【実施例1】
【0013】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の実施例1について説明する。
実施例1のエンジン制御装置は、例えば乗用車等の自動車に、走行用動力源として搭載されるターボ過給ガソリンエンジンに設けられるものである。
図1は、実施例1のエンジン制御装置を有するエンジンの構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、エンジン1は、本体部10、吸気装置20、排気装置30、ターボチャージャ40、燃料供給装置50、蒸発燃料処理装置60、エンジン制御ユニット(ECU)100等を有して構成されている。
【0014】
本体部10は、エンジン1の主機部分であって、例えば、水平対向4気筒の4ストロークDOHCガソリン直噴エンジンである。
本体部10は、クランクシャフト11、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ駆動系14、排気バルブ駆動系15、点火栓16等を有して構成されている。
【0015】
クランクシャフト11は、エンジン1の出力軸であって、図示しない各気筒のピストンがコネクティングロッド(コンロッド)を介して連結されている。
シリンダブロック12は、各気筒のシリンダを有するブロック状の部材であって、クランクシャフト11を挟んで左右二分割されている。
シリンダブロック12における右半部(ここでいう左右は、縦置きでの車載状態における車体左右を指すものとする。)には、車両前方側から順に第1、第3気筒が設けられ、左半部には、第2、第4気筒が設けられている。
シリンダブロック12の左右各半部の接合部には、クランクシャフト11が収容されるクランクケース部が設けられている。
クランクシャフト11は、シリンダブロック12に設けられたメインベアリングによって、回転可能に支持されている。
シリンダブロック12には、クランクシャフト11の角度位置を検出する図示しないクランク角センサが設けられている。
【0016】
シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の左右両端部にそれぞれ設けられている。
シリンダヘッド13は、燃焼室、吸気ポート、排気ポート、吸気バルブ、排気バルブ等を有して構成されている。
燃焼室は、図示しないピストンの冠面と対向して設けられた凹部であって、ピストンにより圧縮された混合気が燃焼する空間部の一部を構成するものである。
吸気ポートは、燃焼室内に燃焼用空気(新気)を導入する流路である。
排気ポートは、燃焼室から既燃ガス(排ガス)を排出する流路である。
吸気バルブ、排気バルブは、吸気ポート及び排気ポートをそれぞれ所定のバルブタイミングで開閉するものである。
【0017】
吸気バルブ駆動系14、排気バルブ駆動系15は、例えばクランクシャフト11の端部に設けられたクランクスプロケットから図示しないタイミングチェーンを介して駆動されるカムスプロケット、及び、カムスプロケットにより駆動されるカムシャフト等をそれぞれ有して構成されている。
また、吸気バルブ駆動系14、排気バルブ駆動系15は、油圧アクチュエータによってカムスプロケットとカムシャフトとを回転中心軸回りに相対回動させるバルブタイミング可変機構を備えている。
【0018】
点火栓16は、ECU100からの点火信号に応じて、燃焼室内で電気的なスパークを発生させ、混合気に点火するものである。
【0019】
吸気装置20は、外気を吸入し、燃焼用空気としてシリンダヘッド13の吸気ポートに導入するものである。
吸気装置20は、インテークダクト21、エアクリーナ22、エアフローメータ23、エアバイパスバルブ24、インタークーラ25、スロットル26、インテークマニホールド27、タンブルコントロールバルブ28等を有して構成されている。
【0020】
インテークダクト21は、外部から吸入された燃焼用空気が搬送される管路である。
インテークダクト21の中間部には、後述するようにターボチャージャ40のコンプレッサ41が設けられている。
【0021】
エアクリーナ22は、インテークダクト21の入口付近に設けられ、ダスト等の異物を濾過するエアクリーナエレメント、及び、これを収容するエアクリーナケース等を備えている。
エアフローメータ23は、エアクリーナ22の出口部に設けられ、通過する空気流量を測定するセンサである。
エアフローメータ23の出力は、ECU100に伝達され、燃料噴射量等の制御に利用される。
【0022】
エアバイパスバルブ24は、インテークダクト21内を流れる空気の一部を、コンプレッサ41の上流側と下流側との間でバイパスさせるバイパス流路を開閉するものである。
エアバイパスバルブ24の開度(バイパスされる空気量)は、ECU100からの指令に応じて変更可能となっている。エアバイパスバルブ24は、例えば、その開度を全閉と全開とで切り替えるバルブであってもよいし、全閉と全開の間の任意の開度に制御可能なバルブであってもよい。
