(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
赤外線用結像レンズは、赤外線に対して高い透過率を有していなければならないので、使用できる硝材が比較的少数に限られているが、これらの硝材はいずれも高価である。特に、結晶の硝材を使用すると、非球面を研削によって形成するしかないので、赤外線用結像レンズは非常に高価になる。このような赤外線用結像レンズの高価さが、赤外線によって周辺環境等を撮影する監視カメラや車載カメラ等の普及を遅らせる原因の一つとなっているので、より安価に赤外線用結像レンズを製造販売することが求められている。
【0005】
赤外線用結像レンズによく使用する硝材の中では、カルコゲナイドガラスは比較的安価であり、モールド成形によって非球面を形成して容易に所望の光学性能を得ることもできる。このため、特許文献1〜4の赤外線用結像レンズのように、近年の赤外線用結像レンズではカルコゲナイドガラスの使用頻度が高い。しかしながら、カルコゲナイドガラスは、従来、赤外線用結像レンズに使用されてきた硝材の中では比較的安価であるといっても、可視光によって被写体を撮像するためのレンズ(以下、可視光用結像レンズという)に使用する硝材と比較すれば、非常に高価であることに変わりはない。
【0006】
可視光用結像レンズには、例えば、樹脂や合成石英(SiO
2)等の安価な硝材を使用するが、赤外線(特に遠赤外線)はこれらの硝材に非常に吸収されやすい。例えば、合成石英は、耐候性や温度依存性の点においては、赤外線用結像レンズにも使用可能であるが、9μm付近の赤外線を強く吸収するという欠点がある。このため、合成石英を赤外線用結像レンズに使用すると、撮影光量の不足等のために所望の画像が得られ難い。したがって、特許文献1〜4等で使用していないことからも分かるように、従来の赤外線用結像レンズに合成石英を使用しない。
【0007】
合成石英が9μm付近の赤外線を吸収するのは、シリコン(Si)に加えて、酸素を含んでいるからである。このため、合成石英に対して、酸素を含まないシリコンの結晶等であれば、9μm付近の赤外線の吸収が抑えられるので、赤外線用結像レンズの硝材として使用可能になる。しかし、酸素を含まないシリコン結晶は、通常は高価なFZ法(Floating Zone法)法で製造するので、むしろコスト高になる。このため、従来の赤外線用結像レンズではシリコンの結晶等を硝材としては使用しない。
【0008】
FZ法の他にも、シリコンの結晶を製造する代表的な方法としては、例えばCZ法(Czochralski法)が知られている。CZ法は、FZ法よりも安価にシリコンの結晶を得ることができるが、酸素等の不純物を多く含み、純粋なシリコン結晶を得られないという欠点がある。しかし、近年では、CZ法でも、酸素等の不純物の混入量を制御できるようになってきており、安価なまま、含有する酸素の濃度(以下、酸素濃度という)を低下し、遠赤外線の吸収を抑えたシリコン結晶が得られるようになってきている。このため、遠赤外線の吸収を抑えたシリコン結晶を使用し、より安価に赤外線用結像レンズを提供することが望まれている。
【0009】
なお、従来の赤外線用結像レンズではシリコンを使用できなかった経緯から、シリコンを使用した場合の赤外線用結像レンズが知られていない。また、レンズの性能は、使用する硝材によっても大きく変わるので、従来の高価な赤外線用硝材を単にシリコンに置き換えただけでは、監視カメラや車載カメラに求められる画質の画像は到底得られない。
【0010】
本発明は、少なくとも赤外線での使用に堪える程度に酸素濃度が低く、9μm付近の赤外線の吸収を抑えたシリコンを使用して、従来よりも安価な赤外線用結像レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の赤外線用結像レンズ
システムは、物体側から順に、1mm厚の場合に、波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率が40%以上であるシリコンで形成した第1レンズと、カルコゲナイドガラスで形成した第2レンズと、を備
え、第1レンズと前記第2レンズの間に絞りを有し、第1レンズは物体側に凸のメニスカスレンズであり、第2レンズは像側に凸のメニスカスレンズである。
【0012】
第1レンズの物体側の面が球面であり、かつ、像側の面が球面であることが好ましい。
【0013】
第2レンズは、物体側の面が非球面であり、かつ、像側の面が非球面であることが好ましい。
【0015】
第2レンズの物体側の面が回折面であることが好ましい。
【0016】
全系の焦点距離をf、前記第1レンズの焦点距離をf1とする場合に、
(式1) 1.1≦f1/f≦1.6
を満たすことが好ましい。
【0017】
第1レンズの中心厚をD1、前記第2レンズの中心厚をD4とする場合に、
(式2) 1.6≦D4/D1≦6.0
を満たすことが好ましい。
【0018】
第1レンズの物体側の面の曲率半径をR1、第1レンズの像側の面の曲率半径をR2とする場合に、
(式3) 1.25≦R2/R1≦1.70
