荷からの逆起電力を吸収し、かつ、電力負荷における過渡的な必要電力を供給することが可能であれば、必要に応じて、さらに大きな定格電圧または容量を有する直流電源を用いることができる。
【0088】
電圧変換器262L,262Rは、二次電池13L,13Rからの250VDCを28VDCに降圧する。整流素子252L,252Rは、降圧された28VDCの電力をエッセンシャルバス22L,22Rに向けて流すように整流する。それゆえ、エッセンシャルバス22L,22Rには、第一下位系統の第一一次ACバス211L,211Rから電力が供給可能になっているだけでなく、第二下位系統の二次電池13L,13Rからも電力が供給可能となっている。
【0089】
一次ACバス211L,212L,211R,212Rに接続されるPWMコンバータ253L,254L,253R,254Rは、それぞれ一次ACバス211L,212L,211R,212Rからの230VACの電力を+/−270VDCの電力に変換する。また、特に第二下位系統の第二PWMコンバータ254L,254Rは、二次電池13L,13Rからの250VDCの電力を230VACの電力に変換可能となっている(もちろん第一下位系統の第一PWMコンバータ253L,253RもDC−AC変換が可能になっていてもよい)。
【0090】
PWMコンバータ253L,254L,253R,254Rに接続されるDCバス241L,242L,241R,242Rは、変換された+/−270VDCの電力を、それぞれモータコントローラ331を介してその他の電力負荷152に供給する。DCバス241L,242L,241R,242Rの定格電圧は+/−270VDCである。その他の電力負荷152は、駆動モータ(
図1において「M」で示す)を備えており、この駆動モータに駆動用のAC電力が供給されることでその他の電力負荷152が動作する。
【0091】
一次電源リレー281、二次電源リレー282、始動切換リレー283、左右間接続リレー284、直流電源切換リレー285、DCバス切換リレー286、およびモータ切換リレー287は、いずれも、各電気系統20L,20Rの所定の箇所で、必要に応じて、通電を接続状態または切断状態に適宜切り換える「リレー要素」である。なお、これらリレー要素は、
図1では、いずれもキャパシタの記号で図示している。
【0092】
一次電源リレー281は、交流電源に直接接続されているリレー要素であって、当該交流電源から一次ACバス211L,212L,211R,212R等に電力を供給するときには接続状態となり、電力を供給しないときには切断状態となる。二次電源リレー282は、一次ACバス211L,212L,211R,212Rに直接接続されているリレー要素(一次電源リレー281を除く)であって、交流電源から一次ACバス211L,212L,211R,212Rを介して各要素に電力を供給するときには接続状態となり、電力を供給しないときには切断状態となる。
【0093】
また、始動切換リレー283は、後述するように、APU始動発電機121,122を始動する場合には接続状態となり、これによって、一次ACバス211L,212L,211R,212Rを介さない経路(始動時経路)でモータコントローラ333をAPU始動発電機121,122に接続する。モータコントローラ333によりAPU始動発電機121,122を始動しない場合には切断状態となる。
【0094】
また、左右間接続リレー284は、前述したように、左側電気系統20Lおよび右側電気系統20Rの間で電力を供給可能とするためのリレー要素であり、一方の電気系統20Lまたは20Rから他方の電気系統20Rまたは20Lに電力を供給する場合には接続状態となり、電力供給の必要がない場合には切断状態となる。言い換えれば、左右の始動発電機141L,142L,141R,142Rの双方が正常に動作しているときには切断状態にあり、左右の始動発電機141L,142L,141R,142Rのうち一方のみが正常に動作しているとき、もしくは、APU始動発電機121,122から交流電力を供給するとき等には、接続状態となる。
【0095】
また、直流電源切換リレー285は、第一一次ACバス211L,211RからTRU251L,251RおよびDCバス27L,27Rを介して供給される直流電力をエッセンシャルバス22L,22Rに供給可能とするためのリレー要素である。例えば、第一一次ACバス211L,211RからTRU251L,251RおよびDCバス27L,27Rを介して直流電力が供給可能なときには接続状態となり、第一一次ACバス211L,211Rからエッセンシャルバス22L,22Rに直流電力を供給できないときには切断状態となる。
【0096】
DCバス切換リレー286は、第一DCバス241L,241Rおよび第二DCバス242L,242Rに接続されているリレー要素であり、第一PWMコンバータ253L,253Rまたは第二PWMコンバータ254L,254Rから電力が供給される場合には接続状態となり、電力供給の必要がない場合には切断状態となる。また、第一DCバス241L,241Rと第二DCバス242L,242Rとの間(すなわち第一下位系統および第二下位系統の間)で通電を行う場合には接続状態となり、その必要がない場合には切断状態となる。
【0097】
モータ切換リレー287は、モータコントローラ331,333とその他の電力負荷152との間に設けられているリレー要素であり、電力負荷15が備えるモータに電力を供給する場合には接続状態となり、その必要がない場合には切断状態となる。
【0098】
なお、前述した電源装置、電源バス、整流器、および変圧器、あるいはモータコントローラ等の具体的な構成は特に限定されず、特に断りの無い限り、航空機の分野で公知の電源装置、電源バス、整流器および変圧器等が好適に用いられる。また、電力負荷15(舵面アクチュエータ151とその他の電力負荷152)は、航空機が搭載し、電力により動作する公知の搭載機器であればよい。
【0099】
[電源安定化装置の基本構成]
次に、各電気系統20L,20Rに接続される電源安定化装置30L,30Rの基本構成の一例について、
図3および
図4を参照して具体的に説明する。
【0100】
本実施の形態に係る電源安定化装置30L,30Rは、
図3および
図4に示すように、一次ACバス監視部33、DCバス監視部34、二次電池監視部35、および電源安定化制御部36から少なくとも構成されており、昇圧コンバータ332L,332R、および第二PWMコンバータ254L,254Rを制御する。なお、
図3は、電源安定化装置30Lまたは30Rの全体構成を模式的に示す概略ブロック図であるが、
図4は、電源安定化制御部36による制御構成を示す概略ブロック図であるので、
図4においては、説明の便宜上、
図3に図示される一次ACバス監視部33、DCバス監視部34および二次電池監視部35は省略している。
【0101】
第二PWMコンバータ254L,254Rは、前述したように、電気系統20Lまたは20Rの第二下位系統に含まれ、直流電源である二次電池13Lまたは13Rと交流電源との間で、直流電力および交流電力を相互に変換可能とする。なお、ここでいう交流電源とは、
図4に示す第二下位系統の第二始動発電機142Lまたは142Rだけでなく,
図3に示す第一下位系統の第一始動発電機141Lまたは141R、あるいはAPU始動発電機121,122も含む。これは、前述したように、各下位系統が互いに接続され多重冗長系を構成しているためである。
【0102】
第二PWMコンバータ254L,254Rは、電源安定化制御部36の制御に応じて、第二一次ACバス212L,212Rの安定化を行うよう構成されている。第二PWMコンバータ254L,254Rの具体的な構成は特に限定されず、本実施の形態では、
図4に示すように、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いたPWMコンバータ回路と降圧用のオートトランス(三相変圧器)とから構成されている。
【0103】
第二PWMコンバータ254L,254Rのインバータ回路側はモータコントローラ331,333に接続され、オートトランス側は第二始動発電機142L,142R等の交流電源に接続されている。オートトランスを用いて電圧を一旦降下させてからAC−DC変換することにより、第二DCバス242L,242Rの定格電圧+/−270Vに対応する直流を供給することができる。なお、第一PWMコンバータ253L,253Rも、第二PWMコンバータ254L,254Rと同様の構成を有している。
【0104】
昇圧コンバータ332Lまたは332Rは、二次電池13Lまたは13Rに接続され、モータコントローラ331に供給するために、二次電池13Lまたは13Rからの直流電力を昇圧する。本実施の形態では、電力負荷15に供給される直流電力は+/−270VDCであり、二次電池13Lまたは13Rからの直流電力は250VDCであるため、昇圧コンバータ332Lまたは332Rは約2倍の電圧に昇圧する。昇圧コンバータ332Lまたは332Rの具体的な構成は特に限定されず、本実施の形態では、IGBTを用いた双方向昇圧チョッパ回路となっている。なお、二次電池13Lまたは13Rの直流電力を昇圧する必要がなければ、昇圧コンバータ332Lまたは332Rは無くてもよい。
