(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部に配線・配管材が挿通され、該貫通部の内面と前記配線・配管材の外面との間に、熱により膨張する熱膨張性耐火具が設けられてなる貫通部の耐火構造であって、
前記熱膨張性耐火具は、軸方向一端に開口を有する筒状をなすゴム製の耐火具本体と、前記耐火具本体の軸方向一端に形成されたフランジ部とを備え、
前記熱膨張性耐火具は、前記配線・配管材の外面に対し間隙を空けて該外面を取り囲むように配置されて前記防火区画体に対して移動不能に設置されており、
前記間隙には、前記熱膨張性耐火具に対する前記配線・配管材の軸方向への移動を許容しつつ前記間隙に充填される、非熱膨張性の発泡性材料からなる閉塞部材が前記配線・配管材の外面に接着されることなく、且つ、前記閉塞部材の外面が前記耐火具本体の内面に密接するように設けられ、前記閉塞部材は、加熱時に前記熱膨張性耐火具を前記耐火具本体の内周面側から膨張させるべく、熱によって焼失して前記耐火具本体の内周面に熱を伝播するための伝播空間を形成するように構成され、
前記配線・配管材が軸方向に移動したときに、前記閉塞部材が前記貫通部内に位置したままとなるように構成されていることを特徴とする貫通部の耐火構造。
建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部に配線・配管材が挿通され、該貫通部の内面と前記配線・配管材の外面との間に、熱により膨張する熱膨張性耐火具が設けられてなる貫通部の耐火構造であって、
前記熱膨張性耐火具は、軸方向一端に開口を有する筒状をなすゴム製の耐火具本体と、前記耐火具本体の軸方向一端に形成されたフランジ部とを備え、
前記熱膨張性耐火具は、前記配線・配管材の外面に対し間隙を空けて該外面を取り囲むように配置されて前記防火区画体に対して移動不能に設置されており、
前記間隙には、前記熱膨張性耐火具に対する前記配線・配管材の軸方向への移動を許容しつつ前記間隙に充填される、非熱膨張性の発泡性材料からなる閉塞部材が前記配線・配管材の外面に接着されることなく、且つ、前記閉塞部材の外面が前記耐火具本体の内面に密接するように設けられ、前記閉塞部材は、加熱時に前記熱膨張性耐火具を前記耐火具本体の内周面側から膨張させるべく、熱によって焼失して前記耐火具本体の内周面に熱を伝播するための伝播空間を形成するように構成され、
前記閉塞部材が前記熱膨張性耐火具の内面に接着されていることを特徴とする貫通部の耐火構造。
建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部に配線・配管材が挿通され、該貫通部の内面と前記配線・配管材の外面との間に設けられる、熱により膨張する熱膨張性耐火具であって、
前記熱膨張性耐火具は、軸方向一端に開口を有する筒状をなすゴム製の耐火具本体と、前記耐火具本体の軸方向一端に形成されたフランジ部とを備え、
前記熱膨張性耐火具は、前記配線・配管材の外面に対し間隙を空けて該外面を取り囲むように配置されて前記防火区画体に対して移動不能に設置されるように構成されており、
前記間隙には、前記耐火具本体に対する前記配線・配管材の軸方向への移動を許容しつつ前記間隙に充填される、非熱膨張性の発泡性材料からなる閉塞部材が前記配線・配管材の外面に接着されることなく、且つ、前記閉塞部材の外面が前記耐火具本体の内面に密接するように設けられ、前記閉塞部材は、加熱時に前記熱膨張性耐火具を前記耐火具本体の内周面側から膨張させるべく、熱によって焼失して前記耐火具本体の内周面に熱を伝播するための伝播空間を形成するように構成され、
前記配線・配管材が軸方向に移動したときに、前記閉塞部材が前記貫通部内に位置したままとなるように構成されていることを特徴とする熱膨張性耐火具。
建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部に配線・配管材が挿通され、該貫通部の内面と前記配線・配管材の外面との間に設けられる、熱により膨張する熱膨張性耐火具であって、
