特許第6397654号(P6397654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397654
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】有機EL発光装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20180913BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180913BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20180913BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20180913BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20180913BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H05B33/04
   H05B33/14 A
   H05B33/26 Z
   H05B33/12 B
   H05B33/22 Z
   H01L27/32
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-99756(P2014-99756)
(22)【出願日】2014年5月13日
(65)【公開番号】特開2015-216083(P2015-216083A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏浩
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−023028(JP,A)
【文献】 特開2013−069701(JP,A)
【文献】 特開昭64−041192(JP,A)
【文献】 特開2000−133440(JP,A)
【文献】 特開2007−273274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H01L 51/50
H05B 33/12
H05B 33/22
H05B 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
薄膜トランジスタ及び複数の無機絶縁膜を含み前記基板上に形成された第1の層と、
前記第1の層の上に設けられた第1有機膜と、
前記第1有機膜の上に設けられた第1のダイアモンドライクカーボン層と、
前記第1のダイアモンドライクカーボン層の上に設けられた有機発光素子と、
前記有機発光素子の上に設けられた第2のダイアモンドライクカーボン層と、
第1の窒化シリコン膜を含み前記第2のダイアモンドライクカーボン層の上に形成された保護膜と、
を有し、
前記基板の縁と前記第1有機膜の縁との間の第1の距離は、前記基板の縁と前記第1のダイアモンドライクカーボン層の縁との間の第2の距離より大きく、
前記第1の距離は、前記基板の縁と前記第2のダイアモンドライクカーボン層の縁との間の第3の距離より大きいこと、
を特徴とする有機EL発光装置。
【請求項2】
請求項に記載の有機EL発光装置において、
さらに、有機材料で形成されたバンク絶縁層を有し、
前記有機発光素子は、陽極と、有機発光層を含み前記陽極の上に形成された有機材料層と、前記有機材料層の上に形成された陰極と、を有し、
前記バンク絶縁層は、前記陽極を露出する部分を設けつつ前記陽極の縁を覆い、当該縁にて前記陽極と前記有機発光層との間に形成され、
前記基板の縁と前記バンク絶縁層の縁との間の第4の距離は、前記第2の距離より大きく、
前記第4の距離は前記第3の距離より大きいこと、
を特徴とする有機EL発光装置。
【請求項3】
請求項に記載の有機EL発光装置において、
前記有機発光素子を含んだ表示領域と、前記表示領域を囲んだ周囲領域とを有し、
前記周囲領域にて前記第1のダイアモンドライクカーボン層と前記第2のダイアモンドライクカーボン層とがそれらの間に有機材料を挟まずに積層された封止構造が形成されていること、
を特徴とする有機EL発光装置。
【請求項4】
請求項に記載の有機EL発光装置において、
前記封止構造にて、前記第1のダイアモンドライクカーボン層、前記陰極及び前記第2のダイアモンドライクカーボン層がこの順で積層されていること、
を特徴とする有機EL発光装置。
【請求項5】
請求項に記載の有機EL発光装置において、
前記封止構造にて、前記第1のダイアモンドライクカーボン層は、前記第2のダイアモンドライクカーボン層と接すること、
を特徴とする有機EL発光装置。
【請求項6】
請求項に記載の有機EL発光装置において、
前記基板の縁と前記陰極の縁との間の第5の距離は、前記第2の距離より小さく、
前記第5の距離は、前記第3の距離より大きいこと、
を特徴とする有機EL発光装置。
【請求項7】
請求項に記載の有機EL発光装置において、
前記保護膜は、前記第1の窒化シリコン膜の上に形成された樹脂材料と、前記樹脂材料の上に形成された第2の窒化シリコン膜とを含むこと