【0105】
図4に示すモータコントローラ331,333は、第二DCバス242L,242Rを介して第二PWMコンバータ254L,254Rに接続されており(
図2も参照)、電力負荷15に含まれる駆動モータを制御する。モータコントローラ331,333の具体的な構成は特に限定されず、本実施の形態では、第二PWMコンバータ254L,254Rのインバータ回路と同様のものが用いられる。
【0106】
昇圧コンバータ332Lまたは332Rおよび第二PWMコンバータ254Lまたは254Rは、各電気系統20Lまたは20Rの「電力変換部」を構成している。この電力変換部は、後述する電源安定化制御部36の制御を受けて、直流電源(二次電池13Lまたは13R)と交流電源(始動発電機141L,142L,141R,142R、APU始動発電機121,122、およびRAT発電機171)との間で、直流電力および交流電力を相互に変換可能とするものであり、本実施の形態では、第二下位系統の整流器である第二PWMコンバータ254Lまたは254Rが、各電気系統20Lまたは20Rの「電力変換部」を兼ねていることになる。
【0107】
なお、以下の説明では、必要に応じて、昇圧コンバータ332Lまたは332R、および第二PWMコンバータ254Lまたは254Rを、単に「電力変換部」と称する場合がある。また、
図2では、第二PWMコンバータ254L,254Rと昇圧コンバータ332L,332Rとは双方向で接続されるよう模式的に図示しているが、実際には、
図4に示すように、第二DCバス242L,242Rを介して互いに接続されている。
【0108】
一次ACバス監視部33は、
図3に示すように、第二一次ACバス212L,212Rの電圧の変動および周波数の変動の少なくとも一方を監視し、その監視結果(図中矢印m1)である計測電圧値を電源安定化制御部36に出力する。一次ACバス監視部33の具体的構成は特に限定されず、公知の交流電力監視ユニット等を好適に用いることができる。
【0109】
DCバス監視部34は、
図3に示すように、第二PWMコンバータ254L,254Rに接続されている第二DCバス242L,242Rの電圧の変動を監視し、その監視結果(図中矢印m2)である計測電圧値を電源安定化制御部36に出力する。DCバス監視部34の具体的な構成は特に限定されず、公知の直流電圧計等を好適に用いることができる。
【0110】
二次電池監視部35は、
図3に示すように、二次電池13L,13Rの充電状態を監視し、その監視結果(図中矢印m3)を電源安定化制御部36に出力する。二次電池監視部35の具体的な構成は特に限定されず、二次電池13L,13Rの充電状態(SOC:State Of Charge,充電率)を検出可能とする公知のSOC検出器を好適に用いることができる。
【0111】
なお、SOC検出器としては、充放電電流を積算する積算SOC法を用いたタイプと、電池電圧、電流および温度等から充電状態を推定する瞬時SOC法を用いたタイプと、が知られており、いずれのタイプであっても好適に用いることができる。しかしながら、本実施の形態では、好ましくは、積算SOC法で生じる累積誤差を瞬時SOC法で補正する構成のものが用いられる。これにより、SOC検出器を長期間使用してもSOCの誤差の累積が抑制されるので、電源安定化制御部36に出力されるSOCの精度を良好なものとすることができる。そのため、電源安定化装置30L,30Rにより電気系統20をより良好に安定化することができる。
【0112】
電源安定化制御部36は、電源安定化装置30Lまたは30Rの制御器であって、
図3に示すように、一次ACバス監視部33により第二一次ACバス212L,212Rの電圧および周波数を監視(モニタ)し、さらにDCバス監視部34により第二DCバス242L,242Rの電圧も監視し、これら電圧および周波数に基づいて電力変換部(昇圧コンバータ332Lまたは332R、および第二PWMコンバータ254Lまたは254R)を制御する。これにより、直流電源である二次電池13Lまたは13Rの充放電を制御する。
【0113】
なお、本実施の形態では、前記の通り、二次電池監視部35により得られる、二次電池13L,13Rの充電状態も監視して制御に利用している。これに加えて、
図3に示すように、電気系統20L,20Rから得られる、APU始動指令、発電機作動状態、電源安定化開始指令等の情報も、電源安定化制御部36に出力され(図中矢印m0)、電力変換部の制御に利用される。
【0114】
本実施の形態における電源安定化制御部36の具体的な構成は特に限定されず、前述した電力指令信号を生成するために、公知のスイッチング素子、減算器、比較器等による論理回路として構成されてもよいし、あるいは、電源安定化制御部36となるマイクロコントローラのCPUが、同マイクロコントローラの記憶部に格納されるプログラムに従って動作することにより実現される機能構成であってもよい。
【0115】
[電源安定化制御部の構成例]
次に、電源安定化制御部36の具体的な構成の一例について、
図5A〜C、
図6、および
図7A,Bを参照して説明する。
【0116】
本実施の形態では、電力変換部を構成する昇圧コンバータ332L,332Rの基準電圧指令値を操作(調整)することにより、第二PWMコンバータ254L,254Rの有効電力の入力を制御し、合わせて第二PWMコンバータ254L,254Rの無効電力の入力も制御することにより、第二一次ACバス212L,212Rの安定化を図っている。なお、以下の説明では、
図4において、第二一次ACバス212L,212Rから第二PWMコンバータ254L,254Rへ入力される電力の方向を、通常の電力の方向とする。
【0117】
まず、電源安定化制御部36は、
図5Aに示す、昇圧コンバータ332L,332Rを制御する回路(以下、昇圧コンバータ制御回路と称する)と、
図5Bに示す、第二PWMコンバータ254L,254Rを制御する回路(以下、PWMコンバータ制御回路と称する)と、
図5Cに示す、二次電池13L,13Rの充電状態(SOC)を補正するSOC補正回路と、を含んでいる。
【0118】
また、電源安定化制御部36は、
図6または
図7A,Bに示す、昇圧コンバータ制御回路の基準電圧を調整する回路(以下、基準電圧調整回路と称する)を含んでいる。このうち
図6に示す基準電圧調整回路は、交流電源が可変周波数(VF)の発電機(VF発電機)である場合に用いられる回路であり、
図7に示す基準電圧調整回路は、交流電源が一定周波数(CF)の発電機(CF発電機)である場合に用いられる回路である。
【0119】
昇圧コンバータ制御回路は、
図5Aに示すように、第一減算器341および比較制御器343から構成されている。電源安定化装置30L,30Rを構成するDCバス監視部34は、第二DCバス242L,242Rの電圧を監視しており、
図5Aに示すように、計測電圧値Vdcm を監視結果m2として第一減算器341に出力する(
図3も参照)。ここで、第一減算器341には、後述する基準電圧調整回路から基準電圧指令値Vdc_ref_bstも入力される。第一減算器341では、基準電圧指令値Vdc_ref_bstから計測電圧値Vdcm を減算し、その減算値(偏差、Vdc_ref_bst−Vdcm )を比較制御器343に出力する。
【0120】
比較制御器343は、昇圧コンバータ332L,332Rを制御するための出力電流指令値Idc_refを生成する制御器であり、比例定数Kが予め設定されている。それゆえ、比較制御器343は、第一減算器341からの減算値に比例定数Kを乗算することにより、出力電流指令値Idc_ref(=K×(Vdc_ref_bst−Vdcm ))を生成し、これを
図3および
図4において矢印s1で示すように昇圧コンバータ332L,332Rに出力する。
【0121】
PWMコンバータ制御回路は、
図5Bに示すように、比較制御器344、第二減算器342およびPI演算器345から構成されている。前記の通り、DCバス監視部34は、第二DCバス242L,242Rの電圧を監視しており、
図5Bに示すように、計測電圧値Vdcm を監視結果m2として第二減算器342に出力する(
図3も参照)。
【0122】
ここで、PWMコンバータ制御回路に含まれる有効電力の制御回路においては、第二PWMコンバータ254L,254Rの基準電圧値Vdc_ref_pwmが設定されている。そこで、第二減算器342は、基準電圧値Vdc_ref_pwmから計測電圧値Vdcm を減算し、その減算値(偏差、Vdc_ref_pwm−Vdcm )をPI演算器345に出力する。PI演算器345は、減算値にPI(比例積分)制御を行い、有効電力指令値Pcmd を生成する。
【0123】
一方、後述する基準電圧調整回路では、計測電圧の減算値VrefQが生成され、この減算値VrefQが比較制御器344に出力される。比較制御器344では、減算値VrefQに定数−Kqを乗じた値である、無効電力指令値Qcmd を生成する。そして、算出された有効電力指令値Pcmd および無効電力指令値Qcmd が第二PWMコンバータ254L,254Rに出力される。
【0124】
SOC補正回路は、
図5Cに示すように、減算器351および上下限リミッタ352から構成されている。電源安定化装置30L,30Rを構成する二次電池監視部35は、