過給時においては、エアバイパスバルブ24を開くことによって、コンプレッサ41の下流側におけるインテークダクト21内の過給された新気の一部は、コンプレッサ41の上流側に還流される。
これによって、コンプレッサ41の上流側と下流側との差圧を低減することができる。
エアバイパスバルブ24は、例えば減速時におけるタービン42のブレード保護や、パージバルブ66の開固着故障時におけるパージガス流量抑制等のために開弁されるとともに、通常時には閉弁されている。
【0023】
インタークーラ25は、コンプレッサ41において圧縮された空気を、例えば走行風(車両の走行により車体に対して発生する気流)との熱交換によって冷却するものである。
スロットル26は、エンジン1の出力調整のため、吸入空気量を調整するスロットルバルブを備えている。
スロットルバルブは、ECU100からの指令に応じて電動アクチュエータによって所定の開度となるように開閉駆動される。
スロットル26は、インタークーラ25の出口に隣接して配置されている。
スロットル26の入口側(上流側)には、吸気管圧力を検出する圧力センサ26aが設けられている。
圧力センサ26aの出力は、ECU100に伝達される。
【0024】
インテークマニホールド27はスロットル26から出た空気を、各気筒の吸気ポートに配分する分岐管である。
インテークマニホールド27には、スロットル26よりも下流側における吸気管圧力を検出する圧力センサ27aが設けられている。
圧力センサ27aの出力は、ECU100に伝達される。
タンブルコントロールバルブ28は、インテークマニホールド27の流路内に設けられ、インテークマニホールド27から吸気ポートに至る空気流路の状態を切り替えることによって、シリンダ内で形成されるタンブル流の状態を制御するものである。
タンブルコントロールバルブ28は、ECU100からの指令に応じて切り替えられる。
【0025】
排気装置30は、シリンダヘッド13の排気ポートから既燃ガス(排ガス)を排出するものである。
排気装置30は、エキゾーストマニホールド31、エキゾーストパイプ32、フロント触媒33、リア触媒34、サイレンサ35等を有して構成されている。
【0026】
エキゾーストマニホールド31は、各気筒の排気ポートから出た排ガスを集合させ、ターボチャージャ40のタービン42に導入する排ガス流路(管路)である。
【0027】
エキゾーストパイプ32は、ターボチャージャ40のタービン42から出た排ガスを外部に排出する排ガス流路(管路)である。
エキゾーストマニホールド31の途中には、タービン42側からフロント触媒33、リア触媒34が順次設けられている。
【0028】
フロント触媒33、リア触媒34は、例えばアルミナ等の担体に白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させ、HC、CO、NOxの低減処理を行う三元触媒である。
フロント触媒33の入口部、出口部には、排ガスの性状に基づいて空燃比(A/F)を検出するフロントA/Fセンサ33a、リアA/Fセンサ33bがそれぞれ設けられている。
フロントA/Fセンサ33a、リアA/Fセンサ33bの出力は、ECU100に伝達され、燃料噴射量の空燃比フィードバック制御や、フロント触媒33の劣化診断等に用いられる。
【0029】
サイレンサ35は、エキゾーストパイプ32の出口部に隣接して配置され、排ガスの音響エネルギを低減させて排気騒音を抑制するものである。
エキゾーストパイプ32は、出口部付近において例えば2本に分岐しており、サイレンサ35は分岐箇所よりも下流側の部分にそれぞれ設けられている。
【0030】
ターボチャージャ40は、排ガスのエネルギを利用して新気を圧縮する排気タービン過給器である。
ターボチャージャ40は、コンプレッサ41、タービン42、ベアリングハウジング43、ウェイストゲートバルブ44等を有して構成されている。
【0031】
コンプレッサ41は、燃焼用空気を圧縮する遠心式圧縮機である。
タービン42は、排ガスのエネルギを利用してコンプレッサ41を駆動するものである。
ベアリングハウジング43は、コンプレッサ41とタービン42との間に設けられている。
ベアリングハウジング43は、コンプレッサ41とタービン42のハウジング間を連結するとともに、コンプレッサホイルとタービンホイルとを連結するシャフトを回転可能に支持するベアリング及び潤滑装置等を有する。
【0032】
ウェイストゲートバルブ44は、タービン42の入口側から出口側に排ガスの一部をバイパスさせるウェイストゲート流路を開閉するものである。
ウェイストゲートバルブ44は、開閉駆動用の電動アクチュエータ、及び、開度位置検出用の図示しない開度センサを有し、ECU100によって開度を制御されている。
【0033】
燃料供給装置50は、エンジン1の各気筒に燃料を供給するものである。
