特許第6397653号(P6397653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイヘンの特許一覧

<>
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000018
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000019
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000020
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000021
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000022
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000023
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000024
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000025
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000026
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000027
  • 特許6397653-計測装置、および、算出方法 図000028
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397653
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】計測装置、および、算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 21/06 20060101AFI20180913BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20180913BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G01R21/06 H
   G01R31/00
   H02J13/00 301A
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-97479(P2014-97479)
(22)【出願日】2014年5月9日
(65)【公開番号】特開2015-215204(P2015-215204A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100115369
【弁理士】
【氏名又は名称】仙波 司
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
(72)【発明者】
【氏名】服部 将之
【審査官】 梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0218790(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0301837(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0278234(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/039865(WO,A1)
【文献】 特開2010−288393(JP,A)
【文献】 特開2013−181813(JP,A)
【文献】 特開平06−289069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 11/00 − 11/66
G01R 21/00 − 22/10
G01R 31/00
G01R 31/24 − 31/25
G01R 35/00 − 35/06
H02J 13/00
H02M 7/42 − 7/98
H02S 10/00 − 10/40
H02S 30/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の箇所でそれぞれ計測を行う計測装置であって、
計測値に基づいて内部値を生成する内部値生成手段と、
少なくとも1つの他の計測装置と通信を行う通信手段と、
を備え、
前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の計測装置の少なくとも1つに送信し、
前記内部値生成手段は、
前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の計測装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値を生成し、
前記計測値が変化した場合に、前記生成した内部値に代えて前記計測値を用いて、内部値を生成し、
前記生成した内部値は、最大値または最小値になる、
ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
複数の箇所でそれぞれ計測を行う計測装置であって、
計測値に基づいて内部値を生成する内部値生成手段と、
少なくとも1つの他の計測装置と通信を行う通信手段と、
を備え、
前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の計測装置の少なくとも1つに送信し、
前記内部値生成手段は、
前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の計測装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値を生成し、
前記計測値が変化した場合に、前記計測値を内部値として出力し、
前記生成した内部値は、最大値または最小値になる、
ことを特徴とする計測装置。
【請求項3】
前記内部値生成手段は、
前記生成した内部値と、前記受信した内部値とに基づく演算を行う演算手段と、
前記演算手段が出力する演算結果を積分して、内部値を算出する積分手段と、
を備えている、
請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記演算手段は、前記受信した内部値ごとに前記生成した内部値を減算し、各減算結果のうち減算結果が正の値であるものだけをすべて加算することで、前記演算結果を演算し、
前記生成した内部値は最大値になる、
請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記演算手段は、前記受信した内部値ごとに前記生成した内部値を減算し、各減算結果のうち減算結果が負の値であるものだけをすべて加算することで、前記演算結果を演算し、
