(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
相対的に移動する被塗工物上に塗工液を塗工するダイを備えた塗工装置であって、
前記ダイは、前記塗工液が流入される流入口を有し該流入口から流入された前記塗工液を前記被塗工物の幅方向における少なくとも一方の端部に送るマニホールドと、該マニホールドと連通しつつ前記ダイの先端縁において開口を有するスロットとを有し、
前記マニホールドの前記幅方向に視た断面の形状及び大きさは、前記幅方向にわたって同じであり、
前記スロットの開口は、前記被塗工物の幅方向に沿って延在しており、
前記開口における前記塗工液が前記スロットから吐出される領域の前記幅方向の端または中央が原点とされ、該原点から前記開口に沿い且つ前記塗工液が送られる端部に向かう方向にx軸、前記原点から前記x軸と垂直な方向にy軸とされるとき、
前記マニホールドの前記スロット側の端縁が、下記数式(1)で表される二次曲線が描く形状に形成されており、
前記流入口から前記マニホールドに流入した前記塗工液が、x軸方向における前記端縁の複数の流出位置から前記スロットに流出し、前記スロット内を前記y軸と平行に通過して前記開口の複数の吐出位置から吐出される各仮想経路を辿ると仮定され、且つ、前記原点からm番目(mは0以上の整数)の前記仮想経路において、前記原点から前記吐出位置までの距離がx
m[m]、前記流入口から前記開口までの前記塗工液の全圧力損失がΔP
m[Pa]、前記流出位置と前記吐出位置との距離がL
m[m]と表されるとき、
前記ΔP
mと前記L
mとの関係が下記数式(2)、(3)で表され、
前記数式(2)、(3)を満たしつつ前記各仮想経路での各ΔP
mが前記各仮想経路間で互いに同じ値になるように各L
mが算出され、算出された各L
mと該各L
mに対応する前記x
mとの関係がプロットされたグラフの二次近似曲線として、前記二次曲線が決定されるように構成された、塗工装置。
【数1】
A、B、C:係数[−]
【数2】
W :塗工幅[m]
Q
1:マニホールドに流入する塗工液の流量[m
3/s]
Q
2:スロット以外にマニホールドから流出される塗工液の流量[m
3/s]
S :スロットから吐出される塗工液の流束(S=(Q
1−Q
2)/W)[m
2/s]
h :スロット高さ[m]
R :マニホールドの半径[m]
n
c:マニホールド内の塗工液の第1の粘度パラメータ[−]
η
c:マニホールド内の塗工液の第2の粘度パラメータ[−]
n
s:スロット内の塗工液の第1の粘度パラメータ[−]
η
s:スロット内の塗工液の第2の粘度パラメータ[−]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような塗工装置では、マニホールドのスロット側の端縁の形状を適切に決定することに多大な労力や時間がかかるおそれがあり、ひいては、決定できないおそれもある。そうすると、塗工液の厚みが幅方向に変動することを十分に抑制できないことにつながる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜を、効率的に形成し得る塗工装置及び塗工膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、以下の知見を見出した。
すなわち、マニホールドに流入した塗工液は、マニホールド内を移動し、移動した各位置からスロットに流出して該スロットを最短距離で通過して該スロットの開口の各位置から吐出される各仮想経路を辿り、スロットから吐出される塗工液は、各仮想経路を辿ってスロットの開口から吐出される塗工液の集合であると仮定する。また、各仮想経路におけるスロットの開口での各流束は幅方向にわたって各仮想経路間で互いに同じ値であると仮定する(例えば
図6において、S
0=S
1=S
2・・・=S
M)。
各仮想経路を辿ってスロットの開口から吐出される塗工液の全圧力損失は、物理学の一般常識より、各仮想経路間で等しくなる。
よって、上記流出位置と上記吐出位置との距離(マニホールドのスロット側の端縁とスロットの開口との距離、すなわち、スロット長さ)と、既知のパラメータとを用いて、上記流束に関する仮定のもと、各仮想経路での全圧力損失を数式化することが可能になれば、各仮想経路における全圧力損失が各仮想経路間で互いに同じ値となるように、各位置における各スロット長さを算出することが可能となる。
そして、算出された各スロット長さを各吐出位置ごとにプロットしたグラフを作成し、このグラフから二次近似曲線を算出し、算出された二次近似曲線に沿った形状となるように、マニホールドのスロット側の端縁を形成し、且つ、マニホールドの幅方向に視た断面の形状及び大きさを幅方向にわたって同じとなるように形成することによって、スロットから吐出される塗工液の流束を、スロット全体(被塗工物の幅方向全体)にわたって同じ値に近づけることができる。
