【実施例】
【0038】
(実施例1)
上記衝撃吸収部材の実施例について、
図1〜
図4を用いて説明する。
図1に示すように、衝撃吸収部材1は、筒状形状を呈し、その軸方向Zの一端に荷重入力部11を有すると共に他端に荷重伝達部12を有している。衝撃吸収部材1は、
図1及び
図3に示すように、軸方向Zに垂直な断面形状が4個の頂角を有する略正方形を呈していると共に4枚の側壁2を備えている。
【0039】
また、衝撃吸収部材1は、
図1に示すように、側壁2の一部を凹状に変形させてなる第1トリガー部3を備えた第1側壁21と、第1トリガー部3よりも軸方向Zの荷重伝達部12側において側壁2の一部を第1トリガー部3と同じ状態に変形させてなる第2トリガー部4を備えた第2側壁22と、軸方向Zにおける第1トリガー部3の近傍位置において側壁2を貫通してなる貫通穴5を備えた第3側壁23とを有している。
【0040】
また、第1側壁21と第2側壁22との間には、奇数枚の側壁2が存在している。そして、
図2に示すように、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをLとしたときに、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心41との間の軸方向Zにおける距離D2が0.1L〜0.5Lである。
【0041】
図1に示すように、衝撃吸収部材1は、1枚の第1側壁21と、1枚の第2側壁22と、2枚の第3側壁23とを有しており、略角筒状を呈している。なお、本例の衝撃吸収部材1は、アルミニウム合金材を略角筒状に押出成形した後、その側壁に第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成することにより作製されている。
【0042】
図1に示すように、第1側壁21及び第2側壁22は、互いに向かい合う位置に配されており、第3側壁23を介して連なっている。
【0043】
第1側壁21、第2側壁22及び第3側壁23の幅寸法、すなわち軸方向Zに対して直角方向に計測して得られるそれぞれの側壁2の寸法は、いずれも72mmである。すなわち、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さLは、側壁2の幅寸法と等しく72mmである。なお、本例のように、隣り合う側壁2の接続部分(角部)にR形状が付与されている場合には、側壁2の幅寸法は、平面上を呈している部分のみを計測した寸法とし、R形状部分は幅寸法に含まないものとする。
【0044】
また、本例の衝撃吸収部材1は、軸方向Zに垂直な断面(
図3参照)において、互いに対向する側壁2間の間隔のうち最大のものを縦寸法Aとし、当該側壁2の対向する方向に対して直角方向における寸法を横寸法Bとしたときに、A及びBはともに80mmであり、縦横比B/A=1である。
【0045】
また、第1側壁21、第2側壁22及び第3側壁23の厚さ寸法は、いずれも2mmである。
【0046】
図1に示すように、第1トリガー部3は、軸方向Zと直角な方向に沿って第1側壁21の全幅に渡って設けられた溝状を呈している。
図2及び
図4に示すように、本例においては、第1トリガー部3の溝の形状は略半円状としているが、例えば略U字状、略V字状や矩形状とすることもできる。なお、第1トリガー部3の溝の幅(軸方向Zに測定して得られる寸法)は13mmである。
【0047】
また、
図2に示すように、第1トリガー部3は、その中心31と、荷重入力部11側の開口端面111と間の軸方向Zにおける距離D1が20mmとなる位置に形成されている。このように、本例においては、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さL(72mm)に対して、荷重入力部11側の開口端面111と第1トリガー部3の中心31との間の軸方向Zにおける距離D1が0.2L以上L以下である。
【0048】
また、貫通穴5は長円形を呈しており、その長手方向が第3側壁23の幅方向(軸方向Zに直角な方向)を向いている。また、貫通穴5の中心51と、第1トリガー部3の中心31とが軸方向Zから見て一致するように形成されている。これにより、貫通穴5の少なくとも一部が、第1トリガー部3と軸方向Zにおいて重なっている。
【0049】
また、貫通穴5は、長手方向の寸法wが30mmであり、上述した第3側壁23の幅寸法をb(72mm)としたときに、0.2b以上b以下である。
【0050】
また、
図3に示すように、貫通穴5が形成されていることにより、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面における断面積が、貫通穴5を形成していない状態(図示略)に比べて減少している。本例においては、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成する前の軸方向Zに垂直な断面の断面積に対する、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積の比は78%である。