前記生成した内部値は最小値になる、
請求項3に記載の計測装置。
【請求項6】
前記内部値生成手段が生成した内部値を表示する表示手段をさらに備えている、
請求項1ないし5のいずれかに記載の計測装置。
【請求項7】
前記内部値生成手段が内部値を生成するタイミングを前記他の計測装置に一致させるタイミング一致手段をさらに備えている、
請求項1ないし6のいずれかに記載の計測装置。
【請求項8】
前記タイミング一致手段は、タイミング位相を生成するタイミング位相生成手段を備え、
前記通信手段は、前記タイミング位相生成手段が生成したタイミング位相を、前記他の計測装置の少なくとも1つに送信し、
前記タイミング位相生成手段は、前記生成したタイミング位相と、前記通信手段が前記他の計測装置の少なくとも1つより受信したタイミング位相とに基づく演算結果を用いて、タイミング位相を生成する、
請求項7に記載の計測装置。
【請求項9】
電圧を検出する電圧センサと、
電流を検出する電流センサと、
前記電圧センサが検出した電圧信号および前記電流センサが検出した電流信号に基づいて、有効電力を前記計測値として算出する有効電力算出手段と、
をさらに備えている、
請求項1ないし8のいずれかに記載の計測装置。
【請求項10】
温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記温度センサが検出した温度を前記計測値とする、
請求項1ないし8のいずれかに記載の計測装置。
【請求項11】
複数の箇所に配置された各計測装置において計測された計測値の最大値または最小値を算出する方法であって、
前記計測値に基づいて内部値を生成する第1の工程と、
前記第1の工程で生成した内部値を少なくとも1つの他の計測装置に送信する第2の工程と、
少なくとも1つの他の計測装置が送信した内部値を受信する第3の工程と、
を各計測装置で行わせることで前記生成した内部値を最大値または最小値に収束させるものであり、
前記第1の工程は、
生成した内部値と、前記第3の工程で受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値を生成し、
前記計測値が変化した場合、前記生成した内部値を前記計測値に置き換える、
ことを特徴とする算出方法。
【請求項12】
複数の装置のそれぞれの内部値のなかでの最大値を算出する方法であって、
前記内部値を生成する第1の工程と、
前記第1の工程で生成した内部値を少なくとも1つの他の装置に送信する第2の工程と、
少なくとも1つの他の装置が送信した内部値を受信する第3の工程と、
を各装置で行わせることで前記生成した内部値を最大値に収束させるものであり、
前記第1の工程は、生成した内部値Xiと、前記第3の工程で受信した内部値Xjとから下記式に基づいて算出された演算結果uiを積分することで、内部値Xiを生成する、
ことを特徴とする算出方法。
ただし、αijは、Xj>Xiの場合に「1」、Xj≦Xiの場合に「0」となる関数である。
【数1】
【請求項13】
複数の装置のそれぞれの内部値のなかでの最小値を算出する方法であって、
前記内部値を生成する第1の工程と、
前記第1の工程で生成した内部値を少なくとも1つの他の装置に送信する第2の工程と、
少なくとも1つの他の装置が送信した内部値を受信する第3の工程と、
を各装置で行わせることで前記生成した内部値を最小値に収束させるものであり、
前記第1の工程は、生成した内部値Yiと、前記第3の工程で受信した内部値Yjとから下記式に基づいて算出された演算結果uiを積分することで、内部値Yiを生成する、
ことを特徴とする算出方法。
ただし、βijは、Yj<Yiの場合に「1」、Yj≧Yiの場合に「0」となる関数である。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の箇所で計測された計測値の最大値または最小値を算出することができる計測装置、および、最大値または最小値の算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電所や風力発電所では、数十台から数百台のインバータ装置が並列接続されて、電力系統に連系している。
【0003】
図11は、従来の太陽光発電所を説明するための図である。各インバータ装置に内蔵された計測装置A100による計測値が監視装置Eに入力され、監視装置Eが各インバータ装置の運転状態の監視を行っている(例えば、特許文献1参照)。監視装置Eに入力される計測値には、例えば、インバータ回路Cの出力有効電力、出力無効電力、出力電圧、出力電流、インバータ回路Cに接続された太陽電池からの入力電力、入力電圧、入力電流、太陽電池への日射量や太陽電池の温度などがある。図11では、計測装置A100が、インバータ回路Cの出力側に配置されて出力有効電力を計測する有効電力計測装置である場合を示している。監視装置Eは、各計測装置A100より入力される計測値に基づいて、発電状態を監視している。監視装置Eは、各計測装置A100より入力される計測値のうちの最大値や最小値を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012‐235658号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Reza Olfati-Saber, J. Alex Fax, and Richard M. Murray, "Consensus and Cooperation in Networked Multi-Agent Systems", Proceedings of the IEEE, Vol.95, No.1, (2007)
【非特許文献2】Mehran Mesbahi and Magnus Egerstedt, "Graph Theoretic Methods in Multiagent Networks", Princeton (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽光発電所では、広大な敷地に各インバータ装置が点在するように設置されている。各インバータ装置に内蔵された計測装置A100では、当該インバータ装置での計測値を知ることができるが、すべてのインバータ装置での計測値のうちの最大値や最小値を知ることができない。最大値や最小値を知るためには、監視装置Eを参照する必要がある。
【0007】