前記熱膨張性耐火具は、軸方向一端に開口を有する筒状をなすゴム製の耐火具本体と、前記耐火具本体の軸方向一端に形成されたフランジ部と、前記耐火具本体の軸方向他端に形成された受け部とを備え、
前記熱膨張性耐火具は、前記配線・配管材の外面に対し、前記耐火具本体の前記開口から前記受け部まで軸方向に延びる間隙を空けて該外面を取り囲むように配置されて前記防火区画体に対して移動不能に設置されるように構成されており、
前記間隙には、前記熱膨張性耐火具に対する前記配線・配管材の軸方向への移動を許容しつつ前記間隙に充填される、非熱膨張性の発泡性材料からなる閉塞部材が前記配線・配管材の外面に接着されることなく、且つ、前記閉塞部材の外面が前記耐火具本体の内面に密接するように設けられ、前記閉塞部材は、加熱時に前記熱膨張性耐火具を前記耐火具本体の内周面側から膨張させるべく、熱によって焼失して前記耐火具本体の内周面に熱を伝播するための伝播空間を形成するように構成され、
前記閉塞部材が前記耐火具本体の内面に接着されていることを特徴とする熱膨張性耐火具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の防火処理構造においては、配線・配管材に対し、その軸方向へ移動させる力が加わると、配線・配管材と共に防火処理具及び熱膨張性充填材が防火区画壁から外れてしまう。そこで、配線・配管材に軸方向へ移動させる力が加わったとき、配線・配管材と共に防火処理具及び熱膨張性充填材も移動可能にすることが考えられる。しかし、防火処理具及び熱膨張性充填材も移動してしまうと、配線・配管材の外周面と貫通部の内周面との間に隙間が形成されてしまい、火災等の発生時には、煙の経路になってしまう。
【0005】
本発明は、配線・配管材に軸方向へ移動させる力が加わっても、熱膨張性耐火具が防火区画体から外れることを防止することができるとともに、貫通孔が煙の経路になることを防止することができる貫通部の耐火構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、本発明の一実施形態の貫通部の耐火構造は、建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部に配線・配管材が挿通され、該貫通部の内面と前記配線・配管材の外面との間に、熱により膨張する熱膨張性耐火具が設けられてなる貫通部の耐火構造であって、
前記熱膨張性耐火具は、軸方向一端に開口を有する筒状をなす耐火具本体と、前記耐火具本体の軸方向一端に形成されたフランジ部とを備え、
前記熱膨張性耐火具は、前記配線・配管材の外面に対し間隙を空けて該外面を取り囲むように配置されて前記防火区画体に対して移動不能に設置されており、
前記間隙には、前記熱膨張性耐火具に対する前記配線・配管材の軸方向への移動を許容しつつ前記間隙に充填される、非熱膨張性の発泡性材料からなる閉塞部材が前記配線・配管材の外面に接着されることなく設けられ、
前記配線・配管材が軸方向に移動したときに、前記閉塞部材が前記貫通部内に位置したままとなるように構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一実施形態の貫通部の耐火構造は、建築物の防火区画体を厚み方向に貫通して形成された貫通部に配線・配管材が挿通され、該貫通部の内面と前記配線・配管材の外面との間に、熱により膨張する熱膨張性耐火具が設けられてなる貫通部の耐火構造であって、
前記熱膨張性耐火具は、軸方向一端に開口を有する筒状をなす耐火具本体と、前記耐火具本体の軸方向一端に形成されたフランジ部とを備え、
前記熱膨張性耐火具は、前記配線・配管材の外面に対し間隙を空けて該外面を取り囲むように配置されて前記防火区画体に対して移動不能に設置されており、
前記間隙には、前記熱膨張性耐火具に対する前記配線・配管材の軸方向への移動を許容しつつ前記間隙に充填される、非熱膨張性の発泡性材料からなる閉塞部材が前記配線・配管材の外面に接着されることなく設けられ、