このように、各仮想経路間において流束が互いに同じ値であり、マニホールドの断面の形状及び大きさが幅方向にわたって同じであるとの仮定のもとに算出された数式を用いて、各仮想経路の全圧力損失が一定となるような各スロット長さを決定し、決定された各スロット長さから得られた二次近似曲線に沿った形状となるようにマニホールドとスロットとが形成されたダイを用いることによって、幅方向にわたって厚みの変動が少ない塗工膜を形成し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る塗工装置は、
相対的に移動する被塗工物上に塗工液を塗工するダイを備えた塗工装置であって、
前記ダイは、前記塗工液が流入される流入口を有し該流入口から流入された前記塗工液を前記被塗工物の幅方向における少なくとも一方の端部に送るマニホールドと、該マニホールドと連通しつつ前記ダイの先端縁において開口を有するスロットとを有し、
前記マニホールドの前記幅方向に視た断面の形状及び大きさは、前記幅方向にわたって同じであり、
前記スロットの開口は、前記被塗工物の幅方向に沿って延在しており、
前記開口における前記塗工液が前記スロットから吐出される領域の前記幅方向の端または中央が原点とされ、該原点から前記開口に沿い且つ前記塗工液が送られる端部に向かう方向にx軸、前記原点から前記x軸と垂直な方向にy軸とされるとき、
前記マニホールドの前記スロット側の端縁が、下記数式(1)で表される二次曲線が描く形状に形成されており、
前記流入口から前記マニホールドに流入した前記塗工液が、x軸方向における前記端縁の複数の流出位置から前記スロットに流出し、前記スロット内を前記y軸と平行に通過して前記開口の複数の吐出位置から吐出される各仮想経路を辿ると仮定され、且つ、前記原点からm番目(mは0以上の整数)の前記仮想経路において、前記原点から前記吐出位置までの距離がx
m[m]、前記流入口から前記開口までの前記塗工液の全圧力損失がΔP
m[Pa]、前記流出位置と前記吐出位置との距離がL
m[m]と表されるとき、
前記ΔP
mと前記L
mとの関係が下記数式(2)、(3)で表され、
前記数式(2)、(3)を満たしつつ前記各仮想経路での各ΔP
mが前記各仮想経路間で互いに同じ値になるように各L
mが算出され、算出された各L
mと該各L
mに対応する前記x
mとの関係がプロットされたグラフの二次近似曲線として、前記二次曲線が決定されるように構成されている。
【0010】
【数1】
A、B、C:係数[−]
【0011】
【数2】
W :塗工幅[m]
Q
1:マニホールドに流入する塗工液の流量[m
3/s]
Q
2:スロット以外にマニホールドから流出される塗工液の流量[m
3/s]
S :スロットから吐出される塗工液の流束(S=(Q
1−Q
2)/W)[m
2/s]
h :スロット高さ[m]
R :マニホールドの半径[m]
n
c:マニホールド内の塗工液の第1の粘度パラメータ[−]
η
c:マニホールド内の塗工液の第2の粘度パラメータ[−]
n
s:スロット内の塗工液の第1の粘度パラメータ[−]
η
s:スロット内の塗工液の第2の粘度パラメータ[−]
【0012】
かかる構成によれば、マニホールドの幅方向に視た断面の形状及び大きさが幅方向にわたって同じであるとの仮定、及び、各仮想経路間においてスロットの開口から吐出される塗工液の流束が互いに同じ値であるとの仮定のもとで導出された上記数式(2)、(3)を用いることによって、既知のパラメータと、未知の、上記流出位置と上記吐出位置(すなわち、開口)との距離(スロット長さ)L
mと、によって表される各ΔP
mが各仮想経路間で互いに同じ値となるように各L
mが算出され、算出された各L
mに基づいて、二次近似曲線が決定される。そして、この二次近似曲線に沿うようにマニホールドのスロット側の端縁が形成され、かかる端縁に合わせて、幅方向に視た断面の形状及び大きさが前記幅方向にわたって同じとなるようにマニホールドが形成される。
このようにマニホールドが形成されることによって、スロットの開口から吐出される塗工液の流量を、被塗工物の幅方向にわたって同じ値に近づけることができるため、形成される塗工膜の厚みの変動を幅方向にわたって抑制し得る。
また、既知のパラメータから上記二次近似曲線を決定できるため、効率的である。
よって、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜を、効率的に形成し得る。
【0013】
本発明に係る塗工膜の製造方法は、前記塗工装置を用いて、相対的に移動する被塗工物上に塗工液を吐出して塗工膜を形成する工程を備える。