を満たすことが好ましい。
【0019】
第1レンズの焦点距離をf1、第1レンズの像側の面と第2レンズの物体側の面との距離をΔとする場合に、
(式4) 2.4≦f1/Δ≦3.2
を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、1mm厚の場合に、波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率が40%以上であるシリコンからなるレンズを使用したことで、従来よりも安価に赤外線用結像レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】1mm厚のシリコンの透過率を示すグラフである。
【
図3】反射防止コーティングを施した1mm厚のシリコンの透過率を示すグラフである。
【
図4】実施例1の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図5】実施例1の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図6】実施例1の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図7】実施例2の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図8】実施例2の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図9】実施例2の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図10】実施例3の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図11】実施例3の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図12】実施例3の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図13】実施例4の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図14】実施例4の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図15】実施例4の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図16】実施例5の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図17】実施例5の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図18】実施例5の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図19】実施例6の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図20】実施例6の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図21】実施例6の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図22】実施例7の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図23】実施例7の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図24】実施例7の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【
図25】実施例8の赤外線用結像レンズの断面図である。
【
図26】実施例8の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
【
図27】実施例8の空間周波数に対するMTFを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すように、赤外線用結像レンズ10
(赤外線用結像レンズシステム)は、イメージセンサ11の撮像面S8に遠赤外線によって被写体の像を結像するレンズである。赤外線用結像レンズ10は、光軸Z1に沿って、物体側から順に、第1レンズL1と第2レンズL2の2枚のレンズを有する2枚構成のレンズ系である。また、赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1と第2レンズL2の間に絞りS3を備える。イメージセンサ11は、カバーガラスCGによって撮像面S8を保護しているので、赤外線用結像レンズ10は、カバーガラスCGを介して撮像面S8に被写体の像を結像する。
【0023】