前記閉塞部材が前記熱膨張性耐火具の内面に接着されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態の貫通部の耐火構造は、上記貫通部の耐火構造において、前記閉塞部材は、前記装着部材と、該装着部材の外面と前記熱膨張性耐火具の内面との間に充填される充填材と、からなることを要旨とする。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、配線・配管材に軸方向へ移動させる力が加わっても、熱膨張性耐火具が防火区画体から外れることを防止することができるとともに、貫通孔が煙の経路になることを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した貫通部の耐火構造の一実施形態を
図1〜
図5にしたがって説明する。
まず、防火区画体としての防火区画壁Wについて説明する。
【0013】
図1に示すように、防火区画壁Wはコンクリート壁であるとともに、防火区画壁Wには、配線・配管材としての合成樹脂製の電線管Pを防火区画壁Wの厚み方向に貫通させるための円孔状の貫通孔Waが形成されている。そして、本実施形態では、貫通孔Waそのものによって防火区画壁Wに貫通部が形成されている。
【0014】
次に、防火区画壁Wにおける貫通部の耐火構造を形成するため、貫通孔Waに装着されるとともに防火区画壁Wに固定される熱膨張性耐火具11について説明する。
図2に示すように、熱膨張性耐火具11は、熱膨張性材料としての熱膨張性ゴムによって円筒状に形成されている。熱膨張性耐火具11は、有底円筒状をなす耐火具本体12と、この耐火具本体12の軸方向一端に形成されたフランジ部13とから形成されている。
【0015】
図1及び
図3(b)に示すように、耐火具本体12の外径は、耐火具本体12の軸方向に一定で、かつ貫通孔Waの直径より僅かに大きく形成されている。また、熱膨張性ゴムは、300℃以上の熱を受けると体積が加熱前の2倍以上に膨張する膨張材(膨張黒鉛)をゴムに混入し、このゴムを所定形状に成形した(成形工程を経た)ものに加硫工程を経てなるものである。なお、加硫工程とは、成形工程を経たゴムに熱を加え、加硫(架橋)反応や接着反応を起こさせ、ゴム弾性を有する製品を得る工程である。そして、熱膨張性耐火具11は、熱膨張性ゴム自身により円筒状(形状)を維持している。
【0016】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、耐火具本体12の軸方向一端には、フランジ部13が耐火具本体12の周方向の全周に亘って外方へ突出するように形成されている。また、耐火具本体12の軸方向他端(底側)側には受け部16が形成されている。そして、耐火具本体12内には充填空間Kが形成されるとともに、この充填空間Kは耐火具本体12の軸方向一端で開口するとともに軸方向他端で受け部16によって閉鎖されている。充填空間Kは、円穴状に形成されるとともに、耐火具本体12の軸方向一端から他端に向かうに従い徐々に先細となるように縮径して形成されている。そして、耐火具本体12の外径は軸方向に沿って一定であるため、耐火具本体12における周壁部12aの厚みは、耐火具本体12の軸方向一端から他端に向かうに従い徐々に厚くなるように形成されており、受け部16側ほど厚くなっている。
【0017】
受け部16は、耐火具本体12の内周面に一体形成された薄板状をなす。受け部16には、複数の分割溝16aが受け部16の周方向へ等間隔おきに形成されるとともに、受け部16の径方向へ延びるように形成されている。受け部16において、分割溝16aが形成された部位は、その他の部位より薄くなっている。受け部16の中央部で全ての分割溝16aが交わる位置には挿通孔16bが受け部16を厚み方向に貫通して形成されている。また、各分割溝16aは、受け部16の中央部寄りが挿通孔16bに連通するように受け部16の厚み全体に切断されている。
【0018】
図4(c)及び