【0014】
かかる構成によれば、上記塗工装置を用いるため、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜を、効率的に形成し得る。
【発明の効果】
【0015】
以上の通り、本発明によれば、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜を、効率的に形成し得る塗工装置及び塗工膜の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の一実施形態の塗工装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1、
図2及び
図3に示すように、本実施形態の塗工装置1は、相対的に移動する被塗工物31上に塗工液33を塗工するダイ5を備えた塗工装置1である。このようにダイを備えた塗工装置1は、ダイコーターと呼ばれる。
前記ダイ5は、前記塗工液33が流入される流入口10を有し該流入口10から流入された前記塗工液33を前記被塗工物31の幅方向における両端部9a、9bのうち少なくとも一方の端部に送るマニホールド9と、該マニホールド9と連通しつつ前記ダイ5の先端縁5aにおいて開口8aを有するスロット8と、外部からの塗工液33を流入口10に送る経路を構成する供給部11とを有する。
本実施形態では、流入口10がマニホールド9の一方の端部(第1の端部)9aに形成され、該流入口10から流入された塗工液33が他方の端部(第2の端部)9bに向かって送られるように構成されている。
【0019】
塗工装置1は、さらに、ダイ5によって塗工された塗工液33を、固化させて各塗工膜35を形成する固化部17を備えている。なお、塗工装置1は、固化部17を備えていなくてもよい。
【0020】
塗工装置1は、さらに、被塗工物31を表面で支持しつつ、該被塗工物31の長手方向において前記ダイ5に対して相対的に移動させる支持部15を備えている。なお、塗工装置1は、支持部15を備えていなくてもよい。
【0021】
被塗工物31としては、特に限定されないが、例えば、帯状のシート部材等が挙げられる。
かかるシート部材としては、例えば、樹脂フィルムが挙げられる。また、樹脂フィルムとしては、例えば、東レ社製のルミラー(登録商標)等が挙げられる。
【0022】
支持部15は、長手方向に移動する被塗工物31を、ダイ5の反対側から支持するものである。支持部15に支持されてダイ5に対して相対的に移動する被塗工物31に、ダイが塗工される。
かかる支持部15としては、ローラ等が挙げられる。
【0023】
本実施形態では、支持部15は、ダイ5のスロット8と対向する位置において、該スロット8に対して、被塗工物31を相対的に一方(
図1の下方)から他方(
図1の上方)に移動させるようになっている。
【0024】
固化部17は、塗工液33を固化させて塗工膜35を形成するように構成されている。この固化部17によって固化されることにより、固化された塗工膜35が形成される。固化部17は、塗工液33を固化させ得るものであればよく、特に限定されない。かかる固化部17は、塗工液33の種類等に応じて適宜設定される。
【0025】
ダイ5は、スロット8から塗工液33を吐出して、相対的に移動している被塗工物31上に塗工膜35を塗工するようになっている。
ダイ5は、スロット8が側方を向くように配されており、スロット8に対して相対的に上下方向に移動している被塗工物31に塗工液33を吐出するようになっている。ダイ5には、塗工液33の収容部(不図示)から、配管(不図示)及びポンプ(不図示)を介して塗工液33が供給されるようになっている。なお、ダイ5は、スロット8が下方または上方を向くように配されていてもよい。
【0026】
具体的には、ダイ5は、上流側の第1のダイブロック6と、第1のダイブロック6と対向して配された下流側の第2のダイブロック7とを備える。ダイ5は、第1のダイブロック6と第2のダイブロック7とを合掌させることによって形成されている。このように両ダイブロック6、7を合掌させることによって、これらの間には、ポンプ(不図示)によって供給された塗工液33が溜められるマニホールド9と、該マニホールド9から先端縁に向かって配されたスロット8と、供給部11とが形成されている。また、第1のダイブロック6の先端縁と第2のダイブロック7の先端縁との間の隙間が、スロット8の開口8a(吐出口)となっている。開口8aは、被塗工物31の幅方向に沿って延在している。
【0027】
図1では、ダイ5においては、シムを備えることなく、第1のダイブロック6と第2のダイブロック7とが合掌される態様を示すが、その他、シムを介して第1のダイブロック6と第2のダイブロック7とが合掌される態様を採用してもよい。