本発明は上述した事情のもとで考え出されたものであって、全ての計測値を収集することなく、全体での最大値または最小値を算出する方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明の第1の側面によって提供される計測装置は、複数の箇所でそれぞれ計測を行う計測装置であって、計測値に基づいて内部値を生成する内部値生成手段と、少なくとも1つの他の計測装置と通信を行う通信手段とを備え、前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の計測装置の少なくとも1つに送信し、前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の計測装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値を生成し、前記計測値が変化した場合に、前記生成した内部値に代えて前記計測値を用いて、内部値を生成することを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の側面によって提供される計測装置は、複数の箇所でそれぞれ計測を行う計測装置であって、計測値に基づいて内部値を生成する内部値生成手段と、少なくとも1つの他の計測装置と通信を行う通信手段とを備え、前記通信手段は、前記内部値生成手段が生成した内部値を、前記他の計測装置の少なくとも1つに送信し、前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と、前記通信手段が前記他の計測装置の少なくとも1つより受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値を生成し、前記計測値が変化した場合に、前記計測値を内部値として出力することを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段は、前記生成した内部値と、前記受信した内部値とに基づく演算を行う演算手段と、前記演算手段が出力する演算結果を積分して、内部値を算出する積分手段とを備えている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記演算手段は、前記受信した内部値から前記生成した内部値をそれぞれ減算し、減算結果が正の値であるものだけをすべて加算することで、前記演算結果を演算する。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記演算手段は、前記受信した内部値から前記生成した内部値をそれぞれ減算し、減算結果が負の値であるものだけをすべて加算することで、前記演算結果を演算する。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段が生成した内部値を表示する表示手段をさらに備えている。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内部値生成手段が内部値を生成するタイミングを前記他の計測装置に一致させるタイミング一致手段をさらに備えている。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記タイミング一致手段は、タイミング位相を生成するタイミング位相生成手段を備え、前記通信手段は、前記タイミング位相生成手段が生成したタイミング位相を、前記他の計測装置の少なくとも1つに送信し、前記タイミング位相生成手段は、前記生成したタイミング位相と、前記通信手段が前記他の計測装置の少なくとも1つより受信したタイミング位相とに基づく演算結果を用いて、タイミング位相を生成する。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、電圧を検出する電圧センサと、電流を検出する電流センサと、前記電圧センサが検出した電圧信号および前記電流センサが検出した電流信号に基づいて、有効電力を前記計測値として算出する有効電力算出手段とをさらに備えている。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、温度を検出する温度センサをさらに備え、前記温度センサが検出した温度を前記計測値とする。
【0019】
本発明の第3の側面によって提供される算出方法は、複数の箇所に配置された各計測装置において計測された計測値の最大値または最小値を算出する方法であって、前記計測値に基づいて内部値を生成する第1の工程と、前記第1の工程で生成した内部値を少なくとも1つの他の計測装置に送信する第2の工程と、少なくとも1つの他の計測装置が送信した内部値を受信する第3の工程とを各計測装置で行わせるものであり、前記第1の工程は、生成した内部値と、前記第3の工程で受信した内部値とに基づく演算結果を用いて、内部値を生成し、前記計測値が変化した場合、前記生成した内部値を前記計測値に置き換えることを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の側面によって提供される算出方法は、複数の装置のそれぞれの内部値のなかでの最大値を算出する方法であって、前記内部値を生成する第1の工程と、前記第1の工程で生成した内部値を少なくとも1つの他の装置に送信する第2の工程と、少なくとも1つの他の装置が送信した内部値を受信する第3の工程とを各装置で行わせるものであり、前記第1の工程は、生成した内部値Xiと、前記第3の工程で受信した内部値Xjとから下記式に基づいて算出された演算結果uiを積分することで、内部値Xiを生成することを特徴とする。ただし、αijは、Xj>Xiの場合に「1」、Xj≦Xiの場合に「0」となる関数である。
【数1】
【0021】
本発明の第5の側面によって提供される算出方法は、複数の装置のそれぞれの内部値のなかでの最小値を算出する方法であって、前記内部値を生成する第1の工程と、前記第1の工程で生成した内部値を少なくとも1つの他の装置に送信する第2の工程と、少なくとも1つの他の装置が送信した内部値を受信する第3の工程とを各装置で行わせるものであり、前記第1の工程は、生成した内部値Yiと、前記第3の工程で受信した内部値Yjとから下記式に基づいて算出された演算結果uiを積分することで、内部値Yiを生成することを特徴とする。ただし、βijは、Yj<Yiの場合に「1」、Yj≧Yiの場合に「0」となる関数である。
【数2】
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、内部値生成手段は、生成した内部値と、通信手段が受信した他の計測装置での内部値とに基づく演算結果と、計測値とを用いて、内部値を生成する。各計測装置の内部値生成手段がこれを行うことで、すべての計測装置での内部値が同じ値に収束する。内部値生成手段が、受信した内部値から生成した内部値をそれぞれ減算し、減算結果が正の値であるものだけをすべて加算した演算結果を積分することで内部値を演算する場合、内部値は、各計測装置の計測値の最大値に収束する。また、内部値生成手段が、受信した内部値から生成した内部値をそれぞれ減算し、減算結果が負の値であるものだけをすべて加算した演算結果を積分することで内部値を演算する場合、内部値は、各計測装置の計測値の最小値に収束する。したがって、各計測装置は、複数の箇所で計測された計測値の全てを収集することなく、全体での最大値または最小値を算出することができる。
【0023】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る計測装置を説明するための図である。
図2】インバータ装置が複数並列接続された太陽光発電所を示す図である。
