特許第6397519号(P6397519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397519加熱済み魚介類食品の制菌方法及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397519
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】加熱済み魚介類食品の制菌方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/14 20060101AFI20180913BHJP
   A23B 4/12 20060101ALI20180913BHJP
   A23L 3/3562 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   A23B4/14
   A23B4/12 A
   A23B4/12 Z
   A23L3/3562
【請求項の数】18
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-15788(P2017-15788)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-121560(P2018-121560A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2018年3月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】外川 理絵
(72)【発明者】
【氏名】田島 洋介
(72)【発明者】
【氏名】庵原 啓司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 広明
(72)【発明者】
【氏名】茶木 貴光
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−066441(JP,A)
【文献】 特開2016−029914(JP,A)
【文献】 特開2015−177746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00−17/60
A23B 4/00−5/22
A23L 3/00−3/3598
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類食材を、グルコマンナン、静菌剤及び水を含むpHが8〜12の制菌処理用液に接触させる制菌剤処理工程と、
前記制菌処理用液を保持した魚介類食材を、グルコマンナンがゲル化する温度で加熱して加熱済み魚介類食品を得る加熱工程と、
を有することを特徴とする加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項2】
前記加熱工程における加熱温度が、50℃以上である、請求項1に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項3】
前記魚介類食材と前記制菌処理用液の接触が、前記魚介類食材を前記制菌処理用液に浸漬することにより行われる、請求項1または2に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項4】
前記魚介類食材を前記制菌処理用液に4時間以上浸漬する請求項3に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項5】
前記制菌剤処理工程を、1℃以上50℃未満で行う、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項6】
前記制菌処理用液が、前記魚介類食材に対して0.01質量%〜5質量%の割合で前記制菌剤を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項7】
前記制菌剤が、制菌有効性成分として、グリシン、有機酸及び有機酸の塩から選択された少なくとも1種を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項8】
前記有機酸及び有機酸の塩が、クエン酸、フマル酸、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びリンゴ酸ナトリウムから選択される、請求項7に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項9】
前記制菌処理用液が、前記魚介類食材に対して0.04質量%〜0.056質量%の割合でグルコマンナンを含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項10】
前記魚介類食材に対するグルコマンナンの割合が、0.056質量%である、請求項9に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項11】
前記制菌処理用液がアルカリ化剤を含む、請求項1乃至10のいずれかに記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項12】