【0028】
第1のダイブロック6の先端縁と第2のダイブロック7の先端縁とは、支持部15の径方向と垂直な平面上に位置するように配されている。スロット8は、支持部15の法線方向と平行に配されている。
【0029】
マニホールド9は、その被塗工物31の幅方向に視た断面の形状及び大きさが、該幅方向全体にわたって同じであるように形成されている。
かかるマニホールド9の断面の形状は、特に限定されないが、例えば、後述する
図9に示すように、円形状、半円形状、涙形状等の形状であってもよい。マニホールド9の断面の大きさも、特に限定されない。
マニホールド9の断面の半径については、後述する。
【0030】
本実施形態の塗工装置1においては、マニホールド9における幅方向の第1の端部9aに流入口10が形成され、該1の端部9aから第2の端部9bに向かって塗工液33が送られる。また、マニホールド9が形成されているダイブロック(ここでは第1のダイブロック)6の該マニホールド9が形成されている面をこれと垂直な方向から視るとき、スロット8の開口8aにおける塗工液33がスロット8から吐出される領域(塗工領域)Fの幅方向の端が原点Oとされ、該原点Oから前記開口8aに沿い且つ前記塗工液33が送られる第2の端部9bに向かう方向にx軸、前記原点から前記x軸と垂直な方向にy軸とされる(
図4、
図6、
図7参照)。
【0031】
なお、塗工領域Fの幅方向の端は、塗工領域Fにおける被塗工物31の幅方向の端である。また、この端は、塗工領域Fにおける流入口10に近い側の端である。
【0032】
また、
図4、
図6及び
図7に示すように、流入口10からマニホールド9に流入した塗工液33が、端縁9cにおけるx軸方向の複数の流出位置からスロット8に流出し、スロット8内をy軸と平行に通過して開口8aの複数の吐出位置から吐出される各仮想経路K(ここではK
0〜K
M、ただし、Mは1以上の整数)を辿ると仮定され、且つ、上記原点Oからm番目(mは0以上の整数)の仮想経路K
mにおいて、上記原点Oから吐出位置までの距離がx
m[m]、流入口10から開口8aまでの全圧力損失がΔP
m[Pa]、上記流出位置と上記吐出位置との距離(スロット長さ)がL
m[m]と表される。
このとき、ΔP
mとL
mとの関係が下記数式(2)、(3)で表され、数式(2)、(3)を満たしつつ各仮想経路K
mでの各ΔP
mが仮想経路K
m間で互いに同じ値になるように各L
mが算出され、算出された各L
mと、各仮想経路Kでのx
mとの関係がプロットされたグラフの二次近似曲線として、上記二次曲線が決定されるように構成されている。
【0034】
【数4】
W :塗工幅[m]
Q
1:マニホールドに流入する塗工液の流量[m
3/s]
Q
2:スロット以外にマニホールドから流出される塗工液の流量[m
3/s]
S :スロットから吐出される塗工液の流束(S=(Q
1−Q
2)/W)[m
2/s]
h :スロット高さ[m]
R :マニホールドの半径[m]
n
c:マニホールド内の塗工液の第1の粘度パラメータ[−]
η
c:マニホールド内の塗工液の第2の粘度パラメータ[−]
n
s:スロット内の塗工液の第1の粘度パラメータ[−]
η
s:スロット内の塗工液の第2の粘度パラメータ[−]
【0035】
上記数式(1)、数式(2)、(3)について、以下、説明する。
【0036】
数式(1)で示される二次曲線は、この二次曲線に沿ってマニホールド9のスロット側の端縁9cの形状が形成されるものである。
かかる二次曲線の導出、すなわち、係数A、B及びCの決定については、後述する。
【0037】
数式(2)、(3)は、下記の仮定に基づいて算出される式である。
すなわち、マニホールド9に流入した塗工液33が、端縁9cにおけるx軸方向の複数の流出位置から前記スロット8に流出し、スロット8内をy軸と平行に通過して開口8aの複数の吐出位置から吐出される各仮想経路Kを辿ると仮定される。
かかる数式(2)、(3)は、上記原点Oからm番目の仮想経路K
mにおける吐出位置の、該原点Oからの距離がx
m[m]、流入口10から開口8aまでの全圧力損失がΔP
m[Pa]、流出位置と吐出位置との距離(スロット長さ)がL
m[m]と表されるとき、このΔP
mとL
mとの関係を表す数式である。数式(2)、(3)において、スロット高さは、スロット8の開口8aの幅方向と垂直な方向における間隔である。
なお、原点O(x
0[m])から、0番目の吐出位置は原点自身、1番目の吐出位置はx
1[m]離れ、2番目の吐出位置はx
2[m]離れ、・・・、m番目の吐出位置は、x
m[m]離れている。各吐出位置同士は、互いに等間隔で離れていても、異なる間隔で離れていてもよい。同様に、各流出位置同士も、互いに等間隔で離れていても、異なる間隔で離れていてもよい。