【0051】
図1及び
図2に示すように、第2トリガー部4は、第1トリガー部3と同様に、第2側壁22の全幅に渡り、軸方向Zと直角方向に沿って設けられた溝状を呈している。また、
図2に示すように、第2トリガー部4は、その中心41と、第1トリガー部3の中心31との間の軸方向Zにおける距離D2が10mmとなる位置に形成されている。このように、本例においては、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをL(72mm)としたときに、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心41との間の軸方向Zにおける距離D2が0.1L〜0.5Lである。なお、第2トリガー部4の溝の形状は第1トリガー部3と同様である。
【0052】
次に、衝撃吸収部材1が圧縮変形する過程の一例について説明する。衝撃吸収部材1は、第1トリガー部3が凹状を呈しているため、第1側壁21における第1トリガー部3近傍が陥没する方向へ変形しやすくなっている。
【0053】
衝撃吸収部材1に衝撃が加わり、荷重入力部11に荷重が入力されると、第1トリガー部3を起点として第1側壁21が変形し始める。このとき、軸方向Zに垂直な断面形状が略正方形を呈していると共に4枚の側壁2を備えていることにより、隣り合う側壁2のうち一方が膨出方向に変形し、他方が陥没方向に変形しやすくなる。すなわち、
図3に示すように、第1側壁21は、上述したように第1トリガー部3を起点として陥没方向への変形を開始する(矢印101参照)。また、第1側壁21に隣接する2枚の第3側壁23は、軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置において膨出方向への変形を開始する(矢印102参照)。
【0054】
このとき第2側壁22においては、
図4に示すように、第1側壁21の変形に伴って軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置が陥没方向(矢印103参照)へ変形しようとする一方で、第2トリガー部4を起点として第2トリガー部4近傍が陥没方向(矢印104参照)へ変形しようとする。そして、第2トリガー部4に起因する変形は、第1トリガー部3近傍位置においては膨出方向(矢印105参照)となる。
【0055】
このように、第2側壁22上の、軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置においては、第1側壁21の変形に起因して生じる変形の向き(矢印103)と、第2トリガー部4に起因して生じる変形の向き(矢印105)とが互いに反対方向となる。その結果、第2側壁22における変形が規制されるため、第2トリガー部4を有しない場合に比べて変形を進展させる際に要する荷重が大きくなる。
【0056】
その後、衝撃吸収部材1は、荷重伝達部12側に向けて順次蛇腹状に変形する。
【0057】
次に、本例の作用効果を説明する。
図1〜
図4に示すように、衝撃吸収部材1は、軸方向Zに垂直な断面形状が4個の頂角を有する略正方形を呈していると共に4枚の側壁2(21、22、23)を備えている。そのため、蛇腹状の変形をし易くなり、エネルギー吸収特性を向上させることができる。
【0058】
また、貫通穴5を備えた第3側壁23を有しており、貫通穴5が軸方向Zにおける第1トリガー部3の近傍位置に配設されている。これにより、軸方向Zに垂直な断面上に貫通穴5を含む領域、すなわち軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置における衝撃吸収部材1剛性を低減することができる。その結果、第1トリガー部3及び貫通穴5を設けない場合に比べて、衝撃吸収部材1が変形し始める際のピーク荷重を低減させることができる。
【0059】
また、第2トリガー部4が第1トリガー部3よりも荷重伝達部12側に形成されており、第1側壁21と第2側壁22との間に奇数枚の側壁2が存在している。そして、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをLとしたときに、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心41との間の軸方向Zにおける距離D2が0.1L〜0.5Lである。そのため、第1トリガー部3を起点とする変形が開始した後に、変形を進展させるために要する荷重の低下を十分に抑制することができ、衝撃エネルギーの吸収量を多くし易くなる。
【0060】
また、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをLとしたときに、荷重入力部11側の開口端面111と第1トリガー部3の中心31との間の軸方向Zにおける距離D1が0.2L以上L以下である。そのため、衝撃が加わった際に、軸方向Zにおける第1トリガー部3近傍が変形し易くなり、エネルギー吸収特性をより確実に発揮させることができる。