前記アルカリ化剤が水酸化カルシウム及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも一方を含む、請求項11に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法。
【請求項13】
制菌剤を添加した魚介類食材の加熱処理を含む、加熱済み魚介類食品の製造方法であって、
前記制菌剤を添加した魚介類食材の加熱処理が、請求項1乃至12のいずれかに1項に記載の加熱済み魚介類食品の制菌方法により行われる
ことを特徴とする加熱済み魚介類食品の製造方法。
【請求項14】
グルコマンナン、魚介類用の制菌剤及び水を含む、pHが8〜12である、加熱済み魚介類食品の制菌処理用液。
【請求項15】
前記制菌剤が、制菌有効性成分として、グリシン、有機酸及び有機酸の塩から選択された少なくとも1種を含む、請求項14に記載の加熱済み魚介類食品の制菌処理用液。
【請求項16】
前記有機酸及び有機酸の塩が、クエン酸、フマル酸、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びリンゴ酸ナトリウムから選択される、請求項15に記載の加熱済み魚介類食品の制菌処理用液。
【請求項17】
アルカリ化剤を含む、請求項15または16に記載の加熱済み魚介類食品の制菌処理用液。
【請求項18】
前記アルカリ化剤が水酸化カルシウム及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも一方を含む、請求項17に記載の加熱済み魚介類食品の制菌処理用液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日持ち向上及び品質維持のための加熱済み魚介類食品の制菌方法及び製造方法、ならびに制菌処理用液に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の日持ち期間を延長させるには、微生物の増殖を制御する技術が必要となる。微生物の増殖を制御する、すなわち制菌処理を行うためには、洗浄によって微生物を食品から除去する、加熱によって食品に付着している、あるいは食品に含まれる微生物を死滅させる、保存料や静菌剤を用いて食品に付着している、あるいは食品に含まれる微生物の増殖を抑制すること等が考えられる。
洗浄は、食品の表面に付着した微生物の除去には効果があり、電解水や塩素系殺菌水を利用すると更なる菌数低減効果が期待できる。しかしながら、食品内部に残存している微生物には洗浄水が届かないため、食品内部の微生物の除去は困難である。特に、エビやアサリのように内臓部分まで喫食する食品は、腸管や体内に含まれる微生物も除去する必要があるが、洗浄では内臓部分の微生物を除去することができない。これらの生物は泥中の微生物を捕食する生態を持っており、腸管に微生物が多く存在している。そこで、腸管内から微生物を除去する方法として、出荷時に綺麗な水で、数日間絶食で飼育する方法や、工場で腸管を除去する作業が行われている。しかしながら、これらの方法は、手間もコストもかかり、更に、中腸線内の微生物は完全に除去できずに残存してしまう場合がある。
腸管内等に残存した微生物を加熱によって、死滅させる方法があるが、商業的無菌性を得るための高温・長時間の加熱を行うと、食品の食感や風味が低減し、品質が悪化する懸念がある。また、食品の品位を落とさない程度の加熱では、耐熱性を有する微生物が生残し、増殖するリスクがある。
【0003】
静菌剤を用いて生鮮野菜の保存性を高める方法として、特許文献1には、グルコマンナン等の増粘剤と静菌剤の混合液に生鮮野菜を浸漬させ、生鮮野菜の表面を、制菌剤を含む混合液で被覆する方法が開示されている。
特許文献2には、制菌効果を有するポリリジンとゼラチンを主成分とする混合製剤を食品(魚介類含む)に添加または付着後に冷却する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−215544号公報
【特許文献2】特開平9−98754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エビは表面だけでなく、腸管等内部にも耐熱性菌を含む微生物が存在することがあるため、表面の洗浄・殺菌だけでは、微生物を除去しきれず、増殖リスクを伴う。更に、加熱処理を行った場合でも、耐熱性菌が生残し増殖すると日持ちが悪くなる点が問題であった。現行では、この増殖リスクを低減させるため、高温・長時間の加熱処理を行ってから、静菌剤を添加する処理が採用されている。しかしながら、これらの処理では、エビの身が固くなり、食感や歩留まりが悪くなる場合がある。また、歩留まり改善の施策としてエビをアルカリ浸漬させる方法があるが、静菌剤を内部に浸透させた場合でも、加熱による保水成分の流出に伴って制菌剤が流出し、制菌剤の効果が得られ難い場合がある。
更に、エビと同様に、加熱済の加工品とする場合に、耐熱性菌の存在、加熱時の保水成分の流出による制菌作用の低下、加熱温度による食感など品質や風味の低下などが問題となる魚介類も上記と同様の問題を有している。
一方、特許文献1に開示されるグルコマンナン等の増粘剤と静菌剤の混合液は、生鮮野菜の表面処理用であり、加熱済魚介類食品に対しての使用についての開示や示唆は特許文献1には全くない。