図3に示すように、二次電池13L,13Rの充電状態を監視しており、
図5Cに示すように、監視結果m3であるSOCの計測値SOCmを減算器351に出力する(
図4も参照)。SOC補正回路には、予めSOCの目標値SOCref が設定されているので、減算器351は、目標値SOCref と計測値SOCmとを比較して減算する。得られる減算値SOCdiff(SOCref −SOC)は、上下限リミッタ352に出力される。上下限リミッタ352では、減算値SOCdiffに基づいて補正電圧値Vsoc_cmp を生成して、基準電圧調整回路に出力する。
【0125】
ここで、交流電源がVF発電機である場合、基準電圧調整回路は、
図6に示すように、第一遅れ演算器361、第二遅れ演算器362、減算器363、比較制御器364、および加算器365から構成されている。電源安定化装置30L,30Rを構成する一次ACバス監視部33は、
図3に示すように、第二一次ACバス212L,212Rの電圧を監視しており、
図6に示すように、計測電圧値Vacm を監視結果m1として第一遅れ演算器361に出力する(
図3および
図4も参照)。
【0126】
第一遅れ演算器361は、計測電圧値Vacm に生ずる、フィルタによる時間遅れを表しており、この出力として系統電圧値Vgen を生成し、第二遅れ演算器362および減算器363に出力する。なお、第一遅れ演算器361の時定数Tmは測定遅延時間として設定されている。第二遅れ演算器362は、系統電圧値Vgen に時間遅れ処理を施して系統電圧目標値Vref を生成し、減算器363に出力する。なお、第二遅れ演算器362の時定数Tは適宜設定可能であり、本実施の形態では10秒に設定されている。
【0127】
減算器363は、系統電圧目標値Vref から系統電圧値Vgen を減算し、その減算値VrefQ(偏差、Vref −Vgen )を生成して比較制御器364に出力する。また、減算器363は、生成した減算値VrefQを、
図5Bに示すPWMコンバータ制御回路にも出力する。この減算値VrefQは、前述したように、PWMコンバータ制御回路において無効電力を制御するための入力信号として用いられる。
【0128】
比較制御器364は、昇圧コンバータ制御回路における基準電圧指令値Vdc_ref_bstを生成するための制御器であり、比例定数Kvが予め設定されている。比較制御器364は、減算器363の出力値である減算値に比例定数Kvを乗算することにより、基準電圧指令値の基本値(乗算値)を生成し、この基本値を加算器365に出力する。
【0129】
加算器365においては、基準電圧の目標値Vdc_refが予め設定されており、さらにSOC補正回路で生成された補正電圧値Vsoc_cmp も出力される。それゆえ、加算器365は、比較制御器364から出力された基本値に、目標値Vdc_refと補正電圧値Vsoc_cmp とを加算することにより、基準電圧指令値Vdc_ref_bstを生成する。この基準電圧指令値Vdc_ref_bstは、前記の通り、昇圧コンバータ制御回路の第一減算器341に出力される。この基準電圧指令値Vdc_ref_bstは、PWMコンバータ制御回路において有効電力を制御するための入力信号として用いられることになる。
【0130】
一方、交流電源がCF発電機である場合、基準電圧調整回路は、
図7Aに示す信号生成回路と、
図7Bに示す信号生成回路とから構成されている。前者は、PWMコンバータ制御回路の無効電力を制御するための入力信号を生成する回路であるため、説明の便宜上、無効電力制御信号生成回路と称する。また、後者は、PWMコンバータ制御回路の有効電力を制御するための入力信号を生成する回路であるため、説明の便宜上、有効電力制御信号生成回路と称する。
【0131】
無効電力制御信号生成回路は、
図7Aに示すように、第一遅れ演算器371、第二遅れ演算器372、および減算器375から構成されている。一次ACバス監視部33は、
図3に示すように、第二一次ACバス212L,212Rの電圧を監視しており、
図7Aに示すように、計測電圧値Vacm を監視結果m1として第一遅れ演算器371に出力する。第一遅れ演算器371は、フィルタによる時間遅れを示しており、この出力として系統電圧値Vgen を生成し、第二遅れ演算器372および減算器375に出力する。
【0132】
第二遅れ演算器372は、系統電圧値Vgen に時間遅れ処理を施して系統電圧目標値Vref を生成し、減算器375に出力する。減算器375は、系統電圧目標値Vref から系統電圧値Vgen を減算し、その減算値VrefQを生成し、
図5Bに示すPWMコンバータ制御回路に出力する。この減算値VrefQは、前述したように、PWMコンバータ制御回路において無効電力を制御するための入力信号として用いられる。なお、第一遅れ演算器371の時定数Tmおよび第二遅れ演算器372の時定数Tは、VF発電機用の基準電圧調整回路と同様である。
【0133】
また、有効電力制御信号生成回路は、
図7Bに示すように、第三遅れ演算器373、PLL演算器374、減算器376、比較制御器377、および加算器378から構成されている。一次ACバス監視部33は計測電圧値Vacm (監視結果m1、
図3参照)をPLL演算器374に出力する。PLL演算器374は、計測電圧値Vacm に位相同期演算(Phase Locked Loop;PLL演算)を施すことにより、電気系統20L,20Rの系統周波数Fgen を生成し、第三遅れ演算器373に出力する。
【0134】
第三遅れ演算器373は、第二遅れ演算器372と同じ構成であり、系統周波数Fgen に時間遅れ処理を施して系統周波数目標値Fref を生成し、減算器376に出力する。減算器376は、系統周波数目標値Fref から系統周波数Fgen を減算し、その減算値(偏差、Fref −Fgen )を比較制御器377に出力する。
【0135】
比較制御器377には比例定数Kfが予め設定されているので、比較制御器377は、減算値に比例定数Kfを乗算することにより、基準電圧指令値Vdc_ref_bstの基本値(乗算値)を生成し、この基本値を加算器378に出力する。加算器378に対しては、基準電圧の目標値Vdc_refが予め設定されており、さらにSOC補正回路で生成された補正電圧値Vsoc_cmp も出力される。それゆえ、加算器378は、この基本値に基準電圧の目標値Vdc_refおよび補正電圧値Vsoc_cmp を加算することにより、基準電圧指令値Vdc_ref_bstを生成する。この基準電圧指令値Vdc_ref_bstは、前記の通り、昇圧コンバータ制御回路の第一減算器341に出力される。この基準電圧指令値Vdc_ref_bstは、PWMコンバータ制御回路において有効電力を制御するための入力信号として用いられることになる。
【0136】
交流電源がVF発電機であって、電力負荷量の変動等により第二一次ACバス212L,212Rの電圧が降下した場合には、交流領域(第二一次ACバス212L,212R)の計測電圧値Vacm (m1)が降下する。その結果、
図6に示す基準電圧調整回路では、基準電圧指令値Vdc_ref_bst(有効電力を制御する入力信号)が上昇し、これにより、
図5Aに示す昇圧コンバータ制御回路では、出力電流指令値Idc_refがプラスとなるので、昇圧コンバータ332L,332Rが二次電池13L,13Rから放電される直流電力を昇圧する。その結果、計測電圧値Vdcm (第二DCバス242L,242Rの電圧、m2)が上昇する。
【0137】
これにより、
図5Bに示すPWMコンバータ制御回路においては、有効電力指令値Pcmd がマイナスとなるので、第二PWMコンバータ254L,254Rは、第二一次ACバス212L,212Rからの有効電力の入力(実負荷の入力)を減少させる。このとき二次電池13L,13Rは放電状態にある。このような制御により、第二一次ACバス212L,212Rの電圧降下が補われて、電圧の安定化(電気系統の安定化)を図ることができる。
【0138】
また、第二一次ACバス212L,212Rの電圧が降下した場合には、
図6に示す基準電圧調整回路において、計測電圧の減算値VrefQ(無効電力を制御する入力信号)もプラスとなる。これにより、
図5Bに示すPWMコンバータ制御回路においては、無効電力指令値Qcmd がマイナスとなるので、第二PWMコンバータ254L,254Rからは、進み力率の無効電力が入力される。このような制御によって、電圧の降下が抑制され、電圧の安定化(電気系統の安定化)を図ることができる。
【0139】
一方、第二一次ACバス212L,212Rの電圧が上昇した場合には、電源安定化制御部36、すなわち、基準電圧調整回路(
図6参照)、昇圧コンバータ制御回路(
図5A参照)、およびPWMコンバータ制御回路(
図5B参照)では、前述した制御(電圧が降下した場合の制御)とは逆の制御が行われることになる。これにより、第二DCバス242L,242Rと第二一次ACバス212L,212Rとの双方の電圧の安定化(電気系統の安定化)を図ることができる。
【0140】
つまり、第二一次ACバス212L,212Rの電圧(交流領域の計測電圧値Vacm )が上昇すれば、基準電圧生成回路(