【0061】
また、貫通穴5の少なくとも一部は、第1トリガー部3と軸方向Zにおいて重なっている。そして、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成する前の軸方向Zに垂直な断面の断面積に対する、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積の比が50〜90%である。その結果、軸方向Zに垂直な断面上に貫通穴5を含む領域、すなわち軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置における衝撃吸収部材1の剛性を低減する効果をより得易くなり、衝撃が加わった後に、変形し始める際のピーク荷重をより低減させることができる。
【0062】
また、貫通穴5は、長円形を呈している。そのため、衝撃吸収部材1のエネルギー吸収特性を十分に発揮させることができる。
【0063】
また、本例においては、貫通穴5を有する第3側壁23が、互いに対面する位置に配されている。このように、第3側壁23が互いに対面する位置に配されることにより、衝撃吸収部材1の変形が均一なものとなり易い。それ故、衝撃吸収部材1のエネルギー吸収特性がより優れたものとなり易い。
【0064】
以上のように、衝撃吸収部材1は、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を全て有することにより、変形を開始する際のピーク荷重を低減しつつ、変形を進展させるために要する荷重の低下を抑制できる。その結果、衝撃吸収部材1は、変形し始める際のピーク荷重と、変形を進展させるために要する荷重との差を小さくでき、エネルギー吸収特性に優れたものとなる。
【0065】
(実施例2)
本例は、
図5〜
図8に示すように、軸方向Zに垂直な断面が略十字形状を呈する衝撃吸収部材1の例である。以下において、軸方向Zに垂直な断面が呈する略十字形状のうち、一方の突出方向を便宜上「縦方向X」といい、他方の突出方向を「横方向Y」という。
【0066】
図5に示すように、本例の衝撃吸収部材1は、4枚の第1側壁21と、2枚の第2側壁22と、6枚の第3側壁23(23a、23b)とを有している。
図5に示すように、縦方向Xにおいて互いに向かい合う位置にはそれぞれ第3側壁23aが配されており、その両側にそれぞれ第1側壁21が配されている。また、
図5及び
図6に示すように、横方向Yにおいて互いに向かい合う位置にはそれぞれ第2側壁22が配されており、その両側にそれぞれ第3側壁23bが連なっている。
【0067】
また、
図5、
図6及び
図7より知られるように、本例においては、隣り合う第1側壁21の間に奇数枚の側壁2が存在している。すなわち、
図6に示すように、縦方向Xから見て隣り合う第1側壁21の間には1枚の第3側壁23aが存在している。また、
図7より知られるように、横方向Yから見て隣り合う第1側壁21の間には、2枚の第3側壁23b及び1枚の第2側壁22が存在しており、合計で3枚の側壁2(22、23b)が存在している。
【0068】
また、縦方向Xにおいて互いに向かい合う第3側壁23aの間の距離は110mmであり、横方向Yにおいて互いに向かい合う第2側壁22の間の距離は90mmである。従って、本例の衝撃吸収部材1は、
図8に示すように、軸方向Zに垂直な断面において、互いに対向する第3側壁23aの間隔が縦寸法A(110mm)となり、第2側壁22の間隔が横寸法B(90mm)となる。そして、縦横比B/A=0.82である。
【0069】
図6に示すように、第1トリガー部3は、その中心31と、荷重入力部11側の開口端面111との軸方向Zにおける距離D1が30mmとなる位置に形成されている。一方、
図8に示すように、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さLは、第2側壁22の幅寸法(軸方向Zと直角方向に測定して得られる寸法)に等しく、43mmである。それ故、本例においては、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さL(43mm)に対して、荷重入力部11側の開口端面111と第1トリガー部3の中心31との間の軸方向Zにおける距離D1が0.2L以上L以下である。
【0070】
縦方向Xにおいて互いに向かい合う位置に配された第3側壁23aは、幅寸法が38mmである。また、
図6に示すように、幅方向の中央部に直径12mmの貫通穴5aが形成されている。
【0071】
一方、第2側壁22に連なって配された第3側壁23bは、幅寸法が11mmである。また、