を特徴とする有機EL発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス(electroluminescence:EL)発光素子を備えた照明装置や表示装置などの有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型で軽量な発光源として、OLED(organic light emitting diode)、すなわち有機EL素子が注目を集めており、OLEDを用いた照明装置や表示装置が開発されている。
【0003】
例えば、従来の有機EL表示装置は、OLEDなどが形成された素子基板と、カラーフィルタなどが形成された対向基板とを、間に充填用樹脂層を挟んで貼り合わせた構造を有する。素子基板には、ガラス基板などの上に薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)などの構造が形成され、当該構造の上に層間絶縁膜が形成される。さらにその表面を平坦化膜を積層して平坦化した後、陽極、有機材料層、陰極などからなるOLEDの積層構造が形成される。そしてOLED層の上に封止膜が積層される。OLEDの有機材料層は水分によって特性が劣化することに対応して、封止膜は充填用樹脂層に含まれる水分からOLEDを保護する防湿機能を有する。例えば、封止膜は窒化シリコン(SiN)などで形成されることが多い。
【0004】
なお、水分遮断に有効な薄膜材料としてダイヤモンドライクカーボン (diamond-like carbon:DLC)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−93586号公報
【特許文献2】特開2002−324667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
素子基板の表面を覆う封止膜は、充填用樹脂層からの水分を遮断するが、素子基板内に存在する水分などからOLEDを保護することはできないという問題があった。具体的には、素子基板内の平坦化膜などに樹脂層が用いられ得る。平坦化膜など素子基板を構成する層は比較的薄く、素子基板内の樹脂層に含まれる水分などの放出は充填用樹脂層に比べれば少ない。しかし、長期間のうちには徐々に水分や酸素ガスなど、OLEDの劣化を生じる物質が放出され得る。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、OLEDの劣化が抑制される有機EL発光装置を提供する。又は、高画質の画像を表示することができる有機EL発光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る有機EL発光装置は、発光層を含む有機材料層を備え基板上に形成された発光素子と、前記基板と前記有機材料層との間に形成され、前記基板に沿った面内における発光領域に少なくとも配置された第1のダイアモンドライクカーボン層と、前記有機材料層より上に形成され、前記発光領域に少なくとも配置された第2のダイアモンドライクカーボン層と、を有する。
【0009】
(2)上記(1)に記載する有機EL発光装置において、前記発光素子は前記有機材料層を間に挟み当該有機材料層に電気信号を印加する下部電極と上部電極とを有し、前記第1のダイアモンドライクカーボン層は前記下部電極の下面に接触して積層される構造とすることができる。
【0010】
(3)上記(1)に記載する有機EL発光装置において、前記発光素子は前記有機材料層を間に挟み当該有機材料層に電気信号を印加する下部電極と上部電極とを有し、前記第2のダイアモンドライクカーボン層は前記上部電極の上面に接触して積層される構造とすることができる。
【0011】
(4)上記(1)から(3)に記載する有機EL発光装置は、表示領域に二次元配列される複数の画素それぞれに前記発光素子が形成された有機EL表示装置であり、前記第1及び第2のダイアモンドライクカーボン層はそれぞれ前記複数の画素に亘り一体に形成される構造とすることができる。
【0012】
(5)上記(4)に記載する有機EL発光装置において、前記発光素子は、前記有機材料層の上に前記複数の画素に亘り一体に形成された上部電極と、前記有機材料層の下に前記画素ごとに形成された下部電極とを有し、前記第2のダイアモンドライクカーボン層は導電性を有し、前記上部電極の上面に接触して積層される構造とすることができる。
【0013】
(6)上記(4)に記載する有機EL発光装置において、前記第1及び第2のダイアモンドライクカーボン層同士の間は前記表示領域の縁の外側にて互いに接して、又は他の無機材料を介在して閉じている構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置の概略の構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置の表示パネルの模式的な平面図である。
図3図2に示すIII−III線に沿った位置での本発明の第1の実施形態の表示パネルの模式的な垂直断面図である。
図4図2に示すIII−III線に沿った位置での本発明の第2の実施形態の表示パネルの模式的な垂直断面図である。