図5に示すように、受け部16における挿通孔16bに電線管Pが差し込まれると、受け部16は、分割溝16aの挿通孔16b側から分断される。その結果、受け部16は、複数の分割溝16aによって扇形状に分割されて複数の舌片16cが形成されるようになっている。各舌片16cはゴム弾性を有しているとともに、舌片16cの基端側を基点として充填空間K内又は耐火具本体12から離間する側へ向けて変形可能になっている。
図1では、電線管Pが受け部16を貫通した状態で、熱膨張性耐火具11を電線管Pに沿って移動させたため、舌片16cが基端側を基点として充填空間K内へ向けて変形するとともに、舌片16cが電線管Pの外周面に密接している。さらに、充填空間Kのうち、耐火具本体12の内周面と電線管Pの外周面との間には、円環状の間隙Kaが区画されるようになっている。
【0019】
また、
図2及び
図3(a)に示すように、耐火具本体12及びフランジ部13には、耐火具本体12の軸方向全体に亘って延びるスリット14が形成されている。スリット14は、耐火具本体12の外面側及びフランジ部13の外周端と、充填空間Kとを連通するように繋ぎ、充填空間Kを耐火具本体12の外側へ開口可能としている。スリット14は、複数の分割溝16aのうちの一つであり、舌片16cの形成に利用されている。
【0020】
次に、貫通部の耐火構造について説明する。
図1に示すように、防火区画壁Wには熱膨張性耐火具11が固定されている。具体的には、防火区画壁Wの貫通孔Waには、熱膨張性耐火具11の耐火具本体12が挿入されるとともに、貫通孔Waの開口縁部にフランジ部13が当接した状態で係止している。そして、フランジ部13と防火区画壁Wの開口縁部とは、粘着テープ又は接着剤によって固着され、熱膨張性耐火具11は防火区画壁Wに対して移動不能に固定されている。なお、熱膨張性耐火具11の防火区画壁Wへの設置は、フランジ部13の表面から防火区画壁Wの表面にかけて難燃性のパテを塗り、このパテ内にフランジ部13を埋め込んで熱膨張性耐火具11を防火区画壁Wに固定することで行ってもよい。
【0021】
耐火具本体12の外周面は、貫通孔Wa内周面に圧接している。よって、耐火具本体12の外周面が貫通孔Waの内周面に圧接することにより、耐火具本体12の外周面と貫通孔Waの内周面との間に隙間が無くなり、耐火具本体12がシール部材として機能している。
【0022】
耐火具本体12内には電線管Pが挿通されるとともに、電線管Pは防火区画壁Wを厚み方向に貫通している。そして、熱膨張性耐火具11は、電線管Pの外周面との間に間隙Kaを空けて周方向の全体に亘って取り囲んでいる。また、熱膨張性耐火具11の複数の舌片16cは電線管Pに沿って充填空間K内へ向けて突出するように変形している。貫通孔Waの奥方では、複数の舌片16cよりなる受け部16により充填空間Kが閉鎖されている。
【0023】
充填空間K(間隙Ka)には、閉塞部材として発泡性材料(例えば、スポンジ)からなる環状の充填材21が充填されるとともに、充填材21によって間隙Kaが閉塞されている。充填材21は、内径及び外径を縮径させた状態、すなわち圧縮させた状態で間隙Kaに押し込まれている。そして、充填材21は、内周面が電線管Pの外周面に密接するとともに、外周面が耐火具本体12の内周面に密接している。なお、充填材21は、舌片16cを押し退けて貫通孔Waの奥に到達するまで間隙Kaには充填されず、舌片16cによって耐火具本体12から飛び出ることが防止されている。
【0024】
また、充填材21によって、耐火具本体12のスリット14も耐火具本体12の内周面側から閉じられている。したがって、電線管Pの外周面と熱膨張性耐火具11の内周面との間隙Kaは充填材21によって閉塞されている。また、充填材21は、電線管Pの外周面と熱膨張性耐火具11の内周面との間隙Kaに充填されてはいるが、電線管Pの外周面と熱膨張性耐火具11の内周面に対して接着されていない。このため、電線管Pは、充填材21及び熱膨張性耐火具11に対して相対移動可能な状態で貫通孔Waに挿通されている。また、充填材21は発泡性材料よりなるため、貫通孔Waの径方向へ伸縮可能になっている。
【0025】
次に、貫通部の耐火構造の作用について記載する。
さて、貫通部の耐火構造において、電線管Pは熱膨張性耐火具11及び充填材21に固着されていない。このため、