【0038】
本実施形態では、各流出位置及び各吐出位置を通る各仮想経路K
mでのΔP
mについて、数式(2)、(3)を満たしつつ各ΔP
mが各仮想経路K
m間で互いに同じ値になるように各L
mが算出される。
また、算出された各L
mと、これに対応する各x
mとの関係がプロットされたグラフが作成される。
そして、作成されたグラフの二次近似曲線が、マニホールド9の上記端縁9cが描く二次曲線として決定される。
【0039】
数式(2)、(3)の導出について説明する。
物理法則の一般常識から、
図4に示すように、ダイ5のスロット8から塗工液33が吐出されているとき、スロット8の幅方向における吐出位置によらず、流入口10から、スロット8の開口8aまでの塗工液33の全圧力損失が、各仮想経路間において等しくなると仮定すると、任意のm番目の経路において、下記数式(3)が成り立つ。
(全圧力損失ΔP
m)=(マニホールド内の圧力損失ΔP
cm)+(スロット内の圧力損失ΔP
sm)・・・(3)
【0040】
幅方向におけるスロット8の位置によらず全圧力損失は等しくなるという上記仮定により、流入口10から流入しスロット8から吐出される塗工液33の全圧力損失ΔPは、下記数式(4)、(5)のように表され、具体的には、下記数式(6)のように表される。なお、マニホールド9内のy軸方向の圧力損失は0である。また、iは、1以上m以下の整数である。
【0043】
一般に、液のせん断速度と粘度との関係は、2つの粘度パラメータを用いて、下記数式(7)によって表される。
【0045】
塗工液33について、せん断速度と粘度との関係を求めると、
図5に示されるようなグラフが得られる。
ここで、予め、マニホールド9を通過している部分のせん断速度に相当するグラフの領域と、スロット8を通過している部分のせん断速度に相当するグラフの領域とを調べると、例えば、
図5のグラフの2つの領域として示される。すなわち、この2つの領域において、それぞれ、上記数式(7)のせん断速度と粘度との関係が成り立つ。
このことから、塗工液33がマニホールド9を通過する際のせん断速度と粘度との関係は、下記数式(8)によって表され、塗工液33がスロット8を通過する際のせん断速度と粘度との関係は、下記数式(9)によって表される。
【0048】
そして、マニホールド9の幅方向に視た断面の形状及び大きさが幅方向にわたって同じであるとの仮定、及び、スロット8の開口8aから吐出される塗工液の流束が幅方向にわたって同じである(すなわち、S
0〜S
Mが同じ値である)との仮定のもと、数式(6)に基づいて、各仮想経路K
mでの全圧力損失ΔP
mを、上記粘度パラメータといった既知のパラメータと、未知のスロット長さ(端縁9cと開口8aとの距離)L
mとを用いて数式化することによって、上記数式(2)、(3)が得られる。
【0049】
数式(2)、(3)においては、0番目からM番目までの各仮想経路K
m(K
0、K
1、・・・K
M)について、スロット8内の圧力損失ΔP
sm、マニホールド9内の圧力損失ΔP
cm、全圧力損失ΔP
m(スロット8内の圧力損失ΔP
smとマニホールド9内の圧力損失ΔP
cmとの合計であり、
図4では、P
IN−P
outm=ΔP
mである。)は、
図4に示され、開口8aから吐出される塗工液33の流束S
mは、
図6のように示され、スロット長さL
mは、
図7のように表される。
そして、全圧力損失ΔP
mが各仮想経路K
m間で互いに同じ値であるとの上記仮定に従って、各仮想経路K
mでの全圧力損失ΔP
mが各仮想経路K
m間で互いに同じ値となるような各スロット長さL
mを、算出する。この算出は、例えば、従来公知の表計算ソフトウェア(例えば、マイクロソフト社製「MICROSOFT EXCEL(登録商標)」)のアドインであるソルバーを用いて行われる。ここで、互いに同じ値であるとは、互いの値の差(誤差)の程度を示す誤差関数が最小となるような互いの値であることを意味する。
【0050】
なお、
図4、
図6、
図7では、数式(2)、(3)を用いてL
mを算出する前において最初に設定される端縁9cの形状を、被塗工物31の幅方向(x軸方向)に直線状に延びる形状に設定する態様について示す。しかし、最初に設定される端縁9cの形状は、特に限定されるものではなく、直線状であっても、二次曲線状であってもよい。
【0051】
上記仮想経路Kが通る流出位置及び吐出位置の数量(すなわち、mの値)、及び、上記流出位置同士及び上記吐出位置同士の間隔(Δx)は、特に限定されるものではなく、適宜設定され得る。
例えば、上記流出位置及び吐出位置の数量mの値(仮想経路の数量)が大きい程、被塗工物31の幅方向全体にわたって、スロット8から吐出される塗工液33の流量をより均一にすることが可能になる一方、計算が煩雑になる傾向にある。