図6に示すように、幅方向の中央部に直径7mmの貫通穴5bが形成されている。これらの貫通穴5a、5bは、いずれも、その中心51が軸方向Zから見て第1トリガー部3の中心31と一致するように形成されている。また、本例においては、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成する前の軸方向Zに垂直な断面の断面積に対する、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積の比は84%である。
【0072】
図5及び
図7に示すように、第2トリガー部4は、第1トリガー部3と同様に、第2側壁22の全幅に渡り、軸方向Zと直角方向に沿って設けられた溝状を呈している。また、
図6に示すように、第2トリガー部4は、その中心41と、第1トリガー部3の中心31との間の軸方向Zにおける距離D2が10mmとなる位置に形成されている。このように、本例においては、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをL(43mm)としたときに、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心41との間の上記軸方向Zにおける距離D2が0.1L〜0.5Lである。なお、第2トリガー部4の溝の形状は第1トリガー部3と同様である。その他は実施例1と同様である。
【0073】
本例の衝撃吸収部材1は、第1側壁21を複数有しており、隣り合う第1側壁21の間に奇数枚の側壁2が存在している。そのため、衝撃が加わった際の衝撃吸収部材1の変形をより確実に制御することができ、エネルギー吸収特性をより確実に発揮させることができる。その他、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0074】
(実施例3)
本例は、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5に加えて第3トリガー部6を有する衝撃吸収部材1の例である。
【0075】
図9に示すように、本例の衝撃吸収部材1は、第1側壁21及び第2側壁22の一部を凹状に変形させてなる第3トリガー部6を、第2トリガー部4よりも荷重伝達部12側に複数個有している。そして、
図10及び
図11に示すように、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをLとしたときに、同一の側壁2上に形成された隣り合う第3トリガー部6の間隔D3が0.5L〜Lである。
【0076】
すなわち、第1側壁21に形成された隣り合う第3トリガー部6の間隔D3(
図11参照)と、第2側壁22に形成された隣り合う第3トリガー部6の間隔D3(
図10参照)とが、いずれも0.5L〜Lである。
【0077】
また、第1側壁21においては、第1トリガー部3と、これに隣接する第3トリガー部との軸方向Zにおける間隔D4(
図11参照)が0.5L〜Lである。同様に、第2側壁22においては、第2トリガー部4と、これに隣接する第3トリガー部との軸方向Zにおける間隔D5(
図10参照)が0.5L〜Lである。
【0078】
また、
図10に示すように、本例の貫通穴5には、円形の貫通穴5bと、長円形の貫通穴5cの2種類が存在する。すなわち、
図10に示すように、横方向Yにおいて互いに向かいあう第3側壁23aには、長手方向が第3側壁23aの幅方向(軸方向Zに直角な方向)を向いた長円形の貫通穴5cが形成されている。長円形の貫通穴5cは、長手方向の寸法wが16mmであり、第3側壁23aの幅寸法b(38mm)に対して0.2b以上b以下である。
【0079】
また、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成する前の軸方向Zに垂直な断面の断面積に対する、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積の比は81%である。その他は実施例2と同様である。
【0080】
本例の衝撃吸収部材1のように、第2トリガー部4よりも荷重伝達部12側に複数の第3トリガー部を有することにより、第2トリガー部4よりも荷重伝達部12側において、衝撃吸収部材1を蛇腹状に変形させ易くなる。その結果、衝撃吸収部材1のエネルギー吸収特性がより優れたものとなり易い。
【0081】
また、本例においては、第1側壁21に形成した第3トリガー部6同士の間隔D3と、第2側壁22に形成した第3トリガー部6同士の間隔D3とが等しい。このように、隣り合う第3トリガー部6同士の間隔D3を全て等間隔とすることにより、衝撃吸収部材1の変形がよりスムーズになり、エネルギー吸収特性がより優れたものとなり易い。
【0082】
なお、本例においては、隣り合う第3トリガー部6の間隔D3が等間隔となる例を説明したが、隣り合う第3トリガー部6の間隔D3は互いに異なっていても良い。
【0083】
(実施例4)
本例は、頂角及び側壁2の数を種々変更した衝撃吸収部材1の例である。本例においては、頂角及び側壁2の数を4〜16個の範囲で種々変更した試験体1〜試験体6について、有限要素法により荷重−ストローク曲線を求めた後、荷重−ストローク曲線からエネルギー吸収特性を評価した。以下に、試験体及び評価手順の詳細について説明する。