燃料供給装置50は、燃料タンク51、フィードポンプ52、フィードライン53、高圧ポンプ54、高圧燃料ライン55、インジェクタ56等を有して構成されている。
【0034】
燃料タンク51は、燃料であるガソリンが貯留される容器である。
フィードポンプ52は、燃料タンク51内の燃料を吐出し、高圧ポンプ54に搬送するものである。
フィードライン53は、フィードポンプ52が吐出した燃料を、高圧ポンプ54に搬送する燃料流路である。
【0035】
高圧ポンプ54は、シリンダヘッド13に取り付けられ、カムシャフトを介して駆動され、燃料圧力を昇圧させるものである。
高圧ポンプ54は、カムシャフトの回転と連動してシリンダ内を往復し燃料を加圧するプランジャ、及び、電磁調量弁を備え、ECU100によって電磁調量弁のデューティ比を制御することによって、高圧燃料ライン55内の燃料圧力を調節可能となっている。
高圧燃料ライン55は、高圧ポンプ54により昇圧後の燃料を、各気筒にそれぞれ設けられたインジェクタ56に搬送する燃料流路である。
インジェクタ56は、高圧燃料ライン55から供給される燃料を、ECU100からの噴射信号に応じて、各気筒の燃焼室内に筒内噴射(直噴)する噴射弁である。
【0036】
蒸発燃料処理装置60は、燃料タンク51内で燃料(ガソリン)が蒸発して発生する燃料蒸発ガス(エバポ)を、キャニスタ61で一時的に貯留するとともに、エンジン1の運転時にパージガスとしてインテークダクト21内に導入(キャニスタパージ)し、燃焼室内で燃焼処理するものである。
蒸発燃料処理装置60は、キャニスタ61、エバポリークチェックモジュール62、パージライン63,64,65、パージバルブ66、圧力センサ67、エジェクタ68等を有して構成されている。
【0037】
キャニスタ61は、燃料蒸発ガスを吸着可能な活性炭をケース内に収容して構成されたチャコールキャニスタである。
キャニスタ61は、配管61aを介して燃料タンク50から燃料蒸発ガスが導入される。
配管61aの燃料タンク50側の端部には、液相燃料の流入を防止するフューエルカットバルブ61bが設けられている。
【0038】
エバポリークチェックモジュール(ELCM)62は、キャニスタ61に隣接して設けられ、蒸発燃料処理装置60からの燃料蒸発ガスのリークを自動的に検出するものである。
【0039】
パージライン63,64,65は、キャニスタ61に貯留された燃料蒸発ガスを、エンジン1の運転時に、吸気装置20のインテークダクト21内にパージガスとして導入する管路である。
パージライン63は、上流側の端部がキャニスタ61に接続され、下流側の端部がパージバルブ66の入側に接続されている。
パージライン64は、上流側の端部がパージバルブ66の出側に接続され、下流側の端部がインテークマニホールド27に接続されている。
パージライン64の中間部には、チェックバルブ64aが設けられている。
チェックバルブ64aは、インテークマニホールド27側からパージバルブ66側へのパージガスの逆流を防止する逆止弁である。
【0040】
パージライン65は、パージバルブ66からパージライン64へ流出したパージガスの一部を、エジェクタ68に導入するものである。
パージライン65は、パージライン64におけるパージバルブ66とチェックバルブ64aとの間の領域から分岐するとともに、下流側の端部はエジェクタ68におけるノズル68bよりも下流側の領域に接続されている。
パージライン65の中間部には、チェックバルブ65aが設けられている。
チェックバルブ65aは、インテークマニホールド27側からパージバルブ66側へのパージガスの逆流を防止する逆止弁である。
【0041】
パージバルブ66は、パージライン63からパージライン64,65へパージガスが通過可能な開状態と、パージライン63とパージライン64とが遮断される閉状態とを切替え可能な電磁弁である。
パージバルブ66は、ECU100からの開指令、閉指令に応じて開閉される。
【0042】
圧力センサ67は、パージライン63の途中に設けられ、パージライン63内のパージガスの圧力を検出するものである。
圧力センサ67の出力は、ECU100に伝達される。
【0043】
エジェクタ68は、ターボチャージャ40のコンプレッサ41の上流側と下流側との差圧を利用してパージガスを吸引し、インテークダクト21内に導入する負圧発生装置である。
エジェクタ68は、筒型容器状に形成され、導入管路68a、ノズル68b、吐出口68c等を有して構成されている。
導入管路68aは、エジェクタ68の上流側の端部に、インテークダクト21のコンプレッサ41よりも下流側の領域から抽出された空気を導入する管路である。
ノズル68bは、導入管路68aから導入されエジェクタ68内を流れる空気流を絞って流速を高め、ベンチュリ効果によって負圧を発生させるものである。
パージライン65の下流側の端部は、エジェクタ68におけるノズル68bよりも下流側の領域に接続され、パージガスはノズル68bが発生させた負圧によってエジェクタ68内に吸引され、空気流と合流するようになっている。