第1レンズL1は、1mm厚の場合に、波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率が40%以上であるシリコンによって形成する。1mm厚の場合に、波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率が40%以上という条件は、シリコンが含有する酸素の濃度が低い(例えば、従来のCZ法で製造する一般的なシリコンよりも酸素濃度が低い)ときに満たされる。以下、従来の酸素濃度が高いシリコンと区別するため、第1レンズL1の硝材を便宜的に低酸素シリコンといい、相対的に酸素濃度が高い従来のシリコンを高酸素シリコンという。
【0024】
図2に破線で示すように、1mm厚の高酸素シリコンは、波長約9μm付近の赤外線の吸収が顕著である。このため、波長8μm以上13μm以下の波長帯域でみれば、高酸素シリコンの透過率は、波長約9μm付近で最低となり、その最低透過率は40%を下回る。一方、
図2に実線で示すように、1mm厚の低酸素シリコンは、高酸素シリコンよりも酸素濃度を低下したことにより、波長約9μm付近の赤外線の透過率が上がり、波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率は40%以上になる。低酸素シリコンが、高酸素シリコンに対してどの程度赤外線の吸収(特に波長9μm付近の赤外線の吸収)抑えることができるかは、低酸素シリコンの酸素濃度によるが、少なくとも波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率が40%以上になっていれば、赤外線用結像レンズ10に使用可能である。
【0025】
低酸素シリコンは、例えば、CZ法において、酸素濃度を制御することにより安価に得ることができる。低酸素シリコンは、より高価なFZ法によって得ることも可能ではあるが、同様の特性であれば、最も安価な方法で製造するのが通常である。したがって、低酸素シリコンは従来の赤外線用硝材よりも安価である。
【0026】
なお、
図3に示すように、低酸素シリコン(実線)及び高酸素シリコン(破線)に、それぞれ同じ反射防止コーティングを施すと、各々の硝材としての赤外線の透過率(
図2参照)に対して、どちらも全体的に透過率が向上する。このため、反射防止コーティングを施せば、高酸素シリコン(破線)でも、波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率を40%以上にすることができる。しかし、反射防止コーティングによって、透過率が向上する波長帯域や透過率の向上の程度は、反射防止コーティングの性能による。また、波長約9μm付近の赤外線の吸収が顕著であるという硝材自体の特性には変わりがない。
【0027】
このため、「波長8μm以上13μm以下の赤外線の最低透過率を40%以上である」という条件は、あくまでも第1レンズL1の硝材自体の特性に関する条件であり、反射防止コーティングの性能を含まない。但し、これは実際に赤外線用結像レンズ10を構成する際に、第1レンズL1に反射防止コーティングを施してはならないということではなく、第1レンズL1は当然に低酸素シリコンに反射防止コーティングを施して形成する。具体的には、赤外線用結像レンズ10では、第1レンズL1の物体側の面S1及び像側の面S2、またはこれらのうちいずれか一方の面に反射防止コーティングを施してある。このため、第1レンズL1は、例えば
図3の実線で示す透過率特性を有する。
【0028】
第1レンズL1を形成する低酸素シリコンは結晶であり、インゴット等から切り出して研削して使用することにより、酸素飽和度が低い状態を保つ。このため、第1レンズL1は、モールド成形等の加熱加圧による非球面形成はできず、第1レンズL1の物体側の面S1または像側の面S2を非球面にする場合には、研削により非球面を形成する必要がある。しかし、研削により非球面を形成すると第1レンズL1がコストアップし、その結果、赤外線用結像レンズ10を安価に製造することができなくなる。したがって、赤外線用結像レンズ10では、第1レンズL1を球面レンズとしている。すなわち、第1レンズL1は、物体側の面S1が球面であり、かつ、像側の面S2が球面である。
【0029】
また、第1レンズL1は、赤外線用結像レンズ10の保護部材(例えばカバーガラス)を兼ねている。すなわち、赤外線用結像レンズ10は監視カメラや車載カメラ等の過酷な環境で使用するが、第1レンズL1よりも前に保護部材を置いて赤外線用結像レンズ10を保護する必要がない。
【0030】
例えば、カルコゲナイドガラスは脆く、耐候性等も低いので、少なくとも最も物体側のレンズをカルコゲナイドガラスで形成した従来の赤外線量結像レンズは、赤外線量結像レンズの前に保護部材を置いて赤外線用結像レンズ(特に、最も物体側のカルコゲナイドガラスで形成したレンズ)を保護する必要がある。保護部材は、例えば、レンズとしてのパワーを有しない平行平板である。但し、保護部材は、撮影に必要な赤外線を十分に透過しなければならないので、保護部材にも、耐候性等が良い高価な赤外線用硝材等を使用する必要がある。このように保護部材に高価な材料を使用しなければならない点も、従来の赤外線用結像レンズのコストアップの原因の一つになっている。これに対し、赤外線用結像レンズ10では、最も物体側に位置する第1レンズL1が低酸素シリコンという耐候性等が高く、かつ、安価な材料でできているので、従来の赤外線用結像レンズに必要な高価な保護部材を使用しなくて済む。その結果、赤外線用結像レンズ10は従来の赤外線用結像レンズよりも安価に構成できる。