【0084】
・試験体1
実施例1の衝撃吸収部材1をそのまま用いた。また、試験体1との比較のため、試験体1において第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を設けない試験体11を準備した。
【0085】
これらの試験体を用い、FEM解析により、試験体の荷重入力部11を荷重伝達部12側へ向けて強制的に変位させた際に試験体に加わる荷重を算出して、各試験体の荷重−ストローク曲線を取得した。
【0086】
FEM解析は、動的陽解法汎用FEMコード「RADIOSS(登録商標) Block100」を用いた。また、FEM解析には、各試験体の形状を3mmのシェル要素に分割し、荷重伝達部12側を完全拘束して、荷重入力部11側から剛体壁を100mm/sで衝突させるモデルを供した。
【0087】
図12に、試験体1及び試験体11から取得した荷重−ストローク曲線を示す。なお、
図12の縦軸は荷重の大きさを示し、横軸はストロークを示している。また、
図12の縦軸は、試験体11における後述するピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0088】
図12より知られるように、荷重入力部11の変形開始直後に、荷重が急激に上昇し、ピーク(符号P)が発生した。また、かかるピークの後、ストロークを大きくするにつれて荷重が減少し、ストロークがある値に達すると、荷重が再び増加に転じた(符号V)。
【0089】
次に、各試験体の荷重−ストローク曲線から、荷重入力部11の強制変位を開始した直後、すなわち変形開始直後のピーク荷重の値(符号Pにおける荷重の値)及び、ピークを過ぎた後、荷重が再び増加に転じるときの極小点荷重の値(符号Vにおける荷重の値)を求めた。その結果を表1に示した。なお、表1中の荷重の値は、試験体11におけるピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0090】
【表1】
【0091】
・試験体2
試験体2は、
図13に示すように、軸方向Zに垂直な断面が略正八角形状を呈する筒状の衝撃吸収部材1である。試験体2は、2枚の第1側壁21と、2枚の第2側壁22と、4枚の第3側壁23とを有しており、第1側壁21と第2側壁22とが、第3側壁23を介して交互に連なっている。
【0092】
また、試験体2における最長辺の長さLは、側壁2(21、22、23)の幅寸法に等しく35mmであり、荷重入力部11側の開口端面111から第1トリガー部3の中心31までの軸方向Zにおける距離は0.72Lである。また、第1トリガー部3の中心31から第2トリガー部4の中心41までの軸方向Zにおける距離は0.29Lである。なお、
図13及び後述する
図14〜
図16においては、便宜上、荷重入力部11側の開口端面111、第1トリガー部3の中心31及び第2トリガー部4の中心41の表示を省略した。これらの位置の定め方は実施例1と同様である。
【0093】
また、貫通穴5は楕円形を呈しており、その寸法は14×10mmとした。その他は実施例1と同様である。また、試験体2との比較のため、試験体2において第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を設けない試験体12を準備した。
【0094】
試験体2及び試験体12について、試験体1と同様にFEM解析を行った。図には示さないが、試験体2及び試験体12から得られた荷重−ストローク曲線においては、試験体1等と同様に、荷重入力部11の変形開始直後にピークの発生が認められた。その後、ストロークを大きくするにつれて荷重が減少し、ストロークがある値に達すると、荷重が再び増加に転じた。
【0095】
次いで、得られた、荷重−ストローク曲線から各試験体のピーク荷重及び極小点荷重の値を算出した。その結果を表2に示す。なお、表2中の荷重の値は、試験体12におけるピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0096】
【表2】
【0097】
・試験体3
試験体3は、
図14に示すように、8個の頂角と8枚の側壁2とを有し、軸方向Zに垂直な断面の形状が略8の字形状を呈する衝撃吸収部材1である。試験体3は、2枚の第1側壁21と、2枚の第2側壁22と、4枚の第3側壁23とを有しており、第1側壁21と第2側壁22とが、第3側壁23を介して交互に連なっている。
【0098】
8枚の側壁2のうち、軸方向Zから見た時の衝撃吸収部材の中央部、すなわち略8の字形状における内方に窪んだ部分には、第1側壁21及び2枚の第3側壁23dが配されている。これらの4枚の側壁2(21、23d)の幅寸法は33mmである。
【0099】
また、互いに連なった第1側壁21及び第3側壁23dの両側には、第2側壁22及び残りの2枚の第3側壁23cが配されている。これらの4枚の側壁2(22、23c)の幅寸法は39mmである。