図5図2に示すV−V線に沿った位置での本発明の第2の実施形態の表示パネルの模式的な垂直断面図である。
図6】本発明の変形例における画素アレイ部の模式的な垂直断面図である。
図7】本発明の変形例における表示パネルの模式的な垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0016】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0017】
本発明の実施形態に係る有機発光装置は有機EL表示装置である。有機EL表示装置は、アクティブマトリックス型表示装置であり、テレビ、パソコン、携帯端末、携帯電話等に搭載される。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る有機EL表示装置2の概略の構成を示す模式図である。有機EL表示装置2は、画像を表示する画素アレイ部4と、当該画素アレイ部を駆動する駆動部とを備える。有機EL表示装置2はフラットパネルディスプレイであり表示パネルを備え、画素アレイ部4は表示パネルに設けられる。
【0019】
画素アレイ部4には画素に対応してOLED6及び画素回路8がマトリクス状に配置される。画素回路8は複数のTFT10,12やキャパシタ14で構成される。
【0020】
一方、駆動部は走査線駆動回路20、映像線駆動回路22、駆動電源回路24及び制御装置26を含み、画素回路8を駆動しOLED6の発光を制御する。
【0021】
走査線駆動回路20は画素の水平方向の並び(画素行)ごとに設けられた走査信号線28に接続されている。走査線駆動回路20は制御装置26から入力されるタイミング信号に応じて走査信号線28を順番に選択し、選択した走査信号線28に、点灯TFT10をオンする電圧を印加する。
【0022】
映像線駆動回路22は画素の垂直方向の並び(画素列)ごとに設けられた映像信号線30に接続されている。映像線駆動回路22は制御装置26から映像信号を入力され、走査線駆動回路20による走査信号線28の選択に合わせて、選択された画素行の映像信号に応じた電圧を各映像信号線30に出力する。当該電圧は、選択された画素行にて点灯TFT10を介してキャパシタ14に書き込まれる。駆動TFT12は書き込まれた電圧に応じた電流をOLED6に供給し、これにより、選択された走査信号線28に対応する画素のOLED6が発光する。
【0023】
駆動電源回路24は画素列ごとに設けられた駆動電源線32に接続され、駆動電源線32及び選択された画素行の駆動TFT12を介してOLED6に電流を供給する。
【0024】
ここで、OLED6の陽極(アノード)は駆動TFT12に接続される。一方、各OLED6の陰極(カソード)は基本的に接地電位に接続され、全画素のOLED6の陰極は共通の電極で構成される。
【0025】
図2は有機EL表示装置2の表示パネル40の模式的な平面図である。表示パネル40の表示領域42に画素アレイ部4が配置され、上述したように画素アレイ部4にはOLEDが配列される。上述したようにOLED6を構成する陰極44は各画素に共通に形成され、表示領域42全体を覆う。後述するように本発明ではOLED6の上下はDLC膜で覆われる。それら上下のDLC膜は画素アレイ部4の周囲の領域46にて互いに接着され、OLED6を封止して外部の水分や酸素ガスなどから保護する。
【0026】
矩形である表示パネル40の一辺には、画素アレイ部4から配線が引き出された端子領域48が設けられ、ここにフレキシブルプリント基板(Flexible Printed Circuit:FPC)50が接続されている。FPC50には駆動部を構成するドライバIC52が搭載されている。
【0027】
図3図2に示すIII−III線に沿った位置での表示パネル40の模式的な垂直断面図である。有機EL表示装置2は素子基板60と対向基板62とを、間に充填材64を挟んで貼り合わせた構造を有する。本実施形態において画素アレイ部はトップエミッション型であり、素子基板60上に発光素子であるOLED6が形成され、OLED6で生じた光を対向基板62から出射する。すなわち、図3においてOLEDの光は上向きに出射する。例えば、有機EL表示装置2におけるカラー化方式はカラーフィルタ方式であり、OLEDにて白色光を生成し、当該白色光をカラーフィルタを通すことで例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)などの色の光を作る。
【0028】
素子基板60は例えば、ガラスや樹脂フィルムからなる下基板70にTFT72などからなる回路や、OLED6などが各種の層を積み重ね、またパターニングすることによって形成される。
【0029】
具体的には下基板70の上に窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)などの無機絶縁材料からなる下地層80を介してポリシリコン(p−Si)層が形成され、当該p−Si層によりTFT72のチャネル部及びソース・ドレイン部となる半導体領域82などが形成される。
【0030】