【0031】
第2レンズL2は、カルコゲナイドガラスで形成したレンズである。カルコゲナイドガラスとは、酸素(O)の代わりに、硫黄(S)やセレン(Se)、テルル(Te)といったカルコゲン元素と呼ばれる互いに性質の似通った一連の元素の少なくとも1つを主成分として含むガラスである。カルコゲナイドガラスは、種々の赤外線用硝材の中でも比較的安価であること。このため、赤外線用結像レンズ10は、第2レンズL2をカルコゲナイドガラスで形成したことで、赤外線用結像レンズ10全体としても安価な構成にしている。
【0032】
また、カルコゲナイドガラスは、モールド成形によって容易に非球面を形成することができる。このため、赤外線用結像レンズ10では、カルコゲナイドガラスで形成した第2レンズL2を非球面レンズにすることで、赤外線用結像レンズ10の各種収差を補正し、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成した場合でも、赤外線用結像レンズ10全体として必要な結像性能が得られるようにしている。より具体的には、第2レンズL2は、物体側の面S4が非球面であり、かつ、像側の面S5が非球面である。このように、第2レンズL2の両面を非球面とすることで、第1レンズL1を低酸素シリコンによって形成し、かつ、第1レンズL1の両面を球面とした場合でも、良好な結像性能が得られやすい。
【0033】
さらに、第2レンズL2の物体側の面S4は、回折面になっている。これは色収差の補正のためである。なお、回折面によって色収差を補正する場合、回折面はできる限り絞りS3の近くにある方がより良好に色収差を補正できる。このため、赤外線用結像レンズ10では、回折面を形成し得る第2レンズL2の物体側の面S4及び像側の面S5のうち、より絞りS3に近い物体側の面S4を回折面にしている。
【0034】
この他、赤外線用結像レンズ10が、第1レンズL1と第2レンズL2の間に絞りS3を有し、第1レンズL1を物体側に凸のメニスカスレンズとし、かつ、第2レンズL2を像側に凸のメニスカスレンズとしている。これは、2枚構成のレンズ系では絞りS3に対して対象な凹凸配置とすることで、各種収差を良好に補正しやすいからである。この配置により、特に第1レンズL1を球面レンズとしたことで発生する像面湾曲を良好に補正することができる。
【0035】
また、赤外線用結像レンズ10は、全系の焦点距離をf、第1レンズL1の焦点距離をf1とする場合に、
(式1) 1.1≦f1/f≦1.6
を満たすようにしてある。この式1の条件を満たすことで、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成した球面レンズとしたことで増大しやすい像面湾曲を改善しやすくなる。少なくとも、この第1レンズL1の構成に起因する像面湾曲を第2レンズL2の各非球面によって良好に補正し得る範囲内に抑えることができる。
【0036】
赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1の中心厚をD1、第2レンズL2の中心厚をD4とする場合に、
(式2) 1.6≦D4/D1≦6.0
を満たすようにしてある。この式2の条件を満たすことで、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成した球面レンズとしたことで増大しやすい球面収差を改善しやすくなる。少なくとも、この第1レンズL1の構成に起因する球面収差を第2レンズL2の各非球面によって良好に補正し得る範囲内に抑えることができる。
【0037】
また、赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1の物体側の面S1の曲率半径をR1、第1レンズL2の像側の面S2の曲率半径をR2とする場合に、
(式3) 1.25≦R2/R1≦1.70
を満たすようにしてある。この式3の条件を満たすことで、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成した球面レンズとしたことで増大しやすい像面湾曲を改善しやすくなる。少なくとも、この第1レンズL1の構成に起因する像面湾曲を第2レンズL2の各非球面によって良好に補正し得る範囲内に抑えることができる。
【0038】
また、赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1の焦点距離をf1、第1レンズL1の像側の面S2と第2レンズL2の物体側の面S4との距離をΔとする場合に、
(式4) 2.4≦f1/Δ≦3.2