特許文献2に開示されるポリリジンとゼラチンを主成分とする混合製剤では、水分活性の上昇が抑制されることでポリリジンの静菌効果が発揮される作用機序が推察されているが、ゼラチンは加熱によって固化せず、食品内部に浸透した場合でも、加熱による保水した成分の流出に伴って制菌剤が外部に流出する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、制菌剤による日持ちを更に向上させることができ、かつ魚介類の品質や風味を損なわない加熱済の魚介類食品の制菌方法及び製造方法、ならびにこれらの方法に用いる制菌処理用液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる加熱済み魚介類食品の制菌方法は、
魚介類食材を、グルコマンナン、静菌剤及び水を含むpHが8〜12の制菌処理用液に接触させる制菌剤処理工程と、
前記制菌処理用液を保持した魚介類食材を、グルコマンナンがゲル化する温度で加熱して加熱済み魚介類食品を得る加熱工程と、
を有することを特徴とする。
本発明にかかる加熱済み魚介類食品の製造方法は、
制菌剤を添加した魚介類食材の加熱処理を含む、加熱済み魚介類食品の製造方法であって、
前記制菌剤を添加した魚介類食材の加熱処理が、上記の加熱済み魚介類食品の制菌方法により行われる
ことを特徴とする。
本発明にかかる加熱済み魚介類食品の制菌処理に用いる制菌処理用液は、グルコマンナン、魚介類用の制菌剤及び水を含pHが8〜12であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
魚介類食材に添加した静菌剤を含むグルコマンナンが、保水した状態で固化するため、魚介類食材の加熱時に魚介類食材から流出せず、加熱済の魚介類食品における静菌効果を持続させることができる。本発明によれば、食感の改善を行う保水処理と静菌処理を同時に行うことができ、かつ、加熱済の魚介類食品での制菌剤による制菌効果を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エビの部位ごとの一般生菌数および耐熱性菌数の測定結果を示す図である。
図2】日持ち向上剤及びグルコマンナンをそれぞれ単独で使用した場合に対する、日持ち向上剤とグルコマンナンの組合せによる日持ち向上の改善効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にかかる加熱済み魚介類食品の制菌処理用液は、グルコマンナン、魚介類用の制菌剤及び水を含む。
加熱済み魚介類食品を製造するための魚介類食材(以下、「食材」という)としては、魚介類そのままや、魚介類を加工して得られた加工食材を用いることができる。
魚介類としては、魚類、甲殻類、頭足類、貝類等の水産物を挙げることができる。
魚類としては、タラ、ホキ、サワラ、アジ、ホッケ、カレイ、サバ、サケ、イワシ、タイ、グチ、エソ、タチウオ、ママカリ、サメ等を挙げることができる。甲殻類としては、各種のエビ、カニを挙げることができる。頭足類としては、各種のイカ、タコ等を挙げることができる。貝類としては、アサリ、ハマグリ、ホタテ等を挙げることができる。
加工食材の形態としては、切り身やブロック等の身の固まり、貝類の剥き身や柱、これらを裁断、細粒化あるいはすり潰し等の処理を行って得られるミンチ、すり身などの加工食材を挙げることができる。
食材には、必要に応じて、調味料等による味付けを行ってもよい。味付けは後述する加熱時に行ってもよい。
【0011】
制菌処理用液の制菌成分としての制菌剤としては、魚介類に対する制菌効果を有するものであれば特に制限なく利用できる。また、制菌剤は、水溶性であり、更に、グルコマンナンのゲル化による保水機能を損なわないものであることが好ましい。このような制菌剤の有効成分としては、グリシン、制菌作用を有する有機酸及び有機酸の塩等を挙げることができる。これらの少なくとも1種を制菌剤として用いることができる。
有機酸としては、酢酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸及びリンゴ酸等を挙げることができ、有機酸の塩としては、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びリンゴ酸ナトリウム等を挙げることができる。
これらの中では、グリシン及び酢酸ナトリウムの少なくとも一方を用いることがより好ましい。
【0012】
制菌処理用液における制菌剤の濃度は、目的とする制菌効果が得られるように設定すればよく、特に限定されない。制菌処理用液における制菌剤の含有割合は、静菌剤の種類によって異なり、0.001質量%〜10質量%、より好ましくは1.4質量%〜4.2質量%の範囲から選択することが好ましい。
制菌処理用液におけるグルコマンナンの含有割合は、目的とする制菌効果が得られるように設定すればよく、特に限定されない。制菌処理用液におけるグルコマンナンの含有割合は、0.001質量%〜5質量%、より好ましくは0.1質量%〜0.15質量%から選択することが好ましい。