図6の矢印Yに示すように、電線管Pは熱膨張性耐火具11に対し相対移動可能に支持されている。このため、電線管Pに対しその軸方向へ移動させる力が加わると、電線管Pは充填材21及び舌片16cに対し摺接しながら軸方向へ移動する。このとき、熱膨張性耐火具11は熱膨張性ゴムによって形成されるとともに、電線管Pは合成樹脂によって形成され、熱膨張性耐火具11と電線管Pとを比べると、熱膨張性耐火具11の方が摩擦係数が大きくなっている。このため、電線管Pが軸方向へ移動しても充填材21は熱膨張性耐火具11の内周面に対しては移動しにくくなっている。したがって、熱膨張性耐火具11は防火区画壁Wに固定されているため、電線管Pは軸方向へ移動しながらも充填材21及び熱膨張性耐火具11は貫通孔Wa内に位置したままとなる。その結果、充填材21及び熱膨張性耐火具11が貫通孔Waから外れてしまうことが防止される。すなわち、電線管Pが移動しても耐火構造は防火区画壁Wに設置された状態が維持される。
【0026】
防火区画壁Wの一方の壁面側(フランジ部13が露出する側)で火災等が発生すると、電線管Pやその他のものの燃焼により煙が発生する。このとき、貫通孔Waは、耐火具本体12の貫通孔Wa内面への圧接(耐火具本体12のシール機能)及び間隙Kaへの充填材21の充填により閉塞されているため、貫通孔Waが煙の経路となることが防止され、防火区画壁Wの他方の壁面側へ煙が伝わる不都合がなくなる。
【0027】
さらに、電線管P及び充填材21が燃焼し、充填材21は焼失するとともに、火災等や燃焼により発生した熱によりフランジ部13及び耐火具本体12の露出面側が加熱される。すると、電線管Pの周囲には、充填材21の焼失によって空隙が形成され、この空隙が熱の伝播空間となり、空隙を伝播した熱によって耐火具本体12がその内周面側(電線管P側)から膨張される。その結果、耐火具本体12が内周面側から膨張するとともにフランジ部13も膨張する。
【0028】
耐火具本体12は貫通孔Waの径方向及び軸方向に向けて膨張し、充填材21の焼失によって形成された空隙を埋めつつ、電線管Pを押し潰しながら貫通孔Waを密封閉鎖する。その結果、電線管Pの外周面と貫通孔Waの内周面との間が熱、煙の経路となり、防火区画壁Wの他方の壁面側へ熱、煙が伝わる不都合がなくなる。
【0029】
一方、防火区画壁Wの他方の壁面側(貫通孔Waが開放された側)で火災等が発生すると、電線管Pやその他のものの燃焼により煙が発生する。このとき、貫通孔Waは、耐火具本体12の貫通孔Waへの圧接(耐火具本体12のシール機能)、間隙Kaへの充填材21の充填、及び受け部16により閉鎖されているため、貫通孔Waが煙の経路となることが防止され、防火区画壁Wの他方の壁面側へ煙が伝わる不都合がなくなる。
【0030】
さらに、電線管Pが燃焼するとともに、火炎や煙が貫通孔Wa内に侵入する。すると、火災等や燃焼により発生した熱により、耐火具本体12の受け部16側が加熱される。燃え進んだ電線管Pからの熱により耐火具本体12が内周面側から加熱される。
【0031】
すると、加熱された耐火具本体12の受け部16側は貫通孔Waの径方向及び軸方向に向けて膨張し、電線管Pを押し潰しながら貫通孔Waを密封閉鎖する。その結果、電線管Pの外周面と貫通孔Waの内周面との間が熱、煙の経路となり、防火区画壁Wの他方の壁面側へ熱、煙が伝わる不都合がなくなる。
【0032】
次に、熱膨張性耐火具11及び充填材21を用いて防火区画壁Wに耐火構造を設ける方法について説明する。
まず、
図4(a)に示すように、貫通孔Wa内に電線管Pを挿通し、防火区画壁Wに電線管Pを貫通させる。次に、
図4(b)に示すように、熱膨張性耐火具11におけるスリット14から熱膨張性耐火具11を拡開させ、充填空間Kを耐火具本体12の軸方向全体に亘って開口させる。そして、
図4(c)の2点鎖線に示すように、スリット14内に電線管Pを収容するとともに耐火具本体12を閉じる。すると、電線管Pの外面側に熱膨張性耐火具11が装着される。
【0033】