図6参照)では、計測電圧の減算値VrefQはマイナスとなり、基準電圧指令値Vdc_ref_bstが下降する。そのため、昇圧コンバータ制御回路(
図5A参照)では、出力電流指令値Idc_refがマイナスとなるので、直流領域の計測電圧値Vdcm が下降する。
【0141】
減算値VrefQがマイナスであれば、PWMコンバータ制御回路(
図5A参照)では、無効電力指令値Qcmd がマイナスとなる。これにより、第二PWMコンバータ254L,254Rから遅れ力率の無効電力が入力される。また、直流領域の計測電圧値Vdcm が上昇することで、減算値Vdc_ref_pwm−Vdcm がプラスになれば、有効電力指令値Pcmd がプラスになる。その結果、第二一次ACバス212L,212Rから第二PWMコンバータ254L,254Rへの有効電力の入力は増加する。このとき、二次電池13L,13Rは充電しているので、第二一次ACバス212L,212Rの電圧上昇が補われる。
【0142】
このように、本実施の形態では、交流電源がVFであれば、電源安定化制御部36は、監視による電圧の変動が電圧上昇であれば、電力変換部を制御して、電圧上昇に比例して直流電源(二次電池13L,13R)を充電することで、有効電力の入力を増加させてもよいし、電圧上昇に比例して遅れ力率の無効電力を入力させてもよいし、有効電力および無効電力の制御の双方を行わせてもよい。これにより、後述するように、電気系統20L,20Rに生じた一時的な電圧上昇と交流電源への電力戻りの発生とを有効に抑制することができる。
【0143】
一方、電源安定化制御部36は、監視による電圧の変動が電圧降下であれば、電力変換部を制御して、電力降下に比例して前記直流電源から放電することで、有効電力の入力を減少させてもよいし、電圧降下に比例して進み力率の無効電力を入力させてもよいし、有効電力および無効電力の制御の双方を行わせてもよい。これにより、後述するように電気系統20L,20Rに生じた一時的な電圧低下を有効に抑制することができる。
【0144】
交流電源がCF発電機であって、第二一次ACバス212L,212Rの電力量が増加した場合には、交流領域の計測電圧値Vacm が降下するとともに、
図7Bに示す有効電力制御信号生成回路では、系統周波数Fgen が降下し、結果として基準電圧指令値Vdc_ref_bstは上昇する。これにより、
図5Aに示す昇圧コンバータ制御回路及び
図5Bに示すPWMコンバータ制御回路では、前記と同様に、出力電流指令値Idc_refがプラスとなり、直流領域の計測電圧値Vdcm (m2)が上昇するとともに、有効電力指令値Pcmd がマイナスに変動する。これにより、第二PWMコンバータ254L,254Rは、第二一次ACバス212L,212Rからの有効電力の入力を減少させる(このとき、二次電池13L,13Rは放電している)。
【0145】
また、第二一次ACバス212L,212Rの電圧が降下して計測電圧値Vacm が降下すれば、
図7Aに示す無効電力制御信号生成回路では、系統電圧値Vgen が低下し、結果として、計測電圧の減算値VrefQもプラスとなる。これにより、
図5Bに示すPWMコンバータ制御回路では、無効電力指令値Qcmd がマイナスとなるので、第二PWMコンバータ254L,254Rからは、進み力率の無効電力が入力される。
【0146】
一方、第二一次ACバス212L,212Rの電圧および/または周波数が上昇した場合には、電源安定化制御部36、すなわち、有効電力制御信号生成回路(
図7B参照)、無効電力制御信号生成回路(
図7A参照)、昇圧コンバータ制御回路(
図5A参照)、およびPWMコンバータ制御回路(
図5B参照)では、前述した制御(電圧および/または周波数が降下した場合の制御)とは逆の制御が行われることになる。
【0147】
つまり、第二一次ACバス212L,212Rの電圧(交流領域の計測電圧値Vacm )が上昇すれば、有効電力制御信号生成回路(
図7B参照)では、系統周波数Fgen が上昇するので、基準電圧指令値Vdc_ref_bstが下降する。そのため、昇圧コンバータ制御回路(
図5A参照)では、出力電流指令値Idc_refがマイナスとなるので、直流領域の計測電圧値Vdcm が下降する。
【0148】
また、無効電力制御信号生成回路(
図7A参照)では、計測電圧値Vacm (m1)が上昇すれば、結果として計測電圧の減算値VrefQがマイナスとなる。それゆえ、PWMコンバータ制御回路(
図5B参照)では、無効電力指令値Qcmd がプラスとなる。これにより、第二PWMコンバータ254L,254Rから遅れ力率の無効電力が入力される。また、直流領域の計測電圧値Vdcm が下降することで、減算値Vdc_ref_pwm−Vdcm がプラスになれば、有効電力指令値Pcmd がプラスになる。その結果、第二一次ACバス212L,212Rから第二PWMコンバータ254L,254Rへの有効電力の入力は増加する(このとき、二次電池13L,13Rは充電している)。
【0149】
このように、交流電源がCF発電機であっても、系統周波数の変化で有効電力を制御し、あるいは、系統電圧の変化で無効電力を制御することで、電圧および周波数の安定化(電気系統の安定化)を図ることができる。
【0150】
つまり、本実施の形態では、交流電源がCFであれば、電源安定化制御部36は、監視による周波数の変動が周波数上昇であれば、電力変換部を制御して、周波数上昇に比例して直流電源(二次電池13L,13R)を充電することで有効電力の入力を増加させ、監視による電圧の変動が電圧上昇であれば、電圧上昇に比例して遅れ力率の無効電力を入力させる。これにより、後述するように、電気系統20L,20Rに生じた一時的な逆起電力による電圧および/または周波数の上昇を有効に抑制することができる。
【0151】
一方、電源安定化制御部36は、監視による周波数の変動が周波数降下であれば、電力変換部を制御して、周波数降下に比例して直流電源から放電することで、有効電力の入力を減少させ、監視による電圧の変動が電圧降下であれば、電力変換部を制御して、電圧降下に比例して進み力率の無効電力を入力させる。これにより、後述するように電気系統20L,20Rに生じた一時的な電圧および/または周波数の低下を有効に抑制することができる。
【0152】
また、本実施の形態では、
図5Cに示すSOC補正回路は、二次電池13L,13Rの充電状態を所定の値に維持するように、補正電圧値Vsoc_cmp を生成しており、この補正電圧値Vsoc_cmp が基準電圧の調整に用いられている。それゆえ、充電状態を略一定に保持しつつ充放電を調整することができる。
【0153】
[電気系統の安定化]
次に、前記構成の電源安定化装置30L,30Rによる各電気系統20L,20Rの安定化の一例について、
図3および
図4に加えて、
図8、
図9A,B、
図10ないし
図12を参照して具体的に説明する。なお、
図9A,Bおよび
図10ないし
図12においては、電力負荷15のうち大きな逆起電力が発生しやすい舵面アクチュエータ151と、舵面アクチュエータ151以外のその他の電力負荷152とに分けて、電気系統20Lまたは20Rの安定化を説明する。
【0154】
図8に示すように、本実施の形態に係る安定化システムは、電源安定化装置30L,30Rの制御により、停止状態を含めて、合計5つの状態を遷移するように構成されている。図中中心の状態M0が停止状態であり、APU12の始動が要求されれば、電源安定化装置30L,30Rは、図中上方の状態M1:APU始動状態に移行し、二次電池13L,13Rの電圧を昇圧コンバータ332L,332Rにより上昇させ、この電圧は、第二DCバス242Rを介してモータコントローラ333に供給され、モータコントローラ333によりAPU12が始動される。なお、APU12の始動が完了すれば、状態M0:停止状態に戻る。また、バックアップが要求されれば、図中下方の状態M4:バックアップ状態に移行し、バックアップの停止が要求されれば、状態M0:停止状態に戻る。
【0155】
そして、始動発電機141L,142L,141R,142Rに含まれるVFの発電機が起動し、電気系統20L,20Rの安定化の開始が要求されれば、安定化システムは、図中向かって右側の状態M2:VF電源安定化状態に移行する。なお、VFの始動発電機141L,142L,141R,142Rが停止したり、安定化の停止が要求されたりすれば、状態M0:停止状態に戻る。
【0156】
同様に、APU始動発電機121,122が発電機として電源を供給している状態、あるいは、始動発電機141L,142L,141R,142Rに含まれるCFの発電機が電力を供給している状態で、電気系統20L,20Rの安定化の開始が要求されれば、図中向かって左側の状態M3:CF電源安定化状態に移行する。なお、これらの始動発電機141L,142L,141R,142Rが停止したり、安定化の停止が要求されたりすれば、状態M0:停止状態に戻る。
【0157】
なお、APU始動発電機121,122の発電により第二一次ACバス212L,212Rに電力が供給されている状態において、第二一次ACバス212L,212Rの安定化の開始が要求されたとする。この場合でも、電源安定化装置30L,30Rは、第二一次ACバス212L,212Rの電力の安定化を図るように制御を行うことが可能である。
【0158】