また、制菌処理用液における制菌剤及びグルコマンナンの濃度は、処理対象の食材の量に応じて調整することが好ましい。制菌剤は、食材に対して、0.01質量%〜5質量%の範囲となるように設定することが好ましい。グルコマンナンは、食材に対して、好ましくは0.04質量%〜0.06質量%、より好ましくは0.04質量%〜0.056質量%、更に好ましくは0.056質量%とすることができる。
食材に対するこれらの成分の適用量の調整は、制菌処理用液におけるこれらの濃度や、処理対象の食材の量(例えば、浸漬法であれば浸漬液への食材の投入量)のいずれか一方により行うことができる。
グルコマンナンは、制菌処理液の固化(ゲル化)用の成分であり、食品に利用できるものであれば制限なく利用できる。例えば、こんにゃく芋から常法により精製して得られるグルコマンナンを利用することができる。また、市販の精製グルコマンナン、例えば、商品名、ファイン・マンナン(株式会社荻野商店)や、アルカリ製剤(重曹)を含むグルコマンナン製剤(商品名、ナウベストMX-1(日本化薬フードテクノ株式会社)等)を利用することもできる。
【0013】
制菌処理用液の液媒体としては、少なくとも水を含む液媒体が用いられる。この液媒体には、水に加えて、更に、調味料等の各種添加剤を添加することができる。制菌処理用液における水は、制菌処理用液における上記の各成分の残部を構成し、その含有量は、好ましくは80質量%以上100質量%未満、より好ましくは、80質量%以上90質量以下から選択することができる。
【0014】
制菌処理用液は、食材の表面や内部に付与された後にゲル化して効果的に固定化され、制菌作用の持続が可能となる。グルコマンナンは、アルカリ性においてゲル化し易い性質を有するため、制菌処理用液は、アルカリ性であることが好ましく、弱アルカリ性であることがより好ましい。このような観点から、制菌処理用液のpHは、8〜12の範囲から選択することが好ましい。より好ましくは、pH8〜11、更に好ましくはpH10とすることができる。
制菌処理用液には、必要に応じて、前述のグルコマンナンの効果の観点から、アルカリ化剤を添加してそのpHを調整してもよい。アルカリ化剤としては、食品に利用し得るものであり、制菌剤の作用に影響を及ぼさないものであれば、制限なく利用できる。このような、アルカリ化剤としては、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を挙げることができ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
制菌処理用液の調製時の温度は、グルコマンナン及び制菌剤などの成分の水への溶解性やグルコマンナンのゲル化を避けることを考慮して選択することができる。例えば、制菌処理用液の調製時の温度としては、10℃〜70℃の範囲から、制菌処理用液の各成分が溶解し、グルコマンナンのゲル化が生じない温度を選択することが好ましい。
【0015】
制菌処理用液は、加熱済の魚介類食品の制菌方法及び制菌処理された加熱済の魚介類食品の製造方法における制菌剤処理用として使用することができる。
制菌処理用液を用いる加熱済の魚介類食品の制菌方法は、
(I)食材を、グルコマンナン、静菌剤及び水を含む制菌処理用液に接触させる制菌剤処理工程と、
(II)制菌処理用液を保持した食材を50℃以上の温度で加熱する加熱工程と、を有する。
また、この制菌方法は、加熱済み魚介類食品の製造方法における制菌剤を添加した魚介類食材の加熱処理に用いることができる。かかる製造方法は、以下の工程を有することができる。
(A)食材を、グルコマンナン、静菌剤及び水を含む制菌処理用液に接触させる制菌剤処理工程。
(B)制菌処理用液を保持した食材を50℃以上の温度で加熱して、制菌処理された加熱済の魚介類食品を得る加熱工程。
制菌剤処理工程(I)及び(A)における、食材を、グルコマンナン、静菌剤及び水を含む制菌処理用液に接触させる方法としては、目的とする制菌用液の食材への添加が可能な方法であれば特に限定されない。例えば、塗布法、スプレー法、浸漬法などを利用することができる。食材内部に制菌処理用液をより十分に浸透させるには、浸漬法が好ましく用いられる。
また、制菌処理用液を食材に適用する際の温度、例えば浸漬法を用いる場合の浸漬液の温度は、中温(例えば、20℃以上50℃未満)の方が食材内部に浸透しやすいが、長時間の浸漬では、低温(例えば、1℃以上10℃以下)で行う方が好ましい。食材に付与されたグルコマンナンのゲル化が生じない温度、例えば1℃以上50℃未満の範囲に設定することがより好ましい。
制菌処理用液の食材への付与量は、目的とする効果が得られるように設定すればよい。浸漬法を利用する場合には、浸漬時間によって食材への付与量を調整することができる。浸漬時間は、少なくとも4時間とすることが好ましい。浸漬時間の上限は、特に限定はないが、目的とする効果の飽和の程度や、工程作業効率との関係から設定することができ、例えば18時間以下とすることができる。
【0016】
加熱工程(II)及び(B)において、制菌処理用液を添加した食材を加熱して、加熱済の魚介類食品を得ることができる。加熱温度は、制菌剤とともに食材に添加されたグルコマンナンがゲル化する温度とされ、50℃以上とすることが好ましい。加熱処理の温度の上限は、食材の特性(例えば食感等の品質や風味)への加熱温度の影響を考慮して決定すればよい。一般的には、加熱温度を80℃以上100℃以下とすることが好ましい。