図3】有効電力算出部3の内部構成の一例を示す図である。
図4】演算部51が行う演算処理を説明するためのフローチャートである。
図5】計測された有効電力の更新による内部最大値Xiの変化を説明するための図である。
図6】各計測装置において最大値が算出されることを確認するシミュレーションを説明するための図である。
図7】各計測装置において最小値が算出されることを確認するシミュレーションを説明するための図である。
図8】各計測装置の他の通信状態を説明するための図である。
図9】第2実施形態に係る計測装置を説明するための図である。
図10】第3実施形態に係る温度計測装置を説明するための図である。
図11】従来の太陽光発電所を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る計測装置を出力有効電力の計測装置として用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1は、第1実施形態に係る計測装置Aを説明するための図であり、電力系統Bに連系するインバータ装置の内部で、インバータ回路Cの出力側に配置されている状態を示している。図2は、インバータ装置が複数並列接続された太陽光発電所を示す図であり、各インバータ装置に内蔵されている計測装置Aが通信を行っている状態を示している。
【0027】
インバータ回路Cは、図示しない太陽電池から入力される直流電力を交流電力に変換して、電力系統Bに出力するものである。計測装置Aは、インバータ回路Cの出力有効電力を計測するものである。インバータ回路C、これを制御する制御回路、計測装置A、および、各種保護装置を備えているインバータ装置が、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。
【0028】
図1に示すように、計測装置Aは、電圧センサ1、電流センサ2、有効電力算出部3、最大値生成部5、表示部6、および、通信部7を備えている。計測装置Aは、電圧センサ1が検出した電圧信号および電流センサ2が検出した電流信号に基づいて、インバータ回路Cが出力する有効電力Pを算出するものである。
【0029】
電圧センサ1は、インバータ回路Cの出力線に配置されて、配置位置の電圧の瞬時値を検出するものである。電圧センサ1は、検出した瞬時値をデジタル変換して、電圧信号として有効電力算出部3に出力する。電流センサ2は、インバータ回路Cの出力線に配置されて、配置位置の電流の瞬時値を検出するものである。電流センサ2は、検出した瞬時値をデジタル変換して、電流信号として有効電力算出部3に出力する。
【0030】
有効電力算出部3は、電圧センサ1より入力される電圧信号および電流センサ2より入力される電流信号に基づいて、有効電力Pを算出するものである。有効電力算出部3は、算出した有効電力Pを、所定のタイミング(例えば、1秒間隔)で更新して、最大値生成部5および表示部6に出力する。
【0031】
図3は、有効電力算出部3の内部構成の一例を示す図である。
【0032】
有効電力算出部3は、3相の電圧信号および電流信号に基づいて、有効電力Pを算出するものであり、αβ変換部31,31’、dq変換部32,32’、および、電力算出部33を備えている。
【0033】
αβ変換部31は、電圧センサ1より入力される3相の電圧信号Vu、Vv、Vwを2相の電圧信号Vα、Vβに変換する。dq変換部32は、αβ変換部31から電圧信号Vα、Vβを入力され、同相成分Vdと位相差成分Vqとを算出する。αβ変換部31’は、電流センサ2より入力される3相の電流信号Iu、Iv、Iwを2相の電流信号Iα、Iβに変換する。dq変換部32’は、αβ変換部31’から電流信号Iα、Iβを入力され、同相成分Idと位相差成分Iqとを算出する。
【0034】
電力算出部33は、dq変換部32より入力される同相成分Vdおよび位相差成分Vqと、dq変換部32’より入力される同相成分Idおよび位相差成分Iqとから、下記(1)式に基づいて、有効電力Pを算出する。電力算出部33は、所定のタイミングで、タイミング間の平均値を算出して、有効電力Pとして出力する。
【数3】
【0035】
なお、図3に示す有効電力算出部3は、あくまでも一例であって、これに限られない。例えば、電圧信号Vα、Vβおよび電流信号Iα、Iβから有効電力Pを算出するようにしてもよいし、電圧信号Vu、Vv、Vwおよび電流信号Iu、Iv、Iwから有効電力Pを算出するようにしてもよい。また、電圧および電流の実効値と、電圧と電流の位相差とから有効電力Pを算出するようにしてもよい。
【0036】
最大値生成部5は、各計測装置Aが算出した有効電力Pの内部最大値Xiを生成するものである。内部最大値Xiは、各計測装置Aの内部で仮に算出される、各計測装置Aが算出した有効電力Pの最大値である。後述するように、各計測装置Aの内部最大値Xiは、最大値生成部5での演算処理が繰り返されることで、各計測装置Aが算出した有効電力Pの最大値に収束する。最大値生成部5は、生成した内部最大値Xiを表示部6および通信部7に出力する。最大値生成部5の詳細については、後述する。
【0037】
表示部6は、計測値を表示するものであり、有効電力算出部3より入力された有効電力Pをインバータ回路Cの出力有効電力として表示する。また、表示部6は、最大値生成部5より入力された内部最大値Xiを発電所に設置されたインバータ装置の出力有効電力の最大値として表示する。
【0038】
通信部7は、他の計測装置Aとの間で通信を行うものである。通信部7は、最大値生成部5が生成した内部最大値Xiを入力され、他の計測装置Aの通信部7に送信する。また、通信部7は、他の計測装置Aの通信部7から受信した内部最大値Xjを、最大値生成部5に出力する。なお、通信方法は限定されず、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0039】
図2に示すように、各計測装置Aは、電力系統Bに連系するインバータ装置の内部で、インバータ回路Cの出力側に配置されている。図2においては、電力系統Bに5つのインバータ装置が連系している状態を示している。なお、実際には、より多くのインバータ装置が連系しているが、説明の簡略化のために極端に少ないケースを示している。
【0040】
図2に示す実線矢印は、計測装置A同士で通信を行っていることを示している。計測装置A1は計測装置A5および計測装置A2とのみ相互通信を行っており、計測装置A2は計測装置A1および計測装置A3とのみ相互通信を行っている。また、計測装置A3は計測装置A2および計測装置A4とのみ相互通信を行っており、計測装置A4は計測装置A3および計測装置A5とのみ相互通信を行っており、計測装置A5は計測装置A4および計測装置A1とのみ相互通信を行っている。このように、計測装置Aは、発電所に設置された各インバータ装置に内蔵されている計測装置Aのうち、少なくとも1つの計測装置Aと通信を行っており、任意の2つの計測装置Aに対して通信経路が存在している状態(以下ではこの状態を「連結状態」と言う。)であればよく、すべての計測装置Aと通信を行う必要はない。