続いて、熱膨張性耐火具11を電線管Pの軸方向に沿うように貫通孔Waに向けてスライド移動させ、
図4(c)の実線に示すように、熱膨張性耐火具11における耐火具本体12側を貫通孔Wa内に挿入する。ここで、耐火具本体12の外径は、貫通孔Waの直径より僅かに大きく形成されるとともに、耐火具本体12は熱膨張性ゴム製であるためゴム弾性を有している。このため、耐火具本体12を貫通孔Wa内に挿入すると、耐火具本体12の外周面が貫通孔Waの内周面によって押圧されて圧縮変形するとともに、原形状への復帰により貫通孔Waの内周面に耐火具本体12の外周面が圧接する。よって、耐火具本体12の外周面が貫通孔Waの内面に圧接することにより、耐火具本体12の外周面と貫通孔Waの内周面との間に隙間が無くなり、耐火具本体12がシール部材として機能する。
【0034】
さらに、防火区画壁Wにおける貫通孔Waの開口縁部にフランジ部13を当接させ、係止させると、熱膨張性耐火具11の貫通孔Wa内へのそれ以上の入り込みが防止される。そして、フランジ部13と防火区画壁Wの開口縁部とを粘着テープ又は接着剤によって接着すると、熱膨張性耐火具11が防火区画壁Wに設置される。
【0035】
また、上記のように電線管Pに沿って熱膨張性耐火具11をスライド移動させて熱膨張性耐火具11を設置すると、複数の舌片16cは電線管Pに沿って充填空間K内へ向けて突出するように変形する。すると、
図1に示すように、熱膨張性耐火具11の充填空間K(間隙Ka)は、開口端側から外方へ向けて開口するとともに、貫通孔Waの奥方では、複数の舌片16cよりなる受け部16により充填空間Kが閉鎖されている。
【0036】
そして、耐火具本体12の軸方向一端側の開口から間隙Ka内に、充填材21を充填するとともに充填空間Kを閉鎖する。その結果、貫通孔Waの内周面と電線管Pの外周面との間に熱膨張性耐火具11が配設されるとともに、耐火具本体12の内周面と電線管Pの外周面との間隙Kaに充填材21が隙間なく配設される。すると、電線管Pが防火区画壁Wを貫通する状態に配置されるとともに、防火区画壁Wに耐火構造が設けられる。
【0037】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)貫通部の耐火構造において、熱膨張性耐火具11の内周面と電線管Pの外周面との間隙Kaに充填材21を充填しつつも、熱膨張性耐火具11に対し電線管Pを軸方向(防火区画壁Wの厚み方向)へ移動可能にした。このため、電線管Pに軸方向へ移動させる力が加わっても電線管Pだけが貫通孔Wa内で移動し、熱膨張性耐火具11を貫通孔Wa内に設置した状態に維持することができる。したがって、電線管Pが移動した後に火災等が発生しても貫通孔Waが煙の経路になることを防止することができる。さらに、火災等の熱により熱膨張性耐火具11が膨張して貫通孔Waを速やかに閉鎖することができる。
【0038】
(2)充填材21として発泡性材料であるスポンジを用い、充填材21を圧縮状態で充填空間Kに充填した。スポンジは圧縮されても弾性復帰する力が小さく、電線管Pの外周面に対し強く接していない。よって、電線管Pが軸方向へ移動しても充填材21が電線管Pに引きづられにくく、充填材21を間隙Ka内に残したままとすることができる。また、熱膨張性耐火具11は熱膨張性ゴムであるため、摩擦係数が電線管Pの材料である合成樹脂製より大きい。よって、電線管Pが軸方向へ移動しても、充填材21は熱膨張性耐火具11に対して移動しにくく、充填材21を間隙Ka内に残したままとすることができる。
【0039】
(3)充填材21として発泡性材料であるスポンジを用いた。このため、電線管Pに径方向へ移動させる力が作用しても、充填材21が圧縮変形することにより、電線管Pの径方向への移動を許容し、耐火構造が損傷を受けることを防止することができる。
【0040】
(4)耐火具本体12は熱膨張性ゴムよりなり、ゴム弾性を有する。また、耐火具本体12の外径は貫通孔Waの直径より僅かに大きく形成されている。このため、耐火具本体12を貫通孔Wa内に挿入すると、耐火具本体12が貫通孔Waの内周面によって僅かに圧縮変形するとともに、原形状への復帰により貫通孔Waの内周面に耐火具本体12の外周面が圧接する。よって、電線管Pに軸方向へ移動させる力が加わっても、熱膨張性耐火具11が貫通孔Wa内から抜け出ることを防止することができる。