【0100】
それ故、試験体3における最長辺の長さLは、第2側壁22の幅寸法に等しく39mmとなる。また、荷重入力部11の開口端面111から第1トリガー部3の中心31までの軸方向Zにおける距離は0.51Lである。また、第1トリガー部3の中心31から第2トリガー部4の中心41までの軸方向Zにおける距離は0.25Lである。
【0101】
また、貫通穴5は円形を呈しており、その直径は10mmとした。その他は実施例1と同様である。また、試験体3との比較のため、試験体3において第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を設けない試験体13を準備した。
【0102】
試験体3及び試験体13について、試験体1と同様にFEM解析を行った。図には示さないが、試験体3及び試験体13から得られた荷重−ストローク曲線においては、試験体1等と同様に、荷重入力部11の変形開始直後にピークの発生が認められた。その後、ストロークを大きくするにつれて荷重が減少し、ストロークがある値に達すると、荷重が再び増加に転じた。
【0103】
次いで、得られた荷重−ストローク曲線から、各試験体のピーク荷重及び極小点荷重の値を算出した。その結果を表3に示す。なお、表3中の荷重の値は、試験体13におけるピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0104】
【表3】
【0105】
・試験体4
試験体4は、
図15に示すように、10個の頂角と10枚の側壁2とを有し、軸方向Zに垂直な断面の形状が略8の字状を呈する衝撃吸収部材1である。試験体4は、3枚の第1側壁21と、2枚の第2側壁22と、5枚の第3側壁23とを有している。
【0106】
また、試験体4における最長辺の長さLは側壁2(21、22、23)の幅寸法に等しく34mmであり、荷重入力部11の開口端面111から第1トリガー部3の中心31までの軸方向Zにおける距離は0.58Lである。また、第1トリガー部3の中心31から第2トリガー部4の中心41までの軸方向Zにおける距離は0.29Lである。
【0107】
また、貫通穴5は円形を呈しており、その直径は10mmとした。その他は実施例1と同様である。また、試験体4との比較のため、試験体4において第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を設けない試験体14を準備した。
【0108】
試験体4及び試験体14について、試験体1と同様にFEM解析を行った。図には示さないが、試験体4及び試験体14から得られた荷重−ストローク曲線においては、試験体1等と同様に、荷重入力部11の変形開始直後にピークの発生が認められた。その後、ストロークを大きくするにつれて荷重が減少し、ストロークがある値に達すると、荷重が再び増加に転じた。
【0109】
次いで、得られた荷重−ストローク曲線から、各試験体のピーク荷重及び極小点荷重の値を算出した。その結果を表4に示す。なお、表4中の荷重の値は、試験体14におけるピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0110】
【表4】
【0111】
・試験体5
試験体5は、
図16に示すように、軸方向Zに垂直な断面の形状が略正十六角形状を呈する衝撃吸収部材1である。試験体5は、4枚の第1側壁21と、4枚の第2側壁22と、8枚の第3側壁23とを有しており、第1側壁21と第2側壁22とが第3側壁23を介して交互に連なっている。
【0112】
また、試験体5における最長辺の長さLは側壁2(21、22、23)の幅寸法に等しく18mmであり、荷重入力部11の開口端面111から第1トリガー部3の中心31までの軸方向Zにおける距離は0.89Lである。また、第1トリガー部3の中心31から第2トリガー部4の中心41までの軸方向Zにおける距離は0.45Lである。
【0113】
また、貫通穴5は円形を呈しており、その直径は6mmとした。その他は実施例1と同様である。また、試験体5との比較のため、試験体5において第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を設けない試験体15を準備した。
【0114】
試験体5及び試験体15について、試験体1と同様にFEM解析を行った。図には示さないが、試験体5及び試験体15から得られた荷重−ストローク曲線は、試験体1等と同様に、荷重入力部11の強制変位を開始した直後にピークを形成した。その後、ストロークを大きくするにつれて荷重が減少し、ストロークがある値に達すると、荷重が再び増加に転じた。
【0115】
次いで、得られた荷重−ストローク曲線から、各試験体のピーク荷重及び荷重が再び増加に転じるときの荷重の値を算出した。その結果を表5に示す。なお、表5中の荷重の値は、試験体15におけるピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0116】