また、航空機100が飛行中に、始動発電機141L,142L,141R,142Rが全て停止する事態が発生し、これにより、RAT17が展開されてRAT発電機171から第二次ACバス212L,212Rに電力が供給されるとする。このとき、安定化の開始が要求された場合であっても、電源安定化装置30L,30Rは、第二一次ACバス212L,212Rの電源安定化を図るように制御を行うことが可能である。
【0159】
RAT発電機171は変動周波数のVF発電機であるので、電気系統20L,20Rの安定化の開始が要求されれば、安定化システムは、状態M2:VF電源安定化状態に移行する。なお、RAT発電機171が停止したり、安定化の停止が要求されたりすれば、状態M0:停止状態に戻る。また、始動発電機141L,142L,141R,142Rが全て停止してからRAT発電機171が発電開始するまでの間、バックアップが要求されれば、安定化システムは状態M4:バックアップ状態に移行する。これにより、飛行に際して安全上で必要最小限となる電力負荷15に対して、二次電池13L,13Rから一時的に電力が供給される。バックアップの停止が要求されれば、状態M0:停止状態に戻る。
【0160】
次に、前述した状態遷移を参照しながら、各電気系統20L,20Rの安定化について説明する。まず、APU始動発電機121,122を始動する場合には、各電気系統20L,20Rに含まれる少なくとも一つのモータコントローラ333によりAPU始動発電機121,122が始動される。この始動に用いられるモータコントローラ333を、説明の便宜上、「始動兼用モータコントローラ」と称する。例えば本実施の形態では、前述した通り、
図2に示すように、右側電気系統20Rの第二下位系統のモータコントローラ333が「始動兼用モータコントローラ」であり、その他の電力負荷152だけでなくAPU始動発電機121,122に接続できるようになっている。
【0161】
そして、
図9Aのブロック矢印F1に示すように、二次電池13L,13Rから放電が開始されると、放電された電力は昇圧コンバータ332Rから第二DCバス242Rおよび始動兼用モータコントローラ333を経てAPU始動発電機121,122に対して供給される(
図2参照)。これにより、始動兼用モータコントローラ333の制御によってAPU始動発電機121,122が始動される。
【0162】
このように、APU12が停止状態にあり、APU12の始動が要求されたときには、安定化システムは状態M0から状態M1に移行し、電源安定化制御部36は、電力変換部を制御して、二次電池13L,13Rからの直流電力を昇圧して始動兼用モータコントローラ333に供給する。これにより、始動兼用モータコントローラ333の制御によってAPU始動発電機121,122が作動するので、APU12を始動させることができる。
【0163】
次に、APU始動発電機121,122が始動すれば、これらAPU始動発電機121,122から供給される電力により、始動兼用モータコントローラ333によって、左エンジン11Lの第一始動発電機141Lおよび第二始動発電機142L、並びに、右エンジン11Rの第一始動発電機141Rおよび第二始動発電機142Rも始動する。それゆえ、これら始動発電機141L,142L,141R,142Rが発電を開始し、
図9Bのブロック矢印F2に示すように、一次ACバス211L,212L,211R,212Rに三相交流電力が供給される。このとき、安定化システムは
図8の状態M1から状態M0に戻り、始動発電機141L,142L,141R,142Rが起動して安定化の開始が要求されれば、状態M0から状態M2に移行する。
【0164】
また、
図9Bのブロック矢印F21に示すように、すべての発電機が正常な場合は、各発電機からそれぞれの電源バスに電力が供給される。また舵面アクチュエータ151は、第二一次ACバス212L,212Rに接続されていることを想定する。この場合、電源安定化装置30Lは、前述したように第二一次ACバス212Lの電圧をモニタし、電源安定化装置30Rは、第二一次ACバス212Rの電圧をモニタする。第一PWMコンバータ253Lは、第二PWMコンバータ254Lのバックアップで機能し、第一PWMコンバータ253Rは、第二PWMコンバータ254Rのバックアップで機能する。
【0165】
舵面アクチュエータ151に対しては、第二一次ACバス212L,212Rから電力が供給され、また、ブロック矢印F22に示すように、第二PWMコンバータ254L,254Rを介して、あるいは
図9Bには図示しないが第一PWMコンバータ253L,253Rを介してその他の電力負荷152にも電力が供給される。
【0166】
さらに、
図9Bのブロック矢印F3に示すように、電源安定化装置30L,30Rは二次電池13L,13Rを充電する。具体的には、
図3に示すように、電源安定化制御部36は、二次電池13L,13Rの充電状態を二次電池監視部35でモニタし、このモニタ結果(充電状態)に応じて昇圧コンバータ332L,332Rを制御することにより、二次電池13L,13Rを充電する。本実施の形態では、電力指令信号は、昇圧コンバータ332L,332Rまたは第二PWMコンバータ254L,254Rを構成する複数のスイッチング素子(例えばパワー半導体素子)のON/OFFを行うゲート駆動信号である。
【0167】
図3および
図4に示すように、電源安定化制御部36から昇圧コンバータ332L,332Rまたは第二PWMコンバータ254L,254Rに対して電力指令信号s1およびs2が入力されることによって、昇圧コンバータ332L,332Rおよび第二PWMコンバータ254L,254Rの各スイッチング素子が切り換えられることで、二次電池13L,13Rに対してブロック矢印F3に示すように充電が行われる。このように、二次電池13L,13Rが充電可能な状態にあるときには、電源安定化制御部36は、電力変換部を制御して、始動発電機141L,142L,141R,142Rからの交流電力を直流電力に変換して二次電池13L,13Rに供給することにより、当該二次電池13L,13Rを充電する。
【0168】
なお、始動発電機141L,142L,141R,142Rから供給される交流電力は、主として舵面アクチュエータ151およびその他の電力負荷152に対して供給される。それゆえ、
図9Bにおいては、これら電力負荷15への供給電力を示すブロック矢印F2,F21およびF22を相対的に太く図示し、二次電池13L,13Rの充電用の供給電力を示すブロック矢印F3を相対的に細く図示している。
【0169】
ここで、
図10に示すように、例えば舵面アクチュエータ151から大きな逆起電力が生じたり、一時的に多くの電力負荷15に接続されて各電気系統20L,20Rに大きな電力低下(過負荷状態)が生じたりする。電源安定化装置30L,30Rは、二次電池13L,13Rに逆起電力を吸収させたり電圧降下で不足した電力を補足させたりする安定化制御を行う。
図10では、逆起電力および補足電力をまとめて双方向のブロック矢印R0で図示している。
【0170】
具体的には、例えば、
図3および
図4の細線矢印m1に示すように、一次ACバス監視部33(
図4には図示せず)が第二一次ACバス212L,212Rの電圧をモニタすることにより逆起電力の発生を検知すれば、電源安定化制御部36は、第二DCバス242L,242Rから二次電池13L,13Rに向かって電力が供給されるように、電力指令信号s1およびs2を生成して電力変換部に入力する。
【0171】
電力変換部を構成する昇圧コンバータ332L,332Rおよび第二PWMコンバータ254L,254Rでは、電力指令信号に基づいて各スイッチング素子が切り換えられる。これにより、第二DCバス242L,242Rに流入した逆起電力は、
図4のブロック矢印R0−3に示すように二次電池13L,13Rに向かって(ブロック矢印F3と同じ方向に向かって)流れることになる。ここで、二次電池13L,13Rは逆起電力を吸収可能とする程度に高電圧化されているので、発生した逆起電力は、二次電池13Lまたは13Rに充電されることによって良好に吸収される。
【0172】
同様に、
図3および
図4の細線矢印m1に示すように、一次ACバス監視部33(
図4には図示せず)が第二一次ACバス212L,212Rの電圧モニタすることにより大幅な電圧低下を検知すれば、電源安定化制御部36は、二次電池13L,13Rから第二DCバス242L,242Rに向かって電力が供給されるように、電力指令信号s1およびs2を生成して電力変換部に入力する。
【0173】
電力変換部を構成する昇圧コンバータ332L,332Rおよび第二PWMコンバータ254L,254Rでは、電力指令信号に基づいて各スイッチング素子が切り換えられる。これにより、二次電池13L,13Rからの直流電力は、
図4のブロック矢印R0−4に示すように第二DCバス242L,242Rに向かって流すことが可能である。したがって、第二一次ACバス212L,212Rに電力を供給している始動発電機141L,142L,141R,142R、あるいは、APU始動発電機121,122が過負荷状態であっても、この過負荷状態を二次電池13L,13Rからの供給電力により補足することができる。
【0174】