半導体領域82の形成後、ゲート絶縁膜84を積層する。ゲート絶縁膜84は例えば、SiOからなり化学蒸着法(chemical vapor deposition:CVD)で形成することができる。半導体領域82のうちTFT72のチャネル部の上にゲート絶縁膜84を介してゲート電極86を配置する。ゲート電極86はスパッタリング等で形成した金属膜をパターニングして形成される。この後、ゲート電極86を覆う層間絶縁膜88を積層する。層間絶縁膜88は例えば、CVD法でSiNやSiOなどを積層して形成される。
【0031】
層間絶縁膜88及びゲート絶縁膜84を貫き半導体領域82のソース部及びドレイン部それぞれに達するコンタクトホールを形成し、当該コンタクトホール内及び層間絶縁膜88上にスパッタリングにより金属膜を形成し、当該金属膜をパターニングして配線、並びにTFT72のソース電極90a及びドレイン電極90bなどが形成される。
【0032】
このようにしてTFT72を形成した後、層間絶縁膜92を積層する。層間絶縁膜92は例えば、CVD法でSiNやSiOなどを積層して形成される。
【0033】
層間絶縁膜92の表面には、スパッタリング等で形成した金属膜をパターニングして配線94等を形成することができ、当該金属膜とゲート電極86の形成に用いた金属膜とで例えば、走査信号線28、映像信号線30、駆動電源線32を多層配線構造で形成することができる。
【0034】
この上に例えば、アクリル樹脂等の有機材料を積層して平坦化膜96が形成され、これにより平坦化された表示領域42の表面にOLED6が形成される。OLED6は下部電極100、有機材料層102及び上部電極104で構成され、これら下部電極100、有機材料層102及び上部電極104は下基板70側から順に積層される。本実施形態では下部電極100がOLEDの陽極(アノード)であり、上部電極104が陰極(カソード)である。有機材料層102は正孔輸送層、発光層、電子輸送層等を含んで構成される。
【0035】
有機EL表示装置2はその特長的構成の一つとして、OLEDが形成される下基板70と有機材料層102との間に形成された第1のDLC層110、及び有機材料層102より上に形成された第2のDLC層112を有する。DLC層110,112は表示パネル40にて発光領域となる画素アレイ部4に少なくとも配置される。本実施形態ではDLC層110,112は上述した画素アレイ部4の周囲の領域46にまで広がる。本実施形態では、DLC層110は下部電極100の下面に接触して積層される。例えば、平坦化膜96の上にDLC層110が積層され、その表面に下部電極100が形成される。また、DLC層112は上部電極104の上面に接触して積層することができる。
【0036】
素子基板60における平坦化膜96より上の構造についてさらに詳細に説明する。DLC層110は平坦化膜96の表面に、例えばプラズマCVD法で成膜される。DLC層110は、平坦化膜96などDLC層110より下の層から放出される水分などがOLED6の有機材料層102に達することを阻止する特性を有するように形成される。例えば、平坦化膜96を構成する有機材料層が厚いほど、放出される水分量も多くなり得るので、DLC層110の厚さは例えば平坦化膜96の厚みに応じて設定することができる。また、DLC層110はその表面に画素ごとに分離して形成される下部電極100間の短絡を防止するために絶縁性を有する。
【0037】
DLC層110の形成後、下部電極100をTFT72に接続するためのコンタクトホール120が形成される。図3に示すTFT72がnチャネルを有した駆動TFT12であるとすると、下部電極100はTFT72のソース電極90aに接続される。具体的には、DLC層110、平坦化膜96及び層間絶縁膜92にソース電極90aに達するコンタクトホール120が形成される。そして、DLC層110の表面及びコンタクトホール120内に導電体膜を形成し、これをパターニングして、コンタクトホール120を介してソース電極90aに電気的に接続される下部電極100が画素ごとに形成される。
【0038】
下部電極100は例えば、インジウム錫複合酸化物(indium tin oxide:ITO)などの透明電極材料で形成することができる。ITO膜はAr+O混合ガスを用いた反応性スパッタ法により成膜することができる。また、下部電極100は他の透明電極材料、例えばインジウム亜鉛複合酸化物(indium zinc oxide:IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物を使用して形成することもできる。
【0039】
なお、本実施形態の有機EL表示装置2は上述したようにトップエミッション型であり、下部電極100は光反射率が高い材料で形成された反射層上に透明導電膜を積層した2層構造とすることができる。例えば、反射層はアルミニウム(Al)や銀(Ag)等で形成することができ、発光層からの光を表示面、つまり対向基板62側へ反射させる。
【0040】