【0041】
例えば、計測装置Aが計測装置A2の場合、通信部7は、最大値生成部5が生成した内部最大値X2を計測装置A1およびA3の通信部7に送信し、計測装置A1の通信部7から内部最大値X1を受信し、計測装置A3の通信部7から内部最大値X3を受信する。
【0042】
次に、最大値生成部5の詳細について説明する。
【0043】
最大値生成部5は、生成した内部最大値Xiと、通信部7より入力される、他の計測装置Aの内部最大値Xjとを用いて、内部最大値Xiを生成する。内部最大値Xiと内部最大値Xjとが異なっていても、最大値生成部5での演算処理が繰り返されることで、内部最大値Xiと内部最大値Xjとが共通の値に収束する。図1に示すように、最大値生成部5は、演算部51、乗算器52および積分器54を備えている。
【0044】
演算部51は、下記(2)式に基づく演算を行う。αijは、Xj>Xiの場合に「1」、Xj≦Xiの場合に「0」となる関数である。すなわち、演算部51は、通信部7より入力される各内部最大値Xjから、最大値生成部5が生成した内部最大値Xiをそれぞれ減算し、減算結果が正の値であるものだけをすべて加算した演算結果uiを乗算器52に出力する。ただし、有効電力算出部3より入力される有効電力Pが変化した場合、内部最大値Xiに代えて有効電力Pを用いて(すなわち、下記(2)において、Xi=Pとして)演算結果uiを算出する。
【数4】
【0045】
例えば、計測装置Aが計測装置A2の場合(図2参照)で、有効電力Pが変化せず、X1>X2>X3であった場合、演算部51は、下記(3)式の演算を行い、演算結果u2を出力する。
【数5】
【0046】
図4は、演算部51が行う演算処理を説明するためのフローチャートである。当該演算処理は、計測装置Aが起動されたときに、実行が開始される。
【0047】
まず、最大値生成部5で前回生成された内部最大値Xiと、通信部7より入力される、他の計測装置Aの内部最大値Xjと、有効電力算出部3より入力される有効電力Pとが取得され(S1)、有効電力Pが更新されたか否かが判別される(S2)。有効電力Pが更新された場合(S2:YES)、内部最大値Xiに有効電力Pが入力される(S3)。有効電力Pが更新されていない場合(S2:NO)、内部最大値Xiはそのままで、ステップS4に進む。
【0048】
次に、演算結果uiが「0」に初期化されて(S4)、すべての内部最大値Xjについて、ステップS6およびS7が繰り返される(S5,S5’)。内部最大値Xjが内部最大値Xiより大きい場合(S6:YES)にのみ、内部最大値Xjから内部最大値Xiを減算した値が演算結果uiに加算される(S7)。
【0049】
すべての内部最大値Xjについて、ステップS6およびS7が繰り返された(S5,S5’)後、演算結果uiが出力され(S8)、ステップS1に戻る。なお、演算部51が行う演算処理は、上述したものに限定されない。例えば、ステップS2で、有効電力Pが更新されたと判別された場合(S2:YES)、演算部51での演算で内部最大値Xiとして有効電力Pを用いる代わりに、積分器54が出力する内部最大値Xiを有効電力Pにする(つまり、ステップS3の代わりに、積分器54から内部最大値Xiとして有効電力Pを出力させて、ステップS1に戻る)ようにしてもよい。
【0050】
乗算器52は、演算部51から入力される演算結果uiに所定の係数εを乗算して積分器54に出力する。係数εは、0<ε<1/dmaxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。dmaxは、通信部7が通信を行う他の計測装置Aの数であるdiのうち、発電所に設置された各インバータ装置に内蔵されているすべての計測装置Aの中で最大のものである。つまり、計測装置Aのなかで、一番多くの他の計測装置Aと通信を行っているものの通信部7に入力される内部最大値Xjの数である。なお、係数εは、内部最大値Xiの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、演算結果uiに乗算されるものである。したがって、平均値生成部5での処理が連続時間処理の場合は、乗算器52を設ける必要はない。
【0051】
積分器54は、乗算器52から入力される値を積分(すなわち、前回生成した内部最大値Xiに乗算器52から入力される値を加算する)することで内部最大値Xiを生成して出力する。内部最大値Xiは、表示部6、通信部7および演算部51に出力される。
【0052】
本実施形態において、最大値生成部5は、生成した内部最大値Xiと、通信部7より入力される、他の計測装置Aの内部最大値Xjとを用いて、内部最大値Xiを生成する。内部最大値Xiがいずれかの内部最大値Xjより小さい場合、その差が加算されて、内部最大値Xiは大きくなる。これにより、内部最大値Xiは、内部最大値Xjの最大値に近づいていく。内部最大値Xiが、内部最大値Xjの最大値に一致した場合、演算結果uiは「0」になって、演算結果uiは変化しなくなる。しかし、この処理が各計測装置Aそれぞれで行われるので、より大きな内部最大値があると、いずれかの内部最大値Xjがその内部最大値に一致するように変化して、内部最大値Xiもその内部最大値Xjに一致するようになる。したがって、内部最大値Xiは全体での最大値に収束する。いずれかの計測装置Aの有効電力Pが更新された場合、その計測装置Aの内部最大値Xiが更新された有効電力Pに置き換えられて、各計測装置Aの内部最大値Xiは、新たな最大値へと収束する。
【0053】
図5は、有効電力Pの更新による内部最大値Xiの変化を説明するための図である。
【0054】
図5においては、2つの計測装置A1およびA2の最大値を算出する場合について説明する。計測装置A1およびA2で計測された有効電力PをそれぞれP1およびP2とし、計測装置A1およびA2の最大値生成部5で生成された内部最大値をそれぞれX1およびX2として示している。P1は、時刻t0からt1までが「40」で、時刻t1からt2までが「35」で、時刻t2以降が「40」とし、P2は、時刻t0からt1までが「20」で、時刻t1からt2までが「30」で、時刻t2以降が「45」としている。
【0055】
1およびX2は、時刻t0においてそれぞれ「40」および「20」であるが、X2はすぐに「40」に変化する。その後、時刻t1で、P1が「35」に更新されるので、X1は「35」に更新される。また、P2が「30」に更新されるので、X2は「30」に更新されるが、すぐに「35」に変化する。そして、時刻t2で、P2が「45」に更新されるので、X2は「45」に更新される。また、P1が「40」に更新されるので、X1は「40」に更新されるが、すぐに「45」に変化する。
【0056】
以下に、図2に示す各計測装置A1〜A5において、最大値が算出されることを確認するシミュレーションについて説明する。
【0057】