従って、例えば、かかる観点を考慮して、上記流出位置及び吐出位置の数量及び間隔が適宜設定され得る。
また、上記流出位置及び吐出位置の間隔は、等間隔であることが好ましい。
【0052】
このようにして得られた各スロット長さL
mを、各距離x
mに対してプロットしてグラフ化すると、例えば、
図8に示すグラフが得られる。
このグラフを二次関数で近似すると、
図8に示すように、二次近似曲線が得られる。
得られた二次近似曲線の各係数を、上記数式(1)における係数A、B、Cとすることによって、数式(1)が具体的に決定される。
【0053】
そして、決定された数式(1)に沿うように上記端縁9cが形成される。そして、この端縁9cに合わせて、幅方向に視た断面の形状及び大きさが幅方向にわたって同じになるように、マニホールド9が形成される。
なお、塗工液33がニュートン流体である場合には、数式(1)において、Aが0に近づくため、近似曲線が、傾きを有する直線に近づく。また、塗工液33がニュートン流体であって、粘度が比較的低く、しかも、スロット8の開口8aからの吐出される塗工液33の流量が比較的小さい場合には、AもBも0に近づくため、塗工液33は、x軸に平行な直線に近づく。
【0054】
なお、上記した通り、及び、数式(2)、(3)から明らかなように、マニホールド9の上記断面の形状及び大きさが被塗工物31の幅方向にわたって同じであるから、マニホールド9の上記断面の半径Rも、該幅方向(すなわち、x軸方向)にわたって同じである。
かかるマニホールド9の半径(断面の半径)は、
図9に示すように、塗工液33の移動方向に視たマニホールド9の断面の形状に応じて、形状係数Dを用いてR=D×rの計算式によって設定され得る。例えば、断面の形状が円形の場合には、円の半径rをそのままマニホールド9の半径とし得る。
一方、半円形、扇形である場合には、形状係数Dを用いて、それぞれ、
図9に示すように設定され得る。
また、
図2に示すように、マニホールド9におけるスロット8と反対側の端縁9dは、端縁9cと同じ形状、且つ、幅方向にわたって端縁9cとの間隔が同じであるように形成される。
【0055】
上記の通り、本実施形態に係る塗工装置1は、マニホールド9の幅方向に視た断面の形状及び大きさが幅方向にわたって同じであり、マニホールド9のスロット8側の端縁9cが、下記数式(1)で表される二次曲線が描く形状に形成されており、ΔP
mとL
mとの関係が下記数式(2)、(3)で表され、数式(2)、(3)を満たしつつ各流出位置及び吐出位置での各ΔP
mが各仮想経路K
m間で互いに同じ値になるように各L
mを算出し、算出された各L
mと該各L
mに対応するx
mとの関係がプロットされたグラフの二次近似曲線として、上記二次曲線が決定されるように構成されている。
【0056】
かかる構成によれば、マニホールド9の幅方向に視た断面の形状及び大きさが幅方向にわたって同じであるとの仮定、及び、各仮想経路K
m間においてスロット8の開口8aから吐出される塗工液33の流束S
mが互いに同じ値であるとの仮定のもとで導出された上記数式(2)、(3)を用いることによって、既知のパラメータと、未知の、上記流出位置(マニホールド9のスロット8側の端縁9c)と上記吐出位置(すなわち、開口8a)との距離(スロット長さ)L
mと、によって表されるΔP
mが各仮想経路K
m間で互いに同じ値となるように各L
mが算出され、算出されたL
mに基づいて、二次近似曲線が決定される。そして、この二次近似曲線に沿うようにマニホールド9のスロット8側の端縁9cが形成され、かかる端縁9cに合わせて、幅方向に視た断面の形状及び大きさが前記幅方向にわたって同じとなるようにマニホールド9が形成される。
このようにマニホールド9が形成されることによって、スロット8の開口8aから吐出される塗工液33の流量を、被塗工物31の幅方向にわたって同じ値に近づけることができるため、形成される塗工膜35の厚みの変動を幅方向にわたって抑制し得る。
また、既知のパラメータから上記二次近似曲線を決定できるため、効率的である。
よって、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜35を、効率的に形成し得る。
【0057】
次いで、本実施形態の塗工膜35の製造方法について、説明する。
【0058】
本実施形態に係る塗工膜の製造方法は、前記塗工装置1を用いて、相対的に移動する被塗工物31上に塗工液33を吐出して塗工膜35を形成する工程を備える。
【0059】
かかる構成によれば、上記塗工装置1を用いるため、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜35を、効率的に形成し得る。