下部電極100の形成後、画素境界にバンク122を形成する。バンク122で囲まれた画素の有効領域には下部電極100が露出する。バンク122は好適には水分や酸素ガスの放出が起こりにくい無機材料で形成される。また、有機材料で形成する場合には、OLED6の有機材料層102を形成する前に、例えば真空中でのベーク処理などによりバンク122中の水分や酸素ガスを十分に低減することが好適である。このバンク122を有機材料で形成した場合、ベーク処理等により水分や酸素ガスが十分に低減されているので、単位体積当たりにおいて平坦化膜96に含まれる水分や酸素ガス量よりも少なくなっている。
【0041】
バンク122の形成後、有機材料層102を構成する各層が下部電極100の上に順番に積層される。有機材料層102の上に上部電極104が透明電極材料を用いて形成される。例えば、上部電極104としてIZOがAr+O混合ガスを用いた反応性スパッタ法により成膜される。
【0042】
上部電極104の表面にDLC層112が例えばプラズマCVD法で成膜される。DLC層112は、充填材64から放出される水分などがOLED6の有機材料層102に達することを阻止するような特性に形成される。例えば、DLC層112の厚さは充填材64の厚みに応じて設定することができる。ここで、平坦化膜96は充填材64より薄くなり得ることから、DLC層110は比較的薄くでき、一方、DLC層112は相対的に厚く設定され得る。
【0043】
上部電極104は画素アレイ部4を構成する複数の画素に亘り一体に形成された共通電極である。この上部電極104に接して配置されたDLC層112に導電性を付与することで、DLC層112を上部電極104の補助配線として機能させることができる。これにより上部電極104内での電位降下が低減し、表示領域42内での画素の位置に応じた発光強度の変動が抑制されるので画質の向上を図ることができる。例えば、DLC層112は窒素などを不純物として導入されることにより導電性を有する。
【0044】
以上、素子基板60の構造を説明した。表示領域42ではOLED6を間に挟んで配置されるDLC層110,112は上述したように表示領域42の外側の領域46まで広がり、当該領域46にて2つのDLC層110,112同士は接して閉じている。これにより2つのDLC層110,112の間隙から有機材料層102への水分や酸素ガスの浸入が抑制され、有機材料層102の劣化が防止される。
【0045】
対向基板62は、例えばガラスなどの透明材料からなる上基板150の表面にブラックマトリクス、カラーフィルタ、オーバーコート層を含む積層構造152を形成される。
【0046】
素子基板60と対向基板62とは間隙を設けて対向配置され、表示領域を囲んで当該間隙にはダム材(シール材)154が配され、素子基板60と対向基板62との間隙を密閉する。充填材64はダム材154の内側の間隙に充填される。充填材64及びダム材154は硬化して両基板を接着する。
【0047】
[第2の実施形態]
上述した第1の実施形態の表示パネル40は素子基板60と対向基板62とを貼り合わせる構造であった。これに対し、第2の実施形態に係る有機EL表示装置2の表示パネル40は対向基板62を有さない構造である。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0048】
第2の実施形態に係る有機EL表示装置2の概略の構成、及びその表示パネル40の平面図はそれぞれ第1の実施形態にて示した図1図2と共通である。図4は第2の実施形態に係る表示パネル40の模式的な垂直断面図であり、図3と同様、図2に示すIII−III線に沿った位置での断面を示している。下基板70からDLC層112までの積層構造は第1の実施形態と同様である。すなわち、OLED6はDLC層110とDLC層112とに挟まれ、外部からの水分や酸素ガスから保護される。
【0049】
素子基板60表面の機械的な強度を確保するため、図4に示す構造ではDLC層112の表面に保護膜160を積層している。
【0050】
保護膜160は単層構造でもよいし、多層構造でもよい。例えば、保護膜160は、無機膜と有機膜との積層構造とすることができる。具体的には、2層のSiN膜とそれらの間に挟まれたアクリル膜とからなる構造として、異物によりSiN膜に生じ得る欠陥をアクリル膜で補うようにすることができる。
【0051】
図5図2のV−V線に沿った位置での表示パネル40の模式的な垂直断面図である。この図は表示領域42に設けられる回路とFPC50との接続構造を示している。例えば、配線162はTFT72のソース電極90a及びドレイン電極90bと同じ金属膜で形成され、表示領域42から端子領域48に引き出される。FPC50は例えば、異方性導電フィルム(anisotropic conductive film:ACF)164を用いて表示パネル40の端子領域48に接着され、当該ACF164によりFPC50の配線と配線162との電気的接続が行われる。なお、第1の実施形態における表示パネル40へのFPC50の接続も同様の構造で行うことができる。
【0052】
[変形例]
(1)DLC層110,112は主に有機材料層102を水分等から保護するものである。ここで、素子基板60の積層構造におけるDLC層110,112の位置は有機材料層102を間に挟むような他の位置とすることができる。
【0053】