このように、本実施の形態によれば、電源安定化装置30L,30Rが第二一次ACバス212L,212Rの電圧と、第二DCバス242L,242Rの電圧とをモニタして、直流電源(二次電池13L,13R)の充放電を制御する。そのため、大きな逆起電力(電力戻り)を第二DCバス242L,242Rを介して直流電源で吸収したり、一時的な電圧降下を直流電源からの電力供給により補足したりすることができる。
【0175】
また、前述したように、電源安定化装置30L,30Rは、電圧の上昇時には、電力変換部(昇圧コンバータ332L,332Rおよび第二PWMコンバータ254L,254R)を制御して、電圧の上昇に比例して遅れ力率の無効電力を入力させる。この制御によっても、電圧の上昇を抑制することができる。同様に、電圧の降下時には、電力変換部を制御して、電圧の降下に比例して進み力率の無効電力を入力させる。この制御によっても、電圧の降下を抑制することができる。
【0176】
その結果、従来のように、例えば舵面アクチュエータ151の制御器内に抵抗器を設けて、逆起電力を発熱として消費させたり、交流電源の発電容量を最大負荷に合わせて大きくしたりする必要がなくなる。それゆえ、本発明に係る航空機用電気系統安定化システムによれば、重量増加を回避しつつ各電気系統20L,20Rを良好に安定化することができる。
【0177】
さらに、
図11に示すように、始動発電機141L,142L,141R,142Rに何らかの異常(図中×印Em)が生じて、第二一次ACバス212L,212Rに電力が供給されない事態が発生しても、電源安定化装置30L,30Rの電源安定化制御部36は、二次電池13L,13Rから第二一次ACバス212L,212Rおよび第二DCバス242L,242Rに向けて電力を供給できるように電力変換部を制御する。この状態は、
図8の状態M4:バックアップ状態に相当する。
【0178】
つまり、搭載機器に対して、一次ACバス211L,212L,211R,212Rを介して始動発電機141L,142L,141R,142Rから交流電力が供給されないときには、電源安定化制御部36は、電力変換部を制御して、二次電池13L,13Rからの直流電力を交流電力に変換して、第二一次ACバス212L,212Rを介して搭載機器に一時的に電力を供給可能としている。
【0179】
始動発電機141L,142L,141R,142Rから電力が供給されない事態が発生すれば、通常、APU始動発電機121,122あるいはRAT発電機171等の補助発電機が起動するが、これら補助発電機は瞬時に起動できるわけではなく、ある程度の起動時間(例えば5秒程度)を要する。このようなごく短い起動時間であっても電力が供給されなければ航空機100の運行に影響が生じるおそれがあるので、電源安定化制御部36は、電力変換部を制御して二次電池13L,13Rから直流電力を供給させる。
【0180】
具体的には、電源安定化制御部36が、電気系統20L,20Rの制御系統から始動発電機141L,142L,141R,142Rの停止を指令する信号とバックアップの要求とを受ければ、電源安定化制御部36は、二次電池13L,13Rから第二一次ACバス212L,212Rに向かって電力が供給されるように、電力指令信号s1およびs2を生成して電力変換部に入力する。
【0181】
電力変換部を構成する昇圧コンバータ332L,332Rおよび第二PWMコンバータ254L,254Rでは、電力指令信号に基づいて各スイッチング素子が切り換えられ、二次電池13L,13Rからの直流電力は、
図4のブロック矢印F4に示すように第二一次ACバス212L,212Rに向かって(ブロック矢印R0−4と同じ方向に向かって)流れることになる。その結果、短時間であれば、
図11のブロック矢印F4に示すように、二次電池13L,13Rから、第二一次ACバス212L,212Rを介して舵面アクチュエータ151に対して電力を供給することも可能である。
【0182】
ここで、エッセンシャルバス22L,22Rには、飛行に際して安全上で必要最小限となる重要な電力負荷15が接続されている。本実施の形態では、始動発電機141L,142L,141R,142Rの同時停止等により補助発電機が起動するまでの間、
図11のブロック矢印F4に示すように、エッセンシャルバス22L,22Rに対しても、二次電池13L,13Rからの直流電力を電圧変換器262L,262Rおよび整流素子252L,252Rを介して供給することが可能となっている。
【0183】
具体的には、エッセンシャルバス22L,22Rには、始動発電機141L,141Rから第一一次ACバス211L,211Rを介して変圧整流器251L,251Rで直流変換された電力が供給されている。これに加えて、高電圧化された二次電池13L,13Rからの直流電力は、電圧変換器262L,262Rで降圧されて、整流素子252L,252Rを通してエッセンシャルバス22L,22Rに常時接続されている。
【0184】
そのため、非常時に始動発電機141L,142L,141R,142Rからの電力供給が停止したような場合、すなわち、エッセンシャルバス22L,22Rに対して、第一一次ACバス211L,211Rを介して始動発電機141L,142L,141R,142Rから交流電力が供給されないときには、二次電池13L,13Rから電力を継続的に供給することができる。それゆえ、リレー要素の切り換えによる瞬断を生じさせることなく、無瞬断で電力を補給することが可能となり、重要な制御システムの不時停止を回避することができる。
【0185】
さらに、航空機100の飛行中にエンジン11L,11Rに取り付けられた始動発電機141L,142L,141R,142Rが全て同時に停止した場合、あるいは、エンジン11L,11Rそのものが同時に停止した場合には、RAT17が機外に展開され、
図12に模式的に示すように、RAT17が備えるRAT発電機171が起動する。RAT発電機171は、前述したように、飛行に際して安全上で必要不可欠な電気負荷に電力を供給可能となっている。なお、
図12では、RAT発電機171からの供給電力をブロック矢印F5で図示している。
【0186】
ここで、前記必要不可欠な電気負荷としては、舵面アクチュエータ151およびエッセンシャルバス22L,22Rに接続される電気機器が挙げられる。このうち、特に舵面アクチュエータ151は、過渡的に大きな負荷量が必要となる電力負荷15(電気機器)である。これに対して、RAT発電機171は、非常用の電源装置であるため、その発電容量は始動発電機141L,142L,141R,142R等と比較して小さなものとなっている。それゆえ、RAT発電機171のみを交流電源とする場合、電気系統20L,20Rにおいては、他の交流電源を用いた場合と比較して、電圧または周波数(あるいはその両方)に変動が生じやすく、その結果、例えば一時的に電力負荷量が増大(過負荷状態)したり逆起電力が発生したりする。
【0187】
これに対して本実施の形態では、
図12の双方向のブロック矢印R0に示すように、電源安定化装置30L,30Rが、二次電池13L,13Rにより電圧上昇を吸収させたり電圧降下で不足した電力を補給させたりする安定化制御を行う。それゆえ、RAT発電機171を交流電源とする場合には、本実施の形態に係る安定化システムによる電気系統20L,20Rを安定化させる効果はより顕著なものとなる。
【0188】
具体的には、
図12のブロック矢印F5に示すように、RAT発電機171からの供給電力は、第二一次ACバス212L,212Rを介して舵面アクチュエータ151に供給される。ここで、舵面アクチュエータ151に起因して一時的な電力負荷量の増大あるいは逆起電力が発生しても、このような電圧変動(または周波数変動)は、電源安定化装置30L,30Rの安定化制御により抑制される。
【0189】
さらに、電源安定化装置30L,30Rの電力変換部(昇圧コンバータ332L,332Rおよび第二PWMコンバータ254L,254R)は、電源安定化制御部36の制御により、RAT発電機171の交流電力を直流電力に変換することができるので、
図12の矢印F5に示すように、この直流電力をエッセンシャルバス22L,22Rに供給することができる。したがって、電源安定化装置30L,30Rは、RAT発電機171を交流電源とする場合、電気系統20L,20Rを安定化させることができるだけでなく、エッセンシャルバス22L,22Rへ直流電力を供給するための電力変換器としても機能することができる。
【0190】
加えて、本実施の形態に係る航空機用電気系統安定化システムによれば、従来の一般的な電気系統と比較して、冗長性の向上あるいは電力安定性の向上等を図ることもできるという利点がある。具体的には、
図16に示すように、従来の電気系統920L,920Rは、基本的には
図2に示す本実施の形態に係る各電気系統20L,20Rと同様の構成を有しているが、左側電気系統920Lの第一下位系統の二次ACバス23Lには、二次電池用充電器924を介して二次電池913が接続されており、この二次電池913は、エッセンシャルバス22L,22Rに接続されている。また、二次電池用充電器924と二次電池913との間には、充電切換リレー288が介在しているとともに、二次電池913とエッセンシャルバス22L,22Rとの間には、電池電源切換リレー289が介在している。なお、