図6は、当該シミュレーションを説明するための図である。同図(a)は、各計測装置A1〜A5の有効電力算出部3が出力する有効電力P(すなわち、計測値)の時間変化を示している。各計測値は乱数を用いて1秒毎にランダムに変化させている。また、通信部7による通信周期は10ミリ秒とし、εは1/3としている。
【0058】
同図(b)は、各計測装置A1〜A5の最大値生成部5が出力する内部最大値Xiの時間変化を示している。同図(b)に示すように、計測値の更新時には、各計測装置A1〜A5の内部最大値Xiが過渡的に変化するが、最大値に収束していることが確認できる。表示部6において、定常状態になってから(例えば、計測値の更新から0.1秒後など)、内部最大値Xiを表示するようにすれば、全体での最大値を表示することができる。
【0059】
本実施形態によると、発電所に設置された各インバータ装置に内蔵されている計測装置Aが、それぞれ少なくとも1つの計測装置A(例えば、近隣に位置するものや、通信が確立されたもの)と相互通信を行っており、各計測装置Aの通信状態が連結状態であることで、すべての計測装置Aの内部最大値Xiが同じ値に収束する。収束値は、各計測装置Aの内部最大値Xiの最大値である。また、有効電力Pが更新された場合、内部最大値Xiが更新された有効電力Pに置き換えられて、内部最大値Xiは、新たな最大値へと収束する。他の計測装置Aの有効電力Pが更新された場合も、その計測装置Aの内部最大値Xiが更新された有効電力Pに置き換えられて、各計測装置Aの内部最大値Xiは、新たな最大値へと収束する。これにより、内部最大値Xiは、各計測装置Aの有効電力Pの最大値を算出することができる。表示部6は、内部最大値Xiを表示する。したがって、監視装置Eを参照しなくても、各計測装置Aで発電所全体での出力有効電力の最大値を知ることができる。
【0060】
なお、上記第1実施形態においては、計測装置Aが最大値を算出する場合について説明したが、これに限られない。計測装置Aが最小値を算出するようにすることもできる。
【0061】
計測装置Aが最大値に代えて最小値を算出するようにするためには、演算部51での演算処理を変更すればよい。ここでは、最小値生成部5’が、生成した内部最小値Yiと、通信部7より入力される、他の計測装置Aの内部最小値Yjとを用いて、内部最小値Yiを生成する場合について説明する。なお、この場合の計測装置Aの構成は、図1に示したものと同様であり、演算部51での演算処理を変更したにすぎないので、図示を省略している。図1に示した最大値生成部5が内部最大値を生成するものであったので、ここでは、内部最小値を生成する最小値生成部5’として説明する。
【0062】
最小値生成部5’の演算部51は、下記(4)式に基づく演算を行う。βijは、Yj<Yiの場合に「1」、Yj≧Yiの場合に「0」となる関数である。すなわち、演算部51が、通信部7より入力される各内部最小値Yjから、最小値生成部5’が生成した内部最小値Yiをそれぞれ減算し、減算結果が負の値であるものだけをすべて加算した演算結果uiを積分器54に出力する。ただし、有効電力算出部3より入力される有効電力Pが変化した場合、内部最小値Yiに代えて有効電力Pを用いて(すなわち、下記(4)において、Yi=Pとして)演算結果uiを算出する。
【数6】
【0063】
以下に、図2に示す各計測装置A1〜A5において、最小値が算出されることを確認するシミュレーションについて説明する。
【0064】
図7は、当該シミュレーションを説明するための図である。同図(a)は、図6(a)と共通しており、各計測装置A1〜A5の有効電力算出部3が出力する有効電力P(すなわち、計測値)の時間変化を示している。
【0065】
図7(b)は、各計測装置A1〜A5の最小値生成部5’が出力する内部最小値Yiの時間変化を示している。同図(b)に示すように、計測値の更新時には、各計測装置A1〜A5の内部最小値Yiが過渡的に変化するが、最小値に収束していることが確認できる。表示部6において、定常状態になってから(例えば、計測値の更新から0.1秒後など)、内部最小値Yiを表示するようにすれば、全体での最小値を表示することができる。
【0066】
なお、最大値生成部5および最小値生成部5’を両方設けて、計測装置Aが最大値および最小値を算出できるようにしてもよい。
【0067】
上記第1実施形態においては、各計測装置Aが相互通信を行う場合について説明したが、これに限られず、片側通信を行うようにしてもよい。例えば、図8に示すように、計測装置A1が計測装置A5から受信のみを行って、計測装置A2に送信のみを行い、計測装置A2が計測装置A1から受信のみを行って、計測装置A3に送信のみを行い、計測装置A3が計測装置A2から受信のみを行って、計測装置A4に送信のみを行い、計測装置A4が計測装置A3から受信のみを行って、計測装置A5に送信のみを行い、計測装置A5が計測装置A4から受信のみを行って、計測装置A1に送信のみを行う場合でも、内部最大値Xiを最大値に収束させることができる。より一般的に言うと、任意の計測装置Aから送信先をたどっていくと、任意の計測装置Aに到達することができる状態(グラフ理論における「強連結」状態)であることが内部最大値Xiを最大値に収束させるための条件である。
【0068】
上記第1実施形態においては、最大値生成部5が内部最大値Xiを生成するタイミングについて言及していないが、各計測装置Aの最大値生成部5での内部最大値Xiの生成タイミングは一致させることが望ましい。
【0069】
各計測装置Aの最大値生成部5での内部最大値Xiの生成タイミングが一致しない場合、内部最大値Xiの収束値と実際の最大値との間の誤差が大きくなる場合がある。したがって、大きな誤差の発生を抑制するためには、各計測装置Aの最大値生成部5での内部最大値Xiの生成タイミングを一致させる必要がある。内部最大値Xiの生成タイミングを一致させる方法としては、例えば、GPS(Global Positioning System)の時刻情報を利用する方法がある。すなわち、GPSの時刻情報を用いて、同じタイミングで各計測装置Aの最大値生成部5が内部最大値Xiを生成するようにすればよい。また、生成タイミングのためのタイミング位相を各計測装置Aに生成させ、このタイミング位相を同じ位相に一致させる方法がある。
【0070】
図9は、第2実施形態に係る計測装置Aを説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る計測装置A(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第2実施形態に係る計測装置Aは、タイミング位相生成部8およびタイミング生成部9をさらに備えている点と、通信部7が内部最大値Xiに加えてタイミング位相θiの送受信も行う点で、第1実施形態に係る計測装置Aと異なる。
【0071】