例えば、DLC層110と下部電極100との間にSiNなどの無機絶縁膜が存在してもよい。同様にDLC層112と上部電極104との間にSiNなどの無機絶縁膜が存在してもよい。
【0054】
(2)導電性を有するDLC層110を下部電極100と有機材料層102との間に配置する構造とすることもできる。図6は当該構造を有する画素アレイ部4の模式的な垂直断面図である。当該DLC層110はバンク122の上、つまりバンク122と有機材料層102との間に配置することができるので、バンク122が有機材料である場合に、当該バンク122が放出する水分等から有機材料層102を保護することができる。ここで、DLC層110の導電率σは、各画素でのOLED6の動作を可能としつつ、隣接する画素のOLED6の動作に影響を与えないように設定される。具体的には、DLC層110の厚さλは比較的薄くできるので、互いに隣接する下部電極100間におけるDLC層110の距離λとの比の値(λ/λ)は比較的大きくなる。そこで、画素間でのDLC層110の電気抵抗を確保しつつ、各画素にて下部電極100から有機材料層102へのDLC層110を介した電流供給を可能にするように導電率σを調整すればよい。また膜厚方向と膜面方向で導電率σが異なる、いわゆる異方性導電率を有する状態としてもよい。これらのためにはDLC層表面にUV光などで微細な配向処理をしたり、発光領域を一部ないし全部を含む領域にイオン打ち込み用いて窒素などをドープしたりすることが有効である。これらの構造ではOLEDの密着性が改善する効果もあるので、フレキシブルディスプレイなど界面に応力が集中することで生じるOLED層の膜剥がれという問題を大幅に改善することが可能である。
【0055】
(3)上述の実施形態ではDLC層110とDLC層112とが表示領域42の外側の領域46で互いに接することにより、OLED6をDLC膜内に封止する構造を説明した。この封止構造の変形例として、領域46にてDLC層110とDLC層112との間が他の無機材料を介在して閉じる構造とすることができる。
【0056】
図7はこの封止構造の変形例の一例を示す表示パネル40の模式的な垂直断面図であり、対向基板62を設けない表示パネル40の端部の領域46における部分断面図である。平坦化膜96は基本的に表示領域42に設けられ、OLED6を形成しない表示領域外の領域には平坦化膜96を設けなくてもよい。図7の構造では無機材料からなる層間絶縁膜92は領域46にまで形成されるが、平坦化膜96は領域46には形成されない。下側のDLC層110は平坦化膜96の表面を覆い、その縁は平坦化膜96の外側で層間絶縁膜92に接する。DLC層110の縁は例えば、上部電極104で覆われ、DLC層112はその上部電極104の縁の外側で層間絶縁膜92に接する。この構造ではDLC層110が層間絶縁膜92に接触する位置とDLC層112が層間絶縁膜92に接触する位置との間は、層間絶縁膜92で塞がれる。
つまり、DLC層110,112と領域46における層間絶縁膜92とが、充填材64や平坦化膜96からOLED6への水分等の浸入を遮断する封止構造を形成する。
【0057】
上述した各実施形態及び変形例により明らかにした本発明によれば、基本的にDLC層110,112によってOLED6の有機材料層102を包み込む封止構造を形成し、有機材料層102を水分等による劣化から保護することができる。DLC層110,112はそれらが形成する封止構造の内側に、水分等の放出源となる材料をなるべく含まないように配置され、これによりOLED6を効果的に劣化から保護することができる。
【0058】
上記実施形態、変形例においては、有機EL発光装置の開示例として画像表示装置の場合を例示したが、その他の適用例として、照明装置にも本発明を適用可能である。
【0059】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0060】
また、本実施形態において述べた態様によりもたらされる他の作用効果について本明細書記載から明らかなもの、又は当業者において適宜想到し得るものついては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0061】
2 有機EL表示装置、4 画素アレイ部、6 OLED、8 画素回路、10 点灯TFT、12 駆動TFT、14 キャパシタ、20 走査線駆動回路、22 映像線駆動回路、24 駆動電源回路、26 制御装置、28 走査信号線、30 映像信号線、32 駆動電源線、40 表示パネル、42 表示領域、44 陰極、48 端子領域、50 FPC、52 ドライバIC、60 素子基板、62 対向基板、64 充填材、70 下基板、72 TFT、80 下地層、82 半導体領域、84 ゲート絶縁膜、86 ゲート電極、88,92 層間絶縁膜、90a ソース電極、90b ドレイン電極、94,162 配線、96 平坦化膜、100 下部電極、102 有機材料層、104 上部電極、110 第1のDLC層、112 第2のDLC層、120 コンタクトホール、122 バンク、150 上基板、154 ダム材、160 保護膜、164 ACF。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7