【0041】
(5)熱膨張性耐火具11において、電線管Pの外周面に密接する受け部16は、分割溝16aから分断された複数の舌片16cより形成されている。そして、電線管Pに軸方向へ移動させる力が加わったとき、複数の舌片16cは電線管Pの外周面に沿うように変形する。よって、受け部16が変形不能に形成される場合と異なり、舌片16cが電線管Pの移動を妨げることはなく、また、受け部16が電線管Pに引きづられることもないため、熱膨張性耐火具11を貫通孔Wa内に残したままとすることができる。
【0042】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、閉塞部材として発泡材料製(スポンジ製)の充填材21を用いたが、閉塞部材を変更してもよい。
【0043】
図7に示すように、閉塞部材を、電線管Pの外周面に装着される円環状の装着部材31と、この装着部材31の外周面と耐火具本体12の内周面との間に充填される充填材としての耐火パテ32と、から構成してもよい。なお、耐火パテ32は熱膨張性を有さず、耐火性を有するものである。また、装着部材31は例えば、接着性を有さない紙や樹脂シートから形成し、電線管Pへの装着状態では装着部材31は電線管Pに対し軸方向へ摺動可能に設けられている。また、耐火パテ32は、耐火具本体12の内周面及び装着部材31の外周面に対して接着している。このため、熱膨張性耐火具11、装着部材31及び耐火パテ32は、耐火パテ32の接着性によって一体化されている。
【0044】
このように構成した場合、電線管Pは装着部材31に対し軸方向へ相対移動可能な状態で熱膨張性耐火具11内に挿通されている。よって、電線管Pに軸方向へ移動させる力が作用しても電線管Pだけが移動し、耐火パテ32及び熱膨張性耐火具11を貫通孔Wa内に設置した状態に維持することができる。したがって、電線管Pが移動した後に火災等が発生しても熱膨張性耐火具11の膨張により貫通孔Waを速やかに閉鎖することができる。
【0045】
また、充填材として耐火パテ32のように接着性のある材料を用いても、耐火パテ32と電線管Pとの間に装着部材31を介装させるだけで、電線管Pが軸方向へ移動しても耐火パテ32及び熱膨張性耐火具11を貫通孔Wa内に残すことができる。
【0046】
○ 上記
図7に示す形態では、装着部材31と熱膨張性耐火具11の内周面との間に耐火パテ32を充填し、この耐火パテ32を耐火具本体12の内周面及び装着部材31の外周面に接着させた。しかし、装着部材31と熱膨張性耐火具11の間に充填される充填材(耐火パテ32)は、接着性を有していなくてもよい。
【0047】
さらに、装着部材31と熱膨張性耐火具11の内周面との間に、熱膨張性を有しない耐火パテ32を充填したが、この耐火パテ32に代えて熱膨張性を有する熱膨張性パテを充填してもよい。この熱膨張性パテは、接着性を有していてもよいし、接着性を有していなくてもよい。
【0048】
○ 上記
図7に示す形態では、熱膨張性耐火具11の内周面と電線管Pの外周面との間に、閉塞部材として装着部材31と耐火パテ32を設けたが、熱膨張性耐火具11の内周面と電線管Pとの間に、閉塞部材として装着部材31だけを設けた構成としてもよい。この場合、熱膨張性耐火具11の内周面に、耐火具本体12とは別に熱膨張性材料を設け、この熱膨張性材料を熱膨張性耐火具11の一部として捉え、装着部材31のみを閉塞部材として捉える。
【0049】