【0060】
以上の通り、本発明によれば、幅方向に厚みの変動が十分に抑制された塗工膜を、効率的に形成し得る塗工装置及び塗工膜の製造方法が提供される。
【0061】
本実施形態の塗工装置及び塗工膜の製造方法は、上記の通りであるが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の意図する範囲内において適宜設計変更されることが可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態においては、流入口10から流入された塗工液33が全てスロット8に流出する態様を示す(例えば、
図6においてQ
2=0)。しかし、本発明においては、
図10に示すように、マニホールド9が、スロット8以外に塗工液33がマニホールド9内から流出することを可能にする流出口12を有し、ダイ5が、流出口12から外部に塗工液33を送る経路を構成する排出部13を有し、流入口10から流入した塗工液33の一部がスロット8へと流出し、残りが流出口12から排出部13を通って排出される態様が採用されてもよい。
【0063】
例えば、上記実施形態においては、
図2に示すように、塗工領域Fの端が流入口10と重なるように位置する態様を示す。しかし、本発明においては、
図11、
図12に示すように、塗工領域Fの端が流入口10よりも内側に位置する態様が採用されてもよい。
図11に示す態様では、スロット8の開口8aの幅方向両端部に、塗工液33の吐出を規制する規制部21がそれぞれ配されており、これら規制部21によって、その分、塗工領域Fの幅(塗工幅W)が小さくなっている。
【0064】
例えば、上記実施形態においては、
図2に示すように、流入口10がマニホールド9の第1の端部9aに形成され、該流入口10から流入した塗工液33が第1の端部9aから第2の端部9bに送られる態様を示す。しかし、本発明においては、マニホールド9における流入口10が形成される位置は、例えば、
図13〜
図15に示すように、塗工領域Fの中央に相当する位置であってもよい。
【0065】
この場合、
図13、
図14に示すように、流入口10がマニホールド9における被塗工物31の幅方向中央部に、流入口の中央が塗工領域Fの中央と一致するように形成され、該流入口10から流入された塗工液33が、第1の端部9a及び第2の端部9b(すなわち、両端部)に向かって送られる。
【0066】
このとき、塗工領域Fの中央を通りy軸に平行な仮想直線(不図示)を中心として塗工液33の流れが線対称であると仮定すると、
図15に示すように、塗工領域Fの中央を原点Oとし、原点Oから下流側の第2の端部9bに送られる塗工液33について上記と同様に各L
mを決定すれば、原点Oからもう一方の第1の端部9aに向かう塗工液33についても、同様に各L
mが決定されることになる。なお、塗工領域Fの中央は、塗工領域Fを幅方向(すなわち、塗工液の移動方向)に二分(1/2)する位置であり、流入口10の中央は、流入口10を幅方向に二分(1/2)する位置である。
【実施例】
【0067】
次に試験例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
実施例1
(使用材料)
・被塗工物:PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(商品名:ダイヤホイル、三菱ケミカル社製)
・塗工液:アクリルポリマー(商品名:SKダイン、綜研化学社製)
【0069】
塗工液について、下記の方法に従って各せん断速度ごとの粘度を測定し、グラフ化した。得られたグラフから、マニホールド内での塗工液の第1及び第2の粘度パラメータ、及び、スロット内での塗工液の第1及び第2の粘度パラメータ等を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(粘度の測定方法)
治具(コーンの直径が25〜50mm、コーンの角度が0.5〜2°であるコーンプレート)を備えたレオメータ(型式RS1、HAAKE社製)を用い、23℃50%RHの温湿度条件下で、せん断速度を変更し、塗工液の粘度をそれぞれ測定した。
結果を
図16に示す。また、この結果から、マニホールド内及びスロット内の、それぞれ第1及び第2の粘度パラメータを算出した。
具体的には、
図16で示された、せん断速度−粘度曲線のうち、マニホールド内の塗工液の流れ、及び、スロット内の塗工液の流れにそれぞれ相当するせん断速度の範囲を、予備実験によって決定した。
決定された各せん断速度の範囲内のせん断速度−粘度曲線を、前述した数式(8)、(9)で近似することによって、マニホールド内の塗工液の第1及び第2の粘度パラメータ(n