を満たすようにしてある。f1/Δが式4の下限値よりも小さい場合(f1/Δ<2.4)、第1レンズL1の構成に起因した像面湾曲が増大する。f1/Δが式4の上限値よりも大きい場合(3.2<f1/Δ)、第1レンズL1の構成に起因した球面収差が増大する。したがって、f1/Δが上記式4の範囲外である場合、第2レンズL2を非球面レンズにしても、像面湾曲または球面収差を良好に補正できない場合がある。すなわち、f1/Δが上記式4の範囲内に収まるようにしておけば、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成し、かつ、球面レンズにしても、その欠点である球面収差及び像面湾曲の両収差の増大を両方同時に抑えやすくなる。第1レンズL1の構成に起因した球面収差及び像面湾曲を、少なくとも第2レンズL2の非球面によって良好に補正し得る範囲内に収めることができる。
【0039】
赤外線用結像レンズ10のように、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成し、かつ、球面レンズとする場合には、上記式1〜式4の条件は少なくともいずれか1つを満たすことが好ましく、式1〜式4の全ての条件を満たすことが特に好ましい。
【0040】
上記のように、赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成し、第2レンズL2をカルコゲナイドガラスで形成したことで、従来の赤外線用結像レンズよりも安価である。そして、赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1の両面を球面にしたことや、第2レンズL2の両面を非球面にしたこと、絞りS3に対して対象な凹凸構成としたこと、または、第2レンズL2の物体側の面S4を回折面にしたことにより、安価かつ良好な結像性能を有する。また、式1〜式4の条件を満たすようにしたことで、安価にするために第1レンズL1を低酸素シリコンで形成し、かつ、球面レンズにしたことによるデメリットを改善して良好な結像性能が得られるようになっている。
【0041】
[実施例]
以下、上記赤外線用結像レンズ10の実施例を説明する。
図4は、実施例1の赤外線用結像レンズ10の断面図を示す。面番号は第1レンズL1の物体側の面S1から順にSi(i=1〜8)で示す。S3は絞りであり、S6はカバーガラスCGの物体側の面であり、S7はカバーガラスCGの像側の面であり、S8はイメージセンサ11の撮像面である。面間隔Di(i=1〜7、単位mm)は、面Siから面Si+1の間隔である。
【0042】
また、実施例1のレンズデータを下記表1〜表3に示す。表1は実施例1の赤外線用結像レンズ10の各面Siの面番号i、各面Siの曲率半径Ri(i=1〜8、単位mm)、面間隔Di、波長10μmの赤外線に対する屈折率ni(i=1〜7)、及び、第1レンズL1及び第2レンズL2の材料を示す。また、面番号Siに付した「*」印は非球面であることを表し、「#」印は回折面であることを表す。「*」印及び「#」印がない曲面は全て球面である。
【0044】
非球面は、下記数1の非球面式によって表される。数1の非球面式において、「Z」は非球面の深さ(mm)、「h」は光軸からレンズ面までの距離(mm)、「C」は近軸曲率(すなわち近軸曲率半径をR(mm)とする場合にC=1/Rである)、「K」は円錐定数、「Ai」は非球面係数である。表2には、実施例1の各非球面(表1*印参照)の「K」及び「Ai」を示す。
【0047】
回折面は、下記数2の光路差関数φにより表される。光路差関数φは、回折面が光路長差の負荷量を光軸からの距離「r」において、「r」は光軸からの距離(mm)であり、「Cn」(n=1〜10)は回折面係数である。表3には、実施例1の回折面(表1#印参照)の回折面係数Cnを示す。
【0050】
また、
図5(A)は実施例1の波長8μm、波長10μm、及び波長12μmの各赤外線について球面収差を示す。
図5(B)は、波長10μmの赤外線について、実施例1のサジタル(ラジカル)方向の非点収差Sと、タンジェンシャル(メリジオナル)方向の非点収差Tを示す。
図5(C)は、波長10μmの赤外線について、実施例1のディストーションを示す。なお、実施例1の赤外線用結像レンズ10は、QVGA(320×240)17μmピッチのイメージセンサ11に使用するレンズであるため、最大像高は3.4
1mmである。
【0051】
図6には、実施例1の赤外線用結像レンズ10について、空間周波数に対する軸上(像高0.0mm)のMTF(Modulation Transfer Function)と、像高3.4mmにおけるタンジェンシャル方向のMTF(符号T)とラジアル方向のMTF(符号R)を示す。
【0052】
上記実施例1と同様に、実施例2〜6の赤外線用結像レンズ10の断面図、各種レンズデータ、各種収差、及びMTFを、
図7〜