○ 円筒状をなす耐火ゴムの内周面に熱膨張性パテを設けて、熱膨張性パテにより熱膨張性耐火具を構成する。すなわち、電線管Pの外周側で熱膨張するものを熱膨張性耐火具として捉える。そして、この熱膨張性耐火具における熱膨張性パテの内周面と、電線管Pの外周面との間に間隙を空け、この間隙に装着部材を設けてもよい。この場合、装着部材そのものが閉塞部材となる。このように構成した場合、火災時には、熱膨張性パテが電線管Pに向けて膨張する。このため、電線管Pが焼失することで、熱膨張性耐火具内で電線管Pが配置されていた部位に空隙が形成されても、膨張する熱膨張性パテによって装着部材を圧縮しながら空隙に押し込むことができる。その結果、耐火ゴムの内側に空隙が形成されることを防止して、貫通孔Waが煙や火炎の経路になることを防止することができる。
【0050】
○ 熱膨張性材料(例えば、熱膨張性パテ)を受け止めるために有底筒状に形成された受け具(例えば、合成樹脂製)を貫通孔Wa内に固着するとともに、その受け具内に電線管Pを挿通する。そして、受け具の内周面と電線管Pの外周面との間に熱膨張性材料を充填するとともに、受け具によって熱膨張性材料を受け止める。さらに、熱膨張性材料の内周面と、電線管Pの外周面との間に環状の装着部材を配置し、電線管Pを軸方向へ移動可能にして貫通部の耐火構造を形成する。この場合、熱膨張する熱膨張性材料が熱膨張性耐火具を構成するとともに、装着部材そのものが閉塞部材となる。
【0051】
○ 実施形態では、充填材21を発泡性材料としてスポンジに具体化したが、接着性を有さず、充填空間Kからの煙の漏れを防止することができるのであれば、充填材21は非発泡性材料であってもよい。例えば、充填材21として布等を使用してもよい。
【0052】
○ 実施形態では、充填材21は電線管Pの外周面と熱膨張性耐火具11の内周面に対し接着しない構成としたが、充填材21は熱膨張性耐火具11の内周面に対しては接着されていてもよい。
【0053】
○
図8に示すように、防火区画体として、一対の壁材70の間に中空部71が区画された中空状の中空壁72において、一方の壁材70に貫通孔70aを形成し、その貫通孔70a内に熱膨張性耐火具11を装着して耐火構造を形成してもよい。又は、両方の壁材70の貫通孔70aに熱膨張性耐火具11を装着して耐火構造を形成してもよい。
【0054】
○ 防火区画体として、一対の壁材の間に中空部が区画された中空状の中空壁に貫通孔を形成し、その貫通孔内にスリーブを配設するとともに、スリーブによって貫通部を形成してもよい。そして、スリーブ内に熱膨張性耐火具11及び充填材21を装着して耐火構造を形成してもよい。
【0055】
○ 実施形態の防火区画壁Wにおいて、貫通孔Waにスリーブを配設するとともに、そのスリーブによって貫通部を形成してもよい。そして、スリーブ内に熱膨張性耐火具11及び充填材21を設けて耐火構造を形成してもよい。
【0056】
○ 中実状をなす防火区画体として、コンクリート壁以外の土壁等に耐火構造を形成する場合、本発明の耐火構造を用いてもよい。
○ 実施形態において、貫通孔Waの両開口側に熱膨張性耐火具11を装着してもよい。
【0057】
○ 防火区画体としての床を厚み方向に貫通する貫通孔内に熱膨張性耐火具11及び耐火具本体12を設け、床に耐火構造を設けてもよい。
○ 実施形態において、充填材21を耐火具本体12の内周面に接着剤で接着したり、フランジ部13に粘着テープ等で接合してもよい。
【0058】
○ 実施形態では、貫通孔Waを円孔状としたが、四角孔状や六角孔状の多角孔状に形成してもよく、楕円孔状であってもよい。
○ 実施形態では、耐火具本体12を熱膨張性ゴムより形成するとともに、耐火具本体12の外径を貫通孔Waの直径より僅かに大きくしたが、耐火具本体12の外径は貫通孔Waの直径より僅かに小さく形成されていてもよい。この場合、耐火具本体12は、フランジ部13を貫通したビスやボルト等で防火区画壁Wに固定されていてもよいし、フランジ部13に接合した粘着テープを防火区画壁Wに接合して防火区画壁Wに固定されていてもよい。
【0059】
○ 配線・配管材として、配線や、電線管P以外の管材であってもよく、配線及び配管材の両方でもよい。さらに、配線・配管材として、配線や配管材を複数本纏めたものであってもよい。
【0060】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記装着部材は紙製である請求項4又は請求項5に記載の貫通部の耐火構造。