制菌処理用液を施した食材の加熱処理は、湯煮、油ちょう、オーブンによる乾熱、蒸気による湿熱等の方法により行うことができる。
加熱処理によって、食材に制菌剤とともに付着及び/または浸透したグルコマンナンがゲル化し、制菌剤が加熱済み魚介類食品に固定され、制菌効果が維持されることで加熱済食品の日持ちの更なる向上を達成することができ、保存性が向上する。更に、ゲル化したグルコマンナン中には制菌剤とともに水分が保持され、適当な粘性や弾力性を有し、加熱済みの魚介類食品の食感等の品質の維持も可能となる。
こうして得られた加熱済み魚介類食品は、日持ちが良く、また、保存中における品質の低下がなく、そのまま直接に、あるいは調理して食する製品として、更には、各種加工食品の製造用の食材として利用することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。
(試験例1)
<菌の分布>
(a)方法
エビを殻・中腸腺・筋肉(身)に分ける。各部位毎に10倍量(質量基準)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS Tablet(タカラバイオ株式会社)をメーカー指定の方法に準じて調製)を入れ、1分間ストマッカー処理を行い、希釈水 9mL PBS(スリーエムジャパン株式会社)を用いて段階希釈して一般生菌数を測定した。また、耐熱性菌はストマッカー処理後の溶液3mLを試験管に入れ、70℃で20分加温後に菌数を常法(寒天培地混釈法)により測定した。
(b)結果
図1に、検査結果を示す。図1(A)は一般生菌数を、図1(B)は耐熱性菌数の測定結果を示す。
図1に示す通り、エビの殻や筋肉だけでなく、中腸腺内部にも10〜10 CFU/gの一般生菌が存在し、他の部位よりも1オーダー以上菌数が多く、さらに耐熱性菌も検出された。
【0018】
(実施例及び比較例)
<保存性試験>
(a)方法
浸漬用の槽に、エビ重量に対して、0.04質量%のグルコマンナン(グルコマンナン製剤、製品名:ナウベストMX-1;日本化薬フードテクノ株式会社)、0.91質量%の重曹および1質量%の静菌剤(グリシン:0.45%、酢酸ナトリウム:0.35%、クエン酸ナトリウム:0.03%、リンゴ酸ナトリウム0.02%、コハク酸0.008%、クエン酸0.007%、その他食品素材:0.135%、質量基準)を投入し、エビが浸る量の水道水を更に添加してこれらを溶解させて浸漬液としての制菌処理用液を調製する。そこに、エビを加え、5℃で一晩浸漬させる。エビを制菌処理用液から取り出し、加熱処理(80℃以上、15分)を行い、制菌処理された加熱済みのエビ加工品(エビ加工品1)を得る。エビ加工品1の加熱処理直後、20℃で3日間、5日間、7日間保存したサンプルの一般生菌数を常法(寒天培地混釈法)により測定した。
また、グルコマンナンを含まない以外は、上記と同様にして浸漬液を調製し、上記と同様にしてエビを処理して加熱済のエビ加工品(比較例としてのエビ加工品2)を得た。更に、制菌剤を含まない以外は、上記と同様にして浸漬液を調製し、上記と同様にしてエビを処理して加熱済のエビ加工品(比較例としてのエビ加工品3)を得た。これらの比較対象品についても上記と同様に、加熱処理直後、20℃で3日間、5日間、7日間保存したサンプルの一般生菌数を常法(寒天培地混釈法)により測定した。
(b)結果
一般生菌数の測定結果を図2に示す。図2に示す通り、エビ加工品は20℃で7日間保存しても、増菌が認められなかった。
【0019】
<歩留まり>
(a)方法
保存性試験と同様の方法によって得た本発明にかかるエビ加工品1の加熱前後の重量から歩留まりを計算した。
また、保存性試験と同様の方法によって得た比較対象としてのエビ加工品2及びエビ加工品3についても加熱前後の重量から歩留まりを計算した。
(b)結果
得られた歩留りの結果を表1に示す。表1に示す通り、本発明にかかるエビ加工品1において、すなわち、制菌剤とグルコマンナンの組合せによって、制菌剤のみのエビ加工品2に対して歩留まりが16.5%向上していた。
【0020】
【表1】
【0021】
<水分活性>
(a)方法
原料エビと、この原料エビを用いて保存性試験と同様の方法によって得たエビ加工品1の水分活性を常法により測定した。
(b)結果
水分活性の測定結果を表1に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
表2に示す通り、原料エビと、エビ加工品1の水分活性は同等であり、制菌剤及びグルコマンナンを含む制菌処理用液での処理及び加熱処理を施してもこれらの水分活性に変化はなかった。
【0024】
<官能評価>
(a)方法
保存性試験と同様の方法にて得たエビ加工品(本発明にかかるエビ加工品1)と、原料としてのエビを100℃で3分間処理したボイルエビ(比較例)をパネラーが喫食し、以下の基準により官能評価した。
(評価基準)○:良好、△:わずかに劣る、×:著しく劣る。
(b)結果
官能評価結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
表3に示す通り、これらの製品の味については同程度の評価であった。食感についは、ボイルエビからなる未処理区は身が固くなり、パサパサとした食感となってしまったが、エビ加工品1からなるグルコマンナン+静菌剤処理区は、硬さはなく、エビ本来の食感が残っていた。
図1
図2