図16においては、便宜上、一次ACバス212L,212Rに接続される舵面アクチュエータ151は図示していない。
【0191】
一方、右側電気系統920Rの第一下位系統の二次ACバス23Rには、APU始動用二次電池用充電器925を介して、APU始動用二次電池922が接続され、このAPU始動用二次電池922は、昇圧器923を介して第二下位系統の第二DCバス242Rが接続されている。また、APU始動用二次電池用充電器925とAPU始動用二次電池922との間には、充電切換リレー288が介在している。
【0192】
さらに、各下位系統においては、一次ACバス211L,212L,211R,212Rそれぞれと、DCバス241L,242L,241R,242Rそれぞれとの間には、PWMコンバータ253L,254L,253R,254Rではなく、自動変圧整流器(ATRU)255L,255Rが介在している。このATRU255L,255Rは、一次ACバス211L,212L,211R,212RからDCバス241L,242L,241R,242Rに向かってAC−DC変換する整流器である。
【0193】
この構成では、直流電源として、エッセンシャルバス22L,22Rの直流電源である二次電池913と、APU12の始動専用に設けられるAPU始動用二次電池922との2個の電池が必要となる。しかも、これら二次電池913,922は、本実施の形態に係る電源安定化装置30L,30Rに接続されているわけではないので、充電用にそれぞれ二次電池用充電器924、APU始動用二次電池用充電器925が接続される必要がある。さらに、APU始動用二次電池922は24VDCであるため、APU12を始動させるためには、昇圧器923により昇圧する必要がある。
【0194】
さらに、RAT発電機171に接続されているバックアップバス29には、バックアップ用変圧整流器926が接続されている。このバックアップ用変圧整流器926は、RAT発電機171の交流電力を直流電力に変換して、エッセンシャルバス22L,22Rへ供給するためのものであり、直流電源切換リレー285を介してエッセンシャルバス22L,22Rに接続されている。
【0195】
このように、従来の電気系統920L,920Rでは、直流電源である二次電池913,922に対してそれぞれ充電器924,925が必要であり、さらに、APU12を始動させるために昇圧器923が必要である。加えて、RAT発電機171からエッセンシャルバス22L,22Rにバックアップ電力を供給するためには、バックアップ用変圧整流器926および直流電源切換リレー285を介した経路が必要となる。また、TRU251L,251Rから直流電力が供給されないときには、二次電池913からバックアップ電力を供給する必要があり、そのためには、電池電源切換リレー289が必要となる。それゆえ、本実施の形態よりも、電気系統の構成要素(充電器、昇圧器、始動制御器等)の種類が多くなり、電気系統そのものの構成が複雑化して、重量およびコストの増加を招くおそれがある。
【0196】
加えて、二次電池913の定格電圧は24VDCであるため、エッセンシャルバス22L,22Rの定格電圧28VDCとほぼ同程度である。それゆえ、二次電池913を充電するためには、専用の充電器924が必要となる。また、二次ACバス23Lから専用の充電器924により二次電池913を充電することになるため、二次電池913とエッセンシャルバス22L,22Rとの間には電池電源切換リレー289を介在させる必要がある。それゆえ、二次電池913は、エッセンシャルバス22L,22Rに常時接続することができない。
【0197】
このような構成であれば、非常時に始動発電機141L,142L,141R,142Rからの電力供給が停止した場合、特に電池電源切換リレー289の切り換えによって二次電池13L,13Rから電力が供給される際に、一時的な電力遮断(瞬断)が生じることになる。この電力遮断が発生すると、エッセンシャルバス22L,22Rに接続される電気機器が一時停止してしまう。そのため、これら電気機器は、一時停止を回避するために、それぞれバッテリまたはキャパシタ等の非常用電源を内蔵する必要がある。
【0198】
これに対して本実施の形態に係る各電気系統20L,20Rは、
図16および
図2の構成の比較からも明らかなように、二次電池13L,13Rを電圧変換器262L,262Rを介してエッセンシャルバス22L,22Rに常時接続できる構成となっている。これにより、非常用電源への切り換え時においても電力供給の瞬断が生じないため、エッセンシャルバス22L,22Rに接続されている電気機器に非常用電源を設ける必要がなくなり、これら電気機器の重量増加を回避できたり信頼性を向上させたりすることができる。
【0199】
また、本実施の形態では、
図2に示すように、左右の各電気系統20L,20Rのそれぞれが、同様の機能を有する電源安定化装置30L,30Rと二次電池13L,13Rとを備えているので、直流電源を用いてAPU12を始動する系統を二重化できるとともに、エッセンシャルバス22L,22Rをバックアップする直流電源を二重化することができる。また、
図2に示す例では、4つの下位系統のそれぞれが1台のPWMコンバータを備えている。そのため、いずれか1つの下位系統のPWMコンバータが故障した場合でも、第一DCバス241L,241Rと第二DCバス242L,242Rとの間に介在するDCバス切換リレー286を切り換えることにより、他の下位系統のPWMコンバータを利用することができるため、この点でも冗長性を向上することができる。
【0200】
さらに、本実施の形態であれば、充電器924,925が不要となり、また、APU始動制御器921および昇圧器923が不要となり、さらに、RAT発電機171からバックアップ電力を供給する上で、バックアップ用変圧整流器926および直流電源切換リレー285の経路が不要となるとともに、瞬断の原因となる電池電源切換リレー289も不要となる。
【0201】
しかも、本実施の形態では、PWMコンバータ253L,253R,254L,254Rを用いることにより、ATRU255L,255Rと比較してDCバス241L,242L,241R,242Rの電圧を安定化することができる。ATRUは、一方向のAC−DC変換のみ可能な構成であって、電力負荷の量が増えると電圧降下する欠点を有しているが、PWMコンバータは、AC−DC変換およびDC−AC変換の双方向が可能であり、交流の電圧を昇圧して一定電圧の直流を供給する構成である。そのため、本実施の形態によれば、PWMコンバータに接続されるDCバスの電圧を安定化することが可能となる。さらに、このDCバスは、電源安定化装置によって一定電圧に保持されるという効果もある。
【0202】
このため、その下流側となるモータコントローラ331,333の入力電圧範囲を高く設定することができる。これにより、従来よりもモータコントローラ331,333を小型化することが可能となるという利点も生じる。
【0203】
また、二次電池13L,13Rは、大きな電力負荷を吸収できる程度の高い定格電圧を有しており、各電気系統20L,20Rの電力変換部(昇圧コンバータ332L,332R)を介して始動兼用モータコントローラ333に電力を供給するよう構成されている。それゆえ、APU12の始動のための電流が小さい値で済むため、大電流用の配線を削減することも可能となり、その結果、機体を軽量化することができる。
【0204】
[変形例]
本実施の形態では、直流電源として定格電圧250Vの二次電池13L,13Rを例示しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、同様の定格電圧を有するキャパシタであってもよいし、キャパシタおよび二次電池の組合せであってもよい。ここでいうキャパシタは、ウルトラキャパシタと呼ばれる大容量の電気二重層キャパシタを挙げることができる。このように、本発明においては、直流電源は、電力負荷15からの逆起電力を吸収するよう構成されていればよく、その具体的な構成は二次電池13L,13Rに限定されない。
【0205】
また、航空機の重量を過剰に増大させない限り、二次電池および/またはキャパシタを複数台組み合わせて直流電源としてもよい。ただし、直流電源がキャパシタの場合、電気系統の安定化は可能であっても、APU12を始動させることができない。それゆえ、APU12の始動に関しては、始動用の直流電源等を別途設けてもよい。
【0206】
また、本発明に係る安定化システムは、MEA化が進んだ航空機100に広く好適に用いることができるが、油圧系統40および抽気系統50の全て、あるいは大部分が電気化されている必要はない。例えば、
図10に例示される大きな逆起電力は、各電気系統20L,20Rにとって大きな電力負荷15が存在すれば生じ易くなり、このような電力負荷15としては、舵面アクチュエータ151、その他のモータ等が挙げられる。
【0207】
ここで、特に舵面アクチュエータ151は、航空機100の舵面を動作させるために用いられ、航空機100の運動に伴って急激に動作することがある。それゆえ、航空機100が運動する際には舵面アクチュエータ151から大きな逆起電力が生じやすいので、少なくとも舵面アクチュエータ151が電気化された航空機100について、本発明に係る安定化システムを好適に用いることができる。