図27及び表4〜表24に示す。但し、実施例2の赤外線用結像レンズ10は、QVGA(320×240画素)17μmピッチのイメージセンサ11に使用するレンズであり、最大像高は3.41mmである。実施例3及び実施例4の赤外線用結像レンズ10は、QVGA(320×240画素)12μmピッチのイメージセンサ11に使用するレンズであり、最大像高は2.41mmである。実施例5及び実施例6の赤外線用結像レンズ10は、QVGA(384×288画素)17μmピッチのイメージセンサ11に使用するレンズであり、最大像高は4.09mmである。実施例7の赤外線用結像レンズ10は、QVGA(320×240画素)12μmピッチのイメージセンサ11に使用するレンズであり、最大像高は2.41mmである。実施例8の赤外線用結像レンズ10は、QVGA(320×240画素)12μmピッチのイメージセンサ11に使用するレンズであり、最大像高は2.40mmである。
【0074】
下記表25及び表26には、上記実施例1〜8のF値(FNo)等のその他の性能、式1〜式4の各値を算出するためのパラメータのうち上記レンズデータに記載していないパラメータ、及び、式1〜式4の各値を示す。「f」は赤外線用結像レンズ10の全系の焦点距離、「f1」は第1レンズL1の焦点距離、「D1」(S1とS2の面間隔)は第1レンズL1の中心厚、「D4」(S4とS5の面間隔)は第2レンズL2の中心厚である。「Δ」は第1レンズL1の像側の面S2と第2レンズL2の物体側の面S4との距離、すなわち、上記レンズデータの面間隔D2と面間隔D3の合計である。MTFは、各欄に示す解像度(LP/mm(Line Pairs per milimeter))におけるMTFである。表25及び表26から分かる通り、実施例1〜8の各赤外線用結像レンズ10は、いずれも式1〜式4の条件を満たす。また、表25及び表26と、上記各実施例の収差図及びMTFのグラフから分かる通り、実施例1〜8の各赤外線用結像レンズ10は、第1レンズL1を低酸素シリコンで形成し、かつ、両面を球面としたにもかかわらず、良好な結像性能を有する。
【0077】
[比較例]
特許文献1〜4に記載された各実施例の従来の赤外線用結像レンズは、従来の高価な赤外線用硝材のみを使用するレンズであるため単純に本発明の赤外線用結像レンズ10と比較することはできないが、本発明の赤外線用結像レンズ10と同様に2枚構成の赤外線用結像レンズであるため、以下、比較例として説明する。
【0078】
まず、特許文献1の実施例1(以下、比較例1という)〜実施例5(以下、比較例5という)の赤外線用結像レンズは絞りがなく、表27に示すように、第1レンズ及び第2レンズは全てカルコゲナイドガラスで形成されている。そして、式1〜式4の条件については、太字及び下線で示すように、一部の条件を偶然に満たす場合があるが、全実施例で式1〜式4の条件を満たすわけではないことから、特許文献1では、赤外線用結像レンズが式1〜式4の条件を意図的に満たすようには構成していないことが分かる。
【0080】
特許文献2の実施例1(以下、比較例6という)〜実施例7(以下、比較例12という)の赤外線用結像レンズは、最前面が実質的な絞りとなっており、表28に示すように、第1レンズ及び第2レンズはカルコゲナイドガラスまたは硫化亜鉛(ZnS)で形成されている。そして、式1〜式4の条件については、太字及び下線で示すように、一部の条件を偶然に満たす場合があるが、全実施例で式1〜式4の条件を満たすわけではないことから、特許文献2も、赤外線用結像レンズが式1〜式4の条件を意図的に満たすように構成していないことが分かる。
【0082】
特許文献3の実施例1(以下、比較例13という)〜実施例12(以下、比較例24という)の赤外線用結像レンズは、最前面が実質的な絞りとなっており、表29及び表30には、第1レンズ及び第2レンズはカルコゲナイドガラス、ゲルマニウム(Ge)、またはジンクセレン(ZnSe)で形成されている。式1〜式4の条件については、太字及び下線で示すように、一部の条件を偶然に満たす場合があるが、全実施例で式1〜式4の条件を満たすわけではないことから、特許文献3もまた、式1〜式4の条件を意図的に満たすようには赤外線用結像レンズを構成していないことが分かる。
【0085】
また、特許文献4の実施例1(以下、比較例25という)及び実施例2(以下、比較例26という)の赤外線用結像レンズは絞りがなく、表31に示すように、第1レンズ及び第2レンズは全てカルコゲナイドガラスで形成されている。特許文献4の赤外線用結像レンズは、式1〜式4の条件を部分的にも満たさない。
【0087】
上記のように、従来の赤外線用結像レンズが式1〜式4の条件を満たすように構成されていないのは、式1〜式4が、本発明の赤外線用結像レンズ10のように2枚構成のレンズ系で、第1レンズを低酸素シリコンで形成し、かつ、球面レンズとした場合に特有の条件であり、第1レンズ及び第2レンズに従来の高価な赤外線用硝材を使用する従来の赤外線用結像レンズは式1〜式4を満たすように構成する必要がないからである。
【0088】
なお、上記実施形態及び実施例は、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例に挙げた赤外線用結像レンズ10以外にも、曲率半径や屈折率、その他レンズデータを変えて、形状や配置及び結像性能が赤外線用結像レンズ10と同等の赤外線用結像レンズを構成することができる。