【表5】
【0117】
・試験体6
実施例2における衝撃吸収部材1をそのまま用いた。また、試験体6との比較のため、試験体6において第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5のいずれも設けない試験体16(
図17参照)、第1トリガー部3のみを設けた試験体17(
図18参照)、第1トリガー部3及び第2トリガー部4のみを設けた試験体18(
図19参照)及び第1トリガー部3及び貫通穴5のみを設けた試験体19(
図20参照)を準備した。
【0118】
試験体6及び試験体16〜19について、試験体1と同様にFEM解析を行った。
図21に、得られた荷重−ストローク曲線を示す。なお、
図21の縦軸は荷重の大きさを示し、横軸はストロークを示している。また、
図21の縦軸は、試験体16にピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0119】
また、得られた荷重−ストローク曲線に基づき、各試験体のピーク荷重及び荷重が極小点荷重の値を算出した。その結果を表6に示す。なお、表6中の荷重の値は、試験体16におけるピーク荷重を1としたときの相対値である。
【0120】
【表6】
【0121】
図12、
図21及び表1〜表6より知られるように、断面形状が同等の試験体の間では、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を有する試験体1〜6は、これらの少なくとも1つを有しない試験体11〜19に比べてピーク荷重が格段に低下した。そして、試験体1〜6は、試験体11〜19に比べて極小点荷重の値が高くなった。このように、衝撃吸収部材1は、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び上記貫通穴5を全て有することにより、変形を開始する際のピーク荷重を低減しつつ、変形を進展させるために要する荷重の低下を抑制できる。その結果、衝撃吸収部材1は、変形し始める際のピーク荷重と、変形を進展させるために要する荷重との差を小さくでき、エネルギー吸収特性に優れたものとなる。
【0122】
(実施例5)
本例は、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心41との間の軸方向Zにおける距離D2がエネルギー吸収特性に及ぼす影響について評価した例である。以下に、評価方法を説明する。
【0123】
実施例2の衝撃吸収部材1において、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心32との間の軸方向Zにおける距離D2を表7に示す種々の値に変更した試験体21〜24を作製した。そして、実施例4と同様に、これらの試験体のFEM解析を行い、ピーク荷重及び極小点荷重を算出した。表7にFEM解析の結果を示す。なお、表7に示した第1トリガー部3と第2トリガー部4との間の距離D2は、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをLとしたときの相対値であり、荷重は、実施例4における試験体16のピーク荷重を1としたときの相対値である。また、試験体6は実施例2の衝撃吸収部材1に相当する試験体である。
【0124】
【表7】
【0125】
表7より知られるように、第1トリガー部3の中心31と第2トリガー部4の中心41との間の軸方向Zにおける距離D2が0.1L〜0.5Lである試験体6、21及び22は、ピーク荷重と極小点荷重との差が十分に小さくなった。これは、第2トリガー部4の作用により変形を進展させる際に要する荷重の低下を十分に抑制することができたためと考えられる。
【0126】
一方、距離D2が0.1L未満となる試験体23及び距離D2が0.5Lを超える試験体24は、極小点荷重の低下を抑制する効果が不十分となった。
【0127】
(実施例6)
本例は、荷重入力部11と第1トリガー部3との間の軸方向Zにおける距離D1がエネルギー吸収特性に及ぼす影響について評価した例である。以下に、評価方法を説明する。
【0128】
実施例2の衝撃吸収部材1において、荷重入力部11と第1トリガー部3との軸方向Zにおける距離D1を表8に示す種々の値に変更した試験体31〜34を作製した。そして、実施例4と同様に、これらの試験体のFEM解析を行い、ピーク荷重及び極小点荷重を算出した。表8にFEM解析の結果を示す。なお、表8に示した荷重入力部11と第1トリガー部3との距離D1は、軸方向Zに垂直な断面における最長辺の長さをLとしたときの相対値であり、荷重は、実施例4における試験体16のピーク荷重を1としたときの相対値である。また、試験体6は実施例2の衝撃吸収部材1に相当する試験体である。
【0129】
【表8】
【0130】
表8より知られるように、荷重入力部11側の開口端面111と第1トリガー部3の中心との間の軸方向Zにおける距離D1が0.2L以上L以下である試験体6、31及び32は、ピーク荷重と極小点荷重との差が十分に小さくなった。これは、距離D1が上記特定の範囲にあることにより、軸方向Zにおける第1トリガー部3近傍がより変形し易くなるためと考えられる。