タイミング位相生成部8は、最大値生成部5での内部最大値Xiの生成タイミングを指示するためのタイミング位相θiを生成するものである。タイミング位相生成部8は、生成したタイミング位相θiを通信部7およびタイミング生成部9に出力する。タイミング位相生成部8は、生成したタイミング位相θiと、通信部7より入力される、他の計測装置Aのタイミング位相θjとを用いて、タイミング位相θiを生成する。タイミング位相θiとタイミング位相θjとが異なっていても、タイミング位相生成部8での演算処理が繰り返されることで、タイミング位相θiとタイミング位相θjとが共通のタイミング位相に収束する。図9に示すように、タイミング位相生成部8は、演算部81、乗算器82、加算器83および積分器84を備えている。
【0072】
演算部81は、下記(5)式に基づく演算を行う。すなわち、演算部81は、通信部7から入力される各タイミング位相θjから、タイミング位相生成部8が生成したタイミング位相θiをそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した演算結果u’iを乗算器82に出力する。
【数7】
【0073】
乗算器82は、演算部81から入力される演算結果u’iに所定の係数ε’を乗算して加算器83に出力する。係数ε’は、0<ε’<1/dmaxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。なお、係数ε’は、修正角周波数ωiが大きく(小さく)なりすぎて、タイミング位相θiの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、演算結果u’iに乗算されるものである。したがって、タイミング位相生成部8での処理が連続時間処理の場合は、乗算器82を設ける必要はない。
【0074】
加算器83は、乗算器82からの入力を所定の角周波数ω0に加算して、修正角周波数ωiとして積分器84に出力する。角周波数ω0は、タイミング周波数に対応するものである。積分器84は、加算器83から入力される修正角周波数ωiを積分することでタイミング位相θiを生成して出力する。積分器84は、前回生成したタイミング位相θiに修正角周波数ωiを加算することでタイミング位相θiを生成する。また、積分器84は、タイミング位相θiを(−π<θi≦π)の範囲の値として出力する。なお、タイミング位相θiの範囲の設定の仕方はこれに限定されず、例えば、(0≦θi<2π)としてもよい。タイミング位相θiは、タイミング生成部9、通信部7および演算部81に出力される。
【0075】
第2実施形態において、タイミング位相生成部8は、生成したタイミング位相θiと、通信部7より入力される、他の計測装置Aのタイミング位相θjとを用いて、タイミング位相θiを生成する。タイミング位相θiが各タイミング位相θjの相加平均値より大きい場合、演算部81が出力する演算結果u’iは負の値になる。そうすると、修正角周波数ωiは所定の角周波数ω0より小さくなり、タイミング位相θiの変化量は小さくなる。一方、タイミング位相θiが各タイミング位相θjの相加平均値より小さい場合、演算部81が出力する演算結果u’iは正の値になる。そうすると、修正角周波数ωiは所定の角周波数ω0より大きくなり、タイミング位相θiの変化量は大きくなる。つまり、タイミング位相θiは各タイミング位相θjの相加平均値に近づいていく。この処理が各計測装置Aそれぞれで行われることにより、各計測装置Aのタイミング位相θiは同じ値に収束する。タイミング位相θiは時間とともに変化するものであり、角周波数ω0に応じて変化する成分と、初期位相のずれを補償するように変化する成分とを合成したものと考えることができる。後者が同じ値θαに収束することで、各計測装置Aのタイミング位相θiも同じ値に収束する。後者が同じ値θαに収束することは、数学的にも証明されている(非特許文献1,2参照)。また、収束値θαが、下記(6)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の相加平均値になることも証明されている。nは発電所に設置されたインバータ装置の数(すなわち、計測装置Aの数)であり、下記(6)式は、計測装置A1〜Anのタイミング位相θ1〜θnの初期値をすべて加算してnで除算した相加平均値を算出することを示している。
【数8】
【0076】
なお、第2実施形態においては、タイミング位相生成部8での処理の周期Tが1秒である場合について説明している。周期Tが例えば0.1秒の場合、加算器83で乗算器82からの入力を加算されるのは、角周波数ω0を1/10にした(0.1を掛けた)値になる。つまり、ω0に代えてTω0が入力される。
【0077】
タイミング生成部9は、最大値生成部5に内部最大値Xiの生成タイミングを指示するタイミング信号を出力するものである。タイミング生成部9は、タイミング位相生成部8より入力されるタイミング位相θiに基づいて、タイミング信号を出力する。具体的には、タイミング位相θiが「0」になるタイミングでタイミング信号を出力する。なお、タイミング信号を出力するタイミングは「0」に限定されない。また、タイミング位相θiが「0」になった回数が予定の回数になったタイミングでタイミング信号を出力するようにしてもよい。また、タイミング生成部9は、有効電力算出部3および通信部7にも、それぞれの処理周期に応じて分周されたタイミング信号を出力する。
【0078】
第2実施形態によると、各計測装置Aはそれぞれ少なくとも1つの計測装置Aと相互通信を行っており、各計測装置Aの通信状態が連結状態なので、すべての計測装置Aのタイミング位相θiが同じ値に収束する。したがって、各計測装置Aは、最大値生成部5での内部最大値Xiの生成タイミングを一致させることができる。これにより、各計測装置Aは、内部最大値Xiを精度よく実際の最大値に収束させることができる。また、各計測装置Aは、有効電力算出部3での有効電力算出のタイミングおよび通信部7での通信のタイミングも一致させることができる。
【0079】
なお、第2実施形態においては、計測装置Aのタイミング位相θiの初期位相のずれを補償するように変化する成分を、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の相加平均値に収束させる場合について説明したが、これに限られない。演算部81に設定する演算式によって、収束値θαは変わってくる。
【0080】
例えば、演算部81に設定する演算式を下記(7)式とした場合、収束値θαは下記(8)式に示すような値になる。diは、通信部7が通信を行う他の計測装置Aの数、すなわち、通信部7に入力されるタイミング位相θjの数である。つまり、収束値θαは、通信相手の数による重み付けを行った、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の加重平均値である。
【数9】
【0081】
また、演算部81に設定する演算式を下記(9)式とした場合、収束値θαは下記(10)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の相乗平均値(幾何平均値)になる。
【数10】
【0082】
また、演算部81に設定する演算式を下記(11)式とした場合、収束値θαは下記(12)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の調和平均値になる。