【0208】
また、本実施の形態では、左右の各電気系統20L,20Rは、それぞれ第一下位系統および第二下位系統から構成されているが、本発明はこれに限定されず、各電気系統20L,20Rは3つ以上の下位系統で構成されてもよいし、下位系統が存在せず、各電気系統20が単一の系統であってもよい。また、左右の各電気系統20L,20Rを構成する下位系統の数は等しくなくてもよい。
【0209】
また、本実施の形態では、第二下位系統に電源安定化装置30L,30Rが設けられているが、本発明はこれに限定されず、第一下位系統に設けられてもよいし、第一下位系統および第二下位系統の双方に設けられてもよい。
【0210】
また、本発明に係る航空機用電気系統安定化システムにおいては、
図13および
図14に示すように、電源安定化装置30L,30Rは、交流電源(第一始動発電機141L,141R、第二始動発電機142L,142R、第一APU始動発電機121、第二APU始動発電機122、もしくはRAT発電機171)に過負荷が発生したときに、二次電池13L,13Rから第二一次ACバス212L,212Rに対して一定の負荷を供給させるように構成されてもよい。
【0211】
二次電池13L,13Rから一定の負荷が供給可能である電源安定化装置30L,30Rについて、交流電源がVFの発電機である場合(VF対応型)を例示して説明する。この場合の電源安定化制御部36は、
図13に示すように、基本的に
図6に示す構成と同様の構成を有する基準電圧調整回路を備えている。ただし、
図13に示す基準電圧調整回路では、加算器365に対して、さらに過負荷対応補正値Poverloadが入力される点が、
図5に示す充放電制御回路とは異なっている。この過負荷対応補正値Poverloadは、二次電池13L,13Rから第二一次ACバス212L,212Rに対して、一定の補助的な電力(補助的な負荷)を供給することによって、交流電源の過負荷を緩和(または実質的に相殺)するための補正値である。
【0212】
図13に示す基準電圧調整回路は、
図6に示す基準電圧調整回路と同様に、減算器363で減算値VrefQを生成して、PWMコンバータ制御回路の比較制御器344に出力するとともに、加算器365で基準電圧指令値Vdc_ref_bst を生成し、昇圧コンバータ制御回路の第一減算器341(
図5A参照)に出力する。減算器363では、前述したように、系統電圧目標値Vref と系統電圧値Vgen とから、減算値VrefQ(系統電圧目標値Vref と系統電圧値Vgen との偏差)を生成し、PWMコンバータ制御回路だけでなく、比較制御器364に出力する。比較制御器364は、減算値VrefQから基準電圧指令値の基本値を生成して、加算器365に出力する。
【0213】
ここで、加算器365に対しては、比較制御器364からの前記基本値、予め設定される基準電圧の目標値Vdc_ref、SOC補正回路で生成された補正電圧値Vsoc_cmp が入力されるが、さらに、予め設定される過負荷対応補正値Poverloadも入力される。加算器365は、基本値、目標値Vdc_ref、補正電圧値Vsoc_cmp 、および過負荷対応補正値Poverloadを加算することで、基準電圧指令値Vdc_ref_bstを生成し、昇圧コンバータ制御回路に出力する。
【0214】
昇圧コンバータ制御回路では、基準電圧指令値Vdc_ref_bstと計測電圧値Vdcm に基づいて、出力電流指令値Idc_refを生成し、昇圧コンバータ332L,332Rに出力する。昇圧コンバータ332L,332Rは、前述したように二次電池13Lまたは13Rに接続されており、二次電池13Lまたは13Rからの直流電力を昇圧する。出力電流指令値Idc_refには、前記の通り、過負荷対応補正値Poverloadが反映されている。そのため、交流電源に過負荷が発生しても、過負荷に対応する有効電力(一定の負荷)を二次電池13L,13Rから第二一次ACバス212L,212Rに対して供給することができる。
【0215】
また、交流電源がCFの発電機である場合であっても、
図14に示すように、電源安定化制御部36が備える基準電圧調整回路は、基本的に
図7Bに示す構成と同様である。
図7Bに示す基準電圧調整回路との相違点は、加算器378に対して、過負荷対応補正値Poverloadが出力される点である。なお、
図14に示す基準電圧調整回路による基準電圧指令値Vdc_ref_bstの生成とのPWMコンバータ制御回路への出力、PWMコンバータ制御回路による出力電流指令値Idc_refの生成と昇圧コンバータ332L,332Rの出力、昇圧コンバータ332L,332Rによる二次電池13L,13Rの直流電力の昇圧(一定の負荷の供給)については、VF発電機の場合と同様であるため、その説明を省略する。ただし、基準電圧指令値Vdc_ref_bstを生成する際には、VF対応型とは異なり、
図7Bに示す基準電圧調整回路と同じく、周波数の減算値(系統周波数目標値Fref と系統周波数Fgen との偏差)を用いている。
【0216】
このように、本発明に係る航空機用電気系統安定化システムにおいては、昇圧コンバータ332L,332Rを制御する出力電流指令値Idc_refが、過負荷対応補正値Poverloadを反映した値として生成されてもよい。これにより、交流電源に過負荷が発生しても、二次電池13L,13Rから過負荷対応補正値Poverloadに基づく有効電力が供給される。そのため、過負荷の発生による電気系統20L,20Rへの影響を有効に抑制または回避することが可能となるだけでなく、交流電源の過負荷容量を低減することも可能となる。
【0217】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る航空機用電気系統安定化システムは、前記実施の形態1に係る安定化システムと同様の構成を有しているが、従来のATRUをPWMコンバータに置き換えるのではなく、
図15に示すように、ATRU255L,255Rはそのままとして、昇圧コンバータ332L,332Rを介して二次電池13L,13Rを第二DCバス242L,242Rに双方向に接続する(便宜上、図中太線の矢印で示す)構成を有している。
【0218】
本実施の形態では、前記実施の形態1のように第二一次ACバス212L,212Rの電力を直接増減させることにより電力制御を行うのではなく、ATRU255L,255Rを介して第二DCバス242L,242Rに供給される直流電力を直接制御することによって、第二一次ACバス212L,212Rを間接的に電力制御する。
【0219】
具体的には、電源安定化制御部36(
図3および
図4参照)は、第二一次ACバス212L,212Rまたは第二DCバス242L,242Rの電圧をモニタし、当該電圧が予め設定される所定範囲よりも高ければ、二次電池13L,13Rへの充電電流を増加させる。これにより、ATRU255L,255Rを介して第二一次ACバス212L,212Rの電力負荷量を増加させることができるので、間接的に電圧を低下させることができる。
【0220】
一方、第二一次ACバス212L,212Rまたは第二DCバス242L,242Rの電圧が所定範囲よりも低ければ、下流のモータコントローラ331,333に供給される電力量を増加させるように、二次電池13L,13Rからの放電電流を増加させる。これにより、ATRU255L,255Rを介して第二一次ACバス212L,212Rの電力量を減少させることができるので、間接的に電圧を上昇させることができる。
【0221】
このように本実施の形態に係る構成によっても、前記実施の形態1と同様に、例えば舵面アクチュエータ151の制御器内に抵抗器を設けて、逆起電力を発熱として消費させたり、交流電源の発電容量を最大負荷に合わせて大きくしたりする必要がなくなる。また、非常時に電力供給が停止した場合であっても、二次電池13L,13Rから電力を継続的に供給できるため、リレー要素の切り換えに伴って瞬断が生じることがなく、電力を補給することが可能となる。
【0222】
さらに、前記実施の形態1と同様に、左右の各電気系統20L,20Rのそれぞれが電源安定化装置30L,30Rと二次電池13L,13Rとを備えているので、直流電源を用いてAPU12を始動する系統を二重化することができる。また、二次電池13L,13Rを、APU12の始動電力を供給するための電源装置として利用することができるとともに、大電流用の配線を削減することも可能となる。
【0223】
なお、第二一次ACバス212L,212Rと第二DCバス242L,242Rの間に設けられる整流器は、必ずしもATRU255L,255Rに限定されず、交流電力を直流電力に変換する公知の変圧整流器であればよい。同様に、前記実施の形態1も含めて、エッセンシャルバス22L,22Rと始動発電機141L,142L,141R,142Rとの間に設けられる整流器も、TRU251L,251Rに限定されず、交流電力を直流電力に変換する公知の変圧整流器であればよい。
【0224】
また、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0225】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。