吐出口68cは、エジェクタ68の下流側の端部に設けられ、合流後の空気及びパージガスを、エジェクタ68の内部からインテークダクト21におけるコンプレッサ41よりも上流側の領域に導入する連通箇所である。
【0044】
エンジン制御ユニット(ECU)100は、エンジン1及びその補機類を統括的に制御するエンジン制御装置である。
ECU100は、例えばCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
ECU100には、エンジン1に設けられた各センサの出力がそれぞれ伝送されるとともに、エンジン1に設けられた各アクチュエータ、バルブ類、点火栓、インジェクタ等の制御対象に対して制御信号を出力可能となっている。
【0045】
ECU100は、図示しないアクセルペダルの操作量(踏込量)等に基づいて、ドライバ要求トルクを算出し、エンジン1が実際に発生するトルク(実トルク)がドライバ要求トルクに近づくよう、スロットル26の開度や、バルブタイミング、過給圧、点火時期、燃料噴射量及び噴射時期等を制御して、エンジン1の出力(トルク)調節を行う。
【0046】
また、ECU100は、パージバルブ66に対して開指令又は閉指令を与えるパージバルブ制御手段、及び、パージバルブ66の開固着故障を検出するパージバルブ開固着診断手段としても機能する。
パージバルブ66の開固着故障は、各種の技術を用いて適宜検出することが可能である。
例えば、パージバルブ66に対して閉指令を出しているにも関わらず、圧力センサ67がインテークマニホールド27からパージライン64,63を経由して伝搬する圧力波(吸気脈動)を検出した場合、開固着故障判定を成立させるようにしてもよい。
また、パージバルブ66に介して開指令、閉指令を順次与えたときのフロントA/Fセンサ33a等によって検出される空燃比の変化に基づいて開固着故障判定を成立させてもよい。
【0047】
図2は、実施例1のエンジンにおけるパージバルブ故障時のエアバイパスバルブ制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0048】
<ステップS01:キャニスタパージバルブ開固着診断>
ECU100は、パージバルブ66の開固着故障の有無を診断する。
その後、ステップS02に進む。
【0049】
<ステップS02:開固着故障判断>
ステップS01において、開固着故障が検出された場合は、ステップS03に進む。
一方、開固着故障が検出されなかった場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0050】
<ステップS03:エアバイパスバルブ開指令>
ECU100は、エアバイパスバルブ24に対して、所定の開固着故障時開度まで開弁するよう開指令を与えるパージ抑制制御を実行する。
開固着故障時開度は、通常運転時に対してコンプレッサ41の上流側と下流側との差圧を低減し、エジェクタ68における負圧発生を抑制するとともに、コンプレッサ41の下流側におけるインテークダクト21内の圧力を、パージライン64内のパージガス圧力と同等以上とすることを考慮して設定される。
また、開固着故障時開度は、フロントA/Fセンサ33a等によって検出されるエンジン1の空燃比(A/F)が、リッチ失火限界よりも十分にリーン側となるように設定される。
開固着故障時開度は、上述した条件を充足する開度、例えば全開に設定される。
また、エアバイパスバルブ24がその開度を全閉から全開の間の任意の開度に制御可能なバルブであるときは、開固着故障時開度は、上述した条件を充足するよう、エンジンの運転状態に応じて設定してもよく、例えば、エンジンの回転数、ドライバ要求トルク等の運転状態に応じて、予め準備されたマップから読出し可能であるよう構成してもよい。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0051】
以上説明した実施例1によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)パージバルブ66の開固着故障発生時に、エアバイパスバルブ24を開いてコンプレッサ41の下流側から上流側へ空気を還流させて差圧を低減し、エジェクタ68の吸引力を低下させることによって、インテークダクト21へのパージガスの流入量を抑制することができる。
(2)パージ抑制制御時のエアバイパスバルブ24の開度を、エンジン1の空燃比がリッチ失火限界よりもリーン側となるように設定したことによって、パージバルブ66の開固着故障に起因するエンジン1のリッチ失火を未然に防止することができる。
(3)パージ抑制制御時のエアバイパスバルブ24の開度を、インテークマニホールド27内の圧力がパージライン64の圧力以上となるように設定することによって、パージライン64からインテークマニホールド27へのパージガスの流入量を抑制し、より確実にリッチ失火を防止することができる。