c、η
c)及びスロット内の塗工液の第1及び第2の粘度パラメータ(n
s、η
s)をそれぞれ求めた。
【0071】
(流束Sの算出)
流束Sを、S=(設定された塗工液の塗工厚み(ウェット))×(被塗工物の移動速度)の式によって、算出した。
【0072】
(マニホールド形状の決定及び形成)
図3に示すように幅方向に視た断面が半円状であり、幅方向にわたって断面の形状及び大きさが一定であり、且つ、
図4に示すように幅方向に延びるマニホールドを有し、マニホールドの第1の端部に流入口が形成された一方、排出口が形成されていないダイを基礎とし、下記のようにして、マニホールドの形状を決定した。
【0073】
被塗工物に塗工される塗工液の幅、支持部による被塗工物の移動速度(ライン速度)、マニホールド内に流入される際の塗工液の流量、マニホールド半径、スロット高さ等を表1に示すように設定し、数式(2)、(3)を用いて、各流出位置及び吐出位置を通る各仮想経路K
mのスロット長さL
mを、各全圧力損失ΔP
mが各仮想経路K
m間で互いに同じ値となるように、算出した。算出にあたっては、各ΔL
mの初期値(L
0)として、表1に示す値を用いた。
そして、x軸上の吐出位置とスロット長さL
mとの関係をプロットし、二次関数で近似し、二次近似曲線を得た。結果を
図17に示す。
【0074】
得られた二次近似曲線が描く形状にマニホールドのスロット側の端縁の形状を決定し、マニホールドの断面の形状及び大きさが原点Oにおけるそれらと幅方向にわたって同じになるように、すなわち、マニホールドの断面の形状及び大きさが幅方向に一定となるように、マニホールドを形成した。このようにして、
図2に示すようなマニホールドを形成した。
【0075】
形成したマニホールドを有するダイを用いて、表1の条件で被塗工物に塗工を行い、塗工された塗工液を乾燥して塗工膜を形成し、得られた塗工膜の厚みを、幅方向にわたって、リニアゲージを用いて測定した。結果を
図18に示す。
【0076】
図18に示すように、幅方向にわたって厚みの変動が抑制された塗工膜が得られた。
【0077】
【表1】
【0078】
比較例1
図19に示すように、マニホールドのスロット側の端縁が、ダイの先端縁(スロットの開口)と平行な(すなわちx軸方向に沿った)直線状であり、幅方向に視た断面の形状及び大きさが実施例1のマニホールドと幅方向にわたって同じになるように、マニホールドを作製した。このマニホールドのスロット長さ(L)は40mmであり、
図20に示すように、幅方向に均一であった。
作製されたマニホールドを有するダイを用い、表2の条件で、実施例1と同様に塗工を行って、得られた塗工膜の厚みを幅方向にわたって測定した。
結果を
図21に示す。
【0079】
図21に示すように、得られた塗工膜の厚みは、幅方向に大きく変動していた。
【0080】
【表2】
【0081】
比較例2
比較例1のマニホールドにおいて、
図22に示すように、スロット側の端縁のみが、実施例1のスロット側の端縁と同じ形状(同じスロット長さ)となるように、追加で加工した。換言すると、実施例1のマニホールドにおいて、スロットとは反対の側の端縁が、比較例1と同じ形状(
図19参照)となるように、追加で加工した。このマニホールドの幅方向に視た断面の形状は、幅方向にわたって半円状で一定であるが、断面の大きさは、塗工液の移動方向下流側に向かう程大きいものであった。
作製されたマニホールドを有するダイを用い、実施例1と同様に塗工を行って、得られた塗工膜の厚みを幅方向にわたって測定した。
結果を
図23に示す。
【0082】
図23に示すように、得られた塗工膜の厚みは、比較例1よりも、幅方向の変動が抑制されたものであったが、実施例1よりも変動が大きいものであった。
【0083】
また、比較例2では、塗工膜にスジが発生した。この理由としては、比較例2では、マニホールドの断面の形状が幅方向において異なることから、マニホールド内の塗工液の速度変化が幅方向に一様ではなくなり(単調変化ではなくなり)、その結果、マニホールド内にて塗工液の流れが大きく乱れたためと考えられる。
これに対し、実施例1では、スジが発生しなかった。この理由としては、実施例1のようにマニホールドの断面の形状及び大きさが幅方向において等しいと、マニホールド内の塗工液の移動速度が単調に変化することから、該マニホールド内において塗工液の流れが乱れ難かったためと考えられる。
相対的に移動する被塗工物上に塗工液を塗工するダイを備えた塗工装置であって、前記ダイは、前記マニホールドの前記幅方向に視た断面の形状及び大きさが前記幅方向にわたって同じであり、前記マニホールドの前記スロット側の端縁が、特定の数式から決定される二次曲線が描く形状に形成されるように構成された、塗工装置。