【数11】
【0083】
また、演算部81に設定する演算式を下記(13)式とした場合、収束値θαは下記(14)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値のP次平均値になる。
【数12】
【0084】
また、上記第1実施形態に係る演算部51で説明した、最大値(または最小値)を算出するアルゴリズムを用いて、収束値θαを各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の最大値(または最小値)とするようにしてもよい。
【0085】
演算部81に設定する演算式を下記(15)式とした場合、収束値θαは、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の最大値になる。なお、αijは、θj>θiの場合に「1」、θj≦θiの場合に「0」となる関数である。
【数13】
【0086】
同様に、演算部81に設定する演算式を下記(16)式とした場合、収束値θαは、各計測装置Aのタイミング位相θiの初期値の最小値になる。なお、βijは、θj<θiの場合に「1」、θj≧θiの場合に「0」となる関数である。
【数14】
【0087】
このように、上述した最大値(または最小値)を算出するアルゴリズムは、最大値(または最小値)を算出するために使用する以外にも、位相やタイミング、その他の内部値などを一致させるためにも用いることができる。
【0088】
上記第1および第2実施形態においては、計測装置Aが出力有効電力の最大値(または最小値)を算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、有効電力算出部3で有効電力を算出する代わりに無効電力を算出するようにすれば、計測装置Aを、出力無効電力の最大値(または最小値)を算出できる無効電力計測装置として機能させることができる。また、インバータ回路Cの出力電圧や出力電流を計測して、これらの最大値(または最小値)を算出するようにしてもよいし、インバータ回路Cに接続された太陽電池からの入力電力、入力電圧、入力電流を計測して、これらの最大値(または最小値)を算出するようにしてもよい。また、電圧信号から電圧位相や周波数を検出して、これらの最大値(または最小値)を算出するようにしてもよい。また、太陽電池への日射強度や日射量、太陽電池の温度などを計測して、これらの最大値(または最小値)を算出するようにしてもよい。さらに、これらの計測値のうちのいくつか、あるいはすべての最大値(または最小値)をそれぞれ算出するようにしてもよい。
【0089】
上記第1および第2実施形態においては、計測装置Aが太陽光発電所に設置されて太陽電池に接続されるインバータ装置に内蔵される場合について説明したが、これに限られない。例えば、風力発電所に設置されるインバータ装置に内蔵される計測装置にも、本発明を適用することができる。この場合、風速や風量を計測してその最大値(または最小値)を算出するようにしてもよい。また、電力系統の配電線や送電線、各家庭や建物のコンセントに配置されて、電気的情報(電圧、電流、電力など)を計測する計測装置にも、本発明を適用することができる。また、燃料電池、蓄電池、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機などの出力の電気的情報を計測する計測装置にも、本発明を適用することができる。
【0090】
また、電気的情報以外の情報(例えば、前述の温度、日射強度、日射量、風速、風量のほか、気圧、流量、重量などでも)を計測する計測装置にも、本発明を適用することができる。計測装置Aを温度計測装置として機能させる場合を、第3実施形態として、以下に説明する。
【0091】
図10は、第3実施形態に係る計測装置(温度計測装置)A’を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る計測装置A(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第3実施形態に係る温度計測装置A’は、電圧センサ1、電流センサ2および有効電力算出部3に代えて温度センサ1’を備えている点で、第1実施形態に係る計測装置Aと異なる。
【0092】
温度センサ1’は、配置位置の温度Tを検出するものであり、例えばサーミスタや熱電対を利用したものである。検出された温度Tは、最大値生成部5および表示部6に出力される。最大値生成部5は、内部最大値Xiを生成し、通信部7を介して他の温度計測装置A’と送受信を行う。
【0093】
第3実施形態においても、各温度計測装置A’がそれぞれ少なくとも1つの温度計測装置A’と相互通信を行っており、各温度計測装置A’の通信状態が連結状態であれば、すべての温度計測装置A’の内部最大値Xiを実際の最大値に収束させることができる。したがって、各温度計測装置A’が計測した温度の最大値を表示部6に表示することができる。第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0094】
上記第1ないし第3実施形態においては、計測装置Aで最大値(または最小値)を算出するアルゴリズムを用いた場合について説明したが、これに限られない。当該アルゴリズム(最大値(または最小値)を算出する方法)は、その他の装置でも用いることができる。例えば、太陽光発電所の各インバータ装置において、インバータ回路を制御する制御回路で当該アルゴリズムを用いて、各インバータ装置の出力有効電力を最大の有効電力に制御するようにしてもよい。また、当該アルゴリズムを、最大値(または最小値)を算出するために使用するのではなく、位相やタイミング、その他の内部値などを一致させるために用いるようにしてもよい。例えば、太陽光発電所の各インバータ装置の制御回路で当該アルゴリズムを用いて、制御回路の内部位相を同期させるようにしてもよい。
【0095】
本発明に係る計測装置および算出方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る計測装置および算出方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0096】
A,A1〜A5 計測装置
A’ 温度計測装置
1 電圧センサ
1’ 温度センサ
2 電流センサ
3 有効電力算出部
31,31’ αβ変換部
32,32’ dq変換部
33 電力算出部
5 最大値生成部(内部値生成手段)
5’ 最小値生成部(内部値生成手段)
51 演算部
54 積分器
6 表示部
7 通信部
8 タイミング位相生成部(タイミング一致手段)
81 演算部
82 乗算器
83 加算器
84 積分器
9 タイミング生成部(タイミング一致手段)
B 電力系統
C,C1〜C5 インバータ回路
E 監視装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11