【0131】
一方、距離D1が0.2L未満となる試験体33は、ピーク荷重が十分に小さくならなかった。また、距離D1がLを超える試験体34は、極小点荷重の低下を抑制する効果が不十分となった。
【0132】
(実施例7)
本例は、第1トリガー部3と貫通穴5との軸方向Zにおける位置関係がエネルギー吸収特性に及ぼす影響について評価した例である。以下に、評価方法を説明する。
【0133】
実施例2の衝撃吸収部材1において、第1トリガー部3の中心31と貫通穴5の端縁とが軸方向Zから見て一致するように、貫通穴5を第1トリガー部3よりも荷重入力部11側に配設した試験体41を作製した。また、貫通穴5を試験体41よりも荷重入力部11側に配設し、第1トリガー部3と貫通穴5とが軸方向Zにおいて重ならないようにした試験体42を作製した。そして、実施例4と同様に、これらの試験体のFEM解析を行い、ピーク荷重及び極小点荷重を算出した。表9にFEM解析の結果を示す。なお、表9に示した荷重は、実施例4における試験体16のピーク荷重を1としたときの相対値である。また、試験体6は実施例2の衝撃吸収部材1に相当する試験体である。
【0134】
【表9】
【0135】
表9より知られるように、貫通穴5の少なくとも一部が第1トリガー部3と軸方向Zにおいて重なっている試験体6及び試験体41は、ピーク荷重と極小点荷重との差が十分に小さくなった。これは、第1トリガー部3近傍の剛性を低減する効果を十分に得ることができたためと考えられる。一方、貫通穴5と第1トリガー部3との重なりを有さない試験体42は、軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置における剛性が十分に低減されず、試験体6及び試験体41に比べてピーク荷重が高くなった。
【0136】
(実施例8)
本例は、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積がエネルギー吸収特性に及ぼす影響について評価した例である。以下に、評価方法を説明する。
【0137】
実施例2の衝撃吸収部材1において、貫通穴5の形状及び大きさを適宜変更し、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積を表10に示す種々の値に変更した試験体51〜53を作製した。そして、実施例4と同様に、これらの試験体のFEM解析を行い、ピーク荷重及び極小点荷重を算出した。表10にFEM解析の結果を示す。なお、表10に示した断面積は、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成する前の断面積に対する百分率であり、荷重は、実施例4における試験体16のピーク荷重を1としたときの相対値である。また、試験体6は実施例2の衝撃吸収部材1に相当する試験体である。
【0138】
【表10】
【0139】
表10より知られるように、第1トリガー部3、第2トリガー部4及び貫通穴5を形成する前の軸方向Zに垂直な断面の断面積に対する、第1トリガー部3の中心31を通り軸方向Zに垂直な断面の断面積の比が50〜90%の範囲に収まる試験体6、51及び52は、ピーク荷重と極小点荷重との差が十分に小さくなった。これは、軸方向Zの第1トリガー部3近傍位置における各試験体の剛性を低減する効果を十分に得ることができ、変形し始める際のピーク荷重をより低減させることができたためと考えられる。
【0140】
一方、上記断面積の比が90%を超える試験体16、53は、ピーク荷重が十分に小さくならなかった。なお、本例においては、上記断面積の比が50%未満となる試験体は、構造上、作製することができなかった。
【0141】
なお、実施例1〜8においては、衝撃吸収部材1を押出形材より作製する例を示したが、これ以外の方法により作成することもできる。例えば、曲げ加工を施した複数の板材を溶接等により組み合わせて作製してもよい。
【0142】
また、荷重入力部11の近傍に、レインフォースメントの溶接による熱影響部が存在する場合には、かかる熱影響部を避けて第1トリガー部3を設けることが好ましい。熱影響部が第1トリガー部3に含まれる場合には、ピーク荷重が過度に低下するおそれがあるため、好ましくない。
【0143】
また、実施例1〜8においては、縦方向Xから見た時に、荷重入力部11側の開口端面111と荷重伝達部12側の開口端面121とが平行に形成されている例を示したが、レインフォースメントの形状との関係から、開口端面111が開口端面121に対して傾斜するように形成されていてもよい。荷重入力部11側の開口端面111が軸方向Zに垂直な面から傾斜する場合、開口端面111と第1トリガー部3の中心31との間の軸方向Zにおける距離は、開口端面111における中心(例えば、
図10に示す符号112)を基準